【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#60 バースデイ・ソング part7

カチリ、カチリと時計の針が進む。

緊急で特番が組まれたニュースがテレビを流れる。

机に置かれた一切れのケーキが待つ相手は……もう、帰っては来ない。

 

……待ち人の、父が買ってくれたスマホに着信が入る。

 

私は慌てて手に取り、それに出る。

 

……父が実は死んでいなかったとか、そんな一縷の望みを捨てきれずに。

 

 

「…………」

 

『私だ』

 

 

フューリーの声だ。

私は苛立って口を開く。

 

 

「何の用?」

 

 

これが八つ当たりだと言う事は分かっている。

やらない方が良いと言う事も。

 

 

『まずは、お悔やみ申し上げる……君の父は善良で模範的な市民だった』

 

「……そう」

 

 

父が死んだ事は、認めたくはない。

だけど……それでも。

 

人は簡単に死んでしまうのだと、私はもう知っていた。

以前の私とは違う。

 

今の私はただの女子高校生じゃない。

 

 

『……気分はどうだ?』

 

「最悪よ。寧ろ……良いと思う?」

 

『それはそうだな……すまない』

 

 

素直に謝るフューリーに……私は珍しいと感じた。

 

 

「それで?要件は何?」

 

『君の今後についてだ。私は……いや、私が君の身元保証人になる。君が望むのであれば、その家はまだ君の物だ。良いか?』

 

「……本当にパパは死んでしまったの?」

 

『……そうだ。私が直接確認した訳ではないが、信頼するエージェントが確認した』

 

 

喉が乾く。

机の上にある清涼飲料水を口に含む。

 

甘い、甘い、砂糖の味が口に広がる。

 

 

「そう……そっか」

 

『…………一つだけ言っておきたい事がある』

 

「なに?」

 

『一人で何とかしようと思うのはやめろ』

 

 

私は息を呑んだ。

 

 

「……何でも、悟ったような事を言うのね」

 

『君はまだ子供だ』

 

「私には力があるのに」

 

『それでも、君は子供だ』

 

 

私はフューリーに苛立つ。

 

 

「子供、子供って……!」

 

『良いか?君はまだ責任を取れるような立場ではない。君がもし……その犯罪者に殺された場合、誰が責任を取る?』

 

「…………それは」

 

『それは大人だ。私だ、私なんだよ。責任を取りたくない訳じゃない。だが、大人として……君の無茶を許す事は出来ない』

 

 

私は……フューリーの言葉から、思いやりのような心を感じて苦笑した。

いや、違う。

きっと彼は私を利用しているだけだと、思い直す。

 

 

『良いか、グウェン・ステイシー。一人で犯人を捕らえようなど……ましてや、殺そうなどとは考えるな』

 

「殺そうなんて……そんな事、思ってない」

 

『だが、一人で捕らえようとする事に否定は出来ない。違うか?』

 

 

私は黙ってしまった。

図星だからだ。

 

 

「私はただ……この街にいる大切な誰かを。これ以上、傷付けられたくないだけ」

 

『その気持ちは分かる。だが、それはプロに任せておけ』

 

「貴方は?何故、貴方がそれをしないの?」

 

 

私は率直に質問を投げた。

 

 

『私は今、エジプトにいる。私が守らなければならないのはニューヨークだけではない。この世界、全てなんだ』

 

「そう、スケールの大きな話ね……私は──

 

『既にエージェントの要請はしている。だから、君の助力は必要ないんだ。分かるか?』

 

「……分かった」

 

 

渋々と私は同意した。

 

 

『……どうやら、分かってないようだ。また連絡をする』

 

「…………」

 

『ベビーシッターを雇っている。君のだ。少なくとも彼と共に行動を──

 

 

私は通話を切る。

 

机の上に置かれたスマホを見る。

 

徐に開いて、保存されている写真を開く。

 

 

ネッド。

 

ピーター。

 

ミシェル。

 

 

……みんな、みんな大切な私の友達。

 

父を殺した殺人犯、クレタス・キャサディは今、恐らくニューヨークに潜伏している。

 

…………もし。

 

万が一にも。

 

私の、友達が。

 

殺されてしまったら。

 

 

私はスマホをスリープモードにして、机に置く。

 

 

父を殺した犯人への強烈な怒りは、興奮物質(ドーパミン)へと変換される。

それは、シンビオートの好物だ。

 

私の怒りを喰らい、『グウェノム』は強くなる。

 

 

『ママ……悪い奴を殺したい?』

 

 

グウェノムに訊かれる。

私は答える。

 

 

「いいえ。私はただ捕まえたいだけ」

 

 

席を立ち上がる。

 

 

『どうして?悪い奴は死んじゃえば良いのに』

 

「私はパパの後を継ぎたいの。悪人を裁くのは法よ…………私はただ、捕まえるだけ」

 

 

ジャケットを羽織る。

 

 

『……わかんないや』

 

「まだ分からなくても良い。だけど……この怒りは、正しい行いを成す為にあるから。私達で、彼を捕まえるの」

 

『…………』

 

「だから、お願い。協力して?」

 

『……分かったよ、ママ』

 

「良い子ね」

 

 

ドアを開き、外へ出ようとして……。

 

父の作ったブランコの前に、見知らぬ男が立っていた。

 

 

「……誰?」

 

 

濃い黒緑色のライダースーツ。

深みのある緑色のプロテクター。

 

口を覆う大きなマスク。

真っ黒なゴーグル。

 

整えられた金髪。

 

 

……その髪型にだけ、覚えがあった。

 

 

「……ハリー?」

 

 

マスクを下げて、ゴーグルを外した。

確かに、ハリー・オズボーンだった。

 

 

「何?その格好」

 

「……これは、どうでも良い」

 

「どうでも良くないけど」

 

「今は君の話がしたい。何の為に外に出た?」

 

 

ハリーが真剣な表情で私に問い詰める。

私は察して、口を開いた。

 

 

「あぁ、そう。貴方、フューリーに頼まれた?私が外に出て無茶しないように。お守りを、監視を」

 

「僕はどうだって良い。君の話が訊きたいんだ」

 

「……私は、父を殺した犯人を捕まえたいだけ。これ以上、父や……私のような人間を生み出さない為にも」

 

「そうか」

 

 

ハリーが目を伏せた。

 

 

「邪魔、しないで」

 

 

私は身体をグウェノムで覆う。

だけど、戦いたくはない。

 

ハリーも友人だ。

友人を守る為に戦おうとしているのに……それを傷付けてしまうのは本末転倒だから。

 

少し、緊張していると、ハリーが溜息を吐いて首を振った。

 

 

「違う、グウェン。僕は君を止めようなんて思ってない……フューリーにだって、無条件に止めろとは言われてない」

 

『……何?』

 

 

私は困惑しながらも、グウェノムとの同化は止めない。

 

 

「フューリーは君が一人で行こうとするのを知っていて……そして、穏便には止められない事も分かってた。彼にも、そして僕にも」

 

『…………』

 

 

私は黙る。

 

フューリーが何でも知ってるような素振りを見せるのも……そして、実際に分かっているのもムカつく。

 

 

「だから、僕には……君を見極めて欲しいと頼まれたんだ」

 

『私を?』

 

「そうだ。君がもし……怒りで暴走しているのなら、無理矢理にでも止めろと言われていた」

 

 

ハリーが手に腰のポーチから注射器を出した。

あれは……シンビオートの力を抑制する濃縮されたビタミンCの鎮静剤。

 

それを、またポーチへ戻した。

 

私はグウェノムとの結合を解除する。

彼に私を止める意図は見えなかったからだ。

 

 

「だけど今の君は……違うとは思ったんだ。前の僕とは」

 

「前の、ハリー?」

 

 

言葉の意図が分からなくて、聞き直した。

 

 

「僕は以前、父を殺したと思っていた犯人を……殺そうと思って、法を破ろうとしていた。怒りをぶつけたかったんだ」

 

「……そう」

 

「だけど、君は違う。君は……ただ、犯人の蛮行を止めたいだけだ。誰かを守る為に……それには僕も共感できる。君は、凄いよ」

 

「そんな大それた話じゃないけど」

 

 

私を過剰に評価するハリーに呆れた声を出した。

 

 

「いいや、君は凄い人間だ。だから君は選ばれたんだ……フューリーに。シンビオートに」

 

 

私は……ただ黙る事しか出来なかった。

 

ハリーはマスクを口に戻して、ゴーグルを付け直した。

 

 

「僕が君を助ける。君の目的のためにも……一人より、二人の方が安全だろ?」

 

「……それってフューリーからの頼み?」

 

「意地悪を言わないでくれよ……確かにそうだけど、これは僕自身の望みでもあるんだ」

 

「……そう、ありがとう」

 

「感謝される程、僕は出来た人間じゃない」

 

 

ハリーが背部に背負っていた二つのボードを取り出し、合体させた。

それにはエンジンが内蔵されており、一つになったボードは宙に浮いていた。

 

 

私は意図を察して、グウェノムと結合する。

 

 

『私が結合出来るのは3時間よ』

 

 

訓練の成果から、『S.H.I.E.L.D.』に指定されている連続結合時間の制限は延長されている。

だけど、それでも。

 

3時間で何とかなる話、なのか?

 

 

「そうか、ならそれまでにケリを付けよう」

 

 

だけど、ハリーはその不安を拭い捨てるように言い切った。

 

そして、フライトボードに乗った。

 

 

「宛はあるのかい?」

 

『えぇ……グウェノムが、この街に潜む危険を感じ取ってる。幾つか、だけど。手当たり次第に見つけて潰す。それで良い?』

 

「あぁ、上等だよ。行こう、二人で」

 

『いいえ、三人よ。グウェノムも含めて三人』

 

 

私は手から触手を(ウェブ)のように伸ばして、

電灯を使って飛び上がる。

 

ハリーもフライトボードを使って、サーフィンのように空気に乗って飛翔した。

 

夜の街に二つの影が消えていった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

『久しぶりだね。一ヶ月ぶりだ』

 

「…………あぁ」

 

『……どうやら、元気がないようだ』

 

 

目の前にいるのは、紫色に発光する黒いマスクを被った男。

 

ティンカラーだ。

 

 

『いや、驚いたよ。休日に君から電話が掛かってくるんだから。急いで準備して待ってたんだよ?』

 

「そうか……それで、頼みのものは用意出来たか?」

 

『スーツかい?勿論さ。最新のスーツはまだ用意出来てないけど、もしもの時の為に……僕は色々用意してあるんだ』

 

「すまないな、ではそれを──

 

『でも、何に使うつもりだい?』

 

 

ティンカラーの言葉に息が詰まる。

この質問は想定していた。

 

だが、結局、言い訳は思いつかなかった。

 

 

「……私の友人が殺されるかも知れない。それを守りたいだけだ」

 

『なるほどね……』

 

 

ティンカラーが腕を組んで頷く。

マスクが紫色に妖しく光る。

 

 

『でも、それは君がやるべき事なのかい?表の世界の話だろ?』

 

「そうだ」

 

『僕は知ってるよ?君が……先月、腹を撃たれて入院した事も』

 

「それがどうかしたか?」

 

『入れ込み過ぎだよ、君は』

 

 

空気が重くなった。

普段の軽薄な姿は潜めている。

 

表情も声色も分からないが、それでも分かった。

彼は『何か』に怒っている。

 

 

「…………それは」

 

『病院でのカルテ、血液情報、DNAデータの改竄は組織が行った。君の痕跡を消す為にね。分かるかい?君が何かをすれば……組織(アンシリーコート)が付いて回るんだ』

 

 

私は黙った。

黙るしかなかった。

 

 

『このままじゃ、君……組織に対する忠誠心を疑われても仕方ないよ。そしたら君は死ぬ……それか、この街を去って実験台にでもなるとか?死ぬより辛い目に遭うだろうね』

 

「……それでも」

 

 

私は言葉を絞り出す。

 

 

「それでも、私は大切な者を守るためなら命なんて……立場だって、投げ捨てる。私はどうなっても良い」

 

 

私の命はどうなっても良い。

組織から処分されても、この街に居られなくなっても良い。

 

みんなを助けられるなら、私はそれで良い。

 

 

『どうでもいい?……君の事を大切に思ってる人達が悲しむよ』

 

「……それがどうかしたのか?お前には関係ない話だろう」

 

 

思わず、言葉が荒くなる。

 

ティンカラーには関係のない話だろう。

私の友人を語って欲しくはなかった。

 

それに時間は有限だ。

もし、こうして問答をしている間に……グウェンが、ピーターが、殺されてしまえば……私は後悔する。

 

 

『僕だって君が心配さ。だから、スーツは──

 

「お前は私の友でも、親でも、兄妹でもないだろう?」

 

 

自分でも驚くほど冷たい声が出た。

 

 

『あ……あぁ、そう、だね。僕は君の友達でも、家族でもない。そうだ……そうだね』

 

 

だから、マスク越しでも分かるほどショックを受けているティンカラーに罪悪感が湧いた。

 

今のは事実だが……失言だった。

 

 

「……すまない、ティンカラー。言い過ぎた」

 

『いや、良いんだ。僕が悪かったよ……そうだ、そうだったよ。悪いね』

 

 

要領を得ない返事に、私は胸を締め付けられるような痛みを感じた。

 

この気持ちは何だ?

別に親しい友人だと言う訳でもないのに……何故、こうも辛いのか。

 

私が理解不能な辛さを感じていると、ティンカラーが口を開いた。

 

 

『僕は君に、妹の影を求めていたんだ』

 

「……妹?」

 

『そう、妹だよ。君は……よく妹に似ている。君と妹は別人だって分かってるのに』

 

 

ティンカラーの独白に、私は眉を顰めた。

……彼が私に親切にしていたのは、そんな理由だったのかと。

 

彼のノスタルジーからだったのか、と。

 

それを軽蔑するつもりはない。

他人に重ねられて想われる事も否定しない。

 

私が抱いた感情は──

 

 

「優しいな」

 

『……何の話だい?』

 

「いや、優しい人だと思っただけだ」

 

 

彼の私を想う気持ちが、本来は誰かに向けられるべき物だったとしても……人を想う気持ちは本物だ。

 

だから、尚更、私には謝る必要があった。

 

 

「すまなかった、ティンカラー。だが、スーツは必要なんだ……頼む」

 

『……いや、良いさ。少し、待っていてくれ』

 

 

ティンカラーがタブレットを操作した。

カーゴに載せられた見覚えのあるスーツが姿を現した。

 

それは……。

 

 

「……以前の私のスーツか?」

 

 

壊れてしまった筈のアーマースーツだ。

だが、その姿は以前とは少し異なる。

 

色が真っ黒なのだ。

プロテクター部も全て黒い。

 

シンボルである赤いマスクも、黒く磨かれた黒曜石のような黒さだ。

 

 

『これはスペアパーツの寄せ集めだよ』

 

「スペア?」

 

『そうだ、ヴィブラニウムを損失した場合に換装出来るよう……特殊合金で作った劣化パーツ。その寄せ集めさ』

 

 

目の前にある黒いスーツは……私が普段着用していたスーツとは材質が異なると言う訳か。

ヴィブラニウム合金から特殊合金へ……かなりの劣化だ。

 

だが、ヴィブラニウムは貴重な資材だ。

以前の破損したスーツは現在製作途中の最新スーツに流用されているのだろう。

 

 

『入っているシステムは一緒だから、着心地は以前とは変わらない筈さ。ただ、材質が違うから防御力は格段に落ちるし……衝撃の吸収機能もないけどね』

 

 

自分の作った物を説明する時、彼は楽しそうに見える。

 

 

「……だが、これで十分だ。ありがとう、ティンカラー」

 

『素直に礼を言うなんてね……よっぽど、切羽詰まっていただろ。君』

 

「そうだ、私は焦っていたとも。しかし──

 

 

私は人型に立てられた黒いスペアスーツを見る。

 

 

「『レッドキャップ』ではないな……」

 

 

赤くはない。

真っ黒だ。

 

 

『まぁね。組織に隠れて行動したいなら、寧ろコッチの方が良いだろ?』

 

「それも、そうだ」

 

 

黒光りするフェイスパーツが私の顔を反射している。

 

 

「名前は?」

 

『え?』

 

「このスーツの名前だ。名前は重要だ……その姿の存在を指し示す導になる」

 

『あぁ、それなら──

 

 

ティンカラーが、真っ黒なスーツを一瞥した。

 

 

『『ナイトキャップ』ってのはどうだい?』

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