【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
鏡を見る。
髪型……良し。
寝癖は……ワックスを取り出して髪型を整える。
服装も……多分、良し。
ジーパンに赤いYシャツ。
青いフード付きの上着。
……グウェンからOKを貰った服装だけど、正直よく分からない。
ファッションは難しい。
一応、昨日にも一回袖を通してみたけど……うーん、やっぱり分からない。
デートと言えば待ち合わせ。
と、言ってもミシェルはデートと認識してなさそうだけど。
多分、いつも通りネッドを含めて遊びに行く感覚と一緒だと思う。
とにかく、デート。
多分、これはデート。
男と女が二人っきりで遊べばデートだって誰かが言ってた。
……確か、ヒューマントーチだっけ?
直ぐに思い出せる……凄いムカつく顔をしてたのを思い出したから。
奴はヒーローチーム『ファンタスティック・フォー』の一員。
体から炎を出すスーパーパワーを持ってる。
それを利用して空を飛んだり出来る。
凄い陽キャで、僕を弄ってくる。
仲が良い……とはあんまり言えないけど、腐れ縁って奴だ。
ヒーロー仲間って感じかな。
……あと、メチャクチャモテる。
素顔を公開してるヒーローだからかな。
結構、イケメンだし……お金持ちだし……頼り甲斐もあるし。
僕とは真逆の存在だ。
兎にも角にも。
待ち合わせ……と言っても、僕とミシェルの部屋は隣同士だ。
待ち合わせの5分前にドアを開ければ……隣室のドアが開いた。
……うん、ミシェルだ。
いつも通り、傷一つ無い白い肌に……薄い金髪。
服装も……いや、今日はスカートを履いている。
学校には履いて来ないけど……それだけ、今日はオシャレをしようと考えてくれてるって……いや、自意識過剰かな。
ネッドも含めた三人の時だってスカートを履いてた気がする。
それはともかく。
「おはよう、ミシェル」
と言えば……いや、今はもう10時前。
「おはよう」と言うには少し遅いかも知れない。
失敗したかな、と思っていると、ミシェルが笑った。
「うん、おはよう。ピーター」
彼女の一挙一動に気を取られながら、僕達はアパートを出た。
土曜日だからか、人通りは少し多い。
人混みに混じらないよう、少しだけ遠回りして歩く。
ミシェルは僕より、少しだけ背が小さい。
歩幅を合わせて、映画館へ向かう。
……無言で歩くのも気不味いと思い、僕はミシェルへ話しかける。
「お昼はどうする?」
「……考えてなかった」
思わず内心でガッツポーズを出しそうになった。
僕は予め用意していたセリフを読み上げる。
「それなら、映画が終わったら一緒に食べに行かない?映画館の近くに、ランチの美味しい喫茶店があるんだ」
ちなみに、グウェン調べだ。
何でも、ハリーと行ったらしい。
……同じ組織で活動してるからか、プライベートでもそれなりに関わりがあるらしい。
「ん、わかった」
同意に内心でホッとする。
そのまま、会話を続ける。
「ミシェルは行きたい場所、ある?」
「行きたい、場所……?特には無いかな」
えっと、だったら……ど、どうしようかな?
昨日必死に考えたプランが幾つも頭で反芻して──
「ピーターが行きたい場所に着いて行く」
「……え?」
思ってもなかった言葉に、僕は思考がフリーズした。
「エスコート、して貰おうかな」
「え、エスコート……」
身体がガチガチに緊張する。
ど、どどど、どうしよう?
例えば……動物園とか?
いや、ミシェルってそもそも動物好きだったっけ?
遊園地?
昼から?
映画を見た後、疲れてないかな?
じゃあ……か、科学館?
尚更ダメだ!
僕の趣味が優先され過ぎている。
確かにミシェルは理系の成績も良かったけど……好きかどうかは別だ。
オタク臭いって思われそうで……。
いや、オタクなのはバレてるけど、えっと──
悩んでいるとミシェルが小さく笑った。
「ピーター?……そんなに気負わなくても、良いよ?」
「は、はは……」
変な笑いをしながら、ミシェルに視線を戻す。
……やっぱり、いつもより少し元気がない。
だけど、それでも僕を気遣っている。
そんな顔をさせたくて……僕は彼女を誘った訳じゃないんだ。
安心させたくて、僕は笑いながらミシェルへ話しかける。
「頑張ってエスコートするから、任せてよ」
頑張って……いや、頑張っては余計だったかな?
もっと余裕のある大人のような……いや、流石に無理があるな。
ミシェルの手を握って……手を引いて……なんて、僕には出来ないけれど。
僕はただ、彼女に心の底から笑って欲しかったんだ。
映画館の前で、上映中の作品を確認する。
……何の映画を観るかも決めずに来たのは初めてだ。
上映スケジュールぐらい調べてから来た方が良かったかも知れない。
上映してるのは……
思わず顔が蒼白になってしまった。
……一つぐらいはアクション映画とかヒューマンドラマとかあるかなって無意識に思ってたけど……すっごく間が悪かったらしい。
何が楽しくて好きな女の子と
……
ミシェルの方を見ると……あれ?
ボーッとした顔で上映リストを見てる。
見ているけど……目が動いていない。
心、此処にあらずって様子だ。
「え、えっと……ミシェル?」
「……ん?どうしたの、ピーター」
振り返って僕を見た。
……先程までの顔じゃなくて、いつも通りの仄かに笑った顔だ。
「今やってるのって
「……血が出るのは少し、苦手かも」
そう言われると、選択肢は一つしかなかった。
僕は意を決して、無料クーポン券を売り場で
……交換、してしまった。
な、なん、好きな女の子と
今更そんな事を言っても逃げる事は出来ない。
ポップコーンも買わず、飲み物だけを買った。
僕はソーダを……彼女はミルクティーを。
……やっぱり、凄い甘党だ。
シロップの追加がし放題だったからか、ちょっと入れ過ぎだってくらい入れている。
シアタールームは、席が二つごとに区切られていた。
ペアで見るための劇場なのかな?
……グウェンが、ここをオススメして来た理由が分かった気がした。
やがて、暗くなって……映画が始まった。
それは……正直に言うと、つまらない
普通の男と、普通の女が出会って……普通の日常の中で少しずつ仲が良くなっていく話。
大きなトラブルも起こらないし、話の中盤で恋人になって……それ以降、ずっと仲良くデートなんかしてる。
……好きな女の子とデートしてる最中に、何で他人のデートを見なきゃいけないのだろうか?
そう言えば、観客も少なかったな……席も沢山空いていたし。
これはちょっと、失敗だったかも知れない。
結局、何の山場もなく終わって……退屈で寝てしまいそうになりながらも、何とか耐えた。
エンドクレジットが流れて、劇場が明るくなる。
……僕はミシェルの方へ視線を向けて──
彼女は、泣いていた。
一瞬、僕は息を呑んだ。
泣きたくて泣いてるような様子じゃない。
必死に目を拭って、僕から顔を逸らしている。
この映画に、そんな悲しい場面があったのだろうか?
ただ、普通の男女が……普通の恋愛をしていただけだ。
ごく普通の恋愛模様を描いた、日常的な映画だった。
何で、泣いてるのか……僕は分からなくて。
声を……掛けられな──
いや、ダメだ。
僕はミシェルの肩を軽く叩いた。
傷付けないように、そっと。
彼女は、僅かに肩を震わせた。
「大丈夫?ミシェル」
……違う。
大丈夫な訳ないんだ。
何でそんなに泣いてるか、聞かなきゃ。
目を擦りながら、ミシェルが僕を見た。
……濡れた瞳が宝石のように輝いていた。
「……ごめん、ピーター。すぐ、泣き止む……から」
声を震わせながら、そう話した。
申し訳なさそうにしているけど……僕は、少しも迷惑だなんて思ってはいない。
映画を見ていた周りの客は、もう劇場から出ていた。
僕と彼女だけが、ここに居る。
「……何で、泣いてるの?」
聞いてしまった。
ミシェルが、僕を見た。
「……わからない」
……多分、これはきっと嘘だ。
彼女には分かっている。
だけど、僕には言いたくないらしい。
頼りない、からかな。
それとも、恥ずかしいから。
無理に聞いたら悪いかな、なんて理由を付けて僕は言葉を飲み込んだ。
……僕はミシェルの手を握った。
少し、温かい。
黙って、ただ握った。
どうしたら良いか分からなくて、僕には……。
「……ピーター?」
「……あっ」
彼女は困惑したような顔をしていた。
……そして、僕も手の感触で現実に戻って来た。
まま、や、うわっ!?
柔らかい……じゃなくて、何してるんだ、僕は!?
僕は慌てて手を離した。
「ご、ごめん。その、えっと……ごめん」
「……変なの」
そう言ってミシェルが笑った。
目には、もう涙はなかった。
……だけど、それでも。
僕はまだ、彼女が心配だった。
もしかしたら、病気で熱っぽくなって、涙脆くなってるのかも知れないし。
大事を取って、家に帰るべきだろうか?
「あの、ミシェル?辛いんだったら……その、今日は一旦、家に帰る?」
そう、提案した。
きっとグウェンには怒られてしまうけど。
そんな事よりも、ミシェルに無理をさせたくなくて……。
思わず、逃げてしまった。
僕が彼女を元気付けなきゃならないのに。
……さっきの言葉を撤回しようと口を開こうとして──
「ピーター」
「う、うん?」
ミシェルが先に口を開いた。
「もう少しだけ……一緒に居てほしい」
そう言って、今度は彼女から手を握って来た。
「もう、少しだけで良いから」
……今日は、僕がエスコートするんだ。
僕は、彼女の手を握り返した。
「もちろん……ミシェルの気が済むまで一緒にいるよ」
手を握る事にも、握られる事にも、もう恥ずかしくはなかった。
そもそも、何が恥ずかしかったんだろう。
好きな女の子と手を結ぶ事は……嬉しかったとしても、忌避するような事じゃない。
それにミシェルが元気になってくれるなら、彼女が楽しいと思ってくれるなら……僕に出来る事だったら何だってする。
ミシェルの目と、僕の目が合う。
顔は背けない。
照れたりなんかしない。
「お昼ご飯、一緒に食べようよ。……朝に言ってた、美味しい所を知ってるから」
「…………うん」
「その後も……行きたい場所を探して、一緒に行こうよ」
「……うん」
「今日だけじゃなくても良いから……明日でも、来週でも」
「うん」
握った手を。
握られた手を。
……振り解かないように気を付けながら……僕達は映画館を後にした。
手の中にある温もりを、何があっても守りたいと……そう、思った。
「ありがとう、ピーター」
感謝の言葉が、僕の後ろから微かに聞こえた。
◇◆◇
『彼女は壊れている』
「あ……?」
ティンカラーが突然話した言葉に、オレは首を傾げた。
「何処がだよ」
『それは勿論、心さ……身体は
かちゃり、かちゃりと機械を弄りながら、ティンカラーは答えた。
二日連続でコイツと会うのは……正直、気が滅入りそうだったけど、オレの新しいスーツを作るって言うんだから、科学者の端くれとしては気になっちまったんだ。
だから、態々、暗くて長い地下通路を通って、コイツのラボまで来た。
……んで、分かったのは。
コイツは正真正銘の天才だと言う事だ。
音とか衝撃波とか、その辺の知識なら負けてねぇ自信はあるが……コイツはそれに加えて、機械工学のスペシャリストだ。
広く浅く……じゃねぇ、広く深い知識を持っている。
下手すれば、コイツのジジイよりも頭が良いのかも知れねぇ。
……まぁ、コミュニケーション能力が終わってるが。
喋れねぇのとは違う。
一々、気に触るような事を言いやがる。
「……マジで言ってんのか?」
『あぁ、『マジ』だよ。僕は君の事を信頼してるからね。彼女の事に関しては嘘を吐く気はないよ』
電子機器のケーブルを接続しながら、オレの方すら見ずに答えた。
……コイツの事は詳しくは知らない。
だが、レッドキャップのスーツを作ってるって事からも、それなりに親しいのだとオレは感じていた。
よくこんな奴と仲良く出来るな。
オレは顎の髭を撫でて、アイツの事を思い出す。
「……アイツ、仕事の外で人を殺そうとしてたぞ」
『そう、だからだよ。普通の人間に人は殺せない。少し、頭のネジが外れない限りはね』
やっと、ティンカラーがオレの方を見た。
真っ黒なマスクの中から、紫色の光が漏れている。
表情も声も分からない。
「それなら、フィスクの下にいる奴は全員、頭がおかしいだろうが。オレだって……人を殺した事はある」
『ネジの外れ方にも色々あるんだよ。彼女のネジはね……まだ完全に外れては居ない。だけど、歪んでしまっている』
ティンカラーがスパナでネジを叩いた。
ネジは傷付いて、変形してしまった。
そのまま廃材のネジ穴にあてがって、無理矢理しめた。
『こうやって歪んでしまえば……奥に戻す事も、外す事も出来ない。
「…………」
『それが一番、辛いんだよ』
「……知ったような口を聞くんだな」
『知ってるからね』
廃材をシュレッダーに投げ込むと、金属のネジごと粉々になった。
『所謂、PTSD……心的外傷後ストレス障害って奴だね。辛い記憶、怖い思い出、それらがずっと心に残り続ける。ふとした瞬間に、それが心に蘇り……蝕む』
「……トラウマって奴か」
『彼女は『超人血清』によって、記憶力が
オレは歯を噛み締める。
……この仕事をやってりゃ、そりゃ狂う奴だって出てくる。
悪人なんて多少なりとも誰だって狂っている。
オレだって、多分、きっと、どこかがおかしいんだ。
自分では気付かないだけで。
「つうか……何で、そんな事をオレに言うんだよ。アイツとはただの同僚だぞ」
『そうかもね。でも、君だって彼女は大切だろ?』
思わず黙った。
そりゃあオレだって……アイツには辛い思いなんてして貰いたくはねぇよ。
助けて、助けられて、助けて、助けられて……そうやって、何度も互いを支えた。
この短い期間の間でも……オレは、そう、妹がいた頃の優しさ、なんて柄にもないモンを思い出させてくれた。
オレだって、アイツを守りたい。
そう思っていると、ティンカラーが口を開いた。
『だからね……君に、一つだけお願いがあるんだよ』
「なんだよ」
オレは眉を顰めた。
コイツの勿体ぶった言い方をする癖は、本当に嫌いだ。
そこさえ直せば……いや、それ以外にもムカつくポイント結構あるな。
無理か。
『彼女より先に死なないでくれ』
「はぁ……?」
『次に親しい人間が死んだら……どうなるか分からない。危うい薄氷の上に、彼女の心はあるんだ』
「……チッ、まぁ言われてなくても。オレは死ぬ気なんてねぇよ」
そう言うと、ティンカラーが笑った。
機械音声だが……まぁ、心の底から嬉しそうな声だった。
ふと湧いた疑問を、コイツに投げ付ける。
「なぁ。お前は何で、そんなにアイツを気に掛けてるんだ?」
『……何でだと思う?』
逆にティンカラーが聞き返してくる。
聞いて欲しくないって感じだな。
……まぁ、オレはそんな事、気にしないが。
「そうだなぁ……もしかして──
オレは一つ、思い付いた説を口に出す。
「お前が、アイツの兄貴だから……とか?」
一瞬、静かになった。
ティンカラーが手を止めたからだ。
研究室の中で、ファンが回転する音だけが響いた。
『フフ、そんな訳……ある筈がないよ』
「だ、だよなぁ」
笑ったような声で返事をした。
だが……ティンカラーが金属のパーツを強く握っていた事はよく分かった。
変形しちまっている。
だがそれは……不安だからってよりも、怒ってるんだと感じた。
何に怒ってるんだ?
訝しんでいると、ティンカラーが口を開いた。
『僕はね、目の前で妹を殺されたんだ』
「……おっと、そりゃ悪い事言っちまったな」
『別に良いさ、知らないのなら仕方ない』
ティンカラーが、作業を再開する。
静かな工房で、また金属が擦れ合う音だけが響く。
……触れて欲しくなさそうな話題だが、それでもオレは聞いた。
「……誰に殺されたんだ?」
『…………君、無神経だって言われない?』
「まぁな。だが、アンタ程じゃねぇよ」
『僕かい?』
「気になるような言葉を投げ付けて、自分だけ満足して黙るのは良くないぜ」
『…………む』
オレの言葉に、ティンカラーが黙った。
マスクの下で、どんな顔をしてるか少し気になった。
だが、どんだけ注視しても……紫色の光しか見えない。
ティンカラーがため息を吐いた。
機械のノイズとして出力されたが、それがため息だとはオレでも分かった。
『そう、僕の妹を殺したのはね』
ティンカラーが手に持っていた金属を机に置いて、椅子に座った。
オレの顔に、目を向けている。
……片手間じゃなくて、ちゃんと話したいって心の表れだろうか。
『『魔術師』だよ』
「……はぁ?魔術師?」
『『魔術師』さ。オカルトなんて不確かな物を信じてる馬鹿共……僕が一番嫌いな人種だよ』
ティンカラーがマスクに手を当てる。
……その手は震えていた。
きっと、マスクの下は怒りで表情を歪めているのだと感じた。
『あの時の光景は今でも鮮明に覚えてる……自分の名前を教えたんだ。妹を殺す直前、この僕に。奴は自分の事を──
ティンカラーが、オレの方を見た。
『『エンシェント・ワン』……そう名乗っていたね』
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