【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
「聞こえてなかったのか?君の、名前は?」
目の前に、燃え上がるような……いや、本当に燃え上がっている
僕が少し、後退りすると……何かに気付いたように、トーチは指を鳴らした。
「そうか、熱かったか?それは悪い事をしたな」
炎が霧散し、金髪の容姿端麗な青年が姿を現した。
その髪をかき上げれば……少し、猛々しい印象を感じる。
その服装はよく知っているヒーローコスチューム。
青と黒の耐熱性のタイツに……胸に「4」の文字だ。
「先に自己紹介を……いや、俺の事を知らない訳はないだろうが……『ヒューマントーチ』、ジョニー・ストームだ」
知ってるとも、ジョニー・ストーム。
記憶を失う前は、よく僕を揶揄っていた奴だ。
憎いほどね。
まぁ、友人だったよ。
少なくとも僕にとっては……恐らく、君にとっても。
それでも今は他人だ。
ある日、見知らぬ男から「僕達は昔友人だったんだ!世界中の人間が忘れているだけで!」なんて言われて信じるか?
イカれてるのか?って思うよね。
僕もきっとそう思う。
だから、僕も昔の事を言うつもりはない。
信じてくれる人なんて誰も……あ、いや、一人だけ信じてくれたけど──
それは例外でしかない。
「どうした?お口にジッパーでも付いていて喋れないのか?いや、そんな事ないだろ?さっき喋ってた筈だ、ん?」
おっと、思考逃避をやめて、ジョニーと向き合わないと。
「僕の名前は『スパイダーマン』だよ」
「なるほど。
思わず、眉を顰めた。
いや、まぁコイツはこういう奴なんだけど。
「蜘蛛に噛まれて
「そうか。その理屈なら俺は
そして、ジョニーが獰猛に笑った。
「で?本名は?」
「言えない」
「何でだ?」
「言ったら困る人が出てくるからだよ」
「そうか?俺にはよくわからないな」
心底、納得していないという顔で、手を顎に当てた。
ファンタスティックフォーのメンバーは全員、名前と素顔を晒してヒーロー活動をしている。
だから、顔を隠してヒーロー活動をする
「まぁいい。少し、話したい事もあるし、ウチに来いよ」
「ウチ……?」
ウチってあの……デッカく「4」って書かれてるビルの事だろうか?
「あぁ、そうだ。パーティをしてるんだ」
「パーティ?」
「そう。可愛い女の子がいっぱい居るぜ?蜘蛛のヒーローなんて……いや、モテるか分からないけどな」
「あー……」
ジョニーはパーティ好きだ。
あと可愛い女の子が好きだ。
ハチャメチャに陽キャだ。
パーティが気になるかって言われたら、まぁ、ちょっとは気になる。
ジョニーともまた交友を深めて……新たに友人という立場になれれば嬉しいとは思う。
だけど──
「悪いね。人を待たせてるから、行けないかな」
ミシェルを待たせている。
それだけで断る理由としては十分だった。
デートをすっぽかして、女の子のいるパーティなんかに行ける訳がないし。
しかし、僕の回答が不服だったのかジョニーは僕の肩を掴んだ。
「まぁまぁ、そう言わずに」
「行かないよ」
「どうしても?」
「どうしてもだよ」
少し、しつこい。
だけど……その「しつこさ」に僕は不自然だと感じた。
ピリリと、首の裏が痺れる。
……敵意だ。
ジョニーが発している、僕への敵意を感じ取っていた。
思わず、僕は口を開いた。
「あのさ、僕……何か、君の気に障るような事をしたかな?」
「いいや?ただ──
ジョニーの視線が鋭くなった。
「俺は『お前』の事を知らない。名前も、素性もな」
「……初対面だからね」
「現在の状況から、俺達と同じヒーローだと判別しているが……お前は政府に非公認の
それは図星だ。
今の僕に、後ろ盾は一つもない。
「……そう、だけど?」
「だとしたら、俺がお前をここで見逃して、誰かが被害を被るかもしれない……それは、良くない事だ。ダサいしな」
ジョニーが、指を立てた。
「だから、お前の人となりを知りたい。俺について来い」
彼の言い分は分かった。
だけど、それは随分と身勝手だとも思った。
「嫌だね」
「嫌か?」
「女の子を待たせてるんだ」
「冗談は良くないぜ」
「…………」
「…………」
首の裏の刺激が、強まる。
トーチが眉間に皺を寄せて、額に血管を浮き上がらせた。
「火傷しても、文句言うなよ」
「そっちこそ、怪我しても知らないよ」
「言ったな?」
「それがどうかしたのかい?」
売り言葉に買い言葉。
僕が数歩、下がった瞬間──
「
彼を中心に、炎が巻き上がった。
全身を炎で纏い、ジョニーが……いや、ヒューマントーチが飛翔する。
全身から炎を吐き出して、それを推進力にかえて飛行しているんだ。
炎の渦が彼を中心に巻き起こり、人型の炎へと姿を変えた。
「痛い目をみたくなかったら、さっさと降参する事をオススメするぜ!今ならライムソーダも付けてやる!」
「悪いけど、飲み物はさっき飲んだばかりなんだ!」
「そうか!それなら干からびさせてやる!」
トーチが宙を飛び、炎を纏った拳を突き出すと──
「っ……!」
瞬間、地面を蹴って
直後、僕のいた場所に火球が直撃していた。
「危ないじゃないか!当たったら、死ぬよ!」
「死にはしないさ!手加減してるからな!」
炎が渦巻き、竜巻のように弾き出される。
宙に張り巡らせていた
……うーん、これ。
ちょっと、マズいかもしれない。
僕は
◇◆◇
「ピ、ピ、ピピ、ピーターは悪い人じゃない……!」
しどろもどろ。
慌てて、吃りながら私は弁解する。
しかし、目の前のグウェンもハリーも険しい顔のままだ。
そんな険しい顔をしているグウェンが口を開いた。
「そもそも、そのピーターってのとは何処で出会ったの?」
なるほど、至極当然の質問だった。
少し、悩む。
私としては、初めて会ったのは数ヶ月前……記憶を失って直ぐだ。
しかし、私は覚えていないが、実際に出会ったのは一年前、クイーンズに引っ越してきてからだ。
……私は──
「クイーンズに引っ越して来た時、ピーターは隣の部屋に住んでいた」
ピーターからのまた聞き情報で話す事にした。
だって、数ヶ月前に出会ったばかり!一目惚れ!みたいな話をしたら、さらに険しくなりそうだったから。
私の返答にグウェンが眉を顰めた。
「……私、全然聞いた事ないんだけど?」
「い、言ってなかった?」
「言ってないわ」
不服そうに、疑うような視線で、グウェンが私を見ている。
だけど、嘘ではない。
ただ覚えていないだけだ。
「隣の部屋に住んでたから、一緒によく、ご飯を食べに行ったり……して、仲良くなった」
「…………ふぅん?」
グウェンが口を「へ」の字に曲げて、見るからに納得してません、って顔をしている。
ハリーは……何だか、こう、怒っている表情でもなく……何か、抜け落ちたような顔をしている。
そんなハリーが恐る恐る、と言った様子で口を開いた。
「……彼の、ピーターの何処を好きになったんだ?」
その質問に、私は迷いなく答えられた。
「……誰にでも、優しいところ」
詰まることなく、答えた。
そうだ。
私がピーターを……スパイダーマンを好きになった理由は何か?
彼に憧れた理由は何か?
善性だ。
自己犠牲を厭わぬ精神力だ。
悪人をブチのめす力があればヒーローではない。
人を助けてこそのヒーローだ。
私にとって、スパイダーマンこそが『
……もっとも、今は……少し、違う意味でも好きだけれど。
私の返答に、ハリーは……眉を顰めた。
「優しいだけなら……それは……いや、忘れてくれ」
彼は自身の頭に手を当てて、何か恥じているような表情をしていた。
何を言おうとしていたのかは分からない。
だけど、訊き直すべきではないと思った。
しかし、グウェンは眉を顰めたまま、口を開いた。
「ミシェル、絶対、騙されてる」
「……そんなことない」
それはグウェンからすれば、当然の結論だ。
そして、彼女は私を大切に思ってくれている……だからこそ、引き離したいと思っているのだ。
「でも、だって、それなら……何で、暴力を……振るわれた事があるんでしょ?」
「……そ、それは違う」
「嘘よ。私、この距離でも貴女の心臓の音が聴こえるから……嘘を吐いてるのは分かるから」
……シンビオート、グウェノムか。
強化された聴覚で、私の心音を聴いて動揺しているのを知られてしまっている。
それでも、私は首を振る。
「それでも、それは私が悪かったから──
「例えミシェルがどうであろうと、女の子に暴力を振るう男なんて最低よ!」
ダン、と机を叩いた。
……思ったよりも大きな音が鳴ったからか、グウェンが静かに椅子に座り直した。
グウェンはピーターを敵視している。
その事実に、私は──
「ミシェル、そのピーターって奴は屑野郎よ。分からなくなってるかも知れないけど、全然優しくなんかないわ。それDVよ、DV」
「……グウェン」
私は、凄く──
「ミシェルを支配して良いようにしようってだけで、愛してなんかないわ。それはパートナーに対する愛じゃなくて、トロフィーに対する愛のようなモノで、そんな奴は最低最悪の──
「グウェン、それ以上……言わないで」
凄く、悲しい気持ちになっていた。
元は仲の良い友人だった筈だ。
ピーターも、グウェンも、ハリーも。
それなのに……私のせいで、ピーターの存在をみんなが忘れてしまった。
そして、元々友人だった人達に、私のせいで恨まれてる。
全て、私のせいだ。
私のせいで、ピーターは──
ハリーが、口を開いた。
「グウェン……少し、落ち着いてくれ」
「でも、だって……」
「結論を急く必要はないんだ。僕も……落ち着くから」
「…………」
グウェンは納得していないようだが、渋々と言った様子で頷いた。
私は……手で、目を擦った。
少し、濡れていた。
ダメだな、私。
最近……妙に、涙腺が緩い。
ハリーはきっと、泣いている私を見て、落ち着くように言ってくれたのだろう。
……だけど、どうやって説明すれば良いのだろうか。
彼がスパイダーマンという事を明かすのは……当人ではない、私が言うべき事ではない。
記憶の話なんて、もっての外だ。
数ヶ月前にネッドが洗脳されたばっかりで、そういう話をすれば「私が洗脳されている」と彼等は思ってしまうだろう。
八方塞がりだ。
思わず、息を深く吐いて……ふと、喫茶店内の天井から吊られたテレビを見た。
……銀行の前で、ヒューマントーチがピーターを追いかけ回していた。
「………え?」
……なんで?
思わず呆気に取られている私を、ハリーは少し訝しむような顔で見ていた。
◇◆◇
火球が、僕の背後を通りすぎた。
「この!ちょこまかと!」
ヒューマントーチが怒声をあげて、小さな人差し指大の炎を連射した。
僕は
彼の攻撃は
しかし、彼を引き剥がさない限り、ずっと追いかけ続けられてしまう。
いつまでたっても逃げられない。
「ねぇ、やめにしない!?別に僕、喧嘩したい訳じゃないんだけど!」
「俺だって別に望んでないさ!大人しく従うなら喧嘩せずに済む!」
うーん、まずいな。
トーチは今、怒っている。
自分の誘いを断って逃げ出した僕を、逃がしてやろうなんて気はないだろう。
彼は負けず嫌いだからだ。
「……仕方ないな」
……やるしかない。
幸い、トーチは怒っているけれど、殺意を向けて来ている訳じゃない。
つまり、本気じゃない。
そこに隙がある。
僕はカートリッジを操作して──
直後、爆発音が遠くから聞こえた。
「……何だ?」
トーチも想定外だったようで、宙に飛びながら音がした方向を見ている。
……ビルから、煙が上がってる。
ガラスが割れて、落下していた。
瞬間、僕は壁を走って、
テロだか何だか知らないけれど、
トーチも同じ発想に至ったようで、両手で炎を射出して、そちらに向かっている。
そして、彼が口を開いた。
「何が起こった!?」
「僕も知らないよ!」
「……チッ、先に向かってるぞ!」
直後、トーチが光り輝き、まるで一筋の光のように飛び出した。
……速い。
慌てて、追いかけるけれど……追いつくのに1分ほどかかった。
騒動があった場所を近くで見上げると……ビジネスビルの高層階で、何かが爆発したような痕跡があった。
ビルの周りで、頭をタオルで押さえている人を見つけて……僕は声を掛ける。
「何があったの!?」
「わ、分からない……急に大きな音がして──
高層階の煙が、黒く変色する。
……有機化合物が燃える炎の色だ。
さっきの音、衝撃……。
まさか、爆弾じゃ──
ドン!
と大きな音がして、空気が揺れた。
またガラスが割れて地上に落下しててくる。
……下には沢山の避難者と、野次馬がいる!
「まずっ──
「任せろ!」
トーチが宙へ飛び出して、落下してくるガラスに炎をぶつけた。
超高温の炎はガラスを融解させて、塵に変えた。
「あ、ありがとう!トーチ!」
思わず、礼を言うと──
「お前に感謝される筋合いも、ニックネームで呼ばれる謂れもない!兎に角、この状況を何とかしないと──
トーチが話している途中に、また炸裂音がした。
ビルが大きく揺れて……まずい!
このままだと倒壊するかも!
目の前にいる避難者の男の人に話しかける。
「おじさん!残ってる人っている!?」
「わ、わからないが……恐らく、居る、と思う」
「OK!分かった!」
急いで、僕は
「トーチは落下してくる瓦礫の対処を頼む!僕が取り残された人を救出する!」
「おまっ、俺に指図を……チッ、出来るのか!?」
「勿論!」
「なら、頼んだ!」
トーチにサムズアップして、助走を付ける。
そして、ついでに、おじさんへ視線を向けた。
「おじさん、怪我してる所悪いんだけど、周りの人に避難するように言ってくれない!?」
「あ、あぁ……分かったよ!」
「ありがとう!」
そのまま走って……円を描くように、振り子のように、僕は飛び上がった。
崩れ落ち始めたガラスの壁を足場に、僕は壁を垂直に登り始める。
幸い、このビルは高くても……10階ちょっとだ。
ニューヨークの中では小さい方なぐらい。
すぐに、上層階まで──
僕はガラスを蹴り砕いて、宙へ飛んだ。
直後、足場にしていた階層が爆発した。
砕けて吹き飛んだガラス片は、トーチが撃ち落としてくれている。
下の人達に落下する事を防いでくれてる……その点、彼なら安心だ。
きっと、やり遂げてくれるからだ。
……強化された聴覚で確認しているけれど、この階層の人はちゃんと避難できていたみたいだ。
安堵の息を吐く。
そして、少し苛立ってきた。
「今日は楽しいデートの筈だったのに……」
ミシェルと観る予定だった映画は、爆発を多用する事で有名な映画監督の作品だった。
全くもって嬉しくない偶然の一致だ。
宙で体勢を立て直して、
引っ張って、壁を蹴って、瓦礫を避けて駆け上がる。
ガラスを蹴破って、ビルの中に入る。
今日は日曜日、ここはオフィス街。
幸い、ビルの中の人は少なかったようだ。
取り零しがないよう、念入りに、だけど素早く確認しながら上層階へと向かう。
……最初に爆発したのが、ここの上の階だったから、みんな逃げられたんだ。
だけど、それはつまり──
「きゃあっ」
「助けてくれ……!」
ここより上の階では取り残されてる人も沢山、いるって事だ。
ここに居るのは二人だけど、上の階にも居るだろう。
……一人、二人って話じゃないな。
最悪、何十人も居る可能性がある。
だけど、何度も下へ降ろしていたら時間がかかる。
一酸化炭素中毒になる危険性もあるし、また爆発してビルが崩壊するかもしれない。
素早く、全員を助ける方法は──
目を見開いて、僕はビルの外を見た。
……目の前、少し離れた所に大きなビルが二つ。
その隙間は……10メートルぐらいかな。
カートリッジを四つ取り出して、ボタンを押す。
「よしっ、大盤振る舞いだ」
ビルから幅跳びのように飛び出して、ビル隙間にカートリッジを投げ込み……左右に二つずつ、
直後、カートリッジが破裂して、ビルの隙間に白い蜘蛛の巣が出来上がる。
即席の超巨大ハンモックだ。
結果に満足した僕は、宙で後転して
避難者は二人──
「二人とも!舌を噛まないように気を付けて!」
「えっ」
「あっ」
納得させてる暇はない。
僕は二人を抱えて、強化された腕力で……ビルの外へ投げ飛ばした。
悲鳴が聞こえて……
衝撃を殺して、大きな怪我はないようだ。
それでも……高さにすれば数十メートルはある。
少し怖いかもしれないけれど──
「後でちゃんと助けに戻るから!今は我慢してね!」
そう大声で言って、返事を待たずにビルを駆け上がる。
1、2、3……7人。
ガラス張りの壁を蹴破り、取り残されている人達を窓から投げ捨てる。
説明不足の所為でみんな怖がっていたけど……申し訳ないけど、時間が足りない。
また、爆発音がした。
焦りながらも、人を投げ捨てて……合計で20人近く投げ落とした。
……ふぅ、
分厚いハンモックだから数十人乗せても大丈夫だ。
駆け上がって。
人を助けて。
また、駆け上がって。
そして僕は──
屋上まで辿り着いた。
「漏れはない筈だけど……」
隣のビルに作ったハンモックを見る。
誰も彼もが、この倒壊しそうなビルを見上げていて──
直後、ビルが揺れた。
「ま、ずいかもっ!」
崩れる。
恐らく、ビルを支えていた柱が折れたんだ。
このまま……崩壊する。
だけど、運が良かったのか……足場の感じから、左右に倒れることはなさそうだ。
このまま、ビルは……真っ直ぐ、真下に崩れ落ちる。
僕は揺れる地面を蹴って、宙に飛び出した。
「トーチ!!」
大きく声を出して……僕は隣のビルの壁に張り付いた。
「分かっている!」
ビル下の人達は……殆どが逃げられていたけど、ここは天下のニューヨークだ。
交通規制も間に合わなかったのか、車が立ち往生してる。
どこかで事故も起きているかも知れない。
だから、トーチには──
「はぁっ!」
落ちてくる瓦礫を全部、焼き尽くして貰う必要がある。
トーチがメラメラと……いや、ギラギラと輝く。
炎と呼べるのか分からない程の、高熱を放っている。
あれじゃあ、まるで小さな太陽だ。
ビルが……崩れた。
中心に落ちるように砕けていくけれど、それでも砕けた外壁が飛び散っていく。
それらがもしも人にぶつかれば──
人にぶつからなくても車にぶつかれば──
二次被害は免れない。
だけど、その心配は要らなさそうだ。
「燃え尽きろ!」
さっきまで僕に放っていた火球が、ジャグリング用のボールかと勘違いできるほど……手加減のない大きな火球が宙へ放たれた。
それらは中心に吸い込むように渦巻いて、宙へ飛んでいた瓦礫を巻き込み燃焼させる。
大まかな瓦礫を迎撃した彼は、そのまま手から熱線を放った。
それらは、小さな瓦礫に命中して粉砕していく。
ものの数分。
ビルが完全に倒壊するまでの短い出来事だったが──
トーチは全ての瓦礫の迎撃を熟して見せた。
「……はぁっ、はっ、どうだ!?」
自信満々に、だけど疲労困憊で僕へ振り返った。
「流石、ヒューマントーチ!」
「……は、はは、だろう?そうだろう?」
いや、本当に凄い集中力と……コントロール力だ。
そのまま彼は……流石に、集中し過ぎて疲れたようで小さな建物の屋根へと落下していく。
僕も合わせて、屋根へと着地した。
「…………」
身体を纏っていた炎を掻き消せば、汗まみれの金髪の男が姿を現した。
「ありがとう、トーチ。助かったよ」
僕がそう言うと、ヒューマントーチ……ジョニー・ストームは汗まみれの前髪を掻き上げた。
「……それは、俺のセリフでもあるな。まぁ、お前が居なくても全員助けられただろうが」
これは見栄だろうけど。
それでも、ヒューマントーチは紛れもなく
判断も早く、課せられた激務に耐えて見せた。
ジョニーはその疲労を見せる顔で、笑って見せた。
「だがまぁ、お前の人となりは分かった」
「え?」
「お人好しだ」
彼は深く息を吐き出して、肩を鳴らした。
「僕が、お人好し?」
「当然だ。あの時、ビルが爆発した時……俺から逃げる絶好のチャンスだっただろう?それでも逃げず、俺と協力して見せた」
「あ、あぁ……そっか、そんな事、考えてもなかったよ」
目の前で窮地になっている人がいるかもしれないのに、逃げ出すなんて……見て見ぬフリなんて出来ない。
だって僕は『
自分に出来る事があるのに、しなかったら……それで誰かが不幸になるのだとしたら、僕は僕を許せなくなる。
「……フッ、考えてもなかったか?それなら『お人好し』じゃなくて『バカ』かも知れないな」
「バ、バカって──
「好感が持てる『バカ』って事だ」
「あーでも、言い方が……ちょっと、悪くない?」
「事実、お前は抜けてそうな所がある。肝心な所でミスをしそうな危うさがある。どうだ?」
「そ、そんな事はない筈だけど──
ちょっとだけ、思い当たる節があった。
だって、僕のヒーロー活動は失敗の連続だからだ。
……思い出すのはよそう。
ネガティブになってしまうからだ。
ジョニーはそのまま、座り込む。
「……お前、女を待たせてるんだろ?」
そして、僕の方へ視線を向けた。
「あぁ……うん、そうだけど」
「いつまでここに居るんだ?早く行けよ」
「え?でも──
さっきまで、散々、僕を無理矢理パーティに連行しようとしてたじゃないか。
「目的は、お前に危険性がない事を知る為だぜ?それならもう、答えは出てる……だから、不要だ」
「……あー、でも──
チラリ、と大きな白いハンモックを見る。
あそこには沢山の人が取り残されている。
降ろしてあげるのも僕の仕事だと──
「待たせ過ぎると、愛想を尽かされるぞ」
「うっ」
「俺はパーティから抜け出した程度だから良いが……お前は多分、デートだろ?」
「……う、うん」
「マジか。最低だな、お前……後始末は俺がするから、早く行って謝ってこい」
ジョニーが立ち上がり、そのコスチュームを叩いて……砂埃を払った。
その顔に険しさはない。
……互いに、記憶は失ってしまったけれど……また、友人と呼べる日は来るのだろうか?
少し、期待しても良いかもしれない。
「ありがとう、トーチ」
「……どういたしまして、だ。スパイダーマン」
まだ『スパイディ』とは呼んでくれないけれど……まぁ、それも良いか。
このニューヨークで
その時は……他のファンタスティックフォーのメンバーとも会いたいな、なんて。
そんな事を考えながら、僕はその場を後にした。