【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#37 シニスター・シックス part5

深夜のミッドタウン。

今日は月が出ていて少し明るい。

 

僕はオズコープ社のビルに潜入する。

……デイリービューグルより遥かにセキュリティが厳しい。

 

超感覚(スパイダーセンス)に身を任せて、監視カメラを掻い潜り……上層に到着した。

 

 

「……この部屋は」

 

 

カート・コナーズ……コナーズ先生が元々いた研究室のようだ。

彼はノーマンがグリーンゴブリンになった所為で研究室を封鎖され、職を失った。

なのに、研究室の管理者はコナーズ先生のまま。

 

……つまり、この研究室は封鎖されてから一度も使われていない筈だ。

僕は息を潜めて、天井に張り付く。

 

そのまま天地が逆転した状態で、物音を立てぬように探索する。

 

研究室……パーテーションで区切られた会議室……コーヒーメーカーが置いてある休憩室。

 

耳を澄ませると……。

 

 

……誰かが話している。

声のする方は……会議室だ。

 

 

スニーキングは得意だ。

ダクトを通って、僕は別室の……会議室の屋根裏まで来た。

 

換気口から中の様子を覗き見る。

 

……居た。

シニスターシックスの6人全員。

 

 

「じゃあ、ジェイムソンを殺したのか?」

 

 

ショッカー……ハーマンが喋っている。

僕は耳をつけて聞き耳を立てる。

 

 

「いえいえ、無闇に殺しては跡が付きますから……監禁中です。いざとなれば……人質にも利用できますからね」

 

 

ミステリオがそう語った。

 

……良かった。

JJJ(ジェイムソン)は無事らしい。

 

……しかし。

場所が分からなければ救出できない。

 

どうにか監禁場所を知る事は出来ないか……。

 

そう考えていると、レッドキャップが悩むような仕草をしている。

 

……そして、視線を少し上に上げた。

何故か、天井を一瞥した。

 

……僕は今、天井に隠れているのだから、少し不安に思った。

より、物音を立てないように気を付けないと。

 

 

『ミステリオ、少し良いか?』

 

 

レッドキャップが口を開く。

僕は身体が強張った。

 

 

「どうしましたか?」

 

『そのジェイムソンの監禁場所について、教えてくれないか?』

 

 

……その情報は、僕が一番欲しい物だ。

 

 

「……えぇ、良いですとも。ですが何故?」

 

 

疑うような声色でミステリオが聞いた。

 

 

『知っていて損は無いだろう。それとも、お前は……私達を信用していないのか?』

 

 

会議室の空気が重くなる。

……新聞記者のエディと、ショッカーが少し怯むような仕草をしていた。

 

そして、当人であるミステリオも。

 

 

「いえいえ、言わないとは言っていません。このオズコープ社内……ここの最上階の休憩室を使っています」

 

 

僕は脳内に、その情報を記憶した。

 

 

『ふむ、そこのセキュリティは万全だろうな?』

 

「えぇ、そこについてはニューゴブリンが保証しています」

 

 

……僕はハリーを見た。

マスクは外している。

不機嫌そうな顔で頷いている。

 

……音を立てないよう、ダクトを戻り……監禁場所へ向か──

 

 

『オイ、エディ……何か上に居るぞ』

 

 

……ヴェノムの声が聞こえた。

僕は冷や汗を掻く。

 

 

「ネズミとか、か?」

 

 

エディの発言に対して、ハリーが声をあげた。

 

 

「このオズコープビルにネズミなんて居ない。居るとすれば──

 

『蜘蛛だ!俺の獲物だ!』

 

 

突如、エディの身体が黒いタールのような物で包まれた。

胸に白い蜘蛛のマークが現れ、顔はその凶暴性を表面化した異形の姿になった。

 

 

僕は下を見るのを諦めて、ここを離脱する事にした。

ダクトの高さは1メートル弱……立って全力で走る事は出来ない。

 

四つん這いになりながら、本物の蜘蛛のように駆ける。

 

 

『引き裂いてやる!』

 

 

怒声と共に、幾つもの黒い触手がダクトを貫いた。

 

何とか避けるが……超感覚(スパイダーセンス)に反応しない為、反射神経を頼りにするしかない。

 

ヴェノムが超感覚(スパイダーセンス)に反応しない理由……恐らくだけど、僕に一時期『ブラック・スーツ』として一体化していたのが原因だ。

今のヴェノムは僕の能力をコピーして再現する力を持っている。

つまり、その攻撃は僕自身の攻撃として、超感覚(スパイダーセンス)が認識してしまっている。

 

超感覚(スパイダーセンス)は外敵からの攻撃を予知する能力だ。

だから、自身のコピーであるヴェノムの攻撃は予知できない。

 

ダクトを飛び降りて、エレベーターの屋根に飛び乗る。

何かを破壊する音が近付く……超感覚(スパイダーセンス)が反応しないのに攻撃が来る違和感(ズレ)に、僕はまだ慣れていないみたいだ。

 

釣り上げているロープに足を掛けて、三角飛びの要領で壁へ張り付く。

上層階へ向けて(ウェブ)を左右に放ち、足を離して落下する。

 

その瞬間、エレベーターの天板が砕けて、真横にヴェノムが姿を現した。

 

 

『見つけたぞ!スパ──

 

 

ヴェノムの声を他所に、僕は(ウェブ)の反動で飛び上がる。

これはスリングショットの模倣だ。

 

 

大きく飛び上がり、エレベーターを支える主軸のロープへ掴まる。

ヴェノムとの距離は、高度5メートル程になった。

 

僕はまた(ウェブ)を駆使して、壁を蹴り上へ駆け上がる。

 

 

『逃げるな!』

 

 

ヴェノムも触手を身体中から伸ばし、壁に突き刺して駆け上がってくる。

その速度は僕と同等……いや、少し速い。

 

4メートル、3メートル……。

 

少しずつ近付いてくるヴェノム。

 

僕は壁を蹴ったタイミングで……宙に錐揉みし、下へ(ウェブ)を発射する。

 

狙いはヴェノムの顔だ。

 

 

結果は命中……しかし、(ウェブ)はヴェノムの体内に飲み込まれて、目隠しにもならなかった。

 

 

「くっ!」

 

 

僕は焦っていた。

ここで戦っても、時間がかかって他のシニスターシックスに集まられるだけだ。

 

かと言って、本来の目的である敵の誘導……それをジェイムソンを無視して優先した場合、ミステリオは間違いなく彼を人質にするだろう。

それは避けたい。

 

つまり、僕の任務(ミッション)はヴェノムの攻撃を回避しつつ、最上階のJJJ(ジェイムソン)を救出し、待ち合わせの廃ビルに逃げ込む。

 

よし、言葉にして並べてみたら簡単な気がしてきたぞ。

 

 

『引き摺り落としてやる!』

 

 

壁に張り付いたまま、ヴェノムの右手から触手が槍のように飛び出してくる。

 

僕は手を壁に貼り付けて、咄嗟に空中で姿勢を制御して避け切る。

 

超感覚(スパイダーセンス)が効かないから、目で見て避けなければならない。

 

……やっぱり、全然簡単じゃないや。

 

通気口の蓋に足を掛けて、固定具(ボルト)を破壊する。

(ウェブ)で引っ張って壁から完全に引き剥がし、勢いをつけてヴェノムに投げ飛ばす。

 

ヴェノムの触手で弾かれ、排気口の蓋が捻じ曲がる。

 

だけど、攻撃するだけが目的じゃ無い。

 

ダクトの裏に付けておいた、替えの(ウェブ)カートリッジが壊れ、(ウェブ)が四散した。

 

 

『うぐぉっ!?』

 

 

これは自宅に帰ったタイミングで持ってきた(ウェブ)の予備カートリッジだ。

今回、敵が6人と言う事もあって、念には念を込めて用意してきた。

 

それを蓋の裏に(ウェブ)で固定しておいた。

結果は狙った通り、ヴェノムが必要以上に力を加えた所為でカートリッジは蓋ごと壊れて、(ウェブ)の原液が四散した。

(ウェブ)の原液は空気に触れて、辺りの壁やヴェノムに対して幾重にも張り付いた。

 

僕は蓋が外れた排気口に足を掛けて、そのまま飛び上がる。

ヴェノムはまだ糸に四苦八苦しているようだ。

 

最上階のドアをこじ開けて、滑り込む。

 

ガラス張りの部屋を走って、ジェイムソンを探す。

 

時間に余裕はない。

刻一刻とタイムリミットは迫っている。

 

ヴェノムだけじゃない、他の奴らだって追ってきている筈だ。

 

チラリと二つあるエレベーターの内、もう一つの方を見れば上に上がってきているようだ。

 

僕は走りながら、周りの部屋を見る。

……あった、休憩室!

 

僕はドアを開けようとして……くっ、鍵が掛かってる。

それはそうか、監禁場所なんだから、それなりのセキュリティは用意してあるよね……ハリーも言っていたし。

 

僕はドアに(ウェブ)を放ち、無理矢理引っ張る。

 

 

「くっ!おぉっ!!」

 

 

全身の筋肉が悲鳴を上げている。

ドアが変形して、隙間ができた。

 

そこに指をかけて、無理矢理こじ開ける。

メキメキと音を立てて、ドアを留め具ごと破壊した。

 

 

「はっ、はぁっ」

 

 

疲れた。

できればもう二度とやりたくないや。

 

僕は室内の様子を見る。

 

中央に椅子。

そこに座らされているのは……ジェイムソンだ。

 

彼は僕を見て驚いたような顔をしている。

だけど、テープのようなもので口を封じられていて「ふがふが」とした声しか出ていない。

 

椅子にはロープで縛られてるけど……心許ない。

その上から、僕は(ウェブ)で巻き付ける。

 

……何だか、ジェイムソンは声を上げて抗議しているようだ。

だけど、配慮してる余裕はない。

 

 

「ジェイムソンさん、今から飛ぶよ!」

 

「ん!?んぐぅ!?」

 

 

僕はガラス張りの壁を蹴破る。

 

そして……。

 

 

「待て!スパイダーマン!」

 

 

ミステリオが部屋に入ってきた。

ショッカーも、ライノも、他の奴らだって来ている筈だ。

 

だけど、僕は振り返らない。

ジェイムソンを椅子ごと持ち上げて……。

 

外へ放り投げた。

 

 

「んんぐぐんぐぅ!?!?」

 

 

ジェイムソンがテープ越しに悲鳴……いや、怒声を上げている。

 

僕も続けて、窓から飛び出した。

 

 

左手で、宙を舞うジェイムソンの座っている椅子に(ウェブ)をくっ付ける。

右手で、他のビルに(ウェブ)をくっ付けてスイングする。

 

頂点に達したタイミングで糸を切り離し、今度は右手でジェイムソンを……左手でスイングする。

 

お手玉のように宙に投げ出されるジェイムソン。

普通の人ならショックで気絶してもおかしくないけど……彼は持ち前の強気で正気を保っていた。

それどころか、こちらを見て睨み付けながら声を出そうとしているぐらいだ。

 

……超感覚(スパイダーセンス)に反応。

振り返らずに(ウェブ)を放つ。

 

僕の横を(ウェブ)で絡め取られた蝙蝠型の手裏剣、『レイザーバット』が横切った。

 

(ウェブ)によって軌道がズラされたようで見当違いの場所に命中する。

 

 

追ってきているのはニューゴブリン……ハリーだ。

廃ビルまで距離はそれ程遠くない。

僕は攻撃を回避しつつ、目的地に急ぐ。

 

何度かニューゴブリンの顔に向かって(ウェブ)を放ち、撹乱する。

正直に顔に当たってはくれない。

腕で防御したり、『レイザーバット』で切り裂いて無効化してくる。

 

 

……何とか、アイアンフィスト(ダニー・ランド)が用意した廃ビルに到着した。

 

ジェイムソンを最上階に着地させて、僕はまたビルの外へ飛び出す。

僕を追いかけていたニューゴブリンが驚いて、迎撃しようとレイザーバットを投げる。

 

廃ビルに逃げ込んだ瞬間に、まさか飛び出して戻ってくるとは思ってなかったのだろう。

 

(ウェブ)を放ち軌道を逸らし、ニューゴブリンを両腕で挟んだ。

 

 

「離せ!触るなっ!」

 

 

怒り狂うニューゴブリンの殴打を避け、(ウェブ)を最上階の一つ下にくっ付ける。

そして、そのまま……廃ビルにニューゴブリンごと自分を投げ込んだ。

 

 

「くそっ!ちょこまかと!」

 

「安心して良いよ……!もう逃げるつもりは無いからね!」

 

 

僕はニューゴブリンへと走り出す。

 

僕を追ってシニスターシックスの奴らも来るだろう。

 

ニューゴブリンのフックを避けて、足払いで転がす。

床を舐めながらも、ゴブリンは僕へ蹴りを放ってくる。

 

 

……ディフェンダーズのみんなの事を考えてる暇はない。

ただ、今は目の前の戦いに集中する必要があった。

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