【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#19 ショック・ユア・ハート part3

私は、目前の『キャプテン・アメリカ』と向き合う。

 

キャプテン・アメリカ。

本名はスティーブ・ロジャース。

マーベルコミックの世界において最もメジャーなキャラクターの一人だ。

 

第二次世界大戦中に私と同じ『超人血清』と呼ばれる、身体を超人に作りかえる血清を使用し、超人兵士となった男だ。

 

当時から彼は『自由』『平等』そして『平和』を愛する誇り高き男だった。

しかし、その肉体は貧弱であり、また虚弱だった。

彼はその高潔さを評価され『超人兵士(スーパーソルジャー)計画』へと参加する事になる。

 

そこで彼は『超人血清』を服用し、屈強な肉体を手に入れた。

……『超人血清』には副作用があり、人の心、感情を増幅させる効果が存在する。

 

ほんの少しでも邪な心があれば、途端に凶悪な悪人へと変貌してしまう。

だが、スティーブは違った。

彼の肉体は虚弱だったが、その心は『誰よりも』高潔だった。

 

よって、心の闇に囚われる事もなく、屈強な肉体を手に入れて『キャプテン・アメリカ』となったのだ。

 

……ちなみに、この『超人兵士(スーパーソルジャー)計画』。

『超人血清』を作成したアースキン博士が、戦時中に死亡してしまったため、以降は血清を作成出来なくなっていた。

 

しかし、やはり。

超人の兵士を生み出す、と言うのは魅力的なものであり、理念はそのままに……内容や手段は変わりながら続いて行く事になる。

そのため、複数の英雄(ヒーロー)悪人(ヴィラン)起源(オリジン)と密接に関係している。

 

……私の身体に打ち込まれた『似非超人血清』も、その系譜だ。

 

アースキン博士の『超人血清』を再現しようと目論んだ『パワーブローカー社』によって作られた血清だからだ。

 

つまり、キャプテン・アメリカは目指していたオリジナルであり、私は贋作なのだ。

 

……彼は私よりも強力で、強靭な戦士である。

と言う事だ。

 

肉体は20代後半から、30代前半ぐらいに見える。

これは『超人血清』により老化が抑えられているからだ。

実際の年齢は100歳近い。

 

鍛え上げられた無駄のない肉体は、スーツの上からでも視認できる。

 

 

私は、側で怯えるショッカーに目を向けた。

 

 

「お、おい……ど、どうすんだよ……?アベンジャーズなんて聞いてねぇぞ……?」

 

 

『アベンジャーズ』は巨大な脅威から世界を守るべく、複数のヒーローが集結し、協力する最強のチームだ。

 

キャプテン・アメリカ、アイアンマン、マイティ・ソー、ブラックウィドウ、ホークアイ……主軸となるメンバーは変わらずとも、何人ものスーパーヒーローが参加している。

 

ピーター……この世界のスパイダーマンは参加していないが、アベンジャーズに協力していた事はある。

昔、アベンジャーズを管理する国際平和維持組織『S.H.I.E.L.D』の長官である『ニック・フューリー』が報道で語っていた。

 

悪人(ヴィラン)の最も恐れる史上最強のヒーローチーム『アベンジャーズ』。

そのリーダーが目前に居る『キャプテン・アメリカ』なのだ。

 

 

『あまり怯えるな、ショッカー。ここに居るのは彼と……手負いのスパイが一人だけだ』

 

 

私は彼を……そして自分自身を奮い立たせるように発言する。

 

正直に言うと、キャプテン単騎だけでも私は勝てないだろう。

このまま、全力で逃走すれば……あるいは。

そう言ったレベルなのだ。

 

だがしかし、私も組織のエージェントだ。

敵前逃亡は裏切りとして処分の対象になる。

左胸の爆弾が炸裂すれば、幾ら『似非超人血清』を服用している私であっても死は免れない。

 

……脳裏に、ピーターの顔が浮かび上がる。

 

私は左の脹脛に存在するプロテクターを展開させ、ナイフを取り出す。

もう片方のナイフはウィドウに投擲してしまった為、ナイフはこの一本しかない。

 

強く。

ナイフを強く、握りしめた。

 

目前のウィドウが持っている『ライフ財団』のアタッシュケースを奪う。

これが最優先の目標だ。

その後は彼等と戦う必要はない。

逃げれば良い。

 

勝利条件は敵の殲滅ではない。

それがこの最悪な状況で、唯一希望のように感じられた。

 

 

「君、名前は?」

 

 

突然、目の前にいたキャプテンから問いかけられた。

 

私はマスクの下で眉を顰める。

 

 

『答える義理はない』

 

 

その発言の意図は読めている。

少しでも、時間を稼ぐ為だ。

 

先程、ウィドウが腕に注射器を刺しているのは見た。

恐らく、私の知らない技術で開発された最先端の治療薬か何かだ。

 

その効能が発揮されて、動けるようになるまで……彼は時間を稼ごうとしているのだ。

 

 

私は横にいるショッカーへ語りかける。

 

 

『ショッカー、私が交戦を始めたら……ウィドウからアタッシュケースを奪還しろ』

 

「あ、え……?大丈夫なのか?いくらレッドキャップと言っても、相手はアベンジャーズなんだぞ……!?」

 

 

そう言って不安そうな声色で、ショッカーが語った。

 

 

「……なるほど、レッドキャップか」

 

 

キャプテンが納得したように頷いた。

 

 

『チッ』

 

 

憧れのヒーローに名前を覚えて貰えるのは嬉しいが……今はそんな状況ではない。

 

それに万が一にもアベンジャーズ間で共有されてしまえば、活動もし辛くなる。

 

私はヒーローチームを相手にできるほど、強くはない。

やめてくれ。

 

百害あって、一利もない。

 

 

「奇遇だな。私も『キャップ』と呼ばれている」

 

 

知っている。

私は貴方のファンなのだから。

 

だが、会話を続けるつもりは無い。

私はナイフを構えて、それを返答とした。

 

それを見たキャプテンは手に持ったシールドを構えた。

 

キャプテン・アメリカの持つシールド。

あれは戦時中の国内に存在していたヴィブラニウムを『全て』使用して作成された、純度100%のヴィブラニウム製シールドだ。

 

『アイアンマン』であるトニー・スタークの父、ハワード・スタークによって作成された。

私のアーマースーツよりもヴィブラニウムの純度が高い。

つまり、衝撃吸収率が段違いに高いのだ。

 

ヴィブラニウム同士が衝突した場合、衝撃を吸収する能力が相殺し合い、互いに通常の金属のようにダメージを受ける。

つまり、より純度の高いヴィブラニウム製のシールドは、私のアーマー越しでも容易にダメージを与える事が出来る。

 

 

私はナイフを持つ左手を前に、右手を後ろに。

身体が敵の正面ではなく、横を向くように構える。

 

そして、後ろ足を少し曲げて……地面を蹴った。

 

 

風を裂く音がして、ナイフの先端がキャプテンの身体へと吸い込まれて行く。

 

即座にシールドで弾かれて、私はその勢いのままサイドステップを行う。

 

あの盾はヴィブラニウム製。

比べて私のナイフは炭素系の合成金属だ。

正面からぶつかった際、無理に押し込めばナイフ側が砕けてしまう。

 

ナイフの受けた衝撃は腕を通して身体に逃す。

 

再度、突きを放つが、これも盾で防がれてしまう。

 

 

『ショッカー!早くアタッシュケースを確保しろ!』

 

 

私が声を掛けた事で、呆けていたショッカーが慌ててウィドウへ向かって走り出した。

ウィドウは先程まで重傷だった事が嘘のように立ち上がり、アタッシュケースを手に逃げ始めた。

 

私とキャプテンは、それを視野の端に捉えながらも、視線は互いの手に持つ得物から外さなかった。

 

 

『……どうした?追わなくても良いのか』

 

「ああ。私はナターシャを信頼している。それに」

 

 

キャプテンが腰を低く落とした。

 

 

「余所見をしながら倒せるほど、君は弱くなさそうだ」

 

 

私はナイフを振りかぶり、横に薙いだ。

 

しかし、それはキャプテンには届かず目前で空ぶった。

だが、これは意図して狙ったものだ。

 

目前に振られたナイフを防ごうと構えていたキャプテンの前で、ナイフを空振った勢いのまま回転する。

 

右足を軸に回転し、回し蹴りを繰り出す。

シールドの縁に足が当たる瞬間、私は足下に引いて脚部装甲の突起を盾にひっかけた。

軸足で地面を蹴り、後ろへ跳躍する。

 

私のナイフを防ごうと外向けに構えていたキャプテンと、それを外側へと引き剥がそうとする私。

力の方向が噛み合い、シールドがキャプテンの手から引き剥がされ、宙を舞う。

 

 

私は即座に姿勢を立て直し、ナイフを突き出そうとし……。

 

突き出す前に、キャプテンの手の甲によって弾かれた。

 

 

『……くっ』

 

 

有効打となる筈だった一手が防がれ、思わず声が出る。

 

ナイフでの一撃は完全に読まれていた。

 

ナイフでの刺突攻撃は、構え、突き出し、引き裂く三段階を以って攻撃となる。

キャプテンはその『構え』の部分で攻撃を受け止めたのだ。

 

 

私は弾かれた拳でナイフを握り直し、再び数度の攻撃を行う。

突き、薙ぎ、引き、その全てが攻撃の直前で受け止められる。

 

埒が明かない。

 

そう考えた私はナイフを上段に構え、全力で叩き付けようとした。

 

キャプテンもそれに気付き腕を上へと構える。

 

 

私は右手からナイフを『落とした』。

 

ナイフは下に落下し、そのまま右手は手刀となってキャプテンに防がれる。

 

私は足下に落ちたナイフの柄、その尻を足先で踏みつける。

ナイフは鍔を支点とし、跳ね上がった。

 

 

『貰った……!』

 

 

そのまま左手でキャッチし、逆手に持ったままキャプテンの腹へと突き刺そうとした。

 

だが、キャプテンは上段で攻撃を防いでいた両手を下にずらし、右足で地面を蹴った。

 

肘と膝、その二つを以ってナイフの刃を挟み込んだ。

 

 

「さっきは油断したが、不意打ちは二度も通用しない」

 

 

そのまま身体を捻り、ナイフを弾き飛ばされてしまう。

 

 

これで互いに無手となった。

私は腰部にハンドガンを持っているが……。

 

果たして、この距離で構え、引き金を引くまで……キャプテンが悠長に待ってくれるとは思えない。

 

私はアーマーの爪を立てるように手を振るう。

キャプテンは上半身の捻りだけで避けて、拳を振るう。

 

私の顔面へと命中し、一瞬、眩暈が起こった。

 

私のヘルメットはレンズ部分や情報処理機能が存在する為、装甲部分が薄い。

ヴィブラニウムの衝撃吸収率も腹部や腕部に比べて、著しく低いのだ。

 

キャプテンの驚異的なパンチ力によって、その衝撃はヴィブラニウム合金による衝撃吸収能力を貫通したのだ。

 

 

一瞬、ほんの数ミリ秒。

私の意識が混濁したのを好機と見て、キャプテンが再度、私の顔面へ左フックを命中させた。

 

私は仰け反りながら、距離をとり、それ以上の追撃から逃れた。

 

 

「君は……まるでナターシャのような身のこなしをする。先程の彼のような純粋な犯罪者ではない……プロのエージェントか」

 

『だから……どうした?』

 

 

私は息を整えながら、返事をする。

 

 

「プロならば、彼等のような犯罪者と違って、私欲で戦っていない筈だ」

 

 

頭蓋への衝撃で、脳が揺れている。

平衡感覚は正常に動いていない。

 

私は時間を稼ぐ為、会話を続ける事とする。

 

 

「どうして彼等に協力する?彼等のやろうとしている事は、非常に危険な事だ。罪のない人々を傷付ける行為だ」

 

『……私には関係のない事だ。私は私の任務を遂行せねばならない』

 

 

そう返答すると、心なしかキャプテンの瞳は鋭くなった気がした。

 

 

「なら……そうだな。全力で止めさせてもらう事とする」

 

 

突然、キャプテンが走り出した。

それも私の方ではない。

シールドの落ちている方向に向かってだ。

 

治癒因子(ヒーリングファクター)での治癒に集中していた私は、一手遅れた事に気づく。

 

今すぐ向かっても間に合わない。

私はキャプテンではなく、落ちているナイフの方向に走り出した。

 

だが、距離の関係上、私の方が『早い』。

ナイフを拾い上げて、振り被る。

 

ナターシャへ投擲したように、全力でナイフを投げ飛ばした。

 

シールドはまだ、キャプテンの足元に曲面を下にして落ちている。

 

しかし、私が投擲した瞬間。

キャプテンは足下のシールドを踏みつけ上に弾き上げた。

私が先程、ナイフを拾い上げた時の手法と同様の手法だ。

 

ナイフは宙に浮き上がったシールドにぶつかり……逆に弾き返された。

物理学の常識では考えられない挙動だ。

 

だが、キャプテンの持つシールドはヴィブラニウム製。

それも純度100%である。

全ての衝撃を吸収したのだ。

 

そのままキャプテンはシールドを手に取り、回転する。

 

見覚えのある動きだ。

まるで、円盤投げのような……。

 

 

まずい。

 

 

思わず声に出しそうになった弱気な一言を、喉の下に押し込める。

 

私は右方向へ飛んだ。

 

直後、キャプテンはシールドを投擲した。

 

シールドは超高速で回転しながら、私の方へ向かう。

それも、私の『居た』場所ではない。

私が『逃げようと』移動する先へと投擲された。

 

私は回避が不可能である事を即座に判断し、右腕で防御しようと構える。

 

直後、失態である事を悟った。

このアーマーはヴィブラニウム合金製だ。

普段の敵からの攻撃への対処は、これで構わない。

装甲が敵の攻撃を吸収し、無力化するからだ。

 

だが、現在私へと向かっているシールドは?

純度100%のヴィブラニウム製シールドだ。

 

つまり、私の右腕、そのヴィブラニウム合金製アーマーでは防げない。

 

これは、悪癖だ。

アーマーに頼り、敵の攻撃を防御しようと構えてしまった。

私のミスだ。

 

 

私の腕に、丸鋸のように回転するシールドが命中した。

 

その一瞬は、まるで間伸びしたドラマの1シーンのようにスローで見えた。

 

高速回転するシールドによって、私のアーマーが切断される。

 

右腕の外部パーツを弾き飛ばした。

 

内部の防刃ウェアを切り裂いた。

 

私の皮膚を引き裂いた。

 

そして、刃と化したシールドは私の肉を引き裂いた。

 

 

鮮血が、宙に撒き散らされた。

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