【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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全5話ぐらいの短編シリーズです。


TEAM-UP ! SPIDER-MAN and NIGHT-CAP
#1 クリーピング・シャドウ part1


やぁ、みんな。

 

僕はピーター・パーカー。

年齢は19歳。

エンパイア・ステート大学の一年生だ。

 

 

5年前、放射性のクモに噛まれて、僕はスーパーパワーを手に入れた。

降って湧いたラッキー、それを使って僕はお金儲けをしようとした。

 

僕を育ててくれたベン叔父さんとメイ叔母さんに、孝行がしたかったんだ。

 

でも、僕は調子に乗って……間違えてしまった。

 

結果、僕の育ての親であるベン叔父さんは死んでしまった。

 

僕の所為だ。

僕が目の前の悪事を見過ごして、見逃してしまったから……死んでしまった。

 

だけど、叔父さんが残した言葉は僕の中で生き続けている。

 

 

『大いなる力には、大いなる責任が伴う』

 

 

ベン叔父さんが言っていた言葉を、死後……理解したんだ。

 

 

僕は……このスーパーパワー(大いなる力)を人助けに使う事にした。

もう二度と、後悔しないように。

 

 

だから、今の僕は──

 

 

アメイジング・スパイダーマンだ。

 

 

……うーん、アメイジング(素晴らしい)は格好付けすぎかな?

スペクタキュラー(壮大な)とか?

これもダメ?

 

みんなの意見は?

 

 

……OK。

 

 

じゃあ形容詞はナシで。

 

 

僕はスパイダーマン。

 

ニューヨークの親愛なる隣人として、小さな事から大きな事まで人助けをしている。

 

 

今もね。

 

 

 

「う、ぐ、う、うう、う……!」

 

 

 

現在進行形で人助け中だ。

 

 

 

「あのっ……早く、ちょっ……と、もう限界だから……!」

 

 

僕は今、交差点で横転してしまったタンクローリーを持ち上げていた。

普通車が下敷きになって、屋根ごとひしゃげている。

 

その中には、まだ人がいた。

母親と子供だ。

身体が潰れた車両に挟まれて、身動きが取れないようだ。

 

ミシミシと音が鳴る。

僕の骨の音か、それともタンクローリーの車体フレームか。

 

口じゃない所から悲鳴を上げていると、レスキュー隊が電動ノコギリを持って来た。

 

 

「スパイディ、もう少し頼む!」

 

「う、うん……全然平気!でも、なるべく早く、ね!」

 

 

車両に触れた電動ノコギリの刃が、火花を散らす。

 

腰が砕けてしまいそうだ。

だけど、耳に響く子供の泣き声が……僕を奮い立たせる。

 

絶対に挫けない、地面に膝を付けはしない。

 

 

そうして、ようやく車が解体された。

 

 

「はやく中の母子を連れ出すんだ!」

 

 

中にいた母親と子供が連れ出され──

 

 

「もういいぞ!スパイディ!」

 

「お、OK!下ろすよ!」

 

 

レスキュー隊員の言葉に、僕は持ち上げていたタンクローリーを下ろした。

 

 

「……っ、ふぅ」

 

 

……呼吸を整える。

流石にちょっと重かったな、結構堪えたよ。

 

辺りの人から歓声が上がった。

 

 

危機が去って……少し、冷静になってくる。

 

救出中の写真撮っていれば、デイリービューグルに高く売れたかな?

まぁ、撮ってる暇なんて無かっただろうけど……。

 

事故の現場を見た瞬間、飛び出しちゃったし……うん、仕方ない。

 

息を切らしている僕に、レスキュー隊員の一人が近寄って来た。

 

 

「助かったよ、スパイディ」

 

「いやいいよ。丁度、僕、筋トレに凝ってたんだ」

 

 

ジョークを言いつつ、(ウェブ)を頭上に飛ばした。

 

頭を下げるレスキュー隊員に手を振り、その場を後にした。

 

 

スパイダーマンの仕事は人助け、街に住む人を守る事だ。

悪人を殴るのがヒーローの仕事じゃない。

誰かを助けられる人だけがヒーローになれる。

 

それはベン叔父さんが言っていた言葉だ。

 

……まぁ、時には誰かを守るために悪人と戦う必要もあるけどね。

 

 

「あれ……?」

 

 

例えばほら、今、そこ……街角のATMコーナーで煙が上がってる。

 

僕は慌てて、現場に向かう。

 

(ウェブ)をビルに飛ばして、大きくスイング。

全身をバネのようにしならせて、宙を飛び──

 

 

ヒーロー着地。

右手は地面に置いて……いや、これ結構、腕が痺れるかも。

スタークさんにコツを教えて貰いたいよ。

 

ATMコーナーには……うん、一般人らしき人は居ないね。

 

代わりに珍妙な仮面をかぶった男が、1、2……3人居る。

 

 

「んんっ、ごほん」

 

 

喉を鳴らして、肩を鳴らして……ATMコーナーの中に入る。

 

……まだ気付いてないみたいだ。

 

 

『おい、早くしろ』

 

『お前も手伝え』

 

 

……アレってボイスチェンジャー?

仮面は白黒の民族的な感じ……ちょっと怖いデザイン。

牙とか角とか生えてるし。

 

でも、首から下はビジネススーツ。

 

ちぐはぐだ。

 

というか手に持ってる剣は何?

今時、剣?

ソーズマンにでも憧れたのかな?

 

だけど、笑い事ではない。

何かこう……良くない感じのモヤモヤが出てる。

超感覚(スパイダーセンス)もピリピリと警告してる。

 

 

ATMが破壊されて、中の金庫部分が露出してる。

どう見ても、強盗だ。

 

 

僕は割れてるガラスを跨いで、彼らの背後に忍び寄る。

 

そして──

 

 

「どうも?君達、ここで何してるの?」

 

『…………』

 

『…………』

 

「お金が下ろせなくて困ってるのかな?手伝おうか?」

 

 

仮面集団が僕を見た。

……剣だけじゃなくて、銃を持っている奴もいる。

しかも、突撃銃(アサルトライフル)

 

あれ?これって結構ヤバい感じ?

 

引き金に、指が──

 

 

「おっと!」

 

 

瞬間、(ウェブ)を放ち腕に巻き付けた。

 

 

「ダメだよ、街中で発砲しようとしちゃ」

 

 

そのまま銃ごと巻き込んで、引っ張り……肘を顔面にぶつけた。

 

一瞬の出来事だ。

 

ほんの少し間が空いて──

 

 

『殺せ!』

 

 

黒っぽいモヤがかかった剣を、マスク男が振り回した。

ギリギリの所で回避を──

 

 

「危なっ!?」

 

 

大袈裟なほど、僕は大きく回避した。

 

直後、剣がATMをバターのように引き裂いて……メチャクチャに破壊した。

 

超感覚(スパイダーセンス)が痛いほど反応していた。

かする程度でも、アレは危険だ。

 

 

「……っ、それって何処で売ってるの?それとも、サンタさんから貰ったのかな?」

 

 

身に感じた焦りと恐怖を、軽口で上書きする。

 

 

ウェブシューターのカートリッジに触れる。

……一瞬、悩む。

 

うーん、あんまりこの方法で使いたくないけど、仕方ないか。

 

 

「僕からもプレゼント、あげるよ」

 

 

腕に装備していた小さな金属パーツを宙に投げると……(ウェブ)が炸裂した。

(ウェブ)が花のように咲いて、周りに巻き付く。

 

 

『ぬぉっ!?』

 

 

そして、僕は中心となっている金属片に……(ウェブ)を放った。

 

カートリッジを切り替えて……小型のバッテリーと接続。

 

 

「チクッとするかも、我慢してね」

 

 

バチン!と大きな音がする。

 

強烈な電撃が、拡散した(ウェブ)を伝って……周りに撒き散らされた。

 

 

『ぎゃあっ』

 

『がっ』

 

 

強力なスタンガン一発分と同程度、全員に直撃……マスク男達は全員気絶した。

 

……この使い捨てバッテリー、高いんだよね。

全く、弁償してくれないかな。

貧乏学生には痛い出費だ。

 

気絶したマスク男達を(ウェブ)で拘束しつつ……仮面を手に取る。

顔の下は普通の男の顔だ。

 

……何なんだ?

コイツら。

 

ポケットから小型の携帯端末を取り出して、写真を撮る。

後で、こういうのに詳しい人に訊こう。

 

 

……あ、パトカーのサイレンが聞こえる。

 

 

そろそろ離れないと……事情聴取とかになると、困るし。

 

急いでATMコーナーから離れて、(ウェブ)を飛ばした。

そのまま宙へ飛び、その場を後にした。

 

……黒いモヤモヤ。

 

首筋をピリピリと刺激される感覚が、僕を少し不安にさせた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「どうかな、分かる?」

 

 

僕は撮ってきた写真を印刷して、目の前の女性に渡した。

彼女は白くて細い指で捲り……眉を顰めた。

 

ここは僕の部屋。

今はスパイダーマンの格好すらしてない。

 

だから、必然的に……彼女は僕の正体を知る人物となる。

 

 

「……ん、見覚えある」

 

 

机の向かい側にプラチナブロンドの女性が座っている。

彼女は写真から目を離して、コバルトブルーの眼で僕を見た。

 

彼女は僕のガールフレンドのミシェル。

ミシェル・ジェーン=ワトソンだ。

 

 

「え?それ本当?」

 

「といっても、ドクターに記憶は封印されてるから……」

 

 

彼女は特殊な記憶を持っていた過去があって、別世界の出来事を見る事ができる不思議な眼を持っていた。

危険だからって今は封印中だけどね。

 

 

「あー……じゃ、覚えてない?」

 

「ううん、『S.H.I.E.L.D.』のエージェントとしても見覚えがある」

 

 

そう。

彼女は国際平和維持組織『S.H.I.E.L.D.』のエージェントだ。

 

そんな彼女が神妙そうな顔で、指で顎を抑えた。

 

 

「チャイニーズタウンを中心に活動しているマフィア……『デーモン』。その構成員が付けているマスクと同じ」

 

「……『デーモン』か」

 

 

マフィア……確かに、彼等は突撃銃なんか持ち歩いていた。

突撃銃は個人で用意できると思えない。

だから、そういう意味でも大規模な犯罪組織である事に納得がいった。

 

僕は写真に目を落とす。

黒いモヤがかかった剣が写っている。

 

 

「この剣は?」

 

「『デーモン』は最近、強力な力を手に入れたって噂になってる」

 

「それじゃ、この剣が?」

 

「そう。その剣……に付与された力。闇のエネルギー」

 

「付与された……?」

 

 

突如現れたオカルトに、困惑しながら声を掛ける。

付与……って事は剣じゃなくて、剣にモヤモヤを付ける奴が居るって事だろう。

 

ミシェルは頷いた。

 

 

「恐らく、特殊な能力に目覚めた後天性の突然変異者(ミューテイツ)が裏に存在すると思う」

 

「……なるほど」

 

 

腕を組んで頷く。

ミシェルも腕を組んで頷いた。

 

 

「……こうして行動を起こしたのは何かの予兆かも?上に話をしておく。ピーターは?」

 

「僕も独自に調べるよ、足を使ってね」

 

 

そう言うと、ミシェルが少し渋い顔をした。

そして、僕に向かって口を開いた。

 

 

「ピーター、危険だと思ったら迷わず……退いて欲しい」

 

 

柔らかな手が触れる。

心の底から心配してくれているのだろう。

 

だけど、それでも──

 

 

「ごめん、約束出来ないかな」

 

 

力があるからこそ、誰かのために身を粉にして人助けしなければならない。

 

そして、後悔だけはしないために、今出来る事を全力で行う。

それが『大いなる責任』だ。

 

ミシェルは僕の顔を見て……ちょっと笑って、ため息を吐いた。

 

 

「ん、分かった。もう止めはしないけど……ちゃんと、無事に帰ってきて」

 

「勿論」

 

「私も出来るだけ手伝うから」

 

「……ありがとう」

 

 

触れた手が離れて……ミシェルが席を立った。

 

 

「あれ?もう帰るの?」

 

「ん、『S.H.I.E.L.D.』に報告したいから。善は急ぐべき」

 

「あー……そっか」

 

 

 

確かに、いつ『デーモン』がまた活動するかは分からない。

明日かも、いや今日かも……今かも。

 

だとしたら、なるべく早く報告して対処するべきだ。

無辜の人達に被害が及ぶ前に。

 

分かってるし、賛同するけど……ほんの少しだけ、寂しく感じてしまった。

寂しいと思うのは我儘だから、口にはしないけど。

 

 

「……ピーター」

 

 

そんな僕の内面に気付いたのか、ミシェルが一歩近寄って──

 

 

軽く、頬にキスされた。

 

 

驚いて視線を向けると、彼女は頬を緩めた。

 

 

「元気、でた?」

 

「うん……ありがとう、ミシェル」

 

 

自分の情けなさに恥ずかしくなって──

彼女の仕草の可愛さに悶えた。

 

 

「ん、じゃあ……また、三日後」

 

「あ、そっか……三日後ね、三日後」

 

 

ミシェルと僕の休みが合致するのは、三日後だ。

今日は無理して来てもらったぐらいだし……寂しくは感じても、引き止めちゃいけない。

 

でも──

 

 

「送るよ。夜も遅いし」

 

「ううん、アベンジャーズ・タワーに寄るから……」

 

「あー……うん、分かったよ」

 

 

フラれちゃったな。

……手を振る彼女を見送る。

 

そして、そのまま僕はベッドに寝転がった。

木材が剥き出しの屋根を見て、眉を顰めた。

 

 

「……『悪魔(デーモン)』か」

 

 

悪魔には嫌な思い出がある。

真っ赤な悪魔の所為で、僕の人生はメチャクチャになってしまった。

これからずっと孤独かも……なんて、暗い感情に落とされた時があった。

 

それでも、今は……うん、凄く幸せだけど。

ミシェルのお陰だ。

 

 

彼女には感謝しないとね。

可愛くて優しい、僕には勿体ないぐらい素敵な彼女に……。

 

 

「…………」

 

 

うつら、うつらと、してくる。

今日は朝から大学の講義を受けたし、人助けもしたし……疲れてるんだ。

 

 

「……はぁ、もう眠いや」

 

 

心も体もクタクタになっていた僕は……シャワーを浴びる事も忘れて、眠りについた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

そして、翌日。

 

 

「ピーター、ピーター?」

 

「……うぇっ?あ?はい!?」

 

 

僕は今、在籍中のエンパイア・ステート大学に来ていた。

 

ここは科学実験室。

目の前にいるのは白衣を着た教授だ。

 

 

「寝ぼけているのか?ピーター」

 

「う、すみません……」

 

 

眼鏡をかけた小太りの教授が、笑った。

授業とは関係なく、僕は教授の手伝いをしていた。

 

具体的には重い物を運んだり、とか。

 

 

「悩み事だな」

 

「えーっと……まぁ」

 

 

『デーモン』の事が、凄く気になってる。

特に黒いモヤモヤ……アレは危険だ。

僕の超感覚(スパイダーセンス)もビリビリしてる。

 

こうやって……日常生活を送ってて良いのかと、疑ってしまうぐらい……。

 

 

「また恋人の事で悩んでいるのか?」

 

「……あ、ソウデスネ」

 

 

軽く嘘を吐く。

 

『デーモン』に関してはミシェルが、多分何とかしてくれる。

『S.H.I.E.L.D.』が調査するなら、悪い事にはならない筈だ。

 

だから、こうやって無理に気にする必要がないのも分かる。

分かってるけど……。

 

 

「ピーター、恋愛ごとに精を出すのは良いが、程々にしなければ身を滅ぼす事になる」

 

「……それって教授の体験談ですか?」

 

「何?言ったな?」

 

 

教授と笑い合いながら、ダンボールに入った電子回路を運ぶ。

……あと、機械のパーツも。

 

教授の後ろを歩いていると……ふと視線に機械が目に入った。

 

 

「……あれ?これってロボットアームですか?」

 

 

科学実験室に、一昨日までは無かった機械のアームが置かれていた。

 

 

「あぁ、それは今研究中の万能アームだよ」

 

「万能……汎用じゃなくて、ですか?」

 

「何でも出来る、それを目指しているからな」

 

 

機械弄りは好きだ。

(ウェブ)シューターを自作するぐらいにはね。

 

機械で出来た腕……いや、パイプが何本も繋がれたような……触手?

その先端には三つの爪が生えている。

 

 

「チタン鋼製。硬くて壊れにくい」

 

 

教授がリモコンを動かすと、うねるように動いた。

変幻自在……上下左右どこにでも。

 

なるほど、人の腕の形よりも便利だ。

 

 

「……凄いですね。これ、教授が作ったんですか?」

 

「そうだ。将来的には、手足を失った人の新たな手足になれる……そんな事を目指しているんだ」

 

 

……僕はちょっと感動していた。

元々、尊敬できる人だったけれど……更に上乗せされた感じ。

 

 

「……応援してますよ、教授」

 

「ありがとう、ピーター。感謝しているよ。君には、いつも手伝ってもらっているからね」

 

 

教授が笑みを浮かべた。

 

笑いながら……僕はアームの側に置いてある紙を手に取った。

それは解説書だった。

 

……神経インターフェース?

 

あぁ、なるほど……手足を失った患者がどうやってアームを動かすのか……脳波を受け取って、自由自在に動かせるようにするのか。

 

これが実現できたら、沢山の人が助かるだろう。

世のため、人のためになる研究だ。

 

 

「よし、ピーター。お喋りはこれぐらいにして、荷物運びを手伝ってくれ」

 

「あ、はい!分かりました!」

 

 

僕は教授の後ろをついて歩いた。

 

『デーモン』の事は気になるけど、今は僕の人生に集中しなくちゃ。

僕は『スパイダーマン』だけど『ピーター・パーカー』でもあるから。

 

尊敬できる人のためにも、頑張らないとね。

 

心の中で自分の頬を手で打って、僕は教授……オットー・オクタビアス教授の背中を追いかけた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

さて、夜も更けてきた。

ニューヨークは朝昼とは違う姿を見せる。

鮮やかな見た目から、ちょっと治安が悪い感じにね。

 

僕はいつもの赤と青のスーツを着て、ビルの上に座っていた。

手元には小型の携帯端末。

 

 

『24番ストリートにて、事件発生。謎の面をした男達が──

 

 

それを使って、僕は警察の回線を傍受していた。

 

 

「……よし、僕の出番だ」

 

 

僕は携帯端末をしまって、屋根の上を走る。

 

縁を蹴って(ウェブ)を発射。

大きくスイングして……宙を飛ぶ。

 

高度が上がったタイミングで(ウェブ)を切断し、もう一度(ウェブ)を発射する。

連続でスイングして、摩天楼を駆ける。

 

様々なカラーの街灯が照らす、夜のニューヨークの空を飛ぶ。

 

 

傍受した会話から、相手は『デーモン』だって事は分かった。

あの黒いモヤモヤ武器、警官には荷が重そうだ。

 

怪我人が出る前に、早く行かないと──

 

焦る気持ちを抑えつつ、ビルの壁を蹴って加速する。

そして……現場の景色が目に入った。

 

 

「……あれ?」

 

 

パトカーが沢山停まっていた。

でも、交戦中って感じじゃない。

 

手錠を掛けられた仮面をかぶった男達が……車両に乗せられてる最中だ。

 

僕は地面に着地して、首を傾げた。

 

 

「お呼びじゃなかったかな……ちょっと訊いてみよ」

 

 

僕は現場に近づいて……あ、知り合いの警官がいた。

彼のお婆ちゃんをひったくりから助けた事があるんだ。

 

だから、彼はちょっとだけ僕に優しい。

 

 

「こんばんは、お巡りさん。これって何があったの?」

 

「野次馬は勘弁してくれよ……って、スパイディか」

 

 

僕の方を見て、警官はため息を吐いた。

人の顔……いや、マスクを見てため息を吐くなんて失礼だな。

 

 

「ヤバい仮面の奴らが、ここを占拠してたんだ。もう捕まえたがな」

 

「へぇ……ソイツら黒いモヤモヤ武器は持ってた?」

 

「モヤモヤ……?あぁ、押収品の中にそれっぽい物があったな」

 

「怪我人は出なかった?アレ、結構危ないと思うんだけど」

 

「いや?まぁ、顔面をブン殴られて鼻が折れた奴が一番重傷だな」

 

「うわぁ……警察も大変だね」

 

「鼻が折れたのは犯人側だ」

 

「あ、そっちなんだ」

 

 

赤い灯がくるくる回る中で、僕は苦笑した。

……しかし、どうやって『デーモン』達を倒したんだろう?

気になる。

 

ちょっと、現場を見てみたいな。

そう思っていると、警官がテープを跨いだ。

 

……黙って僕もついて歩く。

『入って良い』とは言えないからね、立場上は。

 

後ろを歩いていると、警官が少し神妙な顔をした。

 

 

「どうかした?」

 

「……今日はちょっとお偉いさんが来てるんだ。見つかったら、俺は怒られるかも知れない」

 

「お偉いさん?」

 

「『S.H.I.E.L.D.』からのお客さんだ」

 

 

あ、なるほど。

ミシェルが報告した結果、デーモン関係で『S.H.I.E.L.D.』も動いてるんだ。

良かった。

 

 

「という事は『デーモン』達を倒したのも──

 

「『S.H.I.E.L.D.』のエージェントだな」

 

「なるほどね」

 

 

腕を組んで頷く。

 

そのまま現場の中に入り──

 

 

『セクターは44、証拠品は後で『S.H.I.E.L.D.』に送ってくれ。科学班で解析を行う。押収した剣の剣身には触らないよう厳令しろ』

 

 

男か女か分からないような、電子音の声が聞こえてきた。

『S.H.I.E.L.D.』のエージェントの声、だろう。

 

でも……あれ?

聞き覚えのある声だ。

 

 

声のする方に向かうと──

 

 

真っ黒なアーマー姿で警官達に指示を飛ばしているエージェントがいた。

……知り合いだ。

 

 

「あれ?……え?」

 

 

僕の困惑した声に、黒いマスクが振り返った。

 

 

『来ると思ったぞ』

 

 

黒塗りのマスクが光を反射し、僕のマスクを映した。

 

 

『この姿で会うのは初めて……いや、久しぶりか?スパイダーマン』

 

「ミシェ──

 

 

僕は思わず、彼女の名前を言いそうになって──

 

 

『今の私は、ナイトキャップだ』

 

 

遮られた。

 

 

『お前がその姿の時、『スパイダーマン』と呼ばれるように。私にも『ナイトキャップ』という名前がある』

 

「そ、そっか。ごめん」

 

『フン……』

 

 

彼女は鼻を鳴らした。

いつもと違う姿、口調、態度にビビりながら僕は話を進める。

 

ミシェルの仕事姿、凄く久し振りに見たけど……何度かボコボコに殴られた事あるし、少し腰が引ける。

 

ナイトキャップ……ミシェルが周りの警官達を散らせて、一人で現場の奥へ移動し始めた。

慌てて、僕もついて歩く。

 

 

「えーっと、その……何があったの?何でここに居るの?」

 

『……何が、と言えば別に何もない。『S.H.I.E.L.D.』へ『デーモン』の報告をした結果、事件解決に向けて派遣されたのが私だったというだけだ』

 

「へ、へぇ……」

 

 

ミシェルが足を止めた。

 

 

『不満か?』

 

「え、いや……そういう訳じゃないけど……」

 

『いや、不満だろう。お前は私が事件に直接関わるのを避けたがっていた』

 

「そんな事はっ…………ある、けど」

 

 

……図星だ。

今回の事件、『デーモン』達の裏にいる奴に彼女を近づけたくない。

この黒いモヤは、危険だ。

 

……僕を傷付けられるという事は、彼女が傷付けられるかも知れないという事で……心配なんだ。

 

 

『……お前は優しい。だが──

 

 

好きな人には、危険な目に遭って欲しくないと思うのは当然の事だと思う。

だけど、それを彼女は快く思っていないようだ。

 

 

『スパイダーマン……良いか?よく聞け』

 

「う、うん」

 

『私は私の意思で此処にいる。人を助けるために、身を危険に晒し戦っている』

 

 

彼女が僕の肩を叩いた。

結構強く叩かれた。

 

 

『それを否定しないでくれ。私にも人助けが出来るのだと……認めてくれ。頼む』

 

「…………」

 

 

僕はマスクの中で目を見開いた。

 

そうだ。

危険な目に遭って欲しくないと思うのは、僕の身勝手だ。

 

彼女は僕と一緒だ。

 

人助けをしたいと、誰かが傷付くのは嫌だと思っている。

己が後悔しないために『大いなる責任』を果たそうとしているんだ。

 

……うん。

一緒だよ、僕と。

 

僕は彼女に言われても辞めなかった。

だから、僕も彼女に『辞めろ』とは言わないようにしよう。

 

 

「分かったよ。ミシェ──

 

『ナイトキャップだ』

 

「……ごめん、間違えないように気を付けるよ」

 

『そうしてくれ』

 

 

名前には意味が込められている。

彼女が『ナイトキャップ』と名乗るのであれば、僕は尊重する。

何か譲れない意味があるのだろう。

 

……けど、ちょっと呼び慣れてないから……いや、言い訳だ。

気を付けないと、うん。

 

僕は彼女の側に立って──

 

 

「それで……一緒に戦ってくれる、のかな?」

 

『当然だ。『出来るだけ手伝う』と昨日言っただろう?』

 

 

彼女に手を握られた。

 

普段とは格好も口調も、名前すら違う。

だけど……うん、握った手の感覚は硬かったけれど、間違いなく彼女の物だ。

 

プライベートでは互いにサポートし合う仲だけど……こうして、二人でヒーロー活動をするのは初めてになる。

 

 

「改めて、よろしく……ナイトキャップ」

 

『あぁ……よろしく、だな。スパイダーマン』

 

 

マスクの下で僕は笑った。

彼女は……どうだろうね。

笑ってくれているのなら、僕は嬉しいな。

 

 

『今だけは、私を守るべき相手だと思わないでくれ』

 

「……それなら『仲間』だね。頼りにさせて貰おうかな」

 

『……あぁ、頼りにしてくれ』

 

 

互いにマスクで顔を隠して、素手でも触れ合っていない。

それでも、心は……今、繋がっているような気がした。

 

 

事件現場の中を歩く。

砕けた木材や、ガラス片がたくさんある。

 

彼女が口を開いた。

 

 

『さっきは、すまなかったな』

 

「え?何で?」

 

 

突然の謝罪に、僕は首を傾げた。

 

 

『言い方がキツくなってしまった……愛想がないだろう?可愛げも……だから、その、幻滅しないで貰えると助かる』

 

 

……まぁ、それは確かに。

普段の女性らしさは鳴りを潜めている。

言動も、格好も。

 

 

「うん。確かに、いつもの方が『可愛い』とは思うけど」

 

『……そうか』

 

 

いつものミシェルの方が『可愛い』だろう。

だけど──

 

 

「可愛さだけが君を好きになった理由じゃないから……僕は今の君も『好き』だよ」

 

 

そうやって誰かのために頑張ろうとする優しさも、強さも。

僕が好きな彼女の一面だ。

 

いつものミシェルが好きなんじゃない。

いつものミシェル『も』好きだから。

 

それだけは、彼女に伝えたかった。

 

 

『…………そうか』

 

 

僕の言葉を聞いたミシェルは……ふい、とマスクを背けた。

 

少し気障(きざ)だったかな。

呆れてしまったのかも知れない。

 

それでも彼女と歩幅を合わせて、歩き始めた。

 




次回更新は一週間後です
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