【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#33 シニスター・シックス part1

ウェブシューターから(ウェブ)を放ち、スイングする。

夜の街に、赤い残像が駆ける。

 

ここは、ニューヨーク。

ミッドタウン。

 

目的の場所は……あった。

 

ビルの壁に存在する電光掲示板は、夜中には使われていない。

日中はJJJ(ジェイムソン)が五月蝿い液晶も、夜は静かに眠っている。

 

黒くなった液晶が壁一面にある巨大なビル。

新聞社『デイリー・ビューグル』だ。

 

僕はビルの側面から壁を登り、換気用の小窓から中に入り込んだ。

 

僕の目的はジェイムソンが持っていると思われる、グリーンゴブリンを殺した殺人映像(スナッフフィルム)を回収し、確認する事だった。

 

ゴブリンを殺したのはレッドキャップだ。

それは僕が目の前で確認している。

 

なのにジェイムソンは僕がゴブリンを殺したと言っている。

……映像でも残っていると言われている。

 

それは本当なのか?

そもそも映像なんて、ある訳がなくて。

それとも捏造された映像があるのか……。

 

とにかく。

手掛かりを得る為に僕はデイリー・ビューグルのビルに侵入しているという訳だ。

 

アルバイトで何度も来ているので、デイリー・ビューグルの内部構造には詳しい。

僕は7階のジェイムソンの編集部長兼社長室まで向かう。

 

鍵がかかっているけど、オーソドックスなドアノブ式だ。

僕は万能鍵開けキット……スタークさんに絶対悪用するなと言われているガジェットを使って、ドアを開けた。

 

広い部屋にポツンと机が一つあるだけだ。

……いや、壁に大きなジェイムソンの顔写真がある。

自信過剰……と言うには控えめ過ぎるほど、彼は我が強い人間だ。

 

でも、彼自身は悪人や犯罪者を毛嫌いしている筈だ。

だから、恐らく今回の事も騙されたに違いない。

 

僕は机を漁り、一つのUSBメモリを見つけた。

メモリには『GG殺害の真実!』と書かれている。

 

GG……グリーン・ゴブリンか。

 

僕はそれをスーツの収納部に入れようとして……。

 

 

「貴様!何をしている!」

 

 

と大きな怒声が聞こえた。

 

僕は慌てて振り返ると、そこにはジェイムソンが居た。

 

 

「貴様、スパイダーメナスめ!私の持つ証拠を盗みに来たのか!何と恥知らずな奴だ!」

 

「あ、いや!違うんです!これは──

 

「問答無用だ!」

 

 

僕が弁解しようとしても、彼は怒るばかりだ。

だが、証拠を盗みに来たのは事実だ。

こればかりは言い訳が出来る訳もなく、僕は両手を上げた。

 

 

「ち、違うんです!恐らくこの映像は──

 

「……なんてね」

 

 

急にジェイムソンが笑顔になった。

口調もおかしくなって──

 

 

突然、僕は吹き飛ばされた。

部屋の中の机も、壁にかけられた写真も、全て吹き飛んだ。

 

 

「うぐっ」

 

 

背後にあった一面の窓ガラスが砕け散る。

僕は(ウェブ)を天井にくっつけて踏ん張って耐える。

この高さから落ちれば、流石に僕も重傷だ。

 

何とか耐えて、ジェイムソンを見れば、その姿が緑色のモヤになって消えた。

 

 

「今のは……!?」

 

 

部屋が暗くなる。

空から幾つもの墓標が落下してきて、突き刺さった。

天井は深い黒色になって星が輝く。

僕の周りを、まるでローマのコロッセオのように囲う。

床も気付けば土の様な見た目になっている。

 

まるで、現実ではないような……違う!

本当に現実ではないんだ。

 

僕の超感覚(スパイダーセンス)が目に映る景色を偽物だと判別していた。

 

 

「……誰だ!隠れてないで出てこ──

 

「隠れてなんてないさ!……隠れる必要なんて無いからね」

 

 

後ろから声が聞こえて、振り返る。

 

そこには鏡の様に反射する球体状のマスクを被った、緑色のスーツを着た男がいた。

 

 

「ジェイムソンをどこに……!」

 

「ジェイムソン?あぁ、気付いてないのかい?さっき見たのも幻さ」

 

 

男が指を鳴らせば、ジェイムソンが真横に現れた。

 

 

「私はミステリオ。真実を操る魔術師さ」

 

 

再び指を鳴らせば、ジェイムソンが膨張して……爆発した。

 

 

「うわっ!?」

 

 

それは幻覚ではなく、本当の衝撃波を伴って僕に襲いかかった。

 

そのまま吹っ飛ばされて、見えていなかった壁を突き破り、隣の部屋に転がり込んだ。

 

 

壁の向こうでは未だに不思議な光景が写っている……けど、こっちの部屋はいつも通り、普通の光景だった。

 

 

「……はぁ、ショッカー。少し出力を抑えてくれませんか?」

 

「アンタの演劇に付き合う義理はオレにはねぇ。まどろっこしいんだよ、アンタはよ」

 

 

そう言って幻覚に包まれた部屋から、人影が一つ現れた。

大きな手甲(ガントレット)

黄色のスーツ、茶色のプロテクター。

 

見覚えのある姿に、僕は口を開いた。

 

 

「……ハーマン?」

 

「あぁ?スパイダーマンよぉ……オレは『ショッカー』だって──

 

 

ショッカーが両腕を僕に向ける。

超感覚(スパイダーセンス)が警鐘を鳴らしている。

 

 

「前にも言っただろうが!」

 

 

直後、ショッカーの手甲(ガントレット)が金色に光り、衝撃波が放たれた。

 

 

ショッカーこと、ハーマン・シュルツとは一度戦った事がある。

彼は銀行強盗をしていて、金庫を『バイブロ・ショック・ガントレット』で破壊した所で遭遇した。

一度は負けそうになったけど、手甲(ガントレット)の構造上の弱点を突いて倒した。

……その弱点は、手甲(ガントレット)のボタン部を(ウェブ)で固められると衝撃波が撃てなくなるという弱点だが……。

 

勿論、今の彼の手甲(ガントレット)には弱点(ボタン)は見当たらない。

改良されている……手甲(ガントレット)自体、ハーマンが自分で作った物だ。

発明家である彼からすれば、欠点の改良は最優先事項だったのだろうか。

 

 

とにかく、今は目の前の事に集中だ。

僕は両手を組み、足で後ろに地面を蹴った。

 

僕が取った選択肢とは、衝撃を正面から受け止めず、身体ごと受け流す対策だった。

 

そのまま僕は吹っ飛ばされるけど、空中で姿勢を制御して、壁に対して受け身を取る。

 

 

「チッ!」

 

 

僕に有効打を与えられなかった事に苛立ち、ショッカーが舌打ちをした。

 

 

「驚いたな、二人がかりで来るなんて!勝てないからって、人数で押すつもりかい?」

 

 

僕は軽口を叩きながら、勝ち筋を探す。

幻覚を見せて来るトリッキーなミステリオ。

正面から遠距離攻撃を放って来るショッカー。

 

どちらも強敵だけど、僕に有効打を与えられない時点で何とかなる気がする。

 

僕は壁に背を預けて、立ち上がり──

 

 

「ふむ」

 

 

ミステリオが手を顔に当てて、声をあげた。

 

 

「私がいつ、二人だと言ったかな?」

 

「え?」

 

 

背後の壁が壊れて、銀色の両腕が飛び出した。

 

その両腕に抱き締められて、身体が宙を浮く。

万力の様な力に抵抗しつつ、僕は背後の敵を視認した。

 

 

「ライ、ノまで……!」

 

「久しぶりだな!そして、死ね!」

 

 

ライノが力を強めて、僕を押し潰そうとする。

 

ライノは元傭兵の犯罪者だ。

サイ型のパワードスーツを身に付けて、強盗や盗み、用心棒等を行う傭兵だ。

 

パワー系の敵だけど……。

 

 

「くっ……ふぅっ……!」

 

 

全力で腕を開き、ライノの腕を振り解く。

力自慢だけど、単純な腕力なら僕の方が上だ。

 

そのまま回し蹴りで露出している顔を蹴り飛ばして距離を取る。

 

 

「三人……流石にもう来ないよね?」

 

 

そう言いながらも僕は警戒する。

間違いなく、それ以上に来ているだろう。

 

僕は両目を閉じて、超感覚(スパイダーセンス)に集中する。

 

 

……窓の外だ!

 

 

窓の外から橙色の球体が投げ込まれる。

咄嗟に、僕はそれを蹴り飛ばした。

それは宙で爆発したけど、僕にダメージはない。

 

 

……しかし、窓と言っても、ここは7階だ。

空でも飛ばなければ来れない筈だ。

 

僕は窓の外を見た。

 

 

「グリーンゴブリン……!?」

 

 

それはスケートボードの様な形状をしたグライダーに乗るグリーンゴブリンの姿だった。

 

 

「違う……!『俺』はニューゴブリンだ!」

 

 

そして、その声は……。

 

ハリーの声だった。

 

 

「何で……!?」

 

 

蝙蝠型の手裏剣が投擲される。

 

違う、理由は分かっている。

彼は僕が……父であるノーマンを殺したと思っているからだ。

 

手裏剣を(ウェブ)で叩き落とす。

 

 

辺りを窺う。

 

ショッカーとミステリオ。

ライノとゴブリン。

 

これで4人……それでも、僕の超感覚(スパイダーセンス)はまだ見えない危険を察知している!

 

ガシャリ、とドアが開かれた。

 

 

「……あ、うわ。凄い事になってるな……」

 

 

……誰だ?

 

短髪で、ラフな格好をした男が入って来た。

明らかに場にそぐわない。

 

一見すると巻き込まれた一般人に見える。

超感覚(スパイダーセンス)でも全く反応しない……だけど、逆にそれが不気味だった。

 

深夜遅く、デイリービューグルに居て……この状況を見ても少し驚くだけで怖がらない。

 

間違いなく、普通じゃない……!

 

 

「あ、スパイダーマン。いやぁ、一回見てみたかっ『見つけたぞ!』

 

 

突然、男の方から複数の男性の声を重ね合わせたような不気味な声が鳴り響いた。

 

 

「はぁ……あんまり、やり過ぎるなよ」

 

『無理だ、エディ!止められない!止まらない!』

 

 

瞬間、男の身体が黒いタールのような物で包まれた。

それは大きな肉体を形成し、2メートル近い筋骨隆々な男の様なシルエットになった。

胸には白い蜘蛛の様なデザイン。

 

頭部は僕、スパイダーマンに近しい姿で……だけど、大きく口が裂けて乱雑に生えた歯が剥き出しになる。

そこから舌が伸びて、首付近まで垂れ下がった。

 

 

『一年ぶりだ、スパイダーマン!』

 

 

その姿を見た事はなかった。

初めまして、の筈だった。

 

 

『貴様が俺を教会に捨ててから、散々な目に遭った!変な奴らに7つに切り刻まれた!お前も同じ様に切り刻んでやる!!』

 

 

その言葉には覚えがあった。

 

1年前……教会に捨てた……?

 

そうだ、僕がアベンジャーズの人達と宇宙で戦った時、スーツに黒いタールみたいなモノが付着した。

 

スーツは真っ黒になったけど、それを着ると身体が頑丈になって……恐怖心も感じなくなった。

僕はそれを『ブラック・スーツ』と呼んで数ヶ月の間、使用していた。

 

だけど、『ブラック・スーツ』を着ていると力だけじゃなくて、怒りも増幅されて……抑えられなくなったんだ。

犯罪者を必要以上に攻撃してしまったり、常にイライラしてしまったり。

宇宙に詳しい仲間から、それは『シンビオート』って言う寄生生物だって教えられた。

 

それでも『ブラック・スーツ』の恩恵から捨てようとしなかったんだけど……取り返しの付かない事になりそうになって。

僕は音に弱いのを利用して、教会の鐘に身体をぶつけて……スーツを地面に投げ捨てたんだ。

 

『シンビオート』は宿主を失えば1時間も持たずに死亡する。

そう聞いていた僕は、満身創痍だったのもあって『ブラック・スーツ』を放置してしまったんだ。

 

まさか、あの場所に僕以外の人間がいて、回収されていたなんて!

 

 

『貴様は俺の完璧な宿主だと思っていた!だが、それは間違いだった!今の宿主はダメでバカな奴だが「おい、言い過ぎだろ!」悪い!だが事実だ!』

 

 

体内にいる宿主と喧嘩しつつ、肥大化した『ブラック・スーツ』が僕へと歩み寄る。

 

 

『今の俺は貴様と結合していた時よりも遥かに強い!もう今までの俺とは生物としての(レベル)が違う!俺は……いや──

 

 

その巨大な腕を薙ぎ払い、部屋の半分を吹き飛ばした。

 

床の絨毯が捲れ上がり、床の建材が露出する。

 

僕は一歩引いて避けたけど、当たれば間違いなくダメージになっていた。

 

……そして、一つ。

全く超感覚(スパイダーセンス)が反応しない事に気付いた。

 

コイツは……僕に対して特効を持っている!

 

 

俺達はヴェノムだ(We are Venom)!』

 

 

足で床を踏み抜いて、恐るべき速度で巨体が迫る。

腕から触手の様なモノが伸びて、避けようとした僕を引き寄せた。

 

しまった……!

 

普段から超感覚(スパイダーセンス)で反応して避けているから、超感覚(スパイダーセンス)で読めない攻撃への反応が遅れてしまう。

 

僕はそのまま床に叩きつけられ……頭上から足で踏み付けられた。

 

床は『ヴェノム』の力に耐え切れず、破砕する。

僕とヴェノムは下の階へ落下して、再び床を突き破る。

 

 

「くっ!離、せ!」

 

 

落下して行く中、ウェブで窓ガラスを引き寄せる。

ガラスは僕の引く力に耐えられず砕けた。

ガシャン!と大きな『音』が鳴って、一瞬ヴェノムの動きが鈍った。

 

やっぱり、弱点は克服出来ていない!

ヴェノムを全力で蹴り飛ばして、距離を取った。

 

 

息を荒らげながら、僕は距離を取る。

上の階層から、ショッカー、ライノ、ゴブリン、ミステリオが降りてくる。

そして、ヴェノムがゆっくりと立ち上がる。

 

これで……5人。

 

 

ミステリオが僕の前に立つ。

 

 

「どうかな?スパイダーマン。これが君を倒す為に集めた『不吉な6人(シニスター・シックス)』さ!」

 

(シックス)……?はは、は、足し算も出来ないのかい?どう見たって5人じゃ……」

 

 

僕は少しでも傷を癒す為、軽口で時間を稼ごうとして……。

 

超感覚(スパイダーセンス)に強烈な反応があった。

咄嗟に身体を後ろに曲げて、横からの攻撃に備える。

 

瞬間、発砲音が聞こえた。

弾丸が僕の前を横切り、壁に命中した。

 

 

「……君は」

 

 

見覚えのある姿に僕は震えた。

 

 

『これで6人だ、スパイダーマン』

 

 

レッドキャップ。

赤いマスクの男が、そこに居た。

 


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