【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
深夜のミッドタウン。
今日は月が出ていて少し明るい。
僕はオズコープ社のビルに潜入する。
……デイリービューグルより遥かにセキュリティが厳しい。
「……この部屋は」
カート・コナーズ……コナーズ先生が元々いた研究室のようだ。
彼はノーマンがグリーンゴブリンになった所為で研究室を封鎖され、職を失った。
なのに、研究室の管理者はコナーズ先生のまま。
……つまり、この研究室は封鎖されてから一度も使われていない筈だ。
僕は息を潜めて、天井に張り付く。
そのまま天地が逆転した状態で、物音を立てぬように探索する。
研究室……パーテーションで区切られた会議室……コーヒーメーカーが置いてある休憩室。
耳を澄ませると……。
……誰かが話している。
声のする方は……会議室だ。
スニーキングは得意だ。
ダクトを通って、僕は別室の……会議室の屋根裏まで来た。
換気口から中の様子を覗き見る。
……居た。
シニスターシックスの6人全員。
「じゃあ、ジェイムソンを殺したのか?」
ショッカー……ハーマンが喋っている。
僕は耳をつけて聞き耳を立てる。
「いえいえ、無闇に殺しては跡が付きますから……監禁中です。いざとなれば……人質にも利用できますからね」
ミステリオがそう語った。
……良かった。
……しかし。
場所が分からなければ救出できない。
どうにか監禁場所を知る事は出来ないか……。
そう考えていると、レッドキャップが悩むような仕草をしている。
……そして、視線を少し上に上げた。
何故か、天井を一瞥した。
……僕は今、天井に隠れているのだから、少し不安に思った。
より、物音を立てないように気を付けないと。
『ミステリオ、少し良いか?』
レッドキャップが口を開く。
僕は身体が強張った。
「どうしましたか?」
『そのジェイムソンの監禁場所について、教えてくれないか?』
……その情報は、僕が一番欲しい物だ。
「……えぇ、良いですとも。ですが何故?」
疑うような声色でミステリオが聞いた。
『知っていて損は無いだろう。それとも、お前は……私達を信用していないのか?』
会議室の空気が重くなる。
……新聞記者のエディと、ショッカーが少し怯むような仕草をしていた。
そして、当人であるミステリオも。
「いえいえ、言わないとは言っていません。このオズコープ社内……ここの最上階の休憩室を使っています」
僕は脳内に、その情報を記憶した。
『ふむ、そこのセキュリティは万全だろうな?』
「えぇ、そこについてはニューゴブリンが保証しています」
……僕はハリーを見た。
マスクは外している。
不機嫌そうな顔で頷いている。
……音を立てないよう、ダクトを戻り……監禁場所へ向か──
『オイ、エディ……何か上に居るぞ』
……ヴェノムの声が聞こえた。
僕は冷や汗を掻く。
「ネズミとか、か?」
エディの発言に対して、ハリーが声をあげた。
「このオズコープビルにネズミなんて居ない。居るとすれば──
『蜘蛛だ!俺の獲物だ!』
突如、エディの身体が黒いタールのような物で包まれた。
胸に白い蜘蛛のマークが現れ、顔はその凶暴性を表面化した異形の姿になった。
僕は下を見るのを諦めて、ここを離脱する事にした。
ダクトの高さは1メートル弱……立って全力で走る事は出来ない。
四つん這いになりながら、本物の蜘蛛のように駆ける。
『引き裂いてやる!』
怒声と共に、幾つもの黒い触手がダクトを貫いた。
何とか避けるが……
ヴェノムが
今のヴェノムは僕の能力をコピーして再現する力を持っている。
つまり、その攻撃は僕自身の攻撃として、
だから、自身のコピーであるヴェノムの攻撃は予知できない。
ダクトを飛び降りて、エレベーターの屋根に飛び乗る。
何かを破壊する音が近付く……
釣り上げているロープに足を掛けて、三角飛びの要領で壁へ張り付く。
上層階へ向けて
その瞬間、エレベーターの天板が砕けて、真横にヴェノムが姿を現した。
『見つけたぞ!スパ──
ヴェノムの声を他所に、僕は
これはスリングショットの模倣だ。
大きく飛び上がり、エレベーターを支える主軸のロープへ掴まる。
ヴェノムとの距離は、高度5メートル程になった。
僕はまた
『逃げるな!』
ヴェノムも触手を身体中から伸ばし、壁に突き刺して駆け上がってくる。
その速度は僕と同等……いや、少し速い。
4メートル、3メートル……。
少しずつ近付いてくるヴェノム。
僕は壁を蹴ったタイミングで……宙に錐揉みし、下へ
狙いはヴェノムの顔だ。
結果は命中……しかし、
「くっ!」
僕は焦っていた。
ここで戦っても、時間がかかって他のシニスターシックスに集まられるだけだ。
かと言って、本来の目的である敵の誘導……それをジェイムソンを無視して優先した場合、ミステリオは間違いなく彼を人質にするだろう。
それは避けたい。
つまり、僕の
よし、言葉にして並べてみたら簡単な気がしてきたぞ。
『引き摺り落としてやる!』
壁に張り付いたまま、ヴェノムの右手から触手が槍のように飛び出してくる。
僕は手を壁に貼り付けて、咄嗟に空中で姿勢を制御して避け切る。
……やっぱり、全然簡単じゃないや。
通気口の蓋に足を掛けて、
ヴェノムの触手で弾かれ、排気口の蓋が捻じ曲がる。
だけど、攻撃するだけが目的じゃ無い。
ダクトの裏に付けておいた、替えの
『うぐぉっ!?』
これは自宅に帰ったタイミングで持ってきた
今回、敵が6人と言う事もあって、念には念を込めて用意してきた。
それを蓋の裏に
結果は狙った通り、ヴェノムが必要以上に力を加えた所為でカートリッジは蓋ごと壊れて、
僕は蓋が外れた排気口に足を掛けて、そのまま飛び上がる。
ヴェノムはまだ糸に四苦八苦しているようだ。
最上階のドアをこじ開けて、滑り込む。
ガラス張りの部屋を走って、ジェイムソンを探す。
時間に余裕はない。
刻一刻とタイムリミットは迫っている。
ヴェノムだけじゃない、他の奴らだって追ってきている筈だ。
チラリと二つあるエレベーターの内、もう一つの方を見れば上に上がってきているようだ。
僕は走りながら、周りの部屋を見る。
……あった、休憩室!
僕はドアを開けようとして……くっ、鍵が掛かってる。
それはそうか、監禁場所なんだから、それなりのセキュリティは用意してあるよね……ハリーも言っていたし。
僕はドアに
「くっ!おぉっ!!」
全身の筋肉が悲鳴を上げている。
ドアが変形して、隙間ができた。
そこに指をかけて、無理矢理こじ開ける。
メキメキと音を立てて、ドアを留め具ごと破壊した。
「はっ、はぁっ」
疲れた。
できればもう二度とやりたくないや。
僕は室内の様子を見る。
中央に椅子。
そこに座らされているのは……ジェイムソンだ。
彼は僕を見て驚いたような顔をしている。
だけど、テープのようなもので口を封じられていて「ふがふが」とした声しか出ていない。
椅子にはロープで縛られてるけど……心許ない。
その上から、僕は
……何だか、ジェイムソンは声を上げて抗議しているようだ。
だけど、配慮してる余裕はない。
「ジェイムソンさん、今から飛ぶよ!」
「ん!?んぐぅ!?」
僕はガラス張りの壁を蹴破る。
そして……。
「待て!スパイダーマン!」
ミステリオが部屋に入ってきた。
ショッカーも、ライノも、他の奴らだって来ている筈だ。
だけど、僕は振り返らない。
ジェイムソンを椅子ごと持ち上げて……。
外へ放り投げた。
「んんぐぐんぐぅ!?!?」
ジェイムソンがテープ越しに悲鳴……いや、怒声を上げている。
僕も続けて、窓から飛び出した。
左手で、宙を舞うジェイムソンの座っている椅子に
右手で、他のビルに
頂点に達したタイミングで糸を切り離し、今度は右手でジェイムソンを……左手でスイングする。
お手玉のように宙に投げ出されるジェイムソン。
普通の人ならショックで気絶してもおかしくないけど……彼は持ち前の強気で正気を保っていた。
それどころか、こちらを見て睨み付けながら声を出そうとしているぐらいだ。
……
振り返らずに
僕の横を
追ってきているのはニューゴブリン……ハリーだ。
廃ビルまで距離はそれ程遠くない。
僕は攻撃を回避しつつ、目的地に急ぐ。
何度かニューゴブリンの顔に向かって
正直に顔に当たってはくれない。
腕で防御したり、『レイザーバット』で切り裂いて無効化してくる。
……何とか、
ジェイムソンを最上階に着地させて、僕はまたビルの外へ飛び出す。
僕を追いかけていたニューゴブリンが驚いて、迎撃しようとレイザーバットを投げる。
廃ビルに逃げ込んだ瞬間に、まさか飛び出して戻ってくるとは思ってなかったのだろう。
「離せ!触るなっ!」
怒り狂うニューゴブリンの殴打を避け、
そして、そのまま……廃ビルにニューゴブリンごと自分を投げ込んだ。
「くそっ!ちょこまかと!」
「安心して良いよ……!もう逃げるつもりは無いからね!」
僕はニューゴブリンへと走り出す。
僕を追ってシニスターシックスの奴らも来るだろう。
ニューゴブリンのフックを避けて、足払いで転がす。
床を舐めながらも、ゴブリンは僕へ蹴りを放ってくる。
……ディフェンダーズのみんなの事を考えてる暇はない。
ただ、今は目の前の戦いに集中する必要があった。