【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
排気ガスで星も見えない空の下。
知らない街。
右も左も分からぬまま私は走っていた。
どうしよう!どうしよう!どうしよう!
顔バレちゃったかな!?
動画撮られてたらどうしよう!?
──マラ、──ラ!」
やっぱり助けなかった方がいいかな?
いいや、見捨てたらきっと私、
だから、後悔はしない!
しちゃダメだ!
「カマラ!」
私を呼ぶ声に気づいて、視線を下げた。
ブルーノの顔は青くなっていた。
「え、わっ、ブルーノ?何!?」
「とっ、ずっ、取り敢えず、止ま、れ!」
4メートルほどの棒人間のような巨人になってドタバタと走ってた私は、足を止めた。
そして、ブルーノに視線を向ける。
「それで何!?何か大変なことが──
「め、メチャクチャ揺れてて、やばい。死ぬ……」
「え?わ、わっ、ごめん!ブルーノ!」
慌てて、ブルーノを地面に下ろして……私も元のサイズに戻る。
彼は吐き気を堪えながら、深呼吸をしている。
振り向く。
後ろから追いかけてくる人とかは、居ないみたい。
そりゃあ私、車よりも速く走ってたし……追い付けないか。
ぐったりしてるブルーノが、コンクリートの壁に手をついた。
コンクリートの壁にはスプレーで落書きがされていた。
彼は息を深く吐いて、私に視線を向けた。
「おぇっ……さっきは……すごく、目立ってたな」
「え、あ、うん……ごめん、余計な事しちゃった」
私の言葉に、ブルーノは苦笑した。
「いや……余計な事じゃないだろ。必要な事だった、カマラもそう思うだろ?」
「えーっと……うん、反省はしてないけど」
「……ふぅ。それでいいよ、カマラらしくて」
微かにブルーノが笑って、しゃがみ込んだ。
私も疲れたから、壁にもたれ掛かる。
……何か、手元が寂しい気がする。
何でだろう。
手を閉じて開いて、閉じて開いて……気付いた。
「あ……あーっ!」
私は声をあげた。
ブルーノが肩を跳ねさせた。
「な、何?どうした?」
「荷物、全部会場に置いて来ちゃった!」
携帯電話も、着替えも、買ったグッズも。
全部が入ったバッグを、アベンジャーズ・コンの会場に置いて来てしまったのだ。
「え?そりゃあ……ヤバくないか?」
「ヤバいよ!
思わず顔を窄めて悩む。
今から会場に戻る?
ダメだ、顔がバレてる。
揉みくちゃにされる……だけならいい。
全国に顔がバラ撒かれたら……私は家に帰れなくなっちゃう。
「そ、それに──
新しく出来た友人、ミシェル。
彼女も置いてけぼりにしてしまった。
それに連絡先も教えて貰ってない。
二度と会えない……かも。
ううん、そんな事より、私が大きくなった所を見られたかもしれない。
そしたら、怖がられたり、気味悪がられると思う。
……折角、仲良くなったのに。
これからの事を考えると胃が痛む。
蹲って、小さくなりたかった。
物理的にも、精神的にも。
カツーン。
カツーン。
と……静かな夜道で何かが跳ねる音が聞こえる。
「……ブルーノ?」
「いや、今度は俺も聞こえてるよ」
それは少しずつ、大きくなっている。
……近付いて来てるのが分かった。
私達を追って来た何者が迫って来ている!
「ど、どうしよう……誰?何!?」
「待て。落ち着け、カマラ」
ネガティブなイメージが脳裏に映る。
「ヤバいって……きっと私のパワーを見た闇の組織だって!私、マッドサイエンティストに解剖されちゃうんだ!それで私の遺伝子を使ってスーパーパワーを持ったクローンが量産されてっ──
「おまっ、少し静かにしろって!そんなに声を出したら──
すぐ側の倉庫の天井から、音が聞こえた。
そして、音が建物の天井を走る音だという事に気付いた。
「あ、あぁっ──
怯えて変な声を出した瞬間……何者かが飛び降りて来た。
数メートルからの高さだ。
普通の人間なら大怪我をするような高さだけど……飛び降りて来た何者かは、よろめく素振りも見せない。
ヤバい。
絶対にヤバい組織のスパイだ。
スーパーパワーを持った殺し屋で、私の事を殺しに来たんだ!
そう思った瞬間、飛び降りて来た何者かが、私の方へ近づいて来て……街灯に照らされた。
「「え?」」
私とブルーノは、揃って素っ頓狂な声を出した。
その、暗闇の中、私を追って来てたのは──
「ミ、ミシェル?」
ミシェルだった。
「ふぅ……やっと追い付いた」
そう言いながら、ミシェルは首を捻った。
……汗一つかいてない、息も乱れてない。
疲労の様子は見当たらない。
私、さっき凄い速さで走ってたつもりなんだけど……?
結構な距離を屋根伝いで飛んで跳ねて来たんでしょ?
何で?
いや、そもそも建物と建物の間は結構離れてるし、何メートル飛んでるの?
「あ、えっと……」
私の心を占めるのは困惑。
それと、ほんのちょっとの疑惑。
少しずつ彼女は私に近付いてくる。
身が固まる。
彼女が何者なのか分からなくて、私は怯えて──
「カマラ、これ。忘れ物」
ミシェルがそう言って、私に何かを渡した。
……あ、私のバッグだ。
取りに帰ろうか迷っていた荷物が詰まっている。
「え?あ、ありがとう」
「頼まれてた飲み物は持ってこれなかったけど」
「……そ、そんなの全然いいよ……?」
私の言葉に、ミシェルが僅かに頬を緩めた。
対して私は苦笑した。
……怯えてる私が馬鹿みたいだから。
こんな優しくて可愛い女の子が、悪の秘密結社の殺し屋な訳ない。
「……んん、ごほん!」
ブルーノがわざとらしく咳き込む。
私とミシェルは彼を一瞥した。
「ブルーノ?」
微妙な空気の中、ブルーノが口を開いた。
「あー……ミシェルも、何かスーパーパワーを持っていたのか?」
「……まぁ、ちょっとだけ」
ちょっと?
暗闇で迷わず私を追いかけてこれるのに?
謙遜し過ぎだ。
……ふと、一つ気付いた。
「もしかして、私に声を掛けてくれたのって……私が、スーパーパワーを持ってるから──
「それは違う」
最後まで言う前に、ミシェルが首を振った。
「じゃあ、何の目的で……?」
「え?別に理由はないけど……」
「……偶然?」
「ん、偶然」
その返答に、私は『良かった』と思えた。
だって、彼女は私の力じゃなくて、私自身を見てくれていたって事でしょ?
私が一方的に感じていた感情じゃなかったんだ。
自分の後ろ髪を撫でる。
嬉しかったからだ。
分厚い排気ガスの雲を貫通して、月の光が見えた。
夜風が涼しくて、心地よい。
そして、ブルーノが首を傾げた。
「それじゃあ、結局ミシェルは何者なんだ?」
「……何者って?普通に休日だからアベンジャーズ・コン来ただけ、だけど?」
「……そうか」
ブルーノが顔を手で覆った。
気持ちは分かる。
警戒してる自分がバカらしく思えて来たのだろう。
ま、私はもうとっくに警戒を解いてるけど。
気楽に話しかけられるし。
「ミシェルって普段、何してるの?もしかして、非合法のヒーロー活動してるクライムファイターみたいな?」
「いや……ん、えっと……あ。IDを見せる」
ミシェルが自分のカバンをゴソゴソと漁って、パスケースを出した。
それを私に提示した。
「安心していい。公共機関の人間だから、悪い事はしてない」
そこには──
『S.H.I.E.L.D.』
『AGENT』
『MICHELL JONES-WATSON』
と最低限の情報と、鷹のマークが入ったカードが入っていた。
これって……『S.H.I.E.L.D.』のIDカード?
「……ミシェル」
「何?」
「身分証の偽装は犯罪だよ。知らなかったかも知れないけど……」
「え?」
私はため息を吐いた。
彼女がアベンジャーズオタクなのは知っていた。
好きが高じて、こんな物を作ってしまったのだろう。
けれど、公共機関の身分証の偽装は犯罪だ。
ここはちょっと厳しめに言っておかなければ──
「にしても、よく出来てるね?本物みたい」
「え、いや……本物……だけど……」
ミシェルが先程までとは違って、少し困ったような表情で首を傾げた。
「カマラ、それは本物だ」
ブルーノが手元のスマートフォンを触りながら、そう言って来た。
「え?そんな訳が──
「ここにシリアルコードがあるだろ。今さっき、公共の『S.H.I.E.L.D.』サイトで見てたけど……ほら、シリアルコードと、キー番号、マークが一致してる」
『S.H.I.E.L.D.』は基本、特例的に警察官達より事件現場での立場が強い。
だから、偽装できないように幾つかのキーを紐づけると、IDが本物か確認できるようになってるらしい。
「……え?つまり、どういうこと?」
「彼女は本当に『S.H.I.E.L.D.』のエージェントだって事だ」
「本当に?」
「……ん」
ミシェルが腕を組んで頷いた。
私は驚いて、口を開いた。
「『S.H.I.E.L.D.』に所属してるのに、アベンジャーズ・コン来てたの!?……何で?」
夜風が私とミシェルの間を通り抜けた。
「「…………」」
無言で静まり返り、風の音が耳に響く。
彼女の眉尻がみるみる内に下がっていった。
何というか、こう、情けない表情になる。
そして、彼女は震える口を開いた。
「……趣味と仕事が同じなだけ」
その表情が無性に面白くて、私はちょっと吹き出しそうになった。
ブルーノに脇を肘で突かれて、何とか耐えたけど。
ミシェルが自身の手元に口を当てて、少し咳き込んだ。
話を無理矢理戻すつもりだ。
「とにかく、私は『S.H.I.E.L.D.』に所属してるから……カマラの事を上司に報告しないとダメ」
そう言われて──
「え!?いやっ、こま、困る……」
慌てて首を振った。
スーパーパワーには責任が付き纏う。
それは分かる。
だけど、それ以上に
厄介ごとに巻き込みたくなかった。
そんな私の反応を見て、ミシェルは安心させるように私の肩を叩いた。
「大丈夫、悪いようにはならないようにする」
「ミシェル」
「……出来るだけ」
「ミシェル……」
思わず眉尻を下げた。
何とも頼りなかったからだ。
「ん、そう。だから、連絡先を私と交換すべき」
「……いいの?」
「え?勿論だけど」
こうして私はミシェルと連絡先を交換した。
ついでにブルーノもミシェルと交換した。
……私の少ない連絡先リストに彼女の名前が刻まれ、少し嬉しくなった。
「じゃ、私……ちょっと報告とかしないといけなくなったから、今日は帰る。困った事があったら連絡して」
「え、うん……その、ありがとう!ミシェル」
私は手を握って、礼を言う。
ミシェルはちょっと眩しそうに目を細めた。
夜道なのに。
「カマラも、後で面倒になるかも知れないのに……人助けしたの、カッコよかった」
「それは──
私はあの時、確かに迷った。
助けるべきか、動かないべきか。
だけど、背を押したのは家族と──
「ミシェルのお陰だよ」
「……え?私?」
ミシェルが心底、困惑したような顔で私を見た。
長いまつ毛がパチパチと瞬いている。
「うん、だから……凄く、感謝してる」
「……えっと……うん、そっか。どういたしまして」
ミシェルが少し悩んで、頷いた。
私の感謝の気持ちを無理解で済ませず、飲み込んだんだ。
……そんな仕草に、彼女の優しさを感じた。
握っている手を、少し強める。
「……その、ミシェル」
「何?分からない事があるなら、私が教える」
ミシェルはそう言った。
私は胸に秘めていた想いを、言葉にする。
「わ、私達って……友達、だよね?」
否定される事はないと思っていて……それでも、少し怖かった。
私には空想癖がある。
何でも知ったような気になって想像して、空回りしてしまう事がある。
だから、こうやって確認しないと……怖くて──
「うん、友達。私はそう思ってる」
だから、こうやって肯定してくれるのが凄く嬉しかった。
目が潤む。
悲しいからじゃない、嬉しいからだ。
「……また、アベンジャーズの話してもいい?」
「勿論」
「どこかに、お出かけ誘ってもいい?」
「いいよ、メールしてくれたら」
軽くハグをして、離れる。
ミシェルは思っていたよりも細くて、ビックリした。
……こんな体のどこに、スーパーパワーがあるのだろうか。
それは私も同じか。
彼女よりは、そう、贅肉が付いてるけど。
違う。
私は平均だ。
彼女が細すぎる。
ふと、ミシェルがブルーノを一瞥した。
「あ、大丈夫。ブルーノも友達」
「……そりゃ、どうも」
ブルーノが頭を軽く下げた。
冷めた態度だけど、少し頬が緩んでいるのを私は見逃さなかった。
「それじゃ、二人とも。またね」
そう言ってミシェルは元来た道を戻って行った。
……今、壁を直接駆け上がってなかった?
凄い距離を飛んでるし……アレって飛行してる訳じゃなくて、単純に凄いジャンプをしてるだけだよね?
キックとかされたら、お腹に穴が空きそうだ。
……喧嘩はしないようにしよう。
そもそも喧嘩になるような事はないと思うけど。
「……カマラ、良かったな」
ブルーノが感慨深そうに頷いた。
私は目を細める。
「ブルーノも嬉しそうだね」
「まぁな」
「可愛い女の子と友達になれたもんね」
私がそう言うと、ブルーノは苦い物を食べたような顔をした。
「……そういうのじゃない」
「違うの?」
「それより、早く帰るぞ。カマラの母さんが寝室に入ってこない保証はないし」
ブルーノがスマホの画面を私に見せた。
地図アプリでは、最寄りのバス停まで徒歩10分と書いてあった。
こうして、私の人生を一変させるような出来事は終わりを迎えた。
良い事だらけのハッピーな
行きたかったアベンジャーズ・コンに行けたし。
人助けも出来たし、友達も出来た。
夢のような一夜だった。
だけど、自室に入ろうとした瞬間、
無断外出と門限破り……何より、
そして、一ヶ月の外出禁止の罰を受けた。
門限を破って怒られるヒーローなんている?
多分、居ないと思う。
だから、私はまだヒーローじゃない。
ただの、カマラ・カーンだ。
◇◆◇
アベンジャーズ・タワー内部。
『S.H.I.E.L.D.』長官室に私、ニック・フューリーは居た。
椅子に座り、ミシェル・ジェーン=ワトソンから送られてきた報告書を確認する。
未だ、エージェント候補生という立場である彼女ではあるが、最近はこういう事務作業や、危険ではない仕事を少しずつ任されている。
報告書に書かれているのは、先日の事故……そして、その場に居合わせた特殊な能力を持つ少女、カマラ・カーンについてだ。
私としては即座に彼女自身と会話したい案件だが、ミシェル曰く今は隠匿中だそうだ。
ティーンエイジャーの少女らしく、家族に面倒ごとがバレるのは避けたいと……そう考えているらしい。
別に急いでいる訳じゃない。
タイミングを見計らい接触すれば良いだろう。
報告の内容から、彼女は善性と自制心を持っている事は分かっている。
放って置いても、誰かを傷付ける事はない……と、思いたい。
その辺りは、ミシェルに任せておけば良い。
彼女は既に、カマラと友好関係を結んでいるようだからだ。
何かあれば彼女を経由して私に報告されるだろう。
しかし、問題は……彼女自身ではない。
彼女の能力……その、原因。
後日、ミシェルが確認した、カマラ・カーンが能力に目覚めた『きっかけ』。
謎の『霧』。
それに、私は覚えがあった。
「……テリジェン・ミストか」
それは地球外に存在する特殊な能力を持った人間、インヒューマンズ……彼等の能力を発現させるための特殊な物質だ。
インヒューマンズ。
それは遥か昔に、宇宙人であるクリー人に改造された原始人の子孫だ。
一般的な地球人よりも優れた力を持ち、特殊な能力を持つ……超人類だ。
今も、その血を受け継ぐ者が地球人に紛れている。
己がそうだと知らずに。
つまり、カマラ・カーンはインヒューマンズの血を引く者であり、テリジェン・ミストによって能力に目覚めたのだ。
「だが──
テリジェン・ミスト。
その管理は月に存在するインヒューマン達が住む首都アッティラン……その王であるブラック・ボルトが管理していた。
……そう、つい最近までは。
首都アッティランは何者かの侵略によって崩壊し、消滅した。
結果、テリジェン・ミストは地球に飛来し……様々な問題が起きた。
今は解決したが……カマラ・カーンはそれに巻き込まれた、という訳か。
「……厄介な事だな」
インヒューマンズの血を引く者は……何人いる?
能力を隠し生きている人間が何人いる?
そこから、この国を脅かす者は産まれるのか?
分からない。
だからこそ、厄介だ。
深く、息を吐いて……椅子に深く座り込む。
「……
新たなる力に目覚めた、新世代のインヒューマンズ。
善悪関係なく力を手に入れてしまった者達が……多数、現れるだろう。
この国に波乱が起こる。
そんな懸念に、私は眉を顰めた。
特殊な力を持った超人に、無辜の人々は立ち向かえない。
無駄死にするだけだ。
だからこそ、力が必要だ。
未熟でも良い……誰かを助けようと行動できる、若き灯火が。
手元のタブレットを操作して、リストを開く。
そこに『カマラ・カーン』の名前を刻み込んだ。
◇◆◇
「…………」
翌日の朝、私はピーターの部屋でシリアルを食べていた。
牛乳に浸したシリアルを貪る。
ピーターはベッドのシーツを剥いで、洗濯にかけていた。
私がやると言ったのだが、ピーターは自分が家主だからと譲らなかった。
結果、一人で黙々と朝食を食べる私が誕生したのだ。
型落ちした液晶テレビに、ニュースが映る。
先日のアベンジャーズ・コンのニュースだった。
思わず、注視する。
そこには、天井近くから落下する女性を助ける……コスプレに身を隠したカマラの姿があった。
『先日、ニューヨーク市内で発生した事故について、救出されたコスプレイヤーの──
そして、彼女の事を馬鹿にしていたブロンドの女性が画面に映し出された。
『彼女は命の恩人です。私、彼女にとても酷い事を言ったのに……それでも、助けてくれたんです。彼女こそ、本当のヒーローです』
少し、涙ぐみながら……そう言った。
そこに嘘や、人に良い格好をしようという素振りはなかった。
……それを見て少し、嬉しくなった。
彼女にとって、カマラは本当のヒーローになった。
そして、ヒーローの輝きは人を変える。
……彼女も、良い方向に変わる事が出来たのだろう。
それはカマラのお陰だ。
テレビにまた、キャプテン・マーベルのコスチュームの後ろ姿が映る。
……顔の分かる映像は『S.H.I.E.L.D.』が圧力をかけて削除させたのだろう。
ニック・フューリーに感謝しなければならない。
『このスーパー・パワーを持ったヒーローは何者でしょうか……?今日は専門家の方に来てもらいました』
『何者かは分かりません。ですが見て下さい。彼女のコスチュームは……キャプテン・マーベルを模しています』
『……そうですね』
『昔、キャプテン・マーベルは『ミズ・マーベル』と名乗っていました。歴代、様々な人が『ミズ・マーベル』を名乗って居ましたが……今は居ません』
私はスプーンを動かす手を止めて、テレビを見ている。
『空席の名前と、そのヒーローの姿を模した超人……これはきっと、偶然ではありません』
『そう言いますと?』
『彼女は……四代目『ミズ・マーベル』。私はそう呼ぼうと思います』
私は頬を緩めて、息を深く吐いた。
そうか……この世界でも、彼女はそう呼ばれるのか……と。
「ミシェル、そろそろ食べ終わった?」
片付けを終えたピーターが、私の後ろから声を掛けてきた。
「ん……ちょっと食器、洗ってくる」
「僕が──
「いい。何でもやって貰ってたら、私、牛になってしまう」
私は笑いながら、洗面台に立った。
水は冷たい。
ピーターの部屋に、温水器のような気が利いた物はない。
ピーターに向かって、振り返る。
「これが終わったら、行く?」
「うん、僕は準備OKだよ」
洗った食器をカゴに入れて、振り返る。
アベンジャーズ・コンのグッズが入った紙袋を持って、ピーターと部屋を出る。
ピーターから貰った合鍵でドアを閉め、彼と手を繋ぐ。
「僕、ちょっと緊張してきたよ」
「大丈夫。また仲良くなれる」
これから行くのは、ネッドの場所だ。
私が持っているのは手土産だ。
ピーターとネッドの初会合だ。
彼は少し心配そうにしてるけど、きっと大丈夫。
二人はまた仲良くなって、親友になれる筈だ。
私が微笑むと、ピーターも眉間に寄った心配そうな皺を緩めた。
先日、ピーターは高卒認定試験を合格した。
グウェンとハリーとも、細々と友好関係を結んでいる。
これからネッドとも……。
少しずつ、少しずつだけど……失った物を取り戻しつつある。
元には戻らないけど、新しい形として……生まれ変わっていく。
それを喜ばしく思う。
彼の人生に、私が少しでも良い影響を与えられているのならば……それだけで、私は自分の価値を信じられる。
二人、手を結んで……日光の降り注ぐ道を歩み出した。
次回、ボーン・アゲイン。