【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#5 アクロス・ザ・フェイト Part4

ここはニューヨーク、クイーンズ。

時間は夕方過ぎ……茜色を過ぎて、暗くなりつつある頃。

 

 

「ねぇねぇ、ミシェル。いきつけのスーパーマーケットって近い?どれぐらいの距離?」

 

「ん……徒歩で20分ぐらい?」

 

 

横で歩くメイの言葉に頷きつつ、私は道を歩く。

仕事帰りの時間も過ぎて、外食帰りの家族連れや、飲み帰りのホワイトカラー、遊び盛りのティーンエイジャーが通り過ぎていく。

 

 

「そういえばー、聞きたかったんだけど……ミシェルの家族って今、何処住んでるの?父親とか、母親とか」

 

 

世間話の延長で、言いづらい事を聞いてくる。

だけど、これは興味本位であって悪意はないのだろう。

別に怒りはしないし、気分は損なわない。

 

 

「かなり前に亡くなってる。私は覚えてない」

 

「え、あ……ご、ごめんね?」

 

「大丈夫、怒ってない。覚えてないから」

 

「でも……その、ごめん」

 

 

それでもメイは申し訳なさそうな顔をしている。

彼女は善人なのだろう。

それは私にも分かる。

 

であれば──

 

 

「メイの方は?家族とか、どうなの?」

 

 

私は彼女の罪悪感を紛らわせようと、質問を返した。

 

 

「え?あー……私はね、パパと二人暮らししてる」

 

 

彼女はそこで言葉を区切った。

そして、私はその言葉の裏を察した。

母親は居ないのだろう。

離婚か、死別か……とにかく、メイとは暮らしていない。

互いに話しづらい話題のようだ。

 

 

「……メイの父親ってどんな人?」

 

「それがね、聞いてよ?過保護なパパでさ……普段は無気力な癖に、私がやろうとする事に難癖付けてくるの。危ないからやめろーって」

 

「それは……父親なりの優しさだと思うけど」

 

「分かってるよ、それぐらい。でも、目の前で危ない目に遭ってる人がいたらさー、身体が勝手に動いちゃうんだよ。ミシェルなら分かるでしょ?」

 

「……分かるけど」

 

 

メイの言葉からは、父親への拗れた愛情が見えた。

鬱陶しいと思っているのも事実ではあるが、嫌ってはいないし、愛しているのだろう。

 

 

「大いなる力には大いなる責任がある……って、パパは言ってた。だから、その通りに出来る事をしてるだけ。それでも認めてくれないんだよね」

 

 

随分と聞き覚えのある言葉だった。

父親は軽率な人間ではないのだろう。

というか、もしかして、ベンとかそういう名前じゃなかろうか。

 

 

「……何も言わず娘の活動を見て見ぬフリする父親よりは、責任感があると思う……いや、知ったような口をきいて、ごめん」

 

「ううん。いいよ、パパが間違ってるとも思ってないし……でも、そっか。ミシェルもそう思うんだ?ティーンエイジャーには、危ないことして欲しくないって」

 

「まぁ、ね。それが血の繋がってる家族なら、尚更、そう思うと思う……まぁ、私なら、娘がどうこうする前に、先んじて解決しようとするけど」

 

「ぷ、ぷぷぷ……それもそうだねー」

 

 

面白い事を聞いたかのように、メイは笑った。

そんなこんなで会話をしていると、目的のスーパーについた。

ゴールズ・フード・マーケット……最近出来たばかりの、スーパーマーケットだ。

 

 

「ここが目的地」

 

 

そんな店を見て、メイは自分の顎の手を置いた。

 

 

「『ゴールズ・フード・マーケット』?へー、なるほど。あんまり寂れてないね?」

 

 

変な感想だ。

彼女は別世界の住人だから、何か似たような店があるのか、思う所があるのだろう。

 

 

「それでー、ミシェル。今日は何を買うの?」

 

 

カートを押しながら、メイが聞いてくる。

 

 

「トマト缶、ひき肉、人参、玉ねぎ、パスタ……あと、明日の朝食用のベーグルとか、昼食の材料とか」

 

「おー。あいあい、キャプテン」

 

「何その返事?」

 

「はーい」

 

 

メイは気分屋のようだ。

私の言葉に適当に返事をするし、適当に相槌を打つ。

おちょくるような言動で、私から反応を引き出そうとする。

 

それは何か、トラウマから来る強迫観念のようだ。

彼女の過去に何があったのか、少し気になる。

だが、話そうとするまで聞き出す訳にもいかない。

 

メイが押すカートに必要な食材を入れて行く。

ついでに目に入ったココアやら、嗜好品も。

 

 

「メイは明日以降、食べたいものある?」

 

「え?うーん……何でもいいよ?」

 

 

何とも、無気力な返事だ。

本当に何でもいいと思ってそう。

 

 

「なら取り敢えず、冷凍のピザとかも買っておこう。明日以降の食事に向けて」

 

「え?毎食作ってくれないの?」

 

「私にも仕事があるから。冷凍食品が嫌なら、メイが作ればいい。それとも、料理できない?」

 

「嫌って訳じゃないけど……でも、料理は出来るよ?ミシェルと違って、私は人並みだけどね」

 

「私も人並みだけど……で、どうする?」

 

「……いや、冷凍食品でいいかなー。わざわざ作りたくないし」

 

 

手に取ったトマトスープの缶詰めをカートに入れる。

ついでにパンケーキミックスも。

 

 

「それと、メイは何か欲しいものある?」

 

「欲しいもの?んー……今は、そうだなー……スマホ?」

 

「そうじゃなくて」

 

「えー、違うの?」

 

 

生活用品についての話だったのだけれど。

しかし、私はメイの言葉に納得はした。

 

 

「まぁ、いいけど。スマホね……用意しとく。連絡手段がないと困るだろうし」

 

「え?ありがと〜!ふとっぱら!」

 

 

まぁ、連絡手段に関しては『S.H.I.E.L.D.』の貸し出し端末を申請すればいいだろう。

そうすれば無料(タダ)だ。

 

カートに歯ブラシやらタオルやら入れて、会計へ向かう。

 

……結構な金額になったな。

思ったより買ってしまったらしい。

 

 

ミチミチに詰まったビニール袋を両手に抱えながら、メイへ目を向ける。

彼女の手にも、大いなる手荷物があった。

 

 

「メイ、大丈夫?重くない?」

 

「大丈夫、大丈夫〜。私、こう見えて、けっこー力持ちだからね」

 

 

まぁ、それもそうか。

彼女はスパイダーウーマンだ。

壁を登ったり、糸を放つ以外にも、常人の何倍もの怪力を持っている。

 

この程度の荷物は、どうってことないだろう。

無論、超人血清によって強化された私も同様である。

 

そうして重い荷物を手に、私とメイはスーパーを出た。

空は本格的に暗くなっていた。

 

 

「はぁ……早く帰って、夕飯を用意しないと」

 

「……ね、ミシェル。夕食の用意、私も手伝おっか?」

 

「いや、手伝わなくていいけど──

 

 

ちらと、視線をメイへ向ける。

何処か、すがるような視線を私へ向けている。

 

その仕草に、私は言葉を詰まらせた。

 

 

「ごめん、メイ。やっぱり手伝ってくれる?」

 

「……ふふ、しょーがないなー」

 

 

私が頼れば、メイは嬉しそうに笑った。

彼女は人に頼られるのが好き、なのだろう。

聞き覚えのない鼻歌を歌うメイを連れて、私はニューヨークを歩いていた。

 

こうして、少し暗くなって、電飾が明かりを灯して……ニューヨークは夜の街へと姿を変えていく。

 

別世界の話なんて、忘れてしまいそうなほど穏やかな時間の中──

 

 

爆発音が鳴り響いた。

 

 

「…………」

 

 

今日も今日とて、ニューヨークは「平和」だ。

 

視線を音がした方へ向けた。

爆発したのは……個人経営のコンビニエンスストアか。

なんとも治安が悪い。

 

 

「ごめん、メイ。持ってて」

 

「え?あ、ちょっと!」

 

 

私は荷物をメイに預けて、懐から小型の拳銃を取り出す。

これはスターク社製の拳銃で、『S.H.I.E.L.D.』で採用されている携帯武器……名前を、パルスガンという。

非殺傷武器であり、命中した相手を強烈な振動で昏睡させる武器だ。

 

まぁ、私がスーツを着てない時の、携帯武器だ。

 

それを懐から出して、意識を切り替える。

普通のミシェルから、エージェントとしての意識へ。

 

私はコートを翻しながら、窓ガラスが砕けたコンビニエンスストアに潜り込んだ。

瞬間、巻き上がる煙の中、人影が見えた。

何かしらの影……恐らくは武器を片手に持っているのが見えた。

 

 

動くな(フリーズ)。武器を捨てて、手を上げろ」

 

 

巻き上がる煙の中、レジカウンターへ目を向ける。

店員は……居ない。

更に、扉の近くに閉店中(クローズ)という文字の看板が倒れていた。

閉店中の強盗……空き巣か。

 

煙が晴れていく中、私はその影へ注意して──

 

 

「お前は……」

 

 

緑色のアーマースーツ、左腕に巨大な蟹のような爪。

白銀色に輝くフェイスカバーに……何より気を引く、巨大な尾。

その先は鋭い棘が赤く輝いていた。

 

まさしく──

 

 

「スコーピオン……?」

 

 

私の知るヴィランだ。

超人化実験により蠍の力を得た悪人だ。

毒の尾を持ち、ピーターと何度か戦った事がある。

だが、奴は今、刑務所(ラフト)にぶち込まれている筈だ。

いつの間に逃げ出したのか……いや、そもそも装備が違う。

 

私の知っているスコーピオンはもっと、生物的な装備をしていた。

こんなサイバーアーマーを装備していた記憶はない。

 

新しく装備を整えた……そう考えるのが適切だろう。

 

 

「ん〜?なんだ、貴様は……?」

 

 

スコーピオンはその手に鞄を持っていた。

チャックは空いており……レジや金庫から抜いたであろう金が入っていた。

 

そして、私の言葉や拳銃を気にすることもなく、足をこちらへ向けている。

 

 

「動くな、と言ったのが聞こえなかったか?」

 

「……随分と肝の据わったお嬢ちゃんだ。だが、勇気と無謀を履き違えてる──

 

 

瞬間、尾がこちらへ向いた。

 

突き刺してくる気か。

 

そう考えたのも束の間、尾の先が赤く輝いているのが見えた。

私には超感覚(スパイダーセンス)などないが、それでも危険な臭いを感じ取っていた。

 

何か、拙い。

特に、尾の狙う先に居るのは拙い──

 

 

「ようだな!」

 

 

瞬間、私は地面を蹴って転がった。

その直後、スコーピオンの尾先から赤い閃光が走った。

 

 

「っ」

 

 

光は、私の立っていた場所に直撃していた。

 

目を向ける。

コンビニエンスストアの床が、溶けている。

熱で……いや、違う、あれは腐敗か、溶解だ。

溶け方に熱が伴っていない。

酸のレーザー……仕組みは分からないが、そういうものだと仮定する。

 

しかして、スコーピオンは回避した私へ視線をずらした。

 

 

「……驚いたな。初見で避けるとは」

 

「私も驚いた。いつから、そんな装備を」

 

 

スコーピオンの尾は毒針のはずだ。

あんなレーザー兵器を装備しているとは、知らなかった。

 

宇宙人(チタウリ)の遺産か?

ただの悪党が用意できる武器とは思えない。

質のいい武器商人か、碌でもない科学者と手を組んだか。

 

あのアーマースーツは見掛け倒しではないという事だ。

 

 

「いつから?そりゃ、フライデーセールで買ったのさ。50%オフ……半額のお買い得品だ」

 

 

スコーピオンは軽口を叩きながらも、私へ尾を向ける。

視線の隅に映る溶けた床……あのレーザーが直撃すれば、私は身体を欠損するだろう。

治癒因子(ヒーリングファクター)では回復できない程に。

 

 

「そうか。その業者を教えて貰いたいものだ」

 

 

防御は不能。

であれば、避けるしかない。

 

足を半歩左へ。

店外の大通りに、レーザーが向かわないよう視線を誘導する。

 

そして──

 

 

「無駄話はここまでだ。時間稼ぎなどさせない……ここで死ね」

 

 

尾の先が赤く輝く。

 

来る。

あのレーザーが。

 

瞬間、私は左へ避けた。

 

 

「ふっ!」

 

 

先程までいた場所が、その壁が溶けて飛び散る。

だが、レーザーの照射は終わっていない。

 

 

「残念、まだまだ、だ」

 

 

煽るようなスコーピオンの声と共に、尾が向きを変える。

レーザーを照射したまま、だ。

 

 

「っ!?」

 

 

レーザーは点ではなく、線の攻撃だったのだ。

このままでは、レーザーで薙ぎ払われてしまう。

 

その場で回避できるか?

出来ない。

 

左右へ避けれるか?

それは無理だ。

 

ならばしゃがむか、飛ぶか?

リスクが高すぎる。

 

であれば──

 

 

「…………」

 

 

私は構えていたパルスガンをスコーピオンへ向ける。

狙うべきは、ここだ。

 

発砲音。

そう呼ぶには、いささか甲高く聞こえた。

 

 

「なっ!?」

 

 

命中したのは尾の付け根。

尾先のレーザー、その軌道が揺らぐ。

そしてそれは、発射者であるスコーピオンへと曲がり──

 

 

「だが、甘い!」

 

 

スコーピオンはビームの照射を中断した。

発射のタイミング、そして持続はスコーピオンが管理している。

己の手で自爆するとは思ってはいない。

 

それでも、攻撃が止まったのは事実だ。

 

 

「これで充分……!」

 

 

そして、その事実が私を動かした。

溶けた床を蹴って、私はスコーピオンに接近した。

 

 

「向かってくるか、この俺に!」

 

 

スコーピオンの左腕、鋏のような爪が私へ襲い掛かる。

だが、遅い。

 

確かに、スコーピオンは科学技術によって人工的に作り出された超人だ。

常人を遥かに凌ぐ反射神経と、身体能力を持つ。

 

それでも、私ほどではない。

 

 

「しっ」

 

 

その鋭い爪を避けつつ、足を振りかぶった。

パルスガンは一度発射すれば、再装填が必要となる。

その隙は1秒程であるが、その時間も惜しい。

 

故に私が選んだ選択肢は発砲ではなく、蹴りであった。

 

重い金属を蹴り飛ばした感触が、足の骨に響く。

 

 

「うおっ」

 

 

それと同時にスコーピオンは仰け反った。

 

 

「……チッ」

 

 

思わず舌打ちをした。

今のはスコーピオンが踏み止まれなかっただけだ。

あのアーマーを、打撃が貫通したとは思えない。

 

割れた電灯がスパークする中……想定通り、スコーピオンは私へ視線を戻した。

 

 

「今のは驚いたな……だが、無意味だ」

 

 

私にもアーマーがあれば……そう考えてしまう。

先程の手応えから、分かる。

ヴィブラニウムとアダマンチウムの脚部装甲があれば、確実にアーマーを破壊出来ていただろう。

 

しかし、無いものをねだっても仕方ない。

今この手にある手札で、なんとか窮地を凌がねばならない。

 

そう考えつつ、パルスガンを再装填(リロード)した……その直後──

 

 

「とぉう!」

 

 

スコーピオンが再び蹴り飛ばされた。

 

 

「ぐお!?」

 

 

意識外の攻撃だったからか、スコーピオンが声を上げて転がっていった。

砂埃を巻き上げて、蹴り飛ばした本人が私の前に着地した。

 

 

「正義の使者、スパイダーガール参上!」

 

 

それはマスクを付けたメイだった。

私が渡したパーカーのまま、頭に赤い蜘蛛のマスクを被っていたのだ。

思わず、私は目を細めた。

 

 

「……何をしてる、メイ」

 

「え?荷物のこと?荷物は店員さんに預かって貰ってるよ!」

 

「いや、そうじゃない。そもそも、何故、戦う用意をしていたんだ」

 

 

私が気になっているのは、マスクを被っている今の状況だ。

 

 

「ヒーローたるもの、常在戦場。マスクは身だしなみ(エチケット)だよ!それにミシェルだって、人のこと言えないよ」

 

 

そう言ってファイティング・ポーズを取るメイの手首を見る。

(ウェブ)シューターは装備していない。

なら(ウェブ)は使えないという事か。

 

 

「客人を別世界のトラブルに、巻き込むつもりは無かったが」

 

「巻き込まれたつもりはないよ?自分から飛び込んだだけ!」

 

 

メイの言葉に呆れながらも、何処かピーターを思わせる発言に頬が緩む。

忘れたつもりはないが、彼女もまた親愛なる隣人(スパイディ)なのだ。

 

直後、砕けた木片がこちらに飛んできた。

スコーピオンが立ち上がりつつ、私達に反撃したのだ。

 

 

「次から次へと……今度はスパイダーマンのコスプレ女か!」

 

「コスプレ?偽物かどうかは、試してみなきゃ分かんないでしょ」

 

 

そう口にして、メイが手を上げて──

 

(ウェブ)を放った。

 

 

「……え?」

 

 

先程、確実に(ウェブ)シューターを装備していない事は確認した。

だというのに、(ウェブ)が発射されていた。

 

何処かに隠していた?

いや、違う。

 

彼女の手首から、確実に(ウェブ)が生成されている。

メイは(ウェブ)を体内で生成できるスパイディなのか。

 

 

「鬱陶しい糸を!」

 

 

スコーピオンの右腕に(ウェブ)が絡まった。

だが、左腕にある大きなハサミで切られていた。

 

 

「うーん、対策はバッチリ?これまた面倒くさいなぁ……」

 

 

うんざりとした様子のメイが、私に視線を向けた。

何か手はないのか、そう問い掛けるような目だ。

 

この状況を打破する一手。

打撃が効かないスコーピオンを無力化する、その一手。

 

 

「メイ」

 

 

幾つか手が思い付いて、私は一つの手を選んだ。

 

 

「あー、今はスパイダーガールって呼んで欲しいな?」

 

「じゃあ、ガール。私が合図するまで、スコーピオンに付き合えるか?」

 

「タイプじゃないんだけどなー……ま、いいよ?相手してあげる」

 

 

作戦は最小限に。

詳細はスコーピオンの耳に入らないように。

 

それでもメイは私を信頼してくれたようだ。

 

 

「では、頼む」

 

「じゃあ、行くよ!」

 

 

直後、メイは地面を蹴り、スコーピオンへと接近した。

 

その間に、私は懐からパルスガンのカートリッジを取り出す。

残り二つ。

一つにつき、発射可能な弾数は四発。

 

視線をスコーピオンに戻す。

 

メイが壁を蹴り宙を舞い、スコーピオンを手玉に取っていた。

だが、有効打はないようだ。

 

そして、手元のパルスガンでも、奴を無力化できる気はしない。

 

であれば、どうするか。

 

 

「……殆ど賭け。失敗したら、手数も無くなる」

 

 

リスクはある。

 

 

「だが」

 

 

恐れていてはリターンを得られない。

やるしかない。

 

私は即座に行動を開始した。

コンビニエンスストア内を駆けて、物色する。

そして、目的の物を手に取る。

一つ、一袋、そして、二本。

 

まずはその一つ、ガムを開けて口に入れる。

 

 

「…………えっ!?」

 

 

メイが戦いながらも私に目を向けている……信じられないものを見る目だ。

まぁ、戦いの場でガムを噛んでるのだから驚くのも無理はない。

 

……というか、パッケージをちゃんと見てなかったが、このガム辛い。

スースーする。

苦手なタイプのガムだ。

 

僅かに顔を顰めながら、ガムを噛みつつ……

二本……ペットボトルを手に取った。

 

 

「ガール!」

 

 

ガムを頬に収めつつ、名前を呼ぶ。

そして、ペットボトルを投げる。

それはただのミネラルウォーターだ。

それが二本、スコーピオンの目前に迫った。

 

瞬間、私はパルスガンを構えて……発射した。

 

残りの弾数は無駄に出来ない。

ペットボトルが重なった瞬間の一射。

それが、同時に二つのペットボトルに命中した。

 

 

「む──

 

 

パルスガンは遠距離に強烈な振動を伝える。

ペットボトルに直撃し、ボトル内の水が大きく揺れる。

そうなれば、どうなるか。

ペットボトルと内部の水、その位置のずれが反動となり、真空を発生させる。

その衝撃はペットボトルを破裂させた。

 

 

「なにっ」

 

 

水撃(ウォーターハンマー)、という奴だ。

 

メイは私の呼び掛けに気付いて、既に後退していた。

水を浴びて、ペットボトルの破片を受けたのはスコーピオンだけだ。

 

 

「この、鬱陶しい真似を──

 

 

だが、ただのペットボトルの破裂程度で止まるスコーピオンではない。

それを理解している私は、素早く袋を手に取りスコーピオンに投擲した。

 

 

「するな!」

 

 

しかし、スコーピオンは反応して小麦粉の袋を爪で引き裂いた。

空中に粉が舞い、視界を覆う。

 

 

「煙幕か……!?ふざけ──

 

「ていやっ!」

 

 

小麦粉が巻き上がり、視界が遮られる。中、メイの攻撃がスコーピオンに直撃した。

 

 

「ぐっ、この、邪魔だ!」

 

 

しかし、ダメージは浅い。

即座に、尾の反撃が繰り出された。

それはやぶれかぶれ、という奴だ。

 

メイに容易く避けられていた。

 

 

「厄介な真似を……!」

 

 

スコーピオンのバイザーは先程の水で濡れている。

そこに小麦粉が付着した訳だ。

生身の私達と違い、スコーピオンは顔を拭わなければ殆ど前が見えない筈だ。

 

メイもそれを理解していた。

故に、奇襲しつつ相手の攻撃を避けたのだ。

 

その奇襲によってアドバンテージを得られたようには見えない。

 

だが、奇襲が手段だ。

目標ではない。

 

 

「ふっ」

 

 

私も飛びかかり、スコーピオンの背後から攻撃する。

 

 

「俺を、舐めるな!」

 

 

それもまた尾の反撃が来る。

そして、私は背後から攻撃していた。

 

 

「ゔぐ……っ!」

 

 

回避できず、尾に弾き飛ばされる。

 

 

「ミシェル……!?」

 

 

メイの悲痛な声が聞こえる。

だが、これは私の想定通りだ。

計画通りではないが、目標達成の一手を終えていた。

 

ならば、残りは一つ。

受け身を取りつつ、地面に置いていた、パルスガンを手に取った。

 

そんな私に対して、スコーピオンは顔に付着していた小麦粉を拭った。

 

 

「クソガキども!ここまでだ!命乞いをしろ!」

 

 

そして、完全に頭に血が昇ったスコーピオンが尾を構える。

相対する私は、パルスガンを構える。

 

 

「……あっ」

 

 

そんな私と、スコーピオンを見て……正確には、スコーピオンの背中を見て、メイは何かを確信したようだ。

 

即座に、メイは地面を蹴っていた。

 

 

「こっちだよ!蠍人間!」

 

 

メイは(ウェブ)を放ち、スコーピオンの腕に巻きつけた。

それと同時に回り込むように引っ張った。

 

 

「ちぃっ!ちょこまかと!」

 

 

狙いは、私がスコーピオンの背後を取れるようにするためだ。

 

瞬間、見えた。

 

スコーピオンの首裏、その関節の隙間に……噛んでいたガムを接着剤にして付着した、パルスガンのカートリッジが。

 

パルスガンの銃口を調整する。

残弾数に余裕はない。

ここを外せば、勝算は薄くなる。

 

私は片目を閉じて、狙いを定めて──

 

 

「……ここだ」

 

 

引き金を引いた。

 

 

「な──

 

 

瞬間、カートリッジにパルスガンが命中した。

パルスガンがカートリッジ内にある小さなバッテリー内に蓄えられたエネルギーを利用してパルスを発射する装置だ。

カートリッジには十分なエネルギーが蓄えられており、それは即座にパルス変換されるように調整されている。

 

そのカートリッジに強烈な振動が加わればどうなるか?

 

その答えは──

 

 

「うがっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 

カートリッジ内のエネルギーとパルス共鳴して、強烈な振動を引き起こすという事だ。

パルスガンから、カートリッジへ。

カートリッジから、もう一つのカートリッジへ。

 

スコーピオンの首裏に貼り付けられたカートリッジが強烈な振動を引き起こした。

 

それは本体だけではなく、大気すら振るわせるほどの強烈な振動だ。

既に砕けて店内に落ちていた窓ガラスが共振して、細かく砕けた。

 

だが……スコーピオンのアーマーは破壊されていない。

こんな振動では、アーマーにダメージなど入らないようだ。

 

 

「ちょ、っと!ミシェル!これ大丈夫!?」

 

 

メイが慌てて、私の側に着地した。

作戦は上手く行った。

だが、彼女からすれば大したダメージが入っていないように見えたからだろう。

 

だが、問題ではない。

目的は達成した。

後は……祈るだけだ。

 

 

「…………」

 

 

スコーピオンは仁王立ちしたまま、私を見ていた。

睨んでいるのか、怒っているのか、それとも。

 

 

その、直後。

 

 

「……う、ぁ」

 

 

スコーピオンは間抜けな声を出して、そのまま倒れた。

無傷のまま、店内に転がった。

 

 

「え?え?」

 

 

メイが困惑する中、私はパルスガンを懐に収納して……安堵の息を吐いた。

 

 

「ふぅ、よかった」

 

 

意識も、ミシェルへと引き戻される。

そんな中、肩に手が置かれた。

 

 

「ちょ、ちょっと、ミシェル?」

 

「ん?」

 

「何があったの?何したの?説明して!」

 

 

メイは何が何だか分かっていなさそうだ。

アーマーが破壊されていないのに、何故、スコーピオンは気を失ったのか。

 

 

「どれだけアーマーが強くとも、中身は人間。アーマーの首元に強烈な振動を与えれば……頭が揺れる。頭部のヘルメット内で大きく揺れて、その振動が頭蓋骨に達する」

 

 

私はスコーピオンへ近付き、アーマーを触る。

どこかでパージさせられないだろうか。

それとも『S.H.I.E.L.D.』に任せるべきか。

 

そう考えつつ、メイに目を向ければ──

 

 

「う、うん……?」

 

 

まだ少し困惑しているように見えた。

ならば、追加の説明が必要だろう。

 

 

「幾らアーマーが強かろうと、中身は人間だ……そして、人間の頭蓋骨と脳の間には隙間がある。大きくて細かな振動を与えれば、脳が瑞骸骨の内側と衝突する。そうやってダメージが入って……脳震盪が引き起こされ、脳にダメージが入る。スコーピオンは耐えられず気絶したというわけ」

 

 

アーマーを探っていると、喉と首の裏に小さなボタンを見つけた。

それが左右で二つ。

私はそれを同時に押して……なるほど、フェイスパーツが分離した。

 

スコーピオンの顔が見える。

……ん?

こんな顔だったか?

いや、スコーピオンの顔をじっくり見た記憶はない。

記憶の中にあるボヤけたスコーピオンと、一致しなくもない。

 

取り敢えず、拘束する必要がある。

端末から警察……では力不足か。

『S.H.I.E.L.D.』の超人管理局とダメージコントロールに連絡し、状況を報告して──

 

 

「お、おお……」

 

 

感嘆の声が後ろから聞こえて、私は振り返った。

声をあげていたのはメイだ。

メイが私をキラキラとした目で見ていた。

 

 

「なに?」

 

 

何をそんなに感動しているのか、疑問を投げつければ……メイは私の手を握った。

 

 

「凄い、凄いよ!いやぁ、こんなに凄いとは思ってなかった!いや、元々、舐めてた訳じゃないんだよ?でもビックリ!感動しちゃった!」

 

「え?はぁ……?」

 

 

酷く興奮した様子だ。

何をそう興奮する必要があるのか分からないが……取り敢えず手を握りながらブンブンと上下に振り回すのはやめて欲しい。

 

『S.H.I.E.L.D.』にちゃんとメールが送られたか、確認したいのだ。

 

 

「いやぁ、カッコよかったなぁ。ビシッ、バシッと決めるし。バリバリの出来る女って感じだし。私も鼻が高いよ〜」

 

「はぁ……そう?」

 

 

何故、メイの鼻が高くなるのか。

嬉しそうにしているから、水を差しはしないが……よく分からないのは確かだ。

 

とにかく、スマホを確認すると……『S.H.I.E.L.D.』と連絡が取れているのを確認した。

 

 

「メイ。取り敢えず、『S.H.I.E.L.D.』が来るまで私は待機するから……荷物持って、先にピーターの家に戻ってくれる?」

 

 

メイと『S.H.I.E.L.D.』を突き合わせると、説明が面倒になる。

先に帰って、会わないようにしたいのだが──

 

 

「え、あ、ごめん……道が分かんない。不安かも」

 

「……なら、荷物だけ回収して、スーパーで待ってて」

 

 

何とも、反応に困る返答だった。

遅れてもピーターに心配されるだろうし、面倒ごとに巻き込まれたと連絡ぐらいはしておくか。

 

私はスマホを片手に、ショートメッセージを送信した。

 

 

 

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