【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
自己紹介の後、
夕方に集合予定として、それまでに一度解散となった。
僕はスーツが破れていたり、私服がジェシカの夫……ルークさん?のシャツを借りているのもあって、一度自宅に戻る事になった。
今日は「病気で休みます」と高校に連絡を入れてるのもあってクラスメイトや、学校の関係者に見つからないように気をつけつつ、何とか自宅に帰る事が出来た。
着ていた大きなシャツとズボンを紙袋に入れて、いつもの私服……チェック柄のシャツにチノパンを着る。
……グウェンに「もう少しお洒落に気をつけろ」と愚痴愚痴言われてる服だ。
ウェブシューターに
カートリッジ式だから入れ替えるだけで良い。
この
空気に触れる事で固まって、粘着性の高い糸に変化する優れ物だ。
あとはバックパックにスーツを入れて準備はOKだ。
そしてまた、クイーンズの自宅からヘルズキッチンにあるマットの自宅まで移動する。
空を見れば太陽は沈みかけていた。
クイーンズとヘルズキッチンは近いけど……僕は少し急いだ。
何とか予定していた時間に到着し、マットの家のチャイムを押した。
流石にジェシカみたいにノックする勇気はなかった。
暫くすると、ドアが開いて……。
2メートル弱の黒人の男性が現れた。
かなり厳つい顔をしており、スキンヘッドだ。
「何の用だ、坊主」
「わっ……」
一瞬、腰が引けそうになるけど……よく見ると、見覚えのある黄色のシャツを着ている。
「えっと、ジェシカさんの旦那さんの……ルークさんですか?」
男は眉をピクリと動かした。
「そうだ。俺がルーク・ケイジだ……なら、坊主は誰だ?」
ルークが右手を顎に当てて、試すような物言いをした。
「僕は……スパイダーマンです。お世話になります、ルークさん」
そう言うと……ルークは微かに笑った。
「……なるほど。礼儀を弁えてる奴は好きだ……入ってくれ。もう全員集まっている」
ルークがドアを開き切って、僕はマットの家に招き入れた。
そこにはマット、ジェシカ……厳つい顔をして仕立ての良さそうな服を着ている男……そして、黒に白いドクロが書かれたシャツを着ている、厳つい男が居た。
……厳つい男が多すぎる気がする。
言われなかったら悪人集団だと思いかねない。
マットが僕が到着したのを感じ取って、口を開いた。
「これで全員集まった……スパイダーマン、僕を含めて、彼等はこのヘルズキッチンを守っている『ディフェンダーズ』と言うチームだ」
僕が視線を向けると、仕立ての良い服を着た男が会釈をした。
「取り敢えず、最初に紹介しておこう。まずは僕からだ」
「……チッ、小学生のホームルームかよ」
ドクロシャツの男は悪態を吐いた。
「僕はマット・マードック。『デアデビル』って呼ばれてる。目が見えない代わりに他の五感が強くなってる。具体的に言うと、心臓の音で人が嘘を吐いてるかどうか分かる。筋肉の収縮から次の動きを読める……目に見える以上に『視る』事ができる」
マットが自身の耳を指で叩いた。
「普段は弁護士をしている。もしも、弁護士が必要になったら呼んでくれ。次はジェシカだ」
マットがジェシカを手で指し示した。
「彼女はジェシカ・ジョーンズ……って、これはもうスパイダーマンも知っているかな。スーパーパワーを持っていて、車を持ち上げたり、空を飛んだりできる」
「え!?飛ぶ……んですか?どういう方法で?」
僕は話の腰を折ってしまう事に負い目を感じながらも、どうしても気になってしまって聞いた。
それに対しては、マットではなくジェシカが答えた。
「そんなの普通に飛ぶんだよ。こう……スーパーパワーで」
「普通にって……」
「私の友人のヒーローも普通にみんな飛んでるけど?別に珍しい事じゃない……キャロルもジーンも飛んでるし」
何だか聞いても無意味な気がして、僕は会話を中断した。
スーパーパワーに理屈は必要ないのかも知れない。
「話を戻そう。隣の彼は……ルーク・ケイジだ」
「ルークだ」
ルークが手を差し出して来た。
「あ、どうも……スパイダーマンです」
僕がその手を握ると……。
グッと力を込められた。
鉄パイプぐらいならトイレットペーパーみたいに潰せるんじゃないか、と思えるほどの握力だ。
僕は慌てて、手を振り解いた。
「な、何してるんですか……?」
「いや、悪い悪い……ちょっと確認したい事があってな……どれだけ耐えれるかってのを。お前は合格だ」
恐ろしい事を言いながら、ルークがジェシカの横に戻った。
……あ、脇にジェシカの肘が刺さった。
「……はぁ。で、ルークは『パワーマン』って名前でヒーロー活動をしている。凄い力と、何も通さない皮膚の防御力を持っている。少し前は軍公認のヒーローチーム『サンダーボルツ』にも所属していた」
「ま、今は金を貰って用心棒みたいな事をする雇われヒーローだがな」
「それで、その隣がダニー・ランド。『アイアンフィスト』だ」
「どうも」
仕立ての良い服を着た男……ダニーが僕に会釈した。
「『気』と呼ばれるパワーの使い手で、それを手に込めて撃ったり殴ったりする。後は……」
「傷の回復も出来る」
そう言ってアイアンフィスト、ダニーが僕に近寄った。
僕より身長が高くて……少し圧がある。
「失礼」
ダニーが右手を僕の肩に当てた。
するとダニーの右手が光出して……僕の身体が熱くなってくる。
「これ……?」
「『気』を送り込んで治療をしている。自然治癒能力を高めているだけだから、欠損や病気は治せない……そこだけは注意が要る」
数秒そうやって手を置いていると、身体が嘘のように軽くなった。
シャツを捲って確認すると昨晩、シニスターシックスによって付けられた傷が完治しているようだ。
「あ、ありがとうございます!」
「仲間なら当然だ。こちらこそ、今後よろしく頼む」
僕はダニーと握手した。
何だ、少し人相が悪いからって、やっぱりみんな良い人じゃないか。
残りの一人、ドクロのシャツを着た人だって……。
そう思ってマットに目を向けると──
「こいつはフランク・キャッスル、『パニッシャー』だ。指名手配犯の犯罪者だ」
「え?えぇ……?」
僕は間の抜けた声を出してしまった。
◇◆◇
彼は悪人専門の殺し屋……だから『
マットが教えてくれたけど、昔は軍人だったそうで……妻と子供をギャングに殺されてから、悪人を殺しまくるようになったらしい。
ヒーロー……と呼ぶには些か過激な人で、僕としては苦手なタイプだ。
……いや、かなり苦手だ。
それでも僕だけではシニスターシックスに勝てないのは確かで、猫の手……犯罪者の手も借りたいのも事実だ。
マットも「今回は殺しは無し」と約束させているそうで……そのせいもあって不機嫌なんだとか。
僕達もシニスターシックスも6人。
自然と誰かが一人を担当して倒していく事に決まった。
彼等の殆どと面識がある僕が彼等の強み、弱点を並べていく。
「ミステリオは多分この事件の主犯で……自称、魔術師と言っているけれど……多分、幻覚の使い手だ。攻撃は他のメンバーに任せていたみたいだし」
「なら僕が行こう」
マット……デアデビルが名乗り出た。
「僕の
そうやって、ヒーローが一人に対して、悪人が一人、決めて行く。
「それで、このニューゴブリンって言うのは……僕が何とかしたい」
「それはどうして?」
ジェシカが訊いてくる。
「彼は父を僕が殺したって思い込んでる。それを解けば、敵対する必要もないと思う。……それにハリーは……僕の友達の、友達だからね。助けたいんだ」
「友達の友達?あんたは友達じゃないの?」
「あ……まぁ、うん。ライバルみたいなものだと思ってる」
そう言うと、ジェシカが首を傾げながら頷いた。
最終的に。
『ライノ』はルークが相手をする事になった。
パワーならルークが上らしく、またライノのスーツに搭載されている銃火器もルークには効かないらしい。
『ショッカー』はダニー……『アイアンフィスト』が相手をする。
ショッカーは衝撃波を飛ばして、遠距離攻撃できる。
そのリーチ差が一番の武器だ。
アイアンフィストも手から『気』による遠距離攻撃が出来るから、その差を埋める事が出来る。
『ヴェノム』は『パニッシャー』だ。
ヴェノムは確かに物理的な戦闘能力はかなり高い。
だけど、音や炎に弱い。
パニッシャーはスタングレネードや、小型の火炎放射器を持っているらしく、非常に有利だ。
そして……。
「この『レッドキャップ』って言う敵なんだけど……」
この名前を聞いた瞬間、マットとパニッシャーの目が鋭くなった。
マットが険しい顔で口を開いた。
「奴とは何度か戦った事がある……特筆して弱点のような物は無いな」
「……マットさんも戦った事があるんですか?」
「以前はヘルズキッチンを拠点にしていたみたいでね……それこそ、両手で数えきれない程、戦っている」
数えきれない程、戦っている。
つまり、それだけ敗北していると言う事だ。
……でも、チームで残っているのは。
「私が行く」
ジェシカだ。
「私が多分、このチームでは一番万能だと思う……ま、他の奴を倒せたら助けに来てくれれば良いから。時間稼ぎなら空飛べば良いし」
それを聞いて、マットが頷いた。
僕は続けて、レッドキャップに対しての情報を追加する。
「それに……何というか、本気で僕達と殺し合う気は無い……と思う。今までもそうだったし」
それを聞いたパニッシャーがバカにするように嘲笑った。
「ハハハ……ん〜?なんだ坊主、知らないのか?」
「何を……ですか?」
パニッシャーがバカにするものだから、僕も少し機嫌が悪くなる。
「そりゃあ、アイツの目的だよ」
「……それは、知らないですけど」
そう言えば……レッドキャップはいつも「仕事」と言って人殺しをしている。
じゃあ、今回はどうして……何の目的で?
それも、ニューゴブリンに「ノーマンを殺した」という事実を隠してまで。
「アイツの狙いはお前だよ、スパイダーマン。他の奴と一緒さ。多分、確実に殺せるからこそ協力してんだよ」
パニッシャーが嫌な笑い方をした。
「このヘルズキッチンに居た頃から、奴はお前に目をつけていたのさ」
「……本当、ですか?」
「嘘なんか吐くものかよ。ヘルズキッチンの拠点には、お前の事を調べていた痕跡があった。間違いなく、お前を殺すために算段を立てて居た筈さ」
そう言うと、パニッシャーが自身の鞄から焼け焦げたノートのようなモノを取り出した。
「これは……?」
「奴の前の拠点にあった調査書……まぁ、スクラップブックみたいなもんだ。見ろ」
パラパラとページが捲れて、パニッシャーの指が指し示した。
「ここだ」
そこには……。
『蜘蛛の能力?』
『自力で壁に貼り付く』
『糸は身体から?機械から?』
『トニー・スタークは正体を知っている?』
『スーツは普通の布製』
僕の能力を解析しようと書き示されたメモ書きがあった。
「コイツはお前が初めて会う前から、こうやってストーキングしてんだよ。分かったか?戦わない方が良い理由が」
……僕は、背筋が凍るような悪寒に晒された。
◇◆◇
『へくちっ』
私はクシャミをした。
……おかしな話だ。
それに今は『ミシェル・ジェーン』ではなく『レッドキャップ』として活動している最中だ。
誰かに聞かれでもしたら大変だ。
だけど、まぁ……今はオズコープ社のビルの個室にいる。
幸い、誰にも聞かれていない。
「ん?おい、アンタにしちゃあ、偉い可愛らしいクシャミだな」
……前言撤回だ。
ショッカーの姿をした、ハーマンが居た。
『一つ、提案がある』
「お?なんだ?」
『記憶を失うまで殴られるのと、黙って墓まで持って行く……どちらが良い?』
「へ?は、はは、そりゃあ黙ってるよ。俺は……それに誰に言うってんだよ!誰も信じねぇよ」
『冗談だ』
「アンタが言うと、冗談に聞こえねぇんだよ……マジで」
ハーマンが私の横に腰を下ろした。
『……ハーマン、一つ忠告だ』
「ん?何だ?」
『……今回の件、状況が悪くなったら真っ先に逃げろ』
「……おう?俺が逃げると思ってんのか?」
『違う。逃げると思っていないからこそ、忠告している』
ハーマンが首を傾げた。
私の『任務』に巻き込む必要はない。
そして、可能であれば……その姿を見ないで欲しいと、そう願っていた。
◇◆◇
『スパイダーメナスは私の告発に対して、報復を仕掛けて来たのだ!許せん!』
テレビでデイリービューグルの社長、ジェイ・ジョナ・ジェイムソンが吠えている。
「結局、こうなっちゃうのか……」
マットの家で『ディフェンダーズ』の面々と会議をしている。
気分転換での休憩に、と付けたテレビからは僕をバッシングする
……そして、マットはそれを訝しげに見ていた。
「……どうかしました?」
「いや……少し、違和感があるな、と」
僕はテレビを見返す。
ジェイムソンが僕をバッシングしている……いつも通りだ。
「……?何かおかしい所ってあります?」
「…………声が」
「声、ですか?」
マットが頷いた。
「いつもと違う……いつもと抑揚の付け方が違うんだ。声帯のパターンは似せているけど、これは人工的に作られた声に違いない」
「……まさか」
僕は、ジェイムソンが……殺されたのではないか、と疑った。
それを見たマットが静かに口を開いた。
「……君は、彼を心配出来るんだな」
「それは……確かにジェイムソンは好きじゃないですけど……彼は悪人じゃないですよ。いや、悪人でも死んで良いなんて理屈はないです」
「へっ」
遠くで聞いていたパニッシャーが鼻で笑った。
ああもう、態度が悪いなぁ。
無視するようにマットが言葉を繋ぐ。
「スパイダーマン、君は優しい奴だ。僕はそれを……好ましく思う。僕はカトリック信者なんだ……殺人を許せない気持ちは一緒さ」
そう言って頭に手を乗せられた。
「そして、それを失わないよう……僕も……彼等も協力する。仲間だからね」
……何だか、子供扱いされているようで気になるけど。
素直に僕は受け止めた。
そして、ルークが僕に声を掛けた。
「坊主、作戦が決まったぞ」
作戦は……ミッドタウンにある街外れの廃ビルに彼等を誘き出して叩く……と言うシンプルな物だった。
廃ビルはアイアンフィストこと、ダニーが買収して用意するらしい。
……何でも、彼は『ランド・エンタープライズ』と言う会社の社長らしい。
スタークさんと一緒だ。
……社長がヒーローをやるのって流行ってるのだろうか?
そして、決戦は……今日の深夜。
僕がオズコープ社に忍び込んで……彼等を連れて誘き出す。
逃げ切ってもダメで、攻撃を受けるのも勿論ダメだ。
気付かれないよう誘い込んで……一気に叩く。
深く息を吸い込んだ。
そして緊張をほぐす為に、僕は口を開いた。
「よし、それじゃあ『ディフェンダーズ+
「おい、スパイダーマン。俺は『ディフェンダーズ』じゃねぇぞ」
そう言って、パニッシャーが話の腰を折った。
「……じゃあ、『ディフェンダーズ+
ヤケクソ気味な僕の言葉に4人が頷いた。
……うん、この場に5人いるのに、4人だ。
僕はため息を吐いた。