【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#49 ブラン・ニュー・パワー part8

僕は前方の左右に(ウェブ)を飛ばして、建物の角にくっ付ける。

後ろに強く飛んで、(ウェブ)で勢いをつけて宙に飛び出す。

 

カートリッジ2、ゴム(ウェブ)だ。

 

僕はそのまま両脇に蜘蛛の巣の様なグライダーを展開して、滑空する。

 

この辺りには(ウェブ)でスイングしようにも、大きな建物がない。

少し遅くなるけど、これが最適だと僕は判断した。

 

全力で、そして最短で移動すれば5分で着く。

 

僕は、『スターク・インダストリー』が所有するシェルター付きのビルへ向かって飛んで行く。

 

 

……見えた。

 

そして、別方向から、そのビルへ向かって飛んでいる熱源も。

 

 

「……何だ、アレ?」

 

 

思わず口に漏れる。

 

見た目は……アイアンマンに近い。

ただ、色は赤と金色じゃない。

深い緑色だ。

 

アイアンマンは両腕両脚から『リパルサーレイ』という光熱エネルギーを放って空を飛ぶが……コイツらは背中にある熱ジェットで飛んでいる。

 

アイアンマンと同じく胸部分にエネルギーの供給装置があるみたいだけど、アイアンマンの『アーク・リアクター』と呼ばれる半永久発電装置に比べれば、エネルギーの発生量は遥かに少ない。

 

……アイアンマンの偽物。

もしくは、オマージュされた兵器。

 

だけど、肩には『スターク・インダストリー』の文字。

……『ハマー・インダストリー』に隠されていた兵器の筈なのに?

 

それに、『スターク・インダストリー』は武器の製造をしていない。

昔はしていたけど……スタークさんは辞めた筈だ。

 

だから、アレはきっと、ハマーが作った兵器で……『スターク・インダストリー』に罪を擦り付けようとしているんだ。

 

僕は少し、顔が熱くなったような気がした。

狡猾な手段で、僕の尊敬する人を貶めようとする彼等に……僕は怒っていた。

 

両脇のグライダーを収納し、背中の落下傘を展開する。

蜘蛛型の小さなパラシュートで最低限の減速を行いつつ、途中で切り離して地面へと落下する。

 

転がりながら受身をとって『スターク・インダストリー』のビル、そのオフィスの一部屋へと着地した。

 

僕はこのビルに近付いてくる、ハマーの兵器を見る。

 

体長は2メートル弱、色は緑色。

……頭は鶏のトサカのように平たい。

人間の頭部が入るような幅は無さそうだ。

 

恐らく、センサーしか存在しない。

人間が入る事を想定していない形状……間違いなく、無人のドローンだ。

 

……よし、コイツらは『ハマー・ドローン』と呼ぼう。

 

数は……1、2、3……14体。

 

……あれ?

昨日の晩に確認した時は、この倍の数があった筈だけど。

 

ハマー・ドローンがこちらを認識して、飛行しながら腕を向けてくる。

 

考え事をしてる暇もない。

 

その両腕には機関砲が装備されている。

まるで、アイアンマンのリパルサーレイの代用のように。

きっと恐らく、ハマーではリパルサーレイを再現出来なかったのだろう。

 

ライフル弾なみの破壊力を持つ弾丸が連射される。

触れるもの全てを抉り取り、貫通するような強烈な破壊力が僕を襲う。

 

僕は超感覚(スパイダーセンス)で飛んでくる位置を見切り、避ける。

 

 

直接被弾した訳でもないのに、衝撃だけで窓ガラスが割れる。

デスクが砕ける。

椅子が吹き飛ぶ。

 

 

なるほど、これは当たったら「痛い」じゃ済まなさそうだ。

 

 

幸い『スターク・インダストリー』の社員さん達は、地下のシェルターに篭っている。

ここにどれだけ被害が及んでも、流れ弾なんて事は起きないだろう。

 

ハマー・ドローンが、破壊した窓から侵入してフロア内に着地した。

 

……どうやら、飛行時間に限度があるらしい。

アイアンマンと違って細かな制御は利かなさそうだし、燃費も悪そうだ。

 

……地上戦なら、僕だって戦える。

僕はまず、一体目のハマー・ドローンに(ウェブ)を放ち、頭部のセンサーを固定する。

そのまま飛びかかって、僕はドローンの腕を全力で引っ張った。

 

ブチリ!

 

と千切れる音がして、腕が取れた。

断面図からは、切断されてスパークしたケーブルが見える。

 

無人機相手なら、僕も手加減する必要はない。

普段は抑えてるような力も存分に発揮できる。

 

……他のハマー・ドローンは機関砲をこちらに向けるだけで攻撃してこない。

恐らく、味方を攻撃(フレンドリーファイヤ)しないようにプログラミングされているに違いない。

 

証拠に、僕がハマー・ドローンから離れた瞬間、一斉射撃を受けた。

僕は机をひっくり返して逃れて、またハマー・ドローンへと飛びかかる。

 

機能もAIも……デザインも。

全てがスタークさんの作る物に劣っている。

これで『スターク製』を名乗ろうなんて……ナンセンスだ。

 

他のドローンを壁にしつつ、連続で破壊していく。

盾にすれば射撃してくる事もない……単調なAIだから、簡単な作業だ。

 

そして、ドローンの三機目を破壊した段階で、超感覚(スパイダーセンス)に強烈な危機への反応があった。

 

僕はその場から咄嗟に離れて……直後、金属の塊が窓ガラスを突き破り、壁を破壊した。

 

 

「うわっ!?」

 

 

砕けたコンクリートが粉塵を撒き散らす。

 

そして、その中から緑色の光沢を持ったアーマーが立ち上がった。

胸には星のマーク……背中だけではなく身体の肘、膝、肩、踵……様々な部分に複数のジェットが搭載されている。

 

顔はドローンと違い厚みがあり、四角いセンサーが怪しく赤色に光っている。

 

……間違いない。

コイツは他のドローンとは格が違う。

 

体長も2メートルはある。

僕より遥かに大きい。

 

 

『なんだ。やはり、トニー・スタークではないのか』

 

 

機械越しに、喋った。

つまり、コイツには人が入ってるって事だ。

 

……デッドプールが言っていた、雇われの悪人か。

 

 

「生憎、スタークさんは療養中だ。僕一人で十分──

 

『なら死ね』

 

 

僕の軽口を気に留めず、その巨腕が振り回される。

僕はそれを避けて……拳でコンクリート製の壁が抉られたのを見た。

 

……これも当たったら「痛い」じゃ済まないな。

中の人がスーパーマンでもない限り、スーツに強力なパワーアシスト機能が搭載されているに違いない。

 

そして、アーマー自体もかなり強固だ。

コンクリートを抉っても傷一つ付いてないぐらいには。

 

 

「ねぇ、先に自己紹介しない?僕はスパイダーマン。君は?」

 

 

僕は攻撃を避けつつ、時間を稼ぐ事にする。

これで気を逸らす事ができれば……。

 

 

『俺の名前は『チタニウムマン』だ。今から死ぬお前には必要ないが……殺した相手の名前を知らなければ、あの世で怯える事も出来ないだろ?』

 

 

チタニウムマンが腕のジェットを起動する。

そして、軸足を中心として加速し……その勢いのまま、僕へフックを繰り出した。

 

それを、僕は蹴り返して……足に鈍痛が走った。

……くそっ、ドローンよりも遥かに硬くて、力も強い!

 

そのまま止められなかった剛腕を、無理矢理避けて地面を滑る。

その瞬間、その場にドローンの機関砲の雨が降り注いだ。

 

 

「くっ!」

 

 

間一髪で避けながらも、何度もチタニウムマンの攻撃が掠る。

超感覚(スパイダーセンス)で何とか避けれてるけど、気を抜けば一発で終わりだ。

 

近付けば殴られる。

離れればドローンに撃たれる。

 

僕はチタニウムマンに、全力の蹴りを喰らわせる。

……少し後ろにのけ反ったけれど、スーツ自体にも、本人にもダメージは無い。

 

 

『無駄だ。俺のアーマーを貫くことはできない』

 

 

スタークさんは普段、こんなのと戦ってるのか……?

 

チタニウムマンの拳が机を砕き、破片が僕にぶつかる。

 

 

「っ!」

 

 

前のハンドメイドスーツなら突き刺さっていただろう。

だけど、このナノマシンスーツなら問題ない。

金属繊維に遮られて、デスクの破片が飛び散った。

 

 

『……ム?』

 

 

繊維のようなもので出来たスーツが想定以上に硬かった事に、チタニウムマンは驚いたような声をあげた。

 

そして、納得したような感嘆するような声を出した。

 

 

『……なるほど。そのスーツはトニー・スタークのモノか……?面白くなってきたぞ……!』

 

「そうかな……?家でホームドラマを観てる方が面白いと思うよ!」

 

『俺が好きなのは「残虐映画(スプラッター)」だ……それも、ヒーローのな!』

 

 

チタニウムマンがジェットを噴射させて寄ってくる。

背中だけではなく、身体の至る部分にあるジェットをコントロールし、細かく、小刻みに高速移動してくる。

 

左右に細かく揺らし、急に拳を突き出してくる。

 

巧みな操作に驚きつつ、ボクシングのような動きを見切る。

 

動きは超感覚(スパイダーセンス)で読める。

だけど、僕の攻撃が通らないのであれば──

 

僕以外で攻撃すれば良い話だ。

 

 

僕はチタニウムマンの攻撃を避けて、(ウェブ)を腕に引っ掛ける。

だけど、それは極細だ。

目に見えない程、細く透明だ。

 

そして、回避している間に別のものへとくっ付ける。

それはデスクや、花瓶、オフィスにある、ありとあらゆる物だ。

 

それを何度も繰り返す。

バレないように、精密に。

 

そして、チタニウムマンが腕を振りかぶった瞬間。

 

彼の肘に付けた(ウェブ)が、花瓶を引っ張ったのだ。

 

そして、花瓶は地面に落下し──

 

ガシャン!

と大きな音を立てて砕けた。

 

 

その瞬間。

 

ほんの一瞬、チタニウムマンの気が逸れた。

 

 

僕はカートリッジ2のゴム(ウェブ)を左右に発射して、そのまま飛び蹴りをする。

 

ゴム糸を切断し、空中で回転する。

周囲に張り巡らされていた細い糸を巻きこみ、極細の(ウェブ)を絡めとる。

 

 

『ムッ!?』

 

 

そのまま強く引っ張って、僕は背後に飛び退く。

 

チタニウムマンから離れた瞬間、ハマー・ドローンが僕へ向けて発砲した。

その瞬間、チタニウムマンを引き寄せて、その身体を盾にする。

 

チタニウムマンの体に大口径の弾丸が命中する。

 

 

『ぐっ、うっ!?』

 

 

大きな弾丸がアーマーに遮られて、跳弾する。

強い衝撃が、アーマー着用者の身体に貫通する。

 

ドローンはすぐに攻撃をやめたけど、何発かは命中した。

 

怯んだチタニウムマンを、背負い投げの要領で持ち上げる。

……『アイアンフィスト』に習った武術だ。

 

自身より大きく重いものを投げ飛ばす、重心のコントロール技術。

僕は足と腰でかち上げて、そのまま投げ飛ばそうとする。

 

……くっ、思ったより何倍も重い。

 

 

「くぅっ、落ち、ろ!」

 

 

ビルの下、中庭のプールへ落とそうとして…………

 

 

 

電撃を纏った鞭が、僕に飛来した。

 

それは青いスパークを放ち、空気を焦がしながら接近してきた。

一目で分かる……当たればヤバいって事が。

 

僕は咄嗟のところで回避する。

だが、それと同時にチタニウムマンに逃れられる。

チタニウムマンは内蔵されている各部のジェットを起動し、拘束している(ウェブ)を熱で焼き切ってしまった。

 

 

……今の攻撃は、いったい何だ?

僕は振り返る。

ドローンによって壊されたドア。

その直ぐ側に……居た。

 

ソイツも、アイアンマンのような見た目をしたスーツを着ている。

だけど、色は全く違う。

灰色の金属が剥き出しになったアーマー……恐らく、塗装もされていない。

最低限のコーティングだけで済まされた機能重視なデザイン。

 

胸には青いリアクター……これは。

スーツの熱源探知機能によれば、チタニウムマンより遥かに高エネルギーを作り出している。

恐らく……アイアンマンと同じ、『アークリアクター』だ。

独学で作ったのか、盗んだのか……。

 

そして一番目を引くのは、両腕から直に伸びる鞭。

革で出来た鞭……そんな物が可愛らしく思える程、凶悪な鞭だ。

それは、金属の繊維を編んで作られた金属鞭だ。

そして、鞭はスーツの腕から直接生えていて、リアクターからの供給で青い電撃を放っている。

 

それが、両腕に。

二本も。

 

 

『……『ウィップラッシュ』か。助かったぞ』

 

 

チタニウムマンが声をあげた。

 

……ウィップラッシュ?

それが名前か?

 

 

『……フン、スタークが来れば俺一人では厳しいと考えただけだ』

 

 

ウィップラッシュがぶっきらぼうに言い放ち、両手の鞭を回転させる。

スパークが発生し、破裂音が聞こえる。

 

何の……いや、空気が破裂している音だ。

 

鞭の先端が音速を越えて、ソニックブームを発生させている。

 

……これはピンチだ。

それも、かなりの。

だけど、これ以上に悪い事なんて、そうそうない。

 

ドン底ならば、頑張って抗って……後は這い上がるだけだ。

 

……そんな僕の気持ちを裏切るように、チタニウムマンが口を開いた。

 

 

『時間をかければ目的は達成される……ここは手間が掛かっても確実に殺すべきだ』

 

『……少し、話し過ぎだぞ』

 

 

チタニウムマンの踏み込んだ発言に、ウィップラッシュが忠告した。

 

 

『もうどうしようもない話だ。止められる話でもない』

 

 

だけど、チタニウムマンは気にせず笑っている。

……ハマーの計画は『スターク・インダストリー』の社員を襲う事じゃないのか?

 

 

「ねぇ、それって何の話?」

 

『……知らないのか?なら教えてやろう、蜘蛛男』

 

『……オイ』

 

『まぁ、良いだろう?どうせ手遅れだ』

 

 

僕は怖気が走った。

 

……手遅れ?

 

 

『俺達の目的がここの襲撃だけだと、お前は思っているな?』

 

「…………」

 

 

図星だ。

だけど、悟られないように黙るしかない。

 

 

『スタークの手下を殺す事だけが、今回の目的ではない。いや、寧ろ本題は別にある』

 

「別に……?」

 

『そうさ、蜘蛛男。ハマーは市民を虐殺し……その罪をスタークに擦りつけようとしているのさ』

 

 

……確かに、ハマー・ドローンに『スターク・インダストリー』のロゴが刻まれていた。

 

まさか。

 

……あのビルに隠されていた熱源の数より、ここを襲撃しているドローンの数が少ないのは。

 

 

『ここ以外にも複数の場所で襲撃している……マイアミ美術館、エアラインアリーナ、そして──

 

 

手に汗が、滲む。

 

 

『ドルフィンモール、だったか?』

 

 

一瞬、鈍器で頭が殴られたような衝撃を錯覚した。

 

そこには、グウェンも、ネッドも、ミシェルもいる。

 

 

「え……?」

 

『喋り過ぎだ、チタニウムマン』

 

『フン、もう作戦の時間はとうに過ぎている。虐殺は始まっている……もう止める事は出来ない』

 

 

ウィップラッシュを押し退けて、チタニウムマンが前に出てくる。

 

 

『お前に『止められるか?』なんて訊くつもりはない。俺はドラマの悪役なんかじゃない……ただ、『止められなかったな』と嘲笑いたいだけだ』

 

「そん、な……」

 

『そして何故、俺が話したか分かるか?蜘蛛男。お前が未熟だからだ。……そんな精神状態でどうやって俺達と戦う?』

 

 

言葉の終わりと共に、チタニウムマンが接近してくる。

僕は咄嗟に避けるけど……ギリギリだ。

 

集中し切れて居ない。

拙い。

 

興奮するチタニウムマンに、ウィップラッシュが舌打ちをした。

 

 

『……チッ、これだから頭の悪い愛国者(バカ)は』

 

 

文句を言いながらも、鞭を振り回す。

 

そして、チタニウムマンの攻撃を避けた僕へ、鞭を振るった。

命中した地面に、大きな爪痕のような焼け跡が残る。

 

……今すぐ、コイツらを倒して、みんなを助けに行かないと!

 

だけど、どうする?

チタニウムマン一人でも僕は苦戦していた。

ドローンも周りを囲んでいる。

 

多勢に無勢だ。

 

……だけど、諦める事はしない。

 

自分を奮い立たせて……僕は向かい合った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

ピーターが居ない事に気づいたグウェンが、口を開いた。

 

 

「あれ?ピーターは?」

 

 

……私は気付いていた。

彼がネッドに何か頼んで、走り去ったのを。

 

そして、スーツに着替えてスパイダーマンとして飛んでいったのを。

 

……折角の旅行なのに、何かに巻き込まれてるようだ。

可愛そうに。

 

キョロキョロと辺りを見渡すグウェンに、慌ててネッドが近付いてくる。

 

 

「グ、グウェン!ピーターは今……」

 

「今?」

 

「ト、トイレなんだ!しかもトイレが混んでて遠くに行ってるみたいだ!」

 

 

……ネッドが必死に誤魔化している。

 

もしかして、ネッドはピーターがスパイダーマンだという事を知っているのか?

……そうだとしたら、いつからだ?

 

昨日はそんな様子はなかった……なら、今朝か?

昨日の夜か?

 

 

「ネッド、アンタ何か隠してない?」

 

「か、隠してないよ!」

 

「……じゃあ、ピーターを呼んできてよ。本当は何処にいるか知らないけど」

 

 

怒った様子でグウェンがネッドを睨んだ。

 

……ネッドは恐る恐るとした様子で私達から離れる。

どうするつもりだろう?

だって、ピーターはもう此処には居ないはずだ。

 

……それとも考えなしで、グウェンの圧に負けて逃げ出しただけ?

 

 

「……アイツら、何か隠してるよね。私に」

 

 

グウェンが私に言った。

 

……まずい。

ここで不信感を持たれれば、ピーターが困るだろう。

 

 

「ホントにトイレかも……?」

 

 

と言っても上手い誤魔化しが思い付く訳もない。

 

 

「……いや、アイツらの事だから……私達に知られないようにしたい事……やましい事があるに違いない」

 

 

やましい事……と言うには高潔過ぎるヒーロー活動だけど。

 

 

「でも、ピーターもネッドも、悪い事をするような人じゃないと思う」

 

「……ミシェルは純粋だね」

 

 

何故かグウェンに頭を撫でられた。

私を小動物のように扱わないで欲しい。

 

 

「男はみーんな、狼なのよ。ケダモノよ……男が黙って買い物に行くとしたら──

 

 

その瞬間……私は振り返った。

 

……何かに見られている気がする。

だけど、それは私を注視している訳じゃない。

私以外の何かを見ている。

 

私を視界に収めている誰かがいる。

 

 

「ミシェル……?どうしたの?」

 

 

……遠く離れたビルを見る。

目を凝らし、視覚を血清で強化すれば──

 

 

「ねぇ、ミシェルってば」

 

「うっ」

 

 

グウェンに肩を揺らされて、中断させられる。

 

……しまった。

不快な視線を感じてしまったから。

 

グウェンは深刻そうな顔をして、私を見ていた。

そして、その手を私の額に当てる。

 

 

「……やっぱり、熱でもある?大丈夫?」

 

 

私は元気だ。

身体に怪我もなく、血清のおかげで病気にもならない。

 

だから、彼女が何故心配しているか分からない。

 

 

「……大丈夫だけど」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

 

グウェンはまだ納得していないようで、私を見つめている。

 

 

そして……。

 

 

ドン!

 

 

と大きな音がして、何かが近くに着陸した。

地面のタイルが割れて、舞い上がった。

 

咄嗟に私は振り返った。

 

それは……緑色のアーマーだ。

肩には『スターク・インダストリー』の文字。

 

 

「なんだなんだ?」

「キャンペーンか?」

「アイアンマン?」

 

 

周りに居た人達が集まってくる。

……『スターク』という名前から、彼等は特に不審がっていない。

 

スタークは突拍子もない事をするヒーローだからだ。

 

だけど、側には寄り過ぎない。

今、一番近くにいるのは……着地の際、すぐ側にいた私とグウェンだ。

 

だから、少し遅れた。

 

 

「あ……」

 

 

私は咄嗟に、グウェンに抱き着いて転がした。

 

 

「え、ミシェ──

 

 

発砲音。

……緑色のアーマーの両腕から煙が出ている。

 

 

「……え?」

 

 

グウェンが声を漏らした。

 

私の腹部は抉れ、血が流れていた。

悲鳴が、聞こえた。




続きは明日の朝7時

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