【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
#1 クリーピング・シャドウ part1
やぁ、みんな。
僕はピーター・パーカー。
年齢は19歳。
エンパイア・ステート大学の一年生だ。
5年前、放射性のクモに噛まれて、僕はスーパーパワーを手に入れた。
降って湧いたラッキー、それを使って僕はお金儲けをしようとした。
僕を育ててくれたベン叔父さんとメイ叔母さんに、孝行がしたかったんだ。
でも、僕は調子に乗って……間違えてしまった。
結果、僕の育ての親であるベン叔父さんは死んでしまった。
僕の所為だ。
僕が目の前の悪事を見過ごして、見逃してしまったから……死んでしまった。
だけど、叔父さんが残した言葉は僕の中で生き続けている。
『大いなる力には、大いなる責任が伴う』
ベン叔父さんが言っていた言葉を、死後……理解したんだ。
僕は……この
もう二度と、後悔しないように。
だから、今の僕は──
アメイジング・スパイダーマンだ。
……うーん、
これもダメ?
みんなの意見は?
……OK。
じゃあ形容詞はナシで。
僕はスパイダーマン。
ニューヨークの親愛なる隣人として、小さな事から大きな事まで人助けをしている。
今もね。
「う、ぐ、う、うう、う……!」
現在進行形で人助け中だ。
「あのっ……早く、ちょっ……と、もう限界だから……!」
僕は今、交差点で横転してしまったタンクローリーを持ち上げていた。
普通車が下敷きになって、屋根ごとひしゃげている。
その中には、まだ人がいた。
母親と子供だ。
身体が潰れた車両に挟まれて、身動きが取れないようだ。
ミシミシと音が鳴る。
僕の骨の音か、それともタンクローリーの車体フレームか。
口じゃない所から悲鳴を上げていると、レスキュー隊が電動ノコギリを持って来た。
「スパイディ、もう少し頼む!」
「う、うん……全然平気!でも、なるべく早く、ね!」
車両に触れた電動ノコギリの刃が、火花を散らす。
腰が砕けてしまいそうだ。
だけど、耳に響く子供の泣き声が……僕を奮い立たせる。
絶対に挫けない、地面に膝を付けはしない。
そうして、ようやく車が解体された。
「はやく中の母子を連れ出すんだ!」
中にいた母親と子供が連れ出され──
「もういいぞ!スパイディ!」
「お、OK!下ろすよ!」
レスキュー隊員の言葉に、僕は持ち上げていたタンクローリーを下ろした。
「……っ、ふぅ」
……呼吸を整える。
流石にちょっと重かったな、結構堪えたよ。
辺りの人から歓声が上がった。
危機が去って……少し、冷静になってくる。
救出中の写真撮っていれば、デイリービューグルに高く売れたかな?
まぁ、撮ってる暇なんて無かっただろうけど……。
事故の現場を見た瞬間、飛び出しちゃったし……うん、仕方ない。
息を切らしている僕に、レスキュー隊員の一人が近寄って来た。
「助かったよ、スパイディ」
「いやいいよ。丁度、僕、筋トレに凝ってたんだ」
ジョークを言いつつ、
頭を下げるレスキュー隊員に手を振り、その場を後にした。
スパイダーマンの仕事は人助け、街に住む人を守る事だ。
悪人を殴るのがヒーローの仕事じゃない。
誰かを助けられる人だけがヒーローになれる。
それはベン叔父さんが言っていた言葉だ。
……まぁ、時には誰かを守るために悪人と戦う必要もあるけどね。
「あれ……?」
例えばほら、今、そこ……街角のATMコーナーで煙が上がってる。
僕は慌てて、現場に向かう。
全身をバネのようにしならせて、宙を飛び──
ヒーロー着地。
右手は地面に置いて……いや、これ結構、腕が痺れるかも。
スタークさんにコツを教えて貰いたいよ。
ATMコーナーには……うん、一般人らしき人は居ないね。
代わりに珍妙な仮面をかぶった男が、1、2……3人居る。
「んんっ、ごほん」
喉を鳴らして、肩を鳴らして……ATMコーナーの中に入る。
……まだ気付いてないみたいだ。
『おい、早くしろ』
『お前も手伝え』
……アレってボイスチェンジャー?
仮面は白黒の民族的な感じ……ちょっと怖いデザイン。
牙とか角とか生えてるし。
でも、首から下はビジネススーツ。
ちぐはぐだ。
というか手に持ってる剣は何?
今時、剣?
ソーズマンにでも憧れたのかな?
だけど、笑い事ではない。
何かこう……良くない感じのモヤモヤが出てる。
ATMが破壊されて、中の金庫部分が露出してる。
どう見ても、強盗だ。
僕は割れてるガラスを跨いで、彼らの背後に忍び寄る。
そして──
「どうも?君達、ここで何してるの?」
『…………』
『…………』
「お金が下ろせなくて困ってるのかな?手伝おうか?」
仮面集団が僕を見た。
……剣だけじゃなくて、銃を持っている奴もいる。
しかも、
あれ?これって結構ヤバい感じ?
引き金に、指が──
「おっと!」
瞬間、
「ダメだよ、街中で発砲しようとしちゃ」
そのまま銃ごと巻き込んで、引っ張り……肘を顔面にぶつけた。
一瞬の出来事だ。
ほんの少し間が空いて──
『殺せ!』
黒っぽいモヤがかかった剣を、マスク男が振り回した。
ギリギリの所で回避を──
「危なっ!?」
大袈裟なほど、僕は大きく回避した。
直後、剣がATMをバターのように引き裂いて……メチャクチャに破壊した。
かする程度でも、アレは危険だ。
「……っ、それって何処で売ってるの?それとも、サンタさんから貰ったのかな?」
身に感じた焦りと恐怖を、軽口で上書きする。
ウェブシューターのカートリッジに触れる。
……一瞬、悩む。
うーん、あんまりこの方法で使いたくないけど、仕方ないか。
「僕からもプレゼント、あげるよ」
腕に装備していた小さな金属パーツを宙に投げると……
『ぬぉっ!?』
そして、僕は中心となっている金属片に……
カートリッジを切り替えて……小型のバッテリーと接続。
「チクッとするかも、我慢してね」
バチン!と大きな音がする。
強烈な電撃が、拡散した
『ぎゃあっ』
『がっ』
強力なスタンガン一発分と同程度、全員に直撃……マスク男達は全員気絶した。
……この使い捨てバッテリー、高いんだよね。
全く、弁償してくれないかな。
貧乏学生には痛い出費だ。
気絶したマスク男達を
顔の下は普通の男の顔だ。
……何なんだ?
コイツら。
ポケットから小型の携帯端末を取り出して、写真を撮る。
後で、こういうのに詳しい人に訊こう。
……あ、パトカーのサイレンが聞こえる。
そろそろ離れないと……事情聴取とかになると、困るし。
急いでATMコーナーから離れて、
そのまま宙へ飛び、その場を後にした。
……黒いモヤモヤ。
首筋をピリピリと刺激される感覚が、僕を少し不安にさせた。
◇◆◇
「どうかな、分かる?」
僕は撮ってきた写真を印刷して、目の前の女性に渡した。
彼女は白くて細い指で捲り……眉を顰めた。
ここは僕の部屋。
今はスパイダーマンの格好すらしてない。
だから、必然的に……彼女は僕の正体を知る人物となる。
「……ん、見覚えある」
机の向かい側にプラチナブロンドの女性が座っている。
彼女は写真から目を離して、コバルトブルーの眼で僕を見た。
彼女は僕のガールフレンドのミシェル。
ミシェル・ジェーン=ワトソンだ。
「え?それ本当?」
「といっても、ドクターに記憶は封印されてるから……」
彼女は特殊な記憶を持っていた過去があって、別世界の出来事を見る事ができる不思議な眼を持っていた。
危険だからって今は封印中だけどね。
「あー……じゃ、覚えてない?」
「ううん、『S.H.I.E.L.D.』のエージェントとしても見覚えがある」
そう。
彼女は国際平和維持組織『S.H.I.E.L.D.』のエージェントだ。
そんな彼女が神妙そうな顔で、指で顎を抑えた。
「チャイニーズタウンを中心に活動しているマフィア……『デーモン』。その構成員が付けているマスクと同じ」
「……『デーモン』か」
マフィア……確かに、彼等は突撃銃なんか持ち歩いていた。
突撃銃は個人で用意できると思えない。
だから、そういう意味でも大規模な犯罪組織である事に納得がいった。
僕は写真に目を落とす。
黒いモヤがかかった剣が写っている。
「この剣は?」
「『デーモン』は最近、強力な力を手に入れたって噂になってる」
「それじゃ、この剣が?」
「そう。その剣……に付与された力。闇のエネルギー」
「付与された……?」
突如現れたオカルトに、困惑しながら声を掛ける。
付与……って事は剣じゃなくて、剣にモヤモヤを付ける奴が居るって事だろう。
ミシェルは頷いた。
「恐らく、特殊な能力に目覚めた
「……なるほど」
腕を組んで頷く。
ミシェルも腕を組んで頷いた。
「……こうして行動を起こしたのは何かの予兆かも?上に話をしておく。ピーターは?」
「僕も独自に調べるよ、足を使ってね」
そう言うと、ミシェルが少し渋い顔をした。
そして、僕に向かって口を開いた。
「ピーター、危険だと思ったら迷わず……退いて欲しい」
柔らかな手が触れる。
心の底から心配してくれているのだろう。
だけど、それでも──
「ごめん、約束出来ないかな」
力があるからこそ、誰かのために身を粉にして人助けしなければならない。
そして、後悔だけはしないために、今出来る事を全力で行う。
それが『大いなる責任』だ。
ミシェルは僕の顔を見て……ちょっと笑って、ため息を吐いた。
「ん、分かった。もう止めはしないけど……ちゃんと、無事に帰ってきて」
「勿論」
「私も出来るだけ手伝うから」
「……ありがとう」
触れた手が離れて……ミシェルが席を立った。
「あれ?もう帰るの?」
「ん、『S.H.I.E.L.D.』に報告したいから。善は急ぐべき」
「あー……そっか」
確かに、いつ『デーモン』がまた活動するかは分からない。
明日かも、いや今日かも……今かも。
だとしたら、なるべく早く報告して対処するべきだ。
無辜の人達に被害が及ぶ前に。
分かってるし、賛同するけど……ほんの少しだけ、寂しく感じてしまった。
寂しいと思うのは我儘だから、口にはしないけど。
「……ピーター」
そんな僕の内面に気付いたのか、ミシェルが一歩近寄って──
軽く、頬にキスされた。
驚いて視線を向けると、彼女は頬を緩めた。
「元気、でた?」
「うん……ありがとう、ミシェル」
自分の情けなさに恥ずかしくなって──
彼女の仕草の可愛さに悶えた。
「ん、じゃあ……また、三日後」
「あ、そっか……三日後ね、三日後」
ミシェルと僕の休みが合致するのは、三日後だ。
今日は無理して来てもらったぐらいだし……寂しくは感じても、引き止めちゃいけない。
でも──
「送るよ。夜も遅いし」
「ううん、アベンジャーズ・タワーに寄るから……」
「あー……うん、分かったよ」
フラれちゃったな。
……手を振る彼女を見送る。
そして、そのまま僕はベッドに寝転がった。
木材が剥き出しの屋根を見て、眉を顰めた。
「……『
悪魔には嫌な思い出がある。
真っ赤な悪魔の所為で、僕の人生はメチャクチャになってしまった。
これからずっと孤独かも……なんて、暗い感情に落とされた時があった。
それでも、今は……うん、凄く幸せだけど。
ミシェルのお陰だ。
彼女には感謝しないとね。
可愛くて優しい、僕には勿体ないぐらい素敵な彼女に……。
「…………」
うつら、うつらと、してくる。
今日は朝から大学の講義を受けたし、人助けもしたし……疲れてるんだ。
「……はぁ、もう眠いや」
心も体もクタクタになっていた僕は……シャワーを浴びる事も忘れて、眠りについた。
◇◆◇
そして、翌日。
「ピーター、ピーター?」
「……うぇっ?あ?はい!?」
僕は今、在籍中のエンパイア・ステート大学に来ていた。
ここは科学実験室。
目の前にいるのは白衣を着た教授だ。
「寝ぼけているのか?ピーター」
「う、すみません……」
眼鏡をかけた小太りの教授が、笑った。
授業とは関係なく、僕は教授の手伝いをしていた。
具体的には重い物を運んだり、とか。
「悩み事だな」
「えーっと……まぁ」
『デーモン』の事が、凄く気になってる。
特に黒いモヤモヤ……アレは危険だ。
僕の
こうやって……日常生活を送ってて良いのかと、疑ってしまうぐらい……。
「また恋人の事で悩んでいるのか?」
「……あ、ソウデスネ」
軽く嘘を吐く。
『デーモン』に関してはミシェルが、多分何とかしてくれる。
『S.H.I.E.L.D.』が調査するなら、悪い事にはならない筈だ。
だから、こうやって無理に気にする必要がないのも分かる。
分かってるけど……。
「ピーター、恋愛ごとに精を出すのは良いが、程々にしなければ身を滅ぼす事になる」
「……それって教授の体験談ですか?」
「何?言ったな?」
教授と笑い合いながら、ダンボールに入った電子回路を運ぶ。
……あと、機械のパーツも。
教授の後ろを歩いていると……ふと視線に機械が目に入った。
「……あれ?これってロボットアームですか?」
科学実験室に、一昨日までは無かった機械のアームが置かれていた。
「あぁ、それは今研究中の万能アームだよ」
「万能……汎用じゃなくて、ですか?」
「何でも出来る、それを目指しているからな」
機械弄りは好きだ。
機械で出来た腕……いや、パイプが何本も繋がれたような……触手?
その先端には三つの爪が生えている。
「チタン鋼製。硬くて壊れにくい」
教授がリモコンを動かすと、うねるように動いた。
変幻自在……上下左右どこにでも。
なるほど、人の腕の形よりも便利だ。
「……凄いですね。これ、教授が作ったんですか?」
「そうだ。将来的には、手足を失った人の新たな手足になれる……そんな事を目指しているんだ」
……僕はちょっと感動していた。
元々、尊敬できる人だったけれど……更に上乗せされた感じ。
「……応援してますよ、教授」
「ありがとう、ピーター。感謝しているよ。君には、いつも手伝ってもらっているからね」
教授が笑みを浮かべた。
笑いながら……僕はアームの側に置いてある紙を手に取った。
それは解説書だった。
……神経インターフェース?
あぁ、なるほど……手足を失った患者がどうやってアームを動かすのか……脳波を受け取って、自由自在に動かせるようにするのか。
これが実現できたら、沢山の人が助かるだろう。
世のため、人のためになる研究だ。
「よし、ピーター。お喋りはこれぐらいにして、荷物運びを手伝ってくれ」
「あ、はい!分かりました!」
僕は教授の後ろをついて歩いた。
『デーモン』の事は気になるけど、今は僕の人生に集中しなくちゃ。
僕は『スパイダーマン』だけど『ピーター・パーカー』でもあるから。
尊敬できる人のためにも、頑張らないとね。
心の中で自分の頬を手で打って、僕は教授……オットー・オクタビアス教授の背中を追いかけた。
◇◆◇
さて、夜も更けてきた。
ニューヨークは朝昼とは違う姿を見せる。
鮮やかな見た目から、ちょっと治安が悪い感じにね。
僕はいつもの赤と青のスーツを着て、ビルの上に座っていた。
手元には小型の携帯端末。
『24番ストリートにて、事件発生。謎の面をした男達が──
それを使って、僕は警察の回線を傍受していた。
「……よし、僕の出番だ」
僕は携帯端末をしまって、屋根の上を走る。
縁を蹴って
大きくスイングして……宙を飛ぶ。
高度が上がったタイミングで
連続でスイングして、摩天楼を駆ける。
様々なカラーの街灯が照らす、夜のニューヨークの空を飛ぶ。
傍受した会話から、相手は『デーモン』だって事は分かった。
あの黒いモヤモヤ武器、警官には荷が重そうだ。
怪我人が出る前に、早く行かないと──
焦る気持ちを抑えつつ、ビルの壁を蹴って加速する。
そして……現場の景色が目に入った。
「……あれ?」
パトカーが沢山停まっていた。
でも、交戦中って感じじゃない。
手錠を掛けられた仮面をかぶった男達が……車両に乗せられてる最中だ。
僕は地面に着地して、首を傾げた。
「お呼びじゃなかったかな……ちょっと訊いてみよ」
僕は現場に近づいて……あ、知り合いの警官がいた。
彼のお婆ちゃんをひったくりから助けた事があるんだ。
だから、彼はちょっとだけ僕に優しい。
「こんばんは、お巡りさん。これって何があったの?」
「野次馬は勘弁してくれよ……って、スパイディか」
僕の方を見て、警官はため息を吐いた。
人の顔……いや、マスクを見てため息を吐くなんて失礼だな。
「ヤバい仮面の奴らが、ここを占拠してたんだ。もう捕まえたがな」
「へぇ……ソイツら黒いモヤモヤ武器は持ってた?」
「モヤモヤ……?あぁ、押収品の中にそれっぽい物があったな」
「怪我人は出なかった?アレ、結構危ないと思うんだけど」
「いや?まぁ、顔面をブン殴られて鼻が折れた奴が一番重傷だな」
「うわぁ……警察も大変だね」
「鼻が折れたのは犯人側だ」
「あ、そっちなんだ」
赤い灯がくるくる回る中で、僕は苦笑した。
……しかし、どうやって『デーモン』達を倒したんだろう?
気になる。
ちょっと、現場を見てみたいな。
そう思っていると、警官がテープを跨いだ。
……黙って僕もついて歩く。
『入って良い』とは言えないからね、立場上は。
後ろを歩いていると、警官が少し神妙な顔をした。
「どうかした?」
「……今日はちょっとお偉いさんが来てるんだ。見つかったら、俺は怒られるかも知れない」
「お偉いさん?」
「『S.H.I.E.L.D.』からのお客さんだ」
あ、なるほど。
ミシェルが報告した結果、デーモン関係で『S.H.I.E.L.D.』も動いてるんだ。
良かった。
「という事は『デーモン』達を倒したのも──
「『S.H.I.E.L.D.』のエージェントだな」
「なるほどね」
腕を組んで頷く。
そのまま現場の中に入り──
『セクターは44、証拠品は後で『S.H.I.E.L.D.』に送ってくれ。科学班で解析を行う。押収した剣の剣身には触らないよう厳令しろ』
男か女か分からないような、電子音の声が聞こえてきた。
『S.H.I.E.L.D.』のエージェントの声、だろう。
でも……あれ?
聞き覚えのある声だ。
声のする方に向かうと──
真っ黒なアーマー姿で警官達に指示を飛ばしているエージェントがいた。
……知り合いだ。
「あれ?……え?」
僕の困惑した声に、黒いマスクが振り返った。
『来ると思ったぞ』
黒塗りのマスクが光を反射し、僕のマスクを映した。
『この姿で会うのは初めて……いや、久しぶりか?スパイダーマン』
「ミシェ──
僕は思わず、彼女の名前を言いそうになって──
『今の私は、ナイトキャップだ』
遮られた。
『お前がその姿の時、『スパイダーマン』と呼ばれるように。私にも『ナイトキャップ』という名前がある』
「そ、そっか。ごめん」
『フン……』
彼女は鼻を鳴らした。
いつもと違う姿、口調、態度にビビりながら僕は話を進める。
ミシェルの仕事姿、凄く久し振りに見たけど……何度かボコボコに殴られた事あるし、少し腰が引ける。
ナイトキャップ……ミシェルが周りの警官達を散らせて、一人で現場の奥へ移動し始めた。
慌てて、僕もついて歩く。
「えーっと、その……何があったの?何でここに居るの?」
『……何が、と言えば別に何もない。『S.H.I.E.L.D.』へ『デーモン』の報告をした結果、事件解決に向けて派遣されたのが私だったというだけだ』
「へ、へぇ……」
ミシェルが足を止めた。
『不満か?』
「え、いや……そういう訳じゃないけど……」
『いや、不満だろう。お前は私が事件に直接関わるのを避けたがっていた』
「そんな事はっ…………ある、けど」
……図星だ。
今回の事件、『デーモン』達の裏にいる奴に彼女を近づけたくない。
この黒いモヤは、危険だ。
……僕を傷付けられるという事は、彼女が傷付けられるかも知れないという事で……心配なんだ。
『……お前は優しい。だが──
好きな人には、危険な目に遭って欲しくないと思うのは当然の事だと思う。
だけど、それを彼女は快く思っていないようだ。
『スパイダーマン……良いか?よく聞け』
「う、うん」
『私は私の意思で此処にいる。人を助けるために、身を危険に晒し戦っている』
彼女が僕の肩を叩いた。
結構強く叩かれた。
『それを否定しないでくれ。私にも人助けが出来るのだと……認めてくれ。頼む』
「…………」
僕はマスクの中で目を見開いた。
そうだ。
危険な目に遭って欲しくないと思うのは、僕の身勝手だ。
彼女は僕と一緒だ。
人助けをしたいと、誰かが傷付くのは嫌だと思っている。
己が後悔しないために『大いなる責任』を果たそうとしているんだ。
……うん。
一緒だよ、僕と。
僕は彼女に言われても辞めなかった。
だから、僕も彼女に『辞めろ』とは言わないようにしよう。
「分かったよ。ミシェ──
『ナイトキャップだ』
「……ごめん、間違えないように気を付けるよ」
『そうしてくれ』
名前には意味が込められている。
彼女が『ナイトキャップ』と名乗るのであれば、僕は尊重する。
何か譲れない意味があるのだろう。
……けど、ちょっと呼び慣れてないから……いや、言い訳だ。
気を付けないと、うん。
僕は彼女の側に立って──
「それで……一緒に戦ってくれる、のかな?」
『当然だ。『出来るだけ手伝う』と昨日言っただろう?』
彼女に手を握られた。
普段とは格好も口調も、名前すら違う。
だけど……うん、握った手の感覚は硬かったけれど、間違いなく彼女の物だ。
プライベートでは互いにサポートし合う仲だけど……こうして、二人でヒーロー活動をするのは初めてになる。
「改めて、よろしく……ナイトキャップ」
『あぁ……よろしく、だな。スパイダーマン』
マスクの下で僕は笑った。
彼女は……どうだろうね。
笑ってくれているのなら、僕は嬉しいな。
『今だけは、私を守るべき相手だと思わないでくれ』
「……それなら『仲間』だね。頼りにさせて貰おうかな」
『……あぁ、頼りにしてくれ』
互いにマスクで顔を隠して、素手でも触れ合っていない。
それでも、心は……今、繋がっているような気がした。
事件現場の中を歩く。
砕けた木材や、ガラス片がたくさんある。
彼女が口を開いた。
『さっきは、すまなかったな』
「え?何で?」
突然の謝罪に、僕は首を傾げた。
『言い方がキツくなってしまった……愛想がないだろう?可愛げも……だから、その、幻滅しないで貰えると助かる』
……まぁ、それは確かに。
普段の女性らしさは鳴りを潜めている。
言動も、格好も。
「うん。確かに、いつもの方が『可愛い』とは思うけど」
『……そうか』
いつものミシェルの方が『可愛い』だろう。
だけど──
「可愛さだけが君を好きになった理由じゃないから……僕は今の君も『好き』だよ」
そうやって誰かのために頑張ろうとする優しさも、強さも。
僕が好きな彼女の一面だ。
いつものミシェルが好きなんじゃない。
いつものミシェル『も』好きだから。
それだけは、彼女に伝えたかった。
『…………そうか』
僕の言葉を聞いたミシェルは……ふい、とマスクを背けた。
少し
呆れてしまったのかも知れない。
それでも彼女と歩幅を合わせて、歩き始めた。
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