【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#6 グレート・レスポンシビリティ part3

あの後、ミシェルは『デビルズ・ブレス』の解毒剤を『S.H.I.E.L.D.』本部に届けに行った。

当日の作戦会議も行うらしく……合わせて、僕も(ウェブ)の補充や、装備の確認等を行った。

 

マーティン・リー……ミスター・ネガティヴの居場所も、『デビルズ・ブレス』の所在も分かっていない。

このまま、逃げ切られれば何時爆発するか分からない爆弾をニューヨークに残している事になる。

 

『デーモン』達の目的地が分かっている現状、これを利用して叩くしかない。

 

『デビルズ・ブレス』は設置後、即座に起動できる訳ではない。

彼等も巻き添えになってしまうからだ。

設置後、退避し……その後に起動するしかない。

 

勝負はその隙間、設置してから起動されるまでの間だ。

 

 

太陽が昇った。

 

 

僕は顔を洗って、タオルで拭く。

(ウェブ)シューターを装備する。

スーツを着る。

マスクをかぶる。

 

鏡には親愛なる隣人(スパイダーマン)が映っていた。

 

……深呼吸して、僕は窓から飛び出した。

 

 

(ウェブ)をビルに放ち、スイングする。

引っ張って、上に飛び上がる。

そして、落下の勢いを活かして加速する。

 

生まれ育った街の空を駆けて、目的の場所に着地する。

 

『マギア』の居るビル……ではない。

そこから500メートルほど離れた小さなビルだ。

 

空いている窓から中に滑り込む。

 

 

顔を上げる。

 

何人も、防弾チョッキ等の装備を着込んだ人達がいる。

彼等の持つ盾には『S.H.I.E.L.D.』の記載があった。

『S.H.I.E.L.D.』のエージェント達だ。

 

彼等は入って来た僕に視線を向け──

 

 

『少し早いが、時間通りだな』

 

 

ヴィブラニウム製のスーツを身に纏ったミシェル、ナイトキャップに声を掛けられた。

 

 

「まぁ、今日みたいな日に寝坊なんて出来ないからね」

 

 

緊迫した空気の中、軽口を叩きながら彼女の側に寄る。

 

……予め、僕が来るって伝えてたみたいで『S.H.I.E.L.D.』のエージェント達から質問は来ない。

しかし、興味というか警戒心というか、そういった物を少なからず感じられた。

 

 

「それで、現状は?」

 

『『マギア』が少しずつビルに集合している。場所はセンタービルの12階の広間だ』

 

 

ミシェルが部屋の中央に置かれた液晶が貼られた机を叩くと、宙にホログラフィックが表示された。

ハイテクだ。

多分、スターク社製。

 

 

『現在の参加者数は想定値の47%、そして『デーモン』達の影も見え始めている』

 

 

ミシェルがタブレットを僕に見せた。

幾つか、写真が写っている。

 

真っ黒な大型車両、そこから引き出されている大きなコンテナだ。

……『デーモン』達のアジトで見たものと一緒のデザインだ。

 

 

「……これのどれかが『デビルズ・ブレス』?」

 

『恐らく。殆どはダミーで確証は持てない……全てがダミーの可能性もある。確証が持てるまでは行動には移せないだろう』

 

 

ここで逃げられては全てが無意味になってしまう。

ミシェルが腕を組んだ。

 

 

『ビル内にいる従業員達は既に退避済みだ。現在、中に居るのは『マギア』の構成員と……『S.H.I.E.L.D.』の用意した従業員の影武者だ』

 

 

僕は頷く。

最悪、無関係な人が巻き込まれないようにする配慮だろう。

 

……いや、『S.H.I.E.L.D.』のメンバーだからって死んで良い訳ではない。

 

 

『ビル内の監視カメラがまだ生きているが、デーモン達によって破壊される事も視野に入れている。兎に角、『デビルズ・ブレス』が搬入された事が確認でき次第、突入し──

 

 

電子音が鳴った。

部屋の隅にある通信機器からだ。

 

ミシェルと僕が一瞥すると、エージェントの一人が通信機器のインカムを手に取った。

 

 

「……何かあったのかな?」

 

『……良いニュースでは、ないようだな』

 

 

インカムを手に取ったエージェントの顔が強張っていた。

ミシェルも遅れて、通信機器のある部屋の隅へ移動し始めた。

 

 

『何かあったのか?』

 

 

彼女がエージェントの肩を叩くと、少し跳ねた。

そして振り返り、頷いた。

 

 

「『マギア』が襲撃を……』

 

『『マギア』?『デーモン』ではなく?』

 

 

僕も首を傾げた。

『デーモン』が撹乱のために別の場所を攻撃するなら分かる。

でも、何故『マギア』が?

 

 

「『マギア』は『デーモン』の攻撃を察知したようで、『デーモン』の拠点に先制攻撃を仕掛けようとしているそうです」

 

『……何故、このタイミングなんだ?』

 

「『マギア』内にいる諜報員からは……先程、何者かの密告があったそうで」

 

『『デーモン』による自作自演か?本命を通すために、別拠点への攻撃を誘導した……のか?』

 

 

答えは分からない。

ただ、現在進行形で『マギア』が『デーモン』達の拠点を攻撃しようとしている……という事だけが分かった。

 

つまり、今現在、『デーモン』が『マギア』を攻撃しようとしている最中なのだとは知らず……それでも攻撃する意思があると教えられ、阻止するつもりで攻撃したのか。

 

『マギア』に密告した奴は、間違いなく『デーモン』側の奴だろう。

そうじゃなければ間抜けだ。

 

ミシェルは腕を組み、エージェントに目を向けた。

 

 

『場所は?』

 

「ここから南西、12キロメートル。襲撃予定場所の建造物は……『F.E.A.S.T.』ビルです」

 

 

 

 

え?

 

 

一瞬、脳が理解を拒否した。

 

何で、『F.E.A.S.T.』を?

何で、『F.E.A.S.T.』が?

 

あそこはボランティアと老人やホームレス達しかいない場所だ。

……確かに、ミスター・ネガティヴの正体であるマーティン・リーが運営しているけれど、関係はない筈だ。

 

……あそこには、メイ叔母さんが居る。

視界がぐにゃりと歪んで──

 

僕の肩に、手が乗った。

 

 

「あっ……」

 

『落ち着いて、ピーター』

 

 

ミシェルが僕に顔を近づけた。

『S.H.I.E.L.D.』の他メンバーには聞こえないように小さな声で、いつもの口調で囁いてくる。

 

 

『叔母さんが心配なのは分かる。ここは私達に任せて、ピーターは『F.E.A.S.T.』に行って』

 

「ミシェル……」

 

『もし叔母さんが死んでしまったら……後悔するから。貴方も、私も』

 

 

ミシェルが顔を退けて、数歩下がった。

そして、インカムを持ったエージェントに顔を向けた。

 

 

『『マギア』の進行状態は?攻撃までの猶予は?』

 

「2……いえ、15分程です」

 

 

マスクの下で目を瞬く。

 

短すぎる。

また、メイ叔母さんの顔が脳裏に過ぎった。

 

ミシェルが僕を一瞥し、エージェント達に指示を飛ばす。

 

 

『特務班B、医療班Cは『F.E.A.S.T.』ビルへ迎え。そして──

 

 

ミシェルがまた、僕を見た。

僕は震える膝を叩いて、頷いた。

 

 

『頼む』

 

「うん……ありがとう。そっちも無事で!」

 

『任せておけ』

 

 

僕は走り出し、ビルの窓から飛び降りた。

猶予は15分。

 

徒歩では不可能、車でも間に合わない。

(ウェブ)スイングで最短距離を走るんだ。

 

『S.H.I.E.L.D.』のエージェント達より早く向かって、『マギア』達を止めないと!

 

(ウェブ)を飛ばして、引っ張る。

速く。

 

ビルの壁を蹴って、加速する。

速く!

 

空を駆けて、先日見たばかりの『F.E.A.S.T.』ビルの前に着地する。

まだ攻撃された様子はない。

胸を撫で下ろしながら、ドアを開ける。

 

利用者とボランティアの視線が僕に集中する。

 

 

「あら?」

 

「え?誰かしら?」

 

「俺知ってるぜ、スパイダー坊やって奴だろ」

 

 

内心で『坊や』じゃなくて『マン』だって、悪態を吐きながら……駆け寄ってくるメイ叔母さんを見つけた。

 

 

「あの、どうかしたのかしら?何で──

 

「今すぐ、ここから逃げて下さい……!」

 

「……え?」

 

 

僕の大きな声は、静かな『F.E.A.S.T.』ビル内に通った。

 

視界に、困惑する表情を浮かべる人が見えた。

デイリービューグルの新聞を広げる老人の姿が見えた。

 

 

「あっ……」

 

 

……しまった。

僕は政府から公認されているヒーローじゃない。

信用なんてあったもんじゃない。

 

拙い。

今は一刻も争う状況なのに、僕の言葉に疑念を抱かれたら──

 

 

「分かったわ」

 

「え?」

 

 

僕の心配を他所に、メイ叔母さんが頷いた。

 

 

「聞いてたでしょう?全員、地下のシェルターに避難して!」

 

「……お、おう」

 

「メイさんがそう言うのなら……」

 

 

あまりにも、あっさりと上手くいく物だから僕は困惑していた。

そんな僕に、メイ叔母さんは目を向けた。

 

 

「あら、どうかしたの?」

 

「……いえ、すぐに信用して貰えるとは思ってなかったので」

 

 

周りではボランティアが先導して、利用者を地下シェルターへと連れて移動している。

 

だけど、メイ叔母さんは僕へ向き合って……小さく笑った。

 

 

「だって貴方、良い人なんでしょう?」

 

「……良い人?」

 

「えぇ、もうシェルターに行ったけれど、ヘンリーやブラウン、マーシーは貴方に助けられた事があるって自慢していたわ」

 

 

そう言って、メイ叔母さんもシェルターに向かおうと僕に背を向けた。

 

 

「それなら、貴方はヒーローよ。誰かのために無償で空を飛び、助けて、戦って……他人のためにそれだけ頑張れる人を、どうして疑う事が出来るのかしら?私には無理ね、疑えない」

 

「……メイ叔──

 

 

思わず、口から漏れてしまった名前に噤む。

そして、メイ叔母さんが振り返った。

 

 

「あら、どうして私の名前を?」

 

「あ、あぁ、いえ、えっと──

 

 

困っていると、メイ叔母さんはくすりと笑った。

 

 

「まぁ、言いたくないなら言わなくても良いわ……それよりも、これから何が──

 

 

ガシャン、天井に近い窓ガラスが割れた。

 

 

「っ、危ない!」

 

 

(ウェブ)を壁に飛ばして、強く引っ張り移動する。

メイ叔母さんを途中で抱き抱えて、地面を滑った。

 

……先程まで居た場所に砕けたガラス片が突き刺さった。

 

 

「ほら、早く逃げて!」

 

「え、えぇ……ごめんなさいね?」

 

「良いから!」

 

 

助けられて申し訳なさを感じているメイ叔母さんを遠ざけて、僕は割れた窓の縁に(ウェブ)を飛ばした。

ガラスのなくなった窓の縁に着地して、『F.E.A.S.T.』ビルから顔を出した。

 

真っ黒な大型車両が2、3……4台。

揃いも揃って真っ黒だ。

 

何で悪人達は真っ黒な車に乗りたがるんだろう。

これって黒い車のオーナーへの風評被害にならない?

 

真昼間のニューヨークで、アサルトライフルなんか持ち出して……黒いスーツまで着ちゃって。

『マギア』は時代錯誤なギャング組織だよ、全く。

 

その中の一人、巨漢が前に出てくる。

 

病的なほど青白い肌、角刈りの白髪、尖ったサメのような歯……困ったな、僕の知り合いだ。

 

 

「何故、貴様がここに居る?スパイダーマン」

 

「ボランティアで来てるんだよ。居たらダメかな?ロニー」

 

 

とびっきり凶悪な奴。

名前は……ロニー・トンプソン・リンカーン。

 

AKA(またの名を)──

 

 

「いいや、俺様は『トゥームストーン』、拳で語る男だ!邪魔するなら叩き潰してやる!」

 

 

そう言って、僕に向かって走り出した。

武器も持たずに。

……まぁ分かるよ。

コイツは下手に武器を持つより、素手の方が恐ろしい。

 

でも──

 

……このまま、『F.E.A.S.T.』に入られるのは拙いな。

窓から飛び出して、黒い車のボンネットに着地する。

 

ベコッと大きな音がした。

おっと……でも、修理代を払う気はない。

マフィアってちゃんと車の保険に入ってる?

 

周りの『マギア』の構成員達が僕へ武器を向ける。

アサルトライフルだ。

 

周りには野次馬。

離れてるつもりかも知れないけど、それじゃあアサルトライフルの流れ弾を喰らって死んじゃうよ。

はやく逃げてくれないかな。

 

と、言ってる暇もない。

僕はボンネットを蹴って、宙へ飛ぶ。

 

アサルトライフルの銃口も上へ向く。

……当たったら痛いじゃ済まないね。

 

 

(ウェブ)を飛ばして、幾つか銃口を抑える。

そのまま、(ウェブ)を街頭に飛ばして、宙を移動する。

 

銃口が僕を追ってきて……発砲!

 

 

「おっと!」

 

 

気が早い奴らだ、ちゃんと狙って撃ってくれ。

じゃないと、巻き添えが出ちゃうかも知れないだろ。

 

 

「立派なのは見た目だけ?ちゃんと当てないと意味ないよ!」

 

 

僕が挑発すると同時に、トゥームストーンが叱責する。

 

 

「馬鹿どもめ!落ち着いて狙え!」

 

 

(ウェブ)を構成員の一人にぶつけて、引っ張る。

反動で接近して、顔面に蹴りを一発。

 

加減は少なめだ。

今この状況で、相手の怪我を考えられるほど僕はお人好しじゃない。

 

着地した瞬間、また宙を飛んで……今度はエレクトリック(ウェブ)を放つ。

 

 

「ぎっ」

 

「ぐあぁっ」

 

 

一人、また一人と気絶させて──

 

超感覚(スパイダーセンス)に反応あり。

僕は地面を蹴って、宙へ飛んだ。

 

 

直後、僕のいた場所にトゥームストーンが拳を叩きつけた。

コンクリートで出来た地面がひび割れて、捲れ上がる。

 

 

「うわ、凄いパワーだね」

 

「だろう?今すぐ、コイツをお前にブチ込んでやる!」

 

「それは遠慮したい、かなっ!」

 

 

中指でトリガーを押し、(ウェブ)を発射する。

 

 

「ぬ!?うぉぉっ!?」

 

 

トゥームストーンの顔に命中して、よろめいた。

チャンスだ。

 

僕は地面を蹴り、滑って……足払いをする。

バランスを崩したトゥームストーンがよろめいて、尻餅をついた。

 

……その瞬間、また超感覚(スパイダーセンス)が反応した。

振り返り、(ウェブ)を飛ばす。

 

 

僕に向けていたアサルトライフルの銃口が跳ね上がり、壁に付着した。

 

放たれた弾丸は、街灯を打ち抜き……大きな音を立てた。

 

 

「ぬぅっ!」

 

 

そして、背後から大きな声が聞こえて──

 

 

「え?うわぁっ!?」

 

 

振り返ると、トゥームストーンが突進して来た。

僕の身体にタックルが命中した。

 

 

()っ……!」

 

 

……コイツ、顔の半分が(ウェブ)で覆われているのに……お構いなしだ。

吹っ飛ばされた僕は地面に転がる。

 

くそっ、トラックに轢かれたような衝撃だ。

身体中の骨が軋んで、鈍い痛みが身体を走る。

 

脳も揺れたのか、少し視界が点滅している。

 

 

「墓石の下に沈めてやる」

 

「……それって、決め台詞かな?考えたのは……マーケティング担当?」

 

「俺様に決まっているだろう!」

 

 

追撃が来る!

 

僕は無理やり立ち上がって、トゥームストーンを蹴り飛ばし──

 

 

「ふん、蚊でも止まったか?」

 

 

鉄の塊を蹴ったかのような感覚。

 

トゥームストーンは化学物質を摂取した結果、突然変異を引き起こした超人だ。

皮膚は硬く、筋力は強く、反射神経は鋭い。

つまり、スーパー荒くれ者って事。

 

僕は足を掴まれて、引っ張られる。

 

 

「あぁっ!?」

 

 

そのまま投げ飛ばそうと、トゥームストーンが手を離した瞬間、僕は(ウェブ)をトゥームストーンへ貼り付けた。

 

吹っ飛ばされた勢いを活かして、街灯へ巻きつけてながら回転する。

 

 

「危ないなぁ……!」

 

「小賢しい真似を!」

 

 

(ウェブ)を交差させて、トゥームストーンの身体に巻きつけて行く。

 

 

「褒め言葉として受け取っておくよ!」

 

 

地面を蹴って、トゥームストーンに接近する。

 

 

「ふんっ!」

 

「おっと!」

 

 

超感覚(スパイダーセンス)で右フックを回避しつつ、(ウェブ)を身体に貼り付ける。

 

再び地面を蹴って、接近する。

 

 

「ちょこまかと!」

 

 

弾丸のような左ストレートを回避して、通り過ぎながら(ウェブ)を接着。

 

街灯や壁に(ウェブ)を貼り付けながら、トゥームストーンに繋いでいく。

(ウェブ)を巻き取りながら、蜘蛛の巣のように張り巡らせて行く。

 

 

「鬱陶しい真似をする、な!」

 

「ごめんね、君と真正面から殴り合うつもりはないんだ」

 

「このぉっ!」

 

 

彼を車に接着しても意味はない。

だって凄い怪力で車ごと突っ込んで来るから。

 

ビルに貼り付けても、外壁を剥がして突っ込んで来るだろうね。

 

なら、どうすればいいか。

ありとあらゆる物に貼り付ければ良い。

 

身体を少しも動かせなくなるぐらい、固定するんだ。

 

蜘蛛の巣のように周りに張り巡らせて、前にも後ろにも、右にも左にも、何処も動かせないようにする。

 

 

「後ろから失礼!」

 

 

背後から急接近して、トゥームストーンの膝裏を蹴る。

 

 

「ぐぅっ!?」

 

「大人しくしててね」

 

 

膝から崩れたトゥームストーンを、地面へと(ウェブ)で貼り付ける。

随分と沢山、(ウェブ)を使ったけれど……まぁ、必要経費だろうね。

 

街灯に(ウェブ)を巻きつけて……ひっくり返ったまま、トゥームストーンの前に顔を出す。

 

 

「これにて一見落着だね」

 

「貴様ぁ……!」

 

「凄んでも全然怖くないよ……嘘、水族館でサメを見てるぐらいには怖さがあるかも──

 

「やれ!アンソニー!」

 

 

トゥームストーンが叫んだ。

 

瞬間、僕は振り返った。

 

マギアの一人が立っていた。

(ウェブ)で拘束した筈……いや、焼き切られていた。

 

身体に火傷が残るだろうに……それでも、身体ごと火で炙って脱出したんだ。

 

拙かった。

奴等のことを甘く見ていた。

想像以上のバカだ。

 

持っている武器は……ロケットランチャー!?

こんなの、街中で撃たせる訳にはいかない!

 

 

「待っ──

 

 

狙いは僕じゃない。

『F.E.A.S.T.』だ!

 

直接的な攻撃じゃないから、超感覚(スパイダーセンス)の反応が遅れた。

もう、トリガーに指が掛かっている。

 

脳裏に、メイ叔母さんの顔が浮かんだ。

『F.E.A.S.T.』の人達の顔が浮かんだ。

 

ダメだ。

ダメだ、ダメだ、ダメだ!

 

幾らシェルターがあると言っても、あんなのが直撃したら──

 

 

瞬間、ワイヤーのようなものがロケットランチャーを巻き取った。

発射口が跳ね上がった。

 

 

「え?」

 

「何……!?」

 

 

弾頭は『F.E.A.S.T.』の中心部に直撃せず……屋上付近を破壊した。

周りのビルの窓ガラスが割れて……大きな音に驚いた、野次馬達が慌てて逃げ出した。

 

『F.E.A.S.T.』ビルが崩れて、半壊した。

……地下シェルターに避難している限り、瓦礫の落下程度では……怪我人も出ないだろう。

 

我に帰った僕はロケットランチャーを撃った構成員をウェブで拘束し……地面に降りる。

 

 

「何が──

 

「こんにちは、スパイダー」

 

 

目の前に黒い、しなやかな猫……いや、黒いライダースーツを着た女性が着地した。

 

 

「……フェリシ──

 

「くそっ!何だ!何者だ貴様!俺様の邪魔をするとは良い度胸だな!」

 

 

……トゥームストーンがうるさいな。

思わずマスクの下で眉を顰める。

フェリシアも眉を顰めていた。

 

 

「お口にチャック、お静かに」

 

 

(ウェブ)を射出して、トゥームストーンの口を塞ぐ。

 

 

「んんんんっ!んぐぅっ!」

 

 

……まだうるさいけど、これで少しはマシかな。

 

僕は立ち上がって……足元の砂埃を払い、瓦礫の山になってしまった『F.E.A.S.T.』へと向かう。

フェリシアも僕に続いて、横を歩く。

 

 

「スパイダー。何か言うことはあるかしら?」

 

「……ありがとう。凄く助かったよ」

 

「そう、どういたしまして」

 

 

僕は瓦礫を避けて、フェリシアと会話する。

彼女は少し上機嫌だ。

 

……地下シェルターの入り口、恐らく瓦礫で埋まっている筈だ。

少なくともメイ叔母さん達の安否を知れないと、安心できる気がしない。

 

 

「でも、フェリシア。どうしてここに?」

 

「私、タダ働きは嫌なの」

 

「え?うん……そうだね?」

 

 

僕は頷きながら、大きなコンクリート片を投げ捨てた。

結構、重かったな。

 

 

「ねぇ、見て?これ、何だと思う?」

 

 

そう言ってフェリシアが手を見せた。

赤、緑、青……色々な宝石の付いた指輪をはめていた。

 

 

「……随分とお洒落してるね」

 

「分かってないわね。こんなのお洒落じゃないわ」

 

 

……その言葉に、僕は目を細めた。

お洒落じゃないとしたら……戦利品を自慢しているのだろう。

眉を顰める。

 

 

「もしかして盗んだの?」

 

「そう、『マギア』からね。出張っていたから赤子の手を捻るようなものだったわ」

 

「……あー、そうなんだ」

 

 

僕はため息を吐いた。

悪い奴らだからって盗みを働いて良い訳ではない。

僕は頭を抱えたくなりながら、瓦礫を退けて行く。

 

 

「で、『マギア』に盗みに入ったら……トランシーバーから拠点に攻撃するって聞こえたの」

 

「……だから来てくれたの?」

 

「いいえ?貴方が襲撃場所に居ると知ったからよ?」

 

 

つまり、フェリシアは『F.E.A.S.T.』を助けに来た訳ではなく、僕を助けに来たという事か。

……ん?あれ?

 

 

「……何で僕がここに居るって気付いたの?」

 

「企業秘密よ」

 

 

ちょっと、頭痛がした。

発信機はミシェルが取り除いた筈なのに……あ、もしかして。

 

 

「……昨日、僕と会った時に発信機付け直した?」

 

「……さぁ?」

 

 

凄く、頭痛がした。

そんな僕をニヤニヤと見ながら、フェリシアが瓦礫に腰掛けた。

 

一応、僕の瓦礫撤去の邪魔にならないように、場所は選んで座っている。

 

 

「それより、貴方の恋人は?今どうしてるの?」

 

「え?……あぁ、別件。というか、『デーモン』関係だよ」

 

 

……今頃、ミシェルは『デーモン』と戦っているだろうか。

瓦礫を退け終えたら、手助けしに行かないと。

 

 

「ふーん、そう……」

 

 

大きな瓦礫を退ける。

……ひしゃげた金属の板が見えた。

これ、地下シェルターのドアかな。

 

……瓦礫があるから大きくは動かせないけど、少しは開けそうだ。

ひしゃげたドアをズラすと──

 

 

「……良かった。みんな、無事かな?」

 

 

やっぱり、地下シェルターだったみたいだ。

ドアを開けた僕に気付いたようで、メイ叔母さんが駆け寄って来た。

 

 

「え、えぇ……さっき、凄い音がしたけれど、何だったの?」

 

 

少し怯えた様子で、メイ叔母さんが訊いてきた。

 

 

「……ロケットランチャーが撃ち込まれて──

 

「えぇ!?何故そんな……」

 

 

この『F.E.A.S.T.』の出資者であるマーティン・リーがマフィアに喧嘩を撃ったからだよ、とは口が裂けても言えないな。

 

 

「待ってて、今すぐ、ここから出られるように瓦礫を退けるから!」

 

 

僕はドアの稼働に干渉している、大きな瓦礫に手を触れる。

……これ、屋根と直結してる柱だ。

瓦礫というには大き過ぎるほど……大きい。

 

だからと言って、戸惑ってばかりでは居られない。

指を隙間に入れて、力を込める。

 

 

「……ふっ!」

 

 

重い。

重過ぎる。

 

でも少しずつ、少しずつ動いてる。

だけど、くそっ、腰にダメージが入りそう。

 

 

「ぐ、ぎぎぎっ……!」

 

 

僕がそうやって力を込めているのを……ドア越しで、メイ叔母さんが見ていた。

……そして、口を開いた。

 

 

「ねぇ、少し話しても良いかしら」

 

「え?今、今じゃなきゃ、ダメ!?」

 

 

全力で瓦礫を押したり、持ち上げたりしながら叔母さんの方を見る。

 

 

「さっき、あの人と話しているのが聞こえたのだけれど……」

 

 

メイ叔母さんが指差した方を見る。

フェリシアが僕へ手を振っていた。

 

 

「貴方の恋人……別の所で戦っているのかしら?」

 

「え!?え……っと……うーん、まぁ、そうだよ!」

 

 

誤魔化そうと思ったけれど、ここまで来れば素直に認めるべきだと思った。

そして、僕が頷くと……メイ叔母さんの顔が少し険しくなった。

 

 

「だったら、そっちを助けに行かないと……でしょ?」

 

「うん、分かってるよ!ここの瓦礫を退けたら、すぐにでも──

 

 

瓦礫を押す。

……これなら、後10分ぐらいあれば退けられるかも──

 

 

「良いの。ここは後回しで」

 

「……そんな事ないよ」

 

 

ここで僕が瓦礫を退けないと、何時間もシェルター内に拘束される事になる。

レッカーとか工事用の車が来ない限り、この瓦礫を退ける事は出来ないだろうから。

 

シェルター内には老人もいる。

病人もいる。

 

長時間、生き埋めになんかされたら──

 

 

「見くびらないでくれる?」

 

「……え?」

 

 

目の前には眉を顰めたメイ叔母さんが居た。

何かに憤っているように見えた。

 

 

「ほんの少し、ここに居るだけよ。それだけ。何か大変な事が起きて、ヒーローが必要になっているのなら……私達の所為で、後悔はしないで欲しいの」

 

「……でも──

 

「私達を重荷にしないで。貴方はヒーローなのでしょう?誰だって……貴方の助けを求めている。私達は私達にできる戦いをするから、貴方にしか出来ない戦いをしなさい」

 

 

真剣な目で、僕を見ている。

そしてまた、叔母さんが口を開いた。

 

 

「良い?忘れないで……貴方のその大いなる力には、大いなる責任が伴うの。今するべき事を成しなさい」

 

 

叔母さんはそう言って……咳き込んだ。

瓦礫の砂埃を吸ってしまったのだろう。

 

……地下シェルターの中はあまり良い環境ではない。

他の利用者達に対する責任もある。

 

それでも、僕に行けと言った。

彼女の元にいる人達は大丈夫だからと、今すべき事をしろと言った。

 

僕はマスクの下で、目を細めて……頷いた。

ほんの少し、視界がボヤけた。

 

 

「うん……分かったよ、ありがとう」

 

「えぇ……いいえ、お礼を言うのは私の方ね。それと、偉そうに説教してごめんなさい」

 

「ううん、凄く……嬉しかった」

 

 

僕は胸の中の想いを振り切るように、首を振った。

 

……はは、やっぱり、叔母さんの説教は身に染みるよ。

二度と説教されるような事はないと思っていたから……うん、僕はまだメイ叔母さんの子供だ。

 

 

「……それじゃあ、助けが来るまで頑張ってくれるかな?」

 

「えぇ……行ってらっしゃい。スパイダー……ボーイ?」

 

 

思わず笑ってしまった。

ボーイ?

もうすぐ僕、成人なんだけどな……。

 

振り返り、後ろ手を振る。

 

 

「僕は……親愛なる隣人、スパイダーマンだよ」

 

 

もう振り返りはしない。

引き摺られるような想いを置いて、僕は今、すべき事をする。

 

『S.H.I.E.L.D.』のエージェント達も遅れて『F.E.A.S.T.』に到着するだろう。

そうなれば叔母さん達を助けてくれるに違いない。

 

だから今すぐ、ミシェルの元へ向かわないと。

 

フェリシアが僕の隣を歩き出した。

 

 

「ちょっと、スパイダー。どこに行く気?」

 

「きっとまだ、僕の恋人が戦ってるから。戻らないと」

 

「……そんなに彼女が大切なの?」

 

「大切だよ」

 

 

即答し、(ウェブ)を上に放つ。

高層ビルに着弾した。

 

 

「……はぁ、随分とお熱ね」

 

「悪いかな?」

 

「いいえ、別に悪くはないわ。一途な男も嫌いじゃないから」

 

「……そっか。うん……さっきはありがとう、フェリシア」

 

 

僕は(ウェブ)を引っ張る。

 

 

「……さようなら、スパイダー」

 

「……うん、さよなら。フェリシア……次に会うとしても、そのコスチューム姿の君とは会いたくないね」

 

 

フェリシアは……苦笑した。

彼女はいつか、ブラックキャットを辞められるのだろうか。

僕には分からない。

 

……僕はその場を後にした。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

随分と時間を食ってしまった。

(ウェブ)を左右に飛ばし、スリングショットの要領で加速する。

 

屋根の上を走り、(ウェブ)を飛ばす。

振り子のように飛びながら、思考する。

 

直接、『マギア』達のいるビルへ向かおう。

既に『デーモン』達が襲撃を予定しているのなら、集合場所に向かうのは二度手間になってしまう。

 

屋根を滑り、僕は飛んで……目的のビルが目に入った。

 

しかし──

 

 

「……何だ、あれ」

 

 

高層ビルの上層の外壁が崩れて……黒いモヤが出ていた。

一瞬、『デビルズ・ブレス』かと思ったけれど……違う。

あのモヤは、『デーモン』達の持っていた剣にも付与されてたエネルギーだ。

 

ミスターネガティヴの、特殊な力だ。

それが上層階を覆い尽くし、外に漏れていた。

 

間違いない。

『デーモン』との戦いは既に始まっている。

 

僕は(ウェブ)スイングして、目的のビルに張り付いた。

そのまま、外壁を垂直に走り、上層階へと向かう。

 

 

……随分と酷い状況だ。

 

 

崩壊したビル壁に飛び込み、黒いモヤが渦巻く部屋に突入する。

室内に滑り込むと──

 

 

「……うわ」

 

 

所々、天井も床も崩れている。

何故か床が浮き上がっていたり、物理法則を無視して動いている壁まである。

空間は黒く歪み、まるで……異空間のようだ。

 

息も苦しい……少し気分が悪い。

超感覚(スパイダーセンス)もここが危険だって教えてくれている。

あまり長居は出来ない。

 

 

「これがネガティヴ……マーティン・リーの力?」

 

 

僕は踏み外さないよう気を付けつつ、浮いた床を足場に登っていく。

……まるでアクションゲームみたいだ。

 

なんて場違いの事を考えていたら──

 

何かが、僕の側に落下してきた。

金属音が耳に届く。

 

黒いモヤを纏ったそれは、人型だった。

黒いアーマーと……『赤いマスク』をかぶった誰か。

 

……僕は知っている。

よく知っているとも。

忘れられる訳がない。

 

 

「……ミシェル?」

 

 

それは、二年前のミシェルだ。

『レッドキャップ』と名乗っていた頃の姿。

今の黒いマスクじゃない、赤いマスクが僕を見ている。

 

そして、黒いアーマースーツは……血で汚れていた。

僕の呼びかけに反応も示さず、ゆっくりと僕の方へ迫ってくる。

 

首の裏がピリピリと痛む。

超感覚(スパイダーセンス)が痛いほど危険を知らせてくれていた。

 




次回、『インナー・デーモン』
来週の土曜日予定。
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