深夜 龍門市街
「ウチら、なんやぐるっと囲まれてるやん。内側に三周、外側に三周みたいな?」
「あ、ロールケーキかな?」
「鼠王はスラムの意思決定者だ。彼の爪牙が届かない場所はない。」
「······どうしてそれを早く言ってくれないんですか?」
「ただの都市伝説だと思っていた。それにまさか本当にネズミだったなんて。まったく誰がこんなあだ名を付けたのか。」
「こんだけぎょうさん人がおったら、手ぇ出すの無理とかいうて、どこに罪もない民衆ちゅうやつがおんねん! 全部敵やないか!」
「うーん。全然身動きが取れないよ。」
「どうしましょうか?」
「キミはいつも人に聞いてばかりだな。自分で考えてみたらどうだ?」
「······。」
「来るぞ。」
モスティマがアーツを放つ。
「モスティマ!」
「待て、エクシア。私たちはまだ囲まれているんだ。陣形を乱すな。」
「ちぇーっ! ちょっと待ってて! すぐ行くから!」
「コイツら、一般市民の中に紛れるんがうますぎて、こんなんで戦うんは無理やで。」
クロワッサンのハンマーで敵を吹き飛ばす。
「もうなにがなんだか······。」
「バイソンはん、ボケッとしとらんと、ちょいとそこ邪魔やで! 退いてくれんか?」
「誰もが自分のことばかり。こんなんじゃどうすれば······。······もういいや。いつもこんなことになるなら、それで行こう。ねぇ聞こえてる?」
「通信? 誰に向かって?」
「気を付けろ。」
テキサスがソラを攻撃しようとした敵に斬り掛かる。
「集中しろ、ソラ。」
「わ、わかりました!」
「いるんでしょ? ずっと。分かってるよ。」
「バイソン様······私は······。」
「知ってるよ。責めたりなんかしない。どうせ父さんからの指示なんでしょ。だけど今は、ぼくの指示を聞いてもらうよ。」
「······承知いたしました。どうぞ何なりとお申し付けを。」
「こんな状況だから、言うまでもないよ。奴ら全員ぶっ飛ばせばいいんだ!」
「まさかバイソン様の口からこのような命令をお聞かせ頂けるとは。旦那様の代わりにお聞きしましょう。『理由は?』と。」
「······理由なんかどうでもいいよ! クロワッサンさん、ちょっとどいて!」
「なんや? おっとっと······。」
「はあ······っ!」
バイソンが盾で敵を突き飛ばした。
「おっ、敵をどつき飛ばしたんか!? ええで、ウチの立ち位置奪ってみい!」
「このチビめ! 大人しくしてやらればいいものの! 野郎共、かかれ!」
「━━━!」
「かわされた!?」
狙撃でマフィアの武器が弾き飛ばされる。
「うわっ、いてぇ! 俺の棒が何かに弾き飛ばされた!」
「気を付けろ、スナイパーがいる!」
「そこを退いてもらうよ!」
バイソンが盾で敵を突き飛ばす。
「(とりあえずバイソンを援護しよう。)」
ティハールからゴム弾が発射され敵に命中する。
「ぐえぇ!」
「ぐあぁ!」
「ぐはぁ!」
「やりやがったな!」
ティハールからゴム弾が発射される。
「この※龍門スラング※野rうぼぁ!」
モスティマが鼠王にアーツを撃ち込む。
モスティマは鼠王と戦っている。そして、バイソンはそこへ近付こうとしていた。
「モスティマさん! 今助けに━━━」
「それ以上近付くのは許さない。お前たち、ボスを助けに行け。」
「「はっ!」」
「させるか!」
「スナイパーだと? この坊主のボディーガードか?」
「どけ!」
「お前はただのトランスポーターだろうが。余計なことに首を突っ込むな。」
「トランスポーター? そう、ぼくはただのトランスポーターさ。だけどね、ぼくたちの周りにいるあの一番騒がしい人たちも、みんなトランスポーターみたいだよ。」
「テキサスたちとお前は違う。今この戦場から引けば、まだお前は無事で済むぞ。」
「······それはあなたが決めること?」
バイソンが盾で敵を突き飛ばす。
「うっ━━━! お前、少しはやるようだな!」
「思いきってやればいいよ!」
「━━━はい!」
バイソンの戦いが始まった。
深夜 龍門市街
「このクソガキ、どうしてこんなにしぶといなんだ······うっ······。」
「ハァッ、ハァッ。忍耐力なら、ぼくは、誰にも、負けない。」
「うん、良くやってるね。よくもまあ、あんなにたくさんの敵をこんなに早く倒せたね。」
「ったく、もう一人で消えるなんて許さないから! それにこいつが今回の黒幕でしょ? 一発殴ってやらなきゃね!」
「今日の運動量はホンマ想定外やったわ。うぅ······請求書の長さもやけど。テキサスはん、今夜は精算できひんもんがめっちゃ多い気がすんやけど······。」
「私に聞くな、ボスに聞け。」
「でもボスは死んじゃいました······。」
「······じゃ後に回そう。」
「そういえば、ボスの死体を回収しなくていいんですか? あんな風に地面に横たわって踏まれたりして、ちょっと可哀想······。」
「皆、揃っておるようじゃの。······若者とは、いつも自分が正しいと思う道を選ぶものじゃ。たとえ逆境で大変な思いをしても、いつも頑ななのじゃからな。」
「あの人何言ってんの?」
「ご老人のお小言さ。忘れていいよ。」
「ではそういうことにしておこう。安魂祭は楽しめているかのう?」
「まぁまぁやな。二日酔みたいに、次の日のことを考えたらアカン。」
「だからあの、ボスの様子を見に行く人はいないの?」
「······ペンギン急便、本当に捉えどころがない連中じゃの。」
「今さら気にしても仕方ないでしょう?」
「ペンギン急便はペンギン急便。今回の喧嘩が始まった理由も、ただボスのセンスに文句をつけた人がいたから。それだけのことさ。」
「え? そうなんですか?」
「自分の美学を守るためなら命も惜しまない、それがエンペラーって存在でしょうね。」
「少なくとも人を驚かせることに限っては、お主らはワシに失望させたことは一度もない。」
鼠王がアーツを使用する。
「うおわっ! どっかから砂が!」
「まだ余力があったの? あの人······。」
「······そう、だから真面目にやれ。今までの小競り合いとは全くの別物だ。一瞬たりとも気を抜くな。油断したら死ぬぞ。」
「せっかくの安魂祭じゃ。盛り上がらんとのう? さて見せてもらうとしようか。エンペラーがいったいどんな変わり者たちを飼っていたのかを。そして、今日来た余所者の実力がどのようなものなのかを。」
「━━━っ。」
砂に触れた瞬間テキサスの剣が折れた
「剣が砂に触れた途端に折れた······。厄介だな。」
「フム、そうじゃ。これのおかげで、直接ワシに剣を向けようとする者は少なくてな。」
「ならこれはどうだっ!」
エクシアが発砲する。
「あっ、やっぱり通じないか! クロワッサン、任せた!」
「ダメや、ウチのハンマーも、もう砂に絡み取られとる。びくとも動かせへん。」
「私もダメだ、砂で武器がジャムった。」
鼠王が更にアーツを使用する。
「無駄な足掻きじゃよ。この程度かの?」
「まだまだ、こんなもんじゃないよ。」
モスティマが砂にアーツを撃ち込む。
「······フム。」
「砂の盾は破ったよ。今だ、エクシア。」
「オッケー、弾幕射撃ターイム!」
「よし、私も弾幕射撃だ!」
エクシアと彼は鼠王に制圧射撃を行う。
「······複数の守護銃だと? 本当に面倒な天使だのう。」
「そうはさせない!」
鼠王のアーツをバイソンが防ぐ。
「ほう? まさかこれを防げたとは。」
「サンキュ、バイソンくん!」
「ウチもいるで! お年寄りに容赦しぃひんでも、責めんといてや。」
クロワッサンがハンマーで攻撃する。
「あぁ! やっぱ当たらんかったか!! テキサスはん!」
「そうはいかんぞ。」
「あたしに任せて、テキサスさん!」
ソラがアーツを使用する。
「ふむ、声を使ったアーツか、なかなか面白いお嬢さんじゃ。」
「よそ見をしている場合か?」
「━━━ほっ。」
テキサスの攻撃が鼠王のコートを切り裂く
「······。」
「あの角度で、まさか避けられるとはな······。」
「でも直立不動だったあの人を、一歩は動かせましたよ。ずっと動かないのは、ちょっとナメられた感じでしたからね。」
「······ふむ、ペンギン急便よ。このコートはなワシの娘が贈ってくれたプレゼントなのじゃよ。この長い間、こいつに触れられたのは、お主らが初めてじゃ。龍門にお主らのような若者がどれほどいるかのう。果たしてお主らはこの龍門で、どんな立ち位置を望むのかの?」
「ありのままでいればいいんじゃない。それとも、貴方は怒ってる?」
「いや。ただ、複雑な気持ちではあるがのう······。さて、夜の時間はもう残されておらんからの。そろそろ━━━。」
鼠王が狙撃される。
「━━━!?」
「(…撃たれた人間はそんな倒れ方はしない。どうやらこれは茶番劇だった様だな。なら爆弾も偽物だろう。)」
「う、撃たれた?」
「······あのスナイパーだ。さっきから、ずっといる。」
「······目標沈黙いたしました。」
彼は近付いて鼠王の生死を確認するふりをしてポケットに手紙を入れた。
「あぁ、死んでるな。」
彼は嘘を言った。
「お前、どうして━━━!」
「······バイソン様をお守りするためです。バイソン様と敵との距離が近すぎました。奴はアーツを発動させようとしており、この距離ではバイソン様は無事では済まなかったでしょう。バイソン様の安全を一番に考えるのが私の使命でございます。」
「······まさか、ぼくはただの撒き餌だったの? 父さんはこのことを知ってて、だからお前を僕に付けた━━━。」
「バイソン様······。」
「······。」
「バイソン様······。真実はバイソン様が考えていることと少し異なります。いつか分かる日がくるでしょう。私が保証いたします。旦那様はそのような考えをお持ちでないと。もちろん、ペンギン急便の皆様にもご説明が必要かと思います。とはいえ、今は鼠王の生死を確認する必要がありますゆえ、奴の遺体を引き取らせていただきます。」
「······構わない。ボスは不在だし、お前の説明を聞きたいという奴はいないだろう。」
「ご理解いただき、感謝いたします。それでは、バイソン様、また後ほど。どうか気をつけて。」
「······。」
執事の部下が鼠王を引き取って行った。
「━━━バイソン、今はまだこの件について深く追求する時ではない。鼠王はプレゼントと称して、置き土産を遺していったようだ。忘れるな。」
「爆弾かもしれないね。あのシラクーザ人は爆弾大好きでしょう。」
「それちょっとまずいんじゃない?」
「敵も完全に壊滅したわけではありません。むしろぼくたちを待ち構えているようです。これはどういうことでしょうか? 鼠王は連れていかれたのに、奴らはまったくそれに反応してないなんて······。」
「······そうだ、まったく反応がない。ふむ······つまりそういうことか······。二手に分かれよう。ソラ、クロワッサン、エクシア、スタルカー、我々は残った敵を制圧する。バイソンとモスティマは、置き土産を処理してくれ。もうすぐ日の出だ、時間は限られている。」
爆弾(偽物)を捜索するバイソンとモスティマの邪魔をさせない為の戦いが始まった。
深夜 龍門市街
花火の音が聞こえる。
「ねぇ、これ何の音?」
「なんやろなぁ。でも━━━うわっ! 空から人が降ってきよった!?」
「いたたた、これで今日何回目······あ! ご、ごめん!」
「まぁええわ、無事なようでなにより······。ところで何遊んでんの? 人間大砲でもしとったん? あたっ! なんやこれ?」
「······飴? 空からキャンディーが降ってきてる?」
「はぁ、甘ったるい匂いが一層強くなったな。」
「お前ら、もうそろそろいいだろう。」
「······わかった。」
「ん? んん? テキサス、もしかして何か知ってるの?」
「知らないよ。ただ大体のことは予想できる。」
「え!! もったいぶらないで早く言ってよ!」
「安魂祭はもうとっくに終わってたということだ。」
「奴らが本当に止まったみたい。どういうこと? なんか変······。」
「なんや突然静かになりよったな? コイツらみんなアメちゃん好きなんか?」
「······キャンディーの飴が止んだ。」
「本当だ。あっという間だったね。もしこの空が本当にキャンディーを降らせることができたらいいのにな。」
「キャンディーが降ってきたのはいいとしても······。」
「ちょっと待って、結局あの爆弾は?」
「これのこと?」
「え? まるごと外したんですか?」
「ちょっと退いて。」
「モスティマさん!?」
「あれ、微妙にコントロールが上手くいってなかったみたいだ。焼け焦げてないといいんだけどね。」
「ただの鉄箱ってことですか? ······中にはキャンディーがひと握り······だったのか。······うぅ、全部溶けきっちゃってる······。この便箋は? メッセージ? 鼠王が遺した······?」
「なんて書いてあるの?」
「『良い安魂祭を』······。······。······。······はぁぁぁ?」
「(確実に今日の出来事は全て茶番だったって事だな。) ここでお別れだな。では、機会があればまた会おう。」
彼はそう言ってペンギン急便の皆と別れた。