【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
じゃあ、もう一度だけ説明するぜ。
俺の名前はデスストローク!
……じゃなくて、デッドプール。
職業は傭兵だ。
なんやかんやあって超再生能力を手に入れた時から、この世にたった一人の『スパ──
『デッドプール』だ。
後は知ってるだろ?
沢山の人を助けたさ。
死の女神様と恋もした。
街も……いや、まぁ、救ったかな。
うん、一応。
そこそこの数、救ったと思う。
お前、どう思う?
別アースの作品合わせたら、結構救ってんじゃねぇの?
とにかく、俺の名前は『デッドプール』。
不死身のスーパーヒーローだって事だけ、覚えて帰ってくれ。
◇◆◇
「うーん、一度やってみたかったんだよね。このテンプレート自己紹介。新規層のファンにはしっかり説明しといた方が良いだろ?常識的に考えて」
デッドプールが砂浜で、誰に向かってか虚空へ話しかけている。
僕は頭に乗った海藻を捨てて、ため息を吐いた。
「Oh?どうかしたか、スパイディ?ため息は幸せを逃すぜ?……逆説的に言うと不幸せな奴はため息を吐きまくってるってコト?じゃあ俺ちゃん、ため息を吐いとくかな。不幸せだし。はぁ」
うるさくて、騒がしくて、頭のおかしい狂人。
それがこの、デッドプールへの僕達の評価だ。
僕個人の、ではない。
僕達の評価だ。
と、言うのも。
彼は元『アベンジャーズ』だ。
元だ。
めちゃくちゃ短い期間で参加していた。
何故、短いか?
何をしたのか、スタークさんとキャプテンがメチャクチャ怒ってたらしい。
後はミュータントのヒーローチームにも参加していた。
多分、そっちも
知らないけど、多分そうだろう。
そんな男だ。
やる事、為す事、全部がメチャクチャ。
だって今も──
「……早く、治してくれない?それ」
下半身がなく、上半身だけで寝転がっている。
これで死んでないのが不思議だが、彼のスーパーパワーが不死性に由来しているから仕方ない。
「そう思うならスパイディ、俺ちゃんの下半身を持ってきてくれない?そこに落ちてる奴。生やすより、くっ付けた方が早いからさ」
「うぇっ……そもそも、何で自分で爆破したのに……一番ダメージを受けてるんだよ」
僕はデッドプールの下半身……内臓がちょっと見えてるグロテスクなものを持って、上半身へくっ付けた。
「お、センキュー。結局、スパイディは俺ちゃんに優しいよね。実はツンデレって奴?」
ほんの数秒で結合し、立ち上がる。
足をブラブラとさせて、具合を確認してる。
キモいし黙って欲しい、切実に。
僕は若干の吐き気を催しながら、気絶して液状で震えているハイドロマンに近付く。
泊まっていた船からポリエチレン製の容器を拝借して、ハイドロマンを封じ込めて蓋をする。
彼を
一作業終えた僕は、デッドプールに振り返った。
「それで?」
「それでって?」
僕はこめかみを揉む。
怒ったら負けだ、怒ったら負け……。
「何の用事?さっき別件で来てるとか言ってなかった?」
「あー、そうそう。元々、コイツ捕まえる為に来た訳じゃないんだよね。俺ちゃん」
「じゃあ、何しにきたの」
「知りたい?どうしても?」
イラッ。
「あぁ、知りたいよ。迷惑かけられるかも知れないし……主に僕が」
「でもダメ。教えてあ〜げないっ」
思わず手が出そうになるのを必死に抑える。
どうして、コイツは本当に。
「クライアントが秘密主義者なんだよ。俺ちゃんの尻の穴の数は教えてあげられるけど、それだけは言えない」
「……尻の穴は一つだろ」
「でも、そうじゃないかも知れないぜ?見る?」
「見ない」
僕はまた、ため息を吐いた。
ハイドロマンはスーパー能力を持った悪党だから、現地の警察官に直接渡すのも問題がありそうだ。
それこそ、『S.H.I.E.L.D.』みたいな特殊な組織じゃないと彼を拘束出来ないだろう。
「え、お困り?ゲロミズマンだったか、ゲスイドウマンだったかは俺ちゃんが預かっておこうか?」
「……何で?」
正直、デッドプールには信頼なんてない。
初見の見知らぬ相手よりも信頼してない。
時々、本当に洒落にならない事を仕出かすし。
金さえ貰えば……悪事を働く時もあるし。
基本的には善人だから、とやかく言う事はないけど。
どうせ捕まえられないし、捕まえるにしても時間がかかるし。
僕も早く帰らないと、グウェン達に不審がられるし。
……あぁ、でももう手遅れかも知れないけど。
「いや?別件の別件でね。俺ちゃん別に依頼を受けてないけど……」
「そういう思わせぶりな発言は良いから、教えて欲しいんだけど」
「OKOK、そう焦んないでくれ。こっちは依頼も何も契約してないから、俺ちゃんも話せる」
デッドプールが胸元のポーチからメモ帳を取り出す。
……海水を浴びて、表紙がぐちゃぐちゃになっている。
「えーっと?あった、あった」
それでも気にせずに捲って、目的のページを開いた。
「こいつ含めて何人かの
「ジャスティン・ハマー?」
「そう、『ハマー・インダストリー』の社長だ。死の商人とも言われてる。
僕は手を顎にあてて、考える。
……確かに。
ミステリオもそうだけど、個人では持ち得ないレベルで強力な武器や装備を持っているスーパーヴィランはよくいる。
その元手となる大金や技術は何処から出ているのかと思ったけど……そんな所から出てたのか。
「続けると『ハマー・インダストリー』は武器商人でもある。そして、『スターク・インダストリー』のライバル会社だ」
「スタークさん……?」
トニー・スターク、アイアンマンの敵……と言う訳だ。
「YES!そう、トニー・スタークのライバル!……と言うにはちょっとカスみたいな奴だけど、因縁の相手とも言える。因みにこれはエンサイクロペディア調べ」
「じゃあ、『ハイドロマン』が襲ってきたのも……」
「今日、偶々『スターク・インダストリー』の慰安旅行がここ、マイアミだった訳だ。さっき助けたオッサンも社員だ。ついでに、旅行期間は明日まで」
僕は頭を抱えた。
どうして、よりによって明日まで。
……僕達の夏期旅行も明日までだ。
逆に言うと、明日までなら僕は彼等を助けられてしまう。
見殺しになんて出来ないし……旅行中に隠れてコソコソ、スパイダーマンとして活動しなくちゃならない。
僕の夏期旅行がメチャクチャにされる、そんな予感を感じとった。
「……と言うか。何で、そんな事に詳しいんだ」
情報通……と言うには、やけに内部情報を知り過ぎているデッドプールに僕は問いかけた。
「あぁん?そりゃ、俺ちゃんもハマーに誘われたからだよ」
「……はぁ?」
「あ!ちょいちょい、そんな怖い顔すんなって!大丈夫、俺ちゃんはヒーローだから。そんな事しないって!
僕は訝しげに彼を見た。
……目が泳いでいる。
多分、恐らく、デッドプールの言っている『別件』が無ければ参加してそうだな、なんて思った。
「ま、コイツ捕まえときゃアイアンマンに媚び売れるだろ。足元見れば金をふんだくっ……冗談、冗談だから」
「……まぁ、いいよ。それで?ハイドロマン以外に来ている奴っているの?」
「あぁ……?あー、あー、ちょい待ち」
またパラパラとメモ帳をめくる。
「……知らね。書いてねぇや」
「…………はぁ?」
「他にも雇われてる奴はいるだろうけど、俺ちゃんには関係ない話だし。そんなに気にしてなかったわ」
ムカつきながらも、考える。
他に何人ものスーパーパワーを持った悪人がいれば、警察や、普通の警備員だけでは『スターク・インダストリー』の社員を守り切れないだろう。
……ヒーローが必要だ。
僕以外の。
だって、こっちは休暇だから。
スタークさんに代わりに戦ってもらいたい。
だって、本人の会社の話だし。
僕はスーツの胸元、蜘蛛のマークをタッチして仮想タッチパネルを展開する。
スーツの視界に起動されたパネルを操作して、スタークさんに電話をかける。
……側から見れば、宙に対して手をフラフラさせている奇行に見えるかも知れない。
デッドプールに「何してんの?」って、狂人を見るような目をされている。
狂人はお前だろ。
数回のコールの後、スタークさんへ電話が繋がる。
「あ、スタークさん?もしもし」
『……ピーター。こっちは今ちょっと忙しいんだけど』
「う、すみません。でもちょっと急用があっ──
爆発音。
通話先から聞こえた轟音に、思わず眉を顰めた。
『すまない、ピーター。ちょっと今手を離せないから、ジャービスに繋げ直してくれ。後で聞くから』
また爆音。
「え、ちょっ、スタークさ──
ブツン。
ピー、ピー。
「き、切れちゃった」
「え?何?アイアンマンと電話してたの?今」
デッドプールが顔を近付けてくる。
……幸い、通話先の声は聞こえないだろうから問題ない。
ジャービスに掛け直して、事情を説明したけど……スタークさんも手が離せない用事中らしく、三日は来れないらしい。
思わず顔を顰めた僕に、何を思ってか、デッドプールが肩に手を乗せた。
「やっぱさ、つれぇよな……?蔑ろにされる気持ちってのは……分かるぜ?『痛みを知って、人は強くなれる』……これ、実写版グリーンランタン2の名言な」
その馴れ馴れしさにイラつきつつ、手を払った。
「スタークさんは来れないみたいだから……僕達で何とかしないと」
「え?達?」
デッドプールが首を傾げた。
……まさか。
「え?協力してくれないの?」
「そりゃあ……金の出ない仕事なんてしたくないし?サービス労働には断固として拒否する」
……ちょっとでも信頼してしまっていたらしい。
僕はまた、ため息を吐いた。
さっき言っていた「幸せはため息で逃げる」ってのが本当なら、僕はもう、この世で一番不幸な人間かも知れない。
……目の前の、コイツのせいで。
「正当な理由もあるぜ?俺ちゃん、別の仕事あるって言ったよね。それも人助け……人助けか?まぁ人助けみたいなモンだから、抜けれねぇワケ。残念ながら」
言い訳する姿に目を細めつつ……まぁ、コイツ、そういう人間だし仕方ないか……と僕は諦めた。
「……分かったよ。まぁ……でも、情報ありがとう」
実際、彼に期待し過ぎていただけで、助けてくれたし……情報も教えてもらった。
感謝こそしても、非難する必要はないかも知れない。
「スパイディに感謝される日が来るなんて……善行は積んどくもんだな。ついでにスーツにサイン貰っていい?『愛しのデップーさんへ❤︎』って」
いや、やっぱムカつくな。
これ以上、話しても仕方ないし……あんまり長時間、グウェン達と離れていても疑われる。
デッドプールに後処理は任せて、僕はその場を後にした。
文句を言っていたけど、罪悪感は少しも湧かなかった。
◇◆◇
ここは避難所。
マイアミビーチの側にある公共施設だ。
そこに私、グウェン、ネッドは居た。
「ピーター、大丈夫かな?」
そう言って心配しているのはグウェンだ。
……ネッドも、避難場所でウロウロと落ち着かずにいる。
私は……まぁ、ピーターがスパイダーマンだって知ってるから、そんなに心配していない。
ハイドロマンぐらいなら楽々倒して帰ってくるだろうと、そう思っている。
……普段の元気を潜めて、表情を沈ませているグウェン。
あまり、見ていて気持ちの良いものではない。
彼女は笑って、楽しそうにしている方が良い。
私はグウェンの手を握った。
「……ミシェル?」
「ピーターなら大丈夫」
根拠は何も言えないけれど、そう言った。
……遠くで、爆発音が聞こえた。
私達は窓から顔を出して、音のした場所を見る。
水で出来た巨人、ハイドロマンが爆散していた。
……どうやら、戦いは終わったらしい。
不安がる二人を宥めていると、避難所のドアが開いて……ピーターが入ってきた。
「二人ともゴメン!ちょっと遅くなった」
「お、ピーター!やっぱ無事だったか!」
そう言ってネッドとピーターが抱き合う。
……ネッド、普段はハグとかしないのだろうけど、それだけ心配してたって事かな。
ぼーっと眺めていると、握っていたグウェンの手が震えている事に気づいた。
……あ、まずい。
「ピーター、何で一緒に避難しなかったの?忘れ物って?」
グウェンが笑顔で、ピーターに話しかけている。
……いや、絶対笑ってない。
内心ではメチャクチャ怒ってる。
ピーターはそれを見て……うん、気付いてない。
グウェンが笑っている事に安心している様子だった。
「あ、グウェン。ビーチに置いてあった貴重品が──
バチン、と大きな音がした。
……グウェンがピーターの頬を叩いた音だ。
ピーターが尻餅をついて、グウェンが上から睨みつける。
「なんで、そんな危険な事したのよ!バカ!」
怒ったグウェンがドカドカと大きな足音を立てて離れていく。
ネッドがピーターの方を一瞥して……怒ったグウェンを追いかけて行った。
ピーターよりも、彼女の方を心配しているのだろう。
……仕方ない。
グウェンはネッドに任せて、私はピーターのメンタルケアでもしようか。
私はピーターの側に立つ。
彼は……うん。
凄くショックを受けた顔で床に座っていた。
それも仕方ない。
グウェンはピーターを小突く事はあっても、本気で叩くような所は見た事ない。
それだけ、心配だったのだろう。
本気で怒ってた。
「ピーター?」
私は、グウェンが去った後を眺めていたピーターに声を掛けた。
我に返って、私の方へ視線を向けた。
「は、はは。ごめん、凄く心配かけたみたいで」
正直、私はピーターを心配していなかった。
だけどそれは、彼がスパイダーマンだと知っていたからだ。
普通の友人ならば、ネッドみたいに安心したり、グウェンみたいに怒ったりするのが普通だ。
つくづく、自分は本当の意味で彼等に馴染めていないのだと……そう思った。
だけど、そんな事がピーターにバレないよう、言葉を合わせる。
「うん、心配した」
「……ごめん」
項垂れるピーターに、私は同情した。
……彼は人知れず、人助けをしただけだ。
誰にも言えず、理解もされず。
そして、彼本来の性分のせいか誤魔化すのも下手で……。
私はピーターを励ましたいと思った。
だけど、どうすれば良い?
ネッドみたいに『抱きしめる』とか?
……いや、好きでもない異性にハグされても困るだろう。
私は今、ネッドと違って彼と同性ではない。
……私は、中途半端な存在なのだ。
「……ミシェル?」
黙って見つめている私に、ピーターが不安そうな声を出した。
「どうしたら励ませるか分からないから……困ってた」
正直に、そう告げる。
すると、ピーターは少し呆れたような……苦笑いをした。
「一緒に居てくれるだけで嬉しいよ、僕は」
「そう、かな?」
よく分からない理屈に首を傾げる。
黙って側にいるのを励ましと言って良いのか?
そんな知識も、経験も、私には無い。
私は少し悩んで……グウェンの事を話す事にした。
「ピーター。グウェンのこと、嫌わないで欲しい」
「……嫌いになんてならないよ」
「凄く心配してたから、ちょっと怒ってる」
「……うん。僕が悪い」
そう言って項垂れるピーターを見て、私は胸が苦しくなった。
だって彼は……。
人助けをして……。
なのに……。
幾つもの思いが喉まで出そうになって、私は無理やり飲み込んだ。
それは、誰の為にもならないから。
彼の秘密を暴いた所で、悲しむのはピーターだ。
誰も喜ばない。
私の自己満足にしかならない。
……誰も、彼の理解者にはなってくれない。
彼自身も。
こうやって責められる事を仕方ないと、自分のせいだと、本気で思っている。
だから、私だけでも──
「ピーターは悪くない」
彼の理解者に、なってあげたい。
そう思った。
「……そうかな?」
「うん。理由は知らないけど──
嘘だ。
知っている。
彼の秘密を、私は一方的に知っている。
「ピーターが理由もなく、こんな事をするって思わないから」
「……いや?理由もなく、この場から居なくなる事だってあるよ。迷惑をかける事だって」
ピーターは私の言葉を否定する。
それは、スパイダーマンである事に結び付けられたくないのだろう。
少しでも正体がバレそうな返答は出来ないと、そう気を揉んでいるのが分かった。
それでも、誤魔化し方が下手な姿に私は少し面白く感じて、笑ってしまった。
「……ミシェル、何で笑ってるの?」
「ふふ、何でもない」
私も誤魔化すのが下手かも知れない。
お互いに秘密を抱えて、私だけがピーターの秘密を知っている。
少し罪悪感が湧くけど。
私の秘密は知られてはならない。
だって、この秘密を知られた時が……私と彼等の最後になる。
「行こう、ピーター。グウェンを追いかけないと」
二度と会えなくなるのは嫌だ。
嫌われるのも、嫌だ。
だから、私はいつか来る別れの日が来たとしても……話す事はないだろう。
……例え、二度と会えなくなったとしても。
彼等には友達だと思われていたい。
私はピーターの手を握って、立ち上がらせた。