【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#21 ショック・ユア・ハート part5

機関部が故障した船内は騒動となっており、混乱に乗じて私達……私とショッカー、『A.I.M』と『ライフ財団』の幹部やエージェントは脱出する事が出来た。

 

人数が多かったため、船は二つに分かれた。

『A.I.M』と『ライフ財団』の幹部、エージェントが乗る船。

そして、私とショッカー、船内に居たフィスクの手下が乗る船だ。

 

フィスクの手下、全てがこの小舟に乗っている訳ではない。

追求された場合に、誤魔化す事が出来ないほど悪事に加担している船員だけだ。

 

残りは乗客の避難誘導などを行い、普通の船員のように振る舞っている。

 

 

ショッカーに肩を貸されていた私は小舟のデッキに降ろされ、煙の上がる大型客船を眺めていた。

 

 

……これ、私の責任問題にならないよな?

最終的にブッ壊したのは私の攻撃だけど……。

 

 

『すま、ないな。ショッカー、助か、った』

 

「あぁ、いや、気にすんな……あんたは恩人だからな……それに、すげぇよ。アベンジャーズを倒せるなんてよ」

 

『倒しタ、訳ではナイ。ただ逃げるタメ、ノ』

 

 

声がおかしくなっている事に気付いた。

ノイズが走り、音が途切れる。

恐らく、スーツに負担をかけすぎた所為で故障しているのかも知れない。

 

 

「お、おい。大丈夫かよ」

 

『大丈夫ダ。マスクの故障、ダ』

 

 

私は溜息を吐いて、姿勢を楽にする。

治癒因子(ヒーリングファクター)を稼働させ、体の急所、内臓などの負傷は治した。

あとは皮膚や、骨まで傷が到達している右腕を治せば良い。

 

……うっ、戦いが終わって興奮が抜け、右腕も痛みがジクジクして来た。

いたい。

 

ふと、一つ思い出した。

 

 

『そう言えバ、女と子供は殺したくナイと言ったナ?どう、してダ?』

 

「あ?あぁ……ちょっと昔話になるが良いか?」

 

『アぁ、時間は無駄にあるからナ』

 

 

やっぱイメージと違うなぁ、なんてブツブツ言いながらショッカーが語り出した。

 

幼い頃、両親を若くして亡くした事。

妹の為に金が必要だった事。

妹が病気になった時、金がなくて救えなかった事。

 

それから、彼は『ショッカー』になった。

あの時、助けてくれなかった金持ちから金を巻き上げるために。

腐った世界に『衝撃(ショック)』を与えるために。

 

だから、妹のような……女や、子供を殺す事。

それは自分のポリシーに反しているのだと、そう語った。

 

 

『そうカ……』

 

「あぁ、あんまり話した事は無いんだがな。あんたなら、言いふらしたりしないだろ?恥ずかしいんだよ」

 

『……恥ずかシいか?』

 

「女々しいだろ?」

 

『そンな事ナイさ。私は君の過去を笑わナイ。もし笑ってイる奴が居たら言エ。殺しテやるサ、ショッカー』

 

 

これは本心だ。

天才発明家でありながら、過去のトラウマから抜け出せないショッカー。

 

誰が笑うか、誰にも笑わせたくなかった。

 

 

「はは、あんたが言うと冗談には聞こえないぜ。……あぁ、そうだ。俺のこと、ショッカーじゃなくてハーマンと呼んでくれ」

 

 

そうショッカー……いや、ハーマン・シュルツが言った。

そのまま彼はマスクを脱いで、素顔を見せた。

 

金髪の……精悍な顔付きをした男だった。

だが、普段は整えているであろう金髪は、汗でベチャベチャに乱れていた。

 

 

『……私ハ、顔を見せる事ハ出来ないゾ?ハーマン』

 

「あぁ、良いんだ。これは俺なりの誠意って奴だ。あんたは『ハーマン』の人生を笑わなかった……良い奴だ。だから俺の事を知って欲しかったんだ」

 

『そうカ』

 

「あぁ、ありがとう。レッドキャップ。あんたのお陰で助かったよ」

 

 

ハーマンが頭を少し下げて、笑った。

 

 

『イヤ、私の方こそ助かっタ。お前ガ、居な、けれバ、勝テナカッタだろう。アリ「がとう、ハーマン」

 

 

ふと、変声機が途切れた。

無機質な機械のような声は、年端も行かない少女の声に変わってしまった。

 

完全にヘルメットの機能が停止してしまったようだ。

辛うじて視界はシステムを通していない為、問題ないが……。

 

私は、ハーマンを見た。

 

……酷く驚いたような顔をしている。

 

 

「……ハーマン、いや、ショッカー。この話は内密にしろ。さもなければ」

 

「あ、あぁ。秘密にするよ、当たり前だろ?」

 

 

私が言い切る前に、ハーマンがそう言い切った。

ハーマンの表情は……何だ?悲しみか?怒りか……憐れみ?

複雑な感情を押し殺そうとする顔だ。

 

 

「……そうか、すまないな。ショッカー」

 

「いや、俺こそ悪いな。声を聞いちまって……それに、オレはショッカーじゃなくてハーマンだ。ハーマンで良い」

 

「良いのか?」

 

 

正体を騙した……とは言わないが、意図的に誤認されるよう黙っていたのは事実だ。

それなのに……。

 

 

「オレが良いって言ってるんだから、良いんだよ……ガキは大人の言う事を黙って聞いてりゃ良いんだよ」

 

「何だ?歳下と分かれば急にガキ扱いするのか?良い度胸だな」

 

「うぉっと……悪ぃ悪ぃ……」

 

 

思わず、と言ったようにショッカーが笑った。

彼は共に死線をくぐり抜けた戦友だ。

 

私は……ほんの少し、友情を感じていた。

 

私も笑い、彼も笑う。

 

今はただ傷付いた身体を休めて、穏やかな時を過ごしていたい。

 

朝日が水平線から、昇り始めていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

煙を上げる船の上に、ヘリが到着する。

いや……しかし、ヘリと呼ぶには些か近未来的過ぎたが。

 

一人、色黒の男が降りて来る。

 

黒いシャツに、黒いコートを着た厳しいスキンヘッドの男だ。

側から見れば悪役(ヴィラン)にしか見えない。

左目に眼帯をしている事も、より人相を悪く感じさせる要因の一つだ。

 

だが、乗って来たヘリには猛禽類のシルエットを象ったシンボルマークがある。

それは国際平和維持組織、『S.H.I.E.L.D』のマークだ。

 

そして、その男の前に一人のエージェントが現れた。

 

 

「フューリー長官、ご苦労様です」

 

「あぁ、君こそ」

 

 

色黒の男、ニック・フューリーがそう返答した。

 

 

それを見ていた「私」は担いでいたブラックウィドウ、ナターシャをヘリの医務員に受け渡し、フューリーへと向き直った。

 

 

「……まさか、キャプテンが取り逃がすとはな」

 

「私は超人だが、完璧ではないからな」

 

 

開き直るつもりはない。

だが、過度に信用される事も危険だ。

戦時中、私は幾度となく実感した。

 

 

目前に居る眼帯の男。

彼こそが『S.H.I.E.L.D』の長官、ニック・フューリーだ。

 

ナターシャからの救援要請に偶々本部にいた私が早急で現場へ来た訳だが……フューリーは遅れてしまったようだ。

 

 

「それで……どうしてだ?何があった?」

 

 

フューリーが私に幾つか質問を投げつける。

私はそれに返答していく。

 

 

「……ふむ、レッドキャップ、か」

 

「知っているのか?フューリー」

 

「少し、だが。ニューヨーク内で噂されている都市伝説のような存在だ」

 

「都市伝説?フューリーにしては曖昧な所感だな」

 

「フン、君の言うように私も完璧ではない。何でも知っていると思わない事だ」

 

 

不機嫌そうに、フューリーは鼻を鳴らした。

 

 

「それで、フューリー。その都市伝説とは?」

 

「あぁ。ニューヨークの裏社会を締めるマフィア……そのマフィアのエージェントらしい。どんな人間でも狙った獲物は確実に殺す。女だろうが子供だろうが関係なしだ。そう言った残忍な殺し屋として恐れられているらしい」

 

 

フューリーは手元のタブレットを弄りながら答えた。

 

 

「キャプテンの言っていた赤いマスクと、黒いスーツ。それが『レッドキャップ』という男の特徴だ。一説では顔が赤いのは返り血を吸っているかららしいぞ?馬鹿馬鹿しいが」

 

「男……」

 

 

私は右手で自身の口を覆った。

 

交戦中、私のシールドが奴の右腕に命中した時、一瞬だったが肌が見えた。

直後にシールドで引き裂かれ、血塗れになったが……あれは女か子供……もしくは、その両方だと思った。

 

 

「フューリー、その『レッドキャップ』が女性と言う可能性はあるか?」

 

「ん……?ふむ、そうか。確かに男であると言う証拠はないな。……それともキャプテン、奴が女だと言う確信があるのか?」

 

「確信はないが……」

 

 

私は交戦中、彼……いや、恐らく『彼女』から感じとった印象をフューリーに話した。

 

 

「……なるほど。そうか。これ以上は憶測の域を超えないか……だが、奴の血痕は現場に残っているのだろう?鑑定班に回して調べさせよう。それで女かどうかは分かるだろう」

 

「助かる、フューリー」

 

「あぁ、構わん。それに血痕から分析すれば……そいつのスーパーパワーの源も分かるかも知れん。インヒューマンズか、ミュータントか、はたまた人工的に強化された人間か……事態によってはアベンジャーズの出番かも知れん」

 

「そうだな。その時はスタークの手も借りるとしよう」

 

 

私はそう返答しながら、それほど大事にはならないだろうと確信していた。

 

確かに『レッドキャップ』は手強かった。

 

だがそれは、スーパーパワーありきの物ではない。

ナイフを操る技術、格闘術、不意を突く戦闘センス。

それらは一朝一夕で身につく様な物ではない。

 

恐らく、長年掛けて会得した技術だ。

 

 

だからこそ。

 

もし彼女が子供であるのなら……。

 

 

「どれほど、過酷な日々を送って来たのか」

 

「どうした?キャプテン」

 

「いや、何でもないさ」

 

 

私は自由と平等、博愛を尊ぶ。

だが、真に私は知っている。

 

人間は生まれながら自由ではない。

平等でもない。

 

だからこそ、それらを尊び、目指して生きているのだと。

 

そして、それらを奪い、踏みつける行為は。

 

……許されない。

 

私は彼女を追い込んだ人間……まだ、誰かも分かりはしないが、その何者かへ怒りを募らせた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

『A.I.M』と『ライフ財団』の取引護衛。

その任務完了後、私はティンカラーの居る地下室へ来ていた。

スーツの修復のためだ。

 

 

ちなみに、任務の評価は関係組織、全てから「とてもよかった」と評された。

レビューは星5つだ。

 

原因は以下の通り。

 

『A.I.M』と『ライフ財団』からはアベンジャーズ、しかもキャプテン・アメリカが介入したのに逮捕者も出ず、死者も出ず、それどころか取引物すら奪取されなかった事を評価された。

 

フィスクも、船は破壊されてしまったが……いや、そもそも破壊したのは私だが。

 

『A.I.M』からは科学技術を、『ライフ財団』からは多額の資金を提供され、当初予定していたよりも大きく得をしたそうだ。

 

そして『組織(アンシリーコート)』。

元々、組織(アンシリーコート)を半壊させたのはキャプテン・アメリカだった。

なので、今回、組織が作った超人傭兵(スーパーエージェント)である『レッドキャップ』がキャプテン・アメリカを出し抜けた事……それを大きく評価された。

 

これにより、資金が提供されスーツの修復に金の糸目を付けなくて済む様になった。

 

今は着ていたスーツを着脱し、中に着ている防刃、防弾のインナー姿になっている。

 

右腕のスーツを引き剥がす時……皮膚にアーマーが癒着しており、大変痛かった。

辛うじて声は出さなかったが、私以上にティンカラーが慌てている姿が印象深かった。

 

ちなみに現在、腕に木材を挟み、包帯で巻かれている。

言っても一日ぐらいで治る話なのだが。

 

 

『あー、これもう修復できないね』

 

 

ティンカラーが、血の付いた右腕部アーマーを転がした。

 

 

「そうなのか?」

 

 

ヘルメットも被っていない今、私は地声で問いかけた。

 

 

『うーん、交戦結果、右腕部のアーマーの一部が紛失してる。他の部分は何とかなるよ。左腕も……電子部品が殆どブッ壊れてるヘルメットもね。でも右腕は無理だ。ヴィブラニウムがないんだよ、同じ様に修復はできないな』

 

 

困ったなぁ、とティンカラーが唸った。

 

 

「……それなら、右腕部に武器をつける事は出来るか?」

 

『ん?あぁ、それなら大丈夫……いや、そうか。よし、何となく出来そうだな』

 

 

そうやってティンカラーは一人で唸り、一人で頷いた。

 

 

『まぁ、任せておいてよ。他部位は3日で直る。右腕は……同時進行で5日ぐらいかな。余裕を見積もって全部で7日。また一週間後に来なよ、その時に御披露目してやるさ』

 

 

そう言って顔に表示されている紫の光……の右片方が点滅した。

 

ウィンクのつもりか?

うざ……。

 

 

『お、あ、そう言えば!あげたドレスはどうだった?』

 

 

ドレス……船に搭乗した時に着ていたドレスか。

 

 

 

「どう?か……まぁ、悪くはなかったが」

 

『そうか!そりゃあ良かった』

 

 

今日一番、嬉しそうに返事をするティンカラーに私は訝しんだ。

……あのドレス、少し露出が高かったが。

 

 

あ。

 

 

「あぁ、でも。脱出時に船に置き忘れたな」

 

『え!?……でも仕方ないか。命あっての物種って言うしね……どうかな? また作ってあげようか?今度はプライベート用にもっと……』

 

「いや、着ないから不要だ」

 

 

そう言い返すが、ティンカラーは不服そうに唸っていた。

どうしても彼は私にドレスを着せたいらしい……何故だ?

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