【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#10 アナザー・スカイ Part1

ニューヨーク、クイーンズ。

治安が悪いと言っても、毎朝喧騒がある訳じゃない。

 

 

「ふ、あ……」

 

 

僕は欠伸を一つして、洗面所へ向かう。

水を手に、顔を洗って、鏡の前に。

 

鏡に映っているのはピーター・パーカー。

冴えない大学生だ。

 

歯磨きをしつつ、時計を見る。

時間に余裕はある。

 

服を脱いで、洗濯カゴへ。

外出用にシャツとズボン、靴下を穿いてリュックを用意。

 

朝食にベーグルを焼いて、ミルクを飲む。

テレビを流し見して、物騒なニュースがない事を確認。

 

 

「よし」

 

 

大学用のリュックを背負って……っと、忘れ物。

スーツを入れて、僕は外へ出た。

 

うーん、久々にトラブルのない朝だ。

 

昨日まで毎朝、偽物のスパイダーマンがトラブルを起こしていたからね。

正体は未来世界のミステリオだって分かったし、目的も分かった。

解決はしていないけど、心のモヤモヤは充分晴れてる。

 

でも、ミシェルを狙っているってのは……不安だけどね。

 

しかし、焦っても仕方がない。

僕はセプテンバー基金奨学金のおかげで大学へ行けているし、生活費も支払えている。

これがなきゃやってけないし、家賃すら払えない。

 

大学で勉強すること、それが今の僕の仕事だ。

ヒーロー活動のし過ぎで学業を疎かにはできない。

 

バスに乗って、大学へ。

正直、糸(ウェブ)でスイングした方が速いけど、こうやってバスに乗って普通の学生の生活をするのも大切だ。

 

 

 

 

さて、エンパイア・ステート大学に到着だ。

キャンパスに移動して、講堂へ。

バイオメカニクスの教授であるオットーの元へ。

 

 

「教授、手伝いますよ」

 

「ああ、すまないな。ピーター」

 

 

オットー・オクタビアス教授。

眼鏡を掛けた小太りの教授で、優しくて親しみやすい……悪くいうと、ちょっと生徒から舐められている。

講義後の研究だったり、学内の色々だったり……ヒーロー活動で授業をサボってしまう僕に対して、便宜を図ってくれる。

であれば、僕も何かしら手伝いをして返さなきゃならない。

 

講義に使う教本だったり、実験機材だったり、タブレットだったり。

そういったものを段ボールに入れて、台車で押す。

 

 

「ここでいいですか?」

 

「いつも悪いな、ピーター」

 

 

教授は身体があまり良くない。

最近は特に。

 

教授は神経性の麻痺を誘発する病気を患っており、身体能力に難がある。

重いものを持ち上げたり、運んだり……そういった事が苦手だ。

細かい作業は得意なんだけど、力が上手く入らないらしい。

 

だから、僕は教授の腕代わりをしてるって訳だ。

 

 

「教授、今日は講義の後に予定はありますか?」

 

「ん?ああ、ちょっとな。大学関係じゃないぞ?プライベートだ」

 

「あー……分かりました」

 

「だから、手伝う事もない。今日は帰って、彼女さんでも誘ったらどうだ?」

 

「ちょ……」

 

 

教授がニヤニヤと笑いながら僕を揶揄う。

付き合っている恋人がいるとバレてから、こうした揶揄いが多くなっている。

教授にも仲睦まじい妻がおり、人生の先輩としてアドバイスを!といった感覚らしい。

 

正直、鬱陶しいが、悪い意味で揶揄ってくる訳でもないので、甘んじて受け止めている。

 

 

 

そうして、講義が始まって、終わって。

昼過ぎ、講義の後片付けを手伝って……校舎から出れば──

 

 

「ほら、お金」

 

「分かったよ……前より高くなってないか?」

 

「提示した通りでしょ。前より多いんだし、高くて当然。違う?」

 

「くそ、そうだけどよぉ」

 

 

黒人の少女……それこそ、大学に居るには若い少女が、他の生徒からお金を受け取っているのが見えた。

そうして少女は、何かノートを生徒に返して……ほくほくとした顔でその場を後にした。

 

一見すると、違法な取引だ。

でも、実際は違法じゃない……違法じゃないけど、学生としてモラルに欠ける取引だ。

 

……僕はため息を吐いて、そんな少女に近寄った。

 

 

「リリ、また人の課題やって、金儲け?」

 

「あ、ピーター?酷い言い方だね。私はただ、人助けしてるだけ」

 

「お金を受け取ってるのに?」

 

「これは善意。それがお金という形になって、私に返ってくるだけ」

 

 

そう悪びれる様子すらないのは、リリ・ウィリアムズ……15歳。

飛び級で僕と同じ学年までやってきた、天才少女だ。

だけどまぁ、性格がちょっと……捻くれている。

 

 

「ピーター。相手は課題が終わって嬉しい、私もお金が貰えて嬉しい。ウィンウィンじゃん?」

 

「課題はその生徒の能力を上げるためだから、人にやって貰ったら身にならないよ」

 

「どーせ人にやって貰おう、なーんて考える奴が課題やっても、身になんかならないけどね」

 

「酷い言いようだなぁ、まったく」

 

 

リリとの出会いは半年前。

さっきと同様、リリは他の生徒から金を貰って課題をやってたけど……値段を黙って引き上げたのがバレて、年上の同級生とトラブルになってたんだ。

そこを助けてから、顔見知りって訳だ。

 

そんなリリと並んで歩く。

目的地が同じなのかもしれない。

 

 

「で?ピーターもやって欲しいの?」

 

「いや、いいよ。僕は自力でやるから」

 

「ふーん、ピーター相手だったら無料でも良いんだけど」

 

「悪魔の囁きだね。でも、自力でやるから。僕は」

 

「賢い生き方じゃないね、ピーター」

 

 

リリがそんな事を言うから、僕はため息を吐いた。

 

 

「というかさ、リリ。何でそんなにお金が必要なの?」

 

「将来への投資。私、大学を出たらビッグになるから……ハイテクアーマーとか作ってね」

 

「ハイテクアーマー?アイアンマンみたいに?」

 

「それよりもっと。将来はトニー・スタークよりも大金持ちになるんだから」

 

 

リリが鼻を鳴らした。

 

無謀だ、なんて言わない。

実際、リリは天才だ。

この歳で色々と凄い発明をして、幾つも特許を持ってるらしい。

学内でこっそり、アイアンマンみたいなスーツを作ってるのも僕は知っている。

 

彼女は口だけではないのだ。

……それはそれとして、一度痛い目に遭った方が良いような性格してるけど。

 

……っと、僕の目的地だ。

 

 

「じゃ、リリ。僕は図書館に予定があるから」

 

「あっそう?どうりで、変な所まで来たと思った……てか、物理の本より、電子の本の方がよくない?」

 

「……いや、図書館を利用すれば無料だからさ」

 

「それもそうか。ピーターは貧乏だもんね。かわいそ」

 

「はは……言い返せないや」

 

 

一通り僕を煽ったリリは、そのまま踵を返した。

 

 

「じゃ、またね。ピーター。困った事があれば、いつでも言って。お安くしておくからさ」

 

「リリの方こそ。僕の方は無料で助けてあげるよ」

 

「それはいいね。ピーターはヒーロー向いてるよ。なったら?」

 

「はは……なれたら、なってるよ」

 

 

そうして、リリは僕に手を振って離れていった。

……目的地は違うみたい。

態々、僕と話すためについて来たみたいだ。

 

まったく、彼女はこういうところがあるから憎めないんだよなぁ。

実際、悪い子じゃないし。

 

 

 

 

リリと離れた僕は図書館へと入った。

エンパイア・ステート大学図書館、そこには4000万近い本が収蔵されている。

本の数が多すぎて、目で探すのは大変だ。

 

カウンター近くにあるタブレットを使って、読みたい本を探す。

 

僕が探すのは──

 

 

「えっと……並行世界(マルチバース)について、っと」

 

 

そう、それが目的だ。

メイやマイルズ、ドクターの転移事件を解決するにも、前提知識を集めようというつもりだった。

もしかしたら、解決の糸口が見つかるかも知れないし。

 

そうして、タブレットに表示されたリストから良さそうな本を見つける。

 

 

『マルチバースにおける偏在と収束』

著者はリード・リチャーズだ。

この世界でもトップレベルに賢い科学者でありヒーローでもあるミスター・ファンタスティックの著書だ。

期待できる。

 

 

「えっと、Bの24の棚は……」

 

 

エンタメとは程遠い小難しい本が置いてある棚まで移動する。

好き好んで読む人は少なそうだし、本の値段も高そうだ。

 

……っと、あった。

 

目当ての本を見つけた僕は、その本を取ろうとして──

 

 

「「あっ」」

 

 

もう一人、その本を取ろうとしている人と鉢合わせた。

 

 

「えっと……君も『マルチバースにおける偏在と収束』?」

 

「そうだけど。貴方も?」

 

 

そこに居たのは黒髪の女性だった。

年齢は僕と同じぐらい……スレンダーで長髪、可愛いというより美人な女性だ。

 

 

「うん、僕も……って、あれ?君って学生じゃないの?」

 

 

僕は彼女の首元にある入館証を見つけた。

GUESTと書かれたそれは、学外の一般人がエンパイア・ステート大学に入る事を許可するものだ。

教授だけが発行できる、入館証だ。

 

 

「ええ、悪い?」

 

「いや、悪くないよ。気になっただけなんだ」

 

 

そんなものを身に付けているということは、つまり学外からのお客様ということ。

 

 

「それで、貴方が読む?私も読みたいのだけれど」

 

「いや、僕は遠慮するよ。学生だから、いつでも読めるし」

 

 

そう、お客様なのだから、いつまでも大学に居られる訳じゃない。

急ぎの用事って訳でもないし……まぁ、なるべく早く解決すべきだけど……彼女に譲った方が良いと僕は判断した。

 

 

「いいの?」

 

「いいよ?」

 

 

彼女は少し目を瞬かせて、仄かに笑った。

 

 

「感謝する……私はリズ。貴方、名前は?」

 

「え?僕?僕はピーター、ピーター・パーカー」

 

 

名乗ると、彼女……リズはまた目を瞬いた。

少し驚いた様子で、何故か納得した様子で頷いた。

 

 

「そう……ありがとう、ピーター。何かお礼が出来れば良いけど、生憎、手持ちがなくて」

 

「え?いいよ、大丈夫。そんな、お礼を言われるような事じゃないし」

 

 

リズの雰囲気が柔らかくなった。

先程までの警戒するような表情が嘘のように、親しげな笑みを浮かべてくる。

 

……僕、何かしたっけ?

読みたい本を譲っただけなんだけど。

 

そう思っていると、スマホに通知があった。

 

 

「ねぇ、ちょっと話していかない?」

 

「え、あー……ごめん、僕ちょっと用事があるから」

 

「そう……」

 

 

残念そうな顔をするリズから離れて、僕はスマホを手に取った。

ショートメッセージを確認すれば──

 

 

『エンパイア・ステート大学の近くまで来てる。良ければ、お昼でも一緒に食べない?』

 

 

というミシェルからのメッセージだった。

僕も返答する。

 

 

『いいね。丁度、予定が終わったから行くよ』

 

『じゃあ、南側の正門で待ってる』

 

 

そうして、ショートメッセージを送ってると──

 

 

「貴方、図書館では電子機器の利用は厳禁よ」

 

「あ、すみません……」

 

 

司書に怒られてしまった。

持ち出し不可の本を写真に撮る人が居たらいけないから、って禁止されているのだ。

まぁ、それは建前で、クーラーの効いた図書館で、スマホ弄り続ける生徒が多かったから、ってのが通説らしいけど。

 

視線を戻す。

リズが席に座り、本を手に僕をチラチラと見ている。

彼女であるミシェルを待たせて、他の女性と会話するのはダメだ……ってグウェンも言ってたし。

 

しかし、何がそんなに興味を引くのだろうか。

僕ってそんな魅力的な男性じゃないし……ハリーみたいなイケメンならまだしも。

 

 

「じゃ、これで僕は」

 

「うん、またね」

 

 

またね?

またね、か。

次も会えると確信しているような言い方だ。

また大学に来るのだろうか?

 

不思議に思いながら、僕は図書館を出た。

そして、キャンパス内を歩いて正門まで来た。

 

 

そう、ミシェルとの待ち合わせ場所だ。

なのだけれど……明らかに一箇所、視線が集まっている場所がある。

 

……はぁ、あの場に僕、向かわなきゃいけないのかな。

意を決して、飛び込む。

 

 

「……ごめん、ミシェル。待たせたかな?」

 

「ううん、今来たとこ」

 

 

ミシェルは美人だ。

昔は少し幼さを感じさせる美少女って感じだったけど……まぁ、今も実年齢より若そうだけど、大人の女性になった。

その、女性的な丸みもあるし……異性からの目を惹きつけてしまう。

 

大学生なんて年頃なんだから、それはもう当然だ。

 

しかし、そんなミシェルの横に冴えない僕。

周りからの目から、困惑が見て取れる。

 

 

「って……メイ?」

 

 

というか、ミシェルの背後にメイも居た。

……メイは美人ってより、美少女なんだよな。

こうして並んでいると、美人姉妹って感じだ。

髪色は似てないけど、何となく、顔の造形は似てるし。

あれかな、美人と美人は美の完成系だから似るってやつ?

 

 

「遅いよぉ、ピーター。お腹減ったよ〜」

 

「ご、ごめん?って、何でメイが?」

 

 

僕が訊くと、メイではなくミシェルが口を開いた。

 

 

「ちょっと買い物をね。必需品だけじゃストレスも溜まるから」

 

「買ってもらったの」

 

「へぇ」

 

 

メイが手元の紙袋を見せる。

何を買ったのだろうか。

 

そう思っていると、メイが袋に中を見せてきた。

 

 

「これはヘッドホン……音楽聴きたいからね。これはプリペイドカード……スマホに音楽をダウンロードするんだよ」

 

「へー、メイって音楽が好きなの?」

 

「まぁね。ピーターはルナ・スノーって分かる?」

 

「ルナ・スノー?ヒーローみたいな名前だね」

 

「……分かってないのは分かったよ」

 

 

メイが少し落胆したような顔で、首を横に振った。

ため息まで吐かれた。

ひどい。

 

少し落ち込んでいると、ミシェルが僕の肩を叩いた。

 

 

「で、ピーター。お昼は外食でいいよね?」

 

「え?あ、いいよ?」

 

「なら、行こう」

 

「よーし、ごーごー!」

 

 

メイがふんふん鼻を鳴らしながら、僕とミシェルの間に挟まってきた。

……ミシェルと僕が近付くのを阻止したいのだろうか?

そう思ったけれど、何処か嬉しそうだ。

 

……そういえば、メイが言っていたような──

 

 

『私の世界では、結婚してたよ。ピーターと、MJは』

 

 

って……メイはこの世界の未来でもある並行世界(マルチバース)から来た。

つまり、僕は将来、ミシェルと結婚する可能性が高いという事だ。

 

 

「…………」

 

 

そもそも、その予定だったけれども。

他人から肯定されるってのは、それだけで嬉しいものだ。

少し笑みを浮かべていると、メイが僕へ視線を向けた。

 

 

「なに、ピーター。ニヤニヤしてて、気持ち悪ーい」

 

「え?あ、あー……ごめん?」

 

 

歳下の女の子に気持ち悪いと言われてしまった。

少し、ショックを受けてるとミシェルが笑みを浮かべた。

 

 

「大丈夫、ピーターは気持ち悪くないよ」

 

「あー、ミシェルったら。甘やかしちゃダメだよ」

 

「甘やかしてない」

 

「……恋は盲目って言うもんねー。うげー」

 

 

僕を擁護するミシェルと、僕を弄ろうとするメイ。

そんな二人を連れて、大学から離れる。

 

……周りの視線がちょっと痛い。

 

でも、幸せだった。

メイと出会って、まだ数日だけど……親しみを感じている。

こうして一時でも、平和な中、3人で交流できるのは心休まるものだ。

 

この一瞬ぐらい、並行世界(マルチバース)とか復讐者(ミステリオ)とか、そういった事は忘れていたい。

 

僕はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は手元にある本のページを捲る。

『マルチバースにおける偏在と収束』……そのタイトルに相応しい内容だ。

 

並行世界(マルチバース)において、極めて近しい時間・空間・法則を持つ世界は引かれ合う。

一つになろうと近づいていく。

もし、意図的に、世界の壁へ干渉できるとしたら?

望む世界、望む時間の物を呼び出す事が出来る。

それこそが将来、タイムマシンを開発できる可能性となる。

……とか。

 

読みながら重要な項目を脳に入れていく。

しかし、肝心な、私の知りたい情報はない。

 

少し落胆していると、向かいの席に人が座った。

 

 

「精が出ますね、リズ」

 

「……マイケル・ウォーレン」

 

「教授をつけてください。少なくとも、今は」

 

「……チッ」

 

 

少し鬱陶しく感じる。

このマイケル・ウォーレン……いや、教授から私は入館証を貰っている。

 

 

「それで、何か成果は得られましたか?」

 

 

そう言われて、先程出会った男……ピーター・パーカーを思い出す。

 

 

「いや、何も」

 

 

しかし、口には出さない。

この男に教えても、面倒ごとにしかならない。

 

 

「そうですか……仕方ありませんね。それで、まだここに?」

 

「……いや、もういい。居座っても、得られる情報はないだろう」

 

 

私は手に持っていた本を返却棚に戻して、教授と図書館を出る。

視線を逸らして、また教授へ戻すと……別人になっていた。

 

初老の男から、若い男へ。

別人のように。

 

 

「……何故、姿を変えた?」

 

「貴女、気付いてないかもしれないですけど目立つんですよ。教授と生徒で並んでいると尚更ね」

 

「そうか?で、次は何と呼べば?」

 

「何でも良いですよ?」

 

「じゃあ、『カメレオン』」

 

「それはやめてください」

 

「……フン」

 

 

目の前にいる男は、碌でもないクズだ。

私も同類ではあるが、軽蔑する程の度を超えたクズだ。

 

カメレオン。

人に変装する技術を持つ男。

人の姿を真似るだけ、ではない。

その姿を見た相手が望む姿、立ち振る舞いを主軸として、自らの目的のために他人を操る。

 

技術だけの男ではない。

人の心を理解した上で、踏み躙る。

 

仲間といえど、油断できない男だ。

 

 

「しかし、私は貴方の望みを叶えた訳です。成果が得られなかったとしても」

 

「回りくどい。言いたい事があるなら、率直に言え」

 

 

カメレオンと長々と会話をするつもりはない。

この男と会話すること、それこそがリスクだ。

 

 

「では、一つ。お使いをお願い致します」

 

「私は子供ではない。少ない駄賃で何でもするほど、落ちぶれてはいないが?」

 

 

安く見積もられたくない。

それはちっぽけなプライドというより、自分の身を自分で守るために必要な事だ。

足元を見られては、寄り添う壁もないこの場所で立ち続ける事は出来ない。

 

 

「故郷に帰りたいのでしょう?」

 

 

だが、そんな私の強がりをカメレオンは見抜いている。

 

 

「……チッ、碌な死に方しないぞ。お前」

 

「それは貴女も。屑には屑の死に方があるでしょう。ですが、今はまだ死にたくはない……違いますか?」

 

 

話していると、苛立つ。

手のひらの上で転がされているような不快感。

それでも私は、目的のために……この男の言うように踊るしかない。

 

足を止めて、振り返る。

カメレオンにつられて、人影のない建物裏まで来ていたようだ。

 

 

「要件を言え、『カメレオン』」

 

 

私、リズ……エリザベス・リズ・トゥームスの言葉に、カメレオンは笑みを深めた。

 

 

「なに、貴女が得意な空の仕事ですよ……『ヴァルチャー』」

 

 

邪悪で、歪な笑みを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ミシェル。なんでここに?」

 

 

僕がそう問いかける。

 

ここは僕がよくいくサンドウィッチ屋だ。

複数人で並んで食べるような店ではない。

 

 

「メイが行きたいって言うから」

 

「え?そうなの?」

 

 

メイに目を向ける。

サンドウィッチを頬張っていた。

 

そんなメイが僕に視線を戻した。

 

 

「んもんぐもんももぐも?」

 

 

何言ってるんだ。

僕がそう思っていると、ミシェルがメイの背中をつついた。

 

 

「口に物を含んだまま喋らない」

 

「んぐ……ごめんなさーい」

 

 

うーん、やっぱり何だか歳の近い姉妹みたいだ。

メイは僕を相手にすると凄く生意気なのに、ミシェルの言う事には素直に従っている。

同姓特有の親しさもあるのだろう。

距離も近いし。

 

そう考えていると、メイが僕に視線を戻した。

 

 

「何でここにって話だっけ?ここのサンドウィッチが美味しいって聞いてたから」

 

「そうなんだ……未来でも繁盛してるのかな?」

 

 

後半は小声で。

メイが未来人だなんて、周りに聞かれたら僕が異常者扱いされちゃうからね。

 

 

「ううん、売上不振で潰れてるよ」

 

 

だというのに、メイは隠さずにそんな事を言う。

ギョッとして周りを見渡したけど、聞いてた人は居なさそうだ。

 

そんな僕とは対照的に、ミシェルは少しショックを受けているようだ。

 

 

「ここの生クリームサンド、美味しいのに」

 

「なら、ミシェルが買い支えなきゃね。SNSにレビューでも投稿したら良いんじゃない?」

 

「SNS?やってない」

 

「え、あー……確かに。やってなさそー。ピーターは?」

 

 

急に話題を振られた。

 

 

「え?僕?僕は……やってないけど」

 

「二人とも本当に現代人?」

 

 

未来人には言われたくないよ。

そう思いつつ、僕はBLTサンドを口に運んだ。

 

いつも通りの味に、僕は笑みを浮かべた。

 

 

 




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