【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
ここはニューヨーク、クイーンズ。
とあるビルの屋上。
太陽が昇りつつある昼頃に、僕は三人のスパイダーマンと見合っていた。
正確にはスパイダーマンが二人と、スパイダーガールが一人か。
その中の一人、目付きの悪いスパイダーマンが、急に現れたスパイダーガールを指差した。
「次から次へと珍妙な奴らめ……何者だ!」
「だから言ってるじゃん、スパイダーガールだって!敵じゃないよ、君達の味方」
「それをどう証明する?」
「不意打ちしてないのが、その証拠だって。それとも貴方、スパイダーマンなのに罪無きガールを攻撃するつもり?」
「………チッ」
手を振るスパイダーガールに対して、目付きの悪いスパイダーマンは顔を顰めた。
マスク越しに分かるぐらい、顔を顰めて居た。
「とにかくさ、話し合おうよ?ね?」
手を擦り合わせながら、そんなことをスパイダーガールが口にする。
対して僕も手を上げた。
「それは僕も同感。少しでも状況を把握したいかな」
「お、そっちのスパイディは話が分かるね。黒い方は?」
「……うん、僕も構わない。貴方達が誰か気になってるし」
「よしよし……で、そっちの悪人顔さんは?」
スパイダーガールが目付きの悪いスパイダーマンへ目を向けた。
「私は悪人ではない。貴様らなんぞより優れたスパイダーマンだ……癪に障る女め」
「うーん、態度を変えたら納得してくれる?」
「……チッ、態とらしい態度を取られても鬱陶しいだけだ。構わん、話ぐらいなら聞いてやる」
悪態を吐きながら、それでも頷いた目付きの悪いスパイダーマンに対してスパイダーガールが頷く。
「それじゃ喫茶店……に行くにはドレスコードがダメダメかな。誰かこの近くに
「「……………」」
手を挙げたくないなぁ……なんて僕は思って居た。
知らない人を家に上げるリスクがあるし……他のスパイダーマンが挙手するなら譲るつもりだ。
……だったけど、誰も手を挙げやしない。
ため息を一つ吐いて、僕は手を挙げた。
「はぁ……スパイダーラボは存在しないけど、僕の家は近所にあるよ」
そんな僕に対して、スパイダーガールは腕を組みながら頷いた。
「それじゃ、お邪魔しようかな?ありがとね、スパイディ」
まぁ、悪い人では無いんだろうけど。
スパイダーマン達相手に道案内をする羽目になるなんて……今日は厄日だ。
◇◆◇
そうして、クイーンズにある賃貸のアパートに来た訳だけど。
目付きの悪いスパイダーマンが椅子に座って、腕を組んでいる。
黒いスパイダーマンは緊張した様子だ。
スパイダーガールは物珍しいのか部屋の中をうろうろしている。
しかし、ああ、良かった。
ミシェルは既に帰宅していた。
今日は仕事だと言っていたから、今朝の偽スパイダーマン事件の調査でもしているかもしれない。
とにかく、彼等と会わせるとややこしい事になりそうだし、彼等の正体が分かるまで会わせたくはなかった。
よく分からない人達だし。
しかして、スパイダーガールがテレビを点けた。
別に許可制って訳じゃないけど、他人の家のテレビを勝手に点けるのはどうなんだと思う。
そんなテレビにはJ・ジョナ・ジェイムソンが映っていた。
『今朝もあの覆面男が強盗を働いたぞ!けしからん自警団もどきめ!負傷者も少なからず出ている!偽物だと言いたいのなら、本物はマスクを脱いで自己弁護すべきだ!姿を表せ、卑怯者のスパイダーメナスめ!』
僕が苦笑いしていると、スパイダーガールも苦笑した。
「うわー……こっちのジェイムソンはまだまだ元気なんだ?」
「え?あ、うん……ジェイムソンはいつも元気じゃない?」
「こっちじゃそうはいかないんだよね」
こっちの……?という言葉に不信感を抱いていると、スパイダーガールが僕達を見回した。
「さて、今の事情に詳しい人っている?居ないなら私から推測を発表しちゃうけど」
「「「…………」」」
その言葉に僕を含む3人のスパイダーマンは、首を横に振った。
何が何だかさっぱり分からないからだ。
「じゃあ、失礼して……まず、ここがどこだか分かってる人いるかな?」
彼女の言葉に僕は手を挙げた。
「どこって、ニューヨークのクイーンズだよね?」
対して、黒いスパイダーマンが手を振った。
「いや、違う。よく似てるけど、僕の知ってるクイーンズじゃない。『アルティメッツ』も居なさそうだし」
その言葉に、目付きの悪いスパイダーマンが同調した。
「それには私も同感だ。私のビルが無い……待て、アルティメッツとはなんだ?」
「アルティメッツはアルティメッツだ。というか貴方のビルって、何言ってんの?」
「貴様の方こそ、訳の分からない言葉で煙に巻こうなどと──
「ストップストップストップ!喧嘩しないの、同じスパイディでしょ?」
「私を貴様らと『同じ』にするな」
スパイダーガールが二人の仲裁をしつつ、僕へ目を向けた。
「とにかく、そこのスパイディが、この世界の『スパイダーマン』ってことかな?」
「この世界の……?」
「そう。私達はきっと、別の
そう口にすると、黒いスパイダーマンはギョッとしたのか席を立った。
「それ、何を言って──
「
その言葉に僕は覚えがあった。
ミシェルや
小さな選択で無限に分岐を繰り返し、異なる現実が生み出される。
こことは違う世界、それが
「……そこのスパイディは驚いてないようだね。他の二人は?」
スパイダーガールが問い掛けると、黒いスパイダーマンは椅子に座り直した。
「……僕も、言葉ぐらいなら知っているけど、存在してるとは思わなかった。でも、ここがクイーンズなのだとしたら、僕の知ってるクイーンズと違う……それが、世界が違うからだって理由なら納得できる」
「そっか、良かった。じゃあ、目付きの悪い方」
「いい加減にそう呼ぶのを止めろ……私は既に納得している。多元宇宙の理論、そして
二人がそう言ったの見て、スパイダーガールが腰に手を当てた。
「ね?つまり、何らかの理由で、私達はこことは違う世界から集まった『スパイダーマン』ってこと。この世界のピーター・パーカーも理解した?」
そう言いつつ、僕へ目を向けた。
本名もバレてるらしい。
お手上げだ。
「……分かったよ。それにしても何で?って、いうか君は関係者なの?事情に詳しいみたいだし」
「私?まぁ、ちょっと
「いや、見せなくていいよ」
「あ、ちゃんと返事するんだ。思っていたよりも、真面目だね」
「僕ってどう思われてるの」
何だか話していると疲れる女の子だ。
そう思っていると、スパイダーガールが再びベッドの縁に座った。
「それじゃ、互いに互いのことを知るべきだし、自己紹介でもする?この事態の解決方法を調べたいなら、チームで行動すべきだし」
その言葉に、目付きの悪いスパイダーマンが首を振った。
「不要だ。私は一人で事態を収拾する。貴様らの手助けなど不要だ」
「この世界には貴方の家も、お金も、戸籍もないんだよ?目付きの悪いスパイディ。衣食住が足りてないホームレス生活をしながら、一人で調査するつもり?」
「…………」
「まぁ、私達を利用すると思ってさ。集団行動してみない?」
「……チッ」
口車に乗せられている自覚はあるのだろう。
目付きの悪いスパイダーマンは忌々しそうに、スパイダーガールを睨み付けた。
「「…………」」
そうして場の空気が悪くなり、静かになってしまった。
この空気を打破するには……うわ、スパイダーガールが僕に目線を向けている。
自己紹介を促しているのだろう。
嫌だなぁ。
渋々、僕は小さく挙手した。
「えっと……僕はスパイダーマン」
「それは知ってるけど?」
「見たら分かるよ」
「当然だ」
酷い言われようだ。
自己紹介しろって目配せされたのに、スパイダーガールすら非難してくる。
そんな彼女はため息を吐いて、僕を指差した。
「ていうか、スパイディ。自己紹介の時はマスク脱いでよ。それで、ちゃんと生い立ちから自己紹介した方がいいよ」
「えっ、でも」
「大丈夫だって。ここには言いふらすような人は居ないし……そもそも、貴方の正体ってバレバレだから」
それもそうだ。
そもそも、さっき僕のことをピーターって呼んだのに、他の人達は驚いてなかったから。
「はぁ……」
僕は一つため息を吐いて、マスクを脱いだ。
「え……思ったより、イケメン」
その瞬間、スパイダーガールが自分の口元に手を置いて驚いたような顔をして……ボソボソと何やら小さな声で呟いていた。
……僕の正体を知ってた癖に、どういう反応なんだ?
まぁ、気を取り直して。
「僕はスパイダーマン。それと、ピーター・パーカー。7年前に蜘蛛に噛まれてから、スパイダーマンをやってる。エンパイア・ステート大学の学生だよ」
そんな僕の自己紹介に対して、スパイダーガールは手を挙げた。
「ゴホン。はいはーい、ピーター。彼女とか居ますか?」
「え?それって必要?」
「うん、必要。トラブルに巻き込んじゃうかも知れないでしょ?」
野次馬根性かと思いきや、スパイダーガールは少し真剣な声色だ。
「……居るよ」
「名前は?」
「……ミシェル」
そう口にすると、今度は黒いスパイダーマンが驚いたような仕草をした。
「ねぇ、ピート。彼女の下の名前は?」
ピートって……何だか急に随分と馴れ馴れしいな。
「ジェーンだよ。ミシェル・ジェーン=ワトソン。それが僕の彼女の名前」
「……なるほど。この世界の『MJ』って事か」
何だかよく分からないイニシャルで黒いスパイダーマンが納得した。
ついでに、目付きの悪いスパイダーマンも。
その態度に、僕は首を傾げた。
「なに?そのMJって。イニシャルからして、ミシェルの事だろうけど……別世界でも有名人なの?」
「まぁ、そうだ。メリー・ジェーンはピートの恋人だった」
「え?」
『だった』って何?
今はもう別れてるの?
何だか凄く不穏なんだけど。
というか、名前ちょっと違くないか?
目付きの悪いスパイダーマンの方へ目を向けると、少し鬱陶しそうな顔をしながら頷いた。
「確かに……こちらの世界でも、MJは恋人だったな。世界が違っても、同じ人間には同じ役割があるという事か」
「え?」
だからその『だった』って何なのさ!?
僕もこれから別れるってこと?
そんなの考えられないよ。
だって、僕は彼女を愛しているし……彼女の僕のことを愛してくれている筈……だよね?
ちら、とスパイダーガールに目を向ける。
「あ、あー……私の世界では、結婚してたよ。ピーターと、MJは」
「そ、そっか……良かった」
別世界だから僕じゃないピーターと、ミシェルじゃないMJ……他人だ。
でも、他人の結婚話でこんなに嬉しくなったのは初めてだよ。
「まぁまぁ気を取り直して、次。今度はそっちの黒いスパイダーマン」
「僕?僕か……はぁ」
黒いスパイダーマンは少し躊躇ってから、マスクを脱いだ。
褐色の肌をした……あれ?
会ったことないけど、どこかで見た事あるような顔だ。
「僕はマイルズ。マイルズ・モラレス。3年前に蜘蛛に噛まれてから、僕もスパイダーマンになった……僕の世界のピートとは面識がある」
その言葉に僕は目を瞬いた。
「え?僕と?」
「まぁ、うん……別人だけど。僕の師匠みたいな人だ」
「……そっちの世界の僕はスパイダーマンやってないの?」
「いや、やっていた」
「じゃあ何で、君がスパイダーマンを名乗ってるんだ?ヒーローネームの被りは御法度だろ?」
僕がそう問い掛けると、黒いスパイダーマン……マイルズは少し顔を顰めて、言いづらそうな顔をした。
「引退したんだ、ピートは。だから僕が二代目のスパイダーマンってワケ」
「そうなんだ……」
何となく、彼の言葉は嘘っぽい。
でも、何が嘘かは分からない。
悪意はなさそうだし、これ以上問い詰めるつもりはないけど……別世界の事情に首を突っ込み過ぎるのはよくない。
「はいはい、じゃあ次!そこの目付きの悪いスパイダーマン」
ちょっと気まずくなった僕に対して、スパイダーガールが無理矢理、進行した。
しかし、『目付きの悪いスパイダーマン』と呼ばれた彼は不服そうにマスクを脱いだ。
そこには僕より年上の、30歳ぐらいの……僕とよく似た顔があった。
「私はピーター・パーカー。何年前に噛まれたかなど覚えていない。そもそも重要ではないからだ……パーカー・インダストリーズの社長をしている」
え、名前が同じって……って、社長!?
僕と同じく、マイルズも、スパイダーガールすらも驚いている。
「……何だ、貴様ら」
「いや、僕と同じ名前で社長やってるって言うから……スタークさんみたいな?」
「あんな奴と一緒にするな。独裁主義のメンタル弱者、ペテン師だぞ、奴は」
「うわ、酷い言いよう」
僕の尊敬するスタークさんの悪口に顔を顰めそうになるが……彼の言っているスタークさんは別世界のスタークさんだ。
あまり、気にするものじゃない。
だって僕、社長になんてならないし、なれない。
モチベーション的にも、経営力的にも……両方無理だ。
だから、目の前のピーター・パーカーが僕じゃないって事はよく分かる。
そんな彼に対して、スパイダーガールが小さく挙手した。
「じゃ、目付きの悪い方のピーターは──
「その呼び方はやめろ」
「え?じゃあ、なんて呼べばいい?」
「ピーター・パーカーで良いだろう」
「それじゃ、こっちのピーターと被っちゃうじゃん。それとも、別の人の世界にまで来て、名前まで奪っちゃうつもり?」
名前まで奪う……という言葉に、目付きの悪いピーターが眉間に皺を寄せた。
「……貴様、何を知っている?」
「え、いや、何も?」
「……チッ、私のことは『
そう言って目付きの悪いスパイダーマン……ドクターは椅子に座った。
その様子を見て、スパイダーガールが手を小さく叩いた。
「じゃあ、今後の方針だけど──
「待って。君の名前は?」
思わず止めた。
スパイダーマンの3人はマスクを外している。
対して、スパイダーガールはマスクを外していないし、自己紹介すらしていない。
僕の疑問は当然のもので、ドクターとマイルズも頷いた。
「えぇ……やっぱしなきゃダメ?」
「うん、せめて顔は見せて欲しいんだけど」
「それってナンパ?」
「まさか……もしかして、ふざけて誤魔化そうとしてる?」
「そ、そんな事ないよー……はーあ」
苦笑しながら、スパイダーガールがマスクを外した。
「……え?」
そこにあったのはまだ若い……10代中盤のティーンエイジャーの顔だ。
それも、かなりの美少女だ。
少し蒸れた、カールがかった茶髪を手で梳いて、苦笑した。
「私はスパイダーガール。スパイダーマン歴は2年……みんなから見れば後輩かな。ミッドタウン高校に通ってる16歳だよ」
そう自己紹介する彼女を見て、僕は違和感を覚えていた。
彼女も、どこかで見た覚えがある。
だけど、どこかは分からない。
というか、正確には見た覚えはない。
誰かに似ている……そんな気がした。
そして、彼女が自分の名前を口にしていない事にも気付いていた。
「あの──
「待て、スパイダーガール。貴様は名前を言わないのか?」
僕の質問より早く、ドクターが問い掛けた。
「えー……あー、うん。まぁ、言わなきゃダメだよね?」
ちらちらと僕を見ながら、そしてため息を吐いた。
「私は……あー、メイって呼んで?本名は非公開で」
「貴様……ふざけているのか?」
「ふざけてないよ?事情があるんだって……それに、貴方達も言ってない秘密があるでしょ?」
スパイダーガール……自称、メイの視線にドクターもマイルズも、目線を逸らした。
え?
そうなの?
何か秘密があるの?
「ほら、互いに言いたくない事はあるはず。私に言わせたければ、まずは貴方達が秘密を暴露すべきだよ」
「チッ」
「はは……」
何というか、三人とも誤魔化している。
そうして、有耶無耶になっている中、スパイダーガールことメイが小さく手を叩いた。
「気を取り直して、自己紹介もしたし、これから私達はチームってことで!ここに呼び出された事態を解決するための……うーん、チーム名は何がいい?『アメイジング・フレンズ』とか?」
「私は貴様らと協力関係だとしても、
「これからなるかも知れないじゃん?ね?ピーター」
メイがチラリと僕へ目を向けた。
「え、まぁ、うん……」
マイルズとメイはいい。
でも、この偏屈で傲慢な僕とは仲良くなれなさそうだ。
僕が言葉を濁したと同時に、ドクターが顔を顰めた。
「黙れ。そもそもチーム名など必要ない。元の世界に戻るまでの協力関係だ……貴様らなぞ、仲間でもない」
「素直じゃないなぁ……いや、逆かな?自分に正直過ぎるのかな、ドクターさんは」
またちょっとギスギスしてる。
これ、本当に上手く行くんだろうか。
刺々しいドクター。
馴れ馴れしいメイ。
止める気もなく難しそうな顔をしているマイルズ。
そして、僕。
「…………」
僕は内心でため息を吐いた。
◇マイルズ・モラレス
有色人種のスパイダーマン。
年齢は18歳、高校生。
元の世界では、ピーターの弟子らしい。
◇ピーター・パーカー(ドクター)
傲慢で偏見なスパイダーマン。
年齢は32歳、社会人。
パーカー・インダストリーズの社長らしい。
◇メイ
高い社交性を持つスパイダーガール。
年齢は16歳、高校生。
本名は不明の美少女。
◇ピーター・パーカー
エンパイア・ステート大学に通う親愛なる隣人。
年齢は21歳、大学生。
デイリー・ビューグルに自分の写真を売って、食費の足しにしている。