【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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息抜きに投稿


NIGHT-CAP:ANTHOLOGY
サイド・オブ・ショッカー


オレの名前はハーマン・シュルツ。

元銀行強盗だ。

両手に衝撃波を発生させる手甲、『バイブロ・ショック・ガントレット』を装備している。

スーツも耐衝撃性……信用出来るダチの兄貴が作ったアーマースーツ製だ。

 

んで、歳は26……アラサーと呼ばれ始め……まぁ、それはどうでもいい。

 

人はオレを『ショッカー』と呼ぶ。

 

 

「ハーマン!早く瓦礫を退けてくれ!」

 

 

……まぁ、呼ばない奴もいる。

 

 

「うるせぇ、お前がやれ。お前が」

 

「俺は力仕事に不向きなんだ!」

 

「そのゴテゴテしたアーマーは飾りか?」

 

「俺はアイアンマンじゃない」

 

「……何だ?その言い訳は?意味わかんねぇ」

 

 

オレはガントレットのトリガーを起動し、ショックウェーブを放った。

瓦礫が吹っ飛び……羽根の生えたアーマー男が着陸した。

 

コイツは、『マッハ……『マッハ……えっと……『マッハ──

 

 

「なぁ」

 

「何?」

 

「お前、今のアーマーのバージョンは幾つだ?」

 

「7だよ。嬉しいな。興味を持ってくれるなんて」

 

「そうか、でも興味はねぇよ」

 

 

そうそう、コイツの名前は『マッハ(セヴン)』。

オレと同じく元ヴィランのクソ野郎だ。

 

元々は『ビートル』って名前で昆虫っぽい見た目をしてたらしいが、今はゴテゴテアーマークソ野郎だ。

 

コイツのことは、よーく知ってる。

昔、『ブーメラン』とつるんでた頃に一緒に仕事した事がある。

まぁ、そこはどうでもいい。

 

重要なのはコイツ、ヒーロー側に寝返って直ぐオレ達の情報を警察に話した事だ。

訊かれてもねぇのにペラペラ喋りやがって!

 

喋られた奴らから、復讐されねぇのかって?

出来ねぇんだよ。

 

だってコイツ、『サンダーボルツ』の所属のメンバーだぞ。

悪人から寝返ったクソ野郎集団『サンダーボルツ』……んな所に手を出したら面倒な事になるに決まってる。

 

……まぁ、オレも今、コイツと同じ『サンダーボルツ』のメンバーだが。

『マッハ7』の悪口を言えばオレに返ってくる。

オレは『ブーメラン』じゃねぇんだが。

 

 

……あー、で、だ。

今のオレの仕事ってのは──

 

 

「人命救助は完了。怪我人は……オイ、何人だ?」

 

 

手元のトランシーバーに連絡を入れる。

 

 

「3だ。いずれも軽傷だね」

 

「3人が軽傷。瓦礫も撤去した」

 

『了解した。帰投して構わない』

 

「……あいよ」

 

 

クソッタレの監督役に連絡を入れて、オレはため息を吐く。

誰かの下に付くのは好きじゃない。

自由じゃないからだ。

 

だが、オレもオレの命を守るために、こんな事をするしかない。

 

二年前、キングピンを裏切っちまった時、オレは裏社会のお尋ね者になりかけた。

……で、歳下のダチがオレを助けるために周りに頭を下げて、オレは晴れて『サンダーボルツ』の仲間入りだ。

 

情けねぇ話だ。

オレは自力で自分すら守れねぇ。

 

 

「よし、終わったな。帰ろう!」

 

「……てめぇは先に帰ってろ。俺はバイク停めてる所まで戻らなきゃなんねぇんだよ」

 

「む?そうか、すまないな。では、失礼!ハーマン!」

 

 

コイツ、少しは申し訳なさそうな顔をしろよ。

『マッハ7』が羽を広げて空を飛んでいった。

マッハって名前付いてるけど、マジでマッハで飛べるのか?

絶対誇張してるだろ。

 

しょーもない事を考えて、また、ため息を吐く。

 

名前と中身が合ってねぇのは、オレも同じか。

オレとアイツに大差はねぇ。

どっちかというと……オレが下なぐらいだ。

 

 

「オレは……ハーマンじゃなくて、ショッカーって言ってるだろうが」

 

 

瓦礫を蹴飛ばし、小さく声に出す。

公務員で人命救助を生業とし、自分の身を守るために長い物に巻かれてる。

 

それじゃあ『ショッカー』なんて名乗れるのだろうか。

 

……あー、ダメだな。

考えれば考えるほど、ネガティヴになっちまう。

 

ヒーロー活動、やっぱオレの性に合わねぇんだな。

オレは根っからの『クソ野郎』だ。

 

身に染みるドブのような臭いは、二年経っても消えはしなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

他のクソ野郎共と別れて、自宅に帰宅した。

この仕事の給料は良い。

 

下手に銀行強盗するよりも安定してる。

 

あんまり好きな仕事じゃねぇが、そういう所は心地よく感じている。

だが、その心地良さを毛嫌いしてる自分も居る。

 

そんなこんなで結局、二年も仕事を続けている。

現状を変えられる勇気もなく、現状を受け入れられる素直さもない。

 

男の癖にナヨナヨしてる自覚はある。

需要がねぇのも分かってる。

 

だが、自己嫌悪は止められない。

 

 

「……こういう時はアルコールだ」

 

 

冷蔵庫からビール瓶を取り出す。

……つまみも欲しいな。

 

もう一度、冷蔵庫を漁る。

……何もねぇ。

 

机に置かれたキンキンに冷えたビール瓶を見る。

玄関のドアを見る。

時計を見る。

短針が6を指している。

 

 

「……チッ」

 

 

舌打ちを一つ。

ビール瓶を冷蔵庫に戻し、玄関へと向かう。

 

ちょいとダルいが買ってこよう。

折角のビールだ。

美味くなくても、つまみぐらいは欲しい。

 

帰ってきたばかりだってのに、オレはアパートを出た。

 

 

ニューヨークの街並みはオレンジ色に染まっていた。

コートのポケットに手を突っ込み、オレは足を進める。

 

近所の小さいマーケットで、何かを買おう。

そう思ったオレは……出鼻を挫かれた。

 

マーケットの入り口には臨時休業の文字。

店主の親戚が交通事故に巻き込まれたんだと……あー、つか、さっきオレと『マッハ7』が助けに行った現場か?

 

思わぬ所の繋がりに、オレは……笑えず、仏頂面で歯軋りをした。

 

この世はクソだ。

別のマーケットに行くにも、徒歩15分ぐらいかかる。

クソクソクソのクソ、クソクソだ。

 

 

「……ハァ、だりぃ……」

 

 

思わず、そう呟いて──

 

 

「ハーマン?」

 

 

声が聞こえた。

女の声だ。

 

……オレはそっちへ視線を向ける。

プラチナブロンドの髪に、コバルトブルーの眼を持つ少女……いや、もう少女って呼べるような年齢じゃないか。

 

 

「おう……奇遇だな」

 

「ん、奇遇」

 

 

ミシェル・ジェーン=ワトソン。

『レッドキャップ』……いや、今は『ナイトキャップ』か。

まぁ、オレのダチ……元悪人仲間で、今はヒーロー仲間だ。

 

昔は幼さを感じさせる見た目をしていたが、今は美人って感じ。

言っても、まだ19歳だったか?

オレからすれば、まだまだガキなんだが……。

 

 

「何か用事?」

 

「あ?まぁ……買い物に来たんだが──

 

 

オレが親指で店を指差すと……察したように頷いた。

 

 

「なるほど、何を買いに来たの?」

 

「あー、そりゃ……色々だよ」

 

 

酒飲みのために、つまみだけ買いに来た……なんて言葉は言えなかった。

なんかダサい感じがしたからだ。

 

彼女は少し気にするような素振りを見せたが……まぁ、頷いた。

相手の隠し事を暴こうとしないのが、悪人達の必須技能だ。

 

薮をつつけば死ぬ事だってある。

 

 

「んで?お前は何の用だ?」

 

「私は、晩御飯の材料を買いに」

 

 

その言葉に、オレは眉をピクリと動かした。

 

 

「『材料』ぉ?自分で作るのか?」

 

「む。最近は自炊もしてる」

 

 

なんつーか意外に感じる。

こう、コイツが料理をしているイメージがない。

 

目の前の女を見る。

 

人形みたいに整った顔立ちで、不思議そうに首を捻った。

……こう見ると、前に比べて表情が豊かになったな。

つか挙動がマジでガキっぽい。

 

 

「……何か失礼なこと、考えてる?」

 

「考えてねぇよ」

 

 

勘が鋭い。

オレはため息を吐く。

 

……ミシェルはそんなオレの仕草を見て、口を開いた。

 

 

「ここから歩いて15分ぐらいの場所に、『ウェンズデー』があるけど」

 

「あー……そうだな」

 

 

ウェンズデーは少し大きめのスーパーマーケットだ。

つまみを買う為だけに行くにしては……仰々しいが。

 

 

「私、今から行くから……付いてくる?」

 

「…………あー」

 

 

一緒に行くメリットはない。

オレはもっと小さい店に行けばいいし。

 

正直に言えば、各々別々の店に行けば良い。

 

だが、まぁ──

 

 

「いいぜ」

 

「……うん、じゃあ行こう」

 

 

踵を返したミシェルの側へ、移動する。

容姿端麗で綺麗な女と……反社会的な男。

落差があるもんだから、道行く人から視線が集まる。

 

好奇の視線が鬱陶しい。

気分は良くない。

 

だが、コイツは態々、オレを誘った。

だからまぁ、付いてっても良いか……なんて思った。

この選択にオレは後悔なんてしない。

 

 

 

 

 

 

 

そっから、別段深い会話をすることも無く……『ウェンズデー』で買い物をした。

 

 

 

 

 

 

 

ミシェルはトマト缶やひき肉、パスタを買っていた。

ミートソースのパスタでも作るつもりか?

 

……あぁ、そういや……昔、オレも作ってた事があったな。

両親が居なくなった後、妹のために作った事があったか……懐かしい思い出だ。

 

二度と、戻りはしない……思い出。

 

 

「ハーマン?」

 

「何だ?」

 

「何かあった?」

 

「……何もねぇよ」

 

 

センチになっていた。

なんて、口には決して出せない。

ダサいし、情けない。

 

ミシェルは少し不服そうにしながらも、頷いた。

 

オレはミシェルの持っていた荷物を奪い取り、先を歩く。

 

 

「で?今住んでるのはどこだ?」

 

 

女に付き添ってんだ。

荷物運びぐらいはしてやろうと思った。

目の前の女の方が力持ちだろうが……それはそれ、これはこれだ。

 

自分の手荷物はしょーもないジャーキーと、ナッツ類、炭酸水しかない。

荷物が多少増えても問題はねぇ。

 

 

「今は……マンハッタンの共同マンションに住んでる」

 

「……おう」

 

 

マンハッタンの……って言ったら、あそこか。

あの旧アベンジャーズ・マンションの……歳若い奴等が住んでる場所だ。

 

『S.H.I.E.L.D.』の所有物だな。

オレは入れないが……まぁ、入り口近くまでは持って行くか。

 

 

「でも、寄りたい場所がある」

 

 

寄り道?

それなら、マーケットで手荷物を増やす前に行くべきだったんじゃないか?

なんて思いつつも、悪態は口にしない。

 

代わりに質問を投げた。

 

 

「何処行く気だ?」

 

「ん、それよりも……ハーマンは夕食の予定ある?」

 

 

それよりも、って何だよ。

話の腰を折らないでくれ。

 

オレはため息を吐いて、首を横に振った。

 

 

「ねぇよ、予定なんて」

 

「……それだけで足りるの?」

 

 

ミシェルが、オレの買ったつまみの入ったビニール袋を指差した。

 

 

「まぁな」

 

「嘘。ハーマン、最近ちゃんとご飯食べてる?」

 

「腹が減ったらな」

 

「ちゃんと食べた方がいい」

 

 

コイツ、小せぇ癖に母親面か?

オレの方が歳上なんだが。

 

 

「分かった分かった……まぁ、何かテイクアウトして食えば良いんだろ?」

 

「…………」

 

「……何だよ?」

 

 

適当にあしらったオレを、コイツは訝しむような目で見た。

そして、頬を緩める。

 

 

「うん、だったら……私がご飯、作ってあげようか?」

 

 

……は?

オレは首を傾げる。

 

 

「何言ってんだ?」

 

「付き添ってくれたお礼も兼ねて、作ってあげる」

 

「何言ってんだ?」

 

 

全く同じ問い掛けを2回投げた。

言ってる意味が分からない訳じゃない。

どうして、そんな結論に達したのか理解不能だからだ。

 

 

「遠慮は良いから……それとも、私の手料理が食べたくない?」

 

「あーいや、そういう訳じゃねぇんだけど──

 

「じゃあ、決まり?」

 

 

……いや、決まりじゃねぇよ。

何かしら、来ない方が良い理由を探す。

 

 

「……お前、歳頃の女が、夜に男の家に来るのは不用心だろうが」

 

「大丈夫、私の方がハーマンより強いから」

 

「それは……まぁ、そう、だが」

 

 

確かに、見た目は虫も殺せなさそうな無害そうな女に見える。

だが、その実、近接格闘技能を修めてる。

単純な腕力もコイツの方が上だ。

 

ガントレットがあろうが、無かろうが……まぁ、襲いかかっても一瞬で捩じ伏せられそうだ。

肋の二、三本ぐらいなら容易く折られそうだな。

 

いや。

……襲うつもりはないが。

 

 

「……はぁ」

 

 

なんつーか意識してるのも馬鹿らしくなってきた。

無理に否定しても、諦めなさそうだし。

 

 

「……分かったよ。キッチンを貸してやる」

 

「ありがと……じゃあ、早く行こ?」

 

 

コイツはオレの家の場所を知ってる。

嬉しそうにオレの前を歩き始めた。

 

……また、オレはため息を吐いた。

 

 

「何でお前が感謝するんだ……礼はオレが言うべきだろうが」

 

 

小さく、言葉を漏らした。

 

言うならば、要らぬお節介だ。

オレが悩んでいるのだと見抜いて、そして少しでも助けになればと……そう思っているに違いない。

 

良い奴だからだ。

オレと違って。

 

だからオレの望まぬ行動だろうが、好意が根底にあるのなら……嬉しくない訳がないだろう。

……思わず自分の顎を撫でた。

 

オレも丸くなったな。

 

なんて……歳下の女を追いかけながら、そう思った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

鼻歌交じりに、ミシェルがミートパスタを作っている。

フライパンに買ってきたトマトペーストや挽肉、玉ねぎなんかを突っ込んで炒めている。

 

良く言えば、手慣れた様子。

悪く言えば、雑だな。

 

炒める順も適当だし、調味料の分量も適当だ。

味見もしていないが、それだけ自信があるって事か?

ちょいと見てねぇ内に、料理に慣れてんだなって……ちょっと感慨深くなる。

 

……しかし、二人前の材料がよく揃って──

いや、元からオレに手料理を振る舞うつもりだったのか。

 

それとも──

 

 

「普段から二人前作ってんのか?」

 

「まぁ、ね」

 

 

……偶々、オレが食うハメになったのか。

つーか……じゃあ相手は誰だ?

誰に食わせるつもりだったんだ?

 

顎に手を当てて、少し悩む。

訊くべきか、訊かないべきか──

 

 

「彼氏に作ってる。でも今日は急用が出来ちゃったらしいから」

 

 

と、オレの悩みを他所に爆弾を投下しやがった。

 

 

「……あ?彼氏ぃ?」

 

 

思わず聞き直してしまった。

 

彼氏?

コイツに彼氏?

世間一般の常識もなさそうなコイツに?

 

……ツラだけは良いから騙されてんのか?

それとも──

 

 

「大丈夫、ハーマン」

 

 

そう言いながら、ミシェルがフライパンの中身を混ぜた。

 

 

「何がだよ」

 

「心配するような事はないから……ちゃんと、優しい人」

 

 

そう言われて、オレは……自分がコイツを心配しているんだと、気付かされた。

目を細めて、腕を組み……ソファに深く座り込む。

 

 

「……お前がどんな恋人を作ろうが、乳繰り合おうがオレには関係ないだろ」

 

「ち、乳繰り合う……」

 

 

しまった、失言だ。

つか、セクハラだ。

 

汗を流しながら、無理矢理、言葉を重ねる。

 

 

「ま、まぁ……でもよ、彼氏がいるなら尚更、オレの家に来てよかったのか?」

 

「……ん?何が?」

 

「他の男の部屋に恋人が行ってるなんて、浮気疑われるしダメだろ」

 

 

そう言うと、ミシェルが苦笑した。

 

 

「そういうつもりはないけど……」

 

「彼氏クンから見たら、そう見えるだろって話だ。色恋絡んだ人間の嫉妬は舐めねぇ方が良い」

 

 

実際、色恋沙汰で人間関係が崩壊する悪人チームは多い。

元々、碌でもない奴らの集まりだから……ってのもあるだろうが。

 

 

「大丈夫。私の彼氏は優しいから」

 

「……まぁ、お前とその彼氏が良いなら、良いけど……変な事にオレを巻き込みさえしなければ」

 

 

オレはため息を吐く。

 

しかし、コイツに恋人か。

……死んだ兄貴はどう思うだろうか。

 

ブチギレんのかな。

それとも、応援するのか。

 

……この笑顔の多さが、自然さが、その彼氏の影響なのだとしたら……実際、良い奴なんだろう。

オレみたいなクソ野郎とは違う、正真正銘の善人なのだろう。

 

なら『ティンカラー』も喜んでくれるだろう。

アイツは、ミシェルの幸せを望んでいた。

自身の意思とは関係なく、幸せならば……それだけで、両手を振って喜ぶような奴だ。

多分、最初はキレるだろうが。

 

……まぁ、ちょっと世間からズレてる女だ。

いや、かなり世間からズレてるか。

 

そんな変な女と一緒に居られるのなら、相当……好きなんだろうな。

 

オレが口出しするべきじゃない、その関係性には。

 

 

「ん、出来た」

 

 

湯掻いたパスタを二つの皿に分けて、作ったミートソースをかけた。

そして、オレの前と……向かいの席に置いた。

 

 

「熱いうちに食べて」

 

「そうだな」

 

 

フォークでミートソースを絡めて、口に含む。

 

ちょっと、塩っぽかった。

胡椒が効いてなかった。

玉ねぎがちょっと生っぽい。

 

……まぁ、言うなら、そんなに美味くはなかった。

 

 

いや、料理が『上手くない』ってのが本音か。

だが、まぁ──

 

 

「美味しい?」

 

「そこそこだな」

 

 

食えない訳じゃない。

寧ろ、懐かしい気持ちにさせてくれた。

 

ずっと、ずっと昔の……ボロいアパートの一室の、妹と食ったパスタを思い出した。

オレも料理が下手だったな。

 

こんな、ケチを付けようと思えばいくらでも付けられる、そんなパスタを作った。

オレの妹はそれを食って……それでも嬉しそうに笑ってたんだ。

 

 

「……あー、そうか」

 

 

アレは別に、妹が何でも美味く食えるようなバカ舌だった訳じゃない。

誰かが自分の為を思って作ってくれた飯は……上手くなくても、美味く感じるのだ。

 

そういう事だったのか。

今更、気付いた。

 

 

「……ハーマン?」

 

 

フォークを持つ手を止めたオレを、ミシェルが訝しむ。

 

 

「いや、何でもねぇよ」

 

 

味付けも、火の通しも三流だ。

目の前の、作った張本人も気付いているだろう。

だが、オレは文句を言わず口に運んだ。

 

胸の奥が熱くなる。

それは料理が熱いからか、それとも……想いからか。

 

きっと後者だ。

この料理からは……無償の献身を感じられる。

それは最高のスパイスだろう。

 

思わず、感謝の言葉が漏れる。

 

 

「……ありがとよ」

 

「……あれ?悩みの相談は、その……食後にするつもりに……」

 

 

ミシェルがオレを見て、不思議そうな顔をする。

……自分でも気付かぬ内に、悩みが消えたのだろう。

それが顔に出ていたのか。

 

 

「あ?悩みなんてねぇよ」

 

「でも……さっきまで、ずっと眉間に皺が寄ってた」

 

「気の所為だ」

 

 

オレはクソ野郎だ。

誰かを、何かを踏み躙って生きてきた。

だが、誰かのために物事を為すのも……まぁ、悪くはないか。

 

気付いていた。

他人のために努力する事は馬鹿らしいと……そう考えてたのは、オレの中にある虚勢だったのだと。

 

そうしなければ、誰にも助けられず、死んでいった奴らが……報われない気がしたからだ。

だが、まぁ……オレが救う側ってのも悪くはない。

 

このままで良いのか、なんて悩んでいるのが急激にアホらしく思えてきた。

このままで良いかって?

良いに決まってるだろ。

 

分かっていたのに、悩んでるつもりでいた。

誰かに否定されたかったのか、肯定されたかったのか。

 

 

……他人に責任を委ねたかった。

だが、それは逃げだ。

 

 

パスタを巻き取る。

オレの根元がクソ野郎であること、それは認めよう。

だからといって、そのクソ野郎であることをアイデンティティーにしなくて良い。

 

 

オレはオレだ。

 

 

元々、何でオレは『ショッカー』だったのか。

何を『壊したかった』のか。

 

オレは、クソったれな世界を壊したかった。

それは助けを必要としていた家族が、世間から見捨てられたからだ。

 

こんな世界は間違っていると、全部ぶっ壊したくなった。

 

そこにはあったのは単純な悪意か?

いいや、元を正せば……助けられなかった奴らを助けたかったという未練だ。

大金が欲しかったのも……あの時、あればという未練か。

 

だから、元を辿れば……オレの本質に合致している。

意地を張って、小さなプライドで反骨精神を育てる必要はない。

 

 

それなら、オレは『ショッカー』のまま、誰かを助ける仕事だって……続けていられるだろう。

 

 

目の前で、ミートソースに口元を汚す女を見ながら……そう思った。

人は変わったとしても、本質を違えないのだと教えてくれる。

 

……いや、口元汚し過ぎだろ。

 

オレはため息を吐いて、ウェットティッシュを顔に押し付ける。

 

 

「ん、うぐ……じ、自分で拭ける……!」

 

 

そう言って、オレの持つウェットティッシュを引ったくり、口元を拭き始めた。

……やっぱりコイツ、オレの妹には似てねぇな。

なんて、考えながら。

 

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