【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#38 シニスター・シックス part6

黒い巨体が夜のミッドタウンを駆ける。

肉体は脈打ち、不規則に畝る。

 

触手を伸ばし、跳ね上がり、地形を無視して最短の距離を駆ける。

 

 

『オイ、エディ!ゴブリン野郎に先を越されちまってる!』

 

 

ヴェノムが体内にいる俺に話しかける。

 

 

「しょうがないだろ、アッチは飛べるんだから」

 

『お前も空ぐらい飛べるようになれ!』

 

「無茶言うなよ……」

 

 

俺、エディ・ブロックがヴェノムと出会ったのは、数ヶ月前。

 

『ライフ財団』の研究施設で出会った。

財団は前々から黒い噂に耐えなかった。

非合法な人体実験を繰り返してると……そう噂されていた。

 

新聞会社『デイリー・グローブ』に勤める新聞記者だった俺は、スクープをモノにするため、財団の研究施設に忍び込んだ。

 

……そこで行われていたのは、確かに人体実験だった。

だけど、俺が想像する数倍もヤバイ実験だった。

身なりの悪い……恐らくホームレスや、移民と思われる人間を檻に閉じ込めて、気持ちの悪い液体に取り込ませる実験だった。

 

後で知ったが……それは『シンビオート』と言う寄生生命体だった。

俺はそこから逃げ出そうとした。

 

だけど運悪く……そのタイミングで『S.H.I.E.L.D.』が財団の研究所を襲撃した。

 

結果的に『S.H.I.E.L.D.』のエージェントは迎撃されて撤退したが……一つの『シンビオート』を奪取していた。

 

そして。

 

それらの『シンビオート』の親元を封じ込める『檻』を壊してしまっていた。

 

その親元こそが……『ヴェノム』だった。

俺とヴェノムは財団の研究所から脱出する為に協力する事となった。

 

幸い、俺とヴェノムのバイオマトリックス……?の相性が良かったらしく想定以上のパワーで脱出する事が出来た。

 

以後、ヴェノムと俺は共生生活を続けている。

 

『シンビオート』の主食は宿主のアドレナリン、それとフェネチルアミンだ。

フェネチルアミンは生物の脳……もしくはチョコレートから得られる。

 

普段はチョコレートで代用しているが……稀に人間の脳を捕食している。

その際は街に繰り出し、悪人を見つけて食らうようにしている。

 

だが『ヴェノム』は短期間に何度も脳を食べたがり……そこでコイツが考えたのが、自警団(ヴィジランテ)活動だ。

 

街を警邏し、悪人を見つけて、ブチ殺す。

そして死んだモノは仕方ない……と脳を食らう。

 

……倫理観のない思考だが、合理的だ。

 

奴は俺と、自分自身を含めて「残虐な庇護者(リーサル・プロテクター)」を自称している。

 

……正義に目覚めた!

と言うには少し自分勝手な理由だが、それでも俺は満足していた。

 

だが、何にだって例外はある。

 

『ヴェノム』に取っての例外、それは。

 

 

『スパイダーマンは俺がブッ殺す!他の奴には殺らせねェ!』

 

 

スパイダーマンの存在だ。

ヴェノムは元々宇宙に居たらしく、スパイダーマンと結合して地球に来た。

シンビオートは寄生した生物の力と精神を増幅させる。

そこに悪意はない。

宿主を助けると言う純粋な生物としての本能だ。

 

だが、それがスパイダーマンには困るモノだったらしく……ヴェノムを教会に捨て去った。

結果、『ライフ財団』に捕獲されて研究材料となってしまった。

 

だから、恨んでいる。

 

その事を聞けば俺も気の毒に思うし、ちょっとばっかり手伝ってやっても良いかな……と言う気持ちになる。

 

だからこんな『シニスター・シックス』とか言うコスプレ集団に協力しているんだ。

 

 

……ニューゴブリンとスパイダーマンが、抱き合ったまま廃ビルに飛び込んだ。

 

遅れて、俺たちも廃ビルがある敷地に入り込む。

 

腕から細かな触手を作り、スパイクのようにして壁を駆け上がる。

 

 

『今すぐブチ殺して──

 

「残念だが、殺しは俺の専売特許だ」

 

 

カチャリ、と金属が擦れる音がした。

音がした方を見ると、ドクロマークの服を着た男が壁にワイヤーでぶら下がっていた。

 

その手には……。

 

 

『あ?』

 

 

ロケットランチャー。

 

紛争地帯の取材をした際に、一度だけ見た事がある。

対戦車用の武器だ。

……少なくとも、人に向かって撃つ武器じゃないのは確かだ。

ヴェノムは気付いていない……その武器の危険性に。

 

その弾頭が、発射された。

 

 

……まずい!

他人事に思っている場合じゃない。

 

咄嗟に触手で身を守ろうとして……直撃した。

 

強烈な爆発が起こる。

尋常じゃない熱エネルギー。

そして、轟音。

 

その全てがシンビオートには致命傷だ。

 

何層にも生み出した触手が焼き切れる。

衝撃を受けながらも咄嗟に廃ビルに転がり込む。

 

 

『オ、イ!エディ、これ、やべぇ、ぞ!』

 

「熱っ、あっつ!」

 

 

弱点を突かれたヴェノムが言葉を途切らせながらも語り掛けてくる。

熱波はヴェノムを貫通し、俺の服を焼け焦がした。

 

ワイヤーでぶら下がっていた男が廃ビルの同じフロアに着地する。

 

 

「思ったよりしぶといな……だが、安心しろ。直ぐに駆除してやる」

 

 

完全武装したドクロマークの男と向かい合う。

 

 

『舐めやが、って!後悔させてやる!』

 

「掛かって来い、害獣」

 

『害獣じゃねぇ!俺達は──

 

 

俺は……俺達は地面がめり込むほど、足を踏み込み、目の前の獲物へと飛びかかる。

 

 

『ヴェノムだ!」

 

「へぇ、そうかい。それなら俺は……『処刑人(パニッシャー)』だ」

 

 

パニッシャーが、武器を構えた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

上層で爆発音が聞こえる。

恐らくパニッシャーが戦闘を始めた音だ。

 

私、ジェシカ・ジョーンズの前に赤いマスクが座っている。

 

 

「初めまして……レッドキャップ、で良いのかしら」

 

 

瓦礫に腰掛け、座るその姿。

 

……事前にマットから聞いている。

百戦錬磨の暗殺者。

スーパーパワーと暗殺技能を持つ。

 

そして、スパイダーマンを狙っている……ティーンエイジャーの女だと。

 

……最後の情報は、スパイダーマンには意図的に伏せている。

彼はまだ子供だ。

敵が女だ、子供だ、と知れば……無意識にでも手加減してしまうだろう。

 

だが、敵はそんな甘い奴ではない。

手を抜けば間違いなく殺される。

そう、マットとパニッシャーは言っていた。

 

……私も、噂や人伝には聞いていたが、確かに何を考えてるかも分からない不気味さがあると、相対して理解した。

 

 

『……あぁ、そうだ。そう言うお前は……ジェシカ・ジョーンズか?』

 

「へぇ……別に覚えて貰わなくても良いけど」

 

 

名前を知られている事に驚きつつ、にじり寄る。

 

 

『……任務外の戦闘は避けたいが』

 

「アンタには理由がなくても、私にはあるんだよ」

 

 

また、一歩踏み込む。

 

 

「アンタ、フィスクの手下なのよね?」

 

『厳密には違うが……まぁ、そうなるな』

 

 

レッドキャップが立ち上がった。

 

 

「一つ、質問良いかしら……パープルマン、AKA(あるいは)キルグレイブって名前に覚えは?」

 

 

私は息を吸い込んだ。

 

……パープルマン。

本名はゼベディア・キルグレイブ。

特殊なフェロモンを持ち、人を洗脳する最低最悪のクズ野郎だ。

私がヒーローを辞める原因を作った悪人であり……忘れる事の出来ない屈辱を与えられた怨敵でもある。

 

ソイツをずっと、私は探している。

 

 

『パープルマン……キルグレイブか……あぁ……何も知らないな』

 

 

……嘘だ。

今の間は何かを知っている証拠だ。

 

突如湧いてきた宿敵の手掛かりに、心が躍る。

今すぐ目の前の奴をブン殴って吐かせたい衝動に駆られる。

 

一歩、また一歩前に進む。

 

 

「正直に喋ったら……半殺しで済ませてあげる」

 

『……仕方ないな』

 

 

レッドキャップがナイフを取り出す。

光を一切反射しない、真っ黒なナイフだ。

 

 

『あまり時間がない。手短に済ませよう』

 

「安心しな。独房に入れば、時間は腐るほどあるからね」

 

 

私は……地面を蹴った。

 

飛行能力と跳躍を重ねて、弾丸のように飛び出した。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

蝙蝠型の手裏剣、『レイザーバット』を回避する。

 

投擲ではなく、ニューゴブリンは今、手持ちのナイフとして活用している。

 

超感覚(スパイダーセンス)で攻撃を察知し、最短距離で避けつつ、距離を取る。

 

 

「ハリー!君は騙されてるんだ!」

 

 

……正直、僕はハリーが嫌いだ。

突然現れて……好きな女の子と親しそうにしてる男なんて……そりゃあ、嫌いに決まってる。

 

 

「何が騙されてると言うんだ!貴様が父を殺した!」

 

 

僕はまた攻撃を避ける。

手は、出さない。

 

必要以上に攻撃したくはない。

……ハリーは、ミシェルの友人だ。

 

彼女が悲しむような真似はしたくない。

 

 

「それはミステリオの嘘だ!アイツは魔術師なんて名乗ってるけど、ただの詐欺師だ!」

 

「何を根拠に!」

 

「君の父を殺したのは、レッドキャップだ!君の仲間のフリをしてる!」

 

「黙れ!それ以上『俺』を惑わすな!」

 

 

レイザーバットが擦り、スーツが切れる。

血が滲む。

 

 

「この、分からずや!」

 

 

僕は意を決して、ハリー……ニューゴブリンの腹を蹴り飛ばした。

兎に角、冷静にさせる必要がある。

 

気絶させるか、拘束するか、どちらかだ。

 

父であるグリーンゴブリン同様に薬で身体が強化されている。

それと同時に精神と思考も歪められている。

 

グリーンゴブリンよりは摂取量が少ないからか、力も、歪みも少ない。

 

……無差別に人を殺したりもしていない。

父の仇だと信じている僕だけに、その殺意を向けている。

 

まだ、間に合う。

償える。

 

手遅れになる前に……ここで確実に拘束する!

 

 

右手で(ウェブ)を放ち、ゴブリンの腕と繋ぐ。

それを引っ張り、距離を詰めさせる。

 

 

「ッ!」

 

 

拳が互いの頬をすれ違う。

ゴブリンのマスク、その側面が欠ける。

 

至近距離。

 

ゴブリンが足を踏み込み、僕の片足を踏みつけようとする。

 

僕は一歩下がり回避しつつ、(ウェブ)を引き寄せる。

ゴブリンが姿勢を崩す。

 

 

「このっ!」

 

 

左手でゴブリンの腹に拳を捩じ込もうとして、それを防がれる。

 

 

僕は頭を振りかぶり……。

 

 

頭突きをした。

 

 

「「ぐぅっ!」」

 

 

ゴブリンのヘルメットは予想以上に固く、ヒビ割れはしたが……僕にも衝撃が来る。

 

だけど、僕から攻撃した結果だ。

この衝撃は想定出来たし、耐えられる。

 

でも、ゴブリンはどうだ?

急な不意打ちで驚いて怯んでいる。

 

その差は大きい。

先に動き出したのは僕だった。

 

 

僕は右手を繋いでいた(ウェブ)を切断し、ゴブリンの無防備になっている腹を蹴り飛ばした。

 

ゴブリンは後ろに吹き飛ばされ、コンクリートが剥き出しになっている壁にぶつかった。

 

 

正面からの頭突きと、後頭部へコンクリートとの衝突。

 

前後にヒビが入り、マスクが割れる。

 

ゴブリンの……ハリーの素顔が現れた。

 

 

互いに呼吸は荒い。

極度の緊張感の中では、人間の疲労は数倍に跳ね上がる。

たった数分の運動でも、急激に体力を消耗する。

 

僕は息を整えて、ハリーに向かって走り出す。

 

ハリーが僕を迎撃しようと、レイザーバットを構える。

 

 

「父の仇だ!」

 

「違うって言ってるだろ!」

 

 

攻撃を避けて、顔を殴る。

整った顔が苦痛に歪む。

 

 

「君はただ、父が死んだ悲しさを恨む事で紛らわせてるんだ!」

 

「黙れ!」

 

 

ハリーの拳が僕に命中する。

 

 

「そんな事をしたら、君の友達だって悲しむ!」

 

「『俺』に親しい奴なんていない!俺は孤独だ!」

 

 

僕の蹴りがハリーに当たった。

 

 

「そんな筈はない!君にだって……大切な人がまだ居る筈だ!」

 

「このっ!」

 

 

ハリーが振り回した手が、僕の顔にぶつかる。

 

 

「思い出すんだ!」

 

「『俺』は父の、ノーマン・オズボーンの息子だ!仇は取る!」

 

「違う!君はハリーだ!ノーマンを忘れる必要はなくても、囚われたらダメだ!」

 

「『俺』は!」

 

 

ハリーの足が僕に当たった。

 

 

「好きな女の子に顔向け出来なくなっても良いのか!?ハリー!」

 

「『俺』に……僕に……!そんな資格なんて……!」

 

 

僕はハリーが……以前、病院で僕に耳打ちした言葉を思い出す。

 

『僕には彼女を守る資格なんてない……今は君に頼む』

 

……何だよ、それ。

その自己評価の低さは……僕の好きな女の子を連想させて……似てると思って、凄く不快になったんだ。

 

 

「誰かを好きになるのに資格なんて要らない!今からだって取り戻せる!君は……ノーマンと同じ道を辿らなくて良いんだ!」

 

 

ハリーの攻撃が……止まった。

 

 

「僕は……僕の体には父の血が流れてる!父が何人殺したと思う?147人だ!取り返しの付かない事をした……!好きな女の子の、友人だって傷付けてしまった!それでどうやって、償えるって言うんだ!」

 

 

ハリーは……泣きそうな顔をしていた。

彼が俯いた。

 

 

「……全部、君の父さん……いや、薬によって狂わされたグリーンゴブリンの罪だ。君の罪じゃない」

 

「世間はそう思ってくれない!僕もだ!」

 

「それでも、僕も……ミシェルだって、君の罪だって思わないよ」

 

 

ミシェルの名前を出した事で、顔を上げた。

 

 

「……なんで」

 

 

……僕はマスクを脱いだ。

 

 

「……ピーター?」

 

「そうだよ、僕だ」

 

 

彼とは真正面から向き合う必要があると思った。

 

 

「どうして……」

 

「君と同じで……力を身に付けてしまったから、こうなってる」

 

 

そうだ。

唐突にスーパーパワーを与えられたら、どうしたら良いかなんて分からない。

 

僕だって失敗をしてしまった。

だけど、僕には導いてくれる人がいた。

ベンおじさんと……メイおばさんだ。

 

だけど、ハリーには誰も居なくて……孤独で。

その心の隙間をミステリオに利用されてしまったんだ。

 

僕はベンおじさんの言葉を思い出す。

 

 

「『大いなる力には、大いなる責任が伴う』」

 

「え……?」

 

「僕の叔父の言葉だよ。もう……居ないけど」

 

 

死んでしまった叔父を思い出して……僕はハリーに歩み寄る。

 

 

「大切なのは……その力で何をするか、なんだ。君が罪の意識を持っているのだって分かる。だけど……その大きな力を扱うなら……良い事に使わなければならない」

 

 

肩を叩く。

 

 

「グリーンゴブリンから力を引き継いだとしても……善行に使っちゃダメなんて決まりはない。それは思い込みだ……思い留まるんだ。君は……まだ、やり直せる。誰も殺しては居ない」

 

「ピーター……」

 

僕はマスクを被り直す。

 

 

「僕は正義の味方……親愛なる隣人、スパイダーマンだ。君だってヒーローになれる」

 

 

ハリーが頷いた。

 

 

「……すまなかった、ピーター。気が動転していたみたいだ」

 

「良いよ。仕方ないから……でも、今はスパイダーマンだから。あの、名前がバレるとちょっと不味いんだって」

 

 

僕が慌てて訂正すると、ハリーが笑った。

 

 

「じゃあ、何でマスクを脱いだんだ……」

 

「……いや、だって……君ちょっと冷静じゃなかったし。驚かせて、落ち着かせようと」

 

「……それだけか?」

 

「それに、君とは顔を合わせて、真剣に話がしたかったから」

 

「そうか……」

 

 

納得したように頷いた。

もう、彼の目に狂気は無かった。

 

 

「……取り敢えず、僕がノーマンを殺した訳じゃないって納得したよね?」

 

「当たり前だ。ミシェルの友人である君が、そんな事をする訳ないだろう」

 

「ハハ……」

 

 

ミシェル、ミシェルって……そう言う彼に呆れて、変な笑いが出てしまった。

 

仕切り直す目的で、僕は口を開いた。

 

 

「行こう、ハリー」

 

「……どこに?」

 

「ミステリオとレッドキャップの所だよ。一緒に戦うんだ……ヒーローなんだから、悪人を捕まえないと。あ、でも殺したらダメだよ」

 

 

僕が最後に付け足した言葉に、ハリーは笑った。

 

 

「分かってるよ。僕は誰も殺さない」

 

「よし、じゃあ行こう……今は僕の仲間が戦ってる筈だから」

 

 

ハリーに肩を貸して、僕達は並び立った。

 

……ほら。

誰だって……やり直せるんだ。

 

僕は以前、レッドキャップから言われた言葉を否定するように……そう考えた。

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