【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
色彩の薄い景色。
ベージュ色の壁。
水色の空、橙色の太陽。
目の前には鍋。
中にはビーフシチュー。
ぐるぐると、私はかき混ぜている。
これは夢、だろうか。
ここに繋がる記憶がないのだから、きっと夢だろう。
だけど、ありえない。
私は夢を見れない筈だ。
夢とはあり得た世界だ。
そして、私はこの世界でしか生きられない。
異なる次元、異なる世界。
そんなものは私には存在しない。
ここ以外の世界で私は、漏れなく死んでいる。
そう、一つの漏れなく。
そう教えてくれたのはスティーヴンだ。
だから、夢ではない筈だ。
かき混ぜる。
生クリームと、赤みがかったシチューをかき混ぜる。
微睡みの奥。
他人事のような視界。
触れているのに、触れていない感覚。
そんな中、耳に赤子の泣く声が聞こえた。
「────」
私は何かを呟いた。
だけど、何を呟いたかも分からない。
黒塗りにされた書類のように、ただ何かを喋った事だけしか私には分からない。
それでも、勝手に私の体は動く。
鍋にレードルを置いて、振り返る。
ゆっくりと足を進めて、ベビーベッドの前に立つ。
そして、赤子を抱き上げた。
柔らかく、小さく、儚い存在。
「────♪──♪」
何かを、私は口ずさむ。
子守唄だと、分かる。
それでも、何を歌っているかは分からない。
この夢が何なのか。
この世界は何のか。
何故夢を見るのか。
どれも、分からない。
ただ、穏やかで、緩やかで、幸せな夢だ。
いつまでも、この世界が続けばいい。
そう願いながら──
私は、目を覚ました。
「…………」
目を瞬いて、上半身を起こす。
私は床に転げ落ちていた。
「……なにこれ」
夢に対しても、この現実に対しても。
私は立ち上がって、ベッドを見た。
「ふが……」
メイが凄い格好で寝ていた。
右手は上に、左手を左に。
片膝を立てて、もう片足は伸ばして。
シーツを蹴っ飛ばし、枕に足を乗せていた。
なんて寝相が悪いんだ。
私はきっと、ベッドから蹴落とされたのだろう。
「……まぁ、いいや」
幸い、私は硬い床でも熟睡できるタイプだ。
ちら、と時計を確認する。
朝の4時、予定通りの時間だ。
「ん……っ、しょ」
寝起きの足取りで洗面所まで向かい、顔を洗う。
タオルでぬぐって、化粧水をつけて……洗面所を出る。
棚にしまっておいたパンを出して、オーブンに入れる。
そして、メイの元へ向かった。
「起きて、メイ」
「うーん……まだ、もちょっと寝てた、い……」
目は覚めたようだ。
だが、眠気から抵抗してくる。
しかし、予定がある。
私にもあるが、彼女の予定でもある。
「起きて」
「……あと、5分」
「起きなさい」
「……はーい」
少しキツく言うと、渋々といった様子で目を覚ました。
そのまま洗面所に送り届けて、私はキッチンへ戻る。
フライパンにベーコンをしいて、卵を落とす。
火を通して、焼けたパンと一緒に皿へ乗せる。
そうして朝食を机に並べた頃、メイがリビングに顔を出した。
「おはよ……ぅあっ、これ朝ごはん!?」
「おはよう、メイ。そうだけど」
「うわー、人が作る朝ごはんって新鮮っ、食べていい?」
「どうぞ」
そのために作ったのだから。
パンにバターを付けて、目玉焼きに胡椒をかけて。
そうして朝食を食べるメイを見ながら、私も朝食を口にした。
うん、いつも通りだ。
そうして、一足先に食べ終えたメイは私に視線を戻した。
「でもさー、ミシェル。なんでこんなに早起きさせたの?まだ朝の4時半だよ?」
「偽スパイダーマンの事件は毎朝起きてる。早めに用意して、主要な銀行で待ち伏せするつもり」
「あー、なるほど……事件起きてから行けばよくない?」
「早めに行動して損はない。それに、警察や私はスパイディ達と違って
「むー……反論はありませぇん」
お手上げ、といったジェスチャーをメイがした。
喋りながらも朝食を食べ終えて、シンクに備え付けられた食洗機に食器を入れる。
マグカップを出して、温めたミルクを飲んで……メイが欲しがったので彼女にも飲ませた。
そして──
「身支度するよ、メイ」
「身支度って、何を着ればいいの?私、何にも持ってないし、昨日の服は洗濯中だよね?」
「何言ってるの?着るべき服は決まってると思うけど」
私はそう言いながら、自前のトランクケースに『S.H.I.E.L.D.』のIDカードを差し込んだ。
すると鍵が開いて、中に収まっている分割された黒いアーマースーツが姿を現した。
そして、メイもその様子を見て頷いた。
「あー、なるほどね?スーツって訳だ」
「そういうこと」
横着した私はリビングで服を脱ぎ、下着を変えて、黒い防刃防弾のタイツを身につける。
そして、その上にアーマースーツを装着した。
気付けば、肌どころか、下に着ているタイツすら見えなくなっていた。
黒く光沢のあるアーマーに、卵のように目鼻もない艶やかなフェイスパーツ。
登録名『ナイトキャップ』の姿がそこにあった。
そんな私に対してメイは、既に着替えを終えていた。
手作りらしいスパイディスーツ。
『スパイダーガール』が椅子に座っていた。
『準備は出来たか?メイ』
「ぉうわっ……!びっくりした……」
『何を驚く事がある?』
「急に声変わるし……喋り方も変わるから……」
『生憎だが配慮する事はない。慣れろ』
「はいはい、慣れますよー……」
不貞腐れたようなメイを連れて、マンションの一室を出る。
ここはアベンジャーズ・マンション。
といっても、アベンジャーズの殆どは居ない。
それでも、ヒーロー候補やら、若いヒーローやら……アベンジャーズや『S.H.I.E.L.D.』の関係者しか入居できないマンションだ。
私達がこんな姿をしていても、問題はない。
そのまま歩いて裏口を出て、駐車場へ向かう。
そして、いつも通りスーツ同様の黒い車に乗り込む。
『メイ、これを身につけておけ』
「あ、え、わっ、急に投げないでよ……って、なにこれ?ちっさ」
豆粒のようなシール付きのチップだ。
『GPSだ。位置がわかる。腕か足、首や胸元、どこかスーツの裏側に貼り付けておけ』
「はーい……じゃ、喉元で」
ペタリと、メイはチップを喉元につけた。
すると、車内のモニターに映っている地図上に、赤いマークが表示された。
きちんと正常動作しているようだ。
その内容に納得して、私はアクセルを踏み込んだ。
「え」
マンションを出て、早朝故に車の居ないニューヨークの道路を走る。
「ちょ、ちょちょっ」
時間を無駄にするつもりはない。
高性能AIカレンによって提示される車の少ない道を選び、追い越していく。
「ミ、ミミ、ミシェルっ、速い、速いって!」
『この姿の時は『ナイトキャップ』と呼べ』
アクセルは踏み込みっぱなしだ。
最速、最短で走り抜ける。
窓から流れるニューヨークの景色が霞むほどに、早く。
「……わ、わぁ」
か細く声を上げながら、メイはシートベルトを握り締めた。
そんな不安がらなくても、事故なんて起きやしない。
ニューヨーク中の道路情報について、AIが認識しているし、私の反射神経と、この車の反応速度があれば対応できる。
「……ひぃん」
何故か怖がるメイを無視して、私はニューヨーク相互銀行まで到着した。
既に警察車両が何台か停まっており、警戒態勢が敷かれている。
『着いたぞ、メイ』
「……う、うう……ミシェル……ナイトキャップの運転って、相当荒いよね……」
別に荒くしているつもりはないのだが。
しかし、ピーターにも同じことを言われた事がある。
ドライブデートは嬉しそうにしているが、仕事中は車に乗りたがらないのだ。
……少し気をつけるか?
そう考えつつ、メイへ目を向けた。
『メイ……いや、スパイダーガール。警察は今、偽スパイダーマンの影響で警戒態勢となっている。その姿を見て、良い反応をしない奴も多い』
「なるほど、ということは……事件が起きるまで、隠れていた方がいい?」
『そういう事だ。私は警察へ挨拶に行ってくるが、少し車内で待っていてくれるか?』
「あいあい、キャップ」
また変な返答をして。
そう考えながらも、私は車を降りた。
そして、警察が集合している一角に足を踏み入れる。
既に警官が何人も準備をしており、緊張感が出ていた。
そんな中、見知った顔を私は見つけた。
「あっ、おはようございます!ナイトキャップさん!」
『ケイティか』
金髪の若々しい女性警官が私に声を掛けて来た。
ケイティ巡査、ニューヨーク市警でも数少ない私と親しい警官だ。
私の本名も知っているほど交流があるが、他の警官がいる手前、『ナイトキャップ』と呼んでくれている。
『状況は?』
「はい、他の銀行にも現在、警察が張っています。ですが、恐らく、今回はニューヨーク相互銀行だろうと上層部は当たりを付けています」
『だろうな』
「ナイトキャップさんは分かりますか?……ちなみに、何故ですか?私、分かってないんですけど」
頭にはてなマークを浮かべるケイティを見て、私は頷く。
『一度犯行を行った銀行は警戒態勢が強い。あの偽物のスパイダーマンもそう考えているようで、同じ現場には現れていない』
「なるほど……」
『であれば、まだ犯行に及んでいない現場の中で、最も大手の銀行であるニューヨーク相互銀行を狙うのが道理だ』
私の言葉にケイティが納得したように頷きつつ、小さく手を上げた。
「あの……ミシェルさんは、今回の騒動について、スパイダーマン……のことを偽物だと確信しているんですよね?」
『ああ』
「何でですか?」
『……彼はそんな事をしない。そう知っているからだ』
恋人だからとか、プライベートで繋がりがあるからとか、そんな事は警察に言えない。
スパイダーマンは世間ではヒーローではなく、
法に従わず、自由意志で街を守る……合法的な存在ではないのだ。
そんな相手と親しいと、警察には言い難い。
「なるほど……でも、確かにそうですね。私も今回の事件、スパイダーマンらしくないと思ってますので」
『そう思うか?』
「はい。幾ら、スパイダーマンにしか出来ないスイングやら動きをしてようと、本質的にそういうことするタイプじゃないと思ってますので。あの人の本分は、人助けでしょう?」
『……そうだな。その通りだ』
私はケイティの言葉に嬉しくなった。
ピーターの人助けを、見ている人は見ているのだ。
そして、信じてくれている。
それはとても嬉しい事なのだ。
そう考えていると、銀行内で非常ベルが鳴り響いた。
まだ一般客に向けて開けてすら居ないのに。
『……なんだ?』
「事件発生、みたいです……!でも変ですね?外から侵入する人影すらなかったのに……」
『既に内部へ侵入していたのか?それとも裏口か……とにかく、中へ調査を頼む。ただ、無理はするな』
「それは勿論!ナイトキャップさんは、どうしますか?」
『協力者を車に乗せている。彼女を連れて、銀行内部へ向かう……警察の仕事は包囲だ。逃すな。だが、無闇に手を出すな』
「了解です!」
敬礼するケイティを送り出し、私は急いで、車の元へ向かった。
車内を見るとメイが座席を倒して、リラックしていた。
……緊張感がない。
『メイ、出番だ。銀行内部で事件が発生している』
「え、もう!?」
『私は表から警察と突入する。メイは隠れて侵入しろ』
「わ、分かった……警官にもバレない方がいいよね?」
『ああ、誰が偽物か分からん。部外者は信用するな』
「りょーかい」
メイは即座に車を降りて、銀行の壁を這い上がり……屋上へと駆け上がった。
そして、そのまま天窓をこじ開けて中へと入っていった。
警官達の注意が銀行内部へ向かっている今だからこそ、出来た芸当だろう。
その姿を見届けて、私は警察から少し遅れて銀行内部へ突入した。
侵入したのだが──
『……何だこれは』
警官達の頭上をデスクが舞った。
奥にいる偽スパイダーマンが暴れているらしい。
それは分かる。
だが、暴れている理由が意味不明だ。
既に金庫から金を盗んでいるのなら、警察から逃げればいい。
だというのに、偽スパイダーマンは現場で暴れる事を優先している。
この偽スパイダーマンの目的は、金を盗む事ではない……という事か?
疑問に思いつつも、私は足を進める。
そして、視界にスパイダーマンを見つける。
『そこまでだ!止まれ、これ以上動けば撃つ』
普段使いの物より厳つい、パルスハンドガンを構える。
そんな私の姿に偽スパイダーマンは振り返り……少し驚いた様子をしていた。
「…………」
しかし、無言だ。
何も喋らず、動きも止めて私を見ている。
まるで虫みたいだ。
緊迫した空気の中、私は後手で警官に合図を送る。
警官達は偽スパイダーマンの挙動を見逃すまいと警戒しながらも、包囲するように動き出す。
その動作を手助けするべく、私は偽物の注意を引く事にした。
『貴様が何者かは知らない。だが、偽物だという事はとうにバレている。悪評を広める事が目的ならば、その稚拙で軽薄な作戦は、恥の上塗りをするだけだ』
挑発しつつ、前に進む。
しかし、違和感。
目の前の偽スパイダーマンに焦る素振りはない。
それどころか、私を観察しているように見える。
警戒している……様子もない。
何故、こうも余裕があるのか。
いつでも逃げられるという自信の表れなのか。
そう考えていると──
「うおーっ!確保!」
メイが、スパイダーガールが頭上から落ちて来た。
『は?』
「え?」
私や警官達が反応するより早く、偽物のスパイダーマンに抱きついた。
そして、地面に引き倒した。
「つ、捕まえた!捕まえた!」
『ガール、な、なにを……っ、て、ああ、そのまま確保していろ!拘束する!」
多少、動揺はしたが、チャンスはチャンスだ。
そう考えて、私は偽物のスパイダーマンに駆け寄って、電子手錠を手首に付けた。
呆気ない。
呆気なさすぎる。
不安な感覚を感じていると、突如、偽スパイダーマンのスーツが溶けた。
『なっ』
「え、なに!?」
まるで粒子のように消えたスーツの下に居たのは、中年の男性だった。
呆けた顔をしているが、服装は……この銀行の、事務服?
『ガール、離せ……コイツは偽物だ』
「えっ?偽物だから捕まえるんじゃ……」
『いや、この男は偽物の偽物だ!誰かが仕立て上げた囮だ!』
私がそう口にすると──
『その通り!』
脳に響く、声が響いた。
生の声ではなく、拡声器を使った声でもない。
直接、頭に届くような鈍い声だ。
だが、この位置は分かる。
私の真上だ。
『貴様は……』
『君達はよく踊ってくれた……そして、私の探していた相手を誘き出してくれた!素晴らしい働きだ、感謝しよう!警察の諸君!』
芝居がかった口調で、私の頭上に浮上しているのは……緑色と金色のアーマーを身に纏った男だ。
その上には真っ赤なフードを、マントのように身につけている。
そして、その頭部は青白く燃え盛っている。
青白く燃える炎の頭部、その下は……白骨だ。
剥き出しになった頭蓋骨が青白く燃え盛っている。
見覚えのないヴィラン。
だが、覚えのある態度だ。
そんな相手が、私とメイの前へ着地した。
こいつの目的は私なのか──
『さあ、舞台の時間だ!私の復讐をもって、この事件のフィナーレとする!』
いや、違った。
私にコイツとの面識はない。
復讐、というのであれば……メイ絡みの犯罪者なのだろう。
……という事は、彼女の世界のヴィランなのか。
そう考えて、メイに視線を向ければ──
「……ミステリオ」
聞き覚えのある名前が聞こえた。
『そう、この場にいる者達にも自己紹介しよう!我が名はミステリオ!稀代の奇術師にして、偉大なる魔術師!そして──
ミステリオは私を指差した。
『貴様に
……私?
このミステリオと私に面識はない筈だ。
確かに……この世界のミステリオを殺したのは私だ。
だが、別世界のミステリオなぞ知る由もない。
面識などある筈がない。
そう困惑していると、メイは既にファイティングポーズを取っていた。
「そうはさせないよ、ミステリオ!その道路に吐き出されたガムよりしつこい、執念深さもここでおしまいにする!」
『おお、子蜘蛛よ!今日はお前と相手をするつもりはない!だが、望むのであれば……同時に相手してやろう!』
ミステリオの身体が宙へ浮いた。
ミステリオは幻覚を操るヴィランだ。
だが、私のマスクには通用しない。
幻覚剤のガスも、ホログラムも、効かない筈だ。
だからこそ、この目に映るものが現実なのだと分かる。
ミステリオは浮いている。
あの青白く燃える頭蓋骨が本当の姿なのだと、教えてくれている。
だからこそ、理解不能だ。
あれがミステリオだと?
そして、何故、私に敵愾心を抱いている?
『ガール、アイツは何だ……?』
思わず、問いかけた。
「アイツはミステリオ!魔術師で、幽霊!」
端的で、意味不明な言葉に困惑する。
幽霊だと?
ゴーストライダー……いや、違う。
目の前にいる奴は利己的で、邪悪な存在だ。
だが、間違いなく……邪悪な存在だという事は分かる。
『もっと詳しい情報はないのか……?」
「えっと、あとは悪魔のフードを──
『お喋りも楽しいが、舞台の幕はもう上っている!無駄なお喋りは厳禁さ!』
ミステリオが両手を上げた。
その瞬間、銀行の床が持ち上げられた。
地割れのようなものは起きて、足場が不安定になる。
更に、置かれた事務机が持ち上がる。
『くっ……退去だ!コイツを連れて撤退しろ!』
間違えて捕縛した偽スパイダーマン……の皮が貼り付けられていたであろう一般人を警官に投げ渡して、退去させる。
今は他者へ気を配っている余裕はない。
「ミステリオ!なんで、スパイダーマンの偽物なんて用意したのさ!」
『くくく、そうすれば、こいつが姿を現すと知っていたからだ!良い演出だろう!』
ミステリオが私へ指を差した。
瞬間、浮いていた事務机が私に向かって飛来して来た。
『チッ、これは幻覚じゃないのか……?』
避けつつも、私はパルスガンをミステリオに向ける。
そして、引き金を引けば──
『甘い、甘いぞ!貴様はこんなに単純だったのか!ああ、何と弱い!弱い!』
ケタケタと常軌を逸した高笑いをしながら、ミステリオはパルスガンを回避した。
再び上昇して、空中で手を掲げる。
裂ける音が響いた。
金属がひしゃげる音だ。
それが頭上から──
『チッ!』
舌打ちをしながら、落ちて来たシャンデリアを避ける。
『無様だ、無様だ。本当につまらない……いいや、面白い!滑稽だぞ──
ミステリオが両手を上に掲げた。
『『レッドキャップ』!ここが貴様の墓場となる!』
『……っ!?』
一瞬、私は身体が硬直した。
何故、その名前を知っている?
何故、私の過去を知っている?
それも、何故、別世界の住人が知っている?
そもそも、何故、私に復讐しようなどと言っている?
その困惑が、私の足取りを重くした。
ほんの僅かで、小さな隙だ。
だが、戦いの場で、その隙は致命傷となる。
砕けた壁が、石の柱が私へと迫る──
「危ない!ミシェル!」
瞬間、私は突き飛ばされた。
そして、私が本来居た場所にいたメイに石柱がぶつかり──
『な、あっ』
吹き飛んだ。
壁にぶつかり、ごろごろと転がって……身動きも取らなくなった。
『メイ……!?』
庇われたのだ。
それを理解した瞬間、私の血の気が引いた。
メイは無事か?
私の所為だ。
怪我は深いのか?
生きているのか?
助けなければ、謝らなければ。
だが、そんな余裕はミステリオの前では存在しない。
『想定外の獲物だ。だが、貴様の無力さが、貴様に大切な物を奪う……それもまた面白い』
『……貴様』
『おお、怖い。怖いぞ。だが、怖くない。滑稽だ』
ミステリオを中心に赤と、緑のオーラが渦巻く。
禍々しいそれは、どこか……本当にどこかで、見た覚えのある感覚だ。
何処で見たのかも分からない。
だが、忌々しいものである事だけは理解できた。
『さあ、『レッドキャップ』!守るべき物も守れない空っぽの貴様を、今度こそ私の手で殺してやろう!』
ミステリオがそのオーラを解き放とうと、両手を前に突き出そうとした瞬間──
「そこまでだよ!」
天窓が砕けて、一つの影がミステリオを蹴飛ばした。
『むっ!?
「こんなつまらない
それは、スパイダーマンだ。
ピーターが助けに来てくれたのだ。
しかも、一人だけじゃない。
「その通り!女の子を虐めて楽しむ
「同感だ。下らない奴には、下らない幕引きが必要だな」
マイルズとドクター。
三人のスパイダーマンが、私の前に着地した。