【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#11 アナザー・スカイ Part2

ライカーズ島、という場所がある。

ニューヨークのイースト・リバーに存在する島であり、外界から遮断された刑務所である。

危険な重犯罪者を収監するための島だ。

 

だが、超能力(スーパーパワー)を持つヴィランを収監するには力不足だ。

一般的な重犯罪者を収監するか、スーパーヴィランを一時的に収監する目的でのみ使用される。

 

さて、私は今、そんなライカーズ島に来ている。

 

 

「ただの囚人移送だというのに、同行するのですか?」

 

『構わない。どうせ、非番だ』

 

 

黒いマスク、黒いスーツ。

『S.H.I.E.L.D.』のエージェント、『ナイトキャップ』として……だ。

 

 

「ははぁ、奴は確かに普通ではないですが、装備込みでしょう?何か気になる事でも?」

 

『念の為だ』

 

 

私が来た理由、それはある囚人を超能力(スーパーパワー)持ち用の刑務所、『ラフト』へ移送するためだ。

その囚人の名前は──

 

 

「スコーピオンですよ?」

 

『ただのスコーピオンではない』

 

「そうなのですか?」

 

『ああ、理由は言えないが』

 

 

看守長の言葉に返答しながら、外の様子を確認する。

『S.H.I.E.L.D.』が所有する大型輸送ヘリ。

名前を、『クインジェットJr.』。

Jr.なのに大型というのは、何とも違和感があるが、とにかく大型だ。

 

目的は別世界のスコーピオンをライカーズ島から、ラフトへと輸送すること。

そして、同時にスコーピオンの装備をラフト内にある研究施設に輸送する事だ。

今回は他にも、いわゆるスーパーヴィランの装備が幾つか載っている。

 

輸送機を飛ばすのには金が掛かる。

なるべく一度で多くの意味を持たせたいらしい。

 

 

『……………』

 

 

輸送機にコンテナが幾つか詰め込まれ、拘束された人間も連れて来られた。

別世界のスコーピオンだ。

 

この世界のスコーピオンとどことなく似た風貌ではある。

顔に刺青のあるスキンヘッドの強面だ。

 

そんな彼は全身に拘束具を付けられている。

奴はスーツを着ていなくても、常人の何倍もの力を持ち、何倍もの頑丈だからだ。

 

そんな男が、刑務官によってクインジェットJr.に詰め込まれた。

 

 

『では、そろそろ私も行こう』

 

「はっ、お気を付けて」

 

 

看守長に挨拶をして、私はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、クインジェットJr.の内部。

コンテナが幾つか並ぶ中、私はスコーピオンと向き合っていた。

 

 

「お前……随分と厳ついアーマーを着てるな。俺と同郷か?」

 

『違う』

 

「そうかよ……でも、俺の言っている意味は分かるんだな」

 

『……チッ』

 

 

今の私はナイトキャップだ。

そして、この男と対面した時は素顔を晒していた。

今の私と、あの時の私を紐付けられていないのだろう。

 

 

「なら、分かるだろう?俺はここの出身じゃあない。何も持ってないんだ。生きるために金をくすねたからって、こりゃないぜ?」

 

『お前の立場がどうであろうと、何をしてもいい免罪符にはならない』

 

 

私の言葉に、スコーピオンは呆れたように苦笑した。

 

 

「冷たい奴だ。心の中も、その黒いアーマーみてぇに、鉄で出来てんだろ」

 

『これは鉄じゃない』

 

「じゃあ、カーボンか?」

 

『違う』

 

「お手上げだ。正解はなんだ?」

 

『言う訳ないだろ、少し黙れ』

 

 

そう言いつつも、少し悩む。

この男は確かに悪人だ。

だが、別世界に連れて来られた被害者でもある。

許す訳ではないが、同情はできる。

 

 

『……お前を元の世界に戻す算段が立てば、返してやる』

 

「おー、おー、お優しい事で。でも、なんにも解決策は見つかってないんだろ?」

 

 

図星だ。

 

 

『何故、そう思う?』

 

「帰り方が分かってんなら、こうやって輸送してない。分かってなくて、当面の問題を先送りするため、もっと厳重な刑務所に送る。だろ?」

 

『…………』

 

 

やはり、このスコーピオンは馬鹿ではないらしい。

いや、別世界に来たからといって、派手な強盗をしてしまう程度の馬鹿ではあるのだが。

 

 

「黙ってんなら、正解だろ?」

 

『……お喋りが過ぎたな。お前が望むなら、その拘束に口枷を足しても良いんだぞ』

 

「おっと、そりゃ嫌だ。黙るしかないのかねぇ」

 

 

スコーピオンがへらへらと悪態を吐いている。

舐められてる……のだろうか。

 

スコーピオンはクインジェットJr.を見た時も、鼻で笑っていた。

スターク社製の最新ジェット機であるにも拘わらず、だ。

 

あの近未来的なサソリスーツを所有していることから、彼の世界は科学技術が発展した成果だという事が分かる。

 

私達のことを、文明の進んでいない原始人扱いしている……とまでは言わないが、見下している可能性は高い。

 

そんな事を考えていると、格納庫のランプが緑から赤色に変わった。

即座に私は立ち上がり、操縦室の方へと足を向けた。

 

 

『何があった?』

 

 

中から出てきた連絡係に問えば、険しい顔をして頷いた。

 

 

「は、はい。当機に追従して、飛行する物体があります」

 

『……ミサイルか?』

 

「いえ、ミサイルにしては熱量が少なく……有人飛行機にしては小さい物体です」

 

『見せてみろ』

 

 

連絡係からタブレットを手渡されて、確認する。

高速で飛行するクインジェットJr.の背後から、凄まじい速度で何かが追従している。

 

直線軌道ではない。

こちらの進行方向に合わせて、先回りするように移動している。

 

そして確かに、爆弾のような熱量はない。

ヘリのよりも速い。

戦闘機よりも遥かに小さい。

 

まるで、人間が飛行装置だけを装備して、追いかけて来ているような──

 

 

『そうか……』

 

 

私は理解した。

追い掛けて来ているのは、常識の範疇の外にいる相手だと。

ファルコンのように飛行装置を装備した、敵なのだと。

 

 

『パイロットに報告、追従する相手を振り切りつつ、ラフトへの着陸を急げ。管制にも連絡、不時着の可能性がある事を伝えろ。私への報告は逐次、無線で送れ』

 

「わ、分かりました!」

 

 

連絡係に指示をして、私は格納庫へ戻る。

相手が何者かは分からない。

だが、相手の目的は分かる。

 

 

「おうおうおう、なんだなんだ?トラブルか?」

 

『黙れ』

 

「飛行機すらまともに飛ばせないのか?勘弁してくれよ」

 

 

煽るようなスコーピオンの言葉には、僅かな困惑が含まれていた。

つまり、これはスコーピオンからしても想定外だ。

 

なら、目的はスコーピオンではないのか?

積荷なのか?

 

いや、割り切るには早い。

スコーピオンが相手を知らなくても、相手がスコーピオンを知っている場合がある。

 

私は格納庫内にある、バックパックを背中に背負う。

緊急時に使用できるよう、私のアーマーにある関節部とジョイントして固定する。

 

現在、高度は3万フィート。

落下すれば、いくらアーマーを着ていても死は免れない。

 

私は酸素吸引用のマスクを手に取り、それをスコーピオンに投げつけた。

 

 

「ちょ、おまえ!何だこれ!?」

 

『良いから付けろ。死にたくなければ──

 

 

瞬間、クインジェットJr.が揺れた。

 

それと同時にスコーピオンは慌ててマスクを付けた。

私は……視線を振動の元、上に逸らした。

 

 

『ナイトキャップさん!飛行物体、当機に付着しました!現在、格納庫直上に──

 

 

言われなくても、分かっている。

目に見えているからだ。

 

 

「な、なんだ?なんだ!?」

 

 

格納庫の天井。

私の頭上、その合金の板が熱線によって切断されていくのが見えていた。

 

不恰好に四角く、人が通れるように。

左右、2本の光の線が天井を焼き切っていく。

 

その様子を見ても、私は手出しできない。

ただ、腰に装備していたパルスガンを手に取って、眺める事しか出来ずにいた。

 

 

そして、天井が焼き切れた。

直後、四角く切断された合金の板が床へと落ちた。

 

金属の衝突音が鳴り響く中、そいつが格納庫に降り立った。

 

 

『…………』

 

 

黒に極めて近い、深緑のアーマー。

パイロットスーツのヘルメットに似て、ゴーグルに似たバイザーを装備した……猛禽類のようなマスク。

加工方法も分からない、近未来的な装備。

 

そして……背中に機械の羽を格納していた。

展開はしていないが、その大きさは予測できる。

 

 

「ヴァ、ヴァルチャー!なんだよ、おめぇも来てたのかよ!」

 

 

スコーピオンの言葉で、確証を得た。

奴は『ヴァルチャー』だ。

 

だが、私の知るヴァルチャーとは違う。

ヴァルチャーは禿げた老人で、古びた飛行スーツを着た老人だ。

こんなハイテク装備をしたヴィランではない。

 

つまり、この『ヴァルチャー』は別世界のヴァルチャーだ。

このスコーピオンの居る世界、ハイテク装備の存在する世界を故郷とする異世界のヴァルチャーなのだ。

 

そう警戒する私に対して、ヴァルチャーが目線を向けた。

 

 

『貴様が何者かは知らん。だが、退け。目的を達成すれば、命は取らない』

 

 

機械のような声色だ。

私のように正体を隠す、男とも女とも取れない声色。

 

 

『断る。交渉をしたいのならば、もう少し情報を開示し、それ相応の態度を取るんだな』

 

『交渉だと?酷い勘違いだ。私はこれを、恐喝と呼ぶ』

 

 

瞬間、ヴァルチャーが機械の翼を広げた。

格納庫は幅7メートル、奥行きは20メートルほどある。

 

その幅の大部分を占領するほどに大きな機械の羽だ。

 

 

『……っ』

 

 

そんな翼は金属で出来ていた。

両腕とドッキングして、体の一部のようになっている。

 

 

『その装備、剥いでやろう』

 

 

瞬間、翼に装備されている金属の羽が私に向けて射出された。

 

 

「う、うわぉおおっ!?」

 

 

スコーピオンが悲鳴を上げて、格納庫の壁で縮こまっている。

 

対して私に隠れる場所はない。

積荷のコンテナは私より後ろ……今から目前に迫る金属の羽を避けるため隠れるには……時間が足りない。

 

私は即座に、姿勢を低くして……ヴァルチャーの正面でしゃがんだ。

あの金属の羽は、左右の翼から射出された。

つまり、正面が最も手薄である。

 

腕を十字に組み、顔面と体を守るようにして……羽を受け止める。

 

 

『ぐっ……』

 

 

衝撃を感じ取る。

殆どはヴィブラニウム製のアーマーで受け止めている。

だが、あの羽の質量は弾丸の比ではない。

受け流しきれない重みは、私の体を貫通し、痛みとして蓄積させた。

 

 

『ほう……そのアーマー。見せ掛けだけではないようだ』

 

 

対して、ヴァルチャーは声色も変えず、余裕そうに正面に立っていた。

なのだが──

 

 

「て、てめぇっ、ヴァルチャー!俺を殺す気か!?」

 

『そんなつもりがある訳がない。死なれたら困る』

 

「だ、だよな?」

 

『だが、死んだら、その時はその時だ。貴様のような屑が死んでも、仕方あるまい』

 

「ふ、ふざけんな!クソ野郎!」

 

『自分の身は自分で守れ。それがルールだ』

 

 

二人の仲は悪そうだ。

スコーピオンも冗談ではなく、本気で怒っているように見える。

 

だというのに、ヴァルチャーの発言から……スコーピオンを助けに来たのだと分かる。

つまり、奴の単独犯ではない。

何者かが依頼し、何らかの目的を持って、ヴァルチャーはこの場に居るという事だ。

 

 

『さて、話を戻すとしよう。私の力は今ので分かった筈だ。そこのクズと、その装備を持ち帰れば私は満足する』

 

『…………』

 

『抵抗を諦め、その場に立ち尽くすのであれば……ここの乗員、全ての命を保証しよう』

 

 

ヴァルチャーはそんな事を口にする。

これは脅しだ。

だが、意図は分からない。

 

奴は確実に、己の戦闘能力に自信を持っている。

私を相手にしても苦にならないと考えているだろう。

 

であれば、ああして降伏を勧告しなくとも、目的は達成できるだろう。

だというのに、降伏勧告をする。

命を守るように勧めてくる。

 

そこから導き出される答えは……人殺しを忌避しているのか?

決めつけるには早いだろうが、奴の言動に私も覚えはある。

 

誰があのように話したか?

過去の私だ。

 

私はよく、殺しを目的としない仕事では、ああして降伏勧告をしていた。

目の前のヴァルチャーからも、同類の臭いがする。

 

だが、だとしても。

そうであったとしても、そうでなかったとしても。

 

私の返答は一つだ。

 

 

『断る。お前のような奴に屈すれば、私は顔向け出来なくなる』

 

『ふむ。誰に、と聞くのは野暮か……だが、その選択、地獄で後悔するなよ』

 

 

瞬間、ヴァルチャーの足の先、鉤爪のような部位が震え出した。

先端は赤く、熱せられたように発光している。

事実、床が黒く焼け焦げているのが見えた。

 

即座に、私はパルスガンを構えた。

同時に、ヴァルチャーが私へと飛び掛かった。

 

 

『ふんっ!』

 

 

ヴァルチャーはその金属の翼を壁に突き刺し、飛び上がり……私に向かって足を突き出した。

パルスガンを避けながら、頭上から奇襲を狙ったのだ。

 

 

『っ!』

 

 

同時に、私はパルスガンを頭上に向けた。

奴の狙いは分かっていた。

 

発砲。

光と振動がヴァルチャーのアーマーを貫いた。

 

 

『……なにっ!?』

 

 

息を飲む声。

ヴァルチャーのアーマーは破壊されていない。

だが、肉体内部に衝撃が走ったのだろう。

 

パルスガンは非殺傷のテーザーに近い。

物を破壊するには、通常、出力が足りない。

だが、防弾防刃装備を貫通し、肉体にダメージを与える事が容易である。

 

振動と衝撃。

二つの性質が、ヴァルチャーのアーマーを貫いたのだ。

 

だが、ヴァルチャーにダメージが入ろうと、その攻撃を止める事はできない。

 

赤く熱せられた鉤爪が私に迫る。

 

 

『チッ!』

 

 

想定の範囲内だが、舌打ちの一つも出る。

私は床を蹴り、ヴァルチャーの居た場所とは反対に転がる。

 

直後、私のいた場所に赤い鉤爪の痕跡が残った。

 

避けて居なければ……腕か足、どちらかに致命的な損傷があっただろう。

 

 

『貴様……』

 

『原始人だと思って侮ったか?自惚れない方がいい』

 

 

私のパルスガンは、スターク社製の装備だ。

天才発明家、トニー・スタークが開発し、私用に調整してくれた一品だ。

ヴァルチャーやスコーピオンの装備が幾らハイテクだろうと、見劣りする物ではない。

 

 

『……そうだな。これは私の油断だ。反省しよう。貴様、名前は?』

 

『言う必要があるのか?』

 

 

私がそう答えると、同時に──

 

 

「そいつはナイトキャップだ!そう呼ばれているのを見た!」

 

 

スコーピオンが口にした。

何ともムカつく奴だ。

 

 

『…………』

 

「……へっ」

 

 

私がアーマー越しに睨むと、スコーピオンは嘲るような笑みを浮かべた。

 

 

『だ、そうだな。ナイトキャップ……覚えたぞ』

 

『覚える意味があるのか?』

 

『本気で屠る相手の名ぐらい、覚えてやるのが礼儀というもの。それが私のジンクスだ』

 

 

瞬間、ヴァルチャーの翼、その両端が赤く発光した。

何をする気なのか、分からない。

 

だが、拙い事が起きるのは分かった。

 

 

「てめっ、ヴァルチャー!それは、まずっ──

 

『当たってくれるなよ、ナイトキャップ』

 

 

瞬間、光が走った。

赤い閃光が収束し、レーザーとなり……私の側、左右へと放たれた。

 

それは熱線だ。

 

クインジェットJr.の上部を焼き切った、レーザー光線だ。

 

格納庫の外壁は厚い。

熱線を短時間浴びた程度では焼き切れないだろう。

だが、私に当たればどうなるか。

 

 

『行くぞ!』

 

 

ヴァルチャーは声と共に、腕を動かした。

そして、翼が連動した。

故に、レーザー発射装置も動いた。

 

レーザーが左右から、暴れるように反射する。

壁を、床を、天井を、熱線が切り刻むように乱舞する。

 

拙い。

短時間の直撃ならば私のアーマーで耐えられるだろう。

 

だが、確実にダメージが残る。

アーマーに隙間はないが、関節など薄い部位は存在する。

頭部のマスクなども、そうだ。

 

そこにレーザーが命中すればどうなるか。

考えるまでもない。

 

 

『く、っ!』

 

 

放たれたレーザーをしゃがんで避ける。

壁を蹴り、飛んで避ける。

前へ、後ろへ、避け続ける。

 

 

「や、やめろ!今すぐやめやがれ!」

 

 

スコーピオンの悲鳴が聞こえるが、気にかける余裕もない。

 

 

『存外、しぶといな。だが、これはどうだ?』

 

 

直後、レーザーの出力が上がった。

光はより強く、熱はより強く。

 

壁や床、屋根へ甚大なダメージを与えた。

 

だが、何よりも……私の背後。

格納庫の荷下ろし部分の壁、その接合部が焼き切れて、開いてしまった。

 

 

『……っ!?』

 

 

後ろに引っ張られる。

振り返れば、雲が下に見えた。

 

高高度、気圧差によって引っ張られているのだ。

 

 

「う、うおおおおおッ!?」

 

 

スコーピオンは金属パイプにしがみつきながら、酸素マスクを口元へ押さえて居た。

どちらの手も離せば、死ぬ事は目に見えている。

 

私も同じだ。

足元だけでは、踏み止まれない。

 

腰から2本、ナイフを抜いて、両手で床へ突き刺した。

そうでもしなければ、私はクインジェットJr.から投げ出されてしまう。

 

 

『勝負あったな。私の勝ちだ、ナイトキャップ』

 

 

ヴァルチャーの声に、私は顔を上げた。

既にレーザーの照射は止めていた。

 

その足の鉤爪を床へ突き刺し、翼を収納して……私を見下ろしていた。

 

 

『……くっ』

 

『必要な物を貰っていく。貴様は精々、その場でそうして這いつくばっているといい』

 

 

そう言いつつ、ヴァルチャーは私へと一歩近寄った。

トドメを刺す……つもりはないだろう。

そのつもりがあれば、熱線で私を攻撃している。

 

私の側にある固定されたコンテナが目的だろう。

あのコンテナにはスコーピオンの装備がある。

 

ヴァルチャーの目的は、その装備とスコーピオン本人なのだ。

 

 

「な、なに甘い事を言ってんだ。ヴァルチャー!はやくそいつを殺っちまえ!」

 

『騒ぐな、スコーピオン。奴を屈服させたのは私の成果だ。お前が口出しする事じゃない』

 

「そいつを油断だって言うんだ!バカを見るぞ!」

 

『黙れ。貴様に罵られる筋合いはない』

 

 

ヴァルチャースコーピオンが言い争っている。

 

……私から集中が逸れた。

その瞬間、私は決断した。

 

一か八か。

私は床を全力で蹴り、ナイフを手放した。

 

 

『なっ』

 

 

ヴァルチャーが反応するより早く、私はヴァルチャーに飛びかかった。

 

 

『チッ!』

 

「そらみろ!」

 

『ええい、うるさい!黙っていろ!』

 

 

そして、鉤爪の反撃を貰わぬよう腰へとしがみついた。

 

 

『貴様も、離せッ──

 

 

その衝撃で、ヴァルチャーの鉤爪が床から離れた。

つまり、それが指し示す答えは──

 

 

『くあっ!?』

 

『ぐ……っ!』

 

 

私とヴァルチャーは、クインジェットJr.から投げ出された。

 

 

高度3万フィート。

超上空で私とヴァルチャーはきり揉むように落下して行く。

 

上が下で、右が左。

頭上に地面、足元に雲。

左右に雲、足元に地面。

 

上下左右が入り乱れる中、それでも私はヴァルチャーにしがみついていた。

 

 

『貴様、死ぬ気か!?』

 

『死ぬ気はない……っ、お前をあの場から遠ざけるには、これしかなかった……!それだけだ!』

 

 

スコーピオンは悪党だ。

であれば、スコーピオンを助けようとするヴァルチャーも悪党だ。

何者が裏で糸を引いていようと、守るべきもののために私は戦わなければならない。

 

例え、どれだけ情けない戦いだとしても。

泥臭くとも。

 

私の名誉より、隣人の安寧を守る事が優先される。

 

 

『チッ!』

 

 

ヴァルチャーが翼を展開した。

空中で制御を整えるために、ジェットも噴射した。

 

次第に重力が下にくるように、姿勢が制御されて行く。

 

だが、クインジェットJr.は既に遠い。

追いつくには一苦労だろう。

 

 

『邪魔だ……!』

 

『だろうな……!邪魔をしているからな』

 

 

この場で、この空の上で。

可能な限り時間を稼ぐ。

 

そうすれば、クインジェットJr.はラフトに着くだろう。

そして、それは私の勝ちを意味する。

 

あそこには『S.H.I.E.L.D.』特製の迎撃装置がある。

ヴァルチャーが如何に強かろうと、対空砲やミサイルの雨を掻い潜るのは困難だ。

 

その事に気付いたヴァルチャーは、即座にクインジェットJr.を追いかけ始めた。

だが、私という重しがそれを許さない。

 

 

『ふざけた真似を……!』

 

 

心底苛立った様子で私を睨んだ。

だが、それでも……おかしい。

 

おかしいのだ。

 

私は想定して居た。

この状況、その足の鉤爪で私を攻撃すると思って居た。

 

私を蹴り飛ばし、クインジェットJr.を追いかけると思って居た。

だが、結果はどうだ?

 

忌々しげに睨みながらも、私を振り落とさずにクインジェットJr.を追いかけている。

 

 

『……お前』

 

 

瞬間、ヴァルチャーが雲の中へと突入した。

 

 

『ぐ……っ』

 

 

激しい嵐の中のように、風が叩き付けられる。

ヴァルチャーは手慣れた様子で、その中を突き進んでいく。

 

だが、しがみついているだけの私には……その力がない。

 

そもそも、アーマー同士が接触しているのだ。

いくら私の手甲に、武器を持つための滑り止めがついていようと、相手もアーマーなのだ。

 

空気抵抗を少しでも抑えるためだろう。

滑らかなヴァルチャーのアーマーは、掴みづらい。

 

よって、この結果は必然となる。

 

 

『ぐ……あっ』

 

 

私は空中に投げ出された。

ヴァルチャーに蹴り飛ばされた訳ではない。

ただ、手が滑っただけだ。

 

落下して行く。

 

雲を突き抜けて、地面へと。

 

 

『……っ!』

 

 

即座に、私は装備していたバックパックを展開した。

クインジェットJr.に搭載していたバックパック、それは非常用のパラシュートだ。

キャノピーが展開されて、私は突き上げられるような衝撃を感じた。

 

落下速度が落ちて行く。

これで、このまま降りて行けば……無事に済むだろう。

 

そう、妨害さえ無ければ。

 

 

『…………』

 

 

ヴァルチャーが私を見下ろして居た。

雲の中から出て、私を追い掛けて来たのだ。

 

そして、パラシュートを展開した私を見ている。

 

ここで、奴の鉤爪でパラシュートを少しでも引っ掻かれたら……私は地面へ真っ逆様だ。

アーマーで衝撃を逃す事もできず、即死するだろう。

 

 

『…………』

 

 

宙吊りにされた死刑囚の気分だ。

執行官であるヴァルチャーの気分次第で、私の死は確定する。

 

だが、しかし──

 

 

『……フン』

 

 

ヴァルチャーは鼻を鳴らして、クインジェットJr.を追うべく出立した。

ジェットから放たれる青い光を、私は見送る事しか出来なかった。

 

 

『……はぁ』

 

 

何故、ヴァルチャーが追い掛けて来たのか。

鈍い私でも分かる。

 

奴は私が落下死しないように、回収しに来たのだ。

戦っている相手である私が、死なないように。

目的よりも、私を殺さない事を優先したのだ。

 

完全な敗北だった。

確かに、ヴァルチャーに有利な高高度の戦闘だった。

だが、言い訳にはならない。

 

例えどんな状況であっても、為すべき事を為す。

それが一流のエージェントであり、ヒーローというもの。

 

私はまだまだ未熟という事だ。

 

 

『…………』

 

 

私はゆっくりと、落下しながら……ヴァルチャーを見送った。

見送る事しか出来なかった。

 

数分後、無線にて。

スコーピオンと貨物を奪取された事を報告された。

 

その時はまだ、私は地面にすら足をつけていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、カマラ・カーン!

ニュージャージー州、ジャージーシティ在住!

ヒーロー好きの女子高校生!

 

でも、フツーの女の子じゃないよ!

私はね──

 

 

「そこまでだよ!貴方達の悪事は、この私が見逃さないんだから!」

 

 

スーパーヒーローなんだから!

 

 

「な、誰だ、ガキンチョ!変な格好しやがって……!」

 

「変な格好じゃないし!」

 

「うるさい、ヒーローごっこは家でやれ!遊びじゃねぇんだぞ!」

 

 

……まぁ、知名度はまだ無いけど。

 

 

「そうは言われても、悪事は見逃さないよ!貴方達が麻薬の密売人だって知ってるんだから!」

 

 

私はミズ・マーベル!

恐れ多くもキャプテン・マーベルの後輩を勝手に名乗っちゃってるヒーローだ。

でも仕方ないじゃん。

名乗ってないのに、地元の新聞でミズ・マーベルって呼ばれちゃってるんだから。

 

 

「……そこまで知ってんなら、タダじゃ返さねぇ!」

 

 

ここはジャージーシティの隅っこにある廃工場!

麻薬の栽培、販売を密かにやってる悪い奴らの溜まり場だ。

 

目の前にいる売人がリーダー!

 

用心棒とか居ないのかって?

私がもう全員、倒しちゃった。

 

私には身体を変幻自在に変形させる能力がある。

大きくなったり、小さくなったり、伸びたり、縮んだり。

 

そんなスーパーパワーがあるから、私は悪人と戦える。

 

そして、さあ、クライマックスだ!

悪人の親玉を倒して、警察に通報する!

 

いやー、長かった。

事件の調査は何ヶ月もかかったし、実際に取り押さえられるようになるまで時間がかかった。

 

でも、これで終わりだ!

 

この大捕物の幕を閉じるために、私は身体を巨大化させて──

 

 

ガシャアアアアアアアンッ!!!

 

 

「うわあっ!?」

 

 

倉庫に光を通すための、大きな天窓が壊れた。

ガラスが撒き散らされ、大きな音が響いた。

 

 

「ぐえっ!?」

 

 

ついでに、悪人の悲鳴も聞こえた。

いや、悲鳴っていうよりも断末魔かも。

 

 

「げほっ、ごほっ」

 

 

砂埃が巻き上がる中、私は咽せつつ……視線を悪人の居た場所へ戻した。

 

そこには──

 

 

『……パラシュートに不備があったか。いや、ヴァルチャーとの戦いで損傷していたのか……?』

 

 

ぶつぶつと独り言を喋る黒いアーマーの……なに?なにもの?が、悪人を踏み潰していた。

悪人さんは、死んでなさそうだ。

泡を吹いて倒れてるけど。

 

直後……その黒いアーマーを着た強面……どう見ても、悪人(ヴィラン)だ。

絶対、ヴィランだ。

 

そんな相手が私を見た。

 

 

『……それで、どういう状況だ?今』

 

 

そんなの私が聞きたいよ。

 

何故か警戒心もなく、私に話しかける相手に……逆に私は警戒していた。

 

まったく、もう。

スーパーヒーローの物語は、想定外の事がいっぱいなんだから。

 

 

 

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