【悪役を押し付けられた者】   作:ラスキル

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桜と怪物 「トゥルーエンド」

引き剥がされる。

桜の体に入り込んでいた怪物は、押し出されるように散っていく。

契約破りの短剣。

あらゆる魔術効果を初期化し、サーヴァントとの契約すら破る宝具。

それは桜の命を奪わず、彼女を縛り付けていた契約だけを破戒した。

 

「せん、ぱい」

 

生きている。

桜は五体満足で生きている。目立った外傷もなく、いつもの彼女のままで。

 

遠坂———遠坂の方を見る。

 

出血は止まっている。傷口も塞がりつつある。大丈夫、あいつには真っ当な魔術刻印がある。

刻印は遠坂家が遺してきた魔術の結晶だ。所有者が意識を失っても、易々と死なせはしない。

 

あとは、ライダーに任せt...

 

大空洞が再び揺れる。

 

「...そりゃあ、終わらないよな」

 

まだ追い出しただけだ。

俺ができたのは、あくまで奴と桜との契約を破っただけ。

肝心の奴はまだ死んではいない。

 

 

大聖杯から溢れた魔力が形を作り始める。

現れたのは、一人の青年。

桜という依代を失った、黒き怪物である。

 

「........」

 

怪物は今にも消えそうなほど青白い顔で少年を見る。

既に決着は付いている。

間桐桜という依代を失った怪物は、この世界に顕現し続けることはできない。自身の魔力消費が供給量を上回り、じきに霧散する。

 

「君の、勝ちだ...満足して逝け」

 

それでも、自身の役目を果たす。

 

怪物は手をかざす。

その手に集まる大気中の魔力。この空間ごと消失させるには十分な量だ。

 

少年は立ち上がる。

今度こそ、怪物を消すために。

アレはこの場で、跡型もなく消し去らねばならないものだ。

 

「——————、ごほ」

 

息が止まっている。

大丈夫...あと一回だ。たった一回投影をするだけで、全部にケリがつく。

手を構える。

これで全てが終わる。

 

「—————————、っ!!」

 

怪物の手から魔力砲が放たれる。

地表を抉りながら少年を丸呑みにしようと、津波となって襲いかかる。

 

「———投影(トレース)開始(オン)

 

検索。選出。解析。投影。

俺はただ、投影するためだけの機械となる。

使うべきもの、選び出すものは決定している。

あの怪物を倒すために、(アーチャー)が知る中での、最強の宝具を。

 

少年の右手に光り輝く一振りの剣。

その真名を以って、この瞬間真実と成す——————

 

「“約束された勝利の剣(エクスカリバー)——————!“」

 

繰り出される白き光。

それこそは星の息吹。命の奔流。

奇しくも一万四千年前に怪物が相対した星の勇者と同じ状況。

 

しかし、力は拮抗する。

 

いかに完璧な投影であろうと、偽物は偽物。

決して本物には成れない。

 

「ぎ——————ア      、 ———!」

 

跳ね回る左腕と、左肩から体内に打ち出される弾丸。

抑えきれない魔力はザクザクと体内で跳弾し、

消しゴムのように、エミヤシロウを塗り替えていく。

 

「ググググッ————— !!!!!!」

 

光を押し返す。

なに、あの光には遠く及ばない偽りの聖剣にすぎない。

自身の身体が壊れていくのをお構いなしに、怪物は全力を込めて放射を続けた。

 

この戦いに意味はない。

強いて言えば、ただの八つ当たりである。

あと一歩のところで邪魔をされた少年に対して、正義だというなら悪である自分を討ってみろ、と。

それが相打ちだろうと、怪物の勝利で終わろうと、もはや意味を成さないのだから。

 

だが、勝負は着く。

 

「あ、あ—————— 、」

 

拮抗していた白と黒が僅かにブレる。

 

怪物は自身の異常に気付いた。

 

胸に刺された契約破りの短剣。

それは少女と怪物の繋がりを断つだけではなく、丁寧に丁寧に一個ずつ、怪物を蝕んでいた呪いを解呪していった。

数万もある呪いは徐々に徐々に消え去り、怪物を人の姿に復元していく。

その度に黒い極光は聖なる光に飲まれていく。

 

「ははっ、冗談だろ.....もっと早く...遅すぎるよ」

 

もっと早く出会っていれば、なんて、そんな世迷言が浮かぶ。

光が近づくたび、力は失われていく。

 

数秒後、怪物からは完全に呪いは消え去った。

 

そうして、怪物はただの人になった。

 

もう抵抗しない。

伸ばした手を引き戻し、ただ受け入れる。

聖剣の光は、もう目の前に———

 

 

 

少年は吠える。

体内の痛み、自分が失われていく恐怖を追い返さんと絶叫する。

 

「あ、アア、ああアアアアアアアアア—————————!」

 

叩きつけられる魔力。

それは完全に極光を押し返し、

 

(...あの時の光に比べれば輝きは劣る、が)

 

黒い極光を打ち砕き、

空洞を眩いばかりの白色に染め上げた。

 

(—————————綺麗じゃないか)

 

 

 

 

——————ああ、アホらしい。つくづく上手くいかない。

 

まあ、散々思い知ったことではあるけど

 

悪事なんて、所詮そんなもの

 

「...して」

 

後悔はない。

これは望んでいたこと。結果は思うようには運ばなかったが、一つの結末としては

 

「...どうして...」

 

笑えるだろう?

 

「どうして、なんで...お願い、上手くいって...!」

 

だからさ、なんで泣くんだよ。

笑えばいいのに、その権利はあるだろう、君には。

 

「ライ、ダー。お願い、回復が上手くいかないの...助けて、お願いっ」

 

「...サクラ。無駄です、その男はサーヴァントではないのですから」

 

ああ、もったいない。

せっかく綺麗な顔なのに、歪めちゃあいけない。

 

それに、

 

「..........なにをしてるの?」

 

「回復をっ...ごめんなさぃ、う、上手くいかなくてっ...」

 

「必要ないよ」

 

「どうしてっ!

 あ、あなたはわたしを、助けてくれたのに...わたしは...あなたを」

 

よく、わからないことを口にするな君は

 

「どうして助けてもらったのに、わたしだけ」

 

どうしたもこうしたもない。

 

「言ったじゃないですか、“助けを求めたなら、救われるのは当然“だって

 どうしてあなたは助からないのに、わたしだけ助かるんですか...」

 

「——————わたしたちは同じだったのに」

 

馬鹿だ。

なにが同じだよ。わかったような口を聞く。

 

「同じ? ふふっ、冗談がうまいね」

 

君が悪だなんて、笑ってしまう。

ずっと泣いていたくせに。

 

「君は誰一人殺していない。

 祖父も、兄も、街の人間も、サーヴァントも、みんな僕が殺し、食べた。君には餌付けのように与えただけだよ」

 

そういえば、姉の方は生きているんだっけ。

しぶとい子だ。

...そこだけは似ているよ、本当に。

 

「僕は怪物だ。

 だから悪と成った、それだけ...「ちがいます」...?」

 

「あなたは、人の形をしていました」

 

「———カタチ?」

 

「あなたは人の形を取る必要はなかった。ただの獣の姿でも良かったはずなのに、それでも人として生きた」

 

「私は思うんです。御伽話の竜も、獣も、怪物も、時には運命も。

 人を想うからこそ、人の形を取るんじゃないかって」

 

愛している

 

...そう言えば、一度だけ

確かに一度だけ、人を愛してしまった。

そうだ、なんで忘れていたのだろう。

 

「それに、どんなに手を汚そうと、あなたはわたしを救おうとしてくれた!

 誰かを助けたいって気持ちがあったのなら、——————あなたは、英雄だったんです」

 

「ははっ、そうか...僕は、怪物にすらなれなかったか」

 

否定される。

自分の在り方を、ただの子供に。

 

少女は青年を抱きしめた。

それが同情であるのか、慈愛であるのかは青年にはわからない。

 

どうであれ、青年は死ぬ。

ここにいるのは古代人の抜け殻。存在するはずのない異物なのだから。

 

「どうして、わたしは助かるのに。あなたは助からないんですか」

 

その問いに、青年は答える。

 

「...君には帰る場所があって、僕にはなかった。それだけのことさ」

 

青年の体が崩れ始める。

数万年の反動が、この時代に痕跡すら残さぬと迫ってくる。

 

もう、少女を見上げる力さえ残されていなかった。

 

「...ライダー、お願いできるかな」

 

もう一人の怪物に呼びかける。

 

「ええ、彼女たちは無事に帰します、ので、精々満足げに逝ってください」

 

「ふふっ、手厳しいね」

 

ライダーは少女とその姉を抱き上げる。

彼女の足なら、崩落に巻き込まれる心配もないだろう。

そのために、手を出さなかったのだから。

 

「待って!待ってよ!」

 

「...君の体の余計なものは全部貰っておいた。精々、長生きするといいさ」

 

少女に巣食っていた蟲も、聖杯の欠片も全て持っていく。

これで、少女は救われたのならいいのだけれど。

 

モンスター!、ねえ待ってよ!おいていかないでーーーー!

 

それ以上は聞こえない振りをした。

少女たちを見送る。

もっとも、もう見えないのだけれども。

 

再び地面に倒れ込む。

もう、立つ足も、伸ばす手も消えていた。

 

耳を澄ましてみた。

遠くで誰かが殴り合っている。

少年と、...わからない。

拍手でも送ってやろうかと考えたが、する手がないことに気づいた。

役者でも、観客でも無くなった自分にはその権利はないのだろう。

 

青年は自分の体を見る。

残された時間は、数分といったところだろうか。

なら、自分の人生を振り返ってみようと記憶を遡ってみたものの、すぐに辞めた。

どうせ後悔するだけだ。

だから、一つだけ。たった一つだけ思い出すことにした。

 

「約束、守れそうもないや」

 

愛した人がいた。

必ず帰ると約束した人がいた。

どこで間違ったのだろうか。なにをすれば良かったのだろうか。

きっと君は、受け入れてくれないだろう。愚かだと、蔑むだろう。

それでも...僕は、

 

結局、最後に残ったのは後悔だけだった。

そうならないように、生きたはずなのに。

 

消えていく。

青年は誰にも看取られず消えていく。

 

今度は、戻って来れない。

これは青年にとって初めての死だ。

 

(ああ、やっぱり...)

 

こうして物語の幕は閉じる。

数万年にも及ぶ、青年の旅はここで終わる。

 

(—————————死ぬのは、怖いな)

 

 

 

かくして

悪は消え去り、第三魔法は正しく発現した。

少女と少年は共に罪を背負い、幸せを甘受する。

それがこの物語の結末。

それが怪物だった人間の物語の終わり。

 

観客席にも、舞台にも、もう誰もいない。

ただ、黒い塵が積もるだけだった。




〜END〜

長きに渡りご愛読ありがとうございました。
これにて、この世界線での彼の物語は終わりです。

最後にもう1話、「エンドロール」を上げて一度区切りたいと考えています。お楽しみに。

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