【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#5 ミッドタウン・ハイスクール

「ねぇ、あなた何処から来たの?」

 

 

あわわ。

 

 

「髪すっごい綺麗……どこのシャンプー使ってるの?」

 

 

あわわわ。

 

 

「部活何処に入るの?」

 

「バンドに興味ない?」

 

「好きなものある?」

 

「一緒に写真撮ってもいい?」

 

 

あわわわわわ。

 

 

しかして、私は同級生の少年少女に囲まれて質問攻めに遭っていた。

 

だが、まぁ……この歳頃の学生は勢いが強い。

未知に対する好奇心が強いのか?

このままで圧殺されてしまう。

 

私はちら、とピーターの方を見る。

 

ふい、と気まずそうに目を逸らした。

この薄情者が。

 

 

「よっ」

 

 

一人の男が割り込んで来る。

 

周りの学生くん達は彼を見て、譲るように私の側から離れた。

……まるでモーセの十戒みたいだな。

 

 

「あなたは?」

 

「俺?俺はフラッシュ。フラッシュ・トンプソンだ。フラッシュって呼んで良いぜ?」

 

 

そうやってニヤニヤと私を見て笑った。

 

……何か、嫌だな。

こう、下心が見え見えなのが嫌だ。

生理的に無理だ。

 

下心があるのは別に良い。

仕方ない。

私、美少女だし。

 

でも隠そうとする気すらないのは嫌だ。

せめて、表には出さないように気をつける努力をして欲しい。

 

私は心の中の温度が一段階下がっている事を自覚するが、そんな事も露知らずフラッシュは話しかけてくる。

 

 

「今日さ、ウチ、両親いないんだよね。ホームパーティとかどう?歓迎会しようぜ」

 

 

え、嫌だ。

行きたくない。

 

 

……あ、というかフラッシュ。

フラッシュを思い出した。

 

フラッシュ・トンプソン。

スパイダーマンに出てくるいじめっ子じゃないか。

スポーツ万能で、ちょっとばかし顔がいい。

詳しくは覚えてないけど。

 

ピーターを虐める悪い奴だ。

 

 

「ごめんなさい、今日は予定があるから……」

 

「そんな、つれない事言わずにさ。なぁ、良いだろ」

 

 

フラッシュが私の腕を掴んだ。

そして、私は眉を顰めた。

 

やめろ。

ベタベタ触るな。

仲良くもない女の腕掴むなんて、どうかしてるぞ。

……いや、こいつ普段からモテるから異性に対して「こういう」セクハラ紛いの事しても誰も咎めないのか。

 

 

「やめなよ、フラッシュ。嫌がってるじゃないか」

 

 

と、そこで声を掛けてきたのはピーターだ。

フラッシュは私を掴んでいた手を離した。

 

家帰ったら絶対洗う。

シャワー浴びる。

 

 

「あ?ピーター、お前には関係ないだろ」

 

「関係ないかも知れないけどさ……嫌がってるだろ」

 

「なんだと?なぁ、ミシェルちゃん、別に嫌がってないよな?」

 

 

そう言って、嫌がってると1mmも思ってないフラッシュが女性受け良さそうな笑顔を私に向けてきた。

 

ミシェルちゃん?

「ちゃん」って、お前……。

 

初対面の女に「ちゃん」付けするのか?

 

やば、鳥肌立ってきた。

 

私が具体的な返答をしないまま黙っていると、横からスッと女性が入り込んできた。

 

金髪で、ちょっと濃いめのルージュをつけている。

気の強そうな女の子だ。

 

 

「嫌がってるよ、フラッシュ」

 

「あ?」

 

「女心の分からない奴だね、アンタ」

 

 

そう言って、冷めた目で睨み付けている。

フラッシュは何か喋ろうとして……女を睨み付けた。

 

 

「……ちっ、分かったよ。ミシェルちゃん、歓迎会はいつでも開けるからね。気になったら声かけてくれよ、このフラッシュ・トンプソンまで」

 

「…………けっ、自意識過剰男め」

 

 

気の強そうな女の子が、フラッシュに聞こえないようボソリと呟いた。

 

 

フラッシュが席から離れても、周りの同級生達はあまり近寄って来なかった。

 

フラッシュ、クラスの人気者っぽいし、厄介ごとに巻き込まれたくないんだろうな。

 

顔が良くて、スポーツ万能で、学力もそこそこあるだけなのに……。

いや、そりゃ人気出るか。

 

しかし、誰も寄って来ないのは好都合だ。

さっきみたいな質問攻めをまた食らったらたまったモンじゃないから助かるが。

 

それより、目の前の女の子へ礼を言う事を優先すべきだ。

 

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

軽く、ウィンクをしてくれた。

……やば、可愛い。

そしてカッコいい。

 

危ない。

この身体が女じゃなければ、間違いなく惚れていた。

 

ふと、視界の端で項垂れてる男の姿が写った。

 

……あ、ピーターのこと忘れてた。

 

 

「ピーターも、ありがとう」

 

「いや、まぁ……僕は全然役に立ってないし」

 

 

そうやって恥ずかしそうに頬を掻くピーターを見て、気の強そうな女の子はニヤリと笑った。

 

 

「あーあ、本当だよ。ピーターは役立たずだ。能無しのボンクラだ」

 

「ちょっと。そこまで言わなくても良いだろ、グウェン」

 

「事実だもん」

 

 

へっ、と分かりやすく嘲笑のポーズを取る。

 

グウェン……グウェン?

 

 

「グウェン、って言うの?」

 

「ん?あ、自己紹介がまだだったね。私の名前はグウェン・ステイシー。よろしく、ミシェル」

 

 

そう言って、グウェンが手を差し伸べて来た。

 

 

「うん、よろしく」

 

 

手を握り返すと、ブンブンと力強く振り回された。

ホントに元気だ。

 

 

にしても、グウェン。

グウェン・ステイシーか。

 

確か……スパイダーマンの彼女だったか。

 

転生してからコミックに対しての記憶が薄れて来ている。

この身体の記憶力はかなり良い方だけど……何故か、前世の記憶だけ抜け落ちていく。

 

……恐らく、何かが影響しているのだろうが……。

私には分からない。

私は学者でも宗教家でもないし、魔術師でもない。

分からないモノは分からないのだ。

 

かと言って、前世の記憶を日記に書いたりなんて他人に見えるような媒体に保存したりはしない。

万が一、組織にバレたら大変だから。

 

いや、私の日記のせいで世界滅亡とか全然笑えないし……。

 

とにかく、どうやらピーターと仲良さそうだし……やっぱり付き合ってるのかな。

 

 

「グウェンとピーターって仲が良いの?」

 

 

そう質問した。

 

 

「まぁ、うん」

 

 

そう歯切れ悪く返すのはピーター。

 

 

「全然、仲良くないよ」

 

 

そう小馬鹿にしたように返したのはグウェンだ。

 

つまり……仲が良いって事で良いのかな?

 

付き合ってはなさそうだけど。

ピーター、グウェンが近付くと少し身体避けてるし…………ちょっと苦手意識でもあるのかな。

それとも、女の子慣れしてないのか。

 

……多分、後者だな。

どうしてだろう?ピーター、イケメンなのに。

 

そうやって、一人首を捻っているとグウェンが声を掛けてきた。

 

 

「あ、そうだ、ミシェル?」

 

「え、うん?何?」

 

 

うんうん唸りながらグウェンが私を見ている。

 

 

「ミシェル・ジェーンで、MJってどう?ニックネームで」

 

「……それだけはやめて」

 

 

だってそれ、スパイダーマンのヒロインの名前じゃないか。

メリー・ジェーン・ワトソンの愛称でしょ。

 

 

「え〜、良いと思ったんだけどなぁ」

 

「MJだけは嫌だ」

 

 

そうやってピーターと恋愛に発展するようなフラグを立てるのは辞めて欲しい。

 

いや、別にピーターが嫌いな訳ではない。

むしろ、憧れのヒーローだし、優しいし……ま、イケメンだし?

嫌いな訳がない。

 

だが、私の外見は美少女でも、心は男だ。

 

男を好きになる事はない。

これだけはハッキリと断定できる。

うむ。

 

 

「ミシェルで良いよ」

 

「しょうがないね。じゃあ、ミシェル?」

 

「うん」

 

「授業始まるよ、支度しないとね」

 

 

んべ、とピーターに舌を出してグウェンが席を離れた。

あ、もうそろそろ授業の時間か。

 

ピーターと私は慌ててロッカーへ向かった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ミッドタウン高校の授業は……何というか、簡単だった。

と言うのも、そもそも私が大学卒のサラリーマンの精神を持っているからと言うのと……何よりも、超人血清によって強化された頭脳があるからだ。

 

私が打った『パワーブローカー』製の似非超人血清。

その主な効能は、肉体の強化、治癒能力、そして記憶力、思考速度の強化もある。

 

やる気になれば教科書なんて1時間もあれば最初から最後まで暗記できる。

 

応用問題なんかは簡単に解けるとは言わないが、高校レベルの数学とかなら一瞬で解ける。

 

実際、教師に当てられても全く問題はなかった。

前日に予習しておいたからだ。

今日の授業の……ではない。

ミッドタウン高校、一年から四年までの全ての学習内容を予習していたのだ。

 

しかし、それだけ記憶力があるのに、前世の記憶だけは覚えていられない。

……誰か、並行世界に詳しい奴は居ないのか?

ドクター・ストレンジとか?

 

ま、いいや。

知っていても関わりを持てる気がしないし。

あっちはヒーロー、こっちは悪役(ヴィラン)

相容れない存在なのだ。

 

 

そうして気付けば放課後になっていた。

廊下に設置されている男子用ロッカーの前でピーターと誰かが喋っている。

 

 

「お前の所のクラス……可愛い……」

「……そ……だよな……あって……」

 

 

上手くは聞き取れないが、私はロッカーを漁っているピーターの背後から近寄る。

そのまま、ピーターが開いているロッカーの扉の後ろに隠れた。

 

 

「気になるなら見に行けば……」

 

 

バタン、とピーターが扉を閉じた瞬間。

扉に隠れていた私と、ピーターの目があった。

 

 

「うわあっ、びっくりした!何してんの、ミシェル?こんな所で……?」

 

「何も。ピーターを見つけたから、イタズラ」

 

 

驚いたピーターの顔が面白くて、へへ、と笑ってしまった。

 

それを見たピーターが少し目をぱちぱちとさせて、手で自分の頬を掻いた。

 

……あ、ピーターと喋っていた人がいるんだった。

 

 

 

「初めまして、私の名前はミシェル」

 

「……え?あっ、どうも。俺はネッドです……あ、ネッド・リーズね。ネッドはうちの学校に3人いるから」

 

 

恐る恐ると言った様子で、少し太めの少年が挨拶を返してくれた。

ネッド、ね。

 

ん……何か聞き覚えあるな。やっぱり、この人もコミックのスパイダーマンに出てくるキャラクターなのかな。

 

 

「よろしく、ネッド」

 

 

私が手を出すと、ネッドが首を傾げた。

 

 

「握手」

 

 

私がそう言うと、まるで壊れ物の高級品の陶磁器を扱うが如く、繊細な力加減で私の手を握って……。

 

 

「うわっ、すべす……やわら……」

 

 

ネッド、心の声が漏れているぞ。

 

……まぁ、仕方あるまい。

私は美少女だからな。

 

 

チラッとピーターを見ると、ネッドと握手した私の手を見てぼーっとしていた。

 

 

「ピーター、どうしたの?」

 

「え?いや、何でもないよ、ミシェル」

 

「……変なピーター」

 

 

私は首を傾げながら、ロッカーから離れた。

 

 

「それで、何の話してたの?」

 

「え……いやぁ……?」

 

 

と、ピーターが言い辛そうに顔を背けた。

 

 

「……やましい話?」

 

 

もしくは、やらしい話?

 

 

「いや、そういう訳じゃないけど」

 

「俺とピーター、ミシェルさんの話をしてたんだよ」

 

 

え?

 

 

「私?」

 

「ちょっ、おい、ネッド」

 

「別に良いだろ、ピーター。ピーターのクラスに女の子が編入して来たって聞いたからさ、俺がちょ〜っと話を聞いてたんだよ。俺、別クラスだからさ。どんな感じ〜ってね」

 

「……あ、そう」

 

 

ネッド、お喋りだな。

まぁ、困るほどじゃないけど。

面白い奴って感じだ。

 

 

「いやぁ、ビックリしたよ。他のクラスでも転校生が可愛い女の子だ〜って噂になっててさ、ピーターも」

 

「ちょっ、おい、やめろネッド」

 

 

ピーターがネッドの脇に肘を押し込んだ。

ネッドは「うっ」って鈍い声を出してる。

 

……今の、まぁまぁ強く押し込んだな。

ゲホ、ゴホ、とネッドが咽せている。

口は災いの元、か。

 

それにしても。

 

 

「可愛い?私が?」

 

 

そう聞くと、ネッドが返事をした。

 

 

「可愛いでしょ。鏡見たら分かるでしょ?」

 

 

……こう、ストレートに可愛いって言われる事、少ないから…………何というか……照れるな。

うん、可愛い自覚はあるんだけどね。

 

 

「ん、ありがとう」

 

「いやいや、事実だし」

 

 

あ、そうだ。

 

 

「……ピーターは?」

 

「え?」

 

「ピーターは私のこと、可愛いって思ってる?」

 

 

ここは気になるポイントだ。

ピーターはイケメンだ。

女の子も沢山、擦り寄ってくるに違いない。

そんなピーターから『可愛い』という認定が貰えれば箔がつくと言うモノ。

 

 

「え……いや……その……」

 

「ピーター、私のこと、可愛くないって思ってるの……?」

 

 

眉を下げて少し悲しそうな顔をする。

 

……どうだ?

可愛いだろう。

鏡の前で自分が可愛く見える角度の練習をしているんだぞ。

 

……何だか唐突に虚しい気持ちになって来た。

 

 

それを見たピーターが慌てて、首を振っている。

 

 

「そ、そんな事ないけど……あ、ミシェル、今日、放課後に予定あるんじゃなかったの!?……それって大丈夫?ほら、こんな所で話してる場合じゃないかも……」

 

 

あぁ〜……そう言えばフラッシュにそんなこと言ったな。

 

 

「あれ、嘘」

 

「嘘……?」

 

「そう」

 

 

そう言うと、ピーターは少し考える素振りをして、納得したように頷いた。

 

 

「……君って、良い性格してるね」

 

「褒められても困る」

 

 

ピーターは自分が揶揄われている事に気付いたようで、じっとりとした目で私を見ている。

 

 

「……へー、ピーターとミシェルさんって仲良いんだ」

 

 

そう言ってネッドが笑っていた。

 

 

「うん、仲良し」

 

「…………」

 

 

私が肯定したのに、ピーターは黙ったままだ。

 

この年頃の男子高校生は、女の子と仲良くするのを恥ずかしがる傾向にあるようだ。

 

そうやってピーターと話していると、後ろから金髪の女性が手を振りながら近寄ってきた。

 

グウェンだ。

 

 

「あ、グウェン」

 

「よっ、ミシェル」

 

「「げっ、グウェン」」

 

 

私とグウェンが挨拶をする傍ら、ネッドとピーターが渋い顔をして、少し離れた。

 

 

「あ、ナード共。陰気臭過ぎて目に入らなかったわ」

 

「何だよ、グウェン」

 

「ナード?ナードってなに?」

 

 

私が首を傾げてるとグウェンが耳打ちをしてきた。

 

 

「暗いオタクって意味」

 

「あぁ……そうなんだ」

 

 

スラングなのかな。

私はピーターとネッド、二人をチラッと見た。

……何というか、何故ピーターがモテないか、ちょっと分かって来た気がした。

 

私の視線に気付いて、ネッドが声を上げた。

 

「な、なに?」

 

「ミシェルにアンタらがオタクだよ〜って教えてただけ」

 

「はぁ?別に良いだろ、オタクでも」

 

 

そう言って心外だ!ってネッドがムッとした顔をする。

 

でも、何というか。

本気で馬鹿にしてる訳じゃないし、本気で怒ってる訳でもない。

 

そんな気がして、

 

 

「仲良し?」

 

 

って感想が出てくる。

 

ネッドとグウェンが言い争ってる中、ピーターがコソコソと私の側に寄ってきて耳打ちした。

 

 

「ネッドとグウェンは幼馴染なんだ。僕と二人が友達になったのは高校からだけどね」

 

 

へぇ。

疑問が解けた。

 

 

「ありがと、ピーター」

 

 

お礼を耳打ちすると、ピーターがビクッと震えた。

 

 

「……あ、あんまり耳元で声を出さないで欲しい、かな」

 

 

…………ピーターも耳打ちしたのに。

何で私だけダメなんだ。

分からん。

 

 

私はこの世の不条理を感じながら、言い争う二人を見ていた。

 

 

……平和だなって、ちょっと幸せな気持ちになっていた。

 

 

けど。

 

 

胸のポケットに入れていた携帯端末が震えている。学内だから、マナーモードにしていたんだった。

 

私はそれを取り出し、三人からは見えないような位置で画面を開く。

 

 

 

 

……はぁ。

 

 

 

 

「ごめん、三人とも。私、今から予定あるから、先に帰る」

 

「フラッシュに言ってたやつ?」

 

「え?さっき予定ないって言ってなかった?」

 

「……急に出来た」

 

 

そう返答すると、三人とも首を傾げながらも、納得したように頷いた。

 

 

「ふーん、じゃ、ミシェル。また明日ね」

 

「うん、明日。また学校で」

 

 

グウェンと、ネッド、ピーターに手を振り、私はその場を後にした。

 

 

携帯端末に届いたメールには……暗号化された文字列が並んでいた。




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