「やれやれ」と言うために   作:主人公は男

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「異世界、やれやれ」と言いたい

気が付けば、眼前には未知が広がっていた。

 

色に溢れた世界、スプーンを差し出す女に差し出された緑色の何かを全力で拒む金髪の幼女。

 

何だこれは。どうして幼女と一緒にご飯を食べているのだろうか。

 

記憶にあるのは階段から転げ落ちたこと。盛大に地面とキスをしたことまでは覚えている。

 

しかし、それがどういうことか如何にも古びた小部屋の中で何十人もの子どもと食卓を囲んでいた。

 

エプロンを付けた修道女らしき女が数人で喚く子どもをあやしながら、せっせとご飯を食べさせている中で、十五にもなった僕が何故一緒に食べているのか。

 

頭を打った影響で精神が三歳程度に戻ってしまったのならそれもあり得ることだろう。

 

今になってそれに気が付けたのは治療の成果か、はたまた幸運か。

 

いずれにしろ、治ったのならば良いことである。

 

けれども、幼女と同じ視線の高さで見た世界はあまりにも大きく、そしてあまりにも全てが異なっていた。

 

周りを見渡せども、目に入るのはどこかおかしなものばかり。

 

黒か茶色が基本の日本では見慣れない多様な髪色に、これまた珍しい石造りの西洋的な建築。

 

更には、部屋を照らす電球が全て石となって光っている。

 

これをおかしいと言わずして何というべきか。

 

「あっこらリオン!!危ないからやめなさい!!」

 

リオンとやらは何かしでかしたようだ。もっとも、リオンではない身からすればどうでも良いことだ。

 

何も関係のない僕は、テーブルの中央にある不思議な石をつつく。

 

肌触りは石で、しかも熱い。熱が籠っているが、これは何かの工芸品だろうか。

 

臆病ながらに手に持とうとした瞬間、どこからか駆け付けた修道女に脇から持ち上げられる。

 

「もう、ダメでしょ?まずはちゃんとご飯を食べましょう。ほら、リオンくん、アーン」

 

席に着かされ、挙句の果てに不可解な色をした液体状の何かを口へと放り込まれる。

 

不思議な見た目に反して普通の味であったが、それ以上に避けられない事実が「リオン」に示す。

 

それはつまり、リオンと呼ばれた誰かが僕であるということ。

 

これはなにかがおかしいと言おうとしたその瞬間、再び液体を放り込まれ、僕の口は閉ざされた。

 

 

 

」」」」

 

 

 

状況を理解するのは意外と簡単だった。

 

やれやれ系男子を目指す僕としたことが、シリアスに物事を考えすぎて、口調も変わってしまっていたようだ。やれやれ。

 

単純に言えば、異世界に転生していた。

 

階段を盛大に転がりながら落ちていったのだ。頭を何度もぶつけながら降ったら、筋肉があろうと受け身を多少取れようと無事でいることは難しい。

 

まあそんなことを今更考えても仕方ない。死んでしまったことを悔やんだところで戻ることはできないからだ。

 

それよりも大事なのは、この世界には魔力と呼ばれる不思議なものがあったことだ。

 

それがもう凄いのなんの。わずか五歳ながらにして石を砕き、百メートルを10秒未満で走ることができる。

 

弱者であった人類は道具を用いることで競争に勝ち抜いてきたというが、これは最早道具すら必要ないのではと思ってしまうほとだ。

 

勿論、それが万人にできるわけではない。生まれてだいたい十年。同い年を見てもそのようなことができるのは僕だけだ。

 

それは周りがよく分からない遊びに興じる中、僕だけが魔力制御の鍛錬を行なっていたからだ。

 

これが精神年齢のアドバンテージ。無駄なことは出来る限りしない。

 

まだ壁を駆け抜けるような技はできないが、今の成長を見る限り、そのうちできるようになるだろう。

 

山を砕き、敵を吹き飛ばすことも夢ではない。

 

そんなドラゴニックな熱いバトルを繰り広げることができるのだと思うと、今からでも楽しみで仕方ない。オラ、ワクワクすっぞ。

 

そうそう、これはあまり関係のない話だが、どうやら僕は孤児院で生活しているようだ。

 

決して待遇が良いとは言えない境遇に生まれた子ども達よ、強く生きてくれ。僕は自由に鍛錬できる環境があればなんでも良い。

 

最近の世界は平和らしいから、兵として駆り出されることもないだろう。同年代たる彼らはこのままどこかに平凡に就職できるはずだ。それが前世で言われるホワイト企業かと問われると、真反対としか言いようがないが。

 

だが、この孤児院がある街はそれなりに大きい。小さいころから必死に働けば、優しい主人が営む会社にコネで入ることもできるだろう。生き物とは半世紀も経てば世代交代して大半を忘れるものだから戦争が起きないとは言えないのだが、少なくとも今を生きるために殺し合いをしに行く必要がないのは大変良いことだ。

 

僕はどちらかと言うと争いを望んでいるため、特にイベントがなければ志願兵の門を叩く予定だ。

 

主人公とは世界的な危機に際して現れる救世主。彼と出会うためには常に危ない場所に行かなければならない。

 

志願兵となるには最低でも15歳から。あと5年は来る日に備えてひたすらに鍛えるのみだ。

 

僕の鍛錬はいつも通り。

 

前世で学んだ幾多の型の基本を一つ一つ復習しながら、魔力をまとった戦い方を組み合わせていく。

 

残念ながら全てをブレンドする才はない。一つずつ丁寧に基礎と基礎を重ね合わせるのだ。

 

もっと早くから道場に通えていれば感覚的にできたのだろう。理解を先行させてしまうこの思考はなかなかに面倒だ。

 

現実は常に非情。時もタイミングも環境も思い通りにはならない。

 

そんな中でも少しだけ幸いと言えるのは、孤児院の長である御年七十を超えるおじさんが武術の達人であったことだ。

 

彼から教えてもらえるものは、現場で培われた超実践向きの戦い方だ。

 

それの何が良いか。

 

それは何よりも魔力に頼りすぎない、間を捉えた動きだ。

 

遠距離から破壊光線でも放ってくる敵が出てきそうな世界観の中で、接近して敵をなぎ倒していくスタイルがとても良い。

 

彼曰く、この型は弱者の足掻きらしいが、生き物は皆、弱者であり、足掻くものである。

 

別に僕は自称強者のおざなりな戦いをしたいわけではないのだ。

 

相手を消し飛ばしたり、吹っ飛ばすだけが戦いではない。

 

拳や真剣でぶつかり合い、その果てに勝利したい。

 

そして主人公が圧倒的な強者に負けそうになった時、それを上回る強さできちんと敵をボコボコにしたいのだ。

 

そんなわけで僕は今日も院長もとい、師匠の元へ向かい、ボコボコにされるのだ。

 

ガキ相手に全力で殴ってきやがる大人はどうなのかと訴えたいが、実践を通じなければ得られない型であることも事実。

 

皆伝をもらう為にも、早くあの老いぼれジジイの歯を全部差し歯にして変えてあげたいところだ。

 

 

 

 

 

 

そんな鍛錬を続ける日々だが、何も一日中ずっとそれを行えるわけではない。

 

働かざる者食うべからず、ということわざがこの世界にも似た感じであるようで、日中は家事をしたり、働きにでたりしている。

 

これも前世のおかげだろう。簡単な算数から所作などを覚えることは、他の子よりも圧倒的に早かった。まあ、変わらず無駄に話すことはできないわけで、大体は看板を持っているだけか、会計だけの担当だが。

 

それと、なんだかんだと鍛錬に付き合ってくれる院長だが、いつもは資金繰りで忙しい。

 

日本においてもそうだが、基本的に養育施設の収支はマイナスになるものだ。広大な農地でも無い限りは、保護施設が豊かな生活を送るのは不可能である。

 

僕が住まわせてもらっている孤児院も例外なくギリギリの状況であり、院長はそれを埋めるべく日中は外に出ている。

 

そんなわけで彼による修行は常に早朝である。昼はこの通り、働いているわけだ。

 

では、夜はどうなのか?

 

本来なら寝る間も惜しんで鍛錬を行うべきだが、僕は違う。

 

寝る。それもしっかりと。

 

幼少期の成長は睡眠中が肝である。

 

体が最も作られているときに魔力を効率よく循環させ続けることで、身体は見た目以上に丈夫なものへと変わるのだ。

 

それもじっくりと八時間以上かけることで、粗の無い完璧なものへと仕上がる。

 

だと言うのに、魔力による応用で寝なかったり、ポーションがぶ飲みして中毒になったりしながら鍛錬する奴がいるのだから、世の中は度し難いものだ。まあ世界観の違いだろう。

 

人間を辞めたいのならそれもありだが、負担過多で寿命を盛大に縮めることとなる。

 

僕は少年マンガに出てくる名脇役を目指しているのだから、そんなお先真っ暗な生き方はできない。場合によっては次の世代を引き継ぐ役目にもなるのだ。できれば。平均寿命は軽く超えていきたい。

 

命を消費するのなら、やっぱりラスボスくらいのレベルと戦う時だ。

 

どこかの鬼殺しみたいに、自力で化け物への扉をこじ開けましたみたいな、そんな限界突破をしたい。

 

そのためには寝る。良い子は寝る。

 

だから、寝るんだリリア。野菜嫌いなクセに寝るのも嫌がるな。昼間あれだけ走り回っていたのにどうしてまだ元気なんだ。全く、やれやれだ。

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