【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#17 ショック・ユア・ハート part1

「チケットを拝見致します」

 

 

私はチケットを手渡した。

 

ここはマンハッタン。

その港。

 

目の前には大きな……それこそ前世を含めても初めて見るような大きな船があった。

 

身分証明を出来るものを渡し、本人証明する。

 

だが、そこに書いてある名前は『ミシェル・ジェーン』ではない。

 

 

「ミカエル・ジョーンズ様ですね……係の者が案内いたします」

 

 

そう言われて私は船に足を踏み入れた。

 

 

 

今の服装はカジュアルなドレスだ。

黒いワンピース型のドレスで、肩はレース状になっていて透けている。

 

……足がスースーする。

やはりスカートは……何というか、慣れない。

下にショートパンツを履いても良いか?

 

……ドレスコード的にはダメか。

 

一見するとお洒落なドレスだ。

だが、普通のドレスではない。

 

防刃、防弾、防熱、防水、防寒。

ナイフで切れず、弾丸を通さない特殊なドレスだ。

ティンカラーが作った。

……あいつ、デザインセンスがあるな。

 

では何故、そんな物騒なモノを着ているかと言うと『仕事』だからだ。

 

今回の任務は暗殺ではない。

護衛、そして防衛だ。

 

『A.I.M』と『ライフ財団』。

今日、この二つの組織の取引が船上で行われる。

 

『A.I.M』は高度な科学技術を持つ組織だ。

正式名称は『アドバンスド・アイデア・メカニック』。

元々は『ヒドラ』と呼ばれる組織の科学兵器開発部門だった。

だが、戦時中、キャプテンアメリカによって『ヒドラ』は打ち倒され、残党として独立した組織となったのだ。

彼等の目的は世界征服だ。

子供の夢のような荒唐無稽さがあるが、倫理観のない科学者どもが本気で言っているのであれば……それは笑い事ではない。

 

『ライフ財団』は表向きにも存在する製薬会社の後ろ盾にもなっている大きな財団だ。

人体実験紛いの治験をしているという噂があり……あぁ、『A.I.M』と繋がっている事から察する通り、噂ではなく事実なんだが。

多数の資産家が集結して作られた財団であり……何か、重要なモノを持っているらしい。

 

その『重要なモノ』を受け渡す取引。

万が一邪魔者が現れた際、その邪魔者を殺すために私は呼ばれた。

 

二つの組織は非人道的な組織であり、多数のヒーローやチームからマークされている。

今回、何者かの介入があってもおかしくない。

 

そう思った『ライフ財団』が大金を払い、『組織(アンシリーコート)』から私が派遣されたのだ。

 

ちなみに『A.I.M』と『ライフ財団』には『レッドキャップ』が向かう、と言っただけで、私……レッドキャップの正体について彼等は把握していない。

 

今の私はただ、組織の金で豪華客船のクルーズチケットを買って乗り込んでいるだけの一般客だ。

 

 

私は案内役に連れられ、ホテルの一室のような部屋に案内された。

 

部屋には既にスーツケースが置かれている。

私は室内の椅子に座り、卓上にあった果物を口に入れた。

 

……やがて汽笛が鳴り、船が出航する。

自室の窓から外を見れば、陸地から離れていくのが見えた。

 

これで、この船は外界から遮断された闇取引には持ってこいの施設となった訳だ。

 

……だが、取引までには……まだ時間がある。

 

私はカード型のルームキーを手に取り、部屋から出る。

 

最低限、間取りは地図を読み把握しているが……実際に歩いて見た方が確実だ。

 

……む、今、ディナータイムか。

広場では食事が並べられている。

ビュッフェスタイルのようで、好きなものをお取り下さい……と言った感じか。

 

だが、道草を食っている場合ではない。

 

私はデザートコーナーにあったプリンを手に取り、スプーンを突き刺した。

 

遊びで来ているのでは無いのだ。

幾ら時間に余裕があるからと言って、緊張感に欠ける行動は、うわっ、このプリン美味……。

 

私は食べ終えたプリンの容器を机に戻し、二個目のプリンに手を伸ばした。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

私の名前はナターシャ。

ナターシャ・ロマノフだ。

 

国家の治安維持を目的とする諜報組織『S.H.I.E.L.D.』に所属するエージェントだ。

 

コードネームは……ブラックウィドウ。

 

『S.H.I.E.L.D.』は敵対している組織、『ヒドラ』の残党である『A.I.M』が怪しげな取引を行うと言う情報を掴んだ。

 

故に『S.H.I.E.L.D.』が数人、船上に忍び込んでる。

だがそれは、コソコソと隠れて船に侵入するような方法では無い。

 

偽の身分証を使ってクルーズ客船の乗船券を買い、真正面から入っているのだ。

 

私は隠密行動を任務とするエージェントだが……世間からの知名度が少し、いや、かなり知名度が高い。

 

それもこれも、仲良しヒーローチームに所属している所為とも言える。

だが、不満があるわけでは無い。

家族のいない私にとって、彼等は家族のようなモノだからだ。

 

私は普段の赤毛を金髪に染めて、カジュアルで少し露出の高いドレスを着て変装している。

 

武器や、普段の服は室内に隠してある。

今は船上で諜報活動を行い、怪しい客を探している。

 

情報収集を行うために、客の集まる場所に行く。

……どうやら、広場ではディナーが振る舞われているようだ。

 

私は壁に背を任せ、目を閉じて耳を澄ませる。

五感の一つを遮断する事で、残りの感覚を強化する。

 

 

食器の擦れる音。

どうでも良い世間話。

恋人同士の語らい。

客同士の小さなトラブル。

……具体性を持たない会話。

 

私は目を開いた。

 

代名詞だけで会話している高官のような男達……少なくとも、後ろめたい何かがあるのだろう。

 

私は足を踏み出し……少女とすれ違った。

 

 

ゾクリ、と嫌な感覚が背筋を走った。

 

私は極めて平静を装って、ゆっくりと振り返った。

 

 

白色の入った金髪に、深く綺麗な青色をした眼。

日に焼けていない白い肌、整った目鼻立ち。

まだ幼さを残した可憐な少女が、その身体の特徴をひっくり返したかのような黒いドレスを着ていた。

 

一瞬、私は息を呑んだ。

 

あまりにも綺麗だったからか?

いや、違う。

 

美しさの下に、研ぎ澄まされた暴力性を感じたのだ。

 

そう、何処か……私と似ている感覚があった。

 

彼女の髪は白金で、私の髪色は赤い。

目の色も、肌の色も……容姿は全く異なっている。

だが、私の心の奥底で「彼女は私に似ている」と言う結論が出ているのだ。

 

それも「今の私」ではない「過去の私」に似ている。

『悪の組織(レッドルーム)』に所属していた頃の、腐っていた私に……似ている。

 

 

私は一流のエージェントだ。

 

自身の勘だけで結論立てるのは、三流のエージェント。

論理的思考のみで結論を導くのが、二流のエージェント。

 

そして、一流は……。

自身の勘と論理的な思考、その双方から結論を選ぶ。

 

警戒する事に越した事はない、私は腕時計に偽装されている高圧電流を発生させるスタンガンを起動しておく。

 

 

「……どうか、しましたか?」

 

 

目前の彼女と、私の目があった。

彼女は懐疑的な目をしている。

 

 

「……いえ、貴方があまりにも綺麗だったから、少し目で追ってしまっただけよ」

 

「そう、ですか」

 

 

かちゃり、と彼女の手元が動いた。

私はコバルトブルーの瞳から目を離し、彼女の手元を見て…………。

 

スプーン?

手元にはプリンの入ったガラス容器があった。

 

 

「……それ、美味しいの?」

 

「え?あ、はい。美味しい、です」

 

 

彼女も毒気が抜かれたような顔で頷いた。

 

……気のせい、だったか。

 

彼女から何か私と似ている雰囲気を感じていたが…………スパイが任務先でプリンを食べているなんて、あり得ない。

 

私の勘も鈍ったのかも知れない。

 

 

「ジロジロ見てゴメンなさいね」

 

 

私はそう言って、彼女から離れる。

 

……敢えて背後を見せて隙を誘っても襲っては来ないし、追跡してくる気配もない。

 

私は腕のスタンガンを停止させて、足を進めた。

時間は有限だ。

取引の時間までに、場所や時間を引き出さなければならない。

 

彼女から感じた不思議な感覚を「気のせい」として脳裏に押し込んだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

私は自室に戻っていた。

広場でプリンを食べていた時……明らかに敵対組織のエージェントらしき女性から疑われてしまった。

 

私がプリンを食べているのを見て警戒を解いていたが……内心、焦っていた。

そもそも、私は何もボロを出さなかった筈だ。

 

すれ違っただけで疑われるなど……もしや、超能力者(エスパー)か?

前世であれば冗談に聞こえるだろうが、この世界では本当にエスパーがいる。

 

 

超能力を生まれ持つ『ミュータント』達が。

 

相手の精神、思考を読み取るテレパシー能力を持つ者……『テレパス』。

有名どころで言えば……『プロフェッサーX』か。

 

だが『プロフェッサーX』は車椅子の老人男性。

少なくとも疑ってきた女性はプロフェッサーXではない筈だ。

 

低レベルな『テレパス』であれば問題ない。

私の心には薬剤処置、低度洗脳による防護壁(プロテクト)が掛かっている。

組織による尋問対策の一つで、無意識領域の記憶暗号化……だったか。

 

……今思い出しても、あの訓練は気分が悪かったな。

生理的な嫌悪感と吐き気、自分の意識がグチャグチャになるような気味悪さ……それを思い出し、私は眉を顰めた。

 

とにかく、頭で強く浮かべていなければ『テレパス』に情報を抜かれる事はないだろう。

……プロフェッサーXレベルの超強力な『テレパス』は回避不能だが。

 

エージェントらしき彼女が追ってこなかった事から、少なくとも私に対して確信は持てなかったのだろう。

 

 

問題はない。

 

 

そう結論付けて、スーツケースをベッドの上に置いた。

 

ケースの取手部分のレンズ部に指を当てる。

指紋認証によってキーが解除され、スーツケースが自動で開かれる。

 

そこには見慣れた赤いマスクと、黒いアーマースーツがあった。

私は素早くスーツを装着する。

 

 

起動(ブート・オン)

 

 

スーツから空気が抜けて体にフィッティングされる。

マスクの内部に様々な機能が表示され、消えていく。

 

 

スーツの機能が正常に起動した事を確認し、ケース内に入っている武器を取り出す。

 

……今回、スーツケースのサイズ上の問題で散弾銃(ショットガン)やガンランチャーは持ち込めていない。

入っているのは小型の拳銃型武器だけだ。

 

一般的な人間相手であれば問題のない普遍的な口径を持つ拳銃だ。

拳銃本体はティンカラー製だが、弾丸は市販のモノだ。

 

私はそれを右腰に装着する。

後は太腿に収納している特殊合金製ナイフが2本、か。

 

……先程の異常に勘の鋭いエージェント然り、もし超人レベルのヒーローが来れば……少し心許ないかも知れない。

 

だが、今回の任務……呼ばれたのは私だけでは無い。

『A.I.M』と『ライフ財団』の私兵は勿論……もう一人、私と同じように呼ばれた悪役(ヴィラン)がいる。

 

……私も知っている男だ。

 

 

取引には、まだ時間がある。

だが、直前に顔合わせをしておく必要はある。

 

天井のパネルを一つズラし、ダクトに潜り込んだ。

 

船上は既に消灯時間だ。

船内で彷徨いている人間は居ないだろうが……警戒をしておくに越した事はない。

 

暗闇の中を進み、やがて一つの空き部屋まで辿り着いた。

ダクトの金属蓋を開き、私は音もなく着地する。

 

こういう時、ヴィブラニウム製のスーツは便利だ。

幾らしなやかに着地しようとも、金属製のスーツであれば音がなる。

 

だがヴィブラニウム合金によって衝撃は吸収され、まるで足裏がクッションのように衝撃を逃す。

 

音とは振動だ。

空気の揺らぎ、衝撃とも言える。

 

ヴィブラニウムが含まれている合金によって、物音は一つも立たない。

全身金属鎧のスーツだが、擦れた音すら鳴らない。

 

正に暗殺には持ってこいの材質、と言う訳だ。

 

 

私は降り立った部屋から出て、少し歩く。

ここは船の機関部、一般人は立ち入り禁止の場所に該当する。

 

そう。

この船の持ち主は『キングピン』。

ウィルソン・フィスクだ。

私の雇い主でもある彼は、今回の取引に合わせて場所の提供をしているのだ。

 

つまり、船の乗組員……全てがフィスクの手下だ。

機関部などは普通、見回りの対象だが……あえて、警備に穴を空けているのだ。

 

 

目的地の部屋の前に立ち、ドアノブに手を掛けて……。

 

 

「あぁ!?オレ様一人で充分だっつーの!」

 

 

私はドアノブから手を離し、マスク内の補聴機能と赤外線視覚化機能(サーモグラフィー)を起動する。

ドア越しから、内部の状況を盗み見る。

 

中に数名……恐らく『A.I.M』か『ライフ財団』の私兵が立っている。

そして一人、太々しく座る男の姿があった。

 

……どうやら、内部で争っている気配はない。

杞憂と言うことか。

 

 

「誰を呼んだか知らねーが、オレ様がいれば万事上手く行く!足手纏いになるぐれぇなら邪魔だ……

 

 

私はドアノブに手を掛け、開けた。

ガチャリ、とドアが開く音が部屋に響き、部屋内の視線が全て集まった。

 

私は座っている男を見る。

色褪せた黄色のスーツに、赤銅色のアーマーを装備している。

顔を覆い尽くすフルフェイスのマスクには、吊り目のように黄色く輝くレンズがあった。

腰のベルトにはカートリッジのようなモノが複数装着されている。

 

特筆すべきは両腕だ。

その両腕は太く大きい。

中の人間の腕が太い訳ではない。

まるで手甲(ガントレット)のような装置を腕にまとっているのだ。

 

私の姿を見た『その男』は、慌てたように私へと向き直り、心なしか姿勢が正しくなった。

 

……彼は少し、小心者なのだ。

弱者に強く当たり、強者を恐れる……至極当然な反応だ。

 

 

私は口を開いた。

 

 

『随分な言い様じゃないか……『ショッカー』。どうだ?足手纏いになるか……試してみるか?』

 

 

椅子に座っている『ショッカー』は、食い気味に首を横に振っていた。

 

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