【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#61 バースデイ・ソング part8

ディ──

 

エ──

 

起き──

 

起きろ──

 

エディ!起きろ!!

 

 

『エディ!!!』

 

「うわっ!?」

 

 

飛び上がり、周りを見渡す。

 

ニューヨーク市内のアパートだ。

俺の家だ。

 

ソファの上で寝ていた俺は相棒へ文句を言う。

 

 

「はっ……何だよ!急に驚かすなよ!」

 

『今すぐテレビを付けろ!』

 

「あ……?ドラマは昼間に散々観ただろ」

 

 

ヴェノムはこう見えて、日中にやってるような恋愛ドラマが好きだ。

そんな事の為に起こしたのか……?

 

 

『違う!もう良い、オレがつける!リモコンを寄越せ!』

 

「ちょ、ま、まま待て!壊されたら困る!」

 

 

俺は慌ててリモコンを手に取り、テレビの電源をつける。

 

 

『──からの中継です。ライカーズ刑務所では現在でも混乱の状況から抜け出せていません』

 

 

一気に目が覚める。

俺はテレビに目が釘付けになる。

 

破壊されたコンクリートの壁。

ブルーシートに覆われた人型の起伏。

……死体だ。

 

……何があった?

 

俺はスクープの気配を感じて、テレビに──

 

 

『脱走した死刑囚、クレタス・キャサディの行方はまだ分かっていません。ニューヨーク市内に潜伏している可能性が非常に高く、不要な外出は控え──

 

「……何だって?」

 

 

この状況はクレタス・キャサディが作り出した?

どうやって?

奴には何のスーパーパワーもなかった筈だ。

 

もし持っていれば、そもそもライカーズ刑務所になど入っていないだろう。

 

 

「お、おい、ヴェノム!何だよ、これ!」

 

『奴は……恐らく、オレの血と結合した。普通はありえない話だ……!相性が良過ぎた!』

 

 

俺は記憶を遡る。

……確かに、奴に噛まれてしまった事がある。

 

それだけだ。

 

それだけで……?

 

 

「お、俺の所為か?」

 

『エディ、オレ達の所為だ』

 

「そんな、馬鹿な話が……」

 

 

俺は腰を抜かして、ソファに座り込む。

頭を抱える。

 

確かに俺はヴェノムと組んで、人を殺す事だってある。

だが、好き好んで善良な他人を殺したい訳じゃない。

 

悪人しか食わない。

俺とヴェノムの唯一の守っている約束だ。

 

テレビは一日三時間だってのも全然守らないし、家の外で話しかけるなってのも守らない。

だが、それだけは守っている。

自己中心的で暴力の塊のようなヴェノムが、だ。

 

だが、これは……。

 

 

『エディ、ウジウジするな!今するべき事をしろ!』

 

「い、今するべき事?」

 

『クレタス・キャサディを見つけて、ブチ殺す事だ!悩む事はない!これ以上、被害者を出さない為にもオレ達がケリをつける!』

 

 

俺はヴェノムの言葉に……頷いた。

 

こういう時、コイツの無神経さと言うか、単純さには救われる。

 

 

「……あぁ!そうだ、そうだな!」

 

『そうだ!オレ達は何だ?言ってみろ!』

 

 

ヴェノムの言葉に俺は頬を叩き、立ち上がる。

 

 

「俺達は──

 

『オレ達は──

 

 

一歩、歩き出し、コートを羽織る。

 

 

「ヴェノムだ」

 

残虐な庇護者(リーサルプロテクター)だ!』

 

 

足を踏み外し、玄関でこけた。

何とか手を靴箱にかけて、転倒防止できたが。

 

 

『エディ!?』

 

「何で、お前が驚いてるんだよ!お前はテレビに影響され過ぎだ!」

 

『だが格好良いだろうが!』

 

「何でこうも噛み合わないんだよ……あー、クソ」

 

 

アパートのドアを開いて、外に出る。

そのまま階段を登り、屋上へ出る。

 

 

 

ヴェノムとの結合レベルを上げて、身体を真っ黒なタール状の肉体で覆う。

 

その場に、筋骨隆々の黒いバケモノが現れた。

俺達(ヴェノム)だ。

 

 

「それで……奴の位置は分かるか?」

 

『当然だ!奴は元はと言えばオレの一部!そして、恐らく今も結合している筈だ……蜘蛛野郎から盗んだ超感覚で分かる!』

 

 

頭を上げて、周りを見渡す。

 

 

『………………あ?』

 

「おい、どうした?」

 

 

ヴェノムの困惑した声に、俺は問いかける。

 

 

『7だ……』

 

「7?何がだ……?」

 

『少なくとも7体、このニューヨーク市内に潜んでやがる!』

 

「だから、何が7体なんだ!?……まさか、じゃないが──

 

 

俺は最悪な事態を想定して、絶句する。

 

 

『そうだ!オレを親としたシンビオートのガキ共が7体いる!敵はクレタス・キャサディだけじゃない!』

 

「なっ……はぁ!?何でだよ!」

 

『オレが知るか!』

 

 

ヴェノムが不機嫌になって、腕を振るった。

煉瓦で作られた壁に穴が空く。

 

……あ、あぁ、ここ住んでるアパートなのに。

 

 

「ど、どうすりゃ良い?」

 

『エディ、決まってるだろ!』

 

 

頬に裂けるような感触が走る。

……鏡で見たら、凶暴な顔をしてるんだろうな、なんて思う。

 

 

 

そして、ヴェノムが口を開き────

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ニューヨークの片隅、ヘルズキッチン。

超高層ビル。

 

治安の悪いヘルズキッチンには似合わない、白亜の壁を持つ建造物。

 

それは権力と財力の象徴。

正しく、王の城だ。

 

磨き上げられた壁面からは、まるで高価な壺のような気品すら感じさせられる。

 

しかし、その白さとは裏腹に……そこには特大の邪悪が潜んでいる。

 

そして私は……その高層ビルの最上階に居た。

 

 

目前にはデスクに座るスキンヘッドの大男。

白いスーツを着こなし、杖を手に持つ。

空いた方の手でデスクを苛立ちながら、指で叩いていた。

 

 

「つまり……何か?『財団』は新たに生まれた寄生虫を確保するために、街へ戦力を放ったと?」

 

「はい。先程、財団に配置した内通者から連絡がありました」

 

 

額には血管が浮かんでいる。

相当、『キレて』いる。

 

だが、あくまで冷静に物事を考えている。

 

 

「ニューヨークに連続殺人鬼と、人喰いの化物が蔓延ると……そう言う事か?」

 

「はい。確認された寄生生命体(シンビオート)は五体……全て、ニューヨークに来ています」

 

 

ミシリ、とデスクが音を立てた。

 

 

 

「『財団』は私に許可なく……この街を実験場とするつもりか?……ジェームズ、お前はどう思う?」

 

「……えぇ、そうです。クレタス・キャサディに寄生している寄生生命体(シンビオート)を確保するつもりです。そして、副次的に『財団』が所持している寄生生命体(シンビオート)を用いた兵士の実証実験を行うつもりかと」

 

「なるほど……概ね、私と同じ考え、か……」

 

 

バキリ、とデスクが割れた。

強化プラスチックのデスクが、だ。

 

 

「ジェームズ、この街の王は誰だ……?気色の悪い寄生虫か?それとも、ちっぽけな医薬品会社か?」

 

「いいえ、違います。それは勿論、貴方です」

 

「そうだ!この街は私──

 

 

デスクが完全に破砕し、真っ二つに裂けた。

 

 

「ウィルソン・フィスクの物だ……!それを……私の、許可なく……街を汚した……!奴らは間違っている!愚か者どもだ!」

 

「えぇ、彼らは愚か者です」

 

 

私は同意し、頷く。

フィスク様……キングピンの癇癪を見るのは初めてではない。

それどころか、両の手で数える以上に私は見ている。

 

しかし、恐れる事はない。

彼はどんなに怒ろうとも理知的で……最悪のラインは越えない。

私のような『使える』部下を捨てる事はない。

 

 

「ジェームズ、今すぐに刺客を送り込め!そうだ、そうだな……『赤いの』を送り込め!確実に殺せ!」

 

「……申し訳ありません。『レッドキャップ』は現在、療養中です」

 

「何……?」

 

「彼の所属する組織曰く……前回、クエンティン・ベックの暗殺任務の際に、超人達と戦い、全治二ヶ月の治療が必要だとか」

 

 

フィスク様が顔を顰めながら、頷いた。

 

 

「仕方あるまい。忌々しい自警団どもが……ならば今、誰を動かせる?誰がいる?」

 

「でしたら……この男はどうでしょう?」

 

 

私は手に持っていたタブレットに、一人の男の情報を表示させ、フィスク様に見せる。

 

 

「……フン、良いだろう。報酬は言い値で構わん。交渉はお前に任せよう」

 

「ありがとうございます」

 

「奴らに思い知らせてやれ。この街を汚す者はどうなるのか、を」

 

 

フィスク様の言葉に私は頷く。

 

 

「はい、あの愚か者達に思い知らせてやりましょう」

 

「あぁ、そうだ……!この私に逆らう者は──

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

私は、この街を見下ろす。

 

人は誰も歩いてなど居ない。

 

……当たり前か。

刑務所を抜け出した連続殺人犯が、この街にいると知っているのだから。

 

命の惜しい者は、家で蹲り怯えている筈だ。

 

だが、きっと。

 

私の友人達は。

 

 

私は真っ黒なマスクの下で目を細めた。

 

 

ティンカラーの用意した真っ黒なスペアスーツ……『ナイトキャップ』は夜に溶け込んでいる。

 

この暗闇の中で、目視での視認は難しいだろう。

 

時間は23時を過ぎている。

闇がニューヨークを覆い尽くしていた。

 

まるで、邪悪そのものが覆い尽くしているように。

 

この世界には悪人(クズ)が多過ぎる。

 

利己的で私欲を満たす為ならば、殺人も厭わない犯罪者。

それは、私も含めて……だが。

 

脹脛からナイフを抜き取り確認する。

腰の裏のショットガンの動作を確認する。

マスクの機能を確認する。

各部のパーツの稼働を確認する。

 

……問題なし。

 

ティンカラーの腕前を疑う訳ではないが、たった一つの些細な誤差が死に直結する。

それが殺し合いだ。

 

ポツリ、ポツリと雨が降ってくる。

マスクが濡れて、顎から滴り落ちる。

 

雲が月すら隠し、街灯だけが街を照らしている。

 

ピーター、グウェン、ネッド……。

 

私の友人を脅かす悪人(クズ)どもは。

 

この、私が殺す。

 

 

『そうだ、奴等は────

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

『キャサディ……俺と同じ奴等が、この街に集まっている』

 

「君と……カーネイジと同じ?」

 

『そうだ……俺と同じシンビオート達だ』

 

 

私は肩をすくめた。

 

足元には真っ赤な血が流れている。

降ってきた雨が血を流し、下水へと降りていく。

 

首のない死体だ。

カーネイジが食い殺した後の死体だ。

 

……カーネイジはシンビオートという生き物だ。

彼等は人間の脳を主食とする。

だから、首から下には興味がないらしい。

 

 

「それは困ったね。私達の目的はエディ・ブロックを殺す事だろう?」

 

『あぁ、そうだ。俺は(ファーザー)を食い殺し……更なる力を得る』

 

「……そう、親殺しだ。君に罪悪感とかはないのか?」

 

 

私はカーネイジに問う。

 

 

『俺達はそう言う感情を持たない』

 

「……奇遇だね、私もだ」

 

 

私が最初に殺したのは祖母だった。

次に母の愛犬。

 

私は家族を殺す事に、罪悪感などは微塵も感じなかった。

 

そう言う意味では、カーネイジとは気が合う。

 

 

『だが、奴以外にもシンビオートが集まるのであれば、好都合だ。俺が強くなるために集まってくる餌のようなものだ』

 

「ふむ?だがしかし、勝てるのか?君は生まれたばかりだろう?」

 

『何も問題ない。俺達(シンビオート)は生きてきた時間で強さが測れる訳ではない。心配するべきは、やり過ぎてしまう事ぐらいだ』

 

 

カーネイジが笑い声を上げた。

 

 

『キャサディ、お前の殺意、悪意、害意、敵意……全てが俺達(シンビオート)の力になる。……(ファーザー)の宿主は臆病で人殺しすら控えてる。結合レベルも低いと見て良いだろう』

 

「なるほどね」

 

『キャサディ、お前の望む血と混乱の世界を俺が作り出してやる……それを邪魔する奴等は────

 

 

カーネイジの頬が裂けて、長い舌が露出する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「『『皆殺しだ』』」』

 

 

 

夜のニューヨークに、悪意と殺意が渦巻いていた。


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