【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#36 シニスター・シックス part4

自己紹介の後、デアデビル(マット)が仲間に連絡を入れた。

 

夕方に集合予定として、それまでに一度解散となった。

僕はスーツが破れていたり、私服がジェシカの夫……ルークさん?のシャツを借りているのもあって、一度自宅に戻る事になった。

 

今日は「病気で休みます」と高校に連絡を入れてるのもあってクラスメイトや、学校の関係者に見つからないように気をつけつつ、何とか自宅に帰る事が出来た。

 

着ていた大きなシャツとズボンを紙袋に入れて、いつもの私服……チェック柄のシャツにチノパンを着る。

……グウェンに「もう少しお洒落に気をつけろ」と愚痴愚痴言われてる服だ。

 

ウェブシューターに(ウェブ)の原液を補充する。

カートリッジ式だから入れ替えるだけで良い。

この(ウェブ)の原材料は市販の薬剤を組み合わせて作っている。

空気に触れる事で固まって、粘着性の高い糸に変化する優れ物だ。

 

 

あとはバックパックにスーツを入れて準備はOKだ。

 

そしてまた、クイーンズの自宅からヘルズキッチンにあるマットの自宅まで移動する。

空を見れば太陽は沈みかけていた。

 

クイーンズとヘルズキッチンは近いけど……僕は少し急いだ。

 

 

 

何とか予定していた時間に到着し、マットの家のチャイムを押した。

流石にジェシカみたいにノックする勇気はなかった。

 

暫くすると、ドアが開いて……。

 

 

2メートル弱の黒人の男性が現れた。

かなり厳つい顔をしており、スキンヘッドだ。

 

 

「何の用だ、坊主」

 

「わっ……」

 

 

一瞬、腰が引けそうになるけど……よく見ると、見覚えのある黄色のシャツを着ている。

 

 

「えっと、ジェシカさんの旦那さんの……ルークさんですか?」

 

 

男は眉をピクリと動かした。

 

 

「そうだ。俺がルーク・ケイジだ……なら、坊主は誰だ?」

 

 

ルークが右手を顎に当てて、試すような物言いをした。

 

 

「僕は……スパイダーマンです。お世話になります、ルークさん」

 

 

そう言うと……ルークは微かに笑った。

 

 

「……なるほど。礼儀を弁えてる奴は好きだ……入ってくれ。もう全員集まっている」

 

 

ルークがドアを開き切って、僕はマットの家に招き入れた。

 

そこにはマット、ジェシカ……厳つい顔をして仕立ての良さそうな服を着ている男……そして、黒に白いドクロが書かれたシャツを着ている、厳つい男が居た。

 

 

……厳つい男が多すぎる気がする。

言われなかったら悪人集団だと思いかねない。

 

 

マットが僕が到着したのを感じ取って、口を開いた。

 

 

「これで全員集まった……スパイダーマン、僕を含めて、彼等はこのヘルズキッチンを守っている『ディフェンダーズ』と言うチームだ」

 

 

僕が視線を向けると、仕立ての良い服を着た男が会釈をした。

 

 

「取り敢えず、最初に紹介しておこう。まずは僕からだ」

 

「……チッ、小学生のホームルームかよ」

 

 

ドクロシャツの男は悪態を吐いた。

 

 

「僕はマット・マードック。『デアデビル』って呼ばれてる。目が見えない代わりに他の五感が強くなってる。具体的に言うと、心臓の音で人が嘘を吐いてるかどうか分かる。筋肉の収縮から次の動きを読める……目に見える以上に『視る』事ができる」

 

 

マットが自身の耳を指で叩いた。

 

 

「普段は弁護士をしている。もしも、弁護士が必要になったら呼んでくれ。次はジェシカだ」

 

 

マットがジェシカを手で指し示した。

 

 

「彼女はジェシカ・ジョーンズ……って、これはもうスパイダーマンも知っているかな。スーパーパワーを持っていて、車を持ち上げたり、空を飛んだりできる」

 

「え!?飛ぶ……んですか?どういう方法で?」

 

 

僕は話の腰を折ってしまう事に負い目を感じながらも、どうしても気になってしまって聞いた。

それに対しては、マットではなくジェシカが答えた。

 

 

「そんなの普通に飛ぶんだよ。こう……スーパーパワーで」

 

「普通にって……」

 

「私の友人のヒーローも普通にみんな飛んでるけど?別に珍しい事じゃない……キャロルもジーンも飛んでるし」

 

 

何だか聞いても無意味な気がして、僕は会話を中断した。

スーパーパワーに理屈は必要ないのかも知れない。

 

 

「話を戻そう。隣の彼は……ルーク・ケイジだ」

 

「ルークだ」

 

 

ルークが手を差し出して来た。

 

 

「あ、どうも……スパイダーマンです」

 

 

僕がその手を握ると……。

 

グッと力を込められた。

鉄パイプぐらいならトイレットペーパーみたいに潰せるんじゃないか、と思えるほどの握力だ。

 

僕は慌てて、手を振り解いた。

 

 

「な、何してるんですか……?」

 

「いや、悪い悪い……ちょっと確認したい事があってな……どれだけ耐えれるかってのを。お前は合格だ」

 

 

恐ろしい事を言いながら、ルークがジェシカの横に戻った。

 

……あ、脇にジェシカの肘が刺さった。

 

 

「……はぁ。で、ルークは『パワーマン』って名前でヒーロー活動をしている。凄い力と、何も通さない皮膚の防御力を持っている。少し前は軍公認のヒーローチーム『サンダーボルツ』にも所属していた」

 

「ま、今は金を貰って用心棒みたいな事をする雇われヒーローだがな」

 

 

「それで、その隣がダニー・ランド。『アイアンフィスト』だ」

 

「どうも」

 

 

仕立ての良い服を着た男……ダニーが僕に会釈した。

 

 

「『気』と呼ばれるパワーの使い手で、それを手に込めて撃ったり殴ったりする。後は……」

 

「傷の回復も出来る」

 

 

そう言ってアイアンフィスト、ダニーが僕に近寄った。

僕より身長が高くて……少し圧がある。

 

 

「失礼」

 

 

ダニーが右手を僕の肩に当てた。

するとダニーの右手が光出して……僕の身体が熱くなってくる。

 

 

「これ……?」

 

「『気』を送り込んで治療をしている。自然治癒能力を高めているだけだから、欠損や病気は治せない……そこだけは注意が要る」

 

 

数秒そうやって手を置いていると、身体が嘘のように軽くなった。

シャツを捲って確認すると昨晩、シニスターシックスによって付けられた傷が完治しているようだ。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「仲間なら当然だ。こちらこそ、今後よろしく頼む」

 

 

僕はダニーと握手した。

 

何だ、少し人相が悪いからって、やっぱりみんな良い人じゃないか。

残りの一人、ドクロのシャツを着た人だって……。

 

そう思ってマットに目を向けると──

 

 

「こいつはフランク・キャッスル、『パニッシャー』だ。指名手配犯の犯罪者だ」

 

「え?えぇ……?」

 

 

僕は間の抜けた声を出してしまった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

彼は悪人専門の殺し屋……だから『処刑人(パニッシャー)』と呼ぶらしい。

 

マットが教えてくれたけど、昔は軍人だったそうで……妻と子供をギャングに殺されてから、悪人を殺しまくるようになったらしい。

 

ヒーロー……と呼ぶには些か過激な人で、僕としては苦手なタイプだ。

……いや、かなり苦手だ。

 

それでも僕だけではシニスターシックスに勝てないのは確かで、猫の手……犯罪者の手も借りたいのも事実だ。

 

マットも「今回は殺しは無し」と約束させているそうで……そのせいもあって不機嫌なんだとか。

 

 

僕達もシニスターシックスも6人。

自然と誰かが一人を担当して倒していく事に決まった。

 

彼等の殆どと面識がある僕が彼等の強み、弱点を並べていく。

 

 

 

「ミステリオは多分この事件の主犯で……自称、魔術師と言っているけれど……多分、幻覚の使い手だ。攻撃は他のメンバーに任せていたみたいだし」

 

「なら僕が行こう」

 

 

マット……デアデビルが名乗り出た。

 

 

「僕の超感覚(レーダーセンス)なら幻覚も効かない。多分、一番相性が良いと思う」

 

 

 

そうやって、ヒーローが一人に対して、悪人が一人、決めて行く。

 

 

「それで、このニューゴブリンって言うのは……僕が何とかしたい」

 

「それはどうして?」

 

 

ジェシカが訊いてくる。

 

 

「彼は父を僕が殺したって思い込んでる。それを解けば、敵対する必要もないと思う。……それにハリーは……僕の友達の、友達だからね。助けたいんだ」

 

「友達の友達?あんたは友達じゃないの?」

 

「あ……まぁ、うん。ライバルみたいなものだと思ってる」

 

 

そう言うと、ジェシカが首を傾げながら頷いた。

 

最終的に。

 

 

『ライノ』はルークが相手をする事になった。

パワーならルークが上らしく、またライノのスーツに搭載されている銃火器もルークには効かないらしい。

 

『ショッカー』はダニー……『アイアンフィスト』が相手をする。

ショッカーは衝撃波を飛ばして、遠距離攻撃できる。

そのリーチ差が一番の武器だ。

アイアンフィストも手から『気』による遠距離攻撃が出来るから、その差を埋める事が出来る。

 

『ヴェノム』は『パニッシャー』だ。

ヴェノムは確かに物理的な戦闘能力はかなり高い。

だけど、音や炎に弱い。

パニッシャーはスタングレネードや、小型の火炎放射器を持っているらしく、非常に有利だ。

 

 

 

そして……。

 

 

 

「この『レッドキャップ』って言う敵なんだけど……」

 

 

この名前を聞いた瞬間、マットとパニッシャーの目が鋭くなった。

 

 

マットが険しい顔で口を開いた。

 

 

「奴とは何度か戦った事がある……特筆して弱点のような物は無いな」

 

「……マットさんも戦った事があるんですか?」

 

「以前はヘルズキッチンを拠点にしていたみたいでね……それこそ、両手で数えきれない程、戦っている」

 

 

数えきれない程、戦っている。

つまり、それだけ敗北していると言う事だ。

 

……でも、チームで残っているのは。

 

 

「私が行く」

 

 

ジェシカだ。

 

 

「私が多分、このチームでは一番万能だと思う……ま、他の奴を倒せたら助けに来てくれれば良いから。時間稼ぎなら空飛べば良いし」

 

 

それを聞いて、マットが頷いた。

 

僕は続けて、レッドキャップに対しての情報を追加する。

 

 

「それに……何というか、本気で僕達と殺し合う気は無い……と思う。今までもそうだったし」

 

それを聞いたパニッシャーがバカにするように嘲笑った。

 

 

「ハハハ……ん〜?なんだ坊主、知らないのか?」

 

「何を……ですか?」

 

 

パニッシャーがバカにするものだから、僕も少し機嫌が悪くなる。

 

 

「そりゃあ、アイツの目的だよ」

 

「……それは、知らないですけど」

 

 

そう言えば……レッドキャップはいつも「仕事」と言って人殺しをしている。

じゃあ、今回はどうして……何の目的で?

それも、ニューゴブリンに「ノーマンを殺した」という事実を隠してまで。

 

 

「アイツの狙いはお前だよ、スパイダーマン。他の奴と一緒さ。多分、確実に殺せるからこそ協力してんだよ」

 

 

パニッシャーが嫌な笑い方をした。

 

 

「このヘルズキッチンに居た頃から、奴はお前に目をつけていたのさ」

 

「……本当、ですか?」

 

「嘘なんか吐くものかよ。ヘルズキッチンの拠点には、お前の事を調べていた痕跡があった。間違いなく、お前を殺すために算段を立てて居た筈さ」

 

 

そう言うと、パニッシャーが自身の鞄から焼け焦げたノートのようなモノを取り出した。

 

 

「これは……?」

 

「奴の前の拠点にあった調査書……まぁ、スクラップブックみたいなもんだ。見ろ」

 

 

パラパラとページが捲れて、パニッシャーの指が指し示した。

 

 

「ここだ」

 

 

そこには……。

 

『蜘蛛の能力?』

『自力で壁に貼り付く』

『糸は身体から?機械から?』

『トニー・スタークは正体を知っている?』

『スーツは普通の布製』

 

僕の能力を解析しようと書き示されたメモ書きがあった。

 

 

「コイツはお前が初めて会う前から、こうやってストーキングしてんだよ。分かったか?戦わない方が良い理由が」

 

 

……僕は、背筋が凍るような悪寒に晒された。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

『へくちっ』

 

 

私はクシャミをした。

 

……おかしな話だ。

治癒因子(ヒーリングファクター)を持っている私は、風邪も引かない筈だが。

 

それに今は『ミシェル・ジェーン』ではなく『レッドキャップ』として活動している最中だ。

誰かに聞かれでもしたら大変だ。

 

だけど、まぁ……今はオズコープ社のビルの個室にいる。

幸い、誰にも聞かれていない。

 

 

「ん?おい、アンタにしちゃあ、偉い可愛らしいクシャミだな」

 

 

……前言撤回だ。

ショッカーの姿をした、ハーマンが居た。

 

 

『一つ、提案がある』

 

「お?なんだ?」

 

『記憶を失うまで殴られるのと、黙って墓まで持って行く……どちらが良い?』

 

「へ?は、はは、そりゃあ黙ってるよ。俺は……それに誰に言うってんだよ!誰も信じねぇよ」

 

『冗談だ』

 

「アンタが言うと、冗談に聞こえねぇんだよ……マジで」

 

 

ハーマンが私の横に腰を下ろした。

 

 

『……ハーマン、一つ忠告だ』

 

「ん?何だ?」

 

『……今回の件、状況が悪くなったら真っ先に逃げろ』

 

「……おう?俺が逃げると思ってんのか?」

 

『違う。逃げると思っていないからこそ、忠告している』

 

 

ハーマンが首を傾げた。

 

私の『任務』に巻き込む必要はない。

そして、可能であれば……その姿を見ないで欲しいと、そう願っていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

『スパイダーメナスは私の告発に対して、報復を仕掛けて来たのだ!許せん!』

 

 

テレビでデイリービューグルの社長、ジェイ・ジョナ・ジェイムソンが吠えている。

 

 

「結局、こうなっちゃうのか……」

 

 

マットの家で『ディフェンダーズ』の面々と会議をしている。

気分転換での休憩に、と付けたテレビからは僕をバッシングするJJJ(ジェイムソン)の放送が流れていた。

 

……そして、マットはそれを訝しげに見ていた。

 

 

「……どうかしました?」

 

「いや……少し、違和感があるな、と」

 

 

僕はテレビを見返す。

ジェイムソンが僕をバッシングしている……いつも通りだ。

 

 

「……?何かおかしい所ってあります?」

 

「…………声が」

 

「声、ですか?」

 

 

マットが頷いた。

 

 

「いつもと違う……いつもと抑揚の付け方が違うんだ。声帯のパターンは似せているけど、これは人工的に作られた声に違いない」

 

「……まさか」

 

 

僕は、ジェイムソンが……殺されたのではないか、と疑った。

 

それを見たマットが静かに口を開いた。

 

 

「……君は、彼を心配出来るんだな」

 

「それは……確かにジェイムソンは好きじゃないですけど……彼は悪人じゃないですよ。いや、悪人でも死んで良いなんて理屈はないです」

 

「へっ」

 

 

遠くで聞いていたパニッシャーが鼻で笑った。

ああもう、態度が悪いなぁ。

 

無視するようにマットが言葉を繋ぐ。

 

 

「スパイダーマン、君は優しい奴だ。僕はそれを……好ましく思う。僕はカトリック信者なんだ……殺人を許せない気持ちは一緒さ」

 

 

そう言って頭に手を乗せられた。

 

 

「そして、それを失わないよう……僕も……彼等も協力する。仲間だからね」

 

 

……何だか、子供扱いされているようで気になるけど。

 

素直に僕は受け止めた。

 

 

そして、ルークが僕に声を掛けた。

 

 

「坊主、作戦が決まったぞ」

 

 

作戦は……ミッドタウンにある街外れの廃ビルに彼等を誘き出して叩く……と言うシンプルな物だった。

 

廃ビルはアイアンフィストこと、ダニーが買収して用意するらしい。

 

……何でも、彼は『ランド・エンタープライズ』と言う会社の社長らしい。

スタークさんと一緒だ。

 

……社長がヒーローをやるのって流行ってるのだろうか?

 

 

そして、決戦は……今日の深夜。

僕がオズコープ社に忍び込んで……彼等を連れて誘き出す。

 

逃げ切ってもダメで、攻撃を受けるのも勿論ダメだ。

気付かれないよう誘い込んで……一気に叩く。

 

 

深く息を吸い込んだ。

そして緊張をほぐす為に、僕は口を開いた。

 

 

「よし、それじゃあ『ディフェンダーズ+()』で頑張って──

 

「おい、スパイダーマン。俺は『ディフェンダーズ』じゃねぇぞ」

 

 

そう言って、パニッシャーが話の腰を折った。

 

 

「……じゃあ、『ディフェンダーズ+(僕とパニッシャー)』で頑張ろう!みんな、よろしく!」

 

 

ヤケクソ気味な僕の言葉に4人が頷いた。

……うん、この場に5人いるのに、4人だ。

 

僕はため息を吐いた。

 


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