【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#48 ブラン・ニュー・パワー part7

晩御飯はホテルで、みんなで食べる。

夏期旅行に来ている学生全員で食べるのだ。

 

点呼も、そのタイミングで行われる。

 

……グウェンは、まだ怒っている。

怒っているけど……僕のために水を持ってきたりとか、不機嫌そうにしつつも僕の言葉に返事をしたりとか……そんな感じだ。

 

……どこかで、謝らないと行けないな。

何て思いつつ、僕は晩御飯をつつく。

 

と、言っても安ホテルのディナーだ。

そんなに豪華ではない。

 

目新しい食べ物がある訳でもなく。

それほど美味しい訳でもない。

 

特にこれといって特筆する事もなく、食事は終わった。

 

グウェンとミシェルは自室に帰って、僕とネッドも自室に帰る。

 

……今日の夜、浜辺でも散歩して……ミシェルにアクセサリーを渡そうとしてたけど──

 

流石にそんな事をしてる場合じゃない。

 

 

 

自室に帰って。

相部屋のネッドが就寝して。

……熟睡してるのを確認する。

 

僕は布団にクッションを詰めて、外からは寝ているように見せかける。

そして、こっそりと窓を開けた。

そのまま窓から外に出て、窓を閉める。

 

……鍵を閉められたら一巻の終わりだ。

そんなに長く出るつもりはないけど。

 

 

壁に張り付いたまま腕時計、ナノマシンスーツを起動して装着する。

屋根へと駆け上がり、周りを見渡す。

 

 

僕はスーツの胸、蜘蛛のマークを操作する。

仮想パネルから『スパイダードローン』を起動する。

 

胸の白い蜘蛛マークの中心が分離して、宙に浮く。

 

 

「『カレン』、街中にいる怪しい人……物も含めて探して」

 

『了解しました』

 

 

これは、無人航空機(ドローン)機能だ。

ナノマシンと言う性質上、設計すればどんな形、機能にでも変形できる。

胸のマーク部分のナノマシンをドローンへと再設計したのだ。

 

蜘蛛型のスパイダードローンを飛ばし、街の中を探索する。

 

……スタークインダストリーの社員が襲われる可能性があるのは、明日までだ。

つまり、街のどこかに悪人が潜んでいる筈だと、僕は考えた。

 

スーツに搭載された人工知能(エーアイ)『カレン』が、自動的に探索してくれる。

何か見つかれば連絡もしてくれるだろう。

 

僕はホテルの屋上で、ダクトに腰掛けて待つ事に──

 

 

『怪しい人物を発見しました』

 

 

……早いな。

 

人工知能(カレン)の言葉に、僕はスパイダードローンへ視界を繋いだ。

 

マスクの中の映像が、ドローンのカメラへと切り替わる。

 

 

……赤いスーツを着た、見覚えのある男が手を振ってる。

 

僕は頭を抱えた。

 

デッドプールだ。

少し離れたビルから手を振っている。

何でこんな場所にいるんだ。

 

 

「……カレン。確かに怪しいけど、彼はスルーしておいて」

 

『了解しました』

 

 

ドローンから視界を切断し、探索を再開させる。

 

僕は手を頭に当てて、考える。

 

そもそも、何で彼はマイアミに来てるんだ?

別件って?

 

聞いても答えてくれないけど。

彼は何も考えてない破茶滅茶な人物だけど、秘密に対しての口は固い。

傭兵という職業の都合上、そういうのに厳しいんだ。

 

だから、その彼の言う『別件』についての答えも教えてくれないだろう。

 

……彼は僕のいるホテルを見ていた。

 

気になるのは、何故僕の泊まっているホテルを見ていたか、だ。

 

……別件と言うのはホテルにある何か……もしくは誰かを監視している?

このホテルに危険人物でもいるのか?

それとも彼を雇った金持ちの護衛?

 

さっぱり分からないけど……きっと、悪事ではない筈だ。

人助けの事をバカにしたり、名声を欲しがったり、金儲けの事ばかり考えるような奴だけど……目の前で誰かがピンチになってたら助けるぐらいの善性は持ってる。

 

じゃないと、アベンジャーズに入れないからね、そもそも。

解雇(クビ)になったとは言え、最低限の素質はあるという訳だ。

 

 

『多数の怪しげな熱源を探知しました』

 

 

カレンの合成音声が聞こえる。

 

僕は視界をドローンに戻す……なるほど、映っているのは大きなビルだ。

 

ビルの中には熱源が沢山。

人や生き物の熱源じゃない。

超強力な人工の熱源だ。

 

恐らく、武器か、兵器だ、

それも何かしら……ハイテクなエネルギーを備えている。

 

壁に書いてある社名を検索すれば……なるほど、『ハマー・インダストリー』の子会社だ。

間違いなく『黒』だ。

 

……どうする?

今から行って、戦う?

 

いや……どれぐらいの規模か分からない。

思ったより熱源は多いし……。

強力そうだ。

 

敵の本拠地に乗り込むのは得策じゃないし、僕の手に負える相手じゃない。

 

……一応、スタークさんに情報を送っておくか。

助けも要るって言っておこう。

 

……あれ?

そもそも僕って戦う必要があるのか?

助けが来るなら、その人に任せておけば良いし。

誰かに頼まれた訳じゃないし。

 

……僕だって忙しいし。

 

取り敢えず、スタークさんにメールを送って、返事を待とう。

 

……そもそも、休暇に来ている『スターク・インダストリー』の社員だけが標的なら、これほど強力な武器は必要じゃない筈だ。

 

攻めてくる時は、見えているよりも少ない数で来るだろう。

……いや、楽観視してるかも知れないけど。

 

 

「……どうするかは、明日考えよう」

 

 

ドローンを回収して、僕はホテルの壁を下る。

 

とにかくスタークさんの指示を仰ぎたい。

僕だけでは、どうにか出来る気はしない。

 

デッドプールが見てるかもって考えて、自室に入ってからスーツを解除する事にする。

 

窓をそっと開けて……中に滑り込む。

なるべく音を立てないよう、静かに。

そして、外から見えないようにカーテンを閉める。

 

……ネッドの方のベッドを見る。

よし、布団も盛り上がってるし、多分寝てる。

 

 

胸のマークを複数回タッチして、スーツを解除し──

 

 

ゴトン、と何かが落ちた音がした。

 

 

振り返ると……地面に水の入ったペットボトルが落ちていて。

 

 

「ピーター……!?」

 

 

 

ネッドが驚愕した顔で僕を見ていた。

ベッドには大きな抱き枕が置いてあっただけだ。

 

 

あぁ、もう。

今日は厄日だ。

間違いなく。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

私は『夢』を見ない。

もしも、あの時。

もしも、こうだったら。

 

そんな仮定を見る事はない。

 

私が寝ている間に見るのは、いつも過去の焼き直しだ。

私は『記憶』を見ている。

 

白亜の建物の中を進み、ナイフで警備員を殺害していく。

強化プラスチックと硬化ガラスで出来た壁に、血が撒き散らされる。

 

まだ私が、『レッドキャップ』になって日の浅い頃の記憶だ。

 

戦闘技術も荒削りで、何発も弾丸を受けてしまう。

弾丸を受ける度にナイフで傷口を抉り、弾丸を抜き、治癒因子(ヒーリングファクター)で治療する。

 

激痛に耐えて、怖気に耐えて、吐き気に耐えて、罪悪感に耐えて。

 

私は、殺して、殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して……。

 

そして、目標にたどり着く。

 

震える白衣の女性は、一人の少女を抱いている。

 

 

『お前がキニー博士か』

 

「……こ、子供……?」

 

 

若く、今よりも身長が低かった私は、その言葉に頷かず……ナイフを構えた。

ナイフには血が、べっとりと付着している。

 

抱いていた少女を庇うように後ろにする。

 

……私は、マスクの下で目を細めた。

 

 

『そんなに研究物が大事か?』

 

「この娘はそんな……」

 

『……悪いな』

 

 

私は博士へと一歩踏み込む。

そして、博士の身体を引き裂いた。

 

血が流れる。

 

 

「あぁっ……!」

 

 

息を漏らして、血を流し、博士が倒れる。

だけど……即死ではない。

 

まだ生きている。

呼吸を荒くして、目は虚に天井を見ている。

 

あぁ……失態だ。

殺しの技術が下手なせいで不必要に苦しめている。

 

庇っていた少女が泣きながら、博士の元へ向かう。

 

 

「ママ……ママ……?」

 

 

私は、腰に下げていた拳銃を取り出す。

 

危険なのは、キニー博士ではない。

この少女だ。

 

少女が悲鳴を上げて、慟哭となり、それは唸り声へと変わる。

凶暴な獣のような目で私を睨む。

 

 

「……ローラ、ダメよ。ローラ、逃げないと……」

 

 

今にも息絶えそうなキニー博士が忠告する。

だけど、もう少女は正気ではない。

 

 

「ガアァアアアアアッ!!」

 

 

獣のような声をあげて、私へ飛びかかる。

両手の拳が裂けて、二本の大きな爪が生えてくる。

 

私は冷静にそれを見て、拳銃を少女の頭蓋へと向ける。

 

 

『私のために、死んでくれ』

 

 

懇願するような、祈るような、謝るような。

私は幾つもの意味を込めて、声を振り絞り……引き金を引いた。

 

少女の頭に真っ赤な弾痕が出来て────

 

 

 

 

ガタン!

 

 

 

 

私は地面に転がっていた。

研究施設の床じゃない。

 

木材で出来た床だ。

窓の外に、太陽が登っている。

 

白いレースのカーテンが光に照らされている。

 

 

「ちょっとミシェル、大丈夫!?」

 

 

寝巻きを着たグウェンが視界に映る。

私は顔の汗を自身のシャツで拭おうとして……シャツもべったりと濡れていた事に気付き、諦めた。

 

 

「悪い夢でも見たの?」

 

 

夢……?

いや、過去の記憶だ。

夢のような、幸せな微睡みではない。

 

でも。

 

 

「うん、怖い夢を見た」

 

 

そう言って誤魔化して、私は立ち上がった。

 

……下着まで汗でびっしょりと濡れている。

ここ数年間、少なくない頻度で過去を思い出す。

 

お陰で朝は寝不足な事が多い。

 

 

「ごめん。シャワー、浴びてくるから」

 

「う、うん……」

 

 

寝惚けた目を擦り、心配するグウェンをよそに私はシャワーを浴びる。

 

鏡を見る。

 

私だ。

私が、私を見ている。

 

それは当然の事だ。

だけど、今は自分にすら見られたくなかった。

 

 

 

 

グウェンと共に部屋を出て、朝食の会場へ向かう。

……彼女が頻りに「大丈夫?」と聞いてくる。

そんなに寝起きの顔が拙かったのか。

 

席には既にピーターとネッドが座っていて、何やら雑談をしている。

でも、ひそひそとした声で。

 

私達に気付くと、ネッドもピーターも慌てて黙った。

……私達には言えない事なのだろうか。

 

そして、全員が着席した瞬間。

ピーターが口を開いた。

 

 

「えっと、昨日は心配掛けて、ごめん」

 

「……まぁ、良いけど。今度やったら許さないから」

 

 

グウェンも昨日のピーターに対しての怒りは収まりつつあるようで……と言うか、怒りよりも私への心配が勝っているのかも知れない。

ちらちらと私を見ている。

 

私は眠気で霧がかかったような意識のまま、パンにジャムを付けて食べた。

 

三人の会話が遠く聞こえるようで、蒙昧な意識のまま糖分を得る。

 

 

「……ミシェルはどう思う?」

 

「んぐっ……?」

 

 

三人は今日の自由時間について話をしていたみたいだ。

 

慌てて、私は謝罪する。

 

 

「……ごめん、よく聞いてなかった」

 

「今日、ドルフィンモールへ行く予定だったけど、大丈夫?って話」

 

「大丈夫?大丈夫って……大丈夫。うん、大丈夫」

 

 

……何を心配されているのだろうか?

何が大丈夫なのだろうか?

 

それも分からないまま、私は「大丈夫だ」と口にした。

 

……グウェンが目を細めている。

取り敢えず頷いておく。

 

 

「ミシェルが朝弱いの知ってたつもりだけど……こんなに弱いなんて」

 

「でも、いつもこんな感じで……学校に向かってる頃には目が覚めてるよ」

 

「そうなの?」

 

 

ピーターとグウェンが会話をしている。

……グウェンも、もう怒っていないみたいだ。

 

まぁ、グウェンもピーターの事を心配して怒ってただけだし。

ほんのちょっと、すれ違っただけの話だ。

 

 

「俺はドルフィンモールに賛成だぜ?予定を変えるのも気持ち悪いしな」

 

 

ネッドが肯定して、頷いた。

 

 

「……まぁ、本人も大丈夫って言ってるし……予定通りで良いか」

 

 

クロワッサンを食べ終えた私は、その様子をぼーっと眺めていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

呆けているミシェルを連れて、僕達はドルフィンモールへと向かった。

 

色々な施設のあるアウトレットモールだ。

レストランとか食べ歩きできる店も沢山ある。

 

……初日の晩に行った商業施設に比べて、遊べる場所が多いと言った印象だ。

 

 

そして……ネッドが僕の事をチラチラと見てくる。

 

……昨日、正体がバレてから説明もしたし、言い訳もしたのに。

 

僕は昨日の事を思い出す。

大きな声を出そうとしたネッドの口を咄嗟に(ウェブ)で塞いで……。

 

 

正体がバレれば危険な目に遭う可能性がある事を、納得するまで説明した。

 

 

ヒーローは恨まれやすい職業だ。

スパイダーマンは何人もの悪人に逆恨みされている。

 

もし、スパイダーマンの正体を知られたら……僕の日常は木っ端微塵だ。

それどころか、学校に急にミサイルが落ちてきたりするかも知れない。

毒ガスが撒かれるかも知れない。

 

それにスパイダーマンの正体を話さなくても、正体を知っていると知られれば……誘拐されて拷問されたり、人質にされるかも。

 

そう言うと、ネッドは神妙な顔で頷いた。

 

 

でも、その後、ヒーロー好きであるネッドが幾つも質問を投げかけてきて……アベンジャーズの話とか、スタークさんの話とか。

それこそ、根掘り葉掘り聞いてきた。

今も聞きたがってる。

 

お陰でちょっと寝不足だ、僕も。

 

前を歩くミシェルにつられて、僕も欠伸をした。

 

 

……そしてその後、スタークさんに『ハマー・インダストリー』が何やら武器を沢山持ってる事を報告した。

 

スタークさんは先日、詳しくは教えてくれなかったけど、何かしらの騒動に巻き込まれて……大怪我をしていた。

具体的に言うと骨折。

全治一ヶ月。

要、安静。

 

それでも、この件は僕の手に負える案件ではないと判断したようで援軍を寄越してくれるらしい。

 

そして、僕はお役御免だって。

学生は学生らしく旅行していろ、とスタークさんが言っていた。

 

……多分、これは思いやりだ。

旅行先で巻き込まれている僕に対して、ヒーロー活動をしなくて良いように気を遣ってくれている。

 

 

だから、僕は胸ポケットにミシェルへのプレゼントである青いバラのアクセサリーを入れていた。

夕方、このマイアミから離れる前にプレゼントを……と思って。

 

だけど、内心、このままで良いのか不安にもなる。

 

『スターク・インダストリー』の社員さん達はスタークさんの指示で、シェルターに隔離されているらしいし。

彼等もせっかく旅行に来たのに……。

 

僕だけが、見て見ぬフリをして旅行を楽しんで良いのだろうか。

 

……考えれば考えるほど、良くない方向に向かってる気がする。

 

 

でも、グウェンには昨日怒られたばかりだし。

それに、ミシェルにプレゼントは渡せないかも知れないし。

だって、ネッドみたいに他の人にバレたら大変だ。

 

 

「……ター?ピーター?」

 

「……え!?何?」

 

 

声を掛けられていた事に気付いて、僕は声の主を見る。

 

ミシェルだ。

 

 

「どうしたの?」

 

「え?あ、あぁ……えっと」

 

 

スパイダーマンとして活動すべきか、ピーターパーカーとして旅行を楽しむべきか、迷っている。

 

なんて、言える訳もない。

 

 

「ちょっと、悩んでる事があってね」

 

「……へぇ?」

 

 

ミシェルが首を傾げる。

 

それでも、深くは聞いてこない。

……ミシェルは、僕が言いたがらない事を聞き直したりしない。

意図的に話題を終わらせて、気にしないでいてくれる。

 

疎い訳じゃない。

きっと彼女は『人の触れられたくない部分』に聡いのだと思う。

 

それが彼女の良いところであり……隠し事が多い僕にとっては、共にいて楽な部分でもある。

 

 

それから、僕らは旅行を楽しんだ。

 

 

クレーンゲームで散財するミシェルを見たり。

香水コーナーに入っていくグウェンに無理やり連れて行かれるミシェルを見たり。

レアもののヒーローフィギュアに群がるネッドとミシェルを見たり。

 

……どうしてもつい、彼女を目で追ってしまう。

 

そして、昼になって。

 

 

「よし、フードコートでご飯を食べよう!」

 

 

グウェンが提案する。

 

僕もお腹が空いてきた頃合いで、丁度いい。

ドルフィンモール内にある様々な出店が集まる場所に来て……ミシェルが昼食をクレームブリュレで済まそうとしていて、グウェンに止められてて。

 

そう言った穏やかな幸せを満喫していた頃。

 

……スマホに通知が入った。

スーツから分離させて飛ばしていた、スパイダードローンからだ。

 

『スターク・インダストリー』の社員さん達が隠れているシェルターのあるビルに……複数の熱源が接近していた。

 

……僕はそれをスタークさんに転送する。

 

ダメだ。

気にしちゃダメだ。

 

きっと、スタークさんの呼んだ援軍も間に合ってる筈だ。

誰かが僕の代わりに戦ってくれる筈だ。

 

 

僕は、目の前で山盛りのサラダを買わされて涙目になっているミシェルを見た。

楽しそうに笑うグウェンを見た。

呆れた様子のネッドを見た。

 

……そして、僕は腕時計に収納されたスーツを見た。

 

 

このスーツを貰った時、スタークさんに話した言葉を思い出す。

 

 

『誰かを救えなくて、後悔はしたくないんです。そのために、今出来ることは全部やっておきたい』

 

 

僕が、スタークさんに言った言葉だ。

自分で言った言葉だ。

 

 

 

もし、スタークさんの呼んだ援軍が間に合わなかったら……。

犠牲がもし、出てしまったら。

 

……今、僕が出来る事は。

後悔しないために、やるべき事は。

 

 

「……ネッド、ごめん」

 

 

僕はネッドの肩を叩いた。

 

 

「悪いけど、良い感じに誤魔化しておいて」

 

「え、お……おう!分かった!」

 

 

小声で会話する。

ネッドも、僕の真剣な表情を見て強く頷いてくれた。

 

グウェンとミシェル、会話する二人に隠れて、その場から離れる。

 

物陰に入った瞬間、ナノマシンのスーツを起動する。

 

足は止めない。

走ったまま、スーツを装着して、壁を駆け上がる。

 

 

僕は未熟者だ。

覚悟はすぐには出来ないし、人助けより自分を優先したくなる時もある。

自分の言った言葉でさえ忘れてしまう。

 

だけど、それでも僕は『親愛なる隣人(スパイダーマン)』だ。

助けが必要な隣人がいるなら、この身を投げ打ってでも、僕は助ける。

 

いや、助けなければならない。

 

それが大いなる力を持った、僕の責任なのだから。


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