【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#32 バース・オブ・ブラック part5

コンクリートの壁に反射された光が、窓から差し込む。

このオンボロアパートは窓の外がすぐ壁だから……朝日が直接入ってくる事はない。

 

早朝なのに薄暗い部屋で、僕は欠伸をした。

 

ここはニューヨーク、クイーンズ。

そのアパートの一室。

僕、ピーター・パーカーの部屋だ。

 

パジャマを脱いで、シャワーを浴びて。

外出用の服に着替えて、髪をセットして。

 

リュックの中身を確認する。

 

前日に確認しているけど、出かける前にもう一度確認する。

心配症なのかも知れない。

 

時計を見て、8時少し前である事を確認する。

 

この時間、毎日はやる気持ちがある。

どうしても、そわそわしてリュックを背負い、部屋の外に出てしまった。

 

学校が凄く楽しい……訳ではない。

確かに勉強は嫌いではないし、授業も楽しいが……それだけで眠い朝から気分が上がる程でもない。

 

でも。

 

ガチャリ、と音がして隣の部屋のドアが開いた。

 

手元の腕時計を見れば、時間は7時54分。

約束の時間は8時なのに、いつも互いに少し早く出てきてしまう。

 

 

「おはよう、ミシェル」

 

 

声を掛けると、隣室の住人が目を数度開いて、閉じて……欠伸をしてから、返事をした。

 

 

「ん、おはよう……ピーター」

 

 

ミシェルは朝に弱い。

彼女はよく夜更かしをしている……当然、睡眠時間が削られれば、その分眠くなるのは当然だ。

 

僕もスパイダーマンとして活動した翌日は眠いからね。

 

 

「眠そうだけど……昨日、何かしてた?」

 

「……掃除?」

 

 

自信なさげに答える彼女は、やはり、どうやら寝惚けているらしい。

 

彼女と僕は毎朝、一緒に登校をしている。

ミッドタウン高校の始業時間は9時だ。

ここから高校までは歩いて30分……それを考慮して8時に出発予定としている。

 

 

「それじゃあ、行こう。ミシェル」

 

「……ん」

 

 

ミシェルは眠そうに目を擦りつつ、ベージュ色の肩掛け鞄を持って歩き出した。

 

普段は賢しい彼女の、こんな気の抜けた姿が見られるのは……きっと僕だけだ。

その事に少しの優越感と、大きな喜びと、幸せを感じていた。

 

 

二人でクイーンズの街を歩く。

途中、いつものサンドイッチ屋によってサンドイッチを買う。

僕は5番のBLTサンドイッチを。

ミシェルは7番のショートケーキを。

これは昼飯用だ。

 

いつもの風景、いつもの景色。

 

いつか、彼女と共に居る事も『いつも』と呼べるようになったら良いな……なんて大それた事も考えて。

 

街中の大きな電光掲示板を見た。

 

そこには、いつものJJJ……新聞会社『デイリー・ビューグル』の『ジェイ・ジョナ・ジェイムソン』が写っている。

彼は吠えるような強い口調でスパイダーマンをバッシングしている。

 

僕は何の気なしに視界に入れて……。

 

 

『スパイダーメナスは殺人鬼!?』

 

 

と言う見出しが見えて、驚愕で見直した。

 

僕が足を止めたのを見て、ミシェルが不思議そうな顔で僕の側に寄った。

 

 

『スパイダーマンがグリーンゴブリンこと、ノーマン・オズボーンを私刑に!』

『匿名の方から映像が届いたぞ!』

『ショッキング過ぎて人に見せられないほど残虐!』

『マスクを被った殺人犯に注意を!』

 

 

ジェイムソンの心当たりのない罵声に、僕は怯んだ。

 

 

「な、なんなんだ……これ……?」

 

 

喉が乾く。

視界がぐらりと揺れた気がする。

 

スパイダーマンが……僕が……殺人犯?

違う、だって殺したのはレッドキャップって言う奴で……。

映像なんて……そんなの捏造に決まってる。

 

もしかして、嵌められた……?

赤い、マスクの男に。

 

どうしよう。

これじゃあヒーロー活動に支障が出る。

声に出して反論するべきなのか?

でも、僕は顔も見せてない……それじゃあ、きっと誰も信じてはくれな──

 

 

「……ピーター?」

 

 

ぎゅっと手を握られた。

ミシェルの……女性特有の小さくて滑らかで、柔らかな手が僕に触れていた。

 

先程の悩みも全て吹き飛び、僕の心臓は活発に動き出した。

 

 

「ミ、ミシェル?」

 

「大丈夫?」

 

 

そう言ってミシェルが上目遣いで見てくる。

僕と彼女では10センチ弱の身長差がある。

 

僕と目を合わせようと自然とそうなってしまう。

 

そんな仕草に……僕の心臓は破裂寸前になる。

 

 

「だ、だだだ、大丈夫!大丈夫……大丈夫、だよ、ミシェル」

 

「……絶対、大丈夫じゃない」

 

 

挙動不審になった僕に、ミシェルが目を細めて訝しむ。

 

ミシェルが原因を探ろうと辺りを見渡し、僕の視界の先……デイリー・ビューグル社の大型電光掲示板を見つけた。

 

スパイダーマンをバッシングする内容は、まだ続いている。

 

それをジッと見つめるミシェルに、僕は不安を感じて声をかけた。

 

 

「あの、ミシェルはさ?」

 

「うん?」

 

「スパイダーマンの事……どう、思う?本当に人を殺しちゃったのかな……って」

 

 

そう聞くと、彼女は眉を顰めて少し困ったような表情をした。

 

 

「私は、スパイダーマンがそんな事すると思わない」

 

「……そう、かな」

 

 

予想外の返答に僕は声が詰まった。

 

 

「うん。だって──

 

 

ミシェルが僕を見て微笑んだ。

 

 

私の憧れ(ヒーロー)だから」

 

 

だけど、その笑顔は……。

 

少し、暗さを隠してるような気がした。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

私の憧れ(ヒーロー)……スパイダーマンが告発された日の夜。

 

私は赤いマスクに黒いスーツ……レッドキャップの姿となって、とある場所まで来ていた。

 

人の目を盗み、地下通路を通り……オズコープ社の地下4階まで来ていた。

 

廃棄された研究施設であり、遺伝子研究用の器材や……様々な実験装置が埃を被っている。

ふと、部屋のプレートを見れば『主任:カート・コナーズ』と言う文字が見えた。

 

ここはグリーンゴブリン騒動で停止された研究施設だ。

 

監視カメラが天井につられている。

それは私を視認しているが、別段騒ぎにはならない。

 

ここに私が居る事……それは、このビルの所有者が黙認しているからだ。

監視カメラの映像は当たり障りのない、前日のモノとすり替えられている。

 

私が今日、ここに来た事を監視者は知らないだろう。

 

コツコツと静かな廊下の床を鳴らして、私は会議室の前に立った。

 

ドアを2回ノックし、一呼吸置く。

返事も待たずに私はドアを開いた。

 

……会議室の中には5人の男がいた。

 

部屋の中、空いた席に座れば、私を含めた6人の人間がいる事になる。

 

私の座った向かいの席。

金魚鉢のような頭をした、緑色のスーツを着こなしている男がいる。

 

 

『初めまして……レッドキャップ』

 

 

そう声を掛けてくる。

声はくぐもっていて、男と言う事は分かるが素の声と合致はし難いだろう。

 

 

『あぁ。初めまして、ミステリオ』

 

 

私は目前にいる悪人(ヴィラン)、ミステリオをマスクの下で睨んだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

オレ、ハーマン・シュルツこと『ショッカー』は髭を剃って髪を整えて、シャワーを浴びて……鏡に映る惚れ惚れとするイケメン顔にニヤッと笑った。

 

コイツは仕事前のルーチンだ。

願掛けみたいなモンで、オレの仕事の成功を保証してくれる。

 

煙草を一本だけ吸って、灰皿に捩じ込み……約束の時間よりは少し早ぇが泊まってたホテルを出る。

ギターケースに偽装した鞄の中にはオレの『ショッカー』としての仕事道具がある。

 

街は静まり返って、人っ子、一人も居ねぇ。

ホテルの前には黒塗りの車が一台停まっている。

 

タクシーでも何でもねぇが、オレは気にせずドアを開けて、鞄を詰め込む。

そのままドカッとオレが座れば、運転手はオレを見る事もなく走り出した。

 

そんで、手元にある手紙を見る。

 

今時、手紙ってよぉ?

まぁ電子データよりは証拠が残り難いからって気持ちは少し分かる。

 

コイツは招待状だ。

 

内容は『一緒にスパイダーマンをボコボコにしようぜ!』って感じ。

正確にはちょっと違うかも知れねぇが、要約するとこんな感じだ。

 

オレはスパイダーマンに恨みがある。

そもそも刑務所にブチ込まれたのは、蜘蛛男の所為だし。

今こうやって雇われ傭兵みたいな事やって、日銭を稼いでるのも蜘蛛男の所為だ。

 

それで、この招待状の送り主……ミステリオって奴は俺みたいな悪人共で協力し、蜘蛛男をボコボコにする計画を立てたって訳だ。

 

 

とあるビルに到着する。

……いや、とあるっつーかオズコープ社なんだが。

 

なぁんで天下のオズコープ様が……あぁ、いや、そうか。

オズコープの社長ってスパイダーマンにブッ殺されたって言ってたな。

そりゃ恨んでる奴もいるか。

 

……今朝、スパイダーマンが元社長のノーマンを私刑(リンチ)で殺したってニュースで見たけどよ。

何だかアレ、こう、納得行かねェんだよな。

 

スパイダーマンは善人気取りのクソ野郎だ。

だからこそ、殺人なんてやらねーと思ってたんだが。

まぁ、映像って証拠があるんだからマジなのか。

 

……そう考えると、ノーマンはスパイダーマンの触れちゃなんねぇ部分をガッツリ踏み抜いちまったのかもなぁ。

 

おぉ、怖い怖い。

 

……トイレで、いつものスーツに着替えて、手甲(ガントレット)を装備する。

更衣室ぐらい用意しとけよ、ボケが。

 

静かな廊下をズカズカと歩きつつ、周りの研究室を流し見る。

ハイテクだな。

資本主義って感じがするぜ。

 

オレも科学を齧ってる身としては、羨ましい限りだ。

こういう場所なら、もうちょい精度の高い装備が……。

 

って、違ぇ、違ぇ。

今日はそんな目的で来た訳じゃねぇんだ。

 

オレは会議室のドアを開く。

 

そこには珍妙奇天烈な奴らが居た。

 

頭が金魚鉢の変なヤツ、死んだ筈のグリーンゴブリンと同じ格好してるヤツ、サイみたいな格好したアホみたいなヤツ。

 

……あ?

何か一人、普通のオッサンがいる。

紺色のジャケットを着たツーブロックの30代……から40ぐらいのオッサンだ。

 

何だコイツ、場違いじゃねぇの?

他の奴ら……オレも含めて、誰一人として普通の見た目してる奴いねーのによ。

 

席に座って少し待ってると、ドアがノックされた。

 

正直、ここに来る奴らの事は知らねぇ。

誰が来るかも、何人来るかも。

 

 

ドアを開けて入ってきたのは……。

 

あぁ、見知った顔だった。

 

 

『初めまして……レッドキャップ』

 

『あぁ。初めまして、ミステリオ』

 

 

レッドキャップの挨拶から、あの金魚鉢みてーなヤツがミステリオ……つまり、招待状の送り主だって事に気付いた。

 

まぁ、只者じゃねー雰囲気がビシビシ出てるからな。

 

レッドキャップが隣の席に座る。

ちょっと前だったらガチでビビっちまってただろうが、今はそんな事は無ぇ。

寧ろ、ちょっとオレも安心しちまうぐらいだ。

 

コイツは良い奴だ。

話も分かるし、冷静だ。

 

……目の前のサイみてぇな奴は、無理そうだ。

そもそもアイツ人間か?

 

ただレッドキャップの中身が女……しかもガキってんだから、少し罪悪感……っつーか気まずさが出てくる。

年端もいかねぇ女が、こんな悪い奴らとツルんでんだからな。

 

ガキは大人しく家で寝てる時間だが……おっと、こんなこと言ったらマジで殴り殺されちまうかも知れねぇ。

気をつけねぇと。

 

舐めてる訳じゃねぇ。

ただ、オレの中の固定観念としてガキは遊んで暮らすもんだって思ってるだけだ。

……そもそも、学校とか行ってんのか?

容姿も知らねーし、マジで私生活のイメージが湧かねぇ。

 

適当な事考えてっと、金魚鉢……ミステリオと呼ばれたヤツが席から立ち上がった。

 

 

『ようこそお集まり下さりました、5人の復讐者よ』

 

 

……ちょっと胡散臭ぇ、感じがする。

 

 

『まずは各々が自己紹介をしましょう。どんな目的を持ってスパイダーマンに復讐するか、意識合わせです』

 

 

そう言うとミステリオが指を弾いた。

パチン、と言う音がして壁が消えてなくなる。

 

まるで宇宙のような景色になって、オレはビビって席から転がり落ちそうになる。

 

だが、隣のレッドキャップは腕を組んだまま落ち着いてるし……何なら、あのよく分からねージャケット姿のオッサンも動じてねーし。

 

オレは気合いで持ち堪えた。

ビビってねぇーよ?

って雰囲気を出しておく。

 

 

『……フフフ』

 

 

……隣の席から微かに笑うような声が聞こえた。

 

 

『私の名前は『ミステリオ』!あらゆる真実をも捻じ曲げる魔術師さ』

 

 

再度、ミステリオが指を弾くと壁や床、全てが元に戻った。

 

 

『これはデモンストレーションって奴です』

 

 

……胡散臭いが油断ならねぇ、やべぇ奴だな。

 

 

『私は妻と娘をスパイダーマンに殺された。その仇を取りたいんです。ここにいる5人の方々と協力し、必ず怒りの裁きを下しましょう』

 

 

そう言って、ミステリオは席に座った。

 

……妻と娘を殺された?

スパイダーマンって、オレ達の知らねー所で結構殺してんだな。

 

 

なんて感想を持ちつつ、今度は隣の席に座っているグリーンゴブリン……いや、本人が死んだ訳だから、絶対偽物なんだが、そいつが立った。

 

 

「ハリー・オズボーン……先代の息子だ。父を殺したスパイダーマンを必ず殺す。……そうだな、『俺』の事は『ニュー・ゴブリン』と呼んでくれ』

 

 

そう短く言って席に座った。

……なるほど、現オズコープ社の社長じゃねぇか。

そりゃあ、オズコープ社のバックアップが有るんだから、こんなデケぇビルを貸し切れる訳だ。

何てったって、自分の持ち物なんだからな。

 

 

 

続いて、サイみてーな奴が立った。

 

 

「俺の名前は『ライノ』だ。用心棒をやってるんだが……アイツに何回も邪魔されている。スパイダーマンが居なくなりゃ、俺の仕事も楽になる。だから協力する」

 

 

ドカッとサイ男……ライノが座った。

2メートル近ぇ巨体が座っても壊れねぇ、オズコープの椅子って結構良い椅子なのかも知れない。

 

 

……あ、オレの番か。

 

オレは席から立って、自己紹介する。

 

 

「オレは『ショッカー』、傭兵だ。あんの蜘蛛男に一回捕まって務所にブチ込まれてる。絶対ぇ、ブチのめす。以上」

 

 

俺が座ると、隣のレッドキャップが立った。

 

 

『私は『レッドキャップ』だ。依頼を受けてここに居る。それだけだ』

 

 

男か女かも分からねー機械音声で喋って、レッドキャップが無愛想に座った。

 

……うーん、何つーかコミュニケーション能力に難があるよな。

寡黙と言えばカッケーが、陰気くせぇと言えばダサい。

……ダサイと言えば、目の前に意味わかんねーサイ男がいるが。

 

 

……そうして5人の自己紹介が終わり、残るはあの普通のオッサンだけになった。

 

 

オッサンは周りをチラチラと見て、「あ、俺か」って顔で立ち上がった。

 

 

「あー……俺はエディ、『エディ・ブロック』。ただの新聞記者だ。別にスパイダーマンに何か恨みがある訳じゃないけど、『相棒』がどうしても殺したいって騒ぐから……そんな感じだ。えーっと、よろしく?」

 

 

オッサン……エディが席に座る。

 

……何なんだ、アイツ。

訳分からねぇ。

 

でも、こん中で一番格下だってのは分かった。

後で舐められねぇ様に、ちょっと脅して──

 

 

『ハーマン』

 

 

横から、レッドキャップに小さな声で話しかけられた。

 

 

「お、おう。何だ?」

 

 

目の前に赤いマスクが見えるモンだから、ビビりそうになったじゃねぇか。

だが今、レッドキャップが話しかけてくるって事は結構重要なコトかと思い、耳を傾ける。

 

 

『あの男に近付くのは止めておけ。頭を齧り取られるぞ』

 

「……は?」

 

 

俺は小声で困惑した様な声を出しつつ、普通の新聞記者のオッサン……エディを見た。

は?アイツが噛み付いて来るのか?

つか、齧り『取られる』って、そんな口がデカいのか?

そういうスーパーパワーを持ってるミュータントなのか?

 

だが、疑う気持ちは少し有っても、レッドキャップの言う事だ。

コイツは、しょーもない嘘を吐かない。

 

慌てて俺は頷いて、それを見た赤いマスクが納得した様に俺から離れた。

 

 

そして、またミステリオが声をあげた。

 

 

『これで全員の自己紹介は終わりましたね。このメンバーで協力し、必ずあの蜘蛛男を倒しましょう』

 

 

ミステリオの発言に全員が頷く。

 

……レッドキャップとエディだけ頷いてねぇな。

協調性無さすぎだろ、コイツら。

 

 

『では、我々のチーム名……私が付けさせて頂きますね。そうですねぇ……6人ですので──

 

 

ミステリオが胸の前で手を叩いた。

 

 

『『不吉な6人(シニスター・シックス)』と言うのは、どうでしょう?』

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