【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#34 シニスター・シックス part2

雲が月を覆い、僅かな街灯だけが光を灯す暗闇の摩天楼。

 

僕はデイリービューグル社のビルから吹き飛ばされた。

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

苦痛で意識が飛びそうになりながら、僕は地面へと落下して行く。

 

頭上からグライダーに乗ったニューゴブリンが急降下し、落下速度を上回る速さで接近してくる。

 

 

ゴブリンが腰に装備していた『パンプキンボム』を投下する。

 

咄嗟にウェブシューターから(ウェブ)を放ち、ボムを上空に吹き飛ばす。

 

ボムは上空に押し戻されて、ゴブリンの近くで爆発した。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

グライダーに確かなダメージを与えると、ゴブリンは咄嗟にデイリービューグルのビルへと飛び移った。

 

だけど、この一瞬で地面に大きく近付いてしまった。

もうウェブで掴まるだけじゃ間に合わない……!

 

僕はビルの壁……ガラス部分に手を突き刺して落下速度を落とす。

静止は出来ない。

ガラスを砕きながら落下していく。

 

バリバリと、雷に聞き間違う程の音を立てて割れる。

 

そして、割れたガラスは鋭利なナイフになって僕のスーツと肉体を傷付けた。

 

 

「う、づっ……!」

 

 

でも、ここで手を離したら、僕は地面へ真っ逆様だ。

 

この高さなら死にはしなくても、骨の一つや二つは折れてしまう。

 

そうなれば、あの6人から逃げ切れず……殺される。

 

僕はもう既に戦う事を諦めていた。

戦力の差が激し過ぎる……ここは退くしかない。

 

ある程度、落下速度が軽減したのを見計らい、僕はガラスを蹴って宙に飛び出した。

 

上の階層に、まだ『シニスター・シックス』は居るだろう。

恐らく下を覗き込んでいる筈だ。

僕は辺りにある街灯に高出力で(ウェブ)を放ち、破壊する。

 

電灯が破裂する音と共に、灯りが消えて暗闇になった。

 

地面まで、残り10メートル。

頭上に地面が迫っている。

 

暗闇に紛れて、敵に見つからないよう祈りつつ……僕は路地裏のゴミ収集ボックスの中へ落下した。

 

詰め込まれたゴミ袋をクッションにして、落下の衝撃を受け流す。

入った時の反動で蓋が閉まり、外からは気付かれない状態になっただろう。

 

……拙い、意識が朦朧として来た。

ダメだ、今寝たら……寝たら……。

 

 

ゴミ箱の側面、隙間から外を伺う。

 

二つの人影が着地した。

 

……ショッカーと、レッドキャップだ。

ショッカーは自身の手甲(ガントレット)を活かして、着地の衝撃を相殺したみたいだ。

レッドキャップは……見た限り、何もしていない。

何か、衝撃を吸収する能力でもあるのだろうか。

 

回らない頭で考察していると、ショッカーが口を開いた。

 

 

「ちっ、逃げやがったぜ。とんだ臆病者だな……」

 

『それを言えば、多勢に無勢である私達も卑怯者だが』

 

「……ん〜?オイ、蜘蛛野郎の肩持つのか?」

 

『客観的な事実だ、ハーマン』

 

 

……二人は随分、仲が良さそうだ。

 

ショッカーの本名『ハーマン』と呼んで怒られていないのが証拠だ。

彼は自分の名前を呼ばれる事を嫌っている筈だ。

恐らく、レッドキャップ相手には特別に許している……と言う事だろうか。

 

自分の知っている悪人(ヴィラン)達の意外な交友関係に、僕は驚いた。

 

 

瞬間、レッドキャップの顔が僕の潜んでいるゴミ収集ボックスに向いた。

 

まずい、今ので見つかったのか?

 

そう思って抜け出す準備をしていた……だけど、レッドキャップは僕がいる場所から目を逸らした。

 

僕は安心した。

今の状態で戦えば、間違いなく負ける。

息を殺したまま、身を弛緩させた。

 

そして、レッドキャップが口を開いた。

 

 

『……我々は6人もいる』

 

「あ?」

 

 

突如、脈絡のない言葉にショッカーが驚いた。

 

 

『それこそ、一人では勝てないだろうな。スパイダーマンは』

 

 

そう言って、ショッカーから離れる様に歩き出した。

 

 

「ちょっ、おい!なんだよ!」

 

 

そのままショッカーも、レッドキャップの後ろを付いて行くように離れていった。

 

安心してため息を吐く。

……でも。

まずい、意識が……。

 

失血量と緊張感が失われた事も相まって、急激に意識が遠のいて行く……。

 

そして、そのまま僕は意識を失った。

ミッドタウンのゴミ箱ホテルで、一泊する羽目になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がさり、と蓋が開いた。

 

その瞬間、僕は目を覚ました。

混濁する意識の中、霞む視界のピントを無理矢理合わせる。

まだ薄暗い……だけど陽は昇っている。

恐らく、早朝だろうか。

 

一つの人影が、ゴミ箱で寝ていた僕を覗き込んでいた。

 

 

「……何してんの?」

 

 

徐々に視界が明瞭になって行く。

それに伴って、思考も。

 

そこに居たのは女性だ。

30歳前後の綺麗な女性だった。

 

黒いジャケット、黒いシャツ、黒いジーパン。

全身真っ黒で、髪も黒い。

 

だからこそ、色白い肌と赤紫色のリップが目立っていた。

 

僕を見た彼女の眉は下がっていて、困っている……と、言うよりは面倒臭そうな顔をしていた。

 

 

「……おはよう、スパイダーマン?」

 

 

……そうだ。

今、僕はスパイダーマンの姿で……『シニスター・シックス』から逃げていたんだ。

とにかく、誤魔化して……ここから離れないと。

 

 

「あ、えっと、コレは──

 

「あー、取り敢えず。ウチ来る?」

 

 

そう言って、女性は親指を立てて、後ろを示した。

指差した先は路地裏だ。

 

 

「ちょっと歩くけど、事務所あるから」

 

「事務所……?」

 

「そ、探偵事務所」

 

 

僕は身体を起こして、ゴミ箱を出ようとして……。

 

 

「痛っ……」

 

「まぁ……救急箱ぐらいはあるし、手当ぐらいはしてあげる」

 

 

そう言って彼女は僕の腕を掴んで──

 

 

「よっ、と」

 

 

片手で僕を抱き上げた。

 

 

「うわっ!?」

 

 

ティーンエイジャーとは言え、男性一人を持ち上げているのに辛そうな顔をしていない。

見た目に反して、かなりの力持ちだと言う事が分かって、僕は驚いた。

 

そうして彼女は僕を運ぼうとして……眉を顰めた。

 

 

「……くっさ」

 

 

ごろり、と僕は地面に転がされた。

 

 

「流石に無理。臭すぎ。一人で歩いて」

 

 

うっ……。

女性に「臭い」なんて言われたのは初めてで……結構ショックを受けてしまった。

 

身体も心もボロボロだ。

 

僕はよろよろと歩いて、路地裏を進んで行く彼女に声をかけた。

 

 

「あの、探偵って……」

 

「ん?私立探偵。金貰って色々調査する仕事してんの、私」

 

 

迷う事なく突き進んで行く彼女に置いて行かれないように、僕も足を進める。

 

そして、純粋に湧いた疑問を尋ねる。

 

 

「……何者、なんですか?」

 

 

片腕で人を持ち上げるパワーがあって……明らかに只者じゃない。

悪人では無さそうだけど……正体が分からなければ不安になる。

 

 

「何でも聞くね。知りたがり?自分の顔は隠してる癖に」

 

「あ、いや、すみません……」

 

 

彼女は僕へ、どうでも良さげな顔をして振り返った。

 

 

「……ジェシカ・ジョーンズ。名乗ったし……これで満足?」

 

 

ジェシカは気怠げに……また歩き始めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

ミッドタウン・ウェスト。

AKA(もしくは)、ヘルズキッチン。

 

乱立された雑居ビルの中の一つ……そこに『エイリアス探偵事務所』があった。

 

所属しているのはジェシカのみで、経営も、業務も、調査も一人でやっているらしい。

 

 

マスクとパンツだけ残して裸になった僕は、ジェシカに包帯で巻かれていた。

羞恥心が凄まじい。

 

……何だか最近、人に治療されてばかりな気がする。

前もミシェルに手当てして貰ったし。

 

 

「よし、っと」

 

 

バチン!

 

包帯を巻き終えて満足したジェシカが、僕の背中を叩いた。

 

 

「痛っ!?」

 

「男なんだから我慢しな」

 

 

そう言う問題じゃない、と怒りそうになるけど、助けてもらったので強く言えない。

 

でも、絶対叩く必要は無いと思う。

 

 

「それで……何かあった?昨日のデイリービューグルの騒ぎってアンタがやったの?」

 

「アレは──

 

 

僕は昨日起こった出来事を語った。

冤罪をかけられている事。

僕を恨んだ悪人達が徒党を組んでいる事。

負けてしまった事を。

 

 

それを聞いたジェシカが、少し興味深そうな顔をして頷いた。

 

 

「……へぇ。じゃあさ、どうすんの?」

 

「どうするのって……」

 

「ヒーローなんだからさぁ。自分で考えて行動しなきゃ」

 

 

にやにやと意地の悪そうな顔でジェシカが笑った。

馬鹿にしているような……面白いものを見るような、そんな顔だ。

 

そして、僕は頭で対策を考える。

 

……無理だ。

どうすれば六人に勝てる?

 

 

……そう言えば。

 

 

『一人では勝てない』

 

 

そう、レッドキャップが言っていた。

逆に言えば一人じゃなければ勝てるって事だ。

 

一対一なら負ける事もない筈だ。

……多分。

 

必要なのは仲間数だ。

 

……そして、僕が呼べる仲間と言えば。

 

 

「ジェシカさん、電話を借りても良いですか?」

 

「良いけど。どこに電話すんの?」

 

「アイアンマンに」

 

 

僕は据え置きの電話を借りて、アイアンマン……スタークさんの電話番号にコールしようとして。

 

 

「あ、あー、うん。アベンジャーズの、ね……」

 

 

何処か歯切れの悪そうな声で、ジェシカは一人呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果から言えば。

 

 

……ダメだった。

 

 

電話をかけて出てきたのはジャービスだった。

……ジャービスは、スタークさんの作ったAIだ。

 

スタークさんは……と言うかアベンジャーズの面々は今、宇宙にいるらしく数ヶ月は帰って来ないらしい。

何でもクリー、だか何だか……宇宙人と戦争中らしい。

 

とんでもなくデカいスケールの話に、僕は呆れる事しか出来なかった。

流石に呼び戻すのも忍びないし……僕の悩みがちっぽけに見えて来た。

 

結局、僕が人を信用せず、マスク姿で正体を隠してヒーローをやっているツケが来てしまったみたいだ。

 

だって、僕は他のヒーローへの連絡先も知らないし……知ってても、助けてくれるほど仲は良くない。

頼れる先輩ヒーローが一人いても、対等な立場の仲間は居なかった。

 

 

「……はぁ」

 

 

思わず溜息を吐いた僕に、ジェシカが呆れたような安堵したような顔で話しかけて来た。

 

 

「見て分かるけど……ダメだった?」

 

「うっ。電話も借りたのに……すみません」

 

「別に?謝らなくても良いけど……来られたら気まずかったし」

 

 

……ジェシカはスタークさん……と、言うよりアベンジャーズを知っているようだった。

でもそれは親しさと言うよりは、後ろめたさのような物を感じる。

気になるけど……何だか訊いたらダメな雰囲気を僕は感じ取った。

 

溜息を吐きながらジェシカが棚を開いた。

中から瓶を取り出し……栓を開けて、そのまま飲み始めた。

コップにも入れず、直飲みだ。

 

あまりのズボラさに驚く僕を他所に、ドン!と机に瓶を置いた。

 

 

……しかも、それは酒だった。

ヘヴンヒル・ウィスキー……と、ラベルに書いてあった。

 

僕は未成年だし、お酒には詳しくないけど……そんな飲料水みたいに一気に飲めるような物だっけ?

 

 

「アンタも飲む?」

 

「あ、いえ……僕、未成年なので……」

 

「は?」

 

 

ジェシカが驚いたような顔で僕を二度見した。

 

 

「小柄だと思ってたけど、まだガキなのか……」

 

 

ジェシカが何かに苛立った様子で舌打ちをした。

僕は何か粗相をしてしまったのかと、怯える。

 

 

「それで?どうすんの?」

 

「……仲間が要るんです。一人では勝てなくて」

 

「ふーん……?」

 

 

ジェシカがまた酒をあおり、ゴクリと喉を鳴らした。

 

……そこで、僕は気付いた。

彼女は僕を軽々と持ち上げていた。

アベンジャーズとも面識があるみたいだし。

 

……多分、きっと。

何かスーパーパワーを持っているに違いない。

 

 

「ジェシカさん、お願いがあるんですけど……」

 

 

僕はそう言って、彼女の協力を仰ごうとして……。

 

 

「良いけど?」

 

 

と、まだ何も言っていないのに了承された。

 

 

「あの、僕まだ何も……」

 

「子供を助けるのが大人の仕事。それに、街に悪い奴が居るのも見逃せないからね」

 

 

空になった酒瓶をゴミ箱の横に置いて、椅子にかけていたジャケットを羽織った。

 

 

「悪人チームには、ヒーローチームをぶつけるのが王道ってワケよ。分かる?」

 

「……あ、ありがとうございます」

 

 

思わず少し涙が出そうになった。

彼女は少し……いや、かなり粗暴だけど……凄く良い人だった。

 

 

「分かったなら、早く服を着て……って、スーツ姿は辞めて欲しいけど。私服とかないの?」

 

「う、すみません……」

 

「……ウチの旦那の奴ならあるけど。ほら、ちょっとデカいけど」

 

 

そう言って出された服を着る。

デカい黄色のシャツと、デカ過ぎる短パン。

僕は短パンを無理矢理ゴムで閉めて……マスクを脱いだ。

 

マスクを脱ぐのは少し嫌だったけれど。

助けてもらって、協力もして貰うのに姿を隠したままってのも不誠実な気がした。

 

そんなマスクを脱いだ僕を見て、ジェシカが少し驚いた。

 

 

「う、わっ。マジでガキじゃん」

 

 

ボソッとジェシカが言った言葉を聞き流して……。

うわっ。

ズボンがデカ過ぎる。

 

シャツもそうだけど……短パンなのにデカ過ぎて、僕からしたら長ズボンみたいになってる。

足回りや腕回りも全然違う。

まるで子供が大人用の服を着ているような……。

 

ジェシカの旦那さん……もしかしなくても、滅茶苦茶デカいんじゃないかな。

縦に、だけではなく横にも。

 

筋肉ムキムキだったりするのだろうか。

 

 

「……よし。着替えたんなら、さっさと行くよ」

 

 

そう言ってジェシカがドアに手を掛けた。

 

 

「行くって……何処にですか?」

 

「ん?そりゃあ、冤罪かけられた容疑者を助けるんだったら──

 

 

開いたドアの先から、光が漏れた。

 

 

「弁護士のトコでしょ?」

 

 

ジェシカがそう言って、笑った。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

教師がホワイトボードにペンを入れる。

 

私は欠伸を一つ、教師にバレないようにする。

 

退屈だ。

 

 

グウェンは入院してるから居ないし。

ネッドは別クラスだし。

ピーターは……学校に来てないし。

 

少し心配だけど、学校に「休む」との連絡が入っていたので無事な事は確かだ。

 

傷が深くて休養しているのか……。

 

それとも。

 

私の助言(アドバイス)に従って、仲間探しに奔走しているのか。

 

 

まぁ、そっちの方が『私』(レッドキャップ)もやり易いから、助かるけど。

 

 

兎にも角にも。

休憩時間に話す相手もおらず、授業も簡単で退屈で、何のために学校に来ているか分からない。

 

寂しい……と言う感情が胸を締め付ける。

 

少し前は一人で生きる事が当然になっていたのに……今は誰かと居ないと寂しいと思うようになった。

 

私はきっと、弱くなってしまったのだろう。

 

これを退化と呼ぶか……心が豊かになったと考えるべきか。

 

 

……一人で居ればフラッシュに話しかけられると思って、休憩時間中はずっと寝たふりをしているけど。

 

会話拒否だ。

 

でも、そろそろ限界で。

クラスメイトが寝るフリをする私を「体調不良なのかな」とか心配している。

流石に罪悪感が湧いてくる。

 

 

……昼休みは、ネッドの所に行こうかな。

普段はグウェンとご飯を食べてるけど、居ないし。

 

ネッドが私達のクラスに来る事はあるけど、私から行くのは初めてかも知れない。

 

 

 

その後、ネッドの所に行ったら、クラスメイト中の視線がネッドに突き刺さっていた。

私もネッドも居心地が悪かったし……何だったのだろうか?

 

首を傾げていると、ネッドに溜息を吐かれた。

 

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