【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
アパートの中、スパイダーマンが3人。
スパイダーガールが1人。
別に狭いって訳じゃないけど、なんだか窮屈な感じがする。
そんな中、メイが手を上げた。
「はいはーい。じゃあ、まずは推測。ここの3人は他の世界から来たスパイディ。そして、残り1人は元々のスパイディ。他の人達に共通点はないし、元々のスパイディ側……つまり、この世界に転移の原因があると思ってるけど。どうかな?ドクター」
「……ああ、断定は拙いが、私もそう考えている」
「僕も同感だ」
3人が頷いた。
しかし、僕は首を傾げた。
「え?でも僕に思い当たる節はないよ?」
「えー、いや、別に?ピーターが原因って言ってる訳じゃないけどさ。紐の結び目みたいなもんだよ」
「紐の結び目?」
「そう。3本の紐があってさ、絡まってるとするじゃん?その原因は結び目?それとも紐?後者だと思う人は居ないと思うけど」
「それは分かるけど……」
「ね?本当に思い当たる節はないかな?」
メイの言葉に僕は頭を悩ませた。
そして、一つだけ関係のあるかも知れない事があった。
「うーん……あ、そうだ。アベンジャーズや、ファンタスティック・フォー、他のヒーローチームも含めて、今は宇宙に行ってるんだ」
「宇宙に?」
「そうだよ。何でも、次元の歪みが見つかったとか……なんとか」
「次元の歪み……それは関係ありそうだね」
メイの言葉に、ドクターが顔を顰めた。
「チッ……ということは、スタークやリード・リチャーズの協力は仰げないということか」
そして、マイルズが手を上げた。
「ねぇ、ピート。質問なんだけど、アベンジャーズってなに?」
「アベンジャーズを知らないの?……ヒーローチームだよ。スタークさんとか、キャプテンがいるチーム」
「……なるほど、こっちの世界でいう『アルティメッツ』みたいなものか」
「アルティメッツ?」
「ヒーローチームだよ。ニック・フューリーが率いてる」
「なるほど……じゃあ、アベンジャーズと殆ど一緒だね」
なるほど、世界ごとに細かい差が存在するのか。
という事は僕の考える常識が、彼らの常識じゃない可能性がある。
気をつけないと。
頷く僕に対して、メイが手をひらひらと挙げた。
「でも、宇宙に原因があるかもって言われてもねー?ピーターは宇宙船持ってる?」
「持ってる訳ないよ。見てよ、このアパートを」
「……うーん、確かにボロっちいね。宇宙船を持ってるって言われても、墜落しそうで乗りたくないかも」
「僕も乗るなら自家製スペースシャトルじゃなくて、スターク社製がいいかな」
メイの言葉に肩を竦めると、何処からかぐぅとお腹の音が聞こえた。
誰だろうか、と考えているとメイが僅かに顔を赤くしながら小さく手を上げた。
「あ、はは……取り敢えず、食事にしない?」
「確かに。お腹が減った」
「そうだね」
「……フン」
メイの言葉にマイルズと僕が頷く。
頷いていないのはドクターだ……でも否定しない所から、お腹が減っていない訳ではなさそうだ。
そして、メイが再び僕に目を向けた。
「それで、ピーター。何か食べるものない?」
「え?」
「え、じゃないよ。私達の格好を見て?ハロウィンじゃなきゃ外出もできない。ついでにお金も持ってない。ピーターが何か食べさせてくれなきゃ、ひもじくて死んじゃうよ?」
「あ、うん、それは確かにそうだけど……ちょっと待って、何か食べるものないか探してくる」
「ピザのデリバリーでも良いからね〜♡」
メイの言葉にため息を吐いた。
僕は貧乏学生だ。
3人の食費を追加で払って、デリバリーの追加料金まで払いたくはない。
そう考えて冷蔵庫を漁ると……作り置きされたチーズマカロニとミートローフ。
横の棚にはベーグルが人数分あった。
ミシェルが用意してくれたものだ。
彼女が僕のために作ってくれたものを、勝手に他人と食べるのは気が引けるけど……心の中で謝りつつ、冷蔵庫から出す。
そうして、温め直しつつ皿を用意する。
……していると、メイが覗き込んできた。
「ねえねえ、それってピーターの手作り?」
「いや、ミシェルが作り置きしてくれた料理だよ」
「へー……そうなんだ?ふーん」
「えっと……どうかした?食べられないものでもあるとか?」
「ううん、美味しそうだなーって思っただけ」
メイの目は、少し期待に満ちている。
でも、この料理を作ったのは著名な料理人って訳じゃない。
彼女からすれば顔も知らない、僕の恋人の手料理だ。
それなのに何故、こうも期待しているのだろう。
ちらと残りの2人を見る。
マイルズはニュース番組を熱心に見ている。
ドクターは手元の……何だろう腕からホログラムらしきものを投射して、何かを弄ってる。
凄い技術だ。
ドクターの技術力はスタークさん並み、なのだろうか。
少なくとも、今の僕では太刀打ち出来なさそうだ。
メイは……僕の後ろでウロウロしている。
時々、覗き込んでくるけど、何がしたいんだ?
「まぁ、いいけど」
そうして、机にチーズマカロニ、ミートローフ、焼いたベーグルを置いた。
昼食の準備が整ったのだ。
「ほら、用意できたよ。腹ペコスパイディ達」
そう言えば、メイは真っ先に席についた。
マイルズも気持ち急いで座っていた。
何だかんだ腹が減っていたのだろう。
……ドクターは偉そうに、どすんと座ってたけど。
「おお……じゃ、失礼して」
メイがボウルに盛り付けられたチーズマカロニを口にした。
そして、笑みを深めた。
「うんうん、これこれ。こういうので良いんだよねぇ」
何やら物思いに耽っているらしい。
対して、マイルズはミートローフをベーグルと一緒に食べていた。
「これ、美味しいよ。ピート」
「それは良かった」
ミシェルの手料理を勝手に食べさせている訳だけど、喜んで貰えて僕も何だか嬉しい。
そう思いつつ、ドクターへ目を向ける。
「ドクターは?」
「……フン、私に料理の感想など聞くな」
不味いと言わないだけ、マシなのだろう。
この人は何とも、傲慢で偏屈な人だ。
同じピーターなのに、大きな違いだ。
僕は絶対に、こんな人にはならない。
……でも、社長になったら歪むのだろうか?
「……じゃ、僕も」
そんな事を考えつつ、チーズマカロニを口にする。
いつも通り、ミシェルの手料理だ。
ミシェル曰く、お手軽で簡単な手料理……らしいけど。
誰かの為に作ってくれる手料理というのは、それだけで有り難いものだ。
僕のためを思って作り置きまでしてくれている訳だし。
……それを同じスパイディとはいえ、他人に食べさせるのはどうかとは思うけど。
そうして、食事を進める中、メイが僕へ目を向けた。
「それで、ピーター。これから事態の調査を行うにあたって、服とか貸して欲しいんだけど」
「服?」
「うん。だって、いつまでコスチュームのまま過ごせって言うの?マイルズもそう思うよね」
急に声をかけられたマイルズが少し驚いた顔をして、申し訳なさそうな顔をした。
「え?ああ、まぁ、うん……ごめん、ピート。迷惑かけるけど貸してくれないかな」
「うん、それはいいけど……メイとドクターには貸せないよ。体格が違うから」
マイルズは確かに背丈が似ている。
でも、メイは小柄だし……そもそも女性だ。
ドクターは僕より一回り身長が大きい。
これじゃあ服を貸しても、外に出れば目立ってしまうだろう。
僕の返答にメイが、机に肘をついた。
「私の服には目処が立つんじゃない?ピーターの
「う、あー……それは確かに、そうだけどさ……うん」
ミシェルを巻き込むべきか、少し考える。
ミシェルは事件の解決能力が高い。
僕に比べて、嗅覚が鋭いっていうか……証拠を集めたり、犯人の居場所を突き止めたり、事件を追う能力が高いんだ。
だから今、この取っ掛かりすらない
でも、彼女には危険な目に遭って欲しくない。
僕はそう考えて──
『ピーターの方こそ、何かあったら相談すること。一人で抱え込まないように』
と、ミシェルの言葉を思い出した。
でも、いや、相談ってする前に……何とか、こっちで解決出来るかも知れないし──
『ピーターが一人で色々やろうとして、気に病むのはよくある話。前科がいっぱいあるから……何か文句ある?』
ミシェルの言葉、そして冷めた目付きを思い出して頭を抱えた。
そして、ため息を一つ。
「はぁ……」
「え?なに、どうしたの、ピーター?」
「いや、メイ……何でもない。ミシェルに連絡を取るよ」
僕の言葉に、マイルズが小さく手を上げた。
「ねぇ、ピート」
「うん?」
「こっちのMJって、ピートがスパイダーマンだってこと知ってるの?」
「うん、知ってるけど」
「へぇ……そうなんだ」
腕を組んで、マイルズが首を捻った。
ドクターも少し訝しむような顔をしている。
何々、何なんだ?
MJ……僕がスパイダーマンだって、ミシェルが知ってるのは普通じゃないってこと?
「ま、ピーター。それじゃ、連絡よろしく〜」
「……何て説明すれば良いんだろ、はぁ。気が重いよ」
「ピーター、ため息を吐くと幸せが逃げるってパパがよく言ってたよ?」
「はいはい、よくある迷信だよね」
「そうだけどね。パパはいっつもため息吐いてたから、死ぬほど運が悪かったよ」
「……あ、そう」
僕はメイの言葉に苦笑いして、スマホを取り出した。
今はまだ仕事中かもしれないし、
さてさて、と──
『ミシェル、女の子の着替えになりそうな服、用意できない?』
取り敢えず送ってみて、数秒後。
すぐに通知が鳴った。
『何の話?』
あれ?
なんだか、いつもより刺々しいメッセージだ。
『今、家に女の子が来ていて……着替えの用意が出来ないから、ミシェルに用意して貰えないかなって』
スパイダーマンがいっぱい居る、とは言い辛い。
信じて貰えるか分からないし、スマホを覗き込まれて、このメッセージが誰かの目に映るかも知れない。
メッセージ内ではスパイダーマン関連の話はしない……それが僕達のルールだ。
だから、僕のメッセージは仕方ないものなんだけど──
『浮気?』
ミシェルのメッセージに、背筋がピンと伸びた。
慌てて、メッセージを打ち直す。
『違うよ。今、仕事仲間が3人来ていて、仕事着で来ちゃったから。1人だけ女の子が居るから、女の子用の着替えを用意して欲しいってこと。僕が浮気なんてする訳がないよ』
メッセージを送信。
僕は少し祈るように目を瞑って……通知音に目を開く。
『冗談。私もピーターが浮気するとは思ってない。着替えは私と同じサイズでいいの?』
ホッと吐息を吐く。
冗談にしては、笑えない冗談だと思うけど。
……冗談だよね?
『うん、多分、同じぐらい。それと出来れば、大人の着替えも欲しくて。僕より一回り大きいんだけど』
『分かった。古着屋で買っていく。でも、まだ仕事だから着くとしても夕方。ちなみに仕事は面倒?すぐ終わる?』
『とっても厄介で、面倒な仕事だよ』
『分かった。なら、窓を開けておいて』
『ありがとう、ミシェル。愛してるよ』
何とかメッセージを送った瞬間、メイにスマホを覗き込まれていることに気付いた。
「うわっ……な、なに?」
「愛してるよ♡……だって、ねぇ?」
「……メイ、勝手に見ないでよ」
「良いじゃん、良いじゃん?減るもんじゃないし……ふふん、ていうか、ラブラブだね?」
メイがニヤニヤと僕を見て笑っている。
バカにしている……訳ではなさそうだ。
何処か、微笑ましいものを見るような目だ。
だから、僕も怒るに怒れない。
それでも恥ずかしいのだけれど。
咳払いをして、周りを見る。
「とにかく、ミシェルに服の用意をして貰える事になったから。来るのは夕方だけど……今は取り敢えず、スーツ姿のままでお願いしていいかな?」
メイやドクター、マイルズが頷いた。
正直、マイルズは僕と背丈が同じぐらいだし、ミシェルに用意して貰えなくても着替えられるんだけどね。
一人だけ先に着替えてたら、雰囲気悪くなりそうだし。
まぁ、でも僕は着替えさせて貰おう。
客人とか来た時、全員がスーツ姿じゃ出られないし。
◇◆◇
そうして時間が経過して、夕方。
ドクターは何やら装備を弄っていた。
何でも電波の周波数が並行世界と違うようで、装備に調整が必要になっていたみたいだ。
腕のデバイスからホログラムが投射されて、色々な小型機械が展開している。
よく分からないけど、ハイテクだって事は分かる。
マイルズは僕と情報共有という名の世間話。
マイルズの居た
あっちの世界のソーは浮浪者のヒッピーで、スタークさんはアルコール中毒。
アントマンは妻へのDVでヒーローチームをクビになったらしい。
……どういうこと?
メイはテレビでバラエティ番組を観ていた。
時折り愉快そうに笑っていたのだけれど……この
元の世界に戻れる手掛かりもないっていうのに、気軽なものだ。
心臓に毛でも生えてるんじゃないかな……蜘蛛みたいに。
そうして各々時間を潰していると。
コンコン──
と窓にノック音が響いた。
「……っ!?」
瞬間、僕を除く3人が警戒した。
そりゃそうだ。
ここはアパートの4階。
窓にノックなんて普通は起きない。
それに壁の向こうはまた別のアパートの壁だ。
日当たりは最悪だけど、スパイダーマンがこっそり出動するには向いている立地。
逆に言えば、窓に小石は当たらないし、ノックの音なんて狙わなきゃ出せない。
そう考えていると、直後。
窓の上から真っ黒な手が伸びて、開いた。
そして、滑り込むように真っ黒な姿が入り込んできた。
「だ、誰!?」
瞬間、マイルズが跳ね上がり
ドクターが腕部のガジェットを展開した。
メイは天井に張り付いていた。
そんな3人を無視して、僕は窓から入ってきた彼女に目を向ける。
真っ黒なヴィブラニウム製のスーツ。
つるっと丸くて艶のある卵みたいなフェイスパーツ。
ゴツゴツとしたプロテクターは手足を覆っている。
そんな手には大きめの紙袋。
見た目に合わない用意だ。
『…………』
そんな彼女は部屋にいる3人のスパイディを見て、無言で見渡している。
警戒……ではなさそう。
多分、困惑だ。
って、考えてる場合じゃない。
この気まずい空気を打破するべく、僕は口を開いた。
「よく来てくれたね、ミシェル。ごめんね、雑用頼んじゃって」
僕の言葉にマイルズが、ドクターが、メイが警戒を解いた。
というか、警戒心を困惑が上回ったみたいだ。
『……はぁ、予め、話ぐらいは通しておけ。ピーター』
「僕も話してたよ……というか、何で皆がこんなに警戒してるか、僕にも分からないんだけど」
ミシェルに近しい人物が、何処の世界にも居るって彼等が言っていたのに。
僕はミシェルが夕方に来るって言ったし。
何をそんなに警戒しているのだろうか。
そう考えていると、マイルズがおずおずと手を挙げた。
「あのー……ピート?この彼……えーっと、彼女?が、その……MJ?」
「え?あ、うん。そうだよ。ミシェル・ジェーン……君達の言うMJだと思うけど」
「いや、いやいや……?全然、違うよ!?」
「え?何が?君のとこのMJも、エージェントじゃないの?」
「……これが終わったら、また話そう。ピート。どうやら僕達の間にある常識には、大いなる差異があるみたいだ」
マイルズが力を失って、ベッドに尻餅を付いた。
あれ?
おかしいな……あっちの世界ではミシェル、普通の女の子なのだろうか。
ドクターの世界ではどうなのだろう、って目を向けると……あの険しい顔を困惑に歪めていた。
どうやら、声には出していないけれど、マイルズと同じらしい。
何が常識かって世界によって違うんだな……と改めて思う。
対して、メイは……天井に張り付きながら、目をキラキラとさせていた。
そして、
「貴女がミシェルなの?」
『ああ、そうだが。何だ、お前は』
「私はメイ……メイだよ。初めまして、よろしくね?うわー、凄い装備。これって何処製?ワカンダ?スターク社製?いいなぁ、こういう装備欲しかったんだよね私も」
『おい、ピーター。何だ、こいつは』
自己紹介をされたのに『何だ』かは分かっていないようだ。
それも仕方ない。
メイは浮かれているようで、ちゃんとした自己紹介にはなっていなかった。
「えっと……彼女はメイ。彼がマイルズで、彼はドクター。見た目の通り、別の世界から来たスパイダーマン達だよ」
スパイダーマンのスーツを着た3人を、順に指差し説明する。
すると、ミシェルは……固まった。
『スパイダーマン?
そうしてミシェルは3人のスパイダーマンを見渡して……手を顎に置いた。
『はぁ……なるほど。これは確かに『面倒な仕事』だな』
先程、僕が送ったメッセージを反芻するように、ミシェルが繰り返した。