【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#54 バースデイ・ソング part1

私……グウェン・ステイシーは目前で神妙そうな顔をしている……ミシェルを見ていた。

 

 

ここはミッドタウンにある喫茶店。

私とミシェル、そしてナード共もよく来る学生向けの店だ。

値段が少し安め、味はそこそこ。

コーヒーよりも紅茶が美味しい店。

 

 

先日……そう、夏期旅行で事件に巻き込まれた後、私達入院組は二週間の入院を余儀なくされた。

私は体の精密検査……ミシェルは傷の治療。

 

二週間。

長いと見るか、短いと見るか?

私は長いと感じた。

シンビオート……『グウェノム』との結合による身体への負担を調査する、裏ではそう言う名目で検査されていた。

『S.H.I.E.L.D.』が裏でコソコソと何かしていたのは事実だ。

 

……『S.H.I.E.L.D.』と言えば、勝手に結合レベルを上げた事をニック・フューリーに怒られた。

それはもう、ネチネチ、ネチネチと。

言ってることが正しいから反論出来る訳もなく、実際に私が悪いので……仕方はないが。

 

ただ、また同じような場面になったら、同じようにすると思う。

後で後悔はしたくない、とフューリーに言えば……呆れながらも頷き、今後のメンタル・トレーニングの量を増やされた。

 

結合を辞めさせられないなら、コントロールする能力を鍛えるしかないと言う判断だ。

……まぁ、言っても聞かないと思われているのは確かだ。

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

ミシェルの入院期間も二週間だったのは驚いた。

腹を撃たれて、あんなに血が出ていたのに。

医者曰く、撃たれどころが非常に良くて、重要な内臓に傷がなく……骨にもダメージが無かったのが早期の退院理由らしい。

 

傷痕も残らなかったし……私は安堵した。

私は首の下や、前頭部に傷が残っている。

……こんな想いは彼女にして欲しくなかったから、嬉しかった。

 

……ちなみに、グウェノムの存在がミシェルにバレた事は『S.H.I.E.L.D.』に言ってない。

言えば確実に巻き込まれるからだ。

 

彼女には平和な所で生きていて欲しい。

それだけが私の望みだ。

 

 

そうして私達は退院後、他のクラスメイト達とは遅れてニューヨークに戻って来たのだった。

 

気付けば八月になっていた。

夏季休暇も残り一ヶ月となっていた。

 

そんな中、夏期旅行後に初めてミシェルに呼び出されたのだ。

 

 

「グ、グウェン、話したい事があって……」

 

 

プラチナブロンドの綺麗な髪が光を反射させる。

おどおどとしながら、彼女が言葉を紡ぐ。

 

私は何か……大変な事にでも巻き込まれたのかと真剣に話を聞く事にした。

 

 

「信じられない話だけど……まだ確定してるとは言えないんだけど──

 

 

私は息を呑んだ。

 

 

「ピーターは私の事……好き、だと思う」

 

 

そして、ため息を吐いた。

 

……知ってる。

多分、彼と彼女に関わっている人間の殆どが知ってる。

 

思わず、声が漏れる。

 

 

「はぁ……心配して損した」

 

「グ、グウェン。私は本気……嘘は吐いてない……!」

 

 

信じて貰えてないと思ったのか、彼女が念を押してくる。

 

 

「はいはい、分かってるって。知ってる知ってる。ピーターがミシェルの事をLOVEな意味で好きなのは」

 

「……え?なんで?」

 

 

逆に何故、知られてないと思ってるのか。

ピーターがヘタレすぎるのか?

それとも、ミシェルが恋愛ごとに疎過ぎるのか?

 

両方確かだが、原因は多分、後者だ。

 

 

「寧ろ、何で気付いてなかったの……?」

 

「え、え……?」

 

 

困惑したような顔をするミシェルが面白くて、思わず笑ってしまった。

 

 

「……グウェン?」

 

 

笑った私を見て、ミシェルが頬を膨らませた。

私は慌てて弁明する。

 

 

「……ごめん、ごめん、バカにするつもりは無いんだって」

 

「なら、良いけど……」

 

 

渋々、と言った顔でミシェルが頷いた。

 

 

「それでぇ……?何で気付いたの?」

 

「えっと……これ」

 

 

ミシェルが服の下、胸元からネックレスを取り出した。

……白く変色してる、青いガラスのバラだ。

 

 

「……なにそれ?」

 

「ピーターがくれた」

 

「へぇ……あぁ、なるほどね」

 

 

私は夏期旅行中、ピーターがミシェルにプレゼントを贈る計画をしていたのを思い出した。

ナードにしては強気な作戦だったので、恐らく誰かの入れ知恵……と思っていたけど、案外馬鹿に出来ない物である。

 

彼女に好意を意識させたのであれば、100点満点の正解だろう。

 

色は少し変で、少し割れてるように見えるけど……ミシェルが満足そうに、そして大事そうにしているのを見て。

私は口出しするのは無粋だと感じて、口を噤んだ。

 

時にはお洒落よりも優先すべき事がある。

 

気を取り直して、私はミシェルへ声をかけた。

 

 

「で?ミシェルはどう思うの?」

 

「……ピーターのこと?」

 

「勿論。好きなの?嫌いなの?」

 

 

私は少し、意地悪な質問をする。

答えは一つしか出せない。

 

 

「す、好きだけど……」

 

 

嫌いとは言えないだろう。

友人として、かも知れないが……ミシェルはピーターに気を許している。

 

 

「なら良いじゃん。付き合えば?」

 

 

だから私は、気軽に……こんな質問をしてしまった。

 

 

「……それは無理」

 

 

……まさか、悩む素振りすら見せないなんて思わなかった。

当てが外れた私は、思わず首を傾げた。

 

 

「ピーターのこと、異性として見られないの?」

 

「…………そういう、話じゃなくて」

 

 

ミシェルが曇ったような顔で俯く。

……思わず、話を止めてしまいそうになるけど……興味が1割、彼女への心配が9割で話を続けてしまう。

 

 

「じゃあ、どうして?」

 

 

そう聞くと……ミシェルが俯いていた顔を上げて、口を開いた。

 

 

「私と……ピーターでは釣り合わない……から」

 

 

美人で綺麗で優しい、頭もいい彼女と。

頭は良いけど、ヘタレな彼は。

 

釣り合わない……なんて、ミシェルが言う筈がない。

 

ならばコレは、ミシェルの……自己評価が恐ろしく低いと言う事だろう。

 

 

「そんな事ないよ?」

 

 

だから私は否定する。

彼女は大切な友人だ。

それこそ、今まで出会った同性の中でも、一番と呼べる程に。

 

彼女は人を妬まない。

彼女は過剰に自信を持たない。

私を利用しない。

顔色を窺わない。

 

……それに、少し勝ち気過ぎる自覚がある私に、ずっと一緒にいてくれている。

 

彼女には幸せになって欲しい。

それが私の望みだ。

 

 

「違う。私はピーターや……グウェンが思ってるほど、良い人間じゃない」

 

 

……私は、どうすれば良いか分からない。

恋をすれば、この自己肯定感の低さを埋められるかと思ったけど。

 

まさか……前提として、好意を否定するとは思わなかった。

 

だから。

 

 

「…………あんまり、そう言う事は言わないで欲しいかな」

 

 

思わず、心の底からの思いが、口から溢れた。

 

すると、ミシェルが少し慌てた。

 

 

「う、あ、ごめん……その、えっと……」

 

 

ミシェルの顔からは、私に嫌われたかも知れないと怯える表情が読み取れた。

 

だから私は、席を立って……彼女の横に座った。

 

 

「え……?グウェン……?」

 

 

そして、思いっきり頭を撫でた。

 

 

「私はミシェルの事が好きだからね……大切に想ってるから。だから、もっと自信を持って欲しい。それだけ」

 

 

手を離すと、彼女は少し名残惜しそうな顔をしていた。

 

 

そのまま、向かいの席の紅茶……私が注文したものを手に取って引き寄せた。

 

あぁ、あとチョコレートも。

私はあまり好きじゃないけど……。

 

……グウェノムの物だ。

コッソリと隠れて食べさせている。

 

 

ボックス席なのに、隣に座ってる様子は変かも知れないけど……そんな人の目を気にするよりも優先すべき事が私にはある。

 

 

「もし自分を信じられなくても……ミシェルの事を大切だと想ってる私やピーター、ネッドの事を信じれば良いから。貴方を大切に想ってる人がいるって、覚えていて欲しい」

 

「…………グウェン、ありがとう」

 

 

少し。

ほんの少しだけど、先程よりは確実に良くなった笑顔に私は頷いた。

 

 

「どういたしまして」

 

 

そう言って、チョコレートを手に取る。

食べるフリをして、机の下に持っていけば……ばくり、とグウェノムが食べた。

 

 

ちょっと真面目過ぎる空気を変えたくて、私は話題を変える事にした。

これ以上話しても、彼女の自己肯定感が高まらない限りは無駄だと判断したからだ。

……ピーターには頑張って貰わないとね。

 

そう、ピーターの話だ。

 

 

「そう言えば……ピーターの誕生日って知ってる?」

 

「……知らない」

 

「そろそろ誕生日なんだよね、彼の」

 

 

ピーターの誕生日は8月の……10日だ。

去年はネッドとお祝いしていた。

 

今年は……ミシェルも一緒に来て欲しいと。

そう思っている。

 

そう伝えた。

 

 

「……分かった」

 

「あ、ミシェルの誕生日っていつ?……もしかして、もう終わっちゃってる?」

 

「私?私は……」

 

 

彼女は一瞬、思い出すような素振りをした。

……自分の誕生日を忘れるような事なんてあるのだろうか?

 

 

「私は、8月11日……翌日」

 

「へぇ、凄い偶然じゃない?お祝いしなくちゃ」

 

「お祝い……?」

 

 

誕生日を祝われる事に慣れてないような、そんな素振りを見せる。

 

私は彼女の中に、闇を見た。

家庭環境を知らないけれど……彼女の自信の無さは、そこから来ているかも知れないと思った。

 

話したがらないから、聞かないけれど……。

 

ミシェルだけの誕生日パーティーを開けば……彼女は気後れしてしまうかも知れない。

……私は策を考えた。

 

 

「それじゃあ、合同で誕生日パーティしよ?場所は……どうしよう?私の家か、ネッドの家だね、アパートに四人はちょっと狭いし」

 

 

一人が無理そうなら、ピーターと合同という形にすれば良い。

 

 

「……分かった。私も行く」

 

「ふふ、ミシェルも主役なんだから当然でしょ?予定が決まったら連絡するから、よろしくね?」

 

「うん、楽しみにしておく」

 

 

祝われるのが楽しみと言うよりは、一緒にいられるのが嬉しいと、そんな素振りだ。

 

……私は腕時計を見た。

 

 

「あ、まずっ……ちょっと、この後予定があるから、帰るね!明日、また何処かに遊びに行こ!」

 

「うん、今日はありがと」

 

「こちらこそ」

 

 

私は自身の分の代金……に、少し上乗せしてお金を残し、席を立った。

 

 

……ニック・フューリーから指示されている訓練の時間だ。

 

『S.H.I.E.L.D.』の支部へ向かうため、タクシーを停めた。

代金は勿論、『S.H.I.E.L.D.』の支払いだ。

 

私は車に揺られながら、今日会う予定の……感情のコントロールが得意だと言われている人の名前を思い出す。

 

 

ブルース・バナー。

 

 

どんな人、なのだろうか?

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

『あーかったりぃ』

 

「そう言うなよ、仕事だ。仕事」

 

 

俺はバイクから降りて、停める。

 

門の前にいる刑務官に手帳を見せて、身体検査を受ける。

 

 

『オイ!コイツ、ケツを触りやがったぞ!』

 

「あーはいはい、そうだな」

 

 

……思わず返事をしてしまったが、側から見れば俺は独り言を言っているようにしか見えない。

 

刑務官が訝しんだ……いや、違うな。

俺を頭がおかしい奴だと思ってる顔だ。

 

ため息を吐きながら、刑務所の中に入る。

 

 

『陰気臭ぇクズばかりだ!檻がないなら全員食っちまいてぇぐらいに!』

 

 

脳裏に響く声に、俺は呆れて話しかける。

 

 

「……頼む、少し静かにしてくれ、『ヴェノム』」

 

『あぁ!?何だってんだよ、エディ!オレに文句があるのか!?』

 

 

そりゃあ、もう。

沢山ある。

 

少し前にスパイダーマンを倒す為……変な奴らの仲間に入れられたのも怒ってるぐらいだ。

結局、人間火薬庫みたいな奴と戦って逃げ帰ったし……俺は得るものは無かったし。

 

 

俺は、エディ・ブロック。

デイリー・グローブ社で働く新聞記者だ。

……まぁ、専属の新聞記者と言うよりは、フリーのジャーナリストだけど。

主にデイリー・グローブに記事を売ってるだけだ。

 

そして。

 

 

『エディ見て見ろ!あの女!尻がデカ過ぎるぞ!』

 

 

脳裏ではしゃいでいる声……コイツは俺のイマジナリーフレンドではない。

 

コイツは『ヴェノム』……そう自称している。

『シンビオート』という異星生命体らしく……人に寄生して生きる寄生生物でもある。

 

俺とコイツが出会ったのは一年近く前。

ライフ財団とか言うゴシップのあり過ぎるヤバい会社に潜入して……まぁ、そこで会った訳だ。

 

 

そして。

 

 

「エディ・ブロックさん。囚人との直接のやり取りは禁止されています。会話だけに留めてください。そして……お気をつけ下さい」

 

「はいよ」

 

 

俺は刑務官の発言に頷いて、開け放たれたドアを潜る。

 

 

……広い広間のような部屋の中心に、ガラス張りの部屋が一つ。

 

プライバシーの一欠片も存在しないような部屋だが、俺は全く同情しない。

 

こうなって相応しいような奴が、中に収容されているからだ。

 

俺は、ソイツに声をかける。

 

 

「初めまして……クレタス・キャサディさん。少し、お話よろしいですか?」

 

 

ガラス張りの檻の中で……新聞を読んでいた男が振り返った。

 

頬骨の張った顔。

ギョロリとした目。

痩せた身体。

 

一目見た感想は『ヤバそう』これに尽きる。

 

 

『クレタス・キャサディ』は連続猟奇殺人犯だ。

数えきれない数の殺人で告訴されている。

恐らく、警察が発見出来ていないだけで、もっと多く殺しているだろう。

 

老若男女。

未来ある子供も。

年老いた老人も。

屈強な男も。

美しい女性も。

 

分け隔てなく、平等に殺した。

 

イカれたサイコパスだ。

 

実際、彼は以前まで『レイブンクロフト精神病院』に入院していた。

あそこは精神病院と言っているが……社会に出してはならない異常者を拘束する刑務所みたいな場所だ。

 

そこを脱走し……事件を起こした。

今はこのニューヨーク、ライカーズ刑務所に拘束されているが……いずれ、『レイブンクロフト精神病院』に戻る事となるだろう。

 

『レイブンクロフト精神病院』は一度入ったら二度と出られない……そして、外部との連絡も不可だ。

 

俺は『クレタス・キャサディ』に興味があるんじゃあない。

『レイブンクロフト精神病院』に興味がある。

 

中がどうなっているのか?

問題はあるのか?

そう言った事を聞こうと思って、ライカーズ島まで態々来た訳だが……。

 

既に少し、後悔している。

 

 

『初めまして、エディ・ブロック。すごく……会いたかったよ』

 

 

ガラス張りの部屋越しに、クレタス・キャサディは獰猛に笑った。

……あぁ、動物園の檻の中にいる肉食動物の方が、まだ大人しく感じる。

 

そう、思った。


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