ワンパン(幼女)伝説   作:最後の春巻き(チーズ入り)

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再開ののろしにはちょうどいいってばっちゃんが言ってた気がする。



最強の幼女

――あの日の光景を俺は生涯忘れることはないだろう。

 

 その出来事こそが、最強にして最高の英雄(ヒーロー)の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界には災害レベルというものが存在している。

 下から、狼、虎、鬼、竜、そして──神の五段階に分けられたそれは、人類に対する災害の脅威度を表している。

 

 狼――危険分子となる生物や、団体などの出現。

 

 虎――不特定多数の生命の危機。

 

 鬼――町全体の機能の停止、および壊滅の危機。

 

 竜――いくつもの町が壊滅する危機。

 

 神――人類滅亡の危機。

 

 一言に災害と言っても、その対象は多岐に渡る。

 人類では抗いようのない自然災害から、悪人による人為的災害。……そして、何よりも猛威を奮っているのが──怪人の存在だ。

 

 そう、この世界には怪人や怪獣などの人類を脅かす超常的なバケモノ共が我が物顔で闊歩しているのである。……非常に悲しい事であるが、今日に至るまで、多くの人類が、怪人達の手によってその尊い命を奪われていた。

 

 しかし、絶望ばかりではない。

 人類はこの脅威に対抗せんと進化を遂げていた。

 

――ヒーロー

 

 あるいは英雄。

 人類を守るために、この世全ての災害と戦わんとする人間側の希望、人類が理不尽に対抗するために成長を遂げた守護者たちである。

 ヒーローはあらゆる都市に存在しており、それぞれが担当する都市をあらゆる災害の魔の手から守り続けている。

 その頭脳で、その身体能力で、あるいは超能力を駆使して、彼ら彼女らは傷つき倒れようと何度でも立ち上がり、人類を守護し続けているのだ。

 

 ヒーローにはランクというものが存在しており、それはそのままヒーローとしての強さや信頼に繋がる。

 下からC、B、A、そして──S級と分けられており、この中でもAから上のランクにいるヒーローは、人間の中でも規格外な力を持った存在であった。

 

 しかし、この世界には規格外と評されるS級を含めたヒーローも進んで守ろうとしない。いや、守る事が出来ない異常な都市があった。

 

――Z市。

 

 この世界に於いて最も危険な都市と評される場所である。

 

 曰く――この都市には、世界を滅ぼしかねない災厄が眠っている。

 

 曰く――この都市には、怪人が、怪獣が、山ほど出現しているため、怪人たちを生み出すためのプラント、あるいは怪人の母の様な存在がいる。

 

 曰く――曰く――曰く――……。

 

 超常が蔓延るこの世界の中でも特に異質な噂の数々が、このZ市にはあった。

 実際にこのZ市では、多種多様な怪人たちの手による災害が他の都市とは比較にならない程、引き起こされている。

 それも小規模の物ではなく大規模な災害……場合によっては、隣接している他の都市までもが壊滅的な被害を被るような、とんでもない規模の災害だ。

 

 有毒なガスを撒き散らす、透明な身体を持った巨人が雪山から下山してきたり。

 突如として全身から火炎を放出させる、巨大な怪鳥が出現して、Z市を焼いてきたり。

 岩石の塊のような身体をした巨神兵が火山の火口から出現し、何故か向かってきたり。

 製作者不明の謎のロボットが、Z市で破壊活動を行ったり。

 動き回るだけで都市を破壊する巨大な一つ目のイモムシのバケモノが出現したり。

 どっかのジャングルからやってきた正体不明の原住民の様なバケモノが、都市を征服しにきたり。

 髪が蛇で出来ているでっかい女の顔面だけのバケモノが、人間をたべるために訪れたり。

 星型の頭部に、海パン一丁の変質者がナイフ片手に殺傷事件を引き起こしたり。

 二本角の変な巨人が出てきて、建物をぶっ壊しながらタップダンスを始めたり。

 全身が溶岩そのものの怪物が出てきて、手当たりしだいに町を破壊し始めたり。

 紫色で無数の口を持ったナスのバケモノみたいなのが、突如として空から降ってきたり。

 

 この都市で起こった事件の一部だけでも、あまりに異常極まりない規模のとんでもない災害が起こっているのである。

 

 此処で一つの疑問が生まれる。

 何故コレほどまでに異常な数の災害が起こっているにも関わらず、Z市は未だに都市としての機能を維持し続けているのだろうか?

 他の都市の軽く十倍以上は災害に晒されているこの都市が、未だに原型を留めている理由。それは――

 

《ご覧ください物凄い爆発です!》

 

――只一人の英雄の存在があるからだ。

 

《現在協会で災害レベルを判別中との……ザザザ》

 

「よしっ、いくぞぉー!」

 

――正義執行。

 

 これは、最強にして最高の英雄(ヒーロー)の物語。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「うわぁぁぁん、ママァー!」

 

 A市。本来多くの人で賑わうその都市は、現在壊滅の危機に晒されていた。

 崩壊したビル群、炎上する町並み、人々の無残な骸が所々に散らばり、黒煙が空を真っ黒に染め上げる。

 最悪な光景だった。人類の、人々の絶望をこの世にそのまま再現したかのような……救いようのないあんまりな現実が、この場にて引き起こされていた。

 

「けほっ、けほっ、ひっく、えっぐ、ま、まぁっ」

 

 運良く死を免れたのであろう傷だらけの少女が、母親の姿を探して泣き叫ぶ。痛みを堪えて、必死に、必死になって、母を呼ぶ。

 

「ふんっ、まだ生き残りがいたか。全く以て忌々しい」

 

 そんな少女の背後に現れたのは、彼女が探している母――ではなく、黒い肌の怪人だった。

 二本の触角に筋骨隆々の身体。整った鋭い顔立ちに嫌悪感を滲ませながら、眼下で泣いている少女を侮蔑するように見下ろしている。

 

「地球にとっての癌は、どれほど幼かろうとも消さねばならん」

 

 瞬時に手を巨大化させ、少女を握り潰そうとする。

 自分にって何の脅威にもならない存在。態々殺す必要もない少女を握り潰そうとする。

 怪人にとっては、どんな存在であろうと関係なかった。ただ人類であるというだけで、目の前の存在に殺意が沸く。

 そらまた一つ、地球にとっての癌細胞がいなくなr――掻き消えた。

 

 瞬きの間だった。自分の視覚から、知覚から消え去ったのだ。

 遅れて気付く、この場にもう一つの気配が増えている。気配に目をやれば、自分が殺そうとした人間の子供は少し離れた場所に横たえられており、その隣では腕を組んで此方を見ている者がいた。

 

「何者だ。貴様」

 

 訝しげに問い掛ける怪人。

 恐らく、この者が自分の邪魔をしたのだろう。

 ワクチンマンの顔には何本もの筋が浮き出ている。……地球の癌細胞を消し去る崇高な行いを邪魔立てするとは、楽には殺さん。

 

「むふふぅー、あたしはしゅみでヒーローをやってるものだぁー!」

 

――幼女だった。

 

 黒曜石の様に深みのある綺麗な黒髪のツインテール。瞳は紅蓮の炎の様に煌々と光り輝いていており、愛らしく八重歯を覗かせながら、勝ち気な笑みを浮かべて謎のドヤ顔を披露していた。

 服装は日曜の朝に放送されている、小さなお子様や、大きなお友達までが楽しんでいるプリティでキュアキュアなアニメに登場する少女たちのそれに酷似しており、大変可愛らしい。

 黄色を主体としたフリフリのヘソ出しのコスチュームは、随所で白や赤などの色合いの装飾がなされており、快活なイメージを彷彿させる。更にはミニスカートの下はスパッツを着用しており、少女の活発的な気質が見て取れる。

 そう、怪人に相対している者は紛れもなく幼女だった。どう見ても小学生程度にしか見えない幼い少女だったのだ。

 

「趣味? なんだその適当な設定は……」

 

 突然現れた幼女が放った一言に青筋を立てながら、怪人は怒り狂う。ふざけているにも程がある!

 

「私は人間どもが環境汚染を繰り返す事によって生まれた。ワクチンマンだっ!」

 

 胸に手を添えながら、怒りを滲ませた声で続ける。

 

「地球は一個の生命体である。貴様ら人間は地球の命を蝕み続ける病原体に他ならないっ!」

 

 深刻なまでに進んだ大気汚染、海に垂れ流しにされている化学物質。森を開拓し、自然の生態系を壊し続ける。

 際限のない欲望で、いたずらに地球を傷つけ、侵し続ける人類は最早地球にとって最悪の存在──癌細胞そのものでしかなかった。

 

「私はそんな人間どもとそれが生み出した害悪文明を抹消するため、地球の意志によって生み出されたのだっ!」

 

 それを言うに事欠いて、この矮小な人間はなんと言った? 趣味?……だとォ!?

 

「それを! 趣味? 趣味だとぉ!? そんな理由で地球の使徒である私に刃向かうとは」

 

 最早この生き物は救い難い。滅ぼさねばならん。この地球のために、この愚かな存在は消し去らなければならんっ!

 天元突破した怒りと共に、怪人――ワクチンマンの姿が肥大化していき、凶悪極まりないバケモノの姿へと変貌させていく。

 その力も高まり――やがて、複数の都市を数分で滅ぼせるほどの怪物へとその姿を変貌させた。

 

「やはり人間! 根絶やしにする他ないようだ!」

 

 そして、怪物の怒りが込められた凶悪な一撃が、幼女に振り下ろされ――

 

「うるさいっ!」

「ぐっはあああああぁぁぁぁぁ!?」

 

――消し飛ばされた。

 

 ついでに、その時に起こった衝撃波で、黒煙は軒並み吹き飛び、空は晴れた。……快晴の空である、雲一つない青空は見ているだけで清々しいものだ。

 

「あれ? さっきのかいじんは?」

 

 辺りをキョロキョロと見回しながら、消し飛んだワクチンマンの姿を探す幼女。……どうやら己のなした所業に気付いていないらしい。

 

「え、う、うそ……またワンパン?」

 

 手に付いた肉片を見て、漸く自分が何をしたのか悟って、残念そうに眉を顰める。

 折角、久々に苦戦するかもしれない強敵に会えたと期待したのに、これではいつもと同じじゃないか。

 

「くっくそったりぇぇぇぇぇ!」

 

 崩壊したA市に、可愛らしい幼女の舌足らずな声が響き渡った。

 

 この幼女、名をサイタマ。

 これから先、世界中でその名を轟かせるであろう、最強にして最高に愛らしい伝説の幼女である。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 時を遡って三年前の事である。あるところに一人の青年がいた。

 名前をサイタマ。就職活動に明け暮れる日々を過ごす無職で、人生というものに疲れ切り、死んだ魚のような目をした無気力な人間だった。

 

「あれれ〜? 君は逃げなくても良いのかな〜? プクプクプク〜(笑)」

 

 変な格好のカニみたいな変な怪人が目の前にいても、何の反応も示さないほどに無気力な人間だった。

 

「はぁ」

「プクプク、見たところ会社疲れの新人サラリーマンってところか。カニを食いすぎて突然変態を起こしたこの俺、カニランテ様を前にして逃げないとは……プクプク」

 

 無職を捕まえて何を言っているんだろうか、このカニは。

 心なしか、サイタマの目に冷たい色が混じったことを、カニランテ様は気付くことはないだろう。

 

「死にたいんだね? そうだろう?」

「一つ……違うな」

 

 何か勘違いしてるカニランテ様とやらに、懇切丁寧に説明することにする。

 

「俺はサラリーマンじゃなく無職。現在は就職活動中だ」

 

 言ってて悲しくなる。いや、悲しいという感情すらも全く湧いてこない。

 

「今日も面接だったが見事に落とされたよ」

 

 あのハゲ面接官、絶対に許さん。カツラバレてねぇとでも思ってんのかあのハゲ。カツラバレして恥かけばいいのに。

 

「なんか全部どーでもよくなって……カニランテ様が出現したところで逃げる気分じゃねーや」

 

 いっそのこと、この変な奴に殺されるのもアリかもなー。

 

「で、逃げなきゃどうなんだ?」

 

 なんにもやる気でねーし、貯金もねーしな。これじゃ、来世に期待したほうがマシかもしれん。

 

「プクプクプク(笑)! 君は俺様と同じく目が死んでいる。同じ死んだ目のよしみだ特別に見逃してあげましょう」

 

 何が気に入ったのか、サイタマを見逃すことにしたらしいカニランテ様。笑い声をあげながら、サイタマの横を通り過ぎていく。

 

「それに今は別の獲物を探していてね」

「?」

「アゴの割れたガキを探しているのだよ。見付けたら八つ裂きの刑だ。プーックックックックック(笑)」

 

 

ーーー

ーー

 

 

「あ」

「ん? 何見てんだよ」

 

 一人で公園で遊ぶガキがいた。……アゴの割れた。割れすぎて顔のすぐ下にケツがある様に見えるアゴをしたガキがいた。

 

――アゴの割れたガキ、見付けたら八つ裂き。

 

「おいガキ、お前カニの怪物に何かしてないよな?」

 

 杞憂であってもらいたい。嫌な予感を感じつつ、そう願うサイタマ。

 

「え? 公園で寝てたから、マジックで乳首描いたよ」

 

 コイツだった。あのカニランテとかいう変な怪人が探しているのは、このガキだ。

 

「……?」

 

 このガキ、自分が何をやったのかを全く理解していない。今なら隠すことも出来るが……

 

「……あ?」

 

 あーでも全然可愛くないなコイツ、むしろ見てると殴りたくなる。……どうせ自分には関係ないし放っておくか?

 

 そうさ、どうでもいい事だ。

 そもそも、コイツを助けたところで自分には何のメリットもない。このガキを助けようとしたら、あの怪人の逆鱗を買うだろう。だから――

 

「見〜っけ」

 

――別に見捨てても。

 

「たァッ!!」

 

 瞬間、サイタマは無意識に駆け出し、アゴの割れたガキを抱えてその場から離れた。……何をやってるんだ!? 自分の行動に驚愕する。

 咄嗟に取ってしまった行動は、サイタマの考えとは完全に真逆だった。

 

「ガキ! 狙いはお前だ! 早く逃げろ!」

「で……でも……」

「俺に構うな! 早く行け!」

「サッカーボールが……」

「ボールかよ!? いいから早く行けって! 殺すぞ!」

 

 何でこのガキを庇ったんだよ!? 大して可愛くもないし! 未だに状況理解してないし、大して可愛くもないし!

 

「キミ〜何のつもりだい?……まさか、そのクソガキを庇う気かい?」

「おいおい、まさかと思うが子供のイタズラごときで本気で殺意を起こしているのか? よく考えろアンタ」

「プク(笑)もう何人も切り裂いてきたよ。この姿を馬鹿にした奴はもれなくね、プクク(笑)」

 

 沸点低すぎじゃないかこの怪人。

 やっぱりカニばっか喰ってた奴に碌なのいねぇ、というか自分は明日の食費すら危うい生活をしているのに、カニの食い過ぎとか馬鹿にしてんのかこの野郎。

 怪人カニランテが、突然変異した切っ掛けを不意に思い出して、ちょっと、いやかなりイラッとしたサイタマである。

 

「そのガキャア、俺様のボディに乳首を描きやがったんだ! しかも油性だぞっ!? この手ではタオルで強く拭く事もできん!」

 

 いや、誰かに頼めよ。今時の小学生でも簡単に思いつくぞ。

 

「許すまじ! 邪魔をするならキミも一生就活できない体にしてやる!」

 

 怪人カニランテは、地団駄を踏みながら怒りの声を上げる。

 

「くく……」

「! おい、笑ったか、今?」

「くくくくく、あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ」

 

 サイタマがいきなり笑い出す。……思い出したのだ。

 

「なんか思い出した。お前、昔見たアニメの悪役にそっくりだわ――がッ!?」

 

 サイタマの身体が宙を舞う。怪人は人間とは比較にならない力を持つ。ただの人間一人を吹き飛ばすことなど、造作もないことだった。

 

「ひっ、ひいいいぃぃぃぃいい!?」

 

 吹き飛ばしたサイタマに目もくれず、ガキの方に向かうカニランテ。

 本来の目的を果たすため。自分の自慢のボディに大して面白くもないラクガキを描きやがった、クソガキをこの手で八つ裂きにするために。

 

「死ね」

 

 その巨大なハサミが振り下ろされれば、ガキの命など容易く奪い去られるだろう。このままアゴの割れたガキの命は摘み取られる事になる。

 

――ゴッ!

 

 カニランテの頭にぶつかる石。

 背後を振り替えれば、そこには先程吹き飛ばした人間が血だらけになりながらも立ち上がっていた。

 

「待て、コラっ、はぁはぁ、この、少子化の時代にっガキを殺すなんて、はぁ、見過ごせんっ」

 

 男は、サイタマはまだ諦めていない。

 

「また、思い出した。俺っ、小さい頃ヒーローになりたかったんだよ」

 

 それは在りし日のガキの頃の夢。

 

「サラリーマンじゃなくてっ、テメーみたいなあからさまな悪役をっ、一撃でぶっ飛ばすヒーローにっ、なりたかったんだよ」

 

 そう、ヒーローになりたかったあの頃の。

 

「就活はやめだっ!――」

 

 あの頃、憧れた――

 

「――かかって来いコラ!」

 

――ヒーローになる。

 

 カニランテにボコボコにされながらも、サイタマは戦い抜き、遂に怪人カニランテを倒すことに成功する。

 怪人を倒し人を救う。ヒーローとしての充実感。就活に疲れ果て、死に体だったサイタマの魂に、紅蓮の炎が灯った瞬間だった。

 

 そして、サイタマはハゲるほど死物狂いで特訓の日々に明け暮れ、無敵のパワーを手にすることになる。そう――

 

 

 

 

 

「ぐわあああぁぁぁぁああっ!?」

 

――本来の世界線では。

 

 カニランテを倒しきったサイタマは自身の腹部を貫いた衝撃、熱、想像を絶する痛みに絶叫を上げた。

 

「騒々しいぞ」

「ぐがっ、ゴホッ」

「長い眠りから目覚めてみれば……この我が眠っている間に、地上には随分とヒトが増えたらしいな」

 

 絶叫するサイタマを踏み付けて無理矢理に黙らせる。

 サイタマの腹部を貫いたのは矛だった。三つ又に分かれた銛の様な矛先を持った武器――トライデント。

 

「少々、邪魔だな――ふんっ」

 

 その矛を握っているのは、額に三つ目の瞳を持った人外。

 その人外が、手に持った矛とは逆の方の手を無造作に横に凪いだ。瞬間――

 

「げほっげほっ、ごふっ、う、そ、だろ?」

 

――視界の先にあった複数の都市が纏めて消し炭になった。

 

 人外の腕の先に存在していた光景が、一瞬で地平線まで消えて無くなったのだ。

 

「我こそはシヴァ、破壊を司る神なり」

 

 絶望の化身がそこに立っていた。怪人なんぞでは足元にも及ばない超常の存在――神。

 そんな出鱈目で理不尽な存在が、人類では抗う術のない絶望が降臨してしまったのだ。

 

「くそっ、てめぇ、うぐぁ!?」

「不遜だぞ人間、誰の許しを得て、この我に話しかけた」

 

 殺さないように加減でもしているのか、シヴァはゆっくりと圧を掛けてサイタマを踏み付けている。

 

「ぐっ……知る、かよっ! 大勢の人をっ、殺しやがってっ」

「我が復活した記念に分かりやすく目印を立てたまでだ」

「そんな事のためにっ!」

「我は神である。ヒトであるなら我の行いに口を出すな。……貴様は口が過ぎるな。魂ごと滅してやろうか?」

 

 足蹴にしていたサイタマの首を鷲掴んで宙吊りにする。サイタマは抵抗することも出来ない。痛めつけられて身体がボロボロになっているのもあるが、何よりもこのシヴァと名乗る存在が溢れ出ている威圧に飲まれ、身体が震えて動かないからだ。

 

「畜生っ! 畜生っ!」

 

 動けよ体――威圧にビビって、動きを鈍らせる自身の体を叱責する。

 止まれよ血――腹部から止めどなく溢れ出している命の燃料に懇願する。

 もう一度だけでいい、もう一度戦わせてくれっ――この自分勝手な神様とやらを一発殴らないと気が済まない。

 

「ではな、愚かな人間――滅びよ」

 

――動けよっ!

 

「――お前がな」

「ぬぐぁっ!?」

 

 サイタマを滅ぼさんとした神の横っ面が、何者かの手によって殴り飛ばされた。神の身体は投げ捨てられた人形の様に無造作に吹き飛ばされ、地面を幾度と無くバウンドし、地平線の彼方に見える山にめり込んだ。

 

「全く、何処の世界でも神という奴は傲慢極まりない」

 

 倒れ伏したサイタマは声もなく、神を殴り飛ばした人物を見上げていた。

 赤を強調した露出の多い巫女服に、今までの人生で一度も見たことがない……否、この世界にこれ以上に美しい存在がいるのか? と言わんばかりの圧倒的な美貌を持った女性。

 やれやれと肩をすくめながら、余裕そうに僅かな笑みを浮かべているその女性の姿に、サイタマは見惚れていた。

 

――ヒーロー。

 

 サイタマの心に浮かんだ単語。

 自身の命の危機を間一髪で救い、絶望的な状況を瞬時に打開したその手腕は、まさにヒーローと言っても過言ではなかった。

 

「ん? 怪我をしているな青年」

 

 サイタマの前で膝をつき、手を翳す。ただそれだけの動作で、サイタマの身体からありとあらゆる痛みが消失した。見れば、貫かれていた筈の腹部には傷一つ無く。それどころかカニランテによって付けられた傷も、全て完治していた。

 

「あ、ありがとうございます。……あんた、誰なんだ?」

「私か? 私は――ふむ、話をしている暇は無いようだ。青年、そこで気絶しているガキを連れて下がっていろ」

「は? 何を言って――」

「きぃぃぃさぁァァマァァァ!!!」

「――分かりました。下がってます」

 

 吹き飛ばされた方向から、凄まじいスピードで神と名乗った男が戻ってきた。

 殴られた顔はグチャグチャになっており、更に憎悪で歪み切っているために、見るも悍ましい形相となっている。

 

「コノォ神デアル我二ィナント不敬ナァァァ!」

「生憎だが私は無神論者でな。……それに神を語る愚か者に払う敬意など、端から持ち合わせていないよ」

「死ネェェェェェ!」

 

 矛を出鱈目に振り回しながら、膨大なエネルギーを放出し、女性に襲いかかる。そんな神を前にして女性は――

 

「喧しい」

「ぐっはあああああぁぁぁぁぁ!?」

 

――拳の一閃で消し飛ばした。

 

 まるでハエを払うように簡単に、複数の都市を一瞬で消し飛ばしたバケモノを呆気なく倒した。

 

「すっげぇ」

 

 サイタマはその光景を生涯忘れることはないだろう。

 そう、これが本当の始まりだった。サイタマというただの人間がヒーローとしての道を歩み始める、最初の一歩。

 

――どんな災厄も一撃で粉砕する正義の権化。

 

 あの日見たあの女性こそが、自分が目指すべき真のヒーローの形なのだと。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 そう――思えば、あの日から三年も経つのだ。

 あの日憧れたヒーローの様になるために、サイタマは寝る間も惜しんで、死物狂いで特訓漬けの日々を過ごした。

 思いつく限りのハードなトレーニング(腕立て百回、腹筋百回、スクワット百回、ランニング五キロ)。

 町に出没する怪人たちと休むこと無く死闘を繰り返す。

 そんな日々を過ごしている内に――

 

「ん、んにゅぅーっ!……と、とどかないよ~!」

 

――サイタマは幼女になっていた。

 

 おかしいと思っていたんだ。

 特訓を重ねるにつれて、視線はどんどん急激に低くなっていったし。長年連れ添っていた息子も小さくなっていったし。髪も異常な早さで伸びていった。

 

 で、気付けば――

 

「ほら、これで良いのかい? 小さいのにお使いかい? 偉いねぇ〜」

「ありがとう、おばあちゃん!」

 

――幼女である。

 

 遂に身長は小学生レベルにまで落ち込み。息子は最初からいなかったと言わんばかりに跡形もなく股の間から消え去った。髪も腰丈まで伸びきり、ツインテールにして縛っていないと邪魔になる程になった。

 以前、言い加減に鬱陶しくなって切ろうとしたら、逆にハサミの刃が粉々になった。……どうやら見た目以上に頑丈らしい。幼女の毛は刃よりも強い。

 

「あ、はちじゅうにえんあるよ!」

 

 サイタマは買い物に来ていた。勿論、プリティでキュアキュアなヒーロースーツ(?)でだ。

 正直なところ、愛らしい幼女がアニメのキャラに憧れてコスプレしている様にしか見えないため、周囲の人々は微笑ましそうにサイタマの事を眺めている。……とある世界線では、ただのハゲマントとして笑われていたのに、エラい違いである。

 

「あれぇ?」

 

 お会計をしていたサイタマの眼前が急に瓦礫に変わった。

 何が起こったのか、周囲を確認してみると……遠くの方に、デッカイ全裸の男が歩いていた。

 

「むぅ」

 

 サイタマは幼女である。元々は二十歳を超える男であったが、今は可愛らしい幼女である。そのため、割りと沸点が低い。

 子供は我慢しない生き物だ。大人ほど精神が成熟しておらず、自制が効かない。それ故にすぐに癇癪を起こすし、些細なことでも機嫌が悪くなったりする。

 それはサイタマも例外ではない。元々の精神が大人だった分、普通の幼女などと比べれば沸点は高い方ではあるが、それでも大人のソレと比べると余りにも低い。

 

「むぅぅぅ!」

 

 サイタマは不機嫌だった。

 小さい手で財布の中を探り、漸くピッタリな金額を探し出すことが出来たのに……あの変態が邪魔をしたせいで、折角の自分の労力が全部ムダになってしまった。

 金額ピッタリで会計を済ませるのは、存外に気持ちの良いものだ。何か妙にスタイリッシュだし、何よりもお釣りを回収する手間も省ける。……それを邪魔された。

 

「ゆるさないっ!」

 

 もう一度言おう、この幼女は割りと沸点が低い。

 

 

 

「凄い、凄いぞ弟よっ!」

 

 歩くだけで町を破壊する超巨大な男――マルゴリ。そして、その肩に乗っているのがマルゴリの兄である科学者――フケガオである。

 兄弟なのに、身長差あり過ぎじゃね? などという定番なツッコミをしたくなるが、これにはわけがある。

 マルゴリは、フケガオが開発した新薬、上腕二頭キングの効果によって巨大化したのだ。それも――

 

「俺の頭脳とお前の筋肉――最高の知力と最高の肉体を求めた俺達兄弟がその力を合わせれば! 地上の全てを征服し、王になれるっ!」

「ウオォォォォォ!」

 

――見せかけだけではない。

 

 マルゴリが勢い良く振った腕が衝撃波を生み出し、町を一瞬で吹き飛ばした。

 

「す、すごいっ! 良いぞ弟よっ! 数万人は死んだっ!」

 

 ただの腕力が天変地異を巻き起こす。

 下手な自然災害よりも強力無比、それが今のマルゴリの持つその巨大な身体に秘められし超級の身体能力。

 

「よーし、そのまま隣の町も掃除だ!」

 

 マルゴリはフケガオに言われるがままに、隣町の方にその足を進める。自分の力を、手にした最強の力を奮うために、ただそれだけのためだけに、破壊を実行する。

 マルゴリは酔い痴れていた、己が手にした力に、自分の一挙一動で景色が変わり、多くの命が消えていく。

 自分が強いから、自分が強すぎるから、これだけの破壊を簡単に実行できるのだ。

 

「そうだぁ! 蹴散らせぇ! 見せ付けてやれぇ!」

「俺は最強の男……俺は最強の男……俺は――」

「どうだぁ弟よ!」

「へんたいさんになったかんそうは?」

 

 気付けば、フケガオが乗っている肩とは逆の肩に、人影ががが。

 

「だ、誰か乗ってるぅ!?」

「ふるちんではずかしくないの? へんたい」

 

 人影の正体は、不機嫌そうな顔をした幼女だった。

 

「な、何かと思えばただのこどm……」

 

 言いかけて、ふとフケガオは思い至る。ただの子供? ただの子供がこんな場所に来れるのか? この場所は、弟の方は地上からどれだけ離れている。例えよじ登って来れるとしても、ただの子供がこんな場所まで登りきれるものか?

 フケガオの背中を冷たいものが通った。異常だ。目の前にいるこの子供は異常だ。

 

「弟よっ! 肩に乗っている奴をっ――」

「ばしょかえるねー?」

 

 気付いたときにはもう遅い。

 

「ぬぐあぁぁぁぁああッ!?」

 

 マルゴリが絶叫する。

 原因は、サイタマがマルゴリの耳を思いっきり引っ張りながら、空中を蹴って移動し始めたからである。驚くべきことに、マルゴリの巨体が宙を舞い。どんどん、町から引き離されていく。サイタマが腕一本でマルゴリの巨体を支えながら、移動しているのだ。……うわっ幼女強いってやつである。

 

「ここでいいかにゃ~?」

「ぐううぅぅぅぅううう!」

 

 何処にも被害に遭いそうな建物がない場所を見付けたサイタマは、そこにマルゴリを投げつけて、適当な場所に着地する。……ご丁寧なことに、移動の衝撃で気絶したフケガオを怪我がないようにちゃんと回収してあげている。

 いくら不機嫌でも幼女は無闇やたらに人を見捨てたりしないのである。たとえ相手が悪人でもそれは変わらない。

 

「ぐぅ、うぅ……な、何が起こったんだ?」

「でかいの!」

「っ!? こ、子供っ!? どうしてこんなところに……」

「おまえのせいで、あたしはふきげんなの! ぼっこぼこにしてやるからそこになおれぇ!」

「は?」

 

 混乱するマルゴリ。知らない場所に連れてこられたと思ったら、目の前で幼女が腕をブンブンと振り回しながら、怒っているのである。

 

「ちぇすとぉぉぉ!」

「え、はやっ!?――ぐふっ!」

 

 マルゴリの巨体が勢い良く錐揉み回転する。一瞬で距離を詰めたサイタマが、マルゴリのアゴを蹴り抜いた結果である。

 

「ればぁぁぁ!」

「ぐはっ、調子に乗るなぁ!」

「わはははっ! おそい、おそい!」

 

 サイタマの打撃が、マルゴリの腹筋をぶち抜いて、そのまま内蔵にダメージを与える。それに怯むこと無く、拳を振るうマルゴリであるが、サイタマに拳を当てるどころか掠らせることも出来ない。まるで空を舞う蝶を素手で捕まえようと足掻いているように、触れることが出来ない。

 見て分かるだろうが、サイタマは相当に手加減に手加減を重ねて、マルゴリを叩いている。ジェンガで遊ぶように、慎重に慎重に力加減しながらである。

 これはサイタマの憂さ晴らしだ。一発で終わらせてしまったら、全然スッキリしない。徹底的にボコボコにしないと気が済まない。……ピッタリ会計を逃した罪は重いのである。

 

「くそっ! 俺は最強の男になったのにっ!」

「さいきょう?……むふぅ~」

 

 サイタマはお子様特有の残酷な考えに思い至った。

 最強の二文字に縋り付いている巨人さん。彼は相当腕力に自信があるご様子。……ではでは、その自信を粉々に砕いたらどうなるんでしょうか?

 

「あぅ!?」

「貰ったッ!」

 

 石に躓いて体勢を崩してしまったサイタマ。その隙を突いて、遂にマルゴリの巨拳がサイタマを捉えた。

 

「ぬぐぐぐ、う、嘘だろっ!?」

 

 しかし、マルゴリは可笑しい事に気付いた。……地面が割れていない。

 マルゴリは自身の力をしっかりと把握している。今の自分の力で地面を殴りつけたら、その衝撃で地面は深く抉られ、巨大な穴が出来上がる筈。……それなのに地面には傷一つついていない。

 

「えぇ~? ほんとにほんきでやってるのぉ~?」

 

 無傷の理由はサイタマが衝撃を、その小さな体で全て受けとめていたからである。

 片手一本でマルゴリの拳を無理矢理静止させ、自身はその場から一歩も動いていない。即ちそれは――

 

「おっきいからだはみせかけだけなのかなぁ~?」

 

――サイタマの力が、マルゴリを遥かに凌駕しているという事実に他ならない。

 

「そんなっ、そんな事がっ」

 

 マルゴリの心が折れた。

 兄の言葉を信じ、上腕二頭キングの力で最強の男に生まれ変わった自分。その最強の自分が持つ力が、目の前の小さな存在に手も足も出ない。その事実に彼の心が耐えきれなかったのだ。

 

「なんでないてるの?」

「俺はっ、最強のっ、最強の男になった筈なのにっ」

「それってたのしいの?」

「……え?」

 

 サイタマは不思議に思っていた。

 戦っている時、マルゴリは全然楽しそうにしていなかった。折角手に入れたという力を振るっていても、何をしていても楽しそうに見えなかった。

 自分と戦っていて、余裕が無かったと言ってしまえばそれまでだが、それだけでは説明がつかない。もっと根本的な部分でマルゴリは、今の状況を楽しめていない。むしろ苦しんでいるようにも見えた。

 

「あたしにもヒーローになるってゆめがあるんだよ! まいにちたのしいよ! ひとをたすけるのも! てきとたたかうのもたのしいっ! にひひっ!」

 

 サイタマは最高のヒーローを目指して日夜特訓に励み、多くの敵と戦っている。それは幼女となってしまった今も変わらない習慣だ。

 自分の力が高まっていく特訓も楽しいし、敵と戦うのも楽しい。敵を倒して、町を守ることで人から感謝されるのも嬉しいし、本当に毎日が充実しているのだ。

 

「なのに、おまえ、ぜんぜんたのしくなさそうだよ?」

「俺、は」

 

 サイタマの言葉を聞いて、マルゴリは思い出していた。

 どうして自分が最強の男になりたかったのかを、何で自分が力を求めて色んなトレーニングに明け暮れていたのかを思い出した。

 

「そうだ、俺もなりたかったんだ。……ヒーローに」

 

 そのために地上最強の男になりたかったんだ。最強の力があれば、どんな災害からも人々を守ることが出来る。最強の力があれば、この世のどんな理不尽も捻じ伏せることが出来る。

 

「そのために、目指していた筈だったのに」

 

 こんな俺では、もうヒーローなんてものになるのは無理だ。

 自身の身体を見て、マルゴリは悟った。もう自分は怪人に、人類の敵になってしまったんだ。

 人類を脅かす災厄に、人類に敵対する悪になってしまったんだ。

 

「うぐぅ、くぅ」

 

 マルゴリは嘆いた。己のしてしまった取り返しのつかない事を思って。……もう、決して届くことのない夢を思って、自分が奪ってしまった日常を、命を思って、ただただ涙を流した。

 

「弟よ。……俺達は、俺は間違っていたんだな」

 

 いつの間にか、気を取り戻していたフケガオは、巨人と化してしまった弟が流す涙を見て、漸く己の過ちに気付いた。

 自分の研究成果に酔い痴れ、弟を怪物に変え、命を奪うように唆した。……何と恐ろしい悪人なのだろうか、何と罪深い大罪人だろうか、何と救い難い悪魔なのだろうか。

 

「気付くのが、遅すぎたんだ」

「いまからでもおそくないんだよ!」

「遅く、ない?」

「でっかいのがでっかいのじゃなくなって、がりがりががりがりじゃなくなればいいんだよ!」

 

 サイタマは語る。

 マルゴリという巨人が町を破壊したという事実は変えられない。ならば、マルゴリという巨人がいなくなってしまえば、マルゴリがマルゴリでなくなってしまえば良い。

 もしも、フケガオが今回の惨劇の発案者なのだとするなら、フケガオがフケガオだと分からなくなってしまえばいい。

 

「でも、俺は人を殺して」

「あまえんな!」

「っ!?」

「それは逃げてるだけだよ! ヒーローになって! きょうころしたばいいじょうのひとをすくえばいいよ!」

「百、倍」

 

 百万人以上の人間を救えって言うのか、この子供は。……それが出来たら、どれだけ、どれだけ素晴らしい事だろう。

 

「ははっ、そんな風になれたら、どんなに良いことか。……でも、無理だよ。俺の身体はこんなだし、兄さんもすぐには見た目を変えられないし」

「そっこはこのサイタマさんにまかせなさいな! このサイタマさんのてにかかればぜんぶまるっとかいけつなのだぁ!」

 

 無い……いや、僅かに存在を主張する胸を張りながら、サイタマがドンッと胸を叩く。……無駄に自信満々である。

 

「弟よ、彼女の言う通りにしてみようじゃないか」

「兄さん」

「俺はともかく、お前に罪はない。俺がお前を唆さなければ、お前は今もヒーローになるために地上最強の男を目指すことが出来たんだ」

「それはっ、でもっ俺が自分からっ!」

「何も言うな」

「兄、さんっ」

 

 憑き物が落ちたフケガオの穏やかな顔を見て、マルゴリは何も言えなくなる。マルゴリは全てを察してしまった。

 フケガオは、兄は、全ての罪を一人で背負うつもりなのだと。もう何を言っても、自分一人で背負うつもりなのだと察してしまった。

 

「そこの君、サイタマさんで良いか?」

「いかにも!」

「マルゴリを、弟をどうか、どうかヒーローに、もう一度ヒーローを目指せるようにしてくれっ! 頼むっ!」

 

 思えば、兄らしいことなど一度もして来たことはなかった。だから、せめて今この瞬間だけは、この至らぬ兄の頭など、いくらでも、いくらでも下げてやろう。

 弟の夢を守るために、弟をヒーローにするために。

 

「や!」

「頼むっ!」

「でっかいのだけじゃなくて! がりがりも! つぐなうのっ!」

「そんなことは、許されないっ許されて良いはずがない」

「おとうとだけをはたらかせるのっ!?」

 

 サイタマの説得に、しかし、フケガオは首を横に振る。自分は罪人だ。ドッし難い罪人なのだ。そんな自分がヒーローになれるわけがない。

 

「兄さん、サイタマさんの言った通りにしてくれないか?」

「弟よ、しかし、俺は」

「俺は、ヒーローになった姿を、兄さんに、唯一の家族である兄さんに見て欲しいんだ」

「弟……マル、ガオ」

「一人は嫌だよ。フケガオ兄さん」

 

 ああ、また自分は間違えるところだったんだな。

 弟の表情を、巨人と化した弟の表情を見て、自分の間違いを悟るフケガオ。

 弟のためを思うのだったら、自分が先に楽になってはいけなかったんだ。罪の償いとは言っても、自分が自首したところで、何を償える。死刑判決を貰ったところで、己の罪深い命一つで、どれだけの償いになるというのだ。

 何よりも、弟を一人にするなど、兄のやることではないだろうが。

 

「済まなかったな、弟よ。俺はもう間違えない。……サイタマさん、お願いします」

「なっとくした?」

「ええ」

「んじゃっ! ふたりとも、めをとじててをまえにだして!」

「……」

「……」

 

 言われた通りに、目を閉じて手を出す兄弟。

 

「あたしのことばにつづけて! ひーろー、どりーむ、かむとぅる―!」

「「ひ、ヒーロー、ドリームカムトゥル―」」

 

 激しく不安になってきた。

 

「ありったけのことばをこめて! いっちげきひっさつぅ! あくをうつ、きのれいめぇ! きゅあれじぇんどぉ!」

「大いなる巨神の力、人々を守るためにっ! キュアティターン!」

「冴え渡るこの知性、家族を守るためにっ! キュアノーレッジ!」

「つみをあがなうため、ふたりはかわる! いまここにあらたなにゅーひーろーがうまれるっ!」

 

 溢れんばかりの光が巻き起こり、マルゴリ、フケガオの二人を包み込む。

 暖かい光に包まれて、二人の身体が徐々に変化していく。そう、彼らの罪を贖うために、彼らがこれから先、奪った命以上の命を救うために、その身を変身させていく。そう――

 

「「巨神の力と知性の力! 家族の絆が世界を守る! ホーププリキュア!」」

 

――性別すらも変えて。

 

 マルガオだった者は、身長が高めのボーイッシュな女の子になってしまった。

 サイズにして軽くHはありそうな巨大な果実を胸にこしらえ、女が羨むであろうモデル体型をした美少女だ。元々が筋肉ゴリマッチョな巨人だとは誰も思わないだろう。

 フケガオだった者は、メガネが良く似合うクールな女の子になってしまっていた。

 胸は残念極まりないものだが、背中からお尻に掛けてのラインが非常に綺麗で艶めかしいスレンダーな美少女だ。元々が老け顔のおっさんだとは誰も想像だにしない事だろう。

 

「え、ナニコレ」

「ににに、兄さん! これは一体何が起こってるんだぁ!?」

「へんしんしたのである! いえぇい!」

 

 いえーいではない。説明しろ幼女。

 

「あれだよ、あれをあれしてー、そのときふしぎなことがおこったするとこうなるんだよ」

「成る程、分からん」

「えー」

 

 むしろそんな意味の分からない説明で、どうして分かると思ったのだろうか?

 

「これって、元に戻るの?」

「え、もどりゃないよ?」

「……Oh」

 

 乳がデカイボーイッシュ美少女が、その場で項垂れる。

 マルゴリ……ここは可愛らしくティターンちゃんとでも呼ぼうか、元々男だった頃のティターンちゃんは、童貞だった。経験など皆無であり、彼女がいた経験もない。それなのに、実践使用する前に、息子がいなくなってしまったのだ。まさか、自分が娘になるなど予想できる筈もない。

 

「ふむ、完全に肉体が女になってしまっているな? もしかしてDNA配列を書き換え、いや、それでは見た目は変わらない筈だ。ならば、分子構造そのものを再構築したのか? いや」

 

 フケガオ……ノーレッジもまた、男だった時は童貞だったが、そんな事よりも、自分の肉体がどんな風に変化したのかが気にある様子。色々な視点から考察してはああではない、こうではない、と考え込んでいる。

 

「なにはともあれ、これでふたりともひーろーになれるよ!」

「そう、か……俺、ヒーローに、なれるんだ」

「良かったな、弟よ」

 

 未だに死んだ目で消えてしまった息子を探しているティターンの肩を優しく叩くノーレッジ。

 

 形は違えど、確かにヒーローになれる。その道は確かに拓けたのだ。

 罪は未だその両肩に重くのし掛かっている。しかし、それでもその罪を贖うために、二人はヒーローとして、再臨することが出来たのだ。そう――

 

 

 

 

 

「世界の平和を乱す者たちよ!」

「さっさとお縄につきなさい!」

 

――新たなるホープとして。

 

 これから先の未来、キュアレジェンドことサイタマに続いてその名を世界に轟かせる、二人組のヒーロー姉妹、ホーププリキュア。

 

――その力は巨神の如し、地形すらも容易く変える強大な腕力であらゆる悪を捻じ伏せるキュアティターン。

 

――その知性は神の叡智に迫り、数多の発明品と緻密な戦略で悪を追い詰めるキュアノーレッジ。

 

 二人の輝かしい物語はこれから始まるのだ。

 

 ちなみに、二人はZ市のとあるアパートに移り住み、お隣さんの幼女と仲良しになったらしい。……というより、幼女が余りにも不精な生活を送っているのを見かねて、色々と世話を焼いているようだ。

 

「サイタマさん、部屋の片付けはしておきましたよ!」

「ごくろーさまー、わたしはそろそろパトロールにいってくるねっ!」

「いってらっしゃい! あ、サイタマさんお弁当忘れてます!」

「あ、わすれてた!」

「はい、これは水筒です」

「ありがとー! じゃあ、いってくるねー!」

「はい、いってらっしゃい。……さて、妹よ。私達もそろそろ出ようか」

「オッケー姉さん!」

 

 これは、最強の幼女に進化したヒーローが、世界をかき乱す物語である。

 

 

―― 最 強 の 幼 女 ――

 

 




ホーププリキュア!(挨拶)

再開の記念に独立させてみた。
反省はしよう、後悔もしよう、だが私が能天気にも物語を書くのを再開した事実だけは知ってほしい()
酒のテンションで書き上げた結果、サイタマさんちゃんの言動が変わってしまっているが気にしないでほしい。
別に読み返してみて、舌っ足らずな幼女は書きにくいよフーッっ↑って思ってないんだからね!
相変わらず誰得な性転換してるけど、マルゴリやフケガオみたいなポテンシャル(見た目ではなく能力的な意味で)な奴らが性転換したら絶対に究極の美少女になるに決まってるんだよ!

想像するんだ。
超爆乳美少女に生まれ変わったマルゴリ(ティターン)の姿を……
スレンダーな眼鏡美少女に生まれ変わったフケガオ(ノーレッジ)の姿を……
妄想が続く限り、我らの夢と欲望は無限大に広がるのだぁ!

何度でも言おう、誰特など関係ない! 想像の余地は君たちの中にある! 想像するんだ! 紳士淑女諸君! ビバ、妄想タイム! 異常!
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