【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#50 アーマー・ウォーズ part1

グウェンが私を、近くのレジ裏まで引っ張った。

あの緑色の襲撃者から隠れるために。

 

 

「ミ、ミシェル!血、血が」

 

 

慌てた声をよそに、私は腹を撫でる。

……随分と大きな弾痕だ。

 

人に撃つには過剰過ぎるだろう。

冷静に分析しつつ、指で弾丸をくり抜いて……なんて荒療治が、グウェンが側にいるので出来ない事に気付いた。

 

私は、両手を血に濡らして怯えるグウェンに安心させようと声を掛ける。

 

 

「だ、大丈夫……何も、心配しなくて、げほっ」

 

 

途中で口から血を吐いた。

……内臓にダメージがあって、血が逆流してしまったようだ。

 

かえって心配させてしまう、と私はグウェンの顔を見た。

案の定、泣きそうな顔をしている。

 

 

「ミシェル、ど、どうしよう……」

 

「ここは、危ないから、グウェンだけ逃げれば……」

 

 

グウェンが居なくなれば……治癒因子(ヒーリングファクター)で傷を完治させて、この場を切り抜けられる。

……その後、傷を再現するために自身の腹に一発撃てば良いだけの話だ。

 

 

「違うよ、私じゃなくて……このままだと、ミシェルが死んじゃう……から、どうしたら、良いの……?」

 

 

私の血と、彼女の涙が混じって、グチャグチャだ。

嗚咽を漏らすグウェンに、私は目を細めた。

 

……そうだ。

彼女は友人を見捨てて逃げられるような人間では無い。

 

 

……だけど、こうなった原因は。

私の平和ボケだった。

 

近くにあの緑色のアーマーが降りてきた瞬間に、彼女を無理矢理連れてでも逃げれば良かったのだ。

 

しかし、それは年頃の少女らしくないと……私は、グウェンに本当の姿がバレるのが怖くて、一瞬……ほんの一瞬、判断が遅れた。

 

そのせいで、こんな事になっている。

 

……広場にいるアーマーを見る。

周りに発砲している。

幸い、AIがポンコツなのか、銃の精度が悪いのか……流血している怪我人はいても、死体の姿は見当たらない。

 

私は、隠れているレジの裏にあった金属製の定規を手に取る。

……何もないよりはマシだ。

 

 

「グウェン、お願い……逃げて。私が、何とかする、から」

 

 

スーツもない。

武器もない。

マスクもない。

 

だけど、それでも。

 

グウェンを助けなければならないと、思った。

……そして、私の正体がバレようとも、死なせたくないと思った。

 

これは私の落ち度だ。

私が償わなければ、ならない。

 

大丈夫だ。

あんなアーマー……いや、無人機(ドローン)ぐらい私なら簡単に壊せる。

何も恐れる必要はない。

 

 

だけど。

 

 

「あ、れ?」

 

 

私の身が震えた。

恐怖している。

 

それは、あの緑色の玩具(ドローン)に対してではない。

 

私の正体が、グウェンにバレたら。

手を血に染めた殺人者だと、知られてしまったら。

 

きっと、私は彼女達とは……もう一緒に居られない。

 

 

「おか、しい……」

 

 

定規が手から離れて落ちる。

足が竦む。

 

ダメだ。

ダメだ、ダメだ。

 

違う。

私はグウェンを助けないと。

自分の我儘を押し通して、それでグウェンが死んだら……私は私を許せない。

 

だから、動いてくれ。

足を滑らせて、ゆっくりと尻もちをついた。

 

 

「何で、足……?」

 

「ミシェル……!」

 

 

ボヤけた視界の中で……グウェンが私の手を握った。

 

震える私の手を握って……彼女の目が私の目を見た。

……彼女の目に決意が見えた。

 

 

「……ミシェルはここでジッとして居て」

 

 

突然、言われた言葉に思考が止まる。

 

 

「で、も……」

 

「……私がミシェルを守るから」

 

 

彼女は泣き噦る子供をあやすように、優しく私に声を掛けて……立ち上がった。

 

そして、その目の先には、殺人ドローンがいる。

 

 

「だ、め……」

 

 

私はグウェンの裾を掴もうとして、その手を逆に撫でられた。

優しく振り解かれて、グウェンが私から離れる。

 

グウェンがインナーの……首元を下げた。

そこには大きな、縦に雷のように裂けた傷跡があった。

 

……私は、その傷を知っていた。

彼女がグリーンゴブリンとの戦いに巻き込まれて……受けた傷の跡だ。

 

そして、グウェンは私に振り返って……笑った。

 

 

「ミシェル、これから見る事は……全部、秘密にしてね」

 

「え……?」

 

 

グウェンの傷跡から黒いタールのような液体が流れ出す。

それは粘性を持って、まるで生き物のように練り動き、グウェンへ纏わりつく。

 

そして、黒いマスクに、黒いスーツのような姿に変わる。

その姿はスパイダーマンに似ている。

 

だけど目は白く、黒いフードのようなモノを被っていて……縁は白く、その内側は内臓のように毒々しいほどに赤かった。

そして傷口のあった場所から、舌のような器官が伸びて……それには幾つもの白い牙が生えている。

 

 

「あ……」

 

 

私は知っている。

 

それは『シンビオート』だ。

ヴェノムと同じ、地球外から来たエイリアンコスチューム。

 

 

『私達が……あんな奴、すぐに倒してくるから』

 

 

グウェン本来の声と、子供のような声が重なった、ノイズのような声が聞こえる。

白く鋭い目がウインクをした。

 

 

彼女はそのまま、隠れていたカウンターから飛び出した。

 

私は慌てて、身を横へ倒し……グウェンを視界で追う。

 

 

彼女は噴水の上に着地した。

ドローンがグウェンを見た。

 

 

グウェンが……シンビオートが、吠えた。

空気が震える。

 

そして、足場を蹴り、宙を舞う。

それを狙ってドローンが両腕を向けた。

 

その両腕には、私の腹に穴を開けた機関砲が──

 

 

「グ、ウェ……」

 

 

私の心配をよそに、グウェンの手から黒く細い触手が生えて、壁を突き刺した。

 

そのまま強く引き寄せて、ドローンの発砲を回避する。

 

……宙に一度飛んだのは銃口を上に吊り上げて、流れ弾で誰も傷つかないようにする為だ。

 

ドローンはグウェンの動きについて行けず、弾丸は宙へ散らばった。

 

そのまま、グウェンが空中で錐揉みしてドローンの頭を掴んだ。

 

甲高い獣の悲鳴の様な叫び声をあげて……両腕で捻る。

 

ドローンの首が、引き千切られた。

センサーを暗転させて、頭が転がった。

 

スパークする音と共に、ドローンが倒れる。

勝ち誇る様に雄叫びを上げて、倒れているドローンを踏み付けた。

 

ミシリ、と軋む音が聞こえた。

 

……まるで、獣のようだ。

普段の彼女からは想像できない、荒々しい獣。

 

私は傷口の痛みも忘れて……その姿を眺めていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

私がその力を手に入れた──

いや、力と『共生』し始めたキッカケは……一ヶ月前だ。

 

ミシェルと、ハリーと別れて……一人で病室にいた時──

 

眼帯を付けた強面の人が来た。

彼は自身を『ニック・フューリー』、国際平和維持組織『S.H.I.E.L.D.』の長官だと名乗った。

 

彼は言った。

 

 

「また歩けるようになりたいか?その為なら、平凡な人生を捨てられるか?」

 

 

私は、頷いた。

だって、このまま歩けなかったら……私の大切な人達に迷惑をかけてしまうと思ったから。

きっと、迷惑をかけても、笑って許してくれるだろう。

 

だけど、私はそれに耐えられなかった。

怯えていた。

 

だから、その手を伸ばした。

 

転院なんて嘘を吐いて、私は『S.H.I.E.L.D.』の管理している研究施設に連れて行かれた。

 

私はそこで、彼……彼女……いや、違う。

性別のない、この子と出会った。

 

蓋の付いたシリンダーに入れられた、その子は『シンビオート』という種族と教えられた。

 

人に凄まじい力を与える代わりに、その感情を食い、増幅させる地球外生命体(エイリアン)だって。

 

 

私はこの子と遺伝子レベルで深く結合できるバイオマトリックスを持っているらしい。

 

つまり、相性が良いって事だ。

 

私とフューリーは密閉された空間の中に入って、その蓋を開けた。

 

黒い液状の生き物が這い出てくる。

 

最初はちょっと、気持ち悪いと思った。

怖いとも思った。

 

だけど、私はその子と触れて……まだ何も知らない真っ新な赤ん坊なのだと、感じた。

 

 

「そいつは『ヴェノム』と呼ばれるシンビオートから分離した。まだ誰の手にも渡っていない、外界にも触れていない……所謂、白紙のノートに近い存在だ」

 

「『シンビオート』の赤ちゃんってこと……?」

 

「……なるほど、そういう感想もあるのか。研究者達では出なかった見解だな」

 

 

私は……その子を撫でた。

 

 

『マ、マ?』

 

 

ふと、声が聞こえた。

それは歪な、子供のような声だ。

 

この子が発したのだと、私には分かった。

 

私は否定せずに、抱きしめた。

 

 

「なっ……?」

 

 

慌てた様子のフューリーをよそに、私とこの子は結合した。

黒い液体が私の中に染み込んでいく。

 

その子の抱える寂しさや、悲しさも。

安易に分かると同調はできないけれど、親も居なくて、孤独なのだと……それは悲しい事だと思った。

 

 

『ママ……?』

 

 

だから、私は彼女の母になろうと思った。

 

 

「フューリーさん、この子の名前は……?」

 

「名前か?……まだ、無いが。熱狂者(マニア)か、混乱(メイヘム)と名付けようと──

 

「そんなの、可愛くないでしょ?」

 

「……可愛い?」

 

 

フューリーが手を顎に当てて訝しむ。

……本当に、大人って。

 

 

「それなら……」

 

 

この子の父はヴェノム(VENOM)で。

私はグウェン(GWEN)だ。

 

二つを合わせて。

 

 

「決めた。貴方は『グウェノム(GWENOM)』よ」

 

『グウェノム?』

 

「そう、貴方の名前」

 

 

その瞬間、『グウェノム』の喜びが私に伝播してきた。

 

 

 

 

それから、私は『グウェノム』と二人三脚で訓練してきた。

この子の助けがあれば、私は歩く事も出来た。

 

『シンビオート』は生き物の脳か……チョコレートが好物らしい。

私はこの子に鶏の脳味噌や、チョコレートを与える。

 

気分はベビーシッターだ。

 

『グウェノム』は時々、私の感情に紐付いて癇癪を起こした。

フューリーは暴走だとか言っていたけど……私が宥めれば直ぐに落ち着いた。

 

そして、叱れば……キチンと反省した。

私はこの手のかかる、暴れん坊な子供と共生する事に慣れてきた。

 

細かなコントロールが出来るようになった頃、私と『グウェノム』の本格的な訓練が始まった。

 

『S.H.I.E.L.D.』が私に『グウェノム』を預ける条件は、将来、組織に従事して世界の平和の為に戦う事だ。

 

勝手に進路が決まっちゃったけど……。

でも、私の父、ジョージは警官で……父も街の平和のために戦っている。

 

絶対に口に出さないけれど、その姿には憧れていた。

だから、世界を守るために戦う事は苦に思わなかった。

 

それに、私のように悪人に傷付けられる人が減るのなら……それは、嬉しい事だから。

 

 

答えは一つだ。

 

 

そうして、残りの三週間。

私はフューリーと、ナターシャと呼ばれる女性エージェントに鍛えられた。

 

ハンドガンの使い方、格闘技、パルクール、追跡……それこそ、必要な事は全て。

 

時間が過ぎ去り、夏期旅行の当日となり……私は外出を許可された。

戻って来ても、週に三回は訓練と『グウェノム』の途中検査が必要らしい。

代わりに、幾らか賃金が出るとか……。

 

私はエージェント研修生ってワケね。

 

……そんな研修生である私は、フューリーに注意されていた。

 

 

「良いか、くれぐれも勝手に結合レベルを上げるなよ?」

 

「分かってるって……フューリーさん」

 

 

シンビオートとの結合レベルを引き上げると強力なパワーが得られるが……その分、精神が引き摺られて凶暴化する。

施設内であればナターシャに止めてもらえるけど、外で暴走すれば……死人が出てもおかしくない。

 

私は、フューリーの言葉に頷いた。

 

しかし、彼は全く納得していないようで……。

 

 

「事の重大さが分かってない……全く、お前は──

 

 

ぐちぐちとフューリーが怒る。

ここ数週間はずっとそうだ。

 

見た目通り堅物で、神経質な男だ。

 

 

一通り注意を受けた後、フューリーが私に思い付いたように言った。

 

 

「……そうだ、コードネームを教えておこう」

 

「コードネーム?」

 

「あぁ、ナターシャも『ブラックウィドウ』というコードネームがある」

 

 

……その名前を聞いて、私は思いだした。

ブラックウィドウ……そっか、ナターシャってアベンジャーズだったんだ。

雑誌か新聞で見た事ある。

 

私は少し驚いた。

 

ナターシャは、そんな私を見て笑っていた。

今更気付いたの?って。

 

 

「君のコードネームは──

 

 

フューリーが手元に、私のICカードを取り出した。

そこには、本名とは別の名前が刻まれていた。

 

 

「『エージェント・グウェノム』だ」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

 

僕はチタニウムマンの攻撃を避けて……ドローンの攻撃を受けないよう立ち回る。

 

そして、回避した先でウィップラッシュに鞭を振られる。

それは(ウェブ)を使って無理矢理回避する。

 

 

『小賢しい奴め!』

 

 

チタニウムマンが更に一歩踏み込み、右ストレートを放つ。

僕はそれを受け流して、蹴りを食らわせる。

 

……怯む事もなく、ダメージが入っている様子もない。

 

 

強固なアーマースーツを纏ったチタニウムマンが前衛で。

長い射程と殺傷力のある鞭を持ったウィップラッシュが後衛。

そして、僕の行動を阻害するハマー・ドローン達。

 

完璧な布陣だ。

褒めたいぐらいだ……敵対してるのが僕じゃなければ。

 

 

グウェンやネッド、ミシェル……勿論、街の人だって助けないといけないんだ。

 

早く倒さなきゃならないのに……。

 

僕は焦っていた。

 

 

『埒が明かない……チタニウムマン、先にスタークの部下を殺せ』

 

 

ウィップラッシュが言った。

 

 

『ム……?だが良いのか?この場から離れて』

 

『あんなガキ一人なら大丈夫だ、行け』

 

 

チタニウムマンが僕を一瞥して、その足を部屋の外へと向けた。

 

まずい!

地下のシェルターに移動して、『スターク・インダストリー』の人達を殺すつもりだ!

 

僕は引き止めようと、(ウェブ)をチタニウムマンへ発射し──

 

 

『予想通り、前に出てきたな?』

 

 

ウィップラッシュが鞭を回転させた。

青い電撃を放つ鞭が、僕の(ウェブ)を絡め取って焼き尽くした。

 

そのまま僕へ鞭が放たれ、僕の横を通り過ぎる。

割れた強化ガラスの窓にぶつかり、ガラスが焼け焦げて白く濁った。

 

……チタニウムマンが僕達から離れていく。

 

ダメだ。

行かせたら、シェルターに避難している『スターク・インダストリー』の人達が殺されてしまう。

 

 

深呼吸して、僕は集中する。

 

 

カートリッジを切り替える。

番号は2、ゴム(ウェブ)だ。

 

残りの液量も少ない。

失敗は出来ない。

チャンスは一回だ。

 

 

僕は地面を蹴って、ウィップラッシュへ接近する。

 

 

『死にに来るような物だ……!』

 

 

鞭を短く振り回し、僕の足元へ振るう。

 

僕はそれを飛び越えて──

 

ウィップラッシュが宙にいる僕へ、もう片方の鞭を振ろうとする。

 

……空中では回避を出来ない。

そう思っているのだろう。

 

隙を晒せば無理にでも攻撃してくると、僕は予測していた。

だから、敢えて飛んだんだ。

 

僕はゴム(ウェブ)を最大出力で、こちらへ向かってくる鞭へ射出する。

空になったカートリッジが自動で排出された。

 

宙にいる僕へ振った鞭は、ゴム(ウェブ)が命中し勢いを殺されて地面に落下する。

 

僕を狙って振った鞭と、地面を攻撃した鞭が接触した。

ゴム(ウェブ)は電気を通さない……電気鞭に焼かれる事もなく、その左右の鞭を結合した。

 

瞬間。

 

 

強烈な破裂音が聞こえた。

 

 

『ぐぁっ……!?』

 

 

鞭に電流を流している回路が短絡(ショート)した音だ。

ゴム(ウェブ)も巻き込まれて破裂し、千切れてしまったけれど……衝撃は十分に来たようでウィップラッシュが怯んだ。

 

宙にいる僕は、そのまま(ウェブ)を頭上の天井に放ち……スイングする。

 

勢いのまま、僕はウィップラッシュへ蹴りを食らわせた。

 

ウィップラッシュが吹っ飛び、階段を転がり落ちた。

 

……きっと、アーマーに衝撃は吸収されて深いダメージはないだろう。

だけど、時間稼ぎにはなる。

 

 

その瞬間、ドローン達が僕へ銃口を向ける……だが攻撃は出来ない。

全てのドローンが対角線上に並ぶよう、位置を調整したからだ。

 

僕は宙で回転しつつ、(ウェブ)を乱射する。

ドローンの腕やセンサー部を拘束して、動けなくする。

 

ドローンが無力化出来た事を確認し、僕はチタニウムマンを追う。

 

……居た。

ジェットを使って、ビル中央の空洞から降りようとしている。

 

だけどまだ、飛び立っては居ない。

 

僕はウェブシューターのカートリッジを3に切り替える。

 

そのまま発射すると、通常の(ウェブ)のような見た目でチタニウムマンに命中した。

そしてそれは、大気と化学反応を起こし……凍結する。

 

空気中で熱を奪い凍結する、化学物質を配合した『氷結糸(アイスウェブ)』だ。

 

そこでチタニウムマンが僕の存在に気付いた。

 

 

『ムゥ……!?ウィップラッシュの奴、取り逃がしたか!』

 

 

僕が氷結糸(アイスウェブ)で狙ったのはジェット部分。

ジェットは熱料を発火させて発生したガスを推力にして移動する仕組みだ。

 

それを急激に冷やせば、どうなるか?

燃料は凍結し、推力も発生しない。

 

 

『何だ……?』

 

 

チタニウムマンがジェットが起動しない事を訝しんでいる。

 

氷結糸(アイスウェブ)は0度なんて生易しいものじゃない。

マイナス100度に近い超低温だ。

 

人体にぶつければ死んでしまう程の低温……エンジンを狂わせるのには持ってこいだ。

 

 

「間に、合った」

 

 

 

その瞬間、僕の背中に……超感覚(スパイダーセンス)に危機反応があった。

 

回避しようと、足を動かそうとして……力が入らない。

 

……疲労と、蓄積されたダメージのせいで回避しきれない。

 

 

 

僕の背中に衝撃が走った。

 

 

「うあぁっ!?」

 

 

電撃が僕の身体を焼く。

スーツを貫通して、激痛が走った。

 

 

ウィップラッシュだ……!

もう戻って来たのか!?

 

スーツの視界、それをサポートする機能に障害が発生し、ノイズが走った。

 

僕はそのまま、焦げて煙を出しながら倒れた。

……身体は、まだ動く、けど。

 

僕は両手を地面について、立ちあがろうと──

 

 

『フン……!』

 

「うぐっ」

 

 

背中を、チタニウムマンに踏まれた。

 

無理矢理頭を上げると、ウィップラッシュが僕の前に立った。

 

 

『先程は驚いたが……無意味だったな』

 

 

僕の顔を蹴り飛ばした。

 

 

「ぐっ……!?」

 

『……生意気な目だ』

 

 

口に、血の味が染みる。

 

 

『多少の時間稼ぎにはなったかも知れないが……結果は変わらない。お前を殺してから、私達はスタークの手下を殺すだけだ』

 

 

残酷な現実を、ウィップラッシュが語る。

 

チタニウムマンが僕を無視して『スターク・インダストリー』の社員を殺そうとした時、止めなきゃいけないと思って……無理をしてしまったけど。

 

無意味、だった。

それどころか、大きな失態だ。

 

たった少し、ほんの少ししか時間は稼げなかった。

二人にダメージはない。

 

僕の、判断ミスだ。

 

 

『お前は誰も守れない』

 

 

視界が明滅する。

意識が朦朧としてくる。

 

僕は、誰も……助けられな──

 

 

 

 

スーツの中で、アラートが鳴った。

視界の隅で、レーダーに反応が有った。

 

人工知能(カレン)が情報を口にする。

 

 

『高速で飛来する物体を感知』

 

 

……まだ、敵がいるって言うのか……?

 

 

『接近まで残り5秒。識別コード0529──

 

 

天井の窓ガラスが割れる。

 

 

『ム……!?』

 

 

チタニウムマンが驚き、降りかかったガラスを腕で払った。

 

逆光を浴びて、影が落下してくる。

 

そして、轟音と共に『何か』が側で着地した。

 

勢いはあまりに強く、地面が揺れて、コンクリート製の床が『何か』を中心にヒビ割れた。

まるで、小さな隕石が落ちてきたかのような光景だ。

 

 

その『何か』は右手で地面を突くようにしゃがんでいる。

 

 

赤と、金色のアーマーが光を反射する。

胸の中心で青い逆三角形が輝く。

 

よく知っている。

その『何か』の名前は──

 

 

『『アイアンマン』です』

 

 

ここには居ない筈の……僕の憧れの人(ヒーロー)が居た。

だって、骨折したって……大怪我をしてるって、言ったのに。

 

 

「スターク、さん……?」

 

 

ゆっくりと、アイアンマンが立ち上がる。

 

その姿は……遥か昔、僕がまだスパイダーマンでもなかった……小さな、子供だった頃。

僕を助けてくれた時と同じだ。

 

スタークさんは覚えていないだろうけど……僕にとっては今でも鮮明な記憶だ。

 

スーツの姿や形は変わっていても、彼は僕の憧れの人(ヒーロー)だ。

昔も、今も、変わらずに……。

 

 

その手を、僕を踏みつけているチタニウムマンへと向けた。

掌が青白く光る。

 

 

『そこまでにして貰おうか、二人とも。……僕をこれ以上、怒らせたくなかったらね』

 

 

珍しく刺々しいスタークさんの声が、アイアンマンから聞こえた。

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