【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
目の前にアイアンマン……スタークさんがいる。
僕はその事実を理解出来ずに居て……だけど、これは現実で……。
ウィップラッシュが嘲笑いながら口を開いた。
『フン、真打ち登場と──
最後まで言葉は喋られなかった。
青白い光に吹っ飛ばされたからだ。
アイアンマンは両手をウィップラッシュへと向けていた。
『リパルサーレイ』。
アイアンマンが両手に装備している光学兵器だ。
光をエネルギーとして発射する装置で、これを使用する事で飛行している。
そして、それは敵へ向けた場合……強力なエネルギー武器となる。
リパルサーレイが直撃したウィップラッシュは吹き飛ばされて、ビル中央の空洞へと落下する。
咄嗟に鞭を放ち、ぶら下がり……落下を免れたようだ。
『スターク……!』
チタニウムマンが怒りを隠さず、声を荒らげる。
僕に乗せている足にも力が篭る。
「うっ」
思わず、声が出てしまった。
アイアンマンが、一歩近付いた。
『その汚い足を退けろ、マスカットくん』
『我が祖国の為に……!』
『聞こえなかったか?退けろ、と言ったんだ』
リパルサーレイが再度、光を放ち……チタニウムマンを数歩、後退させた。
『ぬぐぅっ!?』
吹き飛ばなかったのは、フィジカルがウィップラッシュよりも強いからか。
とにかく、その隙にチタニウムマンから逃れ、僕は壁へと凭れ掛かった。
……加勢しようと思ったけど、ダメだ。
力が入らない。
アイアンマン……スタークさんが僕を一瞥する。
……幻滅、されちゃった……かな。
『我が、名誉のためにィ!』
怒声を上げて、チタニウムマンがアイアンマンへ突進する。
『接近戦なら勝てると思っているのか?おめでたい奴だな』
アイアンマンが片手で受け流し、リパルサーレイを起動する。
それは、チタニウムマンに命中しなかったが……目的は当てる事ではなかった。
リパルサーレイによって推力が発生した右手をそのまま回し、身体を回転させて回し蹴りを放ったのだ。
『うぐっ!?』
アーマー同士が衝突して、鈍く、重い打撃音が聞こえる。
互いのアーマーに傷はない。
だが、内部に存在する生身へのダメージはあったようだ。
アイアンマンが左手を突き出し、チタニウムマンの顔を殴る。
そのまま手を開いて、よろけているチタニウムマンへの追撃としてリパルサーレイを放った。
『ぐあっ!?』
吹き飛ばされたチタニウムマンが転がり、ビル中央の空洞にかかる通路へと倒れた。
アイアンマンが両手を地面に向けて、リパルサーレイを射出する。
足の踏み込みと併せて飛行し、チタニウムマンを追撃すべく追いかけた。
そして、両手を交差して地面へ向け……両腕の甲から赤いビームを放ち、床を切断した。
切断された断面は赤熱し、溶解している。
200ペタワットの『レーザーカッター』だ。
恐らく、チタニウムマンの装甲も易々切り裂ける程の熱量があるけど……あえて、当てずに床を切断するに留めたんだ。
直撃させれば死亡するから、だろう。
『コンクリートのベッドで寝ていると良い』
そして、アイアンマンが両腕のカートリッジを排出した。
切断された空中通路と共に、チタニウムマンが落下する。
『うおあぁぁ!?』
チタニウムマンは……叫び声を上げながら墜落した。
砂埃が晴れると、瓦礫に埋もれ微動だにしない姿があった。
恐らく、意識を失っているのだろう。
「やっぱり、凄い、や……」
思わず感嘆の声が漏れる。
僕が手こずった敵を、ほんの一瞬で無力化したのだ。
その瞬間、鞭が僕たちのいる階層の天井付近で巻き付き、鈍色のアーマーが飛び上がり……着地した。
ウィップラッシュだ。
『トニー・スターク、覚えているか……?貴様の兵器によって俺の──
『さぁね、覚えてない。しみったれた昔話なんて聞きたくもないね。それに──
アイアンマンが左手の掌をウィップラッシュへと向けた。
『重要なのは過去じゃなくて
『……お前は、そういう奴だったな。スターク。傲慢を絵に描いたような男だ』
ウィップラッシュが鞭を回転させる。
片方の鞭が飛び出して、アイアンマンの腕を絡め取った。
電流が流れるが……アイアンマンにダメージはないようで、怯む様子はない。
『傲慢じゃない。これは自信だ。事実、僕は君よりも優れている』
『ほざくな!』
鞭が宙を引き裂き、アイアンマンの頭に命中した。
そして……首が宙に飛んだ。
「ス、スタークさん!?」
『ハッ!呆気な──
ウィップラッシュが勝利を誇ろうとし……アイアンマンの頭部、マスクが空っぽである事に気づいた。
『な……!?』
『言ったろ?僕は君よりも優れているってね』
首のなくなったアイアンマンが、鞭に縛られていない方の腕で宙に浮いている鞭を掴んだ。
ウィップラッシュの左右の鞭が、アイアンマンの左右の腕によって掴まれていた。
『馬鹿な!?』
理解出来ない様子で、ウィップラッシュが喚く。
『さて、お勉強の時間だ』
アイアンマンはそのまま両腕を回し、鞭を絡め取って、ウィップラッシュへ近付いて行く。
慌てて、電流を流し続けるも、ダメージは無い。
逃れようにも、鞭が巻き取られていて離れる事は出来ない。
少しずつ、確実に近付いて行く。
『こういう武器は、腕から切り離せるようにした方がいい。復習は刑務所でするんだな』
『く、くそっ!』
接近してきたアイアンマンを、ウィップラッシュが蹴った。
……だけど、彼より力の強いチタニウムマンですらダメージを与えられなかった。
彼では、アイアンマンにダメージが入る訳もない。
アイアンマンの胸にあるアーク・リアクターが強く光り始める。
『そして、君の戦闘パターンも見切った』
光が収束し、飽和する。
『やめっ──
アーク・リアクターから閃光が放たれた。
高出力のエネルギーがウィップラッシュを吹き飛ばし、鞭を引きちぎり、壁へと衝突させた。
『ユニ・ビーム』
半永久発電機関、アーク・リアクターのエネルギーを直接発射するアイアンマンの切り札だ。
全力で撃てば、間違いなく敵を殺してしまうが──
『大変なんだぞ?君が気絶で済むように、出力を調整するのは』
これも、手加減していたようだ。
首のないアイアンマンが、落ちていた頭を手に取り、くっ付けた。
一瞬で決着が付いた事に驚きつつ……僕は身体を引き摺って近付く。
「ス、スタークさん……」
『あぁ……ピーター、大丈夫か?』
「大丈夫、です……」
本当は、まだ身体も痺れているけど……。
「その、ごめんなさい……」
『……は?何を謝ってるんだ?オイオイ待て、僕は君のパワハラ上司じゃない筈だ』
中身は空っぽのアイアンマンに、乱暴に頭を撫でられた。
「でも……その、助けが無かったら、僕は」
『それは僕も同じだ、ピーター。君がいなかったら、僕の会社の従業員は死んでいた。明日には謝罪会見をしていたさ』
「だけど……」
『ピーター、謙虚は美徳だが……素直に褒められてると良い。だから、何だ?その──
少し、気恥ずかしそうな素振りを見せて。
『助かったよ、ピーター』
「あ……」
思わず、涙が出そうになった。
僕のやった事は、覚悟は……無駄じゃないと教えてくれたから。
『いや、よく持ち堪えてくれた。僕が……あぁいや、僕はまだ病院にいるけど……そう、僕のアーマーが来るまで。よく頑張ったな』
「……はい」
やっぱりこれ、遠隔操作なんだ。
僕は納得した。
聞いた事がある。
『スターク・インダストリー』の所有する人工衛星……そこを経由する事で、どんな場所からでもスーツを操作出来るって聞いた。
……誰からって?
スタークさん本人が自慢していた。
「あ、でも、急がないと……ここ以外にも、襲撃されてるって……」
『それは大丈夫だ、心配する必要はない』
「大丈夫……?」
『そうとも、僕の最も信頼している友達を連れて来たからね。所要時間5時間以上、僕と空の旅を同行した……生真面目なお人好しさ』
◇◆◇
私は宙を舞い、触手を壁に突き刺して移動する。
ミシェルを傷付けたドローンは、一体だけではない。
まだ街に複数体いる。
街を駆けながら、一体、また一体と破壊していく。
全部倒して……ミシェルを病院に連れていく。
……私はフューリーから戦う事を許可されていない。
まだ未熟だから、子供だから……責任が取れないから。
だけど。
ミシェルは私の前で震えていた。
怯えていた。
それなのに、私を助けようとしていた……。
だから、私は戦う事に決めた。
後で、きっとフューリーに怒られるけど……いや、怒られる程度で済めば良いぐらいだけど。
私は壁を蹴り、舞い上がる。
この姿……黒いスーツ姿は結合レベルを引き上げた姿だ。
身体能力が数倍に跳ね上がるが、リスクもある。
『シンビオート』と深く結合し過ぎると人格が引っ張られてしまう。
もし、その状態で暴走すれば……自力で戻る事は叶わない。
だから、『S.H.I.E.L.D.』から1時間のタイムリミットを設けられている。
1時間だけだ。
それ以上を過ぎれば、『エージェント・グウェノム』への射殺命令が出る。
だから、それだけは絶対に避けなければならない。
ドローンが子供を追いかけている所を目撃する。
私はアイススケートのように宙を回転して、回し蹴りを叩き込んだ。
よし、次は──
『そこまでだ』
声と共に、大きな何かが私に衝突した。
強烈な衝撃に、一瞬意識が飛びそうになり……何とか耐える。
木製のドアを壊し、私は店へ転がり込んだ。
店内に飾られていたグラスが落下し、砕け散った。
『グウェノム』が震えて、怒りを表している。
自然と唸り声が上がる。
即座に立ち上がって、元いた場所を見る。
……そこには、緑色のドローンとは見た目が異なる、赤いアーマーの姿があった。
体長は恐らく、2メートルを超えている。
そして、上半身の装甲が厚く、両腕も大きい。
逆三角形のシルエットをしている。
胸には青白く光る星形のリアクター。
……ドローンとは違う、明らかな強敵。
『……アンタが
私は訊きながら、ドアを蹴飛ばした。
宙を飛んだドアは、その赤いアーマーに弾かれてしまった。
『驚いたな、畜生の類いかと思ったが……まさか人間だったとは』
私は一歩ずつ、あの赤いアーマーへと近付く。
『そして、先程の質問にYESとは答えられないが……そうだな、部分的にはそうとも言えるな』
『馬鹿にしてんの……!?』
他人事のような言葉に、私の脳は沸騰寸前になる。
アドレナリンが分泌されて、シンビオートの活動が活発になっていく。
『……ブッ殺す』
舌から直接生えた牙が逆立ち、爪が鋭く鋭利になる。
今すぐ、コイツをバラバラに引き裂いてやる……!
肌がピリピリする。
『グウェノム』も興奮しているのが分かる。
……ママ、アイツ、嫌い?
えぇ、嫌いよ。
脳裏でグウェノムと会話する。
『私は『クリムゾン・ダイナモ』。名乗っておこう……黄泉の国への駄賃代わりだ。大義の為、恨んでくれるなよ?』
クリムゾン・ダイナモの両腕が金色に光る。
バチバリという空気を引き裂く音がして、放電し始める。
……当たったら死ぬかも知れない。
だけど、そんなのもう関係ない。
恐怖はない。
怒りと殺意が、脳を侵食する。
『何も知らない人を巻き込んで……傷付けて……そんな!お前が……!大義を語るな……!』
シンビオートはアドレナリンを……怒りを食らって強くなる。
私は今、怒っている。
今までの人生で、最も怒ってると言っていい。
『グウェノム』が私の怒りを食って、脈打つ。
力が溢れる。
私は、全能感に支配される。
私は一歩、踏み出そうとして──
視界の隅、空の上で……黒い飛行物体が見えた。
……その飛行物体は人型だ。
黒い、アーマー。
増援?
敵?
そのアーマーの肩部が開かれて、小さなペンのようなものがばら撒かれる。
それは小さな火を吐いて、空中で射出された。
……
空中から地上に降り注ぎ……私から離れた位置で爆発した。
……それは、ドローンが居た位置だ。
私が確認していた奴らの位置と、全く同じ場所だ。
『何だと……?』
クリムゾン・ダイナモが気付き、顔を空へ向けた。
その瞬間、黒いアーマースーツが急降下して、クリムゾン・ダイナモに接近した。
黒いアーマーは……アイアンマンのような容姿だった。
だけど、違うのは……肩にガトリングガンやミサイルポッドを装備し、腕にも銃火器を装備している事だ。
黒いアイアンマンは背部の取っ手を引き抜く。
それは警棒のような形状で……縦にスライドして内部が露出し、シャフトが伸びた。
警棒の内部から、黄色いスパークが漏れる。
空中から地上へ落下し、そのまま警棒をクリムゾン・ダイナモへ叩き付けた。
『ぬぅっ!?』
バリバリと音を立てて、装甲を焦がす。
慌てたクリムゾン・ダイナモがスパークさせた腕を振るい、引き剥がした。
警棒を投げ捨てて、黒いアイアンマンが後退する。
『邪魔をするか……『ウォーマシン』め!』
黒いアイアンマン……ウォーマシンと呼ばれたアーマーが、地面に着地した。
地面が揺れて、その重量を私は感じ取った。
そして……マスクから男性の声が聞こえた。
『私は空軍大佐のジェイムス・ルバート・ローズだ。……君たちは何者だ?そして──
両腕を上げて、銃火器を展開する。
銃身がスライドして、標的へと向いた。
『君達は私の、そして市民の敵か?ハッキリと明確に答えてくれたまえ……この
その両腕に装備された銃火器は……。
クリムゾン・ダイナモと……私にも向いていた。
◇◆◇
「お、これヤバいんじゃね?」
俺ちゃんは好物のチミチャンガを食べる。
高速道路の高架橋の端で、双眼鏡を覗き込んだ。
視線の先には……今回の
……そんで、振り返ればダッセェ、緑色のハマー製ロボットが転がってる。
双眼鏡を脇に挟んで、腕のスーツを捲る。
ドロドロに溶けてグチャグチャになった皮膚に……ハローな子猫ちゃんの女児向け腕時計が巻かれてる。
時間を見れば……。
「42分ね、まぁまぁな時間。配信ドラマシリーズの1話分ぐらいだな」
ハマーポンコツ超合金から刀を抜き取り、背中に差す。
首をボキボキと鳴らして、双眼鏡を投げ捨てる。
ガシャン!
って良い音がして砕け散る。
「うっし……あんま気が乗らないけど、俺ちゃんもそろそろ仕事の時間かな。そろそろ良い所見せないと怒られちゃうし」
高架橋を飛び降りて、走るトラックへと着地した。