【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

121 / 138
#13 ノー・ノーマル part2

排気ガスで星も見えない空の下。

知らない街。

右も左も分からぬまま私は走っていた。

 

どうしよう!どうしよう!どうしよう!

顔バレちゃったかな!?

動画撮られてたらどうしよう!?

 

 

──マラ、──ラ!」

 

 

やっぱり助けなかった方がいいかな?

いいや、見捨てたらきっと私、母さん(アミ)父さん(アブー)に顔向け出来なくなってた!

だから、後悔はしない!

しちゃダメだ!

 

 

「カマラ!」

 

 

私を呼ぶ声に気づいて、視線を下げた。

ブルーノの顔は青くなっていた。

 

 

「え、わっ、ブルーノ?何!?」

 

「とっ、ずっ、取り敢えず、止ま、れ!」

 

 

4メートルほどの棒人間のような巨人になってドタバタと走ってた私は、足を止めた。

そして、ブルーノに視線を向ける。

 

 

「それで何!?何か大変なことが──

 

「め、メチャクチャ揺れてて、やばい。死ぬ……」

 

「え?わ、わっ、ごめん!ブルーノ!」

 

 

慌てて、ブルーノを地面に下ろして……私も元のサイズに戻る。

彼は吐き気を堪えながら、深呼吸をしている。

 

振り向く。

後ろから追いかけてくる人とかは、居ないみたい。

そりゃあ私、車よりも速く走ってたし……追い付けないか。

 

ぐったりしてるブルーノが、コンクリートの壁に手をついた。

コンクリートの壁にはスプレーで落書きがされていた。

 

彼は息を深く吐いて、私に視線を向けた。

 

 

「おぇっ……さっきは……すごく、目立ってたな」

 

「え、あ、うん……ごめん、余計な事しちゃった」

 

 

私の言葉に、ブルーノは苦笑した。

 

 

「いや……余計な事じゃないだろ。必要な事だった、カマラもそう思うだろ?」

 

「えーっと……うん、反省はしてないけど」

 

「……ふぅ。それでいいよ、カマラらしくて」

 

 

微かにブルーノが笑って、しゃがみ込んだ。

私も疲れたから、壁にもたれ掛かる。

 

……何か、手元が寂しい気がする。

何でだろう。

 

手を閉じて開いて、閉じて開いて……気付いた。

 

 

「あ……あーっ!」

 

 

私は声をあげた。

ブルーノが肩を跳ねさせた。

 

 

「な、何?どうした?」

 

「荷物、全部会場に置いて来ちゃった!」

 

 

携帯電話も、着替えも、買ったグッズも。

全部が入ったバッグを、アベンジャーズ・コンの会場に置いて来てしまったのだ。

 

 

「え?そりゃあ……ヤバくないか?」

 

「ヤバいよ!母さん(アミ)に怒られる!」

 

 

思わず顔を窄めて悩む。

今から会場に戻る?

ダメだ、顔がバレてる。

揉みくちゃにされる……だけならいい。

全国に顔がバラ撒かれたら……私は家に帰れなくなっちゃう。

 

 

「そ、それに──

 

 

新しく出来た友人、ミシェル。

彼女も置いてけぼりにしてしまった。

それに連絡先も教えて貰ってない。

二度と会えない……かも。

 

ううん、そんな事より、私が大きくなった所を見られたかもしれない。

そしたら、怖がられたり、気味悪がられると思う。

 

……折角、仲良くなったのに。

 

これからの事を考えると胃が痛む。

蹲って、小さくなりたかった。

物理的にも、精神的にも。

 

 

カツーン。

カツーン。

 

 

と……静かな夜道で何かが跳ねる音が聞こえる。

 

 

「……ブルーノ?」

 

「いや、今度は俺も聞こえてるよ」

 

 

それは少しずつ、大きくなっている。

……近付いて来てるのが分かった。

 

私達を追って来た何者が迫って来ている!

 

 

「ど、どうしよう……誰?何!?」

 

「待て。落ち着け、カマラ」

 

 

ネガティブなイメージが脳裏に映る。

 

 

「ヤバいって……きっと私のパワーを見た闇の組織だって!私、マッドサイエンティストに解剖されちゃうんだ!それで私の遺伝子を使ってスーパーパワーを持ったクローンが量産されてっ──

 

「おまっ、少し静かにしろって!そんなに声を出したら──

 

 

すぐ側の倉庫の天井から、音が聞こえた。

そして、音が建物の天井を走る音だという事に気付いた。

 

 

「あ、あぁっ──

 

 

怯えて変な声を出した瞬間……何者かが飛び降りて来た。

数メートルからの高さだ。

普通の人間なら大怪我をするような高さだけど……飛び降りて来た何者かは、よろめく素振りも見せない。

 

ヤバい。

絶対にヤバい組織のスパイだ。

スーパーパワーを持った殺し屋で、私の事を殺しに来たんだ!

 

そう思った瞬間、飛び降りて来た何者かが、私の方へ近づいて来て……街灯に照らされた。

 

 

「「え?」」

 

 

私とブルーノは、揃って素っ頓狂な声を出した。

その、暗闇の中、私を追って来てたのは──

 

 

「ミ、ミシェル?」

 

 

ミシェルだった。

 

 

「ふぅ……やっと追い付いた」

 

 

そう言いながら、ミシェルは首を捻った。

 

……汗一つかいてない、息も乱れてない。

疲労の様子は見当たらない。

 

私、さっき凄い速さで走ってたつもりなんだけど……?

結構な距離を屋根伝いで飛んで跳ねて来たんでしょ?

何で?

 

いや、そもそも建物と建物の間は結構離れてるし、何メートル飛んでるの?

 

 

「あ、えっと……」

 

 

私の心を占めるのは困惑。

それと、ほんのちょっとの疑惑。

 

少しずつ彼女は私に近付いてくる。

 

身が固まる。

彼女が何者なのか分からなくて、私は怯えて──

 

 

「カマラ、これ。忘れ物」

 

 

ミシェルがそう言って、私に何かを渡した。

……あ、私のバッグだ。

取りに帰ろうか迷っていた荷物が詰まっている。

 

 

「え?あ、ありがとう」

 

「頼まれてた飲み物は持ってこれなかったけど」

 

「……そ、そんなの全然いいよ……?」

 

 

私の言葉に、ミシェルが僅かに頬を緩めた。

対して私は苦笑した。

……怯えてる私が馬鹿みたいだから。

 

こんな優しくて可愛い女の子が、悪の秘密結社の殺し屋な訳ない。

 

 

「……んん、ごほん!」

 

 

ブルーノがわざとらしく咳き込む。

私とミシェルは彼を一瞥した。

 

 

「ブルーノ?」

 

 

微妙な空気の中、ブルーノが口を開いた。

 

 

「あー……ミシェルも、何かスーパーパワーを持っていたのか?」

 

「……まぁ、ちょっとだけ」

 

 

ちょっと?

暗闇で迷わず私を追いかけてこれるのに?

謙遜し過ぎだ。

 

……ふと、一つ気付いた。

 

 

「もしかして、私に声を掛けてくれたのって……私が、スーパーパワーを持ってるから──

 

「それは違う」

 

 

最後まで言う前に、ミシェルが首を振った。

 

 

「じゃあ、何の目的で……?」

 

「え?別に理由はないけど……」

 

「……偶然?」

 

「ん、偶然」

 

 

その返答に、私は『良かった』と思えた。

だって、彼女は私の力じゃなくて、私自身を見てくれていたって事でしょ?

私が一方的に感じていた感情じゃなかったんだ。

 

自分の後ろ髪を撫でる。

嬉しかったからだ。

 

分厚い排気ガスの雲を貫通して、月の光が見えた。

夜風が涼しくて、心地よい。

 

そして、ブルーノが首を傾げた。

 

 

「それじゃあ、結局ミシェルは何者なんだ?」

 

「……何者って?普通に休日だからアベンジャーズ・コン来ただけ、だけど?」

 

「……そうか」

 

 

ブルーノが顔を手で覆った。

気持ちは分かる。

 

警戒してる自分がバカらしく思えて来たのだろう。

 

ま、私はもうとっくに警戒を解いてるけど。

気楽に話しかけられるし。

 

 

「ミシェルって普段、何してるの?もしかして、非合法のヒーロー活動してるクライムファイターみたいな?」

 

「いや……ん、えっと……あ。IDを見せる」

 

 

ミシェルが自分のカバンをゴソゴソと漁って、パスケースを出した。

それを私に提示した。

 

 

「安心していい。公共機関の人間だから、悪い事はしてない」

 

 

そこには──

 

 

『S.H.I.E.L.D.』

『AGENT』

『MICHELL JONES-WATSON』

 

 

と最低限の情報と、鷹のマークが入ったカードが入っていた。

これって……『S.H.I.E.L.D.』のIDカード?

 

 

「……ミシェル」

 

「何?」

 

「身分証の偽装は犯罪だよ。知らなかったかも知れないけど……」

 

「え?」

 

 

私はため息を吐いた。

彼女がアベンジャーズオタクなのは知っていた。

好きが高じて、こんな物を作ってしまったのだろう。

 

けれど、公共機関の身分証の偽装は犯罪だ。

ここはちょっと厳しめに言っておかなければ──

 

 

「にしても、よく出来てるね?本物みたい」

 

「え、いや……本物……だけど……」

 

 

ミシェルが先程までとは違って、少し困ったような表情で首を傾げた。

 

 

「カマラ、それは本物だ」

 

 

ブルーノが手元のスマートフォンを触りながら、そう言って来た。

 

 

「え?そんな訳が──

 

「ここにシリアルコードがあるだろ。今さっき、公共の『S.H.I.E.L.D.』サイトで見てたけど……ほら、シリアルコードと、キー番号、マークが一致してる」

 

 

『S.H.I.E.L.D.』は基本、特例的に警察官達より事件現場での立場が強い。

だから、偽装できないように幾つかのキーを紐づけると、IDが本物か確認できるようになってるらしい。

 

 

「……え?つまり、どういうこと?」

 

「彼女は本当に『S.H.I.E.L.D.』のエージェントだって事だ」

 

「本当に?」

 

「……ん」

 

 

ミシェルが腕を組んで頷いた。

私は驚いて、口を開いた。

 

 

「『S.H.I.E.L.D.』に所属してるのに、アベンジャーズ・コン来てたの!?……何で?」

 

 

夜風が私とミシェルの間を通り抜けた。

 

 

「「…………」」

 

 

無言で静まり返り、風の音が耳に響く。

 

彼女の眉尻がみるみる内に下がっていった。

何というか、こう、情けない表情になる。

 

そして、彼女は震える口を開いた。

 

 

「……趣味と仕事が同じなだけ」

 

 

その表情が無性に面白くて、私はちょっと吹き出しそうになった。

ブルーノに脇を肘で突かれて、何とか耐えたけど。

 

ミシェルが自身の手元に口を当てて、少し咳き込んだ。

話を無理矢理戻すつもりだ。

 

 

「とにかく、私は『S.H.I.E.L.D.』に所属してるから……カマラの事を上司に報告しないとダメ」

 

 

そう言われて──

 

 

「え!?いやっ、こま、困る……」

 

 

慌てて首を振った。

スーパーパワーには責任が付き纏う。

それは分かる。

 

だけど、それ以上に母さん(アミ)父さん(アブー)に心配をかけたくない。

厄介ごとに巻き込みたくなかった。

 

そんな私の反応を見て、ミシェルは安心させるように私の肩を叩いた。

 

 

「大丈夫、悪いようにはならないようにする」

 

「ミシェル」

 

「……出来るだけ」

 

「ミシェル……」

 

 

思わず眉尻を下げた。

何とも頼りなかったからだ。

 

 

「ん、そう。だから、連絡先を私と交換すべき」

 

「……いいの?」

 

「え?勿論だけど」

 

 

こうして私はミシェルと連絡先を交換した。

ついでにブルーノもミシェルと交換した。

……私の少ない連絡先リストに彼女の名前が刻まれ、少し嬉しくなった。

 

 

「じゃ、私……ちょっと報告とかしないといけなくなったから、今日は帰る。困った事があったら連絡して」

 

「え、うん……その、ありがとう!ミシェル」

 

 

私は手を握って、礼を言う。

 

ミシェルはちょっと眩しそうに目を細めた。

夜道なのに。

 

 

「カマラも、後で面倒になるかも知れないのに……人助けしたの、カッコよかった」

 

「それは──

 

 

私はあの時、確かに迷った。

助けるべきか、動かないべきか。

 

だけど、背を押したのは家族と──

 

 

「ミシェルのお陰だよ」

 

「……え?私?」

 

 

ミシェルが心底、困惑したような顔で私を見た。

長いまつ毛がパチパチと瞬いている。

 

 

「うん、だから……凄く、感謝してる」

 

「……えっと……うん、そっか。どういたしまして」

 

 

ミシェルが少し悩んで、頷いた。

私の感謝の気持ちを無理解で済ませず、飲み込んだんだ。

……そんな仕草に、彼女の優しさを感じた。

 

握っている手を、少し強める。

 

 

「……その、ミシェル」

 

「何?分からない事があるなら、私が教える」

 

 

ミシェルはそう言った。

私は胸に秘めていた想いを、言葉にする。

 

 

「わ、私達って……友達、だよね?」

 

 

否定される事はないと思っていて……それでも、少し怖かった。

私には空想癖がある。

何でも知ったような気になって想像して、空回りしてしまう事がある。

だから、こうやって確認しないと……怖くて──

 

 

「うん、友達。私はそう思ってる」

 

 

だから、こうやって肯定してくれるのが凄く嬉しかった。

 

目が潤む。

悲しいからじゃない、嬉しいからだ。

 

 

「……また、アベンジャーズの話してもいい?」

 

「勿論」

 

「どこかに、お出かけ誘ってもいい?」

 

「いいよ、メールしてくれたら」

 

 

軽くハグをして、離れる。

ミシェルは思っていたよりも細くて、ビックリした。

……こんな体のどこに、スーパーパワーがあるのだろうか。

 

それは私も同じか。

彼女よりは、そう、贅肉が付いてるけど。

 

違う。

私は平均だ。

彼女が細すぎる。

 

ふと、ミシェルがブルーノを一瞥した。

 

 

「あ、大丈夫。ブルーノも友達」

 

「……そりゃ、どうも」

 

 

ブルーノが頭を軽く下げた。

冷めた態度だけど、少し頬が緩んでいるのを私は見逃さなかった。

 

 

「それじゃ、二人とも。またね」

 

 

そう言ってミシェルは元来た道を戻って行った。

……今、壁を直接駆け上がってなかった?

凄い距離を飛んでるし……アレって飛行してる訳じゃなくて、単純に凄いジャンプをしてるだけだよね?

 

キックとかされたら、お腹に穴が空きそうだ。

……喧嘩はしないようにしよう。

そもそも喧嘩になるような事はないと思うけど。

 

 

「……カマラ、良かったな」

 

 

ブルーノが感慨深そうに頷いた。

私は目を細める。

 

 

「ブルーノも嬉しそうだね」

 

「まぁな」

 

「可愛い女の子と友達になれたもんね」

 

 

私がそう言うと、ブルーノは苦い物を食べたような顔をした。

 

 

「……そういうのじゃない」

 

「違うの?」

 

「それより、早く帰るぞ。カマラの母さんが寝室に入ってこない保証はないし」

 

 

ブルーノがスマホの画面を私に見せた。

地図アプリでは、最寄りのバス停まで徒歩10分と書いてあった。

 

 

こうして、私の人生を一変させるような出来事は終わりを迎えた。

良い事だらけのハッピーな起源(オリジン)でしょ?

行きたかったアベンジャーズ・コンに行けたし。

人助けも出来たし、友達も出来た。

 

夢のような一夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、自室に入ろうとした瞬間、父さん(アブー)に見つかっちゃった。

無断外出と門限破り……何より、母さん(アミ)に嘘を吐いた事を、それはもう怒られた。

 

そして、一ヶ月の外出禁止の罰を受けた。

 

門限を破って怒られるヒーローなんている?

多分、居ないと思う。

 

だから、私はまだヒーローじゃない。

ただの、カマラ・カーンだ。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

アベンジャーズ・タワー内部。

『S.H.I.E.L.D.』長官室に私、ニック・フューリーは居た。

 

椅子に座り、ミシェル・ジェーン=ワトソンから送られてきた報告書を確認する。

 

未だ、エージェント候補生という立場である彼女ではあるが、最近はこういう事務作業や、危険ではない仕事を少しずつ任されている。

OJT(見習い)のような物だ。

 

 

報告書に書かれているのは、先日の事故……そして、その場に居合わせた特殊な能力を持つ少女、カマラ・カーンについてだ。

私としては即座に彼女自身と会話したい案件だが、ミシェル曰く今は隠匿中だそうだ。

ティーンエイジャーの少女らしく、家族に面倒ごとがバレるのは避けたいと……そう考えているらしい。

 

別に急いでいる訳じゃない。

タイミングを見計らい接触すれば良いだろう。

 

報告の内容から、彼女は善性と自制心を持っている事は分かっている。

放って置いても、誰かを傷付ける事はない……と、思いたい。

 

その辺りは、ミシェルに任せておけば良い。

彼女は既に、カマラと友好関係を結んでいるようだからだ。

何かあれば彼女を経由して私に報告されるだろう。

 

 

しかし、問題は……彼女自身ではない。

彼女の能力……その、原因。

 

後日、ミシェルが確認した、カマラ・カーンが能力に目覚めた『きっかけ』。

 

謎の『霧』。

それに、私は覚えがあった。

 

 

「……テリジェン・ミストか」

 

 

それは地球外に存在する特殊な能力を持った人間、インヒューマンズ……彼等の能力を発現させるための特殊な物質だ。

 

インヒューマンズ。

それは遥か昔に、宇宙人であるクリー人に改造された原始人の子孫だ。

一般的な地球人よりも優れた力を持ち、特殊な能力を持つ……超人類だ。

今も、その血を受け継ぐ者が地球人に紛れている。

己がそうだと知らずに。

 

つまり、カマラ・カーンはインヒューマンズの血を引く者であり、テリジェン・ミストによって能力に目覚めたのだ。

 

 

「だが──

 

 

テリジェン・ミスト。

その管理は月に存在するインヒューマン達が住む首都アッティラン……その王であるブラック・ボルトが管理していた。

 

……そう、つい最近までは。

 

首都アッティランは何者かの侵略によって崩壊し、消滅した。

結果、テリジェン・ミストは地球に飛来し……様々な問題が起きた。

 

今は解決したが……カマラ・カーンはそれに巻き込まれた、という訳か。

 

 

「……厄介な事だな」

 

 

インヒューマンズの血を引く者は……何人いる?

能力を隠し生きている人間が何人いる?

そこから、この国を脅かす者は産まれるのか?

 

分からない。

だからこそ、厄介だ。

 

深く、息を吐いて……椅子に深く座り込む。

 

 

「……新人類(ニュー・ヒューマン)か」

 

 

新たなる力に目覚めた、新世代のインヒューマンズ。

善悪関係なく力を手に入れてしまった者達が……多数、現れるだろう。

 

この国に波乱が起こる。

そんな懸念に、私は眉を顰めた。

 

特殊な力を持った超人に、無辜の人々は立ち向かえない。

無駄死にするだけだ。

 

だからこそ、力が必要だ。

未熟でも良い……誰かを助けようと行動できる、若き灯火が。

 

手元のタブレットを操作して、リストを開く。

 

そこに『カマラ・カーン』の名前を刻み込んだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

翌日の朝、私はピーターの部屋でシリアルを食べていた。

牛乳に浸したシリアルを貪る。

 

ピーターはベッドのシーツを剥いで、洗濯にかけていた。

私がやると言ったのだが、ピーターは自分が家主だからと譲らなかった。

 

結果、一人で黙々と朝食を食べる私が誕生したのだ。

 

 

型落ちした液晶テレビに、ニュースが映る。

先日のアベンジャーズ・コンのニュースだった。

思わず、注視する。

 

 

そこには、天井近くから落下する女性を助ける……コスプレに身を隠したカマラの姿があった。

 

 

『先日、ニューヨーク市内で発生した事故について、救出されたコスプレイヤーの──

 

 

そして、彼女の事を馬鹿にしていたブロンドの女性が画面に映し出された。

 

 

『彼女は命の恩人です。私、彼女にとても酷い事を言ったのに……それでも、助けてくれたんです。彼女こそ、本当のヒーローです』

 

 

少し、涙ぐみながら……そう言った。

そこに嘘や、人に良い格好をしようという素振りはなかった。

 

……それを見て少し、嬉しくなった。

彼女にとって、カマラは本当のヒーローになった。

そして、ヒーローの輝きは人を変える。

……彼女も、良い方向に変わる事が出来たのだろう。

 

それはカマラのお陰だ。

 

テレビにまた、キャプテン・マーベルのコスチュームの後ろ姿が映る。

……顔の分かる映像は『S.H.I.E.L.D.』が圧力をかけて削除させたのだろう。

ニック・フューリーに感謝しなければならない。

 

 

『このスーパー・パワーを持ったヒーローは何者でしょうか……?今日は専門家の方に来てもらいました』

 

『何者かは分かりません。ですが見て下さい。彼女のコスチュームは……キャプテン・マーベルを模しています』

 

『……そうですね』

 

『昔、キャプテン・マーベルは『ミズ・マーベル』と名乗っていました。歴代、様々な人が『ミズ・マーベル』を名乗って居ましたが……今は居ません』

 

 

私はスプーンを動かす手を止めて、テレビを見ている。

 

 

『空席の名前と、そのヒーローの姿を模した超人……これはきっと、偶然ではありません』

 

『そう言いますと?』

 

『彼女は……四代目『ミズ・マーベル』。私はそう呼ぼうと思います』

 

 

私は頬を緩めて、息を深く吐いた。

そうか……この世界でも、彼女はそう呼ばれるのか……と。

 

 

「ミシェル、そろそろ食べ終わった?」

 

 

片付けを終えたピーターが、私の後ろから声を掛けてきた。

 

 

「ん……ちょっと食器、洗ってくる」

 

「僕が──

 

「いい。何でもやって貰ってたら、私、牛になってしまう」

 

 

私は笑いながら、洗面台に立った。

水は冷たい。

ピーターの部屋に、温水器のような気が利いた物はない。

 

ピーターに向かって、振り返る。

 

 

「これが終わったら、行く?」

 

「うん、僕は準備OKだよ」

 

 

洗った食器をカゴに入れて、振り返る。

アベンジャーズ・コンのグッズが入った紙袋を持って、ピーターと部屋を出る。

 

ピーターから貰った合鍵でドアを閉め、彼と手を繋ぐ。

 

 

「僕、ちょっと緊張してきたよ」

 

「大丈夫。また仲良くなれる」

 

 

これから行くのは、ネッドの場所だ。

私が持っているのは手土産だ。

 

ピーターとネッドの初会合だ。

彼は少し心配そうにしてるけど、きっと大丈夫。

二人はまた仲良くなって、親友になれる筈だ。

 

私が微笑むと、ピーターも眉間に寄った心配そうな皺を緩めた。

 

 

先日、ピーターは高卒認定試験を合格した。

グウェンとハリーとも、細々と友好関係を結んでいる。

これからネッドとも……。

 

少しずつ、少しずつだけど……失った物を取り戻しつつある。

 

元には戻らないけど、新しい形として……生まれ変わっていく。

 

それを喜ばしく思う。

彼の人生に、私が少しでも良い影響を与えられているのならば……それだけで、私は自分の価値を信じられる。

 

二人、手を結んで……日光の降り注ぐ道を歩み出した。




次回、ボーン・アゲイン。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。