【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#7 フレンドリー・ネイバーフッド part1

データをティンカラーへ提供し終わった私は、クイーンズ内の自宅とは別にある拠点へ帰って来た。

 

ただ、着ているスーツは前のボロいスーツだ。

 

測定データを渡した所で、そんな数時間でスーツのフィッティングは出来ないらしい。

そりゃそうか。

 

結局、新しいスーツは一週間後に渡される事となった。

 

……正直、ティンカラーとはそんなに会いたいと思っていないが。

鬱陶しいし。

どうにか手渡しにならず、受け取る方法はないか。

置き配で頼む。

 

下らない事を考えながら、スーツを脱ぎアタッシュケースに詰める。

 

……プロテクターが傷によって変形していて、上手く入らない。

 

私は舌打ちをしながら無理矢理詰め込み、部屋の隅に押し込んだ。

 

 

ここはクイーンズの自宅から5キロメートルほど離れた場所にある、スーツの保管や、任務の指示書が送付される別拠点だ。

 

前回、ヘルズキッチンで拠点を爆破された事を反省し、任務に使用する拠点と、生活用の拠点に切り分けられたのだ。

 

ここの拠点の地下から直接、ニューヨーク内の広大な地下通路に繋がっており、様々な路地裏、空き地、施設……珍しい所だと商業施設のトイレとかに繋がっている。

 

私は血清によって強化された超人的な記憶力によって、様々な入り口からこの拠点に来る事が出来る。

 

ちなみに、この拠点はビジネスビルの地下にある。

地上に繋がる階段はないし、地下通路以外からこの拠点へ来る事はできない。

拠点と地下通路を繋ぐ扉には生体認証が設定されており、私以外誰も入る事は出来ない。

 

……組織としても、前回の拠点爆破襲撃事件は重く受け止めているようで、このような至れり尽くせりと言った高セキュリティルームが私に貸し与えられる事となったのだ。

 

あぁ、拠点の上にあるビジネスビルは雇い主、ウィルソン・フィスクの管理するビルだ。

フィスクがそのビジネスビルに来る事はないが、ビルを貸し与えられている企業はフィスクの手下だ。

 

言うなら、私と同僚という訳だ。

別に暗殺者とかエージェントって訳ではないが。

 

拠点を後にし、自宅付近の偽装されたマンホールから地上に出る。

 

空を見てみれば、暗くなっていた。

街灯が灯りで照らしている。

 

晩御飯も食べていないので、たまたま近くにあった中華屋でテイクアウトする。

 

汁なしのヌードルを注文して、白い厚紙でできた箱に入れてもらう。

前世の海外ドラマとかでよく見た、あの白い箱だ。

 

後はデザート用にプラスチックの容器に入った杏仁豆腐を……二つ、買った。

一つでは満足できない気がしていたからだ。

 

……いや、私の体は超人だ。

新陳代謝も凄い。

カロリー消費も物凄い。

 

沢山食べても太らない。

だから食べたい物は、食べたい量食べる。

 

ビニール袋に白い厚紙で出来た箱と、杏仁豆腐の入ったカップを二つ持ち歩く。

 

その頃には空もすっかり暗くなっていた。

……クイーンズは決して治安が良いとは言えない。

いや、ヘルズキッチンよりは遥かにマシだが。

私は早足で自宅へと歩き始めた。

 

そして。

 

 

 

「なぁ、嬢ちゃん。こんな暗い所で一人歩いてたら危ないぜ?」

 

 

テンプレみたいなイベントに遭遇してしまった。

ジャージを着ているチンピラの様な男が三人。

……いや、違う。

チンピラではない、マフィアだ。

『ジャージマフィア』だ。

 

『ジャージマフィア』はニューヨーク全域にいる半グレ集団で……全員ジャージを着ている。

ジャージを着てるから、ジャージマフィア。

ふざけた集団だが、その危険性はただのヤンキー集団とは大違いだ。

 

集団で、計画的に、暴力的に行動する。

 

彼等はあまり統率された集団とは言い辛く、各々が独自の判断で動いている。

 

ウィルソン・フィスクも彼等を傘下に入れるつもりはないのか、完全に放置している状態だ。

 

 

私は手にもった今日の晩飯の心配をしつつ、後ずさる。

彼等は私が怯えているように見えるのだろうが、実際は揉め事で晩御飯を失う事に怯えているに過ぎない。

 

彼等は特殊能力を持っていない。

それどころか暗殺術とは無縁の、ゴロツキだ。

 

私が殺す気になれば……三人、合わせて30秒で殺せるだろう。

 

私は両手に持っていた荷物を左手に集め、右手を……。

 

待て。

 

人の気配が急速に迫っている事に気付いた。

 

誰だ?

 

空を切るような音がする。

 

 

「何だ嬢ちゃん、俺たちゃ悪い事はしねぇよ。むしろちょっと気持ち良くなっちま……」

 

 

ガツン、と衝撃が走り、ジャージ男が吹き飛ばされた。

 

 

「なっ」

 

 

直後、白い何かが目の前をよぎる。

それはもう一人の男の顔面に命中し、壁に拘束した。

 

 

「ふが、ふがが」

 

 

息はできる様だが、喋ることは難しい様だ。

 

 

そしてそれは、『蜘蛛の糸』だ。

 

 

「あ」

 

 

私は思わず、声を漏らした。

 

赤と青のスーツが視界に移る。

黒い蜘蛛のマークが胸に見える。

 

 

「てめぇっ」

 

 

残された一人が腰から拳銃を取り出す。

……やはり、彼等はただのチンピラではない。

武装しているマフィアなのだ。

 

だが。

 

私はほんの少しも心配などしていない。

 

だって。

 

 

「……スパイダーマン」

 

 

私の目の前に、憧れていたヒーローがいるから。

 

 

「死ねっ!!」

 

 

火薬が弾ける音がして、拳銃から弾丸が放たれた。

 

スパイダーマンはそれを避けて、蜘蛛の(ウェブ)を射出する。

(ウェブ)はどうやら、スパイダーマンの手首にある機械から放たれているらしい。

 

ウェブシューターだ。

 

新聞からは読み取れない、生で見るからこそ分かる細かい情報に、私は感動していた。

 

(ウェブ)で手首を拘束し、そのままスパイダーマンが引き寄せる。

 

男が引き摺られ、スパイダーマンの拳が顔面に命中した。

 

 

「ぐぶぁっ」

 

 

鼻血を出しながら、よろける。

 

持っていた拳銃を取りこぼし、そのまま壁にもたれかかる。

 

パシュン、とスパイダーマンが(ウェブ)を射出し、男を壁に拘束した。

 

 

三人のジャージマフィアが、ほんの少しの時間で拘束された。

 

それも、致命傷もなく。

 

……私も、殺すだけなら30秒で終わる。

だが、こうやって殆ど傷もなく、骨すらも折らず、素早く無力化する事が出来るだろうか?

 

いや、出来ないだろう。

 

スパイダーマンは手加減が上手い。

本気を出せばコンクリートの壁に穴を開ける事も容易いパンチが出せるが、先ほどのパンチは男の意識を奪う程度に抑えられていた。

まるで、蟻を指で摘むかのような力加減だ。

 

……これも、実際に出会わなければ知らなかった情報だ。

 

 

 

 

「やぁやぁ、お嬢さん。大丈夫だったかい?こんな夜道を一人で歩いちゃ……危な……あっ」

 

 

スパイダーマンが手を振りながら私に近付き、途中で固まった。

 

……あぁ、暗闇だったから私の姿がちゃんと見えてなかったのか、ピーター。

 

ようやく、助けたのが知り合いの女の子と気付いたようだ。

 

 

「ん、ゴホン。こんな夜道を一人で歩いてたら危ないぞ?」

 

 

努めて、声に威厳を醸し出すように低く喋り出した。

 

思わず笑いそうになるが、堪える。

 

と言うか、さっきまで完全に普段の声で喋っていたじゃないか。

 

手遅れだよ。

誤魔化せると思っているのか。

 

……まぁ、別に困らせたい訳じゃないし、誤魔化されたフリをしよう。

 

 

「わかった、気をつける」

 

「そうしてくれたまえ。ぼ、オレが警察に連絡しておいたから……後で警察が来てコイツらを逮捕するだろう。君はもう帰っていい」

 

 

何だかもう声のトーンも口調もメチャクチャなスパイダーマンを見て、笑いを抑えられなくなりそうだ。

 

いや、本当に演技というか本心を隠すのが下手くそだ。

マスク越しなのに慌てているのが手に取るように分かってしまう。

 

……まぁ、そう言う所も好きなのだが。

誠実で愚直な感じが良い。

 

 

とにかく。

 

 

「ありがとう、スパイダーマン」

 

 

礼をする。

 

例え、助けて貰わなくても問題なかったとしても。

そうやって誰かを助けようとする心が嬉しい。

 

……初めて、誰かに助けて貰ったかも知れないな。

この世界に生まれてから、誰かを殺し、一人で何もかもやって来たから。

 

思わず、ちょっと感動してしまった。

 

 

「……これ」

 

 

私はビニール袋から、杏仁豆腐を一つ取り出した。

 

それを見てスパイダーマンは首を傾げる。

 

 

「……お礼、助けてくれたから」

 

 

スパイダーマンは納得した様な素振りを見せつつ、手を伸ばしてくる。

 

 

「本当にありがとう、スパイダーマン」

 

 

そしてまた、私は礼を言った。

 

そうだ。

 

私はこの世界に、ヒーローのいる世界に生まれて……でも今まで地獄のような場所で生きてきて…………何度も、何度も、何度も、何度も、辛くて死のうと思う時があった。

 

それでも生きて来れたのは。

 

 

「あぁ、どういたしまして」

 

 

スパイダーマンがカップを受け取った。

 

 

……今まで、生きて来れたのは。

 

スパイダーマンが、憧れが、希望が、この世界に居るって知っていたからだ。

 

 

「あ、家まで送って行こうか?」

 

 

と、エスコートを提案される

 

 

「いい。家まで近いから」

 

 

それはスパイダーマン……ピーターも知っている。

それでも聞いたのは、スパイダーマンが知る筈のない情報だから疑われないために…………いや、違うな。

きっと、本心から心配しての提案なんだろう。

 

徒歩、10分もかからないほどの距離なのに。

 

 

「そ、そうか。気を付けて帰るんだぞ」

 

「うん、ありがとう」

 

 

手を振って離れて……後ろを振り返れば、手に持ったカップを見つめるスパイダーマンの姿があった。

 

……スマホのカメラで撮りたいけれど。

勝手に撮ったら悪いし。

 

うん。

 

また今度、ピーターではなくスパイダーマンとして会う機会があったら、ツーショットでもお願いしようかな。

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