ワンパン(幼女)伝説   作:最後の春巻き(チーズ入り)

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死んでないよー休んでただけだよー(満身創痍)

多分、今投下してもバレない。



即落ちの忍者

「先生、おはようございます」

「おー! ジェノちゃん、おはよっ!」

 

 猫がプリントされた可愛らしいエプロンを着こなしたサイボーグの青年が、ダボダボの裸ワイシャツ姿のツインテール幼女に挨拶をする朝の一幕。

 何てことはない、師匠と弟子の微笑ましい日常の光景だ。……微妙に犯罪臭が漂っている気がするが、気のせいである。

 

「タマねぇ、おはよ」

「あしゅらもおはよー!」

 

 次いでサイタマちゃんに声を掛けたのは、新しくこのサイタマ家の一員となったあしゅらちゃんである。

 少し紫がかった赤髪に、愛らしく勝ち気な顔立ち、明るさ第一なサイタマちゃんに対して、何処か生真面目な雰囲気を身に纏うロリッ娘である。……ちなみに、身長はサイタマちゃんよりも低い。そのため、サイタマちゃんからは妹同然の扱いで猫可愛がりされている。

 

「あしゅら、その身体にも慣れたようだな」

「はぁ、そりゃ最初に比べたら流石に慣れるだろうが」

 

 今でこそ、何の害もなさそうな愛らしい幼女の姿である。……しかし、その正体は進化の家という秘密結社が誇る最高傑作だった怪人──カブトムシ型怪人の阿修羅カブトである。

 人間の限界を遥かに超越した圧倒的知能と身体能力を有しており、仮に災害レベルに当て嵌めたなら、確実に竜に分類されるほどの超級の怪物だった。

 

「あしゅら〜♪」

「タマねぇ、オレはぬいぐるみじゃないぞ」

 

 もっとも、サイタマちゃんに抱きつかれてほっぺすりすりされている姿を見たら、怪人だった過去など微塵も想像できないのだが。

 ジェノスが進化の家を崩壊させた一件で、何やかんやサイタマちゃんの力で怪人を止めさせられてしまったあしゅらちゃんは、そのままサイタマちゃんの手によって自宅までおっ持ち帰りぃ~♪ されてしまったのである。

 

 あしゅらちゃんとしても、サイタマには怪人から人間(幼女)に戻して貰った恩義もあり、行く宛もないので、晴れてサイタマ家の一員となったのである。……かつて人間だった頃と性別が違うせいで色々と苦労したが、そこは割愛しておこう。

 なお、サイタマちゃんに必要以上に構われている内、無事にサイタマちゃんに懐いた模様。

 怪人時代、数十年間もの長い間を地下の奥深くに軟禁されて続けていたため、人との触れ合いに飢えていたあしゅらちゃんである。……サイタマちゃんの裏表ない好意に当てられ、かなりのシスコンになってしまったのは仕方ない事だろう。

 

「ふっ、一気に先生のお気に入りになってしまったな」

「おいおい、外出する時にいっつも肩車をせがまれてるお前に言われたくねぇよ」

 

 お互いにサイタマちゃんのお気に入りになった者同士でかなり親近感があるらしく、ジェノスとあしゅらちゃんは意外と仲良しである。……推しが同じであるオタクが意気投合して和気藹々としている状態に近い。

 

「さいきんひまだなぁー」

「隣のティタねぇやノーねぇも、ヒーロー活動で忙しいみたいであんまりいないからなぁ〜」

「先生、暇でしたら一緒にパトロールでもどうでしょうか?」

「そうだなぁ~」

 

『速報です、桃源団を名乗る集団が現れ、破壊活動を──』

 

 肌色の頭部を晒した集団が街を破壊している様子がテレビに映る。

 

『「我々は断固働きたくない! 我々桃源団が作るのだ! 働きたい奴だけが働き! 働きたくない奴は働かなくても良い世界を!」』

 

 後頭部が異様に発達したリーダーっぽいスキンヘッドの巨漢が叫ぶ。

 

 彼らは語る。

 今の世界は働くことこそが美徳であるという間違った認識に支配され、社会という歯車にされてしまった奴隷で溢れかえっている!

 もっと自由であるべきだ! 働きたい者は働けば良い、働きたくない奴は働かなくても良い! 働かざる者食うべからず? そんなの誰が決めた? 働かなくても分け合えば良いじゃないか!

 

 めちゃくちゃな理論で暴走行為を繰り返す、頭頂部が肌色……ハgスキンヘッドの集団である。

 

「アホだな」

「先生の教育に悪い……消すか?」

「ちょいちょいジェノス、タマねぇはお前より年上」

「先生に関しては、見たままで対応することにしたから問題はない」

「問題しかねぇよ」

 

 25歳児の面倒を見る、過保護な19歳の青年。

 字面にすると色んな意味で終わっているが、絵面を見る分には、イケメンなサイボーグの青年が、プリティでキュアキュアな元気溌剌系ロリの面倒をしっかりと見ている微笑ましい光景である。……ならば、問題ないだろう。

 

「ちょうどいいね今日はB市をパトロールだぁ! ジェノちゃん!」

「はい、先生! 落ちないようにしっかりと捕まっていてくださいね!」

 

 ニュースを見たサイタマちゃんは、そのままジェノスの肩にライドオン。

 向かう先は、今まさに事件の渦中であるB市である。

 

「ついでに今日の夕飯の買い出しもするか……エコバッグは……」

「ほい!」

「ありがとうございます、先生!」

「おー帰りにプリンでも買ってきてくれー」

「あの地味に高い奴だったか? 質も量も兼ね備えた究極のプリンだとか言ってたが……」

「私の好物でもあるが、タマねぇの好物でもある。……後は分かるな?」

「ッ!? 成る程、了解した!」

 

 ちなみに最近のジェノスのマイブームは餌付けである。

 雛鳥に餌を上げるかのような感覚が堪らないそうだ。……これはやはり、事案では?

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「待っていたぞハンマーヘッド、ゼニールの使いだ」

 

 場面は変わって大富豪ゼニールが誇る広大な庭。

 そこでは、ハンマーヘッドが率いる桃源団と、ゼニールが雇った賞金稼ぎ音速のソニックが相対していた。

 

「俺は今まで戦った相手を生かして帰したことはない。今後もそのつもりだ」

 

 賞金稼ぎ、音速のソニックは強い。

 下手なヒーローよりも余程優れた戦闘能力を持っている。それこそ、「壊れている」と称されるS級ヒーローの面々に匹敵するほどの力を有していた。

 それ故にソニックは自分自身の力に、技に絶対の自信を持っている。……万が一、億が一でも磨き抜かれた忍びの極意を避けられたり、防がれたりしたら、その対象に執着してしまうくらいには、絶対的な自信を持っていた。

 

「今すぐ投降すれば死なずに済むが。……お前らはどうする?」

「へっ生意気な野郎だぁ!──お前らぁ! やっちまえぇぇぇ!」

「「おぉぉぉぉぉ!」」

 

 ソニックの忠告に対する返答はNo。

 ハンマーヘッドの命を受け、桃源団を構成するスキンヘッドの集団が一斉にソニックに襲い掛かる。

 一般人だと侮るなかれ、彼らが身に纏う特殊なボディースーツは、装着した者の身体能力を何百倍にも増幅する。それこそ、ただの一般人が身に付けただけで、そこら辺のビル程度でならダルマ落としの真似事が出来る程である。

 そんな奴らが集団で襲い掛かってくる。並みのものは即死どころか、挽肉にされてもなおお釣りがくるだろう。無論それは相手が──

 

「のろまめ」

 

──相手が並みの者であればの話であるが……。

 

 団員の一人が繰り出した拳が空を切る。

 

「一つ」

 

 一閃──銀色の閃光が奔る。

 銀が捉えたのは先頭にいた団員の首だ。分かたれた頭部が勢い余って空に舞い上がる。

 

「二つ、三つ」

 

 続けて跳ね上がる首、首、首。銀が空を奔る抜ける度に、髪を持たぬ男たちの頭部が空を舞っていく。

 彼らの表情は血気盛んなままだった。……恐らく、自分が既に死んでいるとすら認識していないだろう。

 

「ふんっ、まるで案山子だな。遅すぎて話にならん」

 

 銀──忍者刀を振るう当人は、呆れ果てる。

 裏で噂されていたパワードスーツ。どれ程の代物か少しばかり期待していたが、相対してみた結果がこの有り様だ。

 ただただ腕力を極限まで強化するだけで、装着者の動体視力が強化されるわけでもない。動きは素人丸出しで技術の欠片は何処にもない。……その程度ではこの俺を、音速のソニックを捉えることは不可能だ。

 

「最後の一匹だっ!」

(やっべー!?)

 

 最後の一匹、桃源団のリーダー、ハンマーヘッドは咄嗟に両腕で首をガードし、ソニックの一撃を防いだ。

 ソニックの動きが見えていたわけではない。目の前で飛んでいく部下たちの首を見て、本能的に首を守ったに過ぎない。

 防いだ腕には忍者刀により、巨大な裂傷が入っている。頑丈なパワードスーツを身に付けていなかったら、両腕ごと頭を切り飛ばされていただろう。

 

「くそったれぇぇぇぇぇ!」

 

 命の危機を感じ取ったハンマーヘッドは、両腕を地面に叩きつけた。

 極限まで底上げされた腕力は、地面を容易く吹き飛ばす。衝撃波とともに砕かれた瓦礫が散弾のようにハンマーヘッドの周囲に撒き散らされる。

 

「ほう、腕力だけは大したものだな」

 

 ソニックは距離を取る。

 ハンマーヘッドを警戒してではない。いくら地面を殴って衝撃波を起こそうが、大量の瓦礫を撒き散らそうが、ソニックにとってはどうとでもなる。瓦礫を避けながら近づくのも彼の技量ならば問題なく行える。正直なところ、その気になればいつでも奴を仕留められる。……だが、それではつまらない。

 

「うおぉらぁっ!」

「逃げずに攻めるか」

 

 ハンマーヘッドは砕いた瓦礫をそのまま投げつける。投げて投げて投げまくる。

 距離を詰められたら終わりだ。だからこそ、近付かれないように、遠距離攻撃であの忍者野郎を仕留めるしかない。

 

 幸いにも距離が離れたことであの忍者の動きが、微かにではあるが見えている──

 

「──とでも思っているのだろうな、クックックッ」

 

 敢えて遅くしてやっているだけだというのに、おめでたい男だ。

 ソニックはハンマーヘッドを勢いづかせ、その実力を発揮させるために手を抜いていた。

 これは暇つぶしなのだ、どうせなら最大限まで力を発揮させてから叩きのめした方が面白い。……ソニックの悪癖だった。自分の技を誇るが故に強者を求め、その強者を屠り去ることで、己が磨き上げてきた技がどれだけ優れているのかを実感する。その興奮に勝るものなどない。

 

「はっはっー! どうしたどうしたぁ! 俺を止めないとどんどん飛んでくるぞぉ!」

「踊らされているとも知らずに哀れな奴だ。良いだろう、お前の浅知恵に乗ってやる」

 

 ハンマーヘッドが投げた瓦礫が、まるで道を作るように一直線に並んでいる。

 意図が丸見えだ。このまま直線で進ませ、逃げられない状況に追い込んでから仕留めようという魂胆なのだろう。

 奴の浅はかな思考は丸見え、だが敢えてその思惑に乗ってやる。何故ならそのくらいのハンデがないと、自分の影すら掴めないことを確信しているからだ。……最も、多少のハンデを与えたところで焼け石に水だろうが。……

 

「小細工などいらない。……ただ正面から真っ直ぐに狩り取るっ!」

 

 ソニックはご丁寧に用意してくれた道を一直線に駆け抜ける。空気の壁を何度も突き破り、あまりにも常識はずれな速度によって、軽くソニックブームが引き起こされている。

 

(くぅっ!? 速すぎるっ! やはり見えんっ!……だがっ、見えなくてもいい!)

 

 ハンマーヘッドは瓦礫を投げるついでに回収していた大木を思いっきり振り下ろした。瓦礫で作り上げられた道をそのまま一直線に覆い潰す。

 

「ふっふははっ! この俺に歯向かうからだっ! あの世で後悔するんだなっ! この愚か者めっ!」

 

 狙い通り、あの忍者を仕留めた。

 己の勝利を確信したハンマーヘッドは高笑う。……失った犠牲は大きかったが、桃源団の思想は不滅だ。散っていった同志たちのためにも、ゼニールの邸宅、金のうんこビルは、この手で粉々にしてやる!

 

「さて、邪魔者は消えたし、さっさと金うんこビルを破壊s──ぴょっ!?」

 

 サクリッ、とハンマーヘッドの後頭部に苦無が突き刺ささった。……そのままの勢いでハンマーヘッドは俯せに倒れ込む。

 

「ああ、俺だ。今終わったところだ。残念ながら生存者はゼロだ」

 

 苦無を投げたのはソニック。あの程度では手傷を負うことすら出来ない。

 片手間でハンマーヘッドを倒したソニックは雇い主のゼニールへ、依頼完了の連絡をする。

 若干不完全燃焼感が否めないが、あの程度の相手ではこれ以上は楽しむことは出来ないだろう。ならば早々に見切りをつけて、他の依頼に向かった方がマシというものだ。

 

「ああ、ハンマーヘッドの遺体もここだ。では、今から戻r……いや、待て──」

 

 電話に集中し、一瞬意識を逸らしていたソニック。その一瞬で……

 

「──遺体が、消えた?」

 

 ハンマーヘッドの遺体が、目の前から消えていた。

 投げた苦無は確実に急所である頭部を貫いていた筈だ。これまでの暗殺経験から確実に命を奪ったという手ごたえがソニックにはあった。

 

「クックハハハッ! ハハハハハッ!……おい、依頼は続行だ。ハンマーヘッドはまだ死んでいないらしい」

 

 ひとしきり笑い。電話口の相手に依頼の続行を告げ、そのまま電話を切る。

 

「どのような手段を使ったかは知らんが、この俺の技受けて死んでいないか──」

 

 ソニックは満面の笑みを浮かべる。

 その表情は笑みを浮かべてこそいるものの、目は一切笑っておらず底知れぬ狂気すら感じる。

 

「──面白い」

 

 そして、狂気は影すら残さずその場から消え去った。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

「あっぶなかったぁぁぁ! 俺の頭蓋骨が常人の何倍も分厚くて良かったぁぁぁ!」

 

 何とか難を逃れたハンマーヘッドは一目散に逃げていた。

 どうやら分厚い頭蓋骨によって致命傷から逃れたらしい。かーちゃんに感謝しろ。

 意味が分からん、本当何なんだよあの忍者強すぎだろふざけんな! これだから金持っている奴は、すぐに金に物言わせて強いやつボディガードに雇うんだからっ!

 

「もうやだっ! 俺はもう帰るっ!」

 

 ニンジャコワイッ! 軽度のニンジャリアリティーショックを発症したハンマーヘッドの心は折れていた。

 

「あ、ハゲだ!」

「あれは今朝のニュースで見た桃源団のボス、B級賞金首のハンマーヘッドですね」

 

 ハンマーヘッドの逃げる先にいたのは、ツインテールの幼女を背負ったサイボーグの青年だった。

 

「な、なんだお前ら」

「あたしはしゅみでヒーローをしているサイタマだよ!」

「その弟子のジェノスだ。パトロールの最中でな、何やら怪しげなスキンヘッドが走り回っていたから声を掛けた」

 

 パトロールで他人の敷地を練り歩いてるのには突っ込んではいけない。

 サイタマちゃんがパトロールに飽きてしまい、てふてふを追いかけ始め。そのサイタマちゃんの行動に、ジェノス(弟子)は一切の疑問もなくただただ微笑ましげに写真を撮っていた。

 挙げ句、てふてふを捕まえられずにふて腐れかけていたサイタマちゃんを背負ってあやしていた。

 

「お前たちも桃源団に入りたいのか?」

「えー? はげになれっていうのー?」

「先生が、先生がハゲに? 先生の黒檀のごとき二つ結びがこの世界から消える?……何をふざけたことを言っている!? ぶち殺すぞ貴様ぁ!」

「ファッ!? ただ入団希望か聞いただけなのにっ!?」

 

 さっきの忍者とは別ベクトルで怖い!

 背負われている幼女はともかくとして、鬼の形相で此方を睨み付ける金髪の青年は、まさに阿修羅すらも凌駕する存在だった。

 視線に物理的な威力があったなら、それだけでハンマーヘッドが木っ端微塵になりかねない勢いである。

 というか、サイボーグじゃねぇかこいつ。明らかに自分が身に付けているパワードスーツよりも高性能だと分かる上に、この圧力だけで自分よりも遥かに格上だと分かる。

 今日のハンマーヘッドは厄日かもしれない。恐らく朝の星座占いコーナーでは最下位だっただろう。ちなみに牡羊座。

 

「ぐぬぅあぁぁぁぁぁ! もう知らんヤケクソだァァァァァ!」

 

 色々と不幸が重なりすぎて、ついにハンマーヘッドは爆発した。

 瞬時にパワードスーツを最大出力で稼働させ、秘められたエネルギーを一気に解放する。

 

「これが俺のぉ! 必殺ぐるぐるアタックだぁぁぁぁぁ!」

 

 武を捨てた男(元からない)が放ったのはクソガキ達のの最終兵器。

 見た目は見苦しい。大の大人がガキの駄々を真似ているようにしか見えないこの技。

 しかし圧倒的に底上げされた身体能力から繰り出されたその必殺技は、常人が当たれば木っ端微塵に粉砕され、絶命は免れない。

 重心が不規則にぶれていることで、高速で回転する腕自体が出鱈目で意味不明な起動を描くことにより、前後左右、上下の死角にすら対応している。……つくづく海王(違う)。

 

「ジェノちゃんゴー!」

「はい、先生」

 

──パシッ

 

 音にするなら、それほど軽い。

 サイタマちゃんの命を受けたジェノスが、軽い動作でハンマーヘッドのぐるぐるアタックを掴み止めたのである。

 以前のジェノスでは出来なかった芸当だ。……この男もサイタマちゃんのせいで色々とバグり始めてきているのだろう。

 しかもジェノス自身は今日はちょっと調子が良いなくらいの認識である。……明らかにサイボーグである自分のスペック以上のことが出来ちゃっているのに、おかしいとは思わない。

 サイタマちゃんらと生活をするうちにジェノスは細かいことを気にしないタイプのサイボーグに変化していた。……何なら一大事だとしても、大概どうにか出来るので、全く意にも返さないかもしれない。

 

「悪いが無力化させてもらうぞ?」

 

 言いながらかるーい動作でハンマーヘッドの身に付けているパワードスーツを指先でトンッと一撃。

 

「なぁ!?」

 

 たったそれだけでパワードスーツが粉々に砕け散った。……何処の爆砕点穴?

 

「ジェノちゃん、まえがみえねぇよ」

「失礼しました。しかし、これは先生の目に毒なので我慢して下さい。……おいお前、見逃してやるから今すぐ俺たちの視界から消えろ」

「は、はいぃぃぃぃぃ! 失礼しましたぁぁぁぁぁ!?」

 

 速すぎる忍者に玩具にされ、その挙げ句逃げた先では、大変愛らしい謎の幼女と、その保護者らしき阿修羅すらも凌駕している無駄にイケメンなサイボーグの青年がおり、幼女はともかくサイボーグ野郎から一瞬死んだと思うくらいの威圧を向けられた。

 

(ごめん、母ちゃん! 俺真面目に働くよぉ!)

 

 すまんて、俺が悪かった。皆働いている中で一人だけ楽して生きようと思っていた俺が間違っていた。

 後に世界でもトップクラスの業績を誇る頭金槌商会の主、ハンマーヘッドの人生最大の転機はこの瞬間だった。 

 彼は死ぬ最後の瞬間まで「労働の美徳」について周囲の人間に語ったと言う。……草。

 

「先生。……先生はあんな大人になっては駄目ですよ?」

「あたし、おまえよりとしうえなのだが?」

 

 少なくとも見た目ではお前が年下である。

 

「……いい加減姿を見せたらどうだ?」

 

 ジェノスのセンサーに反応があった。

 ハンマーヘッドがこの場を離れるその瞬間に入れ替わる形でこの場に現れた存在。

 高性能なセンサーを内蔵しているジェノスですら、気を抜けば見失ってしまいそうな微弱な反応を放つ存在。

 

「ふっ、始末対象を追ってきてみれば随分と面白い奴と出会えたものだ」

 

 速すぎる忍者ことソニックその人である。

 

「俺は音速のソニック……貴様らも桃源団の仲間か?」

「あんなハゲどもと一緒にするな」

「ねぇジェノちゃん、やっぱりあたままるめるべき?」

「ツインテールじゃない先生は解釈違いなので止めてください。……というかそうなったらショックで自爆します」

 

 ちなみに今のジェノスが自爆すると地球の半分の面積が焦土になる。……サイタマちゃん限界オタクと化した者の末路である。

 

「貴様ら、この俺を前にして随分と余裕だなっ!──」

 

 会話の途中で相手の虚をついて忍者刀で一突き。ソニックの技量で放たれるそれは常人では視認するどころか、自分が何時死んだのか悟られることもない絶技。

 

「──っ!? バカなッ!」

「お前よりも速い人を何人か知っているんでな……ね、先生?」

「ジェノちゃん、おにごっこよわよわだもんねー」

 

 定期的に開催されるサイタマファミリーによる鬼ごっこ対決。

 最早謎生命体と化してしまっているキュアレジェンドのサイタマちゃん。

 一瞬で都市複数を粉々に出来る超大型巨人の力を人間大のサイズに納めたホーププリキュアの腕力担当、キュアティターン。

 ティターンの元となった巨人の力をオロナミンC的な形で産み出した超頭脳の持ち主、ホーププリキュアの頭脳担当、キュアノーレッジ。

 災害レベルにするなら確実に竜に匹敵する怪物のスペックをそのまんま受け継いだ科学の申し子、キュアパワードのアシュラ。

 そんな規格外の面々と何度も遊んで(修行をつけて)もらっているのだ。

 こんなぽっと出の忍者かぶれに速度で負けるなどある筈が……否、あってはならないっ!

 

「そんなわけだ、間接のパニック。お前程度では昼飯前の準備運動にすらならん。……それでも向かってくるなら相応の覚悟をすることだ」

「っ!?」

 

──ぞくっ。

 

 ソニックの背筋が凍り付く。

 強者や達人と呼ばれる者達は、刃を交えずして敵対者を捩じ伏せるほどの威圧を持つという。

 ジェノスというただ一人のサイボーグが放つ威圧。彼のそれは焼き尽くさんばかりの熱を孕んだ重苦しい圧力となってソニックにのし掛かっていた。

 

(この俺がっ、なんという様だ!)

 

 屈辱。

 

 目の前が真っ赤になるほどの怒りがソニックの感情をかき乱していく。両の手の平には爪が深く突き刺さり血が滲んでいく。

 忍者として幼少期より磨いてきた技術、青春の全てを力の研鑽に捧げてきた。……それが通用しない?

 

(そんな筈がない。この俺の人生を懸けて磨き上げた技が通じぬなどあり得る筈が、ある筈がないっ)

 

 悪い夢を見ている気分だった。これまでの人生の全てを否定された思いだった。

 忍者の里で生まれたソニックは、生まれながらにしてその生き方を決められていた。忍びとして裏の世界で生き、決して表に出ることはなく任務をこなし続けるだけに日々。

 善悪など関係なく、依頼があればその命を奪うのが賞金稼ぎの仕事であり、忍者としての生き方そのものだった。

 ソニックが自分の力を誇示することに執着するようになったのも無理はなかった。他に生き方を知らない彼にとって、拠り所になるのは自分自身が磨き上げた技術であり、力のみだったからだ。

 

(だが、この力の差はっ)

 

 何よりも自分の力を誇示する彼だからこそ、人類の中でも有数の実力者に入る彼だからこそ、ジェノスと自分の間にある大きな壁に気付いてしまった。気付けてしまった。

 

──自分より遥かに強い。

 

 奴に本気で命を狙われたら、一瞬で消し炭にされる。

 

「貴様、それだけの力を一体どうやって手に入れたぁぁぁ!」

 

 最早、ソニックは冷静ではいられなかった。

 

「ふむ、よくぞ聞いてくれた。……先生、この頭痛が痛い奴に先生との奇跡の出会いについて語っても?」

「おーながいのいやだから、てみじかになー」

 

 サイタマちゃんは難しくて長い話が苦手なのである。そんな事に脳のリソースを使うくらいなら、今日のお夕飯のメニューが何か考えた方がよっぽど建設的でしあわせなのだ。

 

「──というわけで、プリティでキュアキュアな先生と、その素晴らしき友人たちと毎日毎日戯れていた結果がこれだ」

「貴様は何を言っているんだ。頭おかしいのか?」

 

 小一時間話して何を言っているんだこのサイボーグは頭おかしいのかおかしかった。

 麻薬決めてらりっている精神異常者の方がまだマシな妄想を語るだろう。それほどまでにこのサイボーグの話は常軌を逸していた。

 この幼気なツインテールの少女が引き起こした常識では考えられない奇跡の数々。ありとあらゆる理不尽を覆し、新たな希望を生み出していくプリティでキュアキュアなお話し。質の悪い冗談にしか聞こえない勧善懲悪の物語。

 巨神を屈服させて仲間にした? 蚊のバケモノを一撃で叩き潰した? 悪の秘密結社によって生み出された悲しき科学のバケモノを仲間にした? そんなっそんな馬鹿げた話があるわけないだろうがっ、しかもそれをよりによって、よりによってっ!

 

「貴様っ、か弱い姫様がそんな事をする筈がないだろうがっ!」

 

 蝶よ花よと育てられ、我ら里の忍びにすら明るく接してくれた無邪気な姫様が──姫、様?

 

(まて、今俺は何を思った? 姫? とても大事なことを忘れていたような──ッッッ!?)

 

 その時、音速のソニックの頭に浮かび上がってきた存在しない記憶(・・・・・・・)

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 ソニックは孤児だ。

 親を知らず、愛を知らず。物心ついた時には忍者の里で修行漬けの日々を送っていた。

 数百名の孤児を集め、修行と称して競い合わせ、蹴落とし合わせる。より強い忍を生み出すために、より強くより速くより巧い忍を作り上げるために……まるで蠱毒を思わせる混沌とした日々だった。

 

 そんな地獄の様な日々で出会ったのが……

 

「けがいたくないの?」

 

 姫様だった。

 さる高貴な血筋の幼き姫君。間違ってもソニックがごとき忍が生涯関わることのない存在。

 何故か、理由は定かではないがソニックはその姫に大層懐かれていた。

 何が楽しいのか皆目検討もつかないが、忍という日陰者であるソニックに明るく話し掛けてはきゃらきゃらと笑い後を付いて回っていた。

 

「ソニックって、まるでお兄ちゃんみたいだね!」

「お戯れを、お偉方の耳に入ったら折檻されてしまいます」

 

 高貴なる姫、彼女の輝きが自分にとってどれほど救いになったのか……。

 いずれ真に我が主となるであろう姫。そんな姫の側に侍り、生涯をとして御守りする。……ただその日ばかりを夢見てソニックは死すらも生温い過酷な修練の日々に励んだのだ。

 

「姫が、此処を出ていく?」

「そ、じじさまたちのじょまになるからでていけだって!」

 

 それは下らない。本当に下らない権力争いだった。

 我ら忍を率いることのできる唯一の資格を持つ一族。既にこの世にはいないかつての主が残した一粒種が姫様だった。

 その血ゆえにいずれはこの里の全てを握るのは姫様ただ一人。……それを快く思わない者達が確かにいた。

 権力に溺れた古狸。老い先短い身の上でありながらその欲深さは衰えず、不相応を求め続ける愚かな者共。

 本来敵対し、手を組むことのない彼らは、姫を排除するという一点のみで結託し、未だ力のない姫を放逐することに決めたのだ。

 

「そんな、他のっ! 他の者たちは! 姫様の世話係の者もっ!」

「みーんなもう、おいだされちゃったよ」

「っ!」

 

 ただ追い出されただけなら未だしも。……いや、既にもうこの世には。

 姫様の味方は己を除いて、この里には誰もいない。ならばいっそ、この私が姫様の敵を一人残さず……。

 

「だめだよ」

「しかしっ!」

「だめ!」

 

 此方を見る強い視線にソニックは動けなかった。

 分かっている。己一人の力などたかが知れている。未だに修練を積む身で現役の忍に勝てる道理はなく、更には金にあかして相当な手練れも多数雇っているだろう。

 実行しても犬死に、最悪姫様の立場を悪くし放逐以上の悪い結果になりかねない。

 

「……姫、様」

 

 涙を流したのは何年ぶりだっただろうか。……いや、初めての経験かもしれない。

 姫様がいなくなる。己が生涯守ると誓ったお方が、己の手の届かない場所へと行ってしまう。その事実が堪らなく苦しく胸を抉るのだ。

 

「もーしょーがないなー」

 

 頭に触れる感触。仄かな温もりがゆっくりとソニックの頭を撫でた。

 

「ゆびきりしようよ」

「ゆびきり、ですか?」

「そ、いつかぜったいむかえにくるってやくそくするの」

「私と姫様が、ですか?」

「うん、おにいちゃんなきむしだからおまじないもかねてゆびきりしよ!」

 

 変わらず日だまりはそこにあった。

 塞ぎ込みそうだった己に比べて幼き彼女のなんと強いことか、自分の不甲斐なさを心底から情けなく思うと同時に、自分の主の強い心に深い感銘を受けた。

 そうだ、その通りだ。姫様の言う通りだ。この里から姫様が放逐されようが知ったことか。いずれ時が来たら己の力で里を出ていき、改めて姫様の元へと馳せ参じれば良いだけの話ではないか!

 

「むりしちゃだめだよ、ちゃんとつよくなってよね」

 

 その為には力がいる。この里の者では手も出せない何者をも超越した力がっ!

 同期の光すらも凌駕する圧倒的な力がっ!

 

「姫様、ソニックめは今一度あなた様に誓います。いずれ必ず力を付け、姫様の元へと馳せ参じることを……」

「うん、わかったよ! やくそくだからね!」

 

 ゆーびきーりげんまーんうそついたらハリセンボンのーます。

 

「まってるからね、ぜったいむかえにきてね?」

 

──おにいちゃん。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「……そうか、そうだったか」

 

 何故、今の今まで忘れていた。何故、これほど大事な記憶を忘れてしまっていたのだ。

 あの日の誓いがあったからこそ、俺は、私は里の辛い修行に耐えることが出来たんじゃないか、あの日の姫様の笑顔に救われたからこそ、この世には力以外にも尊いものが存在していることを知れたんじゃないか。

 

「数々の無礼を此処に詫びる」

 

 姫様とその護衛のサイボーグに向けて謝意を示す。

 忘れていたとはいえ、本来己が仕えるべき主に刃を向けたのだ。

 既に狂気は晴れた。……なればこそ私はっ、私は。

 

「……姫様」

「んぇ?」

「かつての遠き日の誓いを忘れていた愚かな身の上ではございますが、今再び貴女の側に侍ることを御許し頂けないでしょうか?」

「あ、うん」

「ありがとうございます。……このソニック貴女の影として生涯をとして未来永劫御守り申し上げます」

 

 チャッチャラーン! 頭痛が痛いみたいなのが仲間になった!

 

「うん? 待て、待ってくれ。姫様? 遠い日の誓い?……お前は何を言っているんだ?」

 

 ジェノス困惑。

 襲い掛かってきた忍者が急に頭を抱えだしたと思ったら、性格が思いっきり変わった上に何故か自分の師に仕え出したのだ。……まるで意味が分からんぞ!

 

「ソニックソニック……うーん、じゃあソーちゃんってよぶね!」

「いきなり愛称を承り、このソーちゃん感激でございます」

「えへへー! くるしゅうないよ!」

 

 くるしゅうせいこの幼女。

 取り敢えず何か新しい仲間が増えたくらいのテンションでソニックを受け入れたサイタマちゃんである。

 何か妄想凄いし、初対面だし、姫様姫様言われてるけど……面白そうだし、忍者だから問題なし!

 この幼女本当に適当である。

 

「ジェノちゃんはわたしのでしだからね! なかよくしてね!」

「なんと、姫様のお弟子様でありましたか、先程のご無礼は何卒……」

「……あぁ、ダイジョウブダ、ナンモモンダイナイ、キョウカラヨロシクナ、ソニック」

 

 ノーレッジさん、先生だから仕方ないって言葉教えてくれてありがとうございます。

 取り敢えずジェノスは難しく考えるのを止めた。……何か襲ってきた忍者が仲間になっただけだ。何も難しいことはないし、気にすることでもないよな、うん。

 

「じゃあそろそろかえろっか!」

「姫様方のお住まいは……」

「聞いて驚けソニック。噂に名高いZ市が俺たちの住まいだ」

「何と、あの魔境と噂の……」

「むふふっ! ほかにもノーちゃんや、ティーちゃん、あしゅらもいるんだよ!」

「ちなみに俺よりも遥かに強い」

「それはそれは、何とも頼もしい限りでございます」

 

 幼女にサイボーグに忍者。異色な三人が和気藹々と肩を合わせて帰路に着く。

 何処からどう見てもわけの分からない組み合わせでしかない彼らではあるが、何故か暖かな気持ちになるほどほんわかとした雰囲気を纏っていた。

 

 ちなみにソニックが思い出した過去はガチで一ミリも存在しない。

 ジェノスの強さに押し潰されて自分の強さに対する信頼がポッキリ折れた際に、サイタマちゃんが無意識に垂れ流しているプリティでキュアキュアなレジェンダリーパワーに当てられた結果、ありもしない過去を妄想し、それを現実だと思い込んだのである。元々の過去は根本から全て消し飛んだ。

 そのせいで、今後どんな影響が出るのかはソニック自身にも、ましてやほぼ元凶のサイタマちゃんにもすらも分からない。いや、分かるわけがねーだろいい加減にしろ。

 





初めてソニック見て対⚪忍だと思ったのはきっと私だけではないと思う。
取り敢えず、タグ増やさねば(使命感)。
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