【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
僕は前方の左右に
後ろに強く飛んで、
カートリッジ2、ゴム
僕はそのまま両脇に蜘蛛の巣の様なグライダーを展開して、滑空する。
この辺りには
少し遅くなるけど、これが最適だと僕は判断した。
全力で、そして最短で移動すれば5分で着く。
僕は、『スターク・インダストリー』が所有するシェルター付きのビルへ向かって飛んで行く。
……見えた。
そして、別方向から、そのビルへ向かって飛んでいる熱源も。
「……何だ、アレ?」
思わず口に漏れる。
見た目は……アイアンマンに近い。
ただ、色は赤と金色じゃない。
深い緑色だ。
アイアンマンは両腕両脚から『リパルサーレイ』という光熱エネルギーを放って空を飛ぶが……コイツらは背中にある熱ジェットで飛んでいる。
アイアンマンと同じく胸部分にエネルギーの供給装置があるみたいだけど、アイアンマンの『アーク・リアクター』と呼ばれる半永久発電装置に比べれば、エネルギーの発生量は遥かに少ない。
……アイアンマンの偽物。
もしくは、オマージュされた兵器。
だけど、肩には『スターク・インダストリー』の文字。
……『ハマー・インダストリー』に隠されていた兵器の筈なのに?
それに、『スターク・インダストリー』は武器の製造をしていない。
昔はしていたけど……スタークさんは辞めた筈だ。
だから、アレはきっと、ハマーが作った兵器で……『スターク・インダストリー』に罪を擦り付けようとしているんだ。
僕は少し、顔が熱くなったような気がした。
狡猾な手段で、僕の尊敬する人を貶めようとする彼等に……僕は怒っていた。
両脇のグライダーを収納し、背中の落下傘を展開する。
蜘蛛型の小さなパラシュートで最低限の減速を行いつつ、途中で切り離して地面へと落下する。
転がりながら受身をとって『スターク・インダストリー』のビル、そのオフィスの一部屋へと着地した。
僕はこのビルに近付いてくる、ハマーの兵器を見る。
体長は2メートル弱、色は緑色。
……頭は鶏のトサカのように平たい。
人間の頭部が入るような幅は無さそうだ。
恐らく、センサーしか存在しない。
人間が入る事を想定していない形状……間違いなく、無人のドローンだ。
……よし、コイツらは『ハマー・ドローン』と呼ぼう。
数は……1、2、3……14体。
……あれ?
昨日の晩に確認した時は、この倍の数があった筈だけど。
ハマー・ドローンがこちらを認識して、飛行しながら腕を向けてくる。
考え事をしてる暇もない。
その両腕には機関砲が装備されている。
まるで、アイアンマンのリパルサーレイの代用のように。
きっと恐らく、ハマーではリパルサーレイを再現出来なかったのだろう。
ライフル弾なみの破壊力を持つ弾丸が連射される。
触れるもの全てを抉り取り、貫通するような強烈な破壊力が僕を襲う。
僕は
直接被弾した訳でもないのに、衝撃だけで窓ガラスが割れる。
デスクが砕ける。
椅子が吹き飛ぶ。
なるほど、これは当たったら「痛い」じゃ済まなさそうだ。
幸い『スターク・インダストリー』の社員さん達は、地下のシェルターに篭っている。
ここにどれだけ被害が及んでも、流れ弾なんて事は起きないだろう。
ハマー・ドローンが、破壊した窓から侵入してフロア内に着地した。
……どうやら、飛行時間に限度があるらしい。
アイアンマンと違って細かな制御は利かなさそうだし、燃費も悪そうだ。
……地上戦なら、僕だって戦える。
僕はまず、一体目のハマー・ドローンに
そのまま飛びかかって、僕はドローンの腕を全力で引っ張った。
ブチリ!
と千切れる音がして、腕が取れた。
断面図からは、切断されてスパークしたケーブルが見える。
無人機相手なら、僕も手加減する必要はない。
普段は抑えてるような力も存分に発揮できる。
……他のハマー・ドローンは機関砲をこちらに向けるだけで攻撃してこない。
恐らく、
証拠に、僕がハマー・ドローンから離れた瞬間、一斉射撃を受けた。
僕は机をひっくり返して逃れて、またハマー・ドローンへと飛びかかる。
機能もAIも……デザインも。
全てがスタークさんの作る物に劣っている。
これで『スターク製』を名乗ろうなんて……ナンセンスだ。
他のドローンを壁にしつつ、連続で破壊していく。
盾にすれば射撃してくる事もない……単調なAIだから、簡単な作業だ。
そして、ドローンの三機目を破壊した段階で、
僕はその場から咄嗟に離れて……直後、金属の塊が窓ガラスを突き破り、壁を破壊した。
「うわっ!?」
砕けたコンクリートが粉塵を撒き散らす。
そして、その中から緑色の光沢を持ったアーマーが立ち上がった。
胸には星のマーク……背中だけではなく身体の肘、膝、肩、踵……様々な部分に複数のジェットが搭載されている。
顔はドローンと違い厚みがあり、四角いセンサーが怪しく赤色に光っている。
……間違いない。
コイツは他のドローンとは格が違う。
体長も2メートルはある。
僕より遥かに大きい。
『なんだ。やはり、トニー・スタークではないのか』
機械越しに、喋った。
つまり、コイツには人が入ってるって事だ。
……デッドプールが言っていた、雇われの悪人か。
「生憎、スタークさんは療養中だ。僕一人で十分──
『なら死ね』
僕の軽口を気に留めず、その巨腕が振り回される。
僕はそれを避けて……拳でコンクリート製の壁が抉られたのを見た。
……これも当たったら「痛い」じゃ済まないな。
中の人がスーパーマンでもない限り、スーツに強力なパワーアシスト機能が搭載されているに違いない。
そして、アーマー自体もかなり強固だ。
コンクリートを抉っても傷一つ付いてないぐらいには。
「ねぇ、先に自己紹介しない?僕はスパイダーマン。君は?」
僕は攻撃を避けつつ、時間を稼ぐ事にする。
これで気を逸らす事ができれば……。
『俺の名前は『チタニウムマン』だ。今から死ぬお前には必要ないが……殺した相手の名前を知らなければ、あの世で怯える事も出来ないだろ?』
チタニウムマンが腕のジェットを起動する。
そして、軸足を中心として加速し……その勢いのまま、僕へフックを繰り出した。
それを、僕は蹴り返して……足に鈍痛が走った。
……くそっ、ドローンよりも遥かに硬くて、力も強い!
そのまま止められなかった剛腕を、無理矢理避けて地面を滑る。
その瞬間、その場にドローンの機関砲の雨が降り注いだ。
「くっ!」
間一髪で避けながらも、何度もチタニウムマンの攻撃が掠る。
近付けば殴られる。
離れればドローンに撃たれる。
僕はチタニウムマンに、全力の蹴りを喰らわせる。
……少し後ろにのけ反ったけれど、スーツ自体にも、本人にもダメージは無い。
『無駄だ。俺のアーマーを貫くことはできない』
スタークさんは普段、こんなのと戦ってるのか……?
チタニウムマンの拳が机を砕き、破片が僕にぶつかる。
「っ!」
前のハンドメイドスーツなら突き刺さっていただろう。
だけど、このナノマシンスーツなら問題ない。
金属繊維に遮られて、デスクの破片が飛び散った。
『……ム?』
繊維のようなもので出来たスーツが想定以上に硬かった事に、チタニウムマンは驚いたような声をあげた。
そして、納得したような感嘆するような声を出した。
『……なるほど。そのスーツはトニー・スタークのモノか……?面白くなってきたぞ……!』
「そうかな……?家でホームドラマを観てる方が面白いと思うよ!」
『俺が好きなのは「
チタニウムマンがジェットを噴射させて寄ってくる。
背中だけではなく、身体の至る部分にあるジェットをコントロールし、細かく、小刻みに高速移動してくる。
左右に細かく揺らし、急に拳を突き出してくる。
巧みな操作に驚きつつ、ボクシングのような動きを見切る。
動きは
だけど、僕の攻撃が通らないのであれば──
僕以外で攻撃すれば良い話だ。
僕はチタニウムマンの攻撃を避けて、
だけど、それは極細だ。
目に見えない程、細く透明だ。
そして、回避している間に別のものへとくっ付ける。
それはデスクや、花瓶、オフィスにある、ありとあらゆる物だ。
それを何度も繰り返す。
バレないように、精密に。
そして、チタニウムマンが腕を振りかぶった瞬間。
彼の肘に付けた
そして、花瓶は地面に落下し──
ガシャン!
と大きな音を立てて砕けた。
その瞬間。
ほんの一瞬、チタニウムマンの気が逸れた。
僕はカートリッジ2のゴム
ゴム糸を切断し、空中で回転する。
周囲に張り巡らされていた細い糸を巻きこみ、極細の
『ムッ!?』
そのまま強く引っ張って、僕は背後に飛び退く。
チタニウムマンから離れた瞬間、ハマー・ドローンが僕へ向けて発砲した。
その瞬間、チタニウムマンを引き寄せて、その身体を盾にする。
チタニウムマンの体に大口径の弾丸が命中する。
『ぐっ、うっ!?』
大きな弾丸がアーマーに遮られて、跳弾する。
強い衝撃が、アーマー着用者の身体に貫通する。
ドローンはすぐに攻撃をやめたけど、何発かは命中した。
怯んだチタニウムマンを、背負い投げの要領で持ち上げる。
……『アイアンフィスト』に習った武術だ。
自身より大きく重いものを投げ飛ばす、重心のコントロール技術。
僕は足と腰でかち上げて、そのまま投げ飛ばそうとする。
……くっ、思ったより何倍も重い。
「くぅっ、落ち、ろ!」
ビルの下、中庭のプールへ落とそうとして…………
電撃を纏った鞭が、僕に飛来した。
それは青いスパークを放ち、空気を焦がしながら接近してきた。
一目で分かる……当たればヤバいって事が。
僕は咄嗟のところで回避する。
だが、それと同時にチタニウムマンに逃れられる。
チタニウムマンは内蔵されている各部のジェットを起動し、拘束している
……今の攻撃は、いったい何だ?
僕は振り返る。
ドローンによって壊されたドア。
その直ぐ側に……居た。
ソイツも、アイアンマンのような見た目をしたスーツを着ている。
だけど、色は全く違う。
灰色の金属が剥き出しになったアーマー……恐らく、塗装もされていない。
最低限のコーティングだけで済まされた機能重視なデザイン。
胸には青いリアクター……これは。
スーツの熱源探知機能によれば、チタニウムマンより遥かに高エネルギーを作り出している。
恐らく……アイアンマンと同じ、『アークリアクター』だ。
独学で作ったのか、盗んだのか……。
そして一番目を引くのは、両腕から直に伸びる鞭。
革で出来た鞭……そんな物が可愛らしく思える程、凶悪な鞭だ。
それは、金属の繊維を編んで作られた金属鞭だ。
そして、鞭はスーツの腕から直接生えていて、リアクターからの供給で青い電撃を放っている。
それが、両腕に。
二本も。
『……『ウィップラッシュ』か。助かったぞ』
チタニウムマンが声をあげた。
……ウィップラッシュ?
それが名前か?
『……フン、スタークが来れば俺一人では厳しいと考えただけだ』
ウィップラッシュがぶっきらぼうに言い放ち、両手の鞭を回転させる。
スパークが発生し、破裂音が聞こえる。
何の……いや、空気が破裂している音だ。
鞭の先端が音速を越えて、ソニックブームを発生させている。
……これはピンチだ。
それも、かなりの。
だけど、これ以上に悪い事なんて、そうそうない。
ドン底ならば、頑張って抗って……後は這い上がるだけだ。
……そんな僕の気持ちを裏切るように、チタニウムマンが口を開いた。
『時間をかければ目的は達成される……ここは手間が掛かっても確実に殺すべきだ』
『……少し、話し過ぎだぞ』
チタニウムマンの踏み込んだ発言に、ウィップラッシュが忠告した。
『もうどうしようもない話だ。止められる話でもない』
だけど、チタニウムマンは気にせず笑っている。
……ハマーの計画は『スターク・インダストリー』の社員を襲う事じゃないのか?
「ねぇ、それって何の話?」
『……知らないのか?なら教えてやろう、蜘蛛男』
『……オイ』
『まぁ、良いだろう?どうせ手遅れだ』
僕は怖気が走った。
……手遅れ?
『俺達の目的がここの襲撃だけだと、お前は思っているな?』
「…………」
図星だ。
だけど、悟られないように黙るしかない。
『スタークの手下を殺す事だけが、今回の目的ではない。いや、寧ろ本題は別にある』
「別に……?」
『そうさ、蜘蛛男。ハマーは市民を虐殺し……その罪をスタークに擦りつけようとしているのさ』
……確かに、ハマー・ドローンに『スターク・インダストリー』のロゴが刻まれていた。
まさか。
……あのビルに隠されていた熱源の数より、ここを襲撃しているドローンの数が少ないのは。
『ここ以外にも複数の場所で襲撃している……マイアミ美術館、エアラインアリーナ、そして──
手に汗が、滲む。
『ドルフィンモール、だったか?』
一瞬、鈍器で頭が殴られたような衝撃を錯覚した。
そこには、グウェンも、ネッドも、ミシェルもいる。
「え……?」
『喋り過ぎだ、チタニウムマン』
『フン、もう作戦の時間はとうに過ぎている。虐殺は始まっている……もう止める事は出来ない』
ウィップラッシュを押し退けて、チタニウムマンが前に出てくる。
『お前に『止められるか?』なんて訊くつもりはない。俺はドラマの悪役なんかじゃない……ただ、『止められなかったな』と嘲笑いたいだけだ』
「そん、な……」
『そして何故、俺が話したか分かるか?蜘蛛男。お前が未熟だからだ。……そんな精神状態でどうやって俺達と戦う?』
言葉の終わりと共に、チタニウムマンが接近してくる。
僕は咄嗟に避けるけど……ギリギリだ。
集中し切れて居ない。
拙い。
興奮するチタニウムマンに、ウィップラッシュが舌打ちをした。
『……チッ、これだから頭の悪い
文句を言いながらも、鞭を振り回す。
そして、チタニウムマンの攻撃を避けた僕へ、鞭を振るった。
命中した地面に、大きな爪痕のような焼け跡が残る。
……今すぐ、コイツらを倒して、みんなを助けに行かないと!
だけど、どうする?
チタニウムマン一人でも僕は苦戦していた。
ドローンも周りを囲んでいる。
多勢に無勢だ。
……だけど、諦める事はしない。
自分を奮い立たせて……僕は向かい合った。
◇◆◇
ピーターが居ない事に気づいたグウェンが、口を開いた。
「あれ?ピーターは?」
……私は気付いていた。
彼がネッドに何か頼んで、走り去ったのを。
そして、スーツに着替えてスパイダーマンとして飛んでいったのを。
……折角の旅行なのに、何かに巻き込まれてるようだ。
可愛そうに。
キョロキョロと辺りを見渡すグウェンに、慌ててネッドが近付いてくる。
「グ、グウェン!ピーターは今……」
「今?」
「ト、トイレなんだ!しかもトイレが混んでて遠くに行ってるみたいだ!」
……ネッドが必死に誤魔化している。
もしかして、ネッドはピーターがスパイダーマンだという事を知っているのか?
……そうだとしたら、いつからだ?
昨日はそんな様子はなかった……なら、今朝か?
昨日の夜か?
「ネッド、アンタ何か隠してない?」
「か、隠してないよ!」
「……じゃあ、ピーターを呼んできてよ。本当は何処にいるか知らないけど」
怒った様子でグウェンがネッドを睨んだ。
……ネッドは恐る恐るとした様子で私達から離れる。
どうするつもりだろう?
だって、ピーターはもう此処には居ないはずだ。
……それとも考えなしで、グウェンの圧に負けて逃げ出しただけ?
「……アイツら、何か隠してるよね。私に」
グウェンが私に言った。
……まずい。
ここで不信感を持たれれば、ピーターが困るだろう。
「ホントにトイレかも……?」
と言っても上手い誤魔化しが思い付く訳もない。
「……いや、アイツらの事だから……私達に知られないようにしたい事……やましい事があるに違いない」
やましい事……と言うには高潔過ぎるヒーロー活動だけど。
「でも、ピーターもネッドも、悪い事をするような人じゃないと思う」
「……ミシェルは純粋だね」
何故かグウェンに頭を撫でられた。
私を小動物のように扱わないで欲しい。
「男はみーんな、狼なのよ。ケダモノよ……男が黙って買い物に行くとしたら──
その瞬間……私は振り返った。
……何かに見られている気がする。
だけど、それは私を注視している訳じゃない。
私以外の何かを見ている。
私を視界に収めている誰かがいる。
「ミシェル……?どうしたの?」
……遠く離れたビルを見る。
目を凝らし、視覚を血清で強化すれば──
「ねぇ、ミシェルってば」
「うっ」
グウェンに肩を揺らされて、中断させられる。
……しまった。
不快な視線を感じてしまったから。
グウェンは深刻そうな顔をして、私を見ていた。
そして、その手を私の額に当てる。
「……やっぱり、熱でもある?大丈夫?」
私は元気だ。
身体に怪我もなく、血清のおかげで病気にもならない。
だから、彼女が何故心配しているか分からない。
「……大丈夫だけど」
「本当に?」
「うん」
グウェンはまだ納得していないようで、私を見つめている。
そして……。
ドン!
と大きな音がして、何かが近くに着陸した。
地面のタイルが割れて、舞い上がった。
咄嗟に私は振り返った。
それは……緑色のアーマーだ。
肩には『スターク・インダストリー』の文字。
「なんだなんだ?」
「キャンペーンか?」
「アイアンマン?」
周りに居た人達が集まってくる。
……『スターク』という名前から、彼等は特に不審がっていない。
スタークは突拍子もない事をするヒーローだからだ。
だけど、側には寄り過ぎない。
今、一番近くにいるのは……着地の際、すぐ側にいた私とグウェンだ。
だから、少し遅れた。
「あ……」
私は咄嗟に、グウェンに抱き着いて転がした。
「え、ミシェ──
発砲音。
……緑色のアーマーの両腕から煙が出ている。
「……え?」
グウェンが声を漏らした。
私の腹部は抉れ、血が流れていた。
悲鳴が、聞こえた。
続きは明日の朝7時