【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#12 ノー・ノーマル part1

「デカいな」

 

「あぁ、デカい」

 

 

ソーが呆れた声を出して、キャプテンが頷いた。

 

目の前には巨大な怪物。

荒廃した大地を前に、ワニとヘビとカニとイカを足して割らなかったようなバケモノが迫っていた。

 

ソーが手を宙に翳すと、ハンマーが空を切って飛来した。

そして、それを握りしめる。

 

キャプテンも盾を構えて──

 

後方からジェット音。

アイアンマンの登場だ。

 

アベンジャーズが集合した(アッセンブル)

 

 

「何か作戦はあるか?」

 

 

キャプテンが訊いた。

 

 

「いいや、君の方こそ」

 

 

アイアンマンがそう言った。

 

 

「真っ直ぐ行ってブン殴れば良い」

 

 

ソーがそう言った。

 

 

「そう、その通りよ」

 

 

……あれ?

三人じゃなかった?

 

ううん、もう一人、凄い奴を忘れているわ。

 

 

「まずは私に任せて」

 

 

自由自在に宙を飛ぶ、スーパーパワーを持った金髪の美女!

赤と紺色のスーツに星のマーク。

そう、『キャプテン・マーベル』だ。

 

彼女はそのまま、巨大な怪物に向かってエネルギーブラストを放つ。

 

 

「これでも喰らいなさい!」

 

 

エネルギーは光の弾丸になって、怪物を貫いて──

 

 

 

 

 

「カマラ、ご飯できたわよ」

 

 

 

そのまま光は壁に直撃して、廃墟となったビルを──

 

 

 

「カマラ?」

 

「ま、待って!待ってよ、母さん(アミ)!」

 

 

話は中断。

パソコンから目を離して……ほら、横を見る。

 

壁中に貼られたヒーローのポスター。

アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー、ハルク……そして、キャプテン・マーベル。

 

私の大好きなヒーロー達だ。

 

それで更に視線を横に……ドアの前で神経質そうな顔をしている母さん(アミ)が居た。

 

 

「何か用事なの?」

 

「私の投稿した二次創作(ファン・フィクション)の読者が1000人を突破する所なの!」

 

「……良く分からないけど、それって家族揃っての食事より大切な事なの?」

 

 

母さん(アミ)の言葉に眉尻を下げる。

 

 

「……ううん、別に?」

 

 

そして、私は首を横に振った。

 

 

「そう。なら、良かったわ。早く降りて来なさいよ?」

 

「……はーい、母さん(アミ)

 

 

私は勉強椅子から降りて、パソコンのモニターを切った。

 

 

私の名前は、カマラ。

カマラ・カーン。

ニュージャージー州生まれ、在住の……パキスタン系の移民二世だ。

 

机の上の料理を囲んで、父さん(アブー)が私を一瞥した。

 

 

「随分と遅かったな」

 

「色々あって」

 

「色々か」

 

「そう、色々ね」

 

 

私が椅子に座ると、母さん(アミ)も椅子に座った。

食前の祈りを捧げて、夕食を口にする。

 

……言うなら、今かな。

父さん(アブー)に視線を向けた。

 

 

「ねぇ、父さん(アブー)

 

「ん?」

 

「来週、遠出しても良い?」

 

 

父さん(アブー)が私を見た。

 

 

「何の話だ?」

 

「来週、アベンジャーズ・コンがあるの。ニューヨークで」

 

「ふーん、良いじゃないか。誰と行くんだ?」

 

「ブルーノ」

 

「そうか。18時までには帰って来るんだぞ」

 

 

うっ、やっぱり。

 

 

「でも、アベンジャーズコンは……えっと、17時からで……だから」

 

「それは良くないな」

 

 

父さん(アブー)が眉を顰めた。

私も負けじと眉を顰める。

 

そこに、母さん(アミ)が口出ししてくる。

 

 

「そんなのダメよ。恐ろしい」

 

母さん(アミ)、私もう16歳なんだよ?大人だし、バカな事はしないから」

 

「だからこそだ」

 

 

父さん(アブー)がそう言った。

……全く、嫌になる。

 

ウチは厳しすぎる。

 

 

「今回は諦めなさい」

 

 

今回は?

今回も、でしょ。

 

母さん(アミ)が思い付いたように、そう言った。

 

 

「そうだ、ブルーノを家に呼んで一緒に宿題でもすれば良いんじゃない?」

 

「退屈で死にそう」

 

「そう簡単に人は死なないわよ」

 

「どうだか」

 

 

悪態を吐いて、食事を口に挟んだ。

全くもって、本当に……。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「って事で、ダメだってさ」

 

「マジかよ。まぁ仕方ないよな」

 

 

目の前で親友のブルーノ・カレッリが腕を組んで頷いた。

ここは近所、彼の部屋だ。

 

時間は勿論、真昼間。

ウチは門限が厳しいからね。

 

 

「最近、本当に良いことがないなぁ」

 

 

私はブルーノのベッドに寝転がる。

 

 

「病院沙汰もあったしな」

 

「アレ私、悪くないのにさ。余計に母さん(アミ)が過保護になっちゃった」

 

 

記憶を反芻する。

先週、家に近所で歩いてたら変な霧を吸って……気絶しちゃった。

科学ガスをばら撒くテロだとか何とか、怖い話だ。

 

それから、私の体の調子が変になった。

悪い意味じゃなくて、良い意味で。

 

私は手を伸ばして、本棚にあるコミックを手に取った。

 

 

「……なぁ、やっぱり言った方が良いんじゃないか?」

 

「何を?」

 

 

私はコミックを開きながら、首を傾げた。

 

 

「パワーの事だよ。カマラの母さんや父さんに相談するべきだろ」

 

 

本棚と私の距離は2メートル程離れていた。

にも関わらず、その場から動かずコミックを手に取った。

 

それは何故か?

どうして?

 

 

「……だって、心配させたくないし」

 

 

腕が伸びたからだ。

粘土かスライムみたいに、私の腕が伸びたのだ。

 

 

「まぁ、これが知られると、多分相当ショック受けるだろうけどさ」

 

 

ブルーノが頬を掻いた。

 

あの変な霧を吸ってから、私は身体の形を自由自在に変えられるようになった。

訳が分からない。

 

足を伸ばせば100メートルを10秒で走れるし、手を大きくすれば大きなタイヤだって軽々持てた。

 

スーパーパワーだ。

大した事だ。

 

でも、てんでダメ。

だって私だもん。

 

銃を持った悪人は怖いし、目立つのだって嫌だ。

 

ヒーローになりたいかって?

そりゃあ、なりたいよ。

 

でも、そんな勇気は私にはない。

どうせ恥をかくだけ。

 

私が黙ってパワーを隠していれば、それで毎日がいつも通り。

愛しい母さん(アミ)父さん(アブー)、無職の兄、幸せな家族だ。

ちょっと厳しすぎると思うけど、これも心配してくれてるって証だし。

 

 

「自分以外の何者かにはなりたいけど、今の生活を手放したい訳じゃないし」

 

「何だそれ、新しいヒップホップの歌詞?」

 

「そう思えるなら、私は作詞の才能があるかもね」

 

 

私はベッドからはみ出した足を揺らした。

 

 

「そう。そんな事より、アベンジャーズコンだよ!」

 

「うわっ、まだ諦めてなかったのか?」

 

「諦められる訳ないじゃん!良いなぁ、行きたいなぁ。コスプレだってしたいし」

 

 

私はベッドで腕をバタバタとさせる。

こっそり、大好きなヒーロー、キャプテン・マーベルのコスチュームも作ったのに!

参加すら出来ないなんて、本当にあんまりだ。

 

 

「でも無理なんだろ?カマラの父さんや母さんが許可しない。黙って行ったら大目玉だぞ」

 

「……それだ!ブルーノ、そうだよ」

 

 

私は名案だと、手を叩いた。

 

 

「え?何が?何が名案だ?」

 

「黙って行ったら良いじゃん!このパワー使ったら、部屋がある2階からだって抜け出せる!」

 

「……うぇ」

 

 

ブルーノが物凄く顔を顰めた。

でも、私は気にしない。

 

 

「で?抜け出してどうするんだよ」

 

「バスに乗ってニューヨークまで!コスプレ用のコスチュームはブルーノが持ってきてよ」

 

「え?俺が?というか手伝う事が確定してんの?」

 

 

ブルーノがそれはもう、本当に嫌そうな顔をした。

 

 

「え?良いじゃん、手伝ってよ。一緒に行こうよ、アベンジャーズコン」

 

「……あー、いやでも、カマラの父さんと母さんに悪いし」

 

「お願いだから、ね?」

 

「嫌だ」

 

「お願い!」

 

「…………」

 

 

私が手を組んで頼み込むと……一瞬、ブルーノは変な顔をして目を伏せた。

 

 

「あーもう、分かったよ。俺も手伝う」

 

「やった!ありがとう、ブルーノ!大好き!」

 

「……はぁ、俺も俺のことが大好きだよ」

 

 

ブルーノがため息を吐いた。

 

昔っからブルーノは押しに弱い。

私が強く頼み込むと、何でもやってくれる。

これも友情がなせる技だ。

 

……いや、まぁ、貰いっぱなしは良くないし、適度に恩は返してるつもりなんだけどね。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

で、アベンジャーズコン当日。

 

今日は早寝するねって嘘を吐いて、自室に直行。

パジャマじゃなくて、外行きの服を着て……こっそり、部屋の窓から飛び降りた。

 

二階からだ。

普通なら怪我をするけれど、私は足を伸ばして……手早く着地した。

スーパーパワーを親の目を盗んで外出するのに使うって……私が始めてじゃないだろうか?

 

 

「カマラ、調子はどう?」

 

「そこそこかな」

 

 

標識の前で待ち合わせていたブルーノと合流する。

で、バスに乗る。

 

今の所、作戦通り。

イッツ・パーフェクト。

 

バスに揺られながら、隣に座ってるブルーノに話しかける。

 

 

「で、コスチュームは持ってきてくれた?」

 

「もちろん。リュックの中だ」

 

 

さよなら、ニュージャージー。

初めまして、ニューヨーク。

 

バスから降りた私達は……光り輝く、特設会場に着いた。

 

 

「すっご……」

 

「確かに。思ってたより大きな規模なんだな、アベンジャーズコン」

 

 

まるで移動式の遊園地だ。

各パビリオンには、著名なヒーローを題材にしたアトラクションが設置されてる。

デカいハルクの像が視界に映った。

多分きっと、等身大だ。

 

 

「ほ、ほら!早く行こ、ブルーノ」

 

「待て待て待て、何か大事な事を忘れてないか?」

 

 

ブルーノが芝居がかった話し方をする。

何だ、ブルーノも結構、テンション上がってるじゃん。

 

 

「あ、コスチューム!」

 

「早く着替えて来なよ、待ってるからさ」

 

「うん、ありがとう!ブルーノ!」

 

 

ブルーノから荷物を受け取って、浮かれた気分で更衣室に入る。

着ていた服を脱いで、ロッカーに入れる。

 

そして……私は赤と紺色の合成皮革で出来たコスチュームを着た。

そう、キャプテン・マーベルのコスチュームだ。

 

ついでにマスクもある。

ブルーノがモヒカンにLEDを入れてくれたから、光るギミック付きだ。

 

 

鏡を前に色んな角度を取ってみる。

うん、ばっちり!

完璧なコスチュームだ──

 

 

 

 

ひそひそと、更衣室内で声が聞こえた。

 

私を指差して、同じキャプテン・マーベルに似せたコスチュームを着た……金髪の女性だ。

もう一人は彼女の友人だろうか。

そして、小さな笑い声。

 

嫌な感じ。

無視しようと思ったけど、耳に聞こえた。

 

 

「コスチュームは良いけど、ね」

 

「肌の色も違うし」

 

 

思わず、足を止めそうになった。

だけど、それでも足を止めず……更衣室を出た。

 

少し、歩いて……ブルーノと合流せず、壁にもたれ掛かって……しゃがみ込んだ。

マスクを外して、素顔を晒す。

 

酷い気分だ。

 

悲しくないし、気にしてないのに、目が潤む。

こんな顔、ブルーノには見せられない。

 

落ち着け、落ち着くんだ、私。

 

 

……似てない?

そんなの知ってる。

 

私とキャプテン・マーベルは似てない。

肌の色も、髪の色も、目の色も違う。

だけど、容姿だけじゃない。

勇気がある訳じゃないし、打たれ弱いし。

 

最近、ちょっとしたスーパーパワーを手に入れたけど……何も変わってない。

 

私は普通の……ううん、ちょっと空想癖の強い女の子だ。

 

膝を抱える。

折角、楽しい所に来たんだ。

楽しまないと。

 

そう思えば思うほど、身体は逆に強張って──

 

私は──

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?」

 

 

声を掛けられた。

顔を上げる。

 

私とは正反対の容姿をして……色白のプラチナブロンドの女の子が立っていた。

 

短パンに、ニーハイソックス。

上のシャツは……アイアンマンの顔が大きく印刷された安物のシャツを着ていた。

すっごい、チグハグな見た目だ。

 

私はそれに驚いて涙が引っ込んだ。

凄い美人な女の子が、私に手を伸ばした。

 

 

「……立てる?」

 

「う、うん」

 

 

そのまま引っ張られて立ち上がると……私より身長が少し小さかった。

……年齢は私と同じぐらい、16歳ぐらいだろうか?

 

どこかのパビリオンのモデルさんかな?

って一瞬、思ったけど……私を引っ張った手の逆の方に紙袋が握られていた。

注視してみると……キャプテン・アメリカや、アイアンマンの新品のフィギュアが入っていた。

 

察する。

この人も、アベンジャーズのファンだ。

私と同じ、客なのだと。

 

 

「何かあったの?」

 

「え?いや、そういう訳じゃないけど……」

 

 

ショックを受けていた理由なんて、恥ずかしくて言えそうにない。

 

……でも、すっごくタイミングが悪い事に、あの二人組が私達の前を通った。

小馬鹿にするように私を見て笑って……思わず、拳を握りしめた。

 

そして、そんな私の様子を見て、彼女は分かってしまったらしい。

 

 

「大丈夫、そのスーツは似合ってる」

 

「……慰めようとしてくれてる?」

 

「それもあるけど、これは本音」

 

 

彼女は仄かに笑った。

……思わす見惚れてしまった。

 

だけど、私は首を横に振る。

 

 

「でも、キャプテン・マーベルには似てないって」

 

「……確かに、キャロ……キャプテン・マーベルには似てないかも」

 

 

ほら、やっぱり。

適当に慰めてくれてるだけで──

 

 

「それでも、貴女自身には似合ってる」

 

「……私、自身に?」

 

 

思わず、首を傾げた。

 

 

「うん、凄くヒーローらしくて」

 

「……私はヒーローになれないよ」

 

 

初対面の人間が慰めてくれているのに、私は否定してしまった。

すごく、情けない気分だ。

 

……それに、失礼な事を言っちゃった。

さっきの言葉を取り消そうと口を開いて──

 

 

「私の尊敬する人が言ってた事がある」

 

「…………え?」

 

「誰だってヒーローになれるって」

 

 

コバルトブルーの瞳と、私の視線が衝突する。

赤や青にカラフルに輝く照明に負けず、綺麗な青色をしていた。

 

彼女がまた、口を開いた。

 

 

「肌の色も髪の色も……人種も性別も、年齢だって関係ない。誰かを救えたら、それだけで、その人にとってのヒーローだから」

 

 

その言葉はひび割れた心に深く染み渡った。

思わず、頬を緩めた。

 

 

「……それ、誰が言ってたの?」

 

「キャップ……キャプテン・アメリカ」

 

「うわっ、確かに。すっごく言いそう」

 

 

思わず笑うと、目の前の少女も頬を緩めた。

良い人だ。

それに、趣味も合いそう。

 

 

「うん、もう大丈夫?」

 

「大丈夫、ありがとう」

 

「どういたしまして。それじゃあ──

 

 

彼女が一歩、後ろに引いて……私から離れようとした。

 

本当に通り過がりで、ちょっとした小さな出会いだ。

だけど、私は思わず──

 

 

「ま、待って!」

 

 

呼び止めてしまった。

迷惑になるかも知れないのに。

 

少女は足を止めて、私へ振り返った。

 

 

「えっと、何?」

 

「い、一緒に──

 

 

私の中の小さな勇気を、振り絞る。

コスチュームの裾を手で握る。

 

 

「一緒に、周らない?……よ、良かったらだけど」

 

 

か細く、本当に小さな声で言った。

少女は少し驚いたような顔をして、目を瞬いて……頬を緩めて、頷いた。

 

 

「うん、いいよ。私、今日は一人だから」

 

「あ、えっと、ありがとう」

 

「別に、感謝される事じゃない」

 

「あ、えっと、じゃあ──

 

 

ふと、私は気付いた。

まだ名前を聞いてない。

 

 

「えーっと、名前!名前教えて?」

 

 

私が訊くと、プラチナブロンドの少女が口を開いた。

 

 

「ミシェル・ジェーン=ワトソン……ミシェルって呼んで欲しい」

 

「あ、えっと、よろしく!ミシェル!」

 

 

私が手を伸ばすと、握り返してくれた。

柔らかくて滑らかな肌だ。

 

強く握ったら折れちゃうんじゃないかと、思えるほど繊細。

 

彼女の手から視線を外して、顔を見ると……訝しむような顔をしていた。

 

慌てて手を離す。

うわ、私の悪い癖だ。

集中すると周りが見えなくなる。

 

自己嫌悪してると、ミシェルが口を開いた。

 

 

「それで、貴女の名前は?」

 

「私?私は……カマラ。カマラ・カーンだよ」

 

 

そう、私の名前を告げると……ミシェルが固まった。

顔を強張らせた。

 

 

「……え?カマラ?」

 

「う、うん。カマラだけど?」

 

「……へ、へぇ。そう」

 

 

ミシェルが自分の顔に手を当てた。

……何だか、ショックを受けてる様子だ。

 

私の名前が気に食わなかったのだろうか?

いや、まだちょっとしか話してないけど、そんな人じゃないと思うけど。

 

そして、ミシェルが目を細めた。

 

 

「さっきは偉そうな事を言って、ごめん」

 

「え?えっ?気にしてないけど……寧ろ、嬉しかったぐらいだから!」

 

 

急にそんな事を言うのだから、私は首を振った。

ちょっと変な……というか、こう、抜けてる所がある人みたい。

そう思えると、やっぱりちょっと私に似てるかも、なんて考えて親近感が湧いて来た。

 

しかし、何かを忘れているような気が──

 

 

「あ、ブルーノ!」

 

「ブルーノ?」

 

「友達!待たせてるんだった!」

 

 

慌てる私に、ミシェルが付いてくる。

そうして会場内を早歩きで移動して──

 

 

 

ブルーノの居る場所に戻って来た。

彼はちょっと疲れたような顔で、携帯電話を弄ってた。

 

 

「ごめん!ブルーノ、お待たせ!」

 

「マジで待たせられたけど、どこで道草食って──

 

 

ブルーノの目が、ミシェルの方へ向いた。

パチパチと、数度、瞬きをした。

 

 

「え?誰?」

 

「私はミシェル。よろしく、ブルーノ」

 

「え?うん?よろしく?」

 

 

何も理解出来ず、ブルーノがミシェルと握手した。

めちゃくちゃ困惑している。

 

 

「ちょっと、カマラ、何があったんだ?彼女は誰なんだ?」

 

 

そして、私に説明を求めるように視線を向けて来た。

 

 

「あ、えーっと、それは──

 

 

ふと、先程まで気分が最悪だった事を思い出した。

そして、正直にそれを言うのも……ブルーノの気分を悪くするだけだなって。

 

吃っていると、ミシェルが代わりに口を開いた。

 

 

「カマラは私の落とし物を拾ってくれた。話したら、気が合ったから一緒に周ろうって誘われた」

 

「そう!そうなんだよ、ブルーノ!」

 

 

意図を察してくれたような言葉に、私は頷いて同調した。

 

 

「……カマラにそんなコミュ力があったとは」

 

 

ブルーノが訝しむような事を言うから、私は慌てて口を開いた。

 

 

「オタク仲間だから、友達になるのは簡単なの!ね?」

 

「ん、友達」

 

 

勢い余って友達と言ったけれど、ミシェルは嫌がる素振りを見せずに頷いてくれた。

それが、私を受け入れてくれてるみたいで凄く嬉しかった。

 

 

「……まぁ、いいや。良かったな、カマラ」

 

 

ブルーノは納得がいってないようだったけど、それでも「まぁ良いか」と考えてくれた。

……いや、友達の少ない私に友達が増えたから喜んでくれてるのかな?

なんかちょっとモヤっとしたけど、まぁ、よしとしよう。

 

 

そう。

 

で、ミシェルと話してみたんだけど、彼女も相当にアベンジャーズオタクっぽい。

 

一番好きなヒーローは?って聞いたら──

 

 

「スパ……え、っと、バッキー……ウィンターソルジャー?」

 

 

って答えてた。

理由は何でも「お世話になった事があるから」らしい。

 

それって、昔、助けて貰ったって事でしょ?

会った事もあるんだろうなぁ、羨ましい。

 

 

「私はキャプテン・マーベルが好きだなぁ」

 

「……うん。知ってる」

 

「え?何で?」

 

「あー、えっと、ほら。コスプレが……キャプテン・マーベルだし」

 

 

なんて話しながらも、アベンジャーズコンを回る。

展示品を見たり、等身大の像と写真を撮ったり。

 

 

「え?ミシェルって18歳なの?歳上なんだ……」

 

「うん」

 

「全然そうは見えないけど……」

 

「え?」

 

「おい、カマラ。それは失礼だろ」

 

 

ミシェルと交流を深めつつ、パビリオンを回る。

途中、購買コーナーでなけなしのお小遣いでポスターとタペストリーを買った。

勿論、キャプテン・マーベルのだ。

 

ここのアベンジャーズコンもそうだけど、グッズとかはアイアンマンが……つまり、スタークインダストリーズで販売管理されてるらしい。

広報と資金集めを兼ねてるから、私がこうやってグッズを買う事で、ちょっとはヒーロー活動の手助けになってるのなら嬉しい。

 

まぁ、これは建前で、兎に角、好きなヒーローの公式グッズが売られてるのだから、ありがたく購入させて貰ってる訳だ。

 

私は手提げのバッグに、ポスターとタペストリーを入れた。

 

 

 

「あ、コスプレコンテストやるんだって。観に行こうよ」

 

 

私がそう言うと、ミシェルが首を傾げた。

 

 

「カマラは出ないの?」

 

「……いいよ、私は」

 

 

正直に言うと、ここに来る前は出る気だった。

だけど……ちょっと、自信がなくなってしまった。

元から吹けば吹き飛ぶような自信だったけど。

 

 

「……そっか」

 

 

それに対してミシェルは疑う訳でもなく、理由を訊く訳でもなく、そのまま頷いた。

気遣いって奴だ。

 

対して、ブルーノは……何だか言いたそうにしてた。

 

 

「何?ブルーノ?」

 

「……いや?折角だから出れば良いのにって」

 

「私よりクオリティが高い人いるし。いやだよ」

 

「……人と比べても仕方ないだろ、カマラ」

 

「コンテストってのはそういうのじゃないの?」

 

「……そういう話じゃないんだけどなぁ」

 

「じゃあ、どういう話なの?何言ってんの、ブルーノ」

 

 

ブルーノは時々、訳わかんない事を言う。

まぁ、気にしなくても良い。

 

……何故か、ミシェルがブルーノの肩を軽く叩いてた。

励ましてる感じ?

何でだろう。

 

結局、参加申請もしないまま私はコンテストコーナーの前まで行った。

 

わぁ、凄い。

どれもこれも、お金と手間が掛かったコスプレだ。

私の着ているコスチュームは……ちょっと、手作り感が強いから、見劣りする。

 

ヒーローのコスプレイヤー達がお立ち台の上に代わる代わる乗っていく。

 

そして、その中に──

 

 

私の事をバカにした、ブロンドの女性がいた。

彼女はキャプテン・マーベルのコスプレをしていた。

思わず、顔が強張りそうになって──

 

 

「カマラ?」

 

 

ブルーノに声を掛けられた。

 

 

「な、何?ブルーノ?」

 

「どうかしたか?気分が悪いなら、その、ここから移動するか?」

 

「……えーっと、いいよ。最後まで観たいし」

 

 

私は首を横に振った。

 

悔しいけど、ブロンドの女性は確かに似合ってた。

キャプテン・マーベルにそっくりだった。

……何だか、凄くモヤモヤした気分。

 

そう考えてると、横からミシェルが顔を出した。

そして、遠くにある売店を指差した。

 

 

「カマラ、ちょっと飲み物買ってくる。何か欲しい?」

 

「え?あ、じゃあ……アイアンマンのチェリーソーダで」

 

 

ミシェルは頷いて、そのままブルーノへ視線を向けた。

 

 

「ブルーノは?」

 

「……あー、俺もついて行くよ。3つ持つと重いだろ?」

 

「大丈夫。私、こう見えても結構力持ち」

 

 

ブルーノは気遣いを見せたけど、彼女は首を横に振った。

結局、キャプテン・アメリカのブルー・ソーダにしてた。

 

……これは、彼女なりの気遣いだろう。

落ち込んでいるのが分かったから、何か飲んで食べて気を紛らわそうって考えだ。

うん、そう考えると、歳上っぽくないと思ってたけど……確かに『大人』だなぁと納得した。

 

……あっ、お金渡し忘れてた。

後で払わないと。

 

そう反省していると、ブルーノが笑った。

 

 

「良い人だな」

 

「うん、そう思う。アベンジャーズ・コンに来て良かった」

 

「パビリオンの展示よりも、新しい友達の方が嬉しいんだろ?」

 

「……よく分かったね?」

 

「まぁ、幼馴染だからな」

 

 

ここまで一緒にアベンジャーズコンを周って、凄く楽しかった。

……この出会いを、交流を、ここで終わらせたくないと思えた。

 

 

「後で、連絡先交換して貰おっと……大丈夫かな?自惚れてるとか思われないかな?」

 

「大丈夫だろ。俺から見ても仲良さそうだったし」

 

「そ、そっか。そうだよね?」

 

 

早く戻って来ないかな、なんて思いながら……コンテストの方へ目を向けた。

 

……何か、変な音がする。

キリキリって音。

 

 

「ねぇ、ブルーノ。変な音しない?」

 

「え?何が?」

 

 

ブルーノは気付いてない。

……ふと、上を見た。

 

ソーのハンマー、『ムジョルニア』を模した大きなバルーンが浮いている。

そこから、聞こえるような気が──

 

ブツン!

 

と今度こそ誰にでも聞こえるぐらい大きな音がした。

直後、『ムジョルニア』のバルーンが大きく動いた。

 

柄の部分を支えていた紐が切れたんだ。

 

そう気付いた時には……振り子のように大きく動いたバルーンが、コンテストのお立ち台にぶつかった。

 

 

悲鳴が聞こえた。

 

 

私の事をバカにしてたきブロンドの女性だった。

彼女は『ムジョルニア』のバルーンに弾き飛ばされて……天井近くまで吹っ飛んだ。

 

バルーン自体は硬くない。

怪我は多分ない。

 

だけど、その高さから落下したら……間違いなく、怪我をする。

下手をすれば死ぬかもしれない。

 

 

私は──

 

 

私なら、助けられるかも知れない。

 

 

だけど、この『能力』が知られれば厄介な事になる。

家族と離れ離れになるかも知れない。

 

それに嫌な奴だった。

私の事、バカにしてたし。

 

 

私が助ける理由なんて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰だってヒーローになれる』

『誰かを救えたら、それだけで、その人にとってのヒーローだから』

 

さっき、そう言われた。

 

 

『正しい人が善行を行う訳じゃない』

『善行を行う者が正しい人になるだけだ』

『行動が先だ。人助けをする者は祝福を受ける』

 

昔、父さん(アブー)に言われた。

 

 

 

大丈夫だ。

もう迷わない。

 

普通(フツー)だったら、助けられない。

でも、私はもう普通(フツー)じゃない。

 

 

片手を塞いでいた荷物を落として。

脇に挟んでいたマスクをかぶって。

 

手を伸ばす。

大きく広げて。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

数メートルに伸びた腕の先で、大きくなった手の平で……落下する女性をキャッチした。

大丈夫、衝撃は吸収したから怪我はない。

 

 

 

悲鳴が、怒声が、一瞬止んだ。

周りの目が私に集まる。

 

 

「お、おい何だよアレ」

 

「すげぇ……」

 

 

注目の的だ。

驚愕と、恐怖が半々……みたいだけど。

 

 

真横にいるブルーノを見る。

驚いたような顔で、固まっていた。

 

 

後悔なんてしないよ。

でも、ちょっと……面倒な事になっちゃったな、とは思う。

 

 

直後、私は──

 

 

大きく伸ばした腕でブルーノを持って、大きく伸ばした足で駆け出して……会場から逃げだした。

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