【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#1 レッドキャップ

窓から見える外は暗闇。

雲によって月すら遮られた深夜の街。

 

ここはニューヨーク、マンハッタン区。

通称、ヘルズキッチン。

 

そのメインストリートの外れ、寂れたビルの中。

年季の入った古い見た目に、不相応に飾り立てられたアンバランスな内装。

 

絨毯も壁紙も一流のブランド品だが、噛み合わせの悪い……所謂、「価値は分からないが、大金で飾り立てたような部屋」と言う印象があった。

 

 

そんなビルの中で柄の悪い男達は札束を数えていた。

口々に品のない会話をしている。

 

今日の取引は最高だった、とか。

売る前に味見しておけば良かった、とか。

 

彼等は麻薬の密売、そして若い女を拉致って売るような商売で儲けて来た、ヘルズキッチンでは「ありきたり」なギャングだ。

 

下卑た笑いを浮かべながら、男はライターを取り出した。

煙草に火を付けようと着火して……直後、ビルの電灯、全てが消えた。

 

 

「あ……?」

 

 

ライターを持ったまま、男は席を立ち上がり、辺りを見渡す。

 

ブレーカーが落ちたのか、それとも鼠か何かが電線を齧ったのか。

 

別の男が悪態を吐きながら、携帯電話のライトを付けようとして…………。

 

 

刹那、発砲音が響いた。

 

かろうじて視界に映ったのは発火炎(マズルフラッシュ)だった。

火薬が焼ける臭いがして、男の倒れる音、そして手元から携帯電話が落ちる音がした。

 

ライトが壁を照らしている。

その光の先には、真っ赤に散った男の血液があった。

 

 

「て、敵襲だ!」

 

 

男は声を荒らげて、腰に装備していた護身用の拳銃を取り出す。

 

ギャングと言うのは敵の多い仕事だ。

警察や、被害者の遺族、それどころか同業の組織からも狙われる。

 

だが、これは恐らく最後の「同業の組織」の仕業だ。

 

この暗がりも、恐らく細工されたもの。

そして、1m先すら見えない暗闇の中で正確に発砲出来る練度。

 

素人の仕業ではない。

 

 

「ど、どこに」

 

 

突如、悲鳴が聞こえた。

 

 

「ぎゃっ」

 

 

短い悲鳴と共に、肉を引き裂く音がした。

ごとり、と鈍く何かが転がる。

 

……その『何か』は男の足元に転がってきた。

 

首だ。

 

仲間の、切断された生首だ。

生気のない濁った瞳が、男を見つめていた。

 

 

「うわあっ!」

 

 

正気を失った仲間の一人が、拳銃を構える。

 

 

「よせっ」

 

 

何も見えない暗闇の中、発砲する事は味方への誤射が懸念される。

それでも、そんな事が分からないほど動転した仲間が発砲した。

 

 

金属を……弾丸を弾く音と共に火花が散った。

襲撃者に命中したのだ。

 

一瞬、散った火花がその襲撃者の姿を露わにした。

 

 

血のように赤いマスク。

黒く鈍く光るプロテクターを纏うスーツ。

その黒いスーツにはべったりと血が付いている。

被弾して流れた血ではないだろう。

恐らく、仲間を殺した時の返り血だ。

 

異常だ。

非現実的な恐怖が、そこに立っていた。

 

 

「な、何なんだ!?」

 

 

恐怖に怯える仲間が、声を荒らげる。

 

直後、また発砲音が聞こえた。

だがそれは、仲間の持つ拳銃からではない。

 

咄嗟に横に立つ仲間を見ようとして…………眉間に穴の空いた顔があった。

 

 

「ひっ」

 

 

男は恐怖のあまり、蹲る。

両手で耳を塞ぐが、怒声と発砲音、何かが倒れる音が聞こえてくる。

 

怖い。

 

男は目を瞑った。

 

息を殺した。

 

怯える男を他所に、物音が止んだ。

 

 

……男は恐る恐る、目を開けた。

 

そして。

 

目前に、覗き込むように座っている赤いマスクの姿があった。

 

 

「うっ」

 

 

悲鳴を上げるより早く、赤いマスクの腕が男の背中を持ち上げた。

そのまま、足を払われて無様に地べたに転がる。

 

仲間の死体と、目が合った。

 

地面に転がっていた携帯電話のライトが、襲撃者の姿を照らしていた。

マネキンのように目もなく、鼻もない、赤いマスクが無機質に男を見下している。

 

 

「く、来るな!」

 

 

男が拳銃を赤いマスクへと向けた。

……だが、襲撃者は恐れる様子もなく、男へ向かってゆっくりと歩き始める。

 

襲撃者が自身の赤いマスクを、こつこつと指で叩く。

 

 

『よく狙え』

 

 

男のような女のような、ノイズの入った機械音声が赤いマスクから聞こえてくる。

 

堪らず、発砲し…………襲撃者は、その弾丸を『避けた』。

 

 

「……あ?」

 

 

普通の人間には回避できる筈がない。

発砲から弾丸の着弾まで、1秒にも満たない。

 

常人の反射神経、身体能力では不可能だ。

 

これは悪い夢だ。

呆ける男が正気に戻ったのは、顔面に衝撃が走ってからだ。

 

プロテクターを装備した襲撃者の拳が、男の顔にめり込んだ。

 

 

「ぶ、はっ」

 

 

鼻が折れ、血が出る。

思わず尻餅をついて、男は襲撃者の姿を見上げた。

 

決して、図体のデカイ男ではなかった。

 

どちらかと言うと、小さいと言ってもいい。

170cm前後……そんな小柄からは信じられないほど重い一撃だった。

 

 

「な、おばっ、おまえっ」

 

 

襲撃者が手に持った武器を男に向けた。

それは拳銃のようだが……市販では出回っていない、特殊な作りの武器に見えた。

 

 

『お前がこの組織の頭だな』

 

「ち、違う!俺は何も知らない!」

 

 

たしかに男はリーダー格だった。

だが、この尋常ならざる場面で、恐怖のあまり逃げるような発言をしていた。

 

 

『なら仕方ないな』

 

 

そう言った赤いマスクは拳銃のような武器の銃口を、男の頭から離した。

男は一瞬安堵し……直後、腹部に激痛が走った。

 

見れば、襲撃者が手に持っていた真っ黒なナイフが男の腹に刺さっていた。

 

 

「ぎ、ぎゃっ」

 

 

襲撃者がナイフの柄を握り、捻る。

 

ナイフは切断する目的で使用されていない。

痛みを与える為に使われていた。

 

ぶち、ぶち、と繊維が断ち切れる音がする。

男が血の泡を吹いて、身を捩り逃げようとする。

 

 

『管理簿はどこだ?』

 

「あ、ぎゃ」

 

『言え』

 

 

襲撃者が男の耳元で囁く。

頬に触れた赤いマスクは、酷く冷たい。

 

 

「あ、そこの、引き出しの中……ぎっ」

 

『そうか』

 

 

赤いマスクの襲撃者が、ナイフを男から引き抜く。

血が流れて、男は必死に腹を押さえる。

これ以上、中身が溢れてしまわないように、必死に。

 

そして、息を荒らげる男の頭に銃口が突き付けられた。

 

 

「あ、え、なんで」

 

『殺さないとは一言も言ってないが』

 

 

発砲音が響いた。

 

男はもう、物言わぬ骸となっていた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

あー、クレープ食べたい。

チョコがたっぷりかかったバナナクレープが。

 

私は椅子に腰掛け、辺りを見渡し、現実逃避をする。

 

目の前には苦悶の表情を浮かべてる死体。

首がへし折れてる死体。

頭と身体の別れた死体。

眉間にデッカい穴の空いた死体。

まぁ、色々あって数人分の死体が転がっている。

 

下の階に行けば、まだ何人か増えるけど。

 

 

私の名前は『レッドキャップ』だ。

……本名はない。

 

名前が必要になったら逐次、偽名を用意されている。

だから、明確に自分を指している固有名詞は『レッドキャップ』しかない。

 

机の鍵にナイフを突っ込み、無理矢理捻る。

すると中から数枚の書類が現れる。

 

資料を読み取れば、今回の標的と一致している事が分かる。

死体から拝借したライターのボタンを着火する。

パチンと良い音がして火花が散った。

そのまま書類に火花がぶつかり、小さな炎が燃え移った。

 

私はそのまま、書類とライターをゴミ箱に投げ捨てる。

 

そして、席を立ち首をゴキゴキと鳴らした。

周りにある死体を見て、欠伸を一つ。

集中する必要もなく、気も抜ける。

 

夜ももう遅い。

少し眠い。

 

目の前のギャング達は、私の雇い主である『ウィルソン・フィスク』の手下だ。

言うなれば同僚……まぁ、顔も知らない奴等だが。

 

 

彼等はあまりに杜撰で迂闊だった。

 

彼等の知らない事だろうが、既に警察にもマークされており、逮捕されるのも時間の問題といった所まで来ていた。

まぁ、証拠隠滅とかも碌にやらない知性のカケラもない奴らだから仕方ない。

 

彼等が逮捕される事に何も問題はない。

だが、問題があるとすれば彼等の口が軽いという事だ。

 

フィスクもよく言っている。

『信頼こそが最も大切であり、信頼のない部下は敵よりも厄介である』と。

フィスクは彼等が警察に情報を提供し、不利益を被る事を危惧していた。

 

私が命じられたのは、早めの口封じと言う訳だ。

フィスクとの取引に使用していた書類は念入りに燃やしておいた。

彼等の死体も焼滅する。

 

反社会勢力のゴミどもが消えた所で困る人間はいない。

 

あぁ、強いて言うなら、彼等をマークして追いかけていた警官達は困るかな。

 

私はナイフを空に振る。

ビッ、と水分の切れる音がして、ナイフに付着していた血が壁に散った。

 

そのままナイフを太腿に付いてるプロテクターの内部へ収納する。

 

ナイフだけではなく、胸のプロテクターにも血がべっとりと付いている……帰宅前に洗わないと。

 

 

ふと、破壊した机の上を見ると、新聞があった。

 

そして、新聞の見開きに見知った顔があった。

私と同様に赤いマスクを被った男の姿だ。

 

そのまま、見出しへと目を滑らせる。

 

 

“スパイダーマン、大活躍!!爆弾魔を逮捕!”

 

 

『スパイダーマンか……』

 

 

私は新聞を手に取り、捲る。

 

緑色のプロテクターを着込んだ男……『ノーマン・オズボーン』。

爆弾魔『グリーンゴブリン』の逮捕。

 

 

『なるほど、この世界では逮捕出来たんだな』

 

 

私は新聞を燃えているゴミ箱に投げ捨てた。

燃料を焼べられたゴミ箱はさらに炎の勢いを強める。

 

この建物は木造と煉瓦での建築物だ。

火の広がりも速い。

 

すぐに燃え広がって、目の前の死体達も焼死体になるだろう。

 

 

私は窓を開き、飛び降りる。

 

ここは5階。

高さは15m程ある。

足で壁を蹴り、ダクトを掴み、勢いを殺して隣の建物に飛び移った。

 

振り返れば窓越しに、火の光が見える。

 

私は満足気に頷き、その場を後にした。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

ここはニューヨーク、ヘルズキッチン。

とあるアパートの一室。

 

私は机の上に置かれた白い物体……ババロアをスプーンで削り、口に入れる。

ババロアは卵、牛乳、砂糖を固めたゼリーのような、ムースのような菓子であり……私の好物だ。

 

頂点に乗っていたベリーソースが、ドロリと垂れる。

 

砂糖は良い。

血の臭いや、耳障りな悲鳴、肉を引き裂く感触……それらを忘れさせてくれる。

 

 

「……はぁ」

 

 

幸福から口を開けば、鈴のような綺麗な声が漏れた。

 

壁に立てかけてある姿鏡を見れば、可愛らしい少女が椅子に座っている。

 

髪はプラチナブロンドと呼ばれる色をしている。

金髪と白髪の中間のような髪色だ。

少しウェーブがかった髪質で、首の下まで伸びている。

 

目は青く透き通っており、宝石のように煌めいている。

 

年齢は……ティーンエイジャー、15歳前後に見える。

まだ幼さが残るが、将来性を感じさせる可愛らしい少女だ。

 

 

ただ、その顔に表情は存在しなかった。

無機質なマネキンのような冷たく鋭い視線が、鏡の中から私自身を見つめていた。

 

これがレッドキャップの中身。

そして、今生の私の姿である。

 

そう。

私には所謂、前世の記憶があった。

 

前世では平凡なサラリーマンだった。

そう、マン。男だ。

アメコミ映画が好きで、特にスパイダーマンが好きだった。

家にDVDもBlu-rayもあったし。

コミックも……まぁ、そこそこ持ってたし。

ポスターで壁は埋まっていたし。

フィギュアも飾っていたし。

本当に大好きだった。

 

そんな私はスパイダーマンの最新作映画を上映日に観るため、映画館へ向かい…………巨大なトラックに轢かれてグチャグチャのミンチになった。

 

 

そして、次に目が覚めたら私は超絶美少女になっていた。

……自惚や自慢ではなく、客観的な事実として、私は美少女になったのだ。

 

……せめて映画を観てから死にたかった。

公開前のトレーラーで最大に高まっていて、数ヶ月前から楽しみにしてたんだぞ!

と誰にも怒る訳でもなく、ただただ憤っていた。

 

 

この世界の私は戦争孤児であり、社会の裏で暗躍する闇の組織に拾われた『らしい』。

 

『らしい』と言うのは、それ以前の記憶がないからだ。

私は前世の記憶が蘇る前の記憶、その全てを失っていた。

 

 

そして、私を拾った組織の名前は『アンシリーコート』と言う。

 

『アンシリーコート』。

第二次世界大戦の裏で暗躍していた暗殺組織だ。

元々はイギリスに所属する特務部隊だったが……部隊長が邪悪な人間であり、国から離反し、自身の目的のために暗躍していたらしい。

 

目的は国家転覆、世界征服。

 

まぁ、ありきたりな悪の組織、と言う訳だ。

 

だが、組織の長が第二次世界大戦中、米国の英雄『キャプテンアメリカ』によって打倒され組織は崩壊した。

当時の科学力、資産、人員はもうない。

だが、現代でも水面下に潜み、組織の力を強めるべく暗躍し続けている。

 

組織の人間から聞いた歴史の話だ。

 

……この世界は私が以前、生きていた世界とは異なる。

この世界には悪の組織があり、スーパーヒーローが存在する。

 

『MARVEL』コミック、それに連なる世界なのだ。

 

だが、この世界は私の知っている『MARVEL』の世界とは限らない。

 

並行宇宙(マルチバース)』と呼ばれる概念がある。

似たような宇宙が幾つも存在し、それはほんの小さな違いから無限に分岐し、大きく姿を変えた異なる宇宙を生み出す。

 

世界によってはスパイダーマンは女性かも知れないし、老人かも知れないし、ゾンビかも知れないし、ロボットかも知れない。

そもそも、スパイダーマンが存在しない世界もある。

 

幸い、この世界にはスパイダーマンが存在しているようだ。

……新聞で見る限りは私のよく知っている姿だった。

少なくとも女や、豚、ゾンビではないだろう。

 

 

私には所謂、原作知識というものは多少あるが……正直言って役に立つとは思っていない。

 

映画に出てくる世界かも知れないし、コミックのストーリーのような世界かも知れない。

アニメ、ゲームの世界かも知れないし、全く異なる独自の世界だという可能性もある。

 

 

とにかく、『MARVEL』の内包する世界で私は悪の組織に拾われた。

それだけが確証を持って言える事実だ。

 

 

組織に加入した私を最初に待っていたのは、『安全装置』の取り付けだった。

手術によって心臓付近……左胸の奥に超小型の爆弾が埋め込まれた。

組織に反抗すれば爆破され、心臓が吹き飛んで死ぬ。

これが、組織にとっての『安全装置』だ。

 

私を含む若い子供たちは皆、訓練施設へと送られる。

 

そこでは効率的な人体の破壊方法、隠密行動を為す上で重要な体捌き、人の意識に入り込む人心掌握術…………一流の暗殺者になる為の教育が行われた。

 

そして私は、その訓練施設でもトップクラスの成績を叩き出すことに成功した。

 

この肉体は人よりも優れていた。

才能に溢れていた。

 

訓練施設で素晴らしい成績を残した私は、組織によって極秘計画へと参加する事となった。

 

それが『レッドキャップ・プログラム』だ。

私以外にも数名、優れた訓練兵が参加していた。

 

 

 

 

結果から言うと、私以外のプログラム参加メンバーは死亡した。

 

原因は『超人血清』。

キャプテンアメリカを超人たらしめた血清だ。

肉体と、高潔な精神を強化する夢のような血清だ。

 

だが、私達の使用した血清とは異なる。

 

『パワーブローカー』と呼ばれる人体強化、改造を生業とする科学組織によって提供された、『似非超人血清』だ。

 

『超人血清』を見よう見真似で、再現しようとして作られた完全な偽物。

だから『似非超人血清』だ。

 

『似非』と言うが、効果は凄まじい。

この血清は本家の超人血清と同様に人間の力を引き出すが、本家のような精神への影響も起こらない、単純な肉体強化を行う血清だ。

 

だが、大きな欠陥が存在していた。

 

適合率が非常に低く、適合しなかった者は皆、死ぬ事だ。

 

不適合者は心肺能力が極度に上昇し、身体中の血管に許容量を超える血が送り込まれ、全身の血管が破裂して死亡する。

 

一度死体を見た事がある。

目や鼻、耳などの身体中から血を垂れ流して、苦痛に歪んだ形相で死んでいた。

……痛ましい姿だった。

 

結局、私以外の数十人のプログラム参加メンバーは適合出来ず死亡した。

 

成功品はただ一つ、私だけだ。

 

これが『レッドキャップ』の起源(オリジン)だ。

 

 

超人血清によって私は、金属の塊を握り潰して粉砕するほどの握力、鉄パイプを捻じ曲げる程の腕力、飛んでくる弾丸を回避する程の動体視力と俊敏性を得た。

そして更には、治癒因子(ヒーリングファクター)……多少の傷は数時間で治癒する程の自己治癒能力を得た。

骨折程度ならば1日もあれば治る。

 

私は人間ではなくなった。

人を超えた「超人」となったのだ。

 

 

…………だが、この世界において私の力というのは微妙なレベルでしかない。

いや、確かに超人なのだが……世の中には戦車すら投げ飛ばす緑色のヤツとか、ハンマー持って空飛ぶ神様とか、身体が粉々に吹き飛んでも再生する黄色い爪のヤツとか、色々いるから。

 

一流の超人未満、一般人以上、並の超人と言った所だろう。

多分、スパイダーマンと殴り合ったら負ける。

 

スパイダーマンをあまり知らない人からすれば、大してパワーの強くないテクニカルなヒーローだと思われてそうだが……実際は自力で電車を受け止める程のパワーを持っており、崩れたビルの瓦礫を押し退ける事もできる超パワーのヒーローだ。

作品によってはハルクと殴り合って勝てる程のパワーがある肉体派ヒーローなのだ。

 

まぁ、この世界のスパイダーマンがどの程度のパワーかは分からないが、姿からして大きく相違のあると言った……

 

 

……しまった。

スパイダーマンの話になると、つい話が長くなる。

オタクの悲しい性だ。

 

 

閑話休題。

 

 

超人血清で強化された私だが、一流のスーパーヒーローとは天と地ほどの力の差がある。

私に出来るのは精々、軽自動車を頑張って持ち上げるぐらいのパワーだ。

電車とかトラックは無理だ。

 

 

私と言う完成品が誕生した事で『レッドキャップ・プログラム』は凍結された。

曰く、割に合わないそうだ。

一人の超人を作るのに数十人単位で構成員を死なせているのだから、それはそうだろう。

 

超人の肉体と一流の暗殺技術を持つ私は、組織からの任務を熟していった。

 

敵対する武装組織の壊滅、裏切り者の殺害など、そんなものばかりだ。

 

一般人の殺害は組織の一般的なエージェントでも可能であり、私に流れてくる任務はそれよりも難しいものしか来ない。

 

なので、一般人の殺傷経験は殆ど無い。

 

……勿論、悪人ではない警官や、敵対する『S.H.I.E.L.D.』のエージェントも殺しているが。

 

何も、気休めにはならない。

ただ、仕方のない事なのだと思い込むようにしている。

 

そうしないと、心が壊れてしまう。

私は悪役(ヴィラン)で人間を遥かに超えた力は持っているが、精神面は一般人と変わりない。

 

割り切れるような悪人でもなく、巨悪に立ち向かえるような善人でもない。

 

中途半端な人間なのだ、私は。

 

 

任務に挑む際、私は特殊なコスチュームを着ている。

 

様々な機能を搭載した赤いフルフェイスのマスク。

特殊合金性の全身真っ黒なプロテクター。

 

頭だけ赤く、身体は黒い。

 

赤い帽子(レッドキャップ)』……イギリスの伝承に登場する邪悪な妖精だ。

見境なく人を殺し、その血で帽子を染め上げる醜悪な妖精。

 

恐怖の象徴として、私はその名前を授けられた。

 

『アンシリーコート』からすれば、強力な暗殺者がいる事を知らしめる為のコスチュームなのかも知れない。

 

とにかく、組織外の人間にも『レッドキャップ』の名は知られるようになり、恐れられる事となった。

 

ちなみに、『レッドキャップ』の中身……つまり、私の容姿を知っているのは殆ど居ない。

同僚も取引先の相手も『レッドキャップ』の中身を知らない。

 

 

訓練所時代の奴等も、私がこんな事をしているなんて知らないだろう。

 

……いや、そもそも彼等が今も生きている保証なんて、どこにもないが。

そう考えると、血清に適合して生き延びている私は運が良いのだろう。

 

 

さて。

 

現在の『アンシリーコート』は秘密組織としての復活を目指して活動しているが……実際にやっている事は傭兵業に近い。

 

特殊な訓練を積んだエージェントを他組織に貸し出し、対価として金を得る。

 

その資金を組織の活動資金とする。

 

金さえ貰えれば、どんな人間をも殺す暗殺者集団。

それが、今の『アンシリーコート』の正体だ。

 

 

そして、十年近く前から、ニューヨークを牛耳る巨大なマフィアのボス……ウィルソン・フィスクと提携している。

 

ああ、提携と言うには少し、力関係が対等ではないか。

どちらかと言えば『服従』が近いだろう。

 

 

ウィルソン・フィスク。

通称、『キングピン』だ。

 

ニューヨーク、ヘルズキッチンを表と裏から同時に支配する巨悪。

表では大物政治家、裏では容赦のないギャング。

莫大な財力と、悪を束ねるカリスマ、狡猾な知恵、全てを兼ね備えるマフィアの王。

 

スパイダーマンや、他の色々なMARVEL作品に出てくる悪役(ヴィラン)だ。

全身筋肉の大男であり、一般人の癖にヒーローとも殴り合える。

 

幾人ものギャングを従えており、名あり悪役(ヴィラン)も従えている。

そして、彼は裏切り者に容赦は一切しない。

 

組織を裏切れば手痛い罰を受ける。

その命によって償わされる。

 

……まぁ、私に選択肢はない訳で。

断ったり、逃げたりしたら爆弾が起動され、ボン!と即死だ。

なので、嫌々ながらも組織に忠誠を誓い、今日も今日とて貢献している訳である。

 

 

「はぁ」

 

 

ため息を吐きながら、ババロアを口に運ぶ。

 

『レッドキャップ』ね。

いや『レッドキャップ』って。

 

 

「どう考えたって、悪役(ヴィラン)の名前」

 

 

多分、私はいつかスーパーヒーローにボコボコにされて刑務所にぶち込まれる。

いや、務所にぶち込まれるだけなら良い。

過激なタイプのヒーローと相対すれば、殺されるだろう。

 

悪は滅び、正義が勝つ。

ヒーローモノの基本だ。

 

 

「……私は、ヒーローの追っかけがしたいだけなのに」

 

 

特にスパイダーマンの。

私は新聞を複数種類、定期購読をしている。

スパイダーマン記事は熟読して置いておくタイプのファンだ。

記事を切り取ってノートに貼る、お手製のスクラップブックも作っている。

 

前世の映画や漫画、アニメでも見た憧れのヒーローが現実にいるのだから、私としては嬉しい限りだ。

 

一度会ってみたい!

あわよくばサインも欲しい!

 

でも、

 

 

「多分、出会ったらボコボコに……される」

 

 

私は悪役(ヴィラン)だ。

 

しかも、スパイダーマンが一番毛嫌いするタイプの、人を殺す悪役(ヴィラン)だ。

 

 

「辛い」

 

 

現在、私は16歳。

普通だったら高校生だが……。

 

あるのは華やかな学生生活では無い。

血みどろの銃殺、刺殺、撲殺生活だ。

 

 

ババロアを食べ終え、流しに皿を置く。

蛇口を捻って、水を出そうとした瞬間、携帯が鳴り響いた。

 

私は手に取って、通話ボタンを押す。

 

 

『…………』

 

 

無言のままブツリと電話を切られた私は、部屋を出て階段を降りる。

一階のポストを開くが、中には何も入っていない。

私はポストの……上、天井に貼り付けられた封筒を手に取り、自室へ戻る。

 

封筒をペーパーナイフで開くと、中には意味不明な文字列が並んでいる。

 

これは、暗号で書かれた文書だ。

見慣れたものでスルリと読み解き、依頼を頭に叩き込む。

 

そして、キッチンの火で封筒を炙り、隠滅する。

 

 

依頼は、ターゲットの抹殺。

ターゲットは麻薬の売人。

フィスクの下部組織に所属する下っぱだ。

 

麻薬の売買とは関係ない所で殺しを行い、警察に調査されている。

殺人罪で逮捕されれば、芋蔓式に麻薬売買の情報が警察に漏れる可能性が高い。

 

だから、殺して口封じをする。

 

いつものパターンだ。

 

 

 

私は今着ている服を脱ぎ捨て、クローゼットを開ける。

白く滑らかな肌が鏡に反射する。

 

黒い防刃、防弾スーツを着込み、上からプロテクターを装着していく。

裏社会でも著名なガンスミスの作ったハイテク拳銃を腰に入れ、肉厚なナイフを太腿に装着する。

合金が足先と踵に入れられたブーツを履き、最後に赤いマスクを装着する。

 

このマスクは外からは真っ赤な『のっぺらぼう』に見えるが、中からは透けて見えるマジックミラーのような素材でできている。

 

 

『あ、あー』

 

 

変声機の調子を確認し、クローゼットを閉じた。

 

私は目を閉じて、意識を切り替える。

今の私は『アンシリーコート』の暗殺者であり、邪悪な妖精『レッドキャップ』だ。

 

……私は、日常の中にある『私』と『レッドキャップ』を切り分けている。

 

 

……元々、私は一般人として生きてきた。

組織に歪んだ思考を植え付けられても尚、小市民的な心は消えなかった。

 

死にたくない。

殺したくない。

 

でも、殺さなければ私は死ぬ。

 

結果、私の精神は真っ二つに裂けた。

ただの一般市民である『私』と、容赦なく敵を殺す『レッドキャップ』に。

 

 

まぁ、『お仕事用』に意識を変えるサラリーマンのような物だ。

 

よくある話だ。

スーツを着たら声が少し高くなって、ハキハキと喋るようになり、背筋がシャキッとするのと大差はない。

 

 

『さて、行くか』

 

 

私は窓を開き、真っ暗なヘルズキッチンへと飛び出した。

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