【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#67 キル・ゼム・オール part6

僕は……目の前にある光景に……思考が一瞬、停止した。

 

ハリーの仲間の……シンビオートに寄生されたエージェント……その正体が、グウェン?

 

突如、目前に現れた僕の日常の友人。

その、姿。

 

なんで?

どうして?

 

でも、確かに考えてみれば……グリーンゴブリン……ノーマン・オズボーンにビルから落とされて……怪我をして、二度と歩けないと言われていたのに完治した理由。

それが、シンビオートならば……なるほど、納得出来る。

 

だけど、彼女が『S.H.I.E.L.D.』のエージェント?

平和維持組織の、テロリストや宇宙人なんかとも戦うエージェントだって?

 

……そんなのって、危ないじゃないか。

どうしてそんな、危ない事を……?

それにシンビオートだって危険だ。

 

ハリーは……ハリーは知っていたのか?

 

シンビオートとの結合が解けて、立てなくなっているグウェンをハリーが抱き抱えている。

 

間違いなく、知っていた。

絶対に知っていた。

 

何で教えてくれなかったんだ?

……知らなかったのは僕だけ、なのか?

 

いや、少なくともネッドは知らない筈だ。

ミシェルだって……。

 

でも知ってたからって、僕にどうにか出来る話じゃないんだろうけど。

そんな事が考えたい訳じゃない。

 

それでも、何で、分からない。

 

思考が錯綜する。

 

 

「スパイダーマン!」

 

 

ハリーが叫んだ。

 

そこで僕は我に返った。

 

ヴェノムがキャサディへと走って来ていた。

 

 

「く、そっ!」

 

 

意識を切り替える。

 

ハリーには聞きたい事が沢山ある。

グウェンにだって。

 

だけど、今の僕は親愛なる隣人(スパイダーマン)だ。

目の前に死にそうになっている人がいるなら、それが誰であっても助ける。

それが最優先だ。

 

ウェブシューターから(ウェブ)を放ち、ヴェノムの腕に貼り付けた。

 

そのまま、横に移動しながら引っ張る。

キャサディから引き剥がそうと──

 

 

『退きやがれ!』

 

 

ヴェノムがその腕で(ウェブ)を掴み、引っ張り返してくる。

 

 

「くっ!」

 

 

力は互角だ。

 

足を強く地面に突き立てる。

衝撃に石畳が割れて、跳ね上がる。

 

宙に浮いた石片を、足で蹴り飛ばした。

 

 

『あがっ!?』

 

 

ヴェノムの顔面に命中し、力が弱まる。

その隙に、もう片腕のウェブシューターのカートリッジを切り替える。

衝撃波(ショックウェーブ)だ。

 

 

「大人しく、してくれ!」

 

 

中指でトリガーを起動し、発射する。

 

衝撃波(ショックウェーブ)がシンビオートに効くのは、カーネイジの例から良く分かっている。

 

弱点を突かれてよろける。

ヴェノムに付いた(ウェブ)を足で踏みつけて、下向きに引っ張る。

 

腕を地面に引き寄せられたヴェノムは、そのまま転倒した。

 

 

『ぐ、あっ!?』

 

 

石材で出来た床に顔をぶつける。

砕けて地面に頭を擦り付けさせる。

 

拘束しようとウェブシューターを──

 

 

ダメだっ!

 

キャサディを狙ってるのはヴェノムだけじゃない!

 

 

僕はキャサディの前に滑り込み、蹴りを腕で防いだ。

黒い金属製のアーマーを纏った足……レッドキャップだ。

 

 

「くぅ……!」

 

 

骨が、軋む。

 

凡そ、普通の人間では有り得ないパワーで足が振り切られた。

衝撃を腕で防ぎ切れず、側頭部に足先がぶつかる。

ぐらり、と視界が揺れて転がされた。

 

即座に姿勢を立て直し、レッドキャップを見る。

 

だけど、彼の顔は僕じゃなくてキャサディを見ている。

 

僕は(ウェブ)を飛ばし、足に引っ掛ける。

 

 

『邪魔だ!』

 

 

足を後ろに振り、僕を引っ張る。

前に引き寄せられて僕は倒れる。

引き摺って、石床が捲れ上がる。

 

 

レッドキャップは両腕を失っている。

右腕はキャサディに切断されている。

左腕も……爆弾で燃えたのか動かす素振りもない。

 

明らかな重傷。

なのに、動きは衰えない。

 

 

「う、ぐっ!」

 

 

力を込めた所為で、キャサディに付けられた傷が痛む。

凄く、凄く痛い。

 

今すぐ家に帰って、寝たい。

横になって、休みたい。

 

思わず、そう考えてしまう程に痛い。

 

 

でも、絶対、確実にレッドキャップの方が痛むはずなんだ。

キャサディに対する殺意が何故、そんなにあるかは分からない。

 

これも彼が言っている『仕事』なんだろうか?

 

 

レッドキャップは(ウェブ)が切れず、更には僕に引っ張られてキャサディに近づけない。

その事に苛ついたのか、僕に向かって駆け出した。

 

僕は両足で地面を蹴り、彼に飛びかかる。

 

腰を両手で掴み、そのまま転がる。

 

 

『邪魔をするな!』

 

「それは、無理な相談かな!」

 

 

転がって、転がって……彼が下で、僕が上に跨る。

彼の両腕は使えない。

 

僕はウェブシューターを──

 

 

背中に、超感覚(スパイダーセンス)が危機を鳴らした。

 

咄嗟に背中へ迫って来ていた爪先を防ぐ。

仰向けのまま、レッドキャップが足を振り上げたんだ。

なんて身体の柔らかさだ。

 

足を防いだまま、僕は視界の先に居たヴェノムへ(ウェブ)を発射する。

立ちあがろうとしていたヴェノムの顔面に(ウェブ)が命中して顔を覆った。

 

これでもう少し、時間が稼げる筈だ。

 

ハリーはグウェンから離れられないだろう。

彼女は今、無防備だからだ。

 

実質的に一人でヴェノムとレッドキャップの相手をしなきゃならない。

厳しい戦いだ。

 

だけど、やるしかない。

 

 

「キャサディは、殺させない!」

 

『何故だ……何故、そこまでする』

 

 

下から……レッドキャップから声が聞こえた。

いつも通りの機械音声だ。

 

その声にどんな感情が乗っていたのか、それは分からない。

 

 

『奴は人殺しだ……死刑囚の脱獄犯だぞ?お前が捕まえて警察に突き出しても……いずれ死ぬだけの存在だ!守るべき価値があると思うのか?』

 

 

その言葉からは、心底、僕を不思議がる気持ちが伝わった。

 

 

「価値があるとか、ないとか……そんなの、僕が決める事じゃないんだ。彼は法律に裁かれるべきなんだ!僕や、君みたいな個人が裁いて良い訳がない!」

 

『……お前らしい解答だ、だが!』

 

 

直後、レッドキャップの左腕が動き僕の首を絞めた。

 

 

「ぐ、うぐっ!?」

 

 

何で……動かせない筈じゃなかっ──

 

 

『奴を生かしておけば、不幸になる人間はいるかもしれない……それだけで殺す意味がある』

 

 

首を絞めたまま僕を横に押し倒し、体勢が逆転する。

彼が上で、僕が下だ。

 

僕は視界の隅で、ハリーに抱えられているグウェンを一瞥した。

 

 

「ダメだ……キャサディ、を、恨んでる人だって、いる……」

 

 

グウェンは、キャサディに……カーネイジに父親であるジョージさんを殺された。

恨んでいる筈だ。

憎い筈だ。

 

 

『あぁ、そうだ、そうだろう?なら──

 

「だけど、彼女は……殺さないって選択肢を、選んだんだ……だから、僕、は……その決意を、守りたいん、だ」

 

『……な、ん』

 

 

その言葉に一瞬、レッドキャップの手が緩んだ。

僕はウェブシューターから壁に向かって(ウェブ)を放つ。

それを全力で引っ張り、壁を壊し、石を手元に引っ張った。

 

石の塊がレッドキャップの背中にぶつかり、よろける。

そのまま振り払って、立ち上がる。

 

 

レッドキャップも受身を取って、僕と視線がぶつかる。

 

何を考えてるか分からない……表情のないマネキンのような黒いマスクが、僕を見ていた。

 

そして、左腕を開いたり、閉じたりしている。

……やっぱり、本調子じゃないようだ。

 

使えないフリをしていたって訳じゃないだろう。

……このほんの少しの時間で動かせるようになったのだろうか?

 

僕は地面に手を置いて、姿勢を低く……足を曲げる。

 

いつでも飛び出して、戦えるように。

 

 

……その隙に、ヴェノムがキャサディへと迫っていた。

 

 

「まずっ──

 

 

咄嗟にそちらへ行こうとして──

 

 

レッドキャップに抑え込まれた。

地面に引き摺り倒される。

 

 

「ぐ、あっ!?」

 

『……お前はここで、私と見学だ』

 

 

腕を背中に回されて、膝で抑え込まれている。

無理に動かそうとしても、動かない。

 

ヴェノムがキャサディの頭を掴み、持ち上げる。

 

 

『よぉ、キャサディ……さっきは散々、俺達を痛ぶってくれたな?』

 

「ふ、ふふ……喰うなら、早く喰ったら良い……エディ……もう私に力はない、せめて君の身体の、一部に」

 

 

死が目前に迫っているのに平然と笑っているキャサディに、ヴェノムが眉を顰めた。

 

 

『気色悪ぃ……まぁ、そんなに死にてぇなら、安心しろ。今すぐ喰ってや──

 

 

突如、天井のガラスが割れた。

 

大きな音がして、一瞬、ヴェノムの動きが止まった。

 

 

僕は視界を上に向ける。

レッドキャップも釣られて、上を見た。

 

黒い人影が、ヴェノムの頭上に落ちてくる。

 

それは黒いライダースーツのようなコスチュームを着た赤髪の女性だ。

 

 

手に持ったスティックは帯電している。

それをヴェノムの頭に叩き込んだ。

 

直撃し、電撃が光った。

 

 

『ぐ、なん、だ!』

 

 

腕を振るい、女性を振り払う。

彼女は咄嗟にスティックを手放し、ヴェノムの顔を蹴り飛ばした。

 

 

『むぐっ!?』

 

 

その反動で宙を回転し、そのまま着地した。

 

 

「あんまり蹴り心地は良くないわね」

 

 

あれは……ブラックウィドウ、ナターシャさんだ。

何度かアベンジャーズ関係で一緒に戦った事がある。

凄腕のスパイで、凄く綺麗な──

 

 

「うっ」

 

 

レッドキャップの足が強く、僕の背中にのし掛かった。

 

 

『ブラックウィドウか』

 

 

レッドキャップがそう呟いた。

その声が聞こえたのか、ブラックウィドウがこっちを向いた。

 

 

「あら、久しぶり……見ない間に顔が黒くなったの?」

 

『そんな事はどうでも良い』

 

 

どうやら互いに面識があるようで会話が進む。

その隙に、何とか僕は拘束を振り解こうと身をよじろうとする。

 

 

「貴方は拘束するようにフューリーに言われているわ。抵抗しないなら痛くはしないけど?」

 

『フン、また前のようになりたいのなら──

 

 

好戦的な態度を取るレッドキャップを見て、ブラックウィドウが笑った。

 

 

「勘違いしないで欲しいけど……貴方と戦うのは私じゃないわ」

 

『……何を──

 

 

直後、僕の上に居たレッドキャップが吹っ飛ばされた。

 

大型車両にでも撥ねられたかのように宙を舞い、壁に激突した。

教会が揺れて、砕けた石と埃が舞う。

 

 

「え、なっ、何?」

 

 

僕は寝転がったまま、視線を吹っ飛ばした『何か』に向けた。

 

それは銀色の腕だ。

 

そして、その銀色の左腕を持った男が居た。

黒いジャケットは右腕も覆っているのに……左腕は肩から先がない。

チャックのような物が付いていて、取り外されているようだ。

 

露出したその銀色の腕から軋むような音が聞こえた。

 

誰、だろう?

僕の知らない人だけど……多分、仲間、かな?

 

 

石の瓦礫を蹴り退けて、レッドキャップが姿を現した。

 

……スーツは傷だらけになっているけど、立ち上がって歩いている。

致命傷にはならなかったようだ。

 

側にいたハーマンが側に走り寄った。

 

 

「お、オイ、大丈夫か?」

 

『問題ない……この、程度なら』

 

 

だけど、動きが何処かぎこちない。

それはそうだ、アレだけ吹っ飛ばされたんだ。

骨が折れていてもおかしくない筈だ。

 

そして、レッドキャップが口を開いた。

 

 

『しかし……ウィンター・ソルジャーが来るとは、な』

 

「ウィンター、ソルジャー?」

 

 

僕は地面に手を突いて、立ち上がりながら銀色の腕を持つ男を見る。

鼻から下を隠す黒いマスクを付けていて表情は判りづらいけど、鋭い目はレッドキャップを睨んでいる。

 

 

「その名前は捨てた……今の俺は、ただの『バッキー・バーンズ』だ」

 

 

ウィンター・ソルジャーと呼ばれた、バッキーが右腕……普通の人間の方の腕に持っていた銃器をレッドキャップへと向けた。

 

 

「投降しろ、レッドキャップ」

 

『……誰が、するものか』

 

 

レッドキャップが腰からナイフを取り出して、手に持つ。

ブラックウィドウの前にいたヴェノムが立ち上がる。

 

一触即発。

 

静かだけど、直ぐにでも争いが再開しそうな空気だ。

 

そんな静かな空気の中、バッキーが口を開いた。

 

 

「レッドキャップ……お前は昔の俺に似ている。悪いようにはしない、投降するんだ」

 

 

その言葉は全く意味が分からなかった。

……僕は、レッドキャップの正体も、その立ち位置も、何を目的にしているかも分からないからだ。

 

だけど、このバッキーは知っているようだ。

 

聞きたい。

そんな気持ちがあった。

 

どうして彼が僕を殺そうと考えているのか……殺そうとしている筈なのに、僕を無視して誰かを殺そうとするのか……何で、あの時……グウェンを、ハリーを助けてくれたのか、も。

 

僕は全く彼の事を知らないんだ。

だから……。

 

 

『私とお前が?……冗談はよせ、ウィンター・ソルジャー……私はお前のような人間ではない』

 

 

明確な拒否の言葉が聞こえた。

 

 

「なら、少し痛い目を見てもらう」

 

『それには慣れている……お前のような奴を殺すのもな』

 

 

直後、レッドキャップがナイフを投擲した。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

目の前にナイフが迫る。

 

俺はそれを左腕のサイバネティック・アームで弾き飛ばす。

 

 

飛ばして来たのは、ただのナイフだ。

恐らく剛性が高く、質量のある重い特殊合金製ナイフ。

 

だが、俺の左腕は純度の高いヴィブラニウム製の義手だ。

 

傷付く事もなく、衝撃が来る事もない。

 

 

『チッ!』

 

 

目の前で黒いマスクが……機械音声で舌打ちをした。

 

……コイツが、レッドキャップか。

キャプテンアメリカ(スティーブ・ロジャース)から聞いていた姿とは少し違うが……。

 

なるほど、この殺気と余裕の無さ、張り詰めた強迫観念に似た行動力……理解出来る。

 

……ティーンエイジャーの女が出して良い殺気じゃない。

特殊な措置を施された殺人兵……やはり、俺と同じだ。

 

 

俺も昔はそうだった。

 

体に超人血清を打たれ、洗脳され……『ウィンター・ソルジャー』として、『ヒドラ』のエージェントとして悪行を重ねていた。

『ヒドラ』に仇なす善人や兵士を殺して回った。

 

親友であるスティーブのお陰で洗脳は解けて……今はこうして『S.H.I.E.L.D.』のエージェントとして贖罪を行えている。

 

スティーブにも、ニック・フューリーにも、彼女は殺さず捕まえるようにと……そう言われている。

 

スティーブは善意からだろう。

フューリーは……分からない。

 

だが、彼の目的は世界平和だ。

被害者である彼女を害する事はない……と思いたい。

 

 

レッドキャップが弾き返されたナイフを蹴り上げ、左手に握り直した。

……彼女の右腕は肘から先が無い。

何かしらの戦闘があって、切断されてしまったようだ。

 

手負いの獣……だが、それが一番恐ろしい。

 

レッドキャップが踏み込み、俺へと接近してくる。

……速い。

 

全く予備動作が見えなかった。

なるほど、殺し合いの技術も習得しているようだ。

 

ナイフを逆手に持ち、俺へと振り下ろす。

俺は咄嗟に銃を捨て、右腕を彼女の手首とぶつけた。

 

 

『……ッ!』

 

 

振り下ろす手前、そこで衝撃を殺されたナイフは俺へと届かない。

 

だが……凄い力だ。

少しでも手を抜けば、振り下ろされ……俺の顔面へと突き立てられているだろう。

 

そして、彼女の攻撃を防いだのは右腕だ。

 

俺の左腕……つまり、サイバネティック・アームはフリーだ。

 

短く振り絞り、腰の回転から最小限の間合いで突き出す。

 

 

『ぐっ!』

 

 

鈍い音がして、レッドキャップの体が浮いた。

ボディブローのつもりだったが……自ら浮く事で衝撃を逃された。

 

逆手に持ったナイフの(バック)で、俺の腕を掴んだ。

 

足を振りかぶり、膝が俺の腹に──

 

 

サイバネティック・アームで、その膝を掴んだ。

そのまま力任せに弾き返す。

その勢いのまま、レッドキャップが距離を取った。

 

 

『チッ!』

 

 

超人血清による反射神経の強化の賜物。

だが、それだけではない。

 

人間の肉体は脳から命令され、微弱な電気によって動作が反映される。

だが俺の左腕、ヴィブラニウム製のサイバネティック・アームは人間の肉体よりも反映される速度が早い。

 

本当にほんの少しの差だ。

普通の人間なら知覚できない程の差。

だが、俺達のような超人兵士(スーパーソルジャー)なら……その差は大きい。

 

左手を強く握り締め、引き絞る。

いつ来ても迎撃出来るように。

 

 

だが、そんな俺の考えとは裏腹に、レッドキャップは動きを止めて俺を見た。

マスクの下では恐らく睨んでいるのだろう。

 

 

『解せない……何故、武器を捨てた』

 

 

……俺の足元にあるライフルの事か?

 

 

「これは対戦車用だからな……化物を相手にする為の武器だ。人間に撃つモノじゃない」

 

『……ふざけた事を言う』

 

 

俺の目的は彼女の捕縛だ。

殺す事じゃない。

 

あのアーマーが何製かは分からないが……サイバネティック・アームをぶつけた感触から、魔術由来でも、宇宙由来でもない普通の合金だと分かった。

確かに、強固な素材なのだろう。

 

だが……このライフルなら、恐らく貫通する。

もし命中すれば、当たり所が悪ければ即死だ。

 

こいつは使えない。

 

俺は足で蹴り、ライフルを壁に滑らせた。

 

 

……後ろで咳き込みながら、誰かが立ち上がった。

 

スパイダーマン、か?

アベンジャーズの奴らから聞いている。

ニューヨークを守っている国から認可を受けてないボランティアのヒーロー、だったか。

スタークが自分の弟子だとか何とか言っていたような気がする。

 

彼に彼女は……少し、荷が重いだろう。

力や強さの話じゃない。

 

殺意と、その狡猾さの話だ。

レッドキャップと少し手を合わせて分かった。

 

奴は人殺しのエキスパートだ。

ナイフは的確に俺の眉間へと振り下ろされていた。

少しの躊躇いもなく、油断もない。

 

淡々と任務を熟す人殺し……昔の俺と同じ、冷酷な殺し屋。

 

奴のような人間を相手にするのは、少し難しい。

殺し合いの練度が必要だ。

 

 

俺はスパイダーマンに対して背を向けながら、手で抑えるようにジェスチャーする。

 

手出しは不要だ。

それなら、ヴェノムと戦っているナターシャを助けるか……あそこで見ているだけの変な黄色い男を捕まえるか、それを優先して欲しい。

 

意図は伝わったようだ。

視界の隅で赤い残像が、ナターシャの方へ向かっていった。

 

レッドキャップへ向き直る。

彼女がナイフを構えた。

 

 

『……武器を捨てた事、後悔するなよ』

 

「武器ならある」

 

 

俺は腰の収納部からナイフを抜き出した。

 

人殺しの技術。

刃渡りの少し長いナイフ。

超人的な身体能力。

 

……本当に、鏡のような存在だ。

 

だけど、俺はスティーブに救われた。

そして、誰も彼女を救えなかった。

 

 

互いにナイフを構えたまま、少しずつ近付いて行く。

 

 

そして、間合いに入った瞬間。

 

 

ナイフが交差し、火花が散った。


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