【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#5 アメイジング・フレンズ part2

「聞こえてなかったのか?君の、名前は?」

 

 

目の前に、燃え上がるような……いや、本当に燃え上がっている人間松明(ヒューマントーチ)がいる。

 

僕が少し、後退りすると……何かに気付いたように、トーチは指を鳴らした。

 

 

「そうか、熱かったか?それは悪い事をしたな」

 

 

炎が霧散し、金髪の容姿端麗な青年が姿を現した。

その髪をかき上げれば……少し、猛々しい印象を感じる。

 

その服装はよく知っているヒーローコスチューム。

青と黒の耐熱性のタイツに……胸に「4」の文字だ。

 

 

「先に自己紹介を……いや、俺の事を知らない訳はないだろうが……『ヒューマントーチ』、ジョニー・ストームだ」

 

 

知ってるとも、ジョニー・ストーム。

記憶を失う前は、よく僕を揶揄っていた奴だ。

憎いほどね。

 

まぁ、友人だったよ。

少なくとも僕にとっては……恐らく、君にとっても。

 

それでも今は他人だ。

 

ある日、見知らぬ男から「僕達は昔友人だったんだ!世界中の人間が忘れているだけで!」なんて言われて信じるか?

イカれてるのか?って思うよね。

僕もきっとそう思う。

 

だから、僕も昔の事を言うつもりはない。

信じてくれる人なんて誰も……あ、いや、一人だけ信じてくれたけど──

 

それは例外でしかない。

 

 

「どうした?お口にジッパーでも付いていて喋れないのか?いや、そんな事ないだろ?さっき喋ってた筈だ、ん?」

 

 

おっと、思考逃避をやめて、ジョニーと向き合わないと。

 

 

「僕の名前は『スパイダーマン』だよ」

 

「なるほど。蜘蛛(スパイダー)か。お世辞にもカッコいいとは言えないな……もう少し洒落た名前にするべきだな」

 

 

思わず、眉を顰めた。

いや、まぁコイツはこういう奴なんだけど。

 

 

「蜘蛛に噛まれて超能力(スーパーパワー)に目覚めたし……それ以外は考えられないよ」

 

「そうか。その理屈なら俺は宇宙(コズミック)マンになるが……まぁ、そこはどうでもいいか──

 

 

そして、ジョニーが獰猛に笑った。

 

 

「で?本名は?」

 

「言えない」

 

「何でだ?」

 

「言ったら困る人が出てくるからだよ」

 

「そうか?俺にはよくわからないな」

 

 

心底、納得していないという顔で、手を顎に当てた。

 

ファンタスティックフォーのメンバーは全員、名前と素顔を晒してヒーロー活動をしている。

だから、顔を隠してヒーロー活動をする覆面男(マスクマン)の気持ちは分からないらしい。

 

 

「まぁいい。少し、話したい事もあるし、ウチに来いよ」

 

「ウチ……?」

 

 

ウチってあの……デッカく「4」って書かれてるビルの事だろうか?

 

 

「あぁ、そうだ。パーティをしてるんだ」

 

「パーティ?」

 

「そう。可愛い女の子がいっぱい居るぜ?蜘蛛のヒーローなんて……いや、モテるか分からないけどな」

 

「あー……」

 

 

ジョニーはパーティ好きだ。

あと可愛い女の子が好きだ。

ハチャメチャに陽キャだ。

 

パーティが気になるかって言われたら、まぁ、ちょっとは気になる。

ジョニーともまた交友を深めて……新たに友人という立場になれれば嬉しいとは思う。

 

だけど──

 

 

「悪いね。人を待たせてるから、行けないかな」

 

 

ミシェルを待たせている。

それだけで断る理由としては十分だった。

 

デートをすっぽかして、女の子のいるパーティなんかに行ける訳がないし。

 

しかし、僕の回答が不服だったのかジョニーは僕の肩を掴んだ。

 

 

「まぁまぁ、そう言わずに」

 

「行かないよ」

 

「どうしても?」

 

「どうしてもだよ」

 

 

少し、しつこい。

 

だけど……その「しつこさ」に僕は不自然だと感じた。

ピリリと、首の裏が痺れる。

 

……敵意だ。

ジョニーが発している、僕への敵意を感じ取っていた。

 

思わず、僕は口を開いた。

 

 

「あのさ、僕……何か、君の気に障るような事をしたかな?」

 

「いいや?ただ──

 

 

ジョニーの視線が鋭くなった。

 

 

「俺は『お前』の事を知らない。名前も、素性もな」

 

「……初対面だからね」

 

「現在の状況から、俺達と同じヒーローだと判別しているが……お前は政府に非公認の自警団員(ヴィジランテ)だろ?」

 

 

それは図星だ。

今の僕に、後ろ盾は一つもない。

 

 

「……そう、だけど?」

 

「だとしたら、俺がお前をここで見逃して、誰かが被害を被るかもしれない……それは、良くない事だ。ダサいしな」

 

 

ジョニーが、指を立てた。

 

 

「だから、お前の人となりを知りたい。俺について来い」

 

 

彼の言い分は分かった。

だけど、それは随分と身勝手だとも思った。

 

 

「嫌だね」

 

「嫌か?」

 

「女の子を待たせてるんだ」

 

「冗談は良くないぜ」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

首の裏の刺激が、強まる。

超感覚(スパイダーセンス)が、張り詰めた空気の中から敵意を敏感に感じ取っていた。

 

トーチが眉間に皺を寄せて、額に血管を浮き上がらせた。

 

 

「火傷しても、文句言うなよ」

 

「そっちこそ、怪我しても知らないよ」

 

「言ったな?」

 

「それがどうかしたのかい?」

 

 

売り言葉に買い言葉。

 

僕が数歩、下がった瞬間──

 

 

燃え上がれ(フレイム・オン)!」

 

 

彼を中心に、炎が巻き上がった。

全身を炎で纏い、ジョニーが……いや、ヒューマントーチが飛翔する。

全身から炎を吐き出して、それを推進力にかえて飛行しているんだ。

 

炎の渦が彼を中心に巻き起こり、人型の炎へと姿を変えた。

 

 

「痛い目をみたくなかったら、さっさと降参する事をオススメするぜ!今ならライムソーダも付けてやる!」

 

「悪いけど、飲み物はさっき飲んだばかりなんだ!」

 

「そうか!それなら干からびさせてやる!」

 

 

トーチが宙を飛び、炎を纏った拳を突き出すと──

 

超感覚(スパイダーセンス)に反応が来た。

 

 

「っ……!」

 

 

瞬間、地面を蹴って(ウェブ)を屋根へ放ち飛び上がる。

直後、僕のいた場所に火球が直撃していた。

 

 

「危ないじゃないか!当たったら、死ぬよ!」

 

「死にはしないさ!手加減してるからな!」

 

 

炎が渦巻き、竜巻のように弾き出される。

 

宙に張り巡らせていた(ウェブ)が、熱で溶ける。

 

……うーん、これ。

ちょっと、マズいかもしれない。

 

僕は(ウェブ)カートリッジを切り替えながら、燃え盛る元友人を見つめていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「ピ、ピ、ピピ、ピーターは悪い人じゃない……!」

 

 

しどろもどろ。

慌てて、吃りながら私は弁解する。

 

しかし、目の前のグウェンもハリーも険しい顔のままだ。

 

そんな険しい顔をしているグウェンが口を開いた。

 

 

「そもそも、そのピーターってのとは何処で出会ったの?」

 

 

なるほど、至極当然の質問だった。

少し、悩む。

 

私としては、初めて会ったのは数ヶ月前……記憶を失って直ぐだ。

しかし、私は覚えていないが、実際に出会ったのは一年前、クイーンズに引っ越してきてからだ。

 

……私は──

 

 

「クイーンズに引っ越して来た時、ピーターは隣の部屋に住んでいた」

 

 

ピーターからのまた聞き情報で話す事にした。

だって、数ヶ月前に出会ったばかり!一目惚れ!みたいな話をしたら、さらに険しくなりそうだったから。

 

私の返答にグウェンが眉を顰めた。

 

 

「……私、全然聞いた事ないんだけど?」

 

「い、言ってなかった?」

 

「言ってないわ」

 

 

不服そうに、疑うような視線で、グウェンが私を見ている。

だけど、嘘ではない。

ただ覚えていないだけだ。

 

 

「隣の部屋に住んでたから、一緒によく、ご飯を食べに行ったり……して、仲良くなった」

 

「…………ふぅん?」

 

 

グウェンが口を「へ」の字に曲げて、見るからに納得してません、って顔をしている。

ハリーは……何だか、こう、怒っている表情でもなく……何か、抜け落ちたような顔をしている。

 

そんなハリーが恐る恐る、と言った様子で口を開いた。

 

 

「……彼の、ピーターの何処を好きになったんだ?」

 

 

その質問に、私は迷いなく答えられた。

 

 

「……誰にでも、優しいところ」

 

 

詰まることなく、答えた。

 

そうだ。

私がピーターを……スパイダーマンを好きになった理由は何か?

彼に憧れた理由は何か?

 

善性だ。

自己犠牲を厭わぬ精神力だ。

 

悪人をブチのめす力があればヒーローではない。

人を助けてこそのヒーローだ。

私にとって、スパイダーマンこそが『私の憧れ(ヒーロー)』なのだ。

 

……もっとも、今は……少し、違う意味でも好きだけれど。

 

私の返答に、ハリーは……眉を顰めた。

 

 

「優しいだけなら……それは……いや、忘れてくれ」

 

 

彼は自身の頭に手を当てて、何か恥じているような表情をしていた。

何を言おうとしていたのかは分からない。

だけど、訊き直すべきではないと思った。

 

しかし、グウェンは眉を顰めたまま、口を開いた。

 

 

「ミシェル、絶対、騙されてる」

 

「……そんなことない」

 

 

それはグウェンからすれば、当然の結論だ。

そして、彼女は私を大切に思ってくれている……だからこそ、引き離したいと思っているのだ。

 

 

「でも、だって、それなら……何で、暴力を……振るわれた事があるんでしょ?」

 

「……そ、それは違う」

 

「嘘よ。私、この距離でも貴女の心臓の音が聴こえるから……嘘を吐いてるのは分かるから」

 

 

……シンビオート、グウェノムか。

強化された聴覚で、私の心音を聴いて動揺しているのを知られてしまっている。

 

それでも、私は首を振る。

 

 

「それでも、それは私が悪かったから──

 

「例えミシェルがどうであろうと、女の子に暴力を振るう男なんて最低よ!」

 

 

ダン、と机を叩いた。

……思ったよりも大きな音が鳴ったからか、グウェンが静かに椅子に座り直した。

 

 

グウェンはピーターを敵視している。

その事実に、私は──

 

 

「ミシェル、そのピーターって奴は屑野郎よ。分からなくなってるかも知れないけど、全然優しくなんかないわ。それDVよ、DV」

 

「……グウェン」

 

 

私は、凄く──

 

 

「ミシェルを支配して良いようにしようってだけで、愛してなんかないわ。それはパートナーに対する愛じゃなくて、トロフィーに対する愛のようなモノで、そんな奴は最低最悪の──

 

「グウェン、それ以上……言わないで」

 

 

凄く、悲しい気持ちになっていた。

 

元は仲の良い友人だった筈だ。

ピーターも、グウェンも、ハリーも。

 

それなのに……私のせいで、ピーターの存在をみんなが忘れてしまった。

そして、元々友人だった人達に、私のせいで恨まれてる。

 

全て、私のせいだ。

 

私のせいで、ピーターは──

 

 

ハリーが、口を開いた。

 

 

「グウェン……少し、落ち着いてくれ」

 

「でも、だって……」

 

「結論を急く必要はないんだ。僕も……落ち着くから」

 

「…………」

 

 

グウェンは納得していないようだが、渋々と言った様子で頷いた。

 

私は……手で、目を擦った。

少し、濡れていた。

 

ダメだな、私。

最近……妙に、涙腺が緩い。

 

ハリーはきっと、泣いている私を見て、落ち着くように言ってくれたのだろう。

……だけど、どうやって説明すれば良いのだろうか。

 

彼がスパイダーマンという事を明かすのは……当人ではない、私が言うべき事ではない。

記憶の話なんて、もっての外だ。

数ヶ月前にネッドが洗脳されたばっかりで、そういう話をすれば「私が洗脳されている」と彼等は思ってしまうだろう。

 

八方塞がりだ。

 

思わず、息を深く吐いて……ふと、喫茶店内の天井から吊られたテレビを見た。

 

 

……銀行の前で、ヒューマントーチがピーターを追いかけ回していた。

 

 

「………え?」

 

 

……なんで?

 

思わず呆気に取られている私を、ハリーは少し訝しむような顔で見ていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

火球が、僕の背後を通りすぎた。

 

 

「この!ちょこまかと!」

 

 

ヒューマントーチが怒声をあげて、小さな人差し指大の炎を連射した。

 

僕は(ウェブ)をビルに引っ掛けて、宙を飛ぶ。

 

彼の攻撃は超感覚(スパイダーセンス)が反応出来る。

 

しかし、彼を引き剥がさない限り、ずっと追いかけ続けられてしまう。

いつまでたっても逃げられない。

 

 

「ねぇ、やめにしない!?別に僕、喧嘩したい訳じゃないんだけど!」

 

「俺だって別に望んでないさ!大人しく従うなら喧嘩せずに済む!」

 

 

うーん、まずいな。

トーチは今、怒っている。

自分の誘いを断って逃げ出した僕を、逃がしてやろうなんて気はないだろう。

 

彼は負けず嫌いだからだ。

 

 

「……仕方ないな」

 

 

……やるしかない。

幸い、トーチは怒っているけれど、殺意を向けて来ている訳じゃない。

つまり、本気じゃない。

 

そこに隙がある。

 

僕はカートリッジを操作して──

 

 

 

 

直後、爆発音が遠くから聞こえた。

 

 

 

「……何だ?」

 

 

(ウェブ)を引いて、ガラス張りのビルに張り付く。

トーチも想定外だったようで、宙に飛びながら音がした方向を見ている。

 

 

……ビルから、煙が上がってる。

ガラスが割れて、落下していた。

 

 

瞬間、僕は壁を走って、(ウェブ)を飛ばした。

テロだか何だか知らないけれど、追いかけっこ(こんなこと)してる場合じゃない。

 

トーチも同じ発想に至ったようで、両手で炎を射出して、そちらに向かっている。

 

そして、彼が口を開いた。

 

 

「何が起こった!?」

 

「僕も知らないよ!」

 

「……チッ、先に向かってるぞ!」

 

 

直後、トーチが光り輝き、まるで一筋の光のように飛び出した。

……速い。

 

慌てて、追いかけるけれど……追いつくのに1分ほどかかった。

 

騒動があった場所を近くで見上げると……ビジネスビルの高層階で、何かが爆発したような痕跡があった。

 

ビルの周りで、頭をタオルで押さえている人を見つけて……僕は声を掛ける。

 

 

「何があったの!?」

 

「わ、分からない……急に大きな音がして──

 

 

高層階の煙が、黒く変色する。

……有機化合物が燃える炎の色だ。

さっきの音、衝撃……。

 

まさか、爆弾じゃ──

 

 

ドン!

 

と大きな音がして、空気が揺れた。

またガラスが割れて地上に落下しててくる。

 

……下には沢山の避難者と、野次馬がいる!

 

 

「まずっ──

 

「任せろ!」

 

 

トーチが宙へ飛び出して、落下してくるガラスに炎をぶつけた。

超高温の炎はガラスを融解させて、塵に変えた。

 

 

「あ、ありがとう!トーチ!」

 

 

思わず、礼を言うと──

 

 

「お前に感謝される筋合いも、ニックネームで呼ばれる謂れもない!兎に角、この状況を何とかしないと──

 

 

トーチが話している途中に、また炸裂音がした。

ビルが大きく揺れて……まずい!

このままだと倒壊するかも!

 

目の前にいる避難者の男の人に話しかける。

 

 

「おじさん!残ってる人っている!?」

 

「わ、わからないが……恐らく、居る、と思う」

 

「OK!分かった!」

 

 

急いで、僕は(ウェブ)を上に向けて放つ。

 

 

「トーチは落下してくる瓦礫の対処を頼む!僕が取り残された人を救出する!」

 

「おまっ、俺に指図を……チッ、出来るのか!?」

 

「勿論!」

 

「なら、頼んだ!」

 

 

トーチにサムズアップして、助走を付ける。

そして、ついでに、おじさんへ視線を向けた。

 

 

「おじさん、怪我してる所悪いんだけど、周りの人に避難するように言ってくれない!?」

 

「あ、あぁ……分かったよ!」

 

「ありがとう!」

 

 

そのまま走って……円を描くように、振り子のように、僕は飛び上がった。

崩れ落ち始めたガラスの壁を足場に、僕は壁を垂直に登り始める。

 

幸い、このビルは高くても……10階ちょっとだ。

ニューヨークの中では小さい方なぐらい。

 

 

すぐに、上層階まで──

 

 

僕はガラスを蹴り砕いて、宙へ飛んだ。

直後、足場にしていた階層が爆発した。

 

 

超感覚(スパイダーセンス)に反応があったから、対処できた。

 

砕けて吹き飛んだガラス片は、トーチが撃ち落としてくれている。

下の人達に落下する事を防いでくれてる……その点、彼なら安心だ。

きっと、やり遂げてくれるからだ。

 

……強化された聴覚で確認しているけれど、この階層の人はちゃんと避難できていたみたいだ。

安堵の息を吐く。

 

そして、少し苛立ってきた。

 

 

「今日は楽しいデートの筈だったのに……」

 

 

ミシェルと観る予定だった映画は、爆発を多用する事で有名な映画監督の作品だった。

全くもって嬉しくない偶然の一致だ。

 

宙で体勢を立て直して、(ウェブ)を放つ。

引っ張って、壁を蹴って、瓦礫を避けて駆け上がる。

 

 

ガラスを蹴破って、ビルの中に入る。

 

 

今日は日曜日、ここはオフィス街。

幸い、ビルの中の人は少なかったようだ。

 

取り零しがないよう、念入りに、だけど素早く確認しながら上層階へと向かう。

……最初に爆発したのが、ここの上の階だったから、みんな逃げられたんだ。

 

だけど、それはつまり──

 

 

「きゃあっ」

 

「助けてくれ……!」

 

 

ここより上の階では取り残されてる人も沢山、いるって事だ。

 

ここに居るのは二人だけど、上の階にも居るだろう。

……一人、二人って話じゃないな。

最悪、何十人も居る可能性がある。

 

だけど、何度も下へ降ろしていたら時間がかかる。

一酸化炭素中毒になる危険性もあるし、また爆発してビルが崩壊するかもしれない。

 

素早く、全員を助ける方法は──

 

 

目を見開いて、僕はビルの外を見た。

……目の前、少し離れた所に大きなビルが二つ。

 

その隙間は……10メートルぐらいかな。

カートリッジを四つ取り出して、ボタンを押す。

 

 

「よしっ、大盤振る舞いだ」

 

 

ビルから幅跳びのように飛び出して、ビル隙間にカートリッジを投げ込み……左右に二つずつ、(ウェブ)で固定させた。

 

直後、カートリッジが破裂して、ビルの隙間に白い蜘蛛の巣が出来上がる。

即席の超巨大ハンモックだ。

 

結果に満足した僕は、宙で後転して(ウェブ)を放ち……元の場所に戻る。

 

避難者は二人──

 

 

「二人とも!舌を噛まないように気を付けて!」

 

「えっ」

 

「あっ」

 

 

納得させてる暇はない。

僕は二人を抱えて、強化された腕力で……ビルの外へ投げ飛ばした。

 

悲鳴が聞こえて……(ウェブ)で作ったハンモックに落下した。

衝撃を殺して、大きな怪我はないようだ。

 

それでも……高さにすれば数十メートルはある。

少し怖いかもしれないけれど──

 

 

「後でちゃんと助けに戻るから!今は我慢してね!」

 

 

そう大声で言って、返事を待たずにビルを駆け上がる。

 

1、2、3……7人。

 

ガラス張りの壁を蹴破り、取り残されている人達を窓から投げ捨てる。

説明不足の所為でみんな怖がっていたけど……申し訳ないけど、時間が足りない。

 

また、爆発音がした。

 

焦りながらも、人を投げ捨てて……合計で20人近く投げ落とした。

 

……ふぅ、(ウェブ)のカートリッジをケチらなくて良かったよ。

分厚いハンモックだから数十人乗せても大丈夫だ。

 

駆け上がって。

人を助けて。

また、駆け上がって。

 

 

そして僕は──

 

 

屋上まで辿り着いた。

 

 

「漏れはない筈だけど……」

 

 

隣のビルに作ったハンモックを見る。

誰も彼もが、この倒壊しそうなビルを見上げていて──

 

直後、ビルが揺れた。

 

 

「ま、ずいかもっ!」

 

 

崩れる。

 

恐らく、ビルを支えていた柱が折れたんだ。

このまま……崩壊する。

 

だけど、運が良かったのか……足場の感じから、左右に倒れることはなさそうだ。

 

このまま、ビルは……真っ直ぐ、真下に崩れ落ちる。

 

 

僕は揺れる地面を蹴って、宙に飛び出した。

 

 

「トーチ!!」

 

 

大きく声を出して……僕は隣のビルの壁に張り付いた。

 

 

「分かっている!」

 

 

ビル下の人達は……殆どが逃げられていたけど、ここは天下のニューヨークだ。

交通規制も間に合わなかったのか、車が立ち往生してる。

 

どこかで事故も起きているかも知れない。

 

 

だから、トーチには──

 

 

「はぁっ!」

 

 

落ちてくる瓦礫を全部、焼き尽くして貰う必要がある。

 

トーチがメラメラと……いや、ギラギラと輝く。

炎と呼べるのか分からない程の、高熱を放っている。

 

あれじゃあ、まるで小さな太陽だ。

 

ビルが……崩れた。

中心に落ちるように砕けていくけれど、それでも砕けた外壁が飛び散っていく。

 

それらがもしも人にぶつかれば──

人にぶつからなくても車にぶつかれば──

 

二次被害は免れない。

 

 

だけど、その心配は要らなさそうだ。

 

 

「燃え尽きろ!」

 

 

さっきまで僕に放っていた火球が、ジャグリング用のボールかと勘違いできるほど……手加減のない大きな火球が宙へ放たれた。

 

それらは中心に吸い込むように渦巻いて、宙へ飛んでいた瓦礫を巻き込み燃焼させる。

 

大まかな瓦礫を迎撃した彼は、そのまま手から熱線を放った。

 

それらは、小さな瓦礫に命中して粉砕していく。

 

 

ものの数分。

ビルが完全に倒壊するまでの短い出来事だったが──

 

 

トーチは全ての瓦礫の迎撃を熟して見せた。

 

 

「……はぁっ、はっ、どうだ!?」

 

 

自信満々に、だけど疲労困憊で僕へ振り返った。

 

 

「流石、ヒューマントーチ!」

 

「……は、はは、だろう?そうだろう?」

 

 

いや、本当に凄い集中力と……コントロール力だ。

 

そのまま彼は……流石に、集中し過ぎて疲れたようで小さな建物の屋根へと落下していく。

僕も合わせて、屋根へと着地した。

 

 

「…………」

 

 

身体を纏っていた炎を掻き消せば、汗まみれの金髪の男が姿を現した。

 

 

「ありがとう、トーチ。助かったよ」

 

 

僕がそう言うと、ヒューマントーチ……ジョニー・ストームは汗まみれの前髪を掻き上げた。

 

 

「……それは、俺のセリフでもあるな。まぁ、お前が居なくても全員助けられただろうが」

 

 

これは見栄だろうけど。

それでも、ヒューマントーチは紛れもなく英雄(ヒーロー)だった。

判断も早く、課せられた激務に耐えて見せた。

 

ジョニーはその疲労を見せる顔で、笑って見せた。

 

 

「だがまぁ、お前の人となりは分かった」

 

「え?」

 

「お人好しだ」

 

 

彼は深く息を吐き出して、肩を鳴らした。

 

 

「僕が、お人好し?」

 

「当然だ。あの時、ビルが爆発した時……俺から逃げる絶好のチャンスだっただろう?それでも逃げず、俺と協力して見せた」

 

「あ、あぁ……そっか、そんな事、考えてもなかったよ」

 

 

目の前で窮地になっている人がいるかもしれないのに、逃げ出すなんて……見て見ぬフリなんて出来ない。

だって僕は『親愛なる隣人(スパイダーマン)』だからだ。

 

自分に出来る事があるのに、しなかったら……それで誰かが不幸になるのだとしたら、僕は僕を許せなくなる。

 

 

「……フッ、考えてもなかったか?それなら『お人好し』じゃなくて『バカ』かも知れないな」

 

「バ、バカって──

 

「好感が持てる『バカ』って事だ」

 

「あーでも、言い方が……ちょっと、悪くない?」

 

「事実、お前は抜けてそうな所がある。肝心な所でミスをしそうな危うさがある。どうだ?」

 

「そ、そんな事はない筈だけど──

 

 

ちょっとだけ、思い当たる節があった。

だって、僕のヒーロー活動は失敗の連続だからだ。

 

……思い出すのはよそう。

ネガティブになってしまうからだ。

 

ジョニーはそのまま、座り込む。

 

 

「……お前、女を待たせてるんだろ?」

 

 

そして、僕の方へ視線を向けた。

 

 

「あぁ……うん、そうだけど」

 

「いつまでここに居るんだ?早く行けよ」

 

「え?でも──

 

 

さっきまで、散々、僕を無理矢理パーティに連行しようとしてたじゃないか。

 

 

「目的は、お前に危険性がない事を知る為だぜ?それならもう、答えは出てる……だから、不要だ」

 

「……あー、でも──

 

 

チラリ、と大きな白いハンモックを見る。

あそこには沢山の人が取り残されている。

降ろしてあげるのも僕の仕事だと──

 

 

「待たせ過ぎると、愛想を尽かされるぞ」

 

「うっ」

 

「俺はパーティから抜け出した程度だから良いが……お前は多分、デートだろ?」

 

「……う、うん」

 

「マジか。最低だな、お前……後始末は俺がするから、早く行って謝ってこい」

 

 

ジョニーが立ち上がり、そのコスチュームを叩いて……砂埃を払った。

その顔に険しさはない。

 

……互いに、記憶は失ってしまったけれど……また、友人と呼べる日は来るのだろうか?

少し、期待しても良いかもしれない。

 

 

「ありがとう、トーチ」

 

「……どういたしまして、だ。スパイダーマン」

 

 

まだ『スパイディ』とは呼んでくれないけれど……まぁ、それも良いか。

 

このニューヨークで人助け(ヒーロー)をやっていたら、また出会う日も来るだろう。

その時は……他のファンタスティックフォーのメンバーとも会いたいな、なんて。

 

そんな事を考えながら、僕はその場を後にした。

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