【悪役を押し付けられた者】   作:ラスキル

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今の怪物は羽化直前の虫。連戦はちょっとキツイのです。


桜と怪物 「正義と悪」

ドオン、と。

荒野のどこかに、大きな岩が落ちた音を聞く。

 

———震動は続く。

 

それが遠坂によるものなのか、怪物のものかは走り続ける自分には判らない。

 

「はっ———はぁ、はぁ、は———!」

 

後ろのことなどどうでもいい。

一心不乱に、泥に塗れながら崖を駆け上がって、

 

「———桜ッ!」

 

自分が一足遅かったことを悟る。

 

「....ああ、負けたんだ、アル」

 

その声は、俺に向けられたものじゃない。

先程、俺の手で殺めたセイバーへの言葉。

あいつは俺を認識しているのかすら怪しい。

 

だから、俺は桜に話しかける

 

「桜、大丈夫だ。遠坂は死んでいない」

 

———まだ、諦めるには早すぎる。

 

遠坂はかろうじて息をしている。

脇腹からの出血は酷いが、今から運び出せばまだ救える。

 

「...あ——————え?」

 

桜の目に光が戻っていく。

 

怪物の拘束が和らいでいく。

 

桜はようやく、目の前にいる俺と遠坂を視界に収めて、ほう、と安堵の息を漏らして.....また、黒い影に覆い隠される。

 

「———で? 今更やってきて騎士気取りかい。いやあ、素晴らしい。円卓の騎士も手を叩いて賞賛するだろう。妬いちゃうよ」

 

再び怪物の影が発現し、桜を抑え込む。

 

「それで?、何ができるんだい、ただの子供が。もう、正義の味方は飽き飽きなんだ」

 

あの怪物にとって、桜は必要な体だ。

桜を取り戻そうとすれば、怪物がそれを許さない。

桜を救いたいのであれば、あの怪物を桜から引き剥がさないといけない。

 

「...違う。俺は、正義の味方なんかじゃない」

 

桜は桜だ。

どんなに変わり果ててしまっても、その芯は変わらない。

...桜をああしてしまったのは俺だ。

 

あの時...怪物に取り込まれた桜を恐れず、ぽかん、と叩いていたらこんな事にならなかった。

 

「俺は、桜の——————桜だけの味方だ!」

 

聖骸布を解く。

歯を食いしばる。

投影魔術。自身を削る魔術。

俺の全てをかけて、桜を取り戻す!

 

「聞こえるか、桜!!

 俺は桜が好きだ。お前の罪の所在も、重さも、俺には判らない。けれど何度だって手を伸ばす!

 たとえそれが偽善だとしても、好きな相手を守り通す!!」

 

『せん、———ぱい』

 

撃鉄を起こす。

 

「っ——————くくっ、ふふははははぁ!!

 その身体でか!? 只の人、それも子供のお前が!?

 聖杯と繋がり無限ともいえる魔力、最強格の霊基を持つワタシにか?」

 

笑う、笑う。

怪物は俺を口汚く嘲笑った。

 

「良い良い、最後の余興にはもってこいだ。その蛮勇、その愚行に応えようではないか」

 

怪物の背後が揺らぐ。

黄金の波紋が出現し、無数の宝具が湧き出す。

 

「ではな。 存分に踊り狂え、()()

 

赤い目が細まる。

 

アインツベルン城で見た、黄金のサーヴァントの力。怪物はその力を所持している。

十、百...数え切れないほどの砲門が俺に向けられる。

 

それら全てを読み取り、投影を開始する。

その工程は一瞬で終わる。

 

———覚悟したところで、恐怖心は消え去らない。

 

俺は桜を救う。

 

———自分が消えゆくことが怖くて怖くてたまらない。

 

その後は...わからない。

自分がどうなるかなんて、考えたくもない。

 

———赤い後ろ姿が見える。

 

それでも、と。

足に力をいれ、魔力を回し、目の前の敵に手を伸ばす。

 

千の砲門から宝具が撃ち出される。

それは絶対の死。

たとえサーヴァントであろうと抗うことは難しいだろう。

 

「——— I am the bone of my sword.」

 

魔力が荒れ狂う。

構わない。

 

向かいくる千の宝具を、千の贋作を以て相殺する。

 

「はっ——————!」

 

繰り出される長刀に長刀を合わせる。

互いの剣は相殺され、大気に破片を撒き散らす。

 

「なっ————————」

 

怪物はまたもや驚嘆の声を上げた。

 

(なぜだ、なぜ子供如きが抗うことができる?)

 

全砲門を少年に集中させる。

 

撃ち出される千の宝具。だが、それを自由自在に選び出すことは出来ない。

王の宝物庫を今の怪物は開くことはできる。

だが、その財の数々を把握できる目は持ち合わせていない。それは王にのみ許された特権。

一所有者である怪物には出鱈目に撃つ出すしか出来ないのだ。

 

それでもその量は過剰とも言えるほど数。

抗うことなどできないはずなのだ。

 

「おのれ、調子に———ちっ」

 

少年とは別に黒い影が怪物に迫る。

 

高速で駆けるもう一人の怪物は、宙に放たれる宝具を器用に避け、地表上空、前後左右から目まぐるしく襲いかかってくる。

だが、怪物の体を傷つけようとはしない。

ライダーと少年はただ怪物の数の暴力を受け流し、防ぎながら近づいてくる。

 

甲高く鳴る金属音。

響く鎖を操り、ライダーが迫る。

所詮は、小さな跳ね蟲。

平然と構えていれば、逃げ切れる。

いかにライダーが飛び回り、撹乱しようと砲門へ意識を集中させればいいのだ。

 

———そのはずなのにっ!

 

ライダーは怪物の周りを飛び回りながら、その瞳を開く。

彼女の目は魔眼である。

その中でもかなり上位に位置する宝石ランクの“石化の魔眼“。

その瞳に捉えられた者は、身体中の血液すら石化してしまう。

 

対魔力など無いに等しい怪物はそれに抗うことができない。

 

一瞬、思考が石化する。

その間に少年は前に進む。

 

「ぎ、ず......つつつつつつつ!!!!」

 

こわ   。

かくじ 、とりかえしのつ  ものが、コワレテイク。

 

宝具を投影するたびに何もかもが消えていく。

もとより、数回の投影で体は限界のはずなのだ。その限界すらも超え、宝具の嵐を駆け抜ける。

ライダーのおかげもあって一瞬の隙間を突くことができる。

およそ数十メートル。その永遠とも思える距離を徐々に詰めていく。

 

 

「何故だ、何故だ、何故何故何故!!!」

 

気付かぬ間に攻守が入れ替わる。

一瞬、思考が停止したかと思えばいつの間にやら詰められる距離。

押し負ける。

一切出鱈目な力で、怪物は只の子供に押し負けようとしている。

 

「何故当たらない!」

 

さらに砲門が機能しない。

まるで少年を避けるように、撃ち出された宝具はその横を掠めていく。

 

「まだ分かりませんか?」

 

背後からライダーの声がする。

 

「あなたの中にはサクラがいる。

 彼女が、愛する人を傷つけまいと必死にあなたを押さえつけている」

 

再び思考が停止する。

何故だ、何故だ、完全に押さえ込んだはず。

この娘は何故!?

 

『ごめん、なさい』

 

思考が回復する。

既に少年は目の前に迫っていた。

 

「——————天の鎖(エルキドゥ)!!」

 

縋るように手を振り上げる。

咄嗟に叫んだのはもはや姿形すら思い出せぬ友の名。

その名を冠した鎖は少年を縛るために放たれる。

 

が、

 

「——————なん、で」

 

その鎖は少年に向かわず、あろうことか怪物自身を縛り上げた。

王曰く、神を律する為だけのこの鎖は神性が高い程抜け出すのが困難になる。僅かとはいえ、神性を所持する怪物にとって致命的な隙が生まれた。

 

『——駄目だよ、クル。

 そんな事、君も望んでないだろう?』

 

 

前へ。

前へ、進む。

怪物は鎖に囚われ、宝具の雨は止んだ。

 

桜は目の前にいる。

 

『...先輩、わたし』

 

...投影、開始。

思い浮かべるのは一つだけ。弓兵の記憶にある一つの短剣。

衛宮士郎に残った魔力を、全てその複製に注ぎ込む。

 

最後の投影。

契約破りの短剣を振り上げる。

 

「————貴様、それは知らない知らない、なんだそれは!!?」

 

雑音が聞こえる。

けど、関係ない。

 

「帰ろう桜。————そんな奴とは縁を切れ」

 

これが、彼女たちに、下される罰になるように。

一息で、心臓を突き刺した。




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次回 「エンディング」

「...あの光に比べれば輝きは劣るが、——————綺麗じゃないか」

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