【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
よーし、分かった。
じゃあ、もう一度だけ説明しよう。
僕はピーター・パーカー。
7年前、放射性の
後は知ってるよね?
多くの人を助けた。
恋もした。
街も救ったよ……数えきれないぐらいにね。
何度も何度も何度も何度も……ホント、呆れるよね。
派手なスーツを着た悪党達が暴れる度、僕は何度も戦ったんだ。
雷を撒き散らす電気工。
空を飛ぶ老人。
変幻自在の詐欺師。
マフィアに忍者に、犯罪シンジケート。
街を脅かす以外に、やることないのかな?
まぁ、彼等がストレスの種だ。
だけど、この街は最高だ。
こうやってほら、街の上空をスイングして風を切れば、気持ちいいからね。
おっと、下で騒ぎが聞こえる。
お金が溢れるほど入った鞄を持った男が、片手に
銀行でお金を下ろしたようには見えないよね?
そもそも、出てきた場所は銀行じゃなくて、個人商店だけど。
「よっ、と」
空中で一回転、そのまま推定強盗くんの目の前に着地した。
「な、わっ!?」
「親愛なる隣人参上!……って、自分で言うには少し馴れ馴れしいかな?」
目の前に急に降りてきたものだから、強盗くんは驚いて拳銃を構えた。
「ひ、ひぃっ」
「おっとっと、そんなに驚かなくていいよ。悪いことしてないなら、僕は何もしないからさ。だから、その拳銃を降ろしてよ、ね?」
ま、悪い事してるんだろうけど。
瞬間、頭の中でピリリとした感覚。
「し、死にやがれっ──
「だよね」
引き金を引くより早く、僕は強盗くんの腕へ
「な、なんだこりゃっ!?」
勢いそのまま、引き金ごと固定された強盗くんは発砲できずにたじろいだ。
その隙に僕は地面を蹴った、そして──
「ネバネバアッパーカット!」
「ぐえっ!?」
「なんちゃって」
なんでそんな事をするのかって?
手加減だよ。
強盗くんは一般人、本気で殴ったら死んじゃうから。
強盗くんはそのまま地面を転がり、気を失った。
うん、我ながら良い手加減だね。
なんて思っていると──
「手を挙げろ!」
「え?」
警察の方々が僕に拳銃を向けていた。
いや、なんで?
確かに僕って、国に所属しているヒーローじゃない、非合法なヒーローだけどさ。
警官達と特別、仲が悪いって訳じゃない筈なんだけど。
寧ろ、何度か協力した仲じゃん!
「貴方には黙秘権がある!これからの発言は法廷で不利な証拠として使用される可能性が──
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!?僕さ、今、強盗を捕まえただけだよ?そんなモノ向けられる理由がある?」
「……しらばっくれるのか、無関係なのか。とにかく、署まで来て貰う!」
「いや、それは勘弁して欲しいっていうか……」
「マスクを取れ!地面に伏せろ!」
「君は少し落ち着いて?」
「黙れ!」
おっと怒らせちゃったみたい。
でも、発言している彼以外は、僕に拳銃を向けながらも敵意はなさそう。
この警官は……特別、元々僕のことが嫌いみたい。
スパイダーマンアンチだね、こりゃ。
取り敢えず手は挙げておく。
「まぁまぁ、ほら。僕もう行くからさ」
「貴様が行くのは警察署──
手を挙げたまま少し角度を変えて、
「じゃあ、またね?」
ビルに張り付いた糸を、そのまま引っ張って急上昇した。
目下、怒声が鳴り響いているけど、発砲による追撃は……うん、なさそうだね。
流石にそこまで、頭に血はのぼっちゃいないか。
そのまま壁を蹴って、スイング開始。
即座にその場を離れる事にする。
「しっかし、なんで……」
警察とは共通の友人がいる。
ていうか僕の
彼女を経由して、警察と大捕物する事だってある。
だというのに、この様子。
まぁ確かにマスクマンを嫌っている警察官はいるけどね。
『スパイダーマンは一刻も早くマスクを脱いで、自首するべきだ!』
そうそう、あの街頭モニターに映っている新聞社『デイリー・ビューグル』の社長、J・ジョナ・ジェイムソンみたいに──
「って、あれ?自首?僕が?何で?」
僕はスイングを中断して、壁にビルの天井に着地した。
そして、大きなビルの前面に飾られた大きな街頭モニターに目を向ける。
『スパイダーマンは嘘つきのペテン師だ!これが今朝の映像……白昼堂々と銀行強盗だと?バカげているな。だが、奴はバカだと証明された!』
モニターにはジェイムソンじゃなくて、監視カメラの映像が流れている。
そこには僕……というか、スパイダーマンの格好をした何者かが、銀行員を殴って金を奪っている姿があった。
「え、ええ……っ!?」
『ヒーロー達のいない時を狙って、本性を表したのだ!警察はスパイダーマンを名乗る男に関する情報を広く集めている……ウチでもいいぞ!自警団かぶれの犯罪者を許すな!』
ジェイムソンはそう締め括った。
そして、映像はまた最初から流れ始める。
何が起こってるかサッパリ分からない。
だけど、今、足元の市民達から視線を向けられているのが分かる。
「……嫌に目立ってるなぁ」
半信半疑って人が多い。
まぁ、僕って地域密着型のヒーローだから。
でも、何だか、嫌な感じの視線も混じっている。
万人に好かれるヒーローを目指してるけど、中々難しいみたい。
堪らなくなって、僕はその場から逃げ出した。
とにかく、一度、自宅に帰ろう。
◇◆◇
そうして宙を飛んで、自宅のアパート……その寝室に窓から入った。
「ふぅ……なんなんだ、いったい」
悪態を吐きながらスーツを脱いで、ラフな格好に着替えて……人の気配。
朝方は誰も居なかった。
勝手に誰か来ているのだとしたら、一人しか該当しないだろう。
ドアを開けば──
「ミシェル」
「ん、おかえり。ピーター」
僕の
白みがかったプラチナブロンドに整った目鼻立ち……少し表情に乏しいが、そこもクール。
だけど性格は可愛げがあって、優しい女の子。
自慢の恋人だ。
そんな彼女はキッチンで何やらスープを作っていた。
「それって?」
「今日のお昼、まだ食べてないでしょ?昨日、家で作ったシチュー持ってきたから温めてる……食べる?」
「うん、ありがたくいただこうかな」
さっきまでの困惑や緊張もすっかり抜け落ちて、僕は椅子に座った。
すると彼女がシチューを2つ皿に入れて、僕の前と向かいの席に置いた。
そうしてそのまま、向かい側に座った。
彼女が席についたのを確認して、僕はシチューを口に含んだ。
うん、程よく甘くて疲れた体に染み渡る──
「それで、ピーター。銀行強盗は楽しかった?」
「げほっ、ごほっ!?」
咽せた。
そして僕はミシェルに目を向けた。
少し、他の人には分からないような細かな表情の違いで……彼女が冗談を言ったのだと分かった。
「まったく、酷い冗談だよ……警官に撃たれそうになるし」
「警官に?なんで?」
「別の強盗捕まえたらさ。僕を逮捕しようって感じで」
「……警察では今、スパイダーマンを重要参考人として迎えるよう指示が出てる。でもそれは、あくまで協力者として」
「協力者?僕、撃たれかけたんだけど」
「拳銃を構えた警官は、越権行為。警察全体の意思じゃないってこと」
そう言ってミシェルはシチューをスプーンですくい、フーフー吐息を吹きかけていた。
「しかし、僕の偽物か……」
「前には?経験ない?」
「いやぁ……あったけど。かなり昔だから誰も覚えてないよ」
「……なるほど?」
覚えてないのは記憶の摩耗が原因ではない。
昔、一度、悪魔と無理やり契約させられて、世界中から僕に関わる記憶と記録を消された事がある。
だからそう、僕の偽物ってのは今回が初めてって扱いになる。
「前回はカメレオンって奴で、変装の達人だった。ファンタスティック・フォーのラボに侵入しようとして、シングにボコボコにされたよ。だから、世間に公表された訳じゃない」
「……ふーん。今回もカメレオンだと思う?」
「いいや、違うんじゃないかな。あいつは目立つ事を目標にしない。今回のやつはわざわざ、日中に僕の姿で強盗をしてる。僕の風評を悪くして、攻撃したいって陰湿なやつだよ。だから、カメレオンじゃない」
「……うん、確かに。私もそう思う。そもそも、監視カメラの映像を観たけど……
その言葉に僕は少し驚いた。
「え?犯人、
「うん。だから、警察だってあの偽物を、もしかしたら本物かもって思ってる」
「……うーん」
腕を組んで、顔を顰める。
まず、即座に発射できて、人を支えられる
次に、その
普通の人間じゃ真似できない。
ということは、だ。
少なくとも、犯人は僕に近しい何らかのスーパーパワーを持ってるって事になる。
「とにかく、私も事件の調査はする。今は他に、頼りになるヒーロー居ないし」
ミシェルの言葉に僕は頷く。
スタークさんや、キャップ。
ファンタスティック・フォーの面々に、Xメン……誰も彼もが現在、宇宙での任務中だ。
なんでも、最近、次元が不安定だとかで……大変だ。
多分、犯人はその隙を狙って犯行に及んだのだろう。
そうに違いない。
「僕も、気をつけておこうかな。何か分かったら教えてくれる?」
「ん、もちろん。ピーターの方こそ、何かあったら相談すること。一人で抱え込まないように」
「……僕ってそんなに信頼ないかな?」
「ピーターが一人で色々やろうとして、気に病むのはよくある話。前科がいっぱいあるから……何か文句ある?」
「いやぁ、その、はは……ごめん」
「よろしい」
ミシェルは満足したようで、シチューを口に運んだ。
合わせて、僕も口に運ぶ。
ミシェルの手料理も上達したな、なんて思った。
◇◆◇
そうして、翌朝。
ベッドでまだ寝ているミシェルを置いて、僕は起き上がった。
冷蔵庫からミルクを出してコップに注ぎ、何となくテレビをつける。
ミルクを飲みながらニュース番組を見ていると──
『ご覧ください!再び、スパイダーマンが現れました!街の隣人を自称していた彼は何処に?犯罪に手を染めてしまったのか!』
テレビの中継で、銀行内で暴れるスパイダーマンが映っていた。
昨日の今日で銀行強盗なんて、随分と欲張りな偽物だ。
「……っ」
僕は慌ててミルクを飲み干し、いつものスーツに身を包む。
とにかく、急ぐ必要がある。
「ミシェル、ちょっと行ってくる!」
「ん……」
寝惚けた様子の彼女を横目にマスクを被り、僕は窓から飛び出した。
そのまま
ニューヨーク、クイーンズの街を駆け出した。
「ああ、もう、まったく嫌になるね!朝はゆっくりしたいっていうのに!」
少し苛立ちながら朝方のニューヨークを駆ける。
そして、そのまま目当ての銀行に到着する。
辺りは警官だらけ。
僕の存在がバレたら拙いだろうか。
そう思っていると、銀行の中から偽物が飛び出した。
「警察だ!状況を考えろ!マスクを取れ!両手を上げて観念しろ!」
驚いた。
あの偽物、完全に僕と同じように
慌てて、僕も偽物の後を追う──
「止まれ!止まれ!」
って、警官達、逃げてる偽物を見失った所為で、今来た僕を強盗だと勘違いしてる。
「ちょっ!撃たないでよ?僕は今、猛烈に自分探しをしたい所なんだからさ!」
発砲音が何度か響いたけど、宙でスイングを始めた僕に当たる訳がない。
大体、発砲しているのは警官の中でも少数だ。
みんながみんな、僕の敵って訳じゃあない。
「とにかく、今は追わないと」
そうして、逃げる偽物を追いかけて──
「追いついた!そこまでだよっ──
宙を飛んでいる偽物を捕まえて、ビルの屋上に叩きつけようとした。
そう、『ようとした』だ。
「って、え!?」
捕まえる瞬間に、偽物はパッと消えて居なくなった。
まるで瞬間移動したみたいだ。
「うわあっ!?」
僕は捕まえようとした勢いのまま、ビルの屋上に墜落した。
どんがら、と大きな音を響かせて転がる。
バカみたいだ。
「っ、まったく……まさか
砂埃を払いながら、僕は立ち上がって見渡した。
偽物の痕跡は存在しない。
本当に、まるで元々居なかったみたいだ。
腕を組んで、壁にもたれ掛かる。
そして、首を傾げる。
あの瞬間移動は何だったのか。
魔術?超能力?
分からないけど、僕と似たような能力にプラスして
厄介な偽物だ、と思っていると──
脳裏に電流が走った。
何かを閃いた?
いいや、違う。
これは危機を報せる予知のようなもの。
瞬間、僕はその場で身を捻って──
「うわっ!?」
飛んできた『何か』を避けた。
避けた何かは壁にぶつかって、拡散した。
それは……
そう思って視線を、
「見つけたぞ、偽物め!何でそんな格好で悪さをしてるんだ!許さないぞ!」
そう口にしたのは僕じゃない。
相手の方だ。
そして、そのお相手は──
「……ええと、あのさ。君って何者?」
「貴方の方こそ、何者なんだ!わざわざ、そんな格好で強盗なんて……ナンセンスだよ!」
黒い、スパイダーマンだ。
黒に赤いウェブのようなマーク。
クールなスーツだ、上手く着こなしてる。
でも、これって僕のパクリだよね。
別に特許とか取ってないし、権利の主張は出来ないけどさ。
「強盗なんて僕はしてない……君の方こそ何者なんだ?僕の偽物はこれで二人目ってこと?でも偽物にしてはオリジナリティを出しすぎだよね」
「……え?あれ?貴方って本物のピーター?」
瞬間、僕は顔を顰めた。
この黒いスパイダーマン……僕の名前を知っている。
頷いて肯定する事はできないけど。
「何がなんだかサッパリ分からないんだけど」
「それは僕も同感。何で……って、いや、どうして?って感じだけど」
「君が事情を知らなきゃ、僕だって分からないよ」
「貴方がそれを言うの?変な事してるのは、貴方なのに」
「嘘だ。それは君だろ?」
「いいや、僕じゃない……と思う」
黒いスパイダーマンも困惑中。
僕が何か文句でも言ってやろうと口を開いた……その瞬間、また
さっきの、この黒いスパイダーマンの時よりもっと強烈な……敵意のような感覚。
それは黒いスパイダーマンも気付いたようで、僕と彼は同時にその場を離れた。
瞬間、ハイテクデザインの手榴弾が投げ込まれた。
その直後──
「うわっ!?」
「うわあっ!?」
爆発。
ただし放たれたのは火や金属片じゃなくて、電撃だった。
地面は焦げていない事から察するに、出力は控えめ……非殺傷だろうけど──
と考えた直後、再び
「おっと!」
背後から放たれた蹴りを避けて、地面に着地した。
「危ないじゃないか!って……」
そこに居たのは……またスパイダーマンだ。
赤いスーツで僕とよく似ている……けど、青い部分が黒色だ。
しかも、目付きが悪い。
「フン、偽物どもめ。存外、素早いようだな」
整理しよう。
僕が赤色と青色、黒い
二人目が黒色、赤い
三人目は赤色と黒色、黒い
そんな三人目……うん、目付きの悪いスパイダーマンが僕達を指差した。
「聞いてやる。貴様らは何者だ。何故、私の真似事をしている?」
対して、黒いスパイダーマンが指を差し返した。
「そういう貴方こそ!目付きが悪くて、変じゃない?」
そして、僕は二人を指差した。
「そもそも、僕は二人とも納得してないんだけど?君達はいったい何者なんだ?」
そんな僕を黒いスパイダーマンが指差した。
「貴方の方も!何で居るんだ!?」
続けて目付きの悪い者マンも指差した。
「それは私も同感だ。古ぼけた鏡のような貴様が、最も不快だ!私への当て付けか!?」
ああもう、すごいメチャクチャな状況だ。
誰か一体全体、今どういう状況なのか説明して欲しい。
頭を抱えていると、目付きの悪いスパイダーマンが構えた。
「とにかく、貴様らは拘束する。そして、ここが何処か吐かせてやる!」
敵意を向けられたのを認識して、黒いスパイダーマンが構えた。
「よく分からないけど、捕まる気はないよ!そっちこそ、事情を話して貰うからね!」
何だか乱戦になりそうな気分。
緊張感。
張り詰めた
疑心暗鬼で誰も彼もが信用できない中──
「そこまでだよ!」
頭上から、もう一人落下してきた。
もう、また?
これ以上、スパイダーマンが増える、なんて……って、え?
「親愛なる隣人、スパイダーガール参上!喧嘩はそこまでだよ、スパイダーマン達!」
女性らしい丸みを帯びたスタイルを持つ……っていうか、少女らしい体躯をしたスパイダーマン……いや──
「ああ、頭痛がしてきた……この状況、誰か説明してくれないかなぁ」
スパイダーガールが、その場に立って居た。
次回は一週間後。