【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#9 コールド・アンド・エンプティPart3

朝、ミステリオの召喚した悪魔と戦い……僕の家に帰ってから、数時間。

昼過ぎに、ミシェルとメイが帰ってきた。

 

メイが無事だったのは嬉しいのだけど──

 

 

「えへへー♡」

 

 

何故か、ソファに座るミシェルに対してメイが擦り寄っている。

いや、元々彼女は距離感が近い女の子だった。

にしても、より一層、ミシェルに対して馴れ馴れしくなっていた。

 

対して、ミシェルもメイを受け入れていた。

 

 

「メイ、ちょっと近い」

 

「えー、だめぇ?」

 

「……ダメじゃないけど」

 

 

咎めるような口調だが、折れている。

ミシェルはメイの頭を撫でていた。

まるで歳の近い、仲の良い姉妹のようだ。

 

どうしてこうなった?

僕が不思議に思っていると、マイルズに肩を叩かれた。

 

 

「ねぇ、ピーター」

 

「何かな?」

 

「……あの2人、どうしたの?」

 

「分かんないよ、僕にも……ドクターに聞けば?」

 

 

僕が話題を振ると、ドクターは顔を顰めた。

 

 

「くだらん事を聞くな」

 

「ドクターにも分かんない事があるんだ?」

 

「黙れ」

 

「……だってさ、ピーター」

 

 

マイルズの言葉に、僕は苦笑しか出来ない。

二人はとても相性が悪そうだ。

 

そういう訳で視線を集めていたミシェルとメイは……まぁ、ミシェルだけだけど、視線に気付いて顔を上げた。

 

僅かに顔が赤い。

 

 

「……取り敢えず、今後の話がしたい」

 

 

恥ずかしさを誤魔化すように、ミシェルが話し始めた。

 

 

「ここに来たメイ、マイルズ、ドクターのために、まずはスマホを用意した。私やピーター、各々の連絡先は入ってる。好きに使って」

 

 

ミシェルが鞄に入れていた、スマホを配る。

既製品っぽいけど、ミシェルのことだ。

遮断不能の位置発信装置ぐらいは付けてそう。

念には念をってね。

 

 

「あとは家について。私の住んでるマンションで3部屋借りたから、各々の拠点にして」

 

「えー、ミシェル〜」

 

「ん?」

 

「ねー、私はミシェルと一緒に住みたーい」

 

「はぁ、わがまま言わないの」

 

 

メイがとんでもない事を言っている。

だが、ミシェルは少し呆れつつもメイの頭を撫でていた。

 

いや、本当に何があったんだろう。

急にめちゃくちゃ仲良くなってる、それはもう凄く。

 

机に置かれた鍵をドクターとマイルズが受け取った。

 

そうして満足するかと思っていたけど、ドクターがミシェルに目を向けた。

 

 

「それで、我々が帰る方法の目処は立ったか?」

 

「……いや、何も、今は宇宙にいる『S.H.I.E.L.D.』の長官とか、超常現象に詳しい魔術師に連絡を取ろうとしてるけど……連絡、取れなくて」

 

「……フン、であれば、こちらでも調査する必要があるか」

 

「したいなら。でも、大規模な研究施設とか、そういうのにコネはないけど」

 

「……チッ」

 

 

ドクターは腕を組んで、少し不機嫌そうに頷いた。

 

ドクターは元の世界に早く帰りたい、という気持ちが強い。

メイやマイルズにもあるだろうけど、ドクターが別格だ。

元の世界に残したものがあるのか、それとも考え方の違いか。

まぁ、僕も別世界に飛ばされたら、すぐに帰りたいと思うし、ドクターの気持ちは分かるけどね。

 

そんなドクターが、ミシェルへ視線を戻した。

 

 

「ミステリオはどうした?どう対応する」

 

「まだ分からない。でも、逃げたけど、狙いは私って分かったから。今後は今朝のような騒動目的の強盗はしない……かもしれない。けど、警戒は続けていくつもり」

 

「当然だな。まぁ、奴を捕まえた所で、我々が元の世界に戻れる保証はないが……」

 

 

そう口にしつつ、ドクターはメイへ目を向けた。

 

 

「え、えっ?なに?ドクター?」

 

「あのミステリオはお前の世界の住人だろう。なのに何故、この女と面識があった」

 

 

確かに、ドクターの質問は僕も知りたかった事だ。

興味を傾けていると、メイは少し困った様子でミシェルを見た。

 

 

「ねぇ、どうする?」

 

「言える範囲で言えばいい」

 

「……んー、分かった」

 

 

何か、二人で共有している秘密ごとがあるらしい。

その様子に、打ち明けてもらえない寂しさを感じてしまう。

仲間外れにされた事に対する、ちょっとした嫉妬心だ。

 

 

「えーっと、あのミステリオはね。というか、私の世界ってね……この世界の未来なんだよ」

 

「……なんだと?」

 

「えっ?」

 

 

ドクターも驚いていたけれど、僕の方がもっと驚きだ。

対してミシェルはもう既に知っていたみたいで、驚く様子もなく言葉を繋いだ。

 

 

並行世界(マルチバース)は時空の異なる世界。時間軸の異なる世界から、誰が来てもおかしくはない」

 

「……なるほど。ならば、その女は未来人か」

 

「そうとも言えるけど……メイがこの世界に来た時点で、この世界と、彼女の世界は分岐するだろうって」

 

「……ジョンバールの分岐点か。面倒な話だ」

 

 

何だかサッパリ分からない。

 

 

「マイルズ、分かる?」

 

「分からないよ、ピーターは?」

 

「僕もサッパリ」

 

「だよね」

 

 

ドクターは納得したようだけど、僕とマイルズは顔を合わせて首を傾げていた。

 

そんな僕達に対して、メイが手を上げた。

 

 

「つーまーりー、あのミステリオが恨んでいるのは、私の世界の過去のミシェルってこと。そして、過去のミシェルはこの世界のミシェルと同一人物ってわけ」

 

 

ややこしい。

彼女の世界の過去と、この世界は同一。

だけど、この世界の未来は、彼女の世界とは異なるらしい。

……タイムマシンが出来ても、乗らないようにしよう。

よく分からないから。

 

煤けている僕に対して、マイルズが手を上げた。

 

 

「じゃあ、ミステリオってミシェルを恨んでるみたいだけど。ミシェルって何をしたの?そもそも彼の言ってた『レッドキャップ』って何のこと?」

 

 

瞬間、僕とミシェル……ついでにメイも息を呑んだ。

仕方のない話だろうけど、マイルズはミシェルの事情を知らない。

言い辛い事も、聞いてしまう事はあるだろう。

 

 

「…………」

 

 

どうやって誤魔化すべきか、そう悩んでいると──

 

 

「ミステリオを、私が殺した」

 

 

ミシェルがそう口にした。

 

 

「え……っ!?」

 

「…………」

 

 

その言葉にマイルズは驚いていた。

ドクターは言葉を発さなかったけれど、内心は驚いていそうだ。

 

 

「それってつまり……事故で?」

 

「故意。少し、昔話をしてあげる」

 

 

そうして、ミシェルはポツリポツリと話し始めた。

隠していても、信頼は得られないと思ったのだろう。

 

ミシェルにとって話したくない、それでも消せない罪の記憶を。

 

『レッドキャップ』。

それは彼女の、忌わしい記憶だ。

悪の組織に所属して、命じられるがまま人を殺してきた。

 

そんな過去を彼女は語った。

 

メイは話を聞きながら、少し悲しそうに。

マイルズは拙い事を言わせてしまったと、自己嫌悪をしていた。

ドクターは……何だろうか、感情が読み取れない。

 

 

「……という訳。私がまだ『レッドキャップ』だった頃に、ミステリオを殺した。だから恨まれている」

 

 

そう話を締め括ったのだが。

 

 

「待て。では何故、未来である筈の世界からミステリオが来ている。何故、生きている?」

 

 

至極尤もな質問だ。

だが、その質問に答えたのはミシェルではなく、メイだった。

 

 

「ミステリオは死んでるよ。アイツは地獄で、悪魔、メフィストと契約して……この世に魂だけを蘇らせたの」

 

「……つまり、どういう状況だ」

 

「悪魔のフードとブーツを身に付けた死体に対して、ミステリオが憑依してるってこと。私も何度か倒したけど、完全に消滅する事はなくて……閉じ込める事もできない感じ。すっごく厄介だよ」

 

「……つくづく、この世界に来てから常識というものが如何に儚いものか、実感させられるな」

 

 

ドクターは眉間を指で揉みながら、呆れるような顔をしていた。

まぁ、分かるよ。

そもそも、並行世界(マルチバース)から人がやって来てる時点で、僕も自分の常識を疑っているから。

 

っと、気になる事は僕にもあるんだった。

 

 

「メイ、僕からも質問いい?」

 

「うん?ピーター、何が聞きたいの?」

 

「ミシェルとメイ、仲良さそうだけど……未来ではどういう関係なの?」

 

「……あー」

 

 

僕がそう問い掛けると、メイは……というか、ミシェルも固まった。

 

え?なに?

聞いちゃまずい話なの?

 

戸惑う僕に対して、メイが口を開いた。

 

 

「えーっと、それは、ねぇ──

 

「メイは私の教え子。私が師匠」

 

「え?そうなの?」

 

 

ミシェルの言葉に僕は驚く。

いやでも、ミシェルって優秀なエージェントだから、将来的に部下というか教え子が居てもおかしくはないか。

 

メイが何か言いたげにしているのだけは気になるけど……。

 

ミシェルが無理矢理、話を切り上げた。

 

 

「とにかく、そういう訳。今後はミステリオの対処をしつつ、元の世界に帰るための情報を探す。それでいい?」

 

「うん、分かったよ」

 

「僕も」

 

「フン」

 

 

三者三様、返事をする。

メイは最初から話を知っていたようで、黙って頷いていた。

 

そうして、ミシェルに連れられて……3人はミシェルの契約したマンション……アベンジャーズマンションまで連れて行かれる事となった。

 

ま、僕は行く必要がないから、行かないんだけど。

明日から平日、僕にも大学だってあるし……。

 

 

「はぁ」

 

 

面倒ごとを考えながら、ソファに座る。

何だか妙に部屋が広く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、ニューヨーク。

月明かりの下、廃工場で……私、ミステリオは壁にもたれかかっていた。

 

 

『チッ……厄介な……何故、スパイダーがあんなに居るんだ。意味不明だ』

 

 

今朝、警察紛いの真似事をしている『レッドキャップ』を誘き出すため、スパイダーマンの幻影に騒動を起こさせた。

目的通り、ヤツは居た。

 

だが、お呼びでない蜘蛛(スパイダー)達が4人も居た。

 

昔見たヤツ、最近戦っているヤツ、知らないヤツが2人。

 

どれもこれも厄介だ。

 

 

『意味の分からん世界に呼ばれ、宿願を叶えてくれたと思えば……どうも上手く行かない。私一人では、勝ち目は薄いか』

 

 

悪魔から借り受けたフード、そして、ブーツ。

それらは私に凄まじい力を与えた。

相手に見せる恐怖の幻影、それを具現化する力だ。

より恐ろしく、より不気味に、より派手に……相手が恐れ、信じるほどに悪魔は強くなる。

 

だが、それでも……4人のスパイダーを相手にするには力不足だ。

 

 

『……クソッ』

 

 

舌打ちをして、壁を叩けば……工場内で反響した。

影の中、煌めく炎の影……私の顔が復讐の青い炎で燃えている。

 

静かな工場跡地で、私は作戦を──

 

 

『……誰だ?』

 

 

こつこつと足音が響いた。

 

 

「お取り込み中でしたかな?ミステリオ様」

 

『……お前は』

 

 

真っ白な全くの無地のマスクを被った男が、そこに立っていた。

黒いタキシードスーツに、真っ白なマスク……表情どころか人相も分からない。

 

 

「おっと、自己紹介が遅れましたね。私の名前は、カメレオン……お見知り置きを」

 

『……あぁ、知っているとも。人になりすますのが得意な変人だ』

 

「ああ、貴方は未来世界の出身でしたね。であれば、知られていてもおかしくはない」

 

 

私は目の前の、無貌の男を知っていた。

カメレオン……老若男女、ありとあらゆる者に変装できる悪党だ。

面識はないが、同じ悪党として名は知っている。

 

 

『お前はこの世界の出身か?』

 

「さて、どうでしょう……なんて勿体振りはしませんよ。ええ、そうです。貴方にとっては、過去の存在でしょう」

 

『そうか。それで、何の用だ。私は生憎、次のショーの準備に忙しい──

 

「そのショー、もっと盛り上げてみませんか?」

 

『なに?』

 

 

手を止めて、目を向ける。

 

 

「相手ばかり大人数では苦戦する一方。ヒーローコミックだって、そう一方的では盛り上がらない。どうでしょう……似たような目的を有する者で集まり、行動するのは」

 

『……チームか?』

 

「そうなります。そして……私達には元の世界へ貴方達を帰す算段があります。目的を果たした後、貴方を元の世界へ帰す事を約束しましょう」

 

『なんだと?』

 

 

思わず、驚く。

そして、何故そんな算段があるのか……そして何故、こいつの仲間が知っているのか。

そもそも、こいつの仲間は何者か。

 

疑念は深まる。

 

 

「私達は別次元のスパイダー達を確保したい。貴方はレッドキャップ……失敬、今はナイトキャップだったかを殺したい」

 

『それがどう繋がる』

 

「ナイトキャップはスパイダーに御執心です。それは貴方もご存知では?』

 

『…………』

 

 

私は知っている。

スパイダーとレッドキャップが、何らかの交友関係にあることを。

奴等の正体は知らぬが、互いに助け合っていることから、友人であるのだと。

 

 

「スパイダーが危機に陥れば、彼は罠だろうと飛び込むでしょう。その後は、貴方のお好きに」

 

『……いいだろう』

 

 

カメレオンに大した戦闘力はない。

いつでも魔術で殺せるだろう。

だから、これは油断ではない。

 

口車にのったとて、私に不利益はないだろう。

 

 

「良い返事です。では、顔合わせしましょうか……こちらをどうぞ」

 

 

カメレオンから丸い、機械を渡される。

 

正体不明の機械だ。

 

私はメカニックの素人ではない。

幻影を作るために機械弄りも習得している。

そんな私が見当も付かない。

 

 

『何だこれは──

 

 

そう呟いた瞬間。

機械から白い光が放たれた。

 

まさか、爆弾か?

そう疑うより先に、視界が切り替わった。

 

 

『今のは……いや、ここは?どこだ?』

 

 

先程までいた廃工場ではない。

全く違う場所に、私は立っていた。

 

 

「依頼主が用意してくれた屋敷です。我々の拠点とも言える」

 

 

古びた、だが古ぼけていない屋敷の内装。

絵画が飾られた廊下に私は立っていた。

 

先程の機械は何らかの転移装置か?

技術力の高い……私より未来か、科学技術の発展した世界から来た科学者が居るのか。

 

 

『……貴様の依頼主は随分と金持ちだな』

 

「金だけではありません……権力も。さあ、行きましょう……貴方の仲間が待っています」

 

 

そうして、勧められるがまま足を進める。

厳かな廊下を進む。

それが私のような亡霊と、白く無貌の男だというのだから、場違いに思える。

 

そうして足を進めれば──

 

 

「ここです。さあ、どうぞ」

 

 

カメレオンが木造りの扉を開けて、私を手招く。

促されるまま、入れば……そこには円卓があった。

 

そして、椅子は6つ。

空席は1つ……つまり、残り5人は座っていた。

誰も彼も、特徴的な姿をしている。

 

 

『…………』

 

「席へどうぞ、ミステリオ」

 

 

カメレオンがまた、促す。

私が渋々座れば、カメレオンが真後ろに立った。

 

これで、6人。

円卓を前に、席についた。

 

直後、私に話しかけてくる者がいた。

 

 

「よぉ、ミザリー。俺の知ってるお前とは、随分と違う見た目をしているが……お前は俺を知ってるか?」

 

『知っているとも……サンドマン。別世界の存在だろうと、お前は同じ役者のようだな?』

 

 

サンドマンだ。

身体が砂で構成されており、ギリギリ人の形を保っているようだ。

これじゃ、元の世界のサンドマンと違いすら分からない。

 

視線を逸らす。

次に目に入ったのは、自分の知らない仰々しい姿の男……いや、男か?

 

 

『お前は何だ?』

 

 

青白い肌をした、発光する男だ。

 

 

『俺はエレクトロだ。お前の方こそ、俺が知るミステリオと随分違う』

 

 

エレクトロ。

雷を操る悪党だ。

自己中心的でエゴを肥大化させたような人間……だが、私の知っている姿と違う。

 

 

『なるほど、お前も並行世界(マルチバース)の別人という訳か』

 

『フン、俺からすれば、お前らこそ異常個体(べつじん)だがな。俺の知ってるミステリオは、ハッタリしか能のない奴だった』

 

『そうか……試してみるか?』

 

『いいや、いい。お前がフツーじゃないのは、見たら分かる』

 

 

自分の知る軽率で、軽薄なエレクトロとは違うらしい。

身体を電気で満ちさせているようだ……フードを通して見れば、よく分かる。

奴には帯電体質があるようで、元々の人としての肉体は存在していない。

ある意味、亡霊である私と似た存在だ。

 

そして、また視線を逸らす。

今度は逆に見覚えのある男だ。

 

 

『お前は……クレイヴンか』

 

「ああ、そうだ。ミステリオ、お前は未来から来たんだよな?そういう意味では、顔見知りかもな」

 

『ほう、この世界の現地民か?』

 

 

クレイヴン・ザ・ハンター。

優れた狩人で、カメレオンの兄。

その事実は知っているが……どうにも、私の知るヤツとは違う。

時系列が違うだけで、同一人物の筈だが……どうにも、妙な違和感がある。

 

魔術的観点から見て、不明瞭な違和感だ。

何か、何かが違う。

 

だが、分からない。

分からないならば、今は無視するしかない。

 

更に視線を横へ向ける。

 

 

『そして、なんだ?アーマーを着込んだお前は』

 

『私はヴァルチャー。寧ろ、貴方達は何故、アーマーを着ていない?』

 

『アーマーだと?』

 

『旧時代的だ。科学の鎧は、人の身と心を強くする。生身など野蛮極まりない』

 

 

機械音声で話すのは……ヴァルチャー。

私が知る限り、飛行スーツを身に付けたハゲた老人の筈だ。

だが、目の前にいるのは全身をアーマーに包み込んだ……老いも若いも分からない悪党だ。

 

昨日、街で暴れていたスコーピオンと同じ故郷(せかい)出身か?

随分と科学技術が発展した世界のようだな。

 

先程の機械は、このヴァルチャーの持ち物か?

 

 

『それで?誰がリーダーなんだ?』

 

 

私の言葉に、皆が一人へ目を向けた。

 

クラシックな服装を身につけた茶髪の……中年らしき男だ。

顔は歳相応だが、不相応な程に体は鍛えられている。

 

 

「私だ」

 

『カメレオンじゃないのか?クレイヴンでもないのか?』

 

 

元の世界の住人こそが、リーダーとなるべきではないのか。

言外に意味を込めつつ、視線を送る。

 

 

「ええ、私や兄はチームのリーダーをした事がない。確かに、雇い主に最も近いのは私ですが……スパイダーの見識に関して、最も深いのは彼だ」

 

『ほう……では彼が元の世界にでも返してくれるのか?』

 

 

私の言葉に、カメレオンは首を振った。

 

 

「いいえ、報酬を用意するのは、あくまで私の主人です。ここには居ませんし、任を果たすまで貴方達と会う事はないでしょう」

 

『随分と臆病なんだな』

 

「言葉には気をつけた方がいい。貴方達を元の世界に返すか、この世界の海に沈められるか……それを決めるのは我が主人ですから」

 

 

その物言いに少し不快感を感じる。

だが、重要な選択肢を握っているのは、その主人らしい。

 

 

「リーダーである彼も……ヴァルチャーも、サンドマンも。元の世界へ戻るために協力しているという事です」

 

『……そうか』

 

「動機は違いますが、やるべき事は変わりません。貴方も、彼等も……故郷に帰りたいでしょう?」

 

「お喋りは楽しいか、カメレオン。あまり人の話を勝手にしないほうがいい。長生きしたければ、だが」

 

 

リーダーである茶髪の男の言葉に、カメレオンは肩をすくめた。

 

私は男へ目を向ける。

どこか、覚えのある容姿をしている。

聞き覚えのある声だ。

いや、今朝……強盗している間に聞いた気がする。

 

 

『ところで、貴方は何者で?』

 

「何者かという問いに関して、ハッキリと答えられるモノを、私は用意していない」

 

『随分と哲学的だ』

 

「言葉の綾だ。言い難いだけに過ぎない」

 

 

曖昧な返事に、私は少し違和感を覚える。

覚えながらも、問いかける事しか出来ない。

 

 

『では、何と呼べば?』

 

「そうだな。私のことは──

 

 

男は眉間に皺を寄せたまま、机に足を置いた。

 

 

「『ドクター』と呼べ」

 

 

その呼称には、覚えがある。

今朝、スパイダー達が呼び合っている中に、そんな名前の(スパイダー)が居た気がする。

しかし、ドクターとは敬称のようなもの。

まさか、同一人物ではあるまい。

 

スパイダーマンが悪党と手を組むなど、考えられない。

 

しかし、随分と偉そうな、自尊心の強そうな男だ。

そういった男の相手は得意だ。

煽てて、敬い、私の望む選択をさせればいい。

 

 

『では、ドクター。このチームの名前は?』

 

「必要か?」

 

『必要でしょう。名は結束を強めるのだから』

 

「……それもそうだな」

 

『6人居る……折角なので、『不吉な6人(シニスター・シックス)』というのは如何か?』

 

 

それは伝統的な名前だ。

私の居る未来では、幾度となく結成されたヴィラン・チーム。

ドクター、ヴァルチャー、エレクトロ、クレイヴン、サンドマン、ミステリオ……カメレオンを別枠とすれば6人だ。

それに従った名前付けで、ゲンを担ぐようなものだ。

 

だが、ドクターは首を横に振った。

 

 

「その名は、敗者の名前だ。敗残兵の名を騙るつもりはない」

 

『では、どう名乗るつもりで?』

 

「我々はただの『不吉な6人(シニスター・シックス)』ではない。より優れた存在だ。だから、そうだな──

 

 

ドクターは冷めた目で、周りを見渡した。

 

 

「『より優れた6人(スーペリア・シックス)』、そう名乗ろうではないか」

 

 

その言葉には有無を言わせぬ、重みがあった。

 

 

 




Tōkonに時間を奪われてます。
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