【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#24 ボンズ・オブ・モータリティ part3

翌日。

私はミッドタウン高校の教室で、グウェンと向き合っていた。

 

 

「グウェン、付き合って」

 

 

私はグウェンにそう言った。

 

グウェンは困惑した表情をして……そして、納得したように頷いた。

 

 

「うん。何に?」

 

 

何?

 

 

「あっ」

 

 

そこで私は自身の失言に気付いた。

 

 

「か、買い物に……」

 

「うん、いいよ。でもミシェル気をつけてね?そう言う言い方をしちゃうと勘違いしちゃう男がいるから」

 

 

グウェンがそう言うと。

 

……ピーターが咽せて水をこぼしていた。

 

あ、そうだ。

今日学校に来たら何故かピーターが頬を押さえてた。

どうしたのか聞いたら「壁にぶつかった……」とか言っていた。

 

……壁に頬からぶつかる事なんてあるか?

私は訝しんだ。

 

彼は隠し事が驚くほど下手だ。

よくスパイダーマンである事がバレてないな……。

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

「で、ミシェル。買い物って?何がいるの?」

 

「……女の子っぽい服」

 

 

そう。

前日、ピーターとスイーツフェスタで約束した際に気付いたのだ。

 

私は、あまりにも女の子っぽい服を持っていない。

お洒落な勝負服がないと言う事だ。

 

価値観がまだ男寄りだからと言うのもあるが、カジュアルなジーパンや、ショートパンツ、みたいなのしか持っていない。

 

……あとはティンカラー製のドレスぐらい。

 

つまり、カジュアルとフォーマルの間の服がない。

ちょっとお洒落な服装をしなければならない時、困ると言うこと。

 

 

ハリーに誘われてる『オズコープ社の夕食会』、それに参加するための服もないのだ。

 

 

グウェンは私の言葉に…………凄く、意味深な笑顔をしていた。

 

 

「へぇ……ふぅん……なるほどねぇ……」

 

 

やはり、グウェンは凄い。

言わなくても何となくで理解してくれる。

コミュニケーション能力が高すぎる女だ。

 

……ん?

 

何故かニヤニヤとした目でピーターを見ているのが気掛かりだが。

 

 

「そういう事なら良いよ、勿論。じゃあ明日、土曜日に」

 

「うん、ありがとう」

 

 

そう言って約束している中、ピーターがチラチラとコチラを見ていた。

気になるなら話しかけてくれれば良いのに。

 

変な奴だ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

私は今、ショッピングモールに来ている。

クイーンズでも有名な大きなショッピングモールだ。

 

その中にある服屋。

学生でも比較的買い求めやすい、リーズナブルな服屋に来ていた。

 

……そして今、下着姿で鏡の前に立っている。

ここは試着室だ。

そして、手元には……白い、ワンピース。

 

 

「グ、グウェン、これ絶対似合わない……」

 

 

カーテン越しに居るグウェンに、私は声を掛ける。

 

 

「絶対似合うって、とにかく着てみなよ」

 

 

……ぐっ、似合う……と言うのは何となく分かるのだ。

だって私、美少女だし。

だが、とにかく恥ずかしい。

 

もう少し煌びやかじゃない感じの、清楚っぽくない感じの、女の子っぽいけどカジュアルな服からスタートしようよ、グウェン。

何で、こんな、ハードルの高い……。

 

 

私はファスナーを引いて、ワンピースを着る。

……この、よく分からないベルトのようなモノは……あ、臍の上に来るように巻くのか。

 

そうして着終わって鏡を見れば……清純派の美少女が顔を赤らめていた。

 

 

「グ、グウェン、やっぱり似合ってない……」

 

 

カーテンを開いて、グウェンが私をマジマジと見る。

そうして親指を立てた。

 

 

「え?似合ってるよ、メチャクチャ可愛いーよ」

 

「似合ってない……!」

 

 

いや、似合っているのだろう。

容姿的には。

 

だが私は恥ずかしくて仕方がなかった。

……くっ、膝下がスースーする。

 

これに比べればティンカラーの作ったドレスはかなり着やすかった。

色も黒いし、スカートの丈も長い。

 

お淑やかな感じであったり、可愛らしさを全面に推した真っ白なワンピースは……劇物だ。

私を毒殺する猛毒ワンピースだ。

 

 

「う、ぐ、う」

 

 

変な唸り声を上げていると。

 

 

パシャ。

 

 

とシャッター音が聞こえた。

 

 

「グウェン……!?」

 

「あ〜、つい」

 

 

グウェンがスマホをポケットにしまった。

 

 

「……私で遊んでる?」

 

「いやいや、ホントの本気で選んでるよ。じゃあ、次はこれ着てみようか」

 

 

そう言って差し出された服は……。

ピンクのフリフリでレースなフワフワの……。

 

 

「ぐ、くっ」

 

 

 

変な唸り声を出しながら、私はそれを受け取った。

 

 

正直。

正直な話だが。

 

絶対に着ないような服だが、折角グウェンが選んでくれたのだ。

グウェンはこういう時、人を馬鹿にするような服を用意する訳がない。

その辺の信頼はある。

 

だからこそ、無下に出来ない。

私の唯一の女友達なのだ。

正しい女の子向けファッションは私には分からない。

だから、彼女に従う他、なかったのだ。

 

 

 

「似合ってるよ〜、ミシェル」

 

 

パシャ。

 

 

「ぐ、く、ぐぎぎ」

 

「次はこれ」

 

 

パシャ。

 

 

「う、う」

 

「これも、これも」

 

 

パシャ。

 

 

「う………ぅ……」

 

「あと、これ!」

 

 

パシャ。

 

 

「……………」

 

「あれ?ミシェル?」

 

 

私はもう瀕死だった。

グウェンの着せ替え人形にされて、私のプライドと羞恥心はズタズタだ。

 

 

「……疲れた?」

 

「……うん」

 

 

もう、本当に疲れている。

死にかけだ。

 

 

「じゃあ、最後にこれだけ」

 

 

そう言って、ミシェルに渡された服を見て……。

 

 

「あっ」

 

 

私は思わず声が漏れた。

黒白、チェック柄のスカートに、白いシャツ。

落ち着いた見た目の服装だった。

 

 

「うーん、ミシェルにはもっと可愛い系で派手なファッションが似合うんだけどね。ファッションって言うのは本人が好きで着ないとダメだからね」

 

 

私は渡された服装に着替えて、鏡の前に立った。

 

……そうだ、こういうので良い。

こういうのが良いんだ。

 

 

私はカーテンを開けて、グウェンの前に立つ。

 

 

「似合ってるよ、ミシェル」

 

 

そう言ってウィンクするグウェンは……うん、やっぱり滅茶苦茶カッコよかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

ぺろぺろ。

 

 

「そう言えばミシェル、夏期休暇中の旅行用の水着、買った?」

 

 

ぺろぺろ。

 

私は首を横に振った。

 

 

「えー?学校指定の水着で行くつもり?」

 

 

ぺろぺろ。

 

私は首を縦に振っ……

 

 

「……ミシェル、とりあえずシャーベット食べ終わるまで、話は止めておいた方がいい?」

 

 

私は首を縦に振った。

 

ぺろぺろ。

 

 

私が今舐めているのは商業施設内の露店で売っていたアイスだ。

クランベリー味。

甘酸っぱくて美味しい。

 

クランベリー単体は酷く酸っぱい果物なのだが、このシャーベットは大量に甘味料を投入されているらしく、私好みの甘味に……

 

おっと、溶ける、溶けてしまう。

ぺろぺろ。

 

シャーベットを貪る私を見て、グウェンは呆れたような、微笑ましいものを見るような、不可思議な目で見ていた。

 

 

「う、ごめん、グウェン。一口、食べる?」

 

「え?」

 

 

え?だって食べたいから、そんな目を……。

 

 

「私そんなに食い意地張ってるように見える?」

 

「ご、ごめん」

 

 

私はシャーベットを食べ終え、プラスチックの棒をゴミ箱に捨てた。

 

 

「それで……夏期休暇中の旅行の話」

 

「あ、あー、そう言えば」

 

 

そう、ミッドタウン高校では夏期休暇中に学年旅行がある。

各クラスの委員と教師が連携して旅行を計画する……そんなイベントだ。

 

で、私達の旅行先は……フロリダ州のマイアミだ。

マイアミと言えば……マイアミビーチ。

夏!海!ビーチ!と来れば、まぁ、そう言う事だ。

 

 

「でも新しい水着を買わなくても、学校指定の水着で……」

 

「あ、り、え、な、い」

 

 

グウェンが両手でバッテンを作った。

 

 

「み〜んな気合い入れた水着着てるのに、ミシェルだけスクール指定の水着……そんなんで良いの?」

 

「あ、え、うん」

 

 

別に、良いけど。

 

なんて言ったら話がまた、ややこしくなりそうだ。

 

 

「と、言う事で。午後は水着を買おっか」

 

「グウェンも買う?」

 

「私はもう買ってあるから大丈夫。あ…………そうだ」

 

 

ニッコリとグウェンが微笑んだ。

 

 

「ミシェル、好きな男のタイプ教えてくれない?」

 

 

は?

 

 

「え?」

 

「いや、そんな小難しい話じゃなくてさ……ちょっと気になる事があってね?ねぇ?お願い、ね?」

 

「え、えっと」

 

 

す、好きな異性のタイプ、か……?

 

年頃の女の子ならば、こう言う話は普通にする事……なのだろうか?

 

私は元々、男だったし……今生、今まで学校にも行ってなかったから分からないけど……。

 

いや、でも、そもそも私の自意識の半分以上はまだ男だ。

 

確実に、多分、きっと、男を恋愛対象として見る事なんて……無い。

 

と、思う。

 

でも……そうだな、敢えて……敢えて言うなら。

 

 

「私の、好きなタイプは」

 

 

グウェンの問いへ回答すべく、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

目の前には狼狽えるミシェルの姿があった。

 

ミシェルは恋愛に対しての意欲が薄く、自身の可愛さ……美人である事に無自覚だ。

 

私、グウェン・ステイシーはそれを「勿体ない」と思っていた。

 

目前のミシェルを見る。

 

目を惹くプラチナブロンド。

宝石みたいにキラキラしたコバルトブルーの瞳。

小ちゃい口。

すべすべの肌。

 

小動物的な可愛さと、人形のような綺麗さを両立させた……奇跡的な可愛さ。

 

そして、そんな容姿以上に可愛い中身。

自己評価が低く、少し内向的だけど……だからと言ってコミュニケーションが苦手な訳でもなく、少しユーモアがあって……。

 

あぁでも、一つ……いや二つだけ、欠点と言うか、気になる事があった。

それは、異性に対して危機感が全く足りていない事だった。

二つ目は……異性に対する興味が薄そうに見える事だ。

 

 

 

 

私は今週末の出来事を思い出していた。

 

ミシェルはこの学校に転校して来た時から……特別と言って良いほど、ピーターとは仲が良かった。

 

そんなピーターが放課後、声を掛けてきたのだ。

それもミシェルが手洗いで教室に居ない間に。

 

 

「グウェン……ちょっと頼みがあるんだけど……良いかな?」

 

 

頬を腫らしたピーターが私へ声を掛けた。

……頬を腫らしてるのは私がビンタしたからだ。

 

先日、ミシェルがピーターとデートに出かけたのだが……ピーターのカスボケ童貞野郎が遅刻したのだ。

結局、時間通りに来ず、お家デートみたいな形になったそうで……何故知っているかと言うと、ピーターが結果報告をして来たからだ。

私は懺悔室かって……まぁ、懺悔するのは良いけど、とりあえずビンタしといた。

 

そんなピーターが至極、真剣な表情で声をかけて来た。

私は茶化したりする事もなく、話を聞く事にした。

 

 

「どした?ピーター」

 

「あの……ミシェルに聞いて欲しい事があるんだけど……」

 

「ん?自分で聞けば?」

 

 

このヘタレが。

何かと思えば……どうしてこう、彼はヘタれるのか。

 

ピーターの顔は悪くない。

上中下で評価するなら、上と中の間ぐらいはある。

上の下から、中の上ぐらいだ。

 

だが、そんな彼がクラスの女子に評価されていないのは……ひとえに、ひっじょ〜に情けないからだ。

 

こう、ガツガツ!とした貪欲さと言うか。

俺がリードするぜ!みたいな力強さと言うか。

我儘さとか、強さとか。

 

所謂、男らしさ。

 

そういうモノが足りてないのだ。

その点ではフラッシュに100点ぐらい負けている。

 

……まぁ、フラッシュはガツガツし過ぎだと私は思うけどね。

だけど、ああ言う奴がモテるのが世の中ってこと。

 

 

私が心の中のピーターを詰っていると、現実のピーターが口を開いた。

 

 

「好きな男のタイプとか……」

 

「OK、聞いとくわ」

 

 

間髪を容れず、私は即答した。

 

そう言う事なら、大歓迎だ。

私は他人の恋話が大好きだからね。

 

それに、ミシェルが恋でも何でもしてくれるなら、それは何というか微笑ましいし、嬉しいし。

 

 

 

 

はい、回想は終了。

目の前の出来事に戻る。

 

 

好きな男のタイプは?

 

と私に聞かれたミシェルは狼狽えていたが(そこもかわいい)、意を決したように口を開いた。

 

 

「私の、好きなタイプは……困った時に助けてくれる人、かな」

 

 

へぇ。

 

 

「優しくしてくれる人ってこと?」

 

「優しくしてくれる……って言うよりは、困っている人をそっと助けてくれる……そんな、頼りになる人かな」

 

 

あ、あー。

 

なるほど?

 

 

「……ヒーロー的な?」

 

「そうかも」

 

 

……ふーん?

 

ミシェルも可愛い所があるんだな……いや、違う、可愛い所しかないが、更に可愛い部分があるなんて……。

 

 

だって、それってさ。

 

 

「つまり、自分のピンチに助けてくれる白馬の王子様ってコト?」

 

「……あ、うん?そんな感じ……なのかな?」

 

 

しっくりしていない顔でミシェルが頷いた。

無自覚か、それも可愛い。

 

 

にしても。

 

あぁ、これは。

 

 

ピーター、脈なしって事か……。

 

……だってアイツ、頼りになるヒーローってイメージと真反対にいるような奴だし。

情けないし、頼りないし……まぁ、優しくて良い奴だけど。

 

哀れだ。

 

来週の月曜日……朝から落ち込むピーターの姿を幻視して。

私は十字を切りたい気持ちになった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

僕は……ハリー・オズボーンは、机の上の携帯を眺めていた。

 

携帯電話に表示されているのは、連絡先だ。

 

ミシェル・ジェーン。

 

彼女は不思議な人だった。

齢は僕より一つ歳下だったけど……何というか、不思議な……そう、少し成熟したような印象を受けた。

 

 

「はぁ」

 

 

溜息を吐いて、携帯電話のモニターを消灯した。

 

ここは僕の家だ。

正確には、逮捕された父、ノーマン・オズボーンの家だ。

 

父が『グリーンゴブリン』として逮捕された後、この家は僕の名義となった。

 

ただ、広い。

広いだけの家だ。

 

一人で住むには……広過ぎる。

 

僕は席を立ち、一階にある父の書斎へと向かった。

 

そこは父がいなくなった時から、何も変わらない。

鏡に埃が溜まっていたが。

 

 

「父さん……なんで」

 

 

僕は今まで父が座っていた椅子に腰掛け、頭を抱えた。

 

父は、ノーマン・オズボーンは善人だった。

少なくとも、僕の前では。

強く、優しく、賢く、厳しい。

 

理想の父だった。

母が死んでから、男手一つで育ててくれた。

 

……無差別テロを行うような人間ではなかった。

 

僕は……机の上に立てられている写真立てを見た。

僕と父の写真だ。

 

僕はそれに手を伸ばそうとして……。

 

コンコン、と窓ガラスが叩かれた。

 

 

「誰だ?」

 

 

不法侵入者か?

 

僕が目を向けた先に……浮浪者のような男がいた。

ボロボロになった布を纏い、下には薄汚れた橙色の服を着ている。

 

そして、顔を見て……驚愕のあまり、息が止まるかと思った。

父が、ノーマン・オズボーンがいた。

 

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