【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話 作:WhatSoon
部屋に入れば、パワーブローカーが私達に悪態を吐いた。
「遅いぞ」
「仕方あるまい。相手はミュータントだった」
「……なに?」
タスクマスターの返答に、パワーブローカーが興味深そうに身を乗り出した。
……私はこそこそと部屋の隅に移動して、アタッシュケースを取り出す。
ケースを開けると、中には細かなパーツが収納されている。
……ティンカラーが念には念をと、マスク等の重要なパーツは予備を用意してくれていたが……まさかこんなに早く使う羽目になるとは。
予備のスーツはアダマンチウムもヴィブラニウムも使われていない。
特殊合金製で、本来のスーツより劣る。
……マスクの破損部分を分解し、予備のマスクのパーツと差し替えるか。
破損していたのは合成金属の部分だし。
と言うか、アダマンチウムやヴィブラニウム部分は、余程の事がない限りは損傷しない。
全てを取り替えるより、破損部のみを交換した方が良いだろう。
少し、手間だが。
視界の隅でパワーブローカーがタスクマスターに詰めて居た。
「ミュータント……どんな奴だ?」
「ふむ、ローラ・キニーと名乗っていたな」
ヘッドパーツの固定具を外し、マスクを脱ぐ。
……顔にへばりついていた自分の血が剥がれて、ヒリヒリする。
皮膚が少し剥がれたな。
まぁ、どうせ
汚れは取れない。
……先に顔を洗うか。
「ローラだと?」
直ぐ後ろに居た着物姿の……ケンイチロウが反応し、立ち上がった。
急に立たないで欲しい。
驚いて壊れたパーツを落としそうになった。
……と言うか、かなり身長が高いな。
2メートル近くある。
一般的に人間は大きければ大きいほど強い。
重量差、そしてリーチの差は強さに直結するからだ。
タスクマスターがケンイチロウを見た。
「知っているのか?」
「うむ、
「……誰だ?」
チャキリ、と金属が擦れる音がした。
手に持った刀を強く握った音か。
鞘も、柄も、全てが銀色の不思議な刀だ。
ケンイチロウは不敵に笑っていた。
「ウルヴァリンだ。ローラは、そのクローン……そして、義理の娘でもある」
「ウルヴァリン……?誰だ?」
タスクマスターは分かっていなさそうだ。
……まぁ、彼は記憶をよく失っている。
仕方のない話だろう。
パワーブローカーがタスクマスターに話しかける。
「それで?そのローラとやらは、どうした?」
「拘束して、私の知人に任せている」
「……殺せと言った筈だが?」
「単独の行動ではあるまい……情報を抜くべく尋問すべきだ」
「……ふむ」
パワーブローカーは訝しみながらも、興味を失ったように目を逸らした。
……私が提案したのだと知られると、少し困る。
タスクマスターが黙っていてくれたのは、かなり助かる話だ。
私はアタッシュケースから取り出したマスクを手に持ち──
「レッドキャップ、君も来い。今から仕事の話をする」
そう、パワーブローカーに言われた。
マスクの換装には時間がかかる。
今から装着しようにも、壊れたマスクは分解中だ。
……アタッシュケースの上にマスクを置き、そちらに寄る。
あまり、素顔は見せたくないのだが。
……ケンイチロウに一瞥される。
一瞬、興味深そうな目をしていたのは私が女だからか。
タスクマスターは……腕を組んでパワーブローカーを見ている。
全く興味は無いようだ。
それはそれでムカつくな。
パワーブローカーが上機嫌そうに口を開いた。
「素顔を見るのは初めてだが……いやはや、私の作った『超人血清』には美容効果でもあったのかね?」
「…………」
うざい。
容姿を褒められても嬉しい人間と、嬉しくない人間がいる。
コイツは後者だ。
「その顔なら『殺し』以外にも使い道が──
「パワーブローカー、話を進めてくれ」
タスクマスターが話を遮った。
……それは彼なりの優しさ──
ではないな。
普通に話が脱線してイライラしてるだけだ、コレは。
「……取引予定の施設が襲撃された」
「詳細は?」
タスクマスターが間髪を容れずに質問する。
その態度にイラついたようでパワーブローカーが睨んだ。
「……今から話す。焦るな」
パワーブローカーが腕に装着されている端末を弄ると、壁に埋め込まれたモニターに資料が表示される。
……監視カメラの映像だ。
「私がよく利用しているバーだ。今日の夜に、ここで取引予定だったのだが──
写っているのはオーナーらしき女。
それを囲むスーツ姿の護衛。
スーツ姿でサングラスを掛けた黒人の男。
そして……左腕にサイバネティック・アームを持つ男。
「……ウィンター・ソルジャー?」
思わず声が漏れた。
それに対して、パワーブローカーが私を一瞥した。
「そう、ウィンター・ソルジャーだ」
映像が進む。
オーナーの女が何やら叫び、黒人の男を指差した。
直後、女の護衛が武器を構え──
その瞬間、ウィンターソルジャーが飛び出し、護衛達を打ちのめした。
黒人の男も護衛から武器を奪い、戦っていた。
……コイツも只者ではない。
誰だ?
「彼はサム・ウィルソン……通称は『ファルコン』だ」
私は顎に手を置く。
……ファルコン、か。
奴もウィンターソルジャーと同じく、『アベンジャーズ』だ。
ジェットパック、そして機械の羽を装備し、空中戦を得意とするヒーローだ。
本人自体は熟練の軍人……つまり、超人ではないが……かなり小回りの利く奴だ。
飛行能力を活かしたサポート。
ヒットアンドアウェイを得意とする戦闘テクニック。
ハイテクドローン『レッドウィング』を活かした波状攻撃。
……厄介な敵だ。
勝てるかは分からない。
少なくとも飛ばれれば追いかける事も出来ない。
それに、ウィンターソルジャーに関しては……惨敗している。
スーツを新調したと言えども、埋まる差ではない。
……厳しい。
だが、それを口にする事は出来ない。
パワーブローカーが好戦的な態度を取っているからだ。
それに、タスクマスターならば……と言う考えもある。
あの、ケンイチロウと言う男も、一方的に負けるような事はないだろう。
……いや、戦っている所を見た事はないから、完全に見た目で判断したが。
数では有利だ。
私、タスクマスター、ケンイチロウ。
ウィンターソルジャー、ファルコン。
三体二ならば、片方を二人がかりで倒し……最後に三人で囲えば良いだけの話だ。
……この考えに問題があるとすれば、彼等の他にマドリプールへ来ているヒーローが居ない前提だと言う事か。
「奴等は私を嗅ぎ回っているが……それで手を引くのは沽券に関わる」
パワーブローカーが話す。
「取引場所は変更したが、予定通り取引は行う」
……思わず顔を顰めそうになる。
だが、マスクを付けてない今、そんな顔は出来ない。
持ち前のポーカーフェイスを維持する。
「準備をしておけ、三時間後には出立する」
「うむ」
「了解した」
……タスクマスターは返事していない。
何ともマイペースな奴だ。
私はアタッシュケースの前に戻り、壊れたパーツを分解する。
……本当に良い装備とは、整備性も優れるものだ。
と、ティンカラーが言っていたな。
マニュアルを一通り読めば換装出来るのだから、このスーツは『本当に良い装備』なのだろう。
後ろでタスクマスターが、パワーブローカーに話しかけていた。
……意識をそちらに割く。
「まだ何を取引するのか聞いていない。武器か?」
「答える必要はないが……武器、と言えば武器になるな」
聞き耳を立てながらも作業は止めない。
「ハッキリしないな」
「……単体では武器にはならないんだ。ただ、使えば最強の兵器が作れる」
……ふと、手が止まる。
振り返りたくなる気持ちを抑える。
「どんな人間でも超人になれる……素晴らしい夢だと思わないか?」
「……痛みを伴わず、人は強くなれない」
「随分と古い考えなのだな、君は」
息を呑んだ。
「『超人血清』だよ、タスクマスター」
下唇を噛む。
「血清、か」
「どんな人間でも超人になれる……当たり外れはあるが、孤児や必要のない人間に使えば良い。君の好きな『痛み』だろう?」
分解したパーツが地面に転がる。
「……それは『痛み』ではない、『犠牲』だ」
「似たような物だ。優れた人間は愚者へ負担を押し付ける。それが社会と言う物だ」
……また、あの子供達のような存在が生まれるのか?
外の世界から隔離され、身も心も歪められ……最後は苦しんで死んだ。
何も幸せな事などない、地獄のような人生を送る無垢な子供を。
非道な行いだ。
最悪で、最低だ。
私は……それの、手伝いをしている?
また、あんな子供達を作るために、人を殺して……悪事を働いている?
考えたくない。
考えてしまう。
聞こえる。
生を渇望する怨嗟の声が聞こえる。
見える。
自身の血と吐瀉物に塗れた子供の手が見える。
死んだ子供達の手が縋る。
それは幻聴と幻覚だ。
だが、私は……確かな重みを感じていた。
◇◆◇
ガチャガチャと音がして鍵が開いた。
中に入って来たのは……メルセデスだ。
手にはスープの入ったカップ。
中にはエビが入っている。
「ローラ、食事の用意をしたわ」
そう声を出しながら、ソファへ近付く。
「ちょっと、返事ぐらい──
回り込み……異常に気付いた。
誰も居ない。
即座に窓を見た。
鍵は付いていないが、開く事も出来ない固定窓。
唯一の出口は金属製の鍵付きのドア。
「……あーもう!本当にお転婆なんだから!」
彼女はスープを机に置いて、クローゼットを開いた。
勿論、誰も居ない。
見渡して、隠れられるような場所を探している。
私は、それを「上」から見ていた。
天井に突き刺していた爪を収納し、着地する。
僅かに木製の床が軋む音がして……即座にメルセデスが振り返った。
……流石、『S.H.I.E.L.D.』のエージェントだ。
注意深い。
だが、一手遅れた。
「ロッ──
「ごめん!行く所があるから!」
名前を呼ばれる前に、私は外へと飛び出した。
「ちょっと、待ちなさい!」
後ろから声が聞こえる。
だけど、立ち止まる事はない。
私にはやるべき事がある。
止まっている時間はない。
「スープ、冷めるじゃないの!」
……空いた小腹を撫でる。
最後に食事をしたのはコンテナに進入する前だし、大量に血を流して腹は減っているけど……。
それでも私は立ち止まらない。
行き交う人々の隙間を潜り抜ける。
マドリプールの
様々な人種が入り混じった混沌そのもの。
安っぽい中華の店、非合法な薬の店、武器商人、怪しいネオンを煌めかせるバー。
様々な店が町を彩る。
廃墟の壁にカラフルな色をぶち撒けたような光景だ。
私はビルの間を抜けて、薄暗い道を歩く。
振り返る。
人の気配はない。
……メルセデスの追跡は逃れたようだ。
安心し、ため息を吐いて……周りを見渡す。
「……で、ここどこ?」
しかし、道が分からなくなっていた。
そもそも、マドリプールに来るのは今回が初めてだ。
父さんが経営?してるバーがあるらしいけど……詳しくは知らないし。
というか、あの野生の塊みたいな父でも経営者になれるってのが、この街のヤバさを物語ってると思う。
……耳が声を拾った。
成人男性、二人が言い争っている声だ。
……来た道に戻ってメルセデスに見つかるのも嫌だし、とにかく奥へ進む。
声の聞こえる方だ。
「携帯の通知音ぐらい切っておけ」
「そりゃ悪かったけど、そもそも作戦自体がダメだったんだって!」
「お前も賛成しただろうが」
「一時の気の迷いだった!そもそも誰だよ、スマイリング・タイガーって!」
言い争いは白熱してる。
「お前に似てる奴だ、写真を見るか?」
「あぁ、見せてもらう!これの何処が似て、似て……似てるな、俺に」
「だろう?」
「うん、まぁ……」
何だか喧嘩は終わったようだ。
角を曲がれば、喧嘩していた二人の男性が見えた。
白人の男性と、黒人の男性だ。
白人の男性はこのクソ暑いマドリプールの気温に反して、腕の先まで覆うジャケットを着ている。
レザー製のグローブまで装着している。
見てるだけで暑くなりそうだ。
黒人の男性はスーツ姿だが……ボロボロだ。
まるでギャングの抗争に巻き込まれたかのような擦り切れ具合だ。
……只者では無さそうだ。
私は気配を消して様子を伺う。
「これじゃニック・フューリーに文句を言われるぞ」
「まぁな」
……ニック・フューリー?
思わず、少し前に出てしまった。
直後、白人の男性がジャケットの……肩についているジッパーを切り離した。
袖が取れて……金属製の義手が姿を現した。
「……何者だ」
先程までの明るい態度を隠して、剣呑な眼差しを私の隠れている方向へ向けた。
……バレてる。
観念して私は表に出て行く。
「えーっと、はじめまして?ウィンター・ソルジャー」
この男の名前は知っている。
結構な有名人だからだ。
名前を呼ばれたからか、警戒を解かず私を睨む。
……黒人の男性の方は私の姿に驚いていた。
こっちは索敵能力が低いみたいだ。
「……俺はバッキーだ」
「あ、そう?じゃあ、はじめまして。バッキー……そっちは?」
「俺か?サム・ウィルソンだ」
サム……サム?
聞き覚えのある名前だ。
「ファルコン?」
「あー、まぁ……そう呼ばれているな」
頬を掻きながら、サムが頷いた。
なんだ、『アベンジャーズ』か。
それなら、ニック・フューリーの仲間だ。
警戒するだけ損した。
「私の名前はローラよ。貴方達の敵ではな──
「フューリー、逃走したローラ・キニーを発見した」
バッキーが耳元を抑えて、そう言った。
……よく見ると、小さなインカムが耳に掛かっていた。
「げっ」
そりゃそうだ。
『アベンジャーズ』と『S.H.I.E.L.D.』は協力関係にあるヒーローチームと組織だ。
バッキーに至っては『S.H.I.E.L.D.』のエージェントだって話だし。
私の顔を見て、サムが申し訳なさそうな顔をしている。
「あー、悪いな。お嬢ちゃん」
「一緒に来てもらうぞ」
バッキーが金属製の義手を伸ばして……私は一歩引いて避ける。
宙に手を空振ったバッキーが、ため息を吐いた。
「……はぁ、俺達は子供の癇癪に付き合っている暇はない」
「知ってるわよ」
「大人しくついて来て……保護させて貰えると嬉しいのだが」
「保護?お断りよ」
もう一歩引いて、手を交差させる。
アダマンチウム製の爪が伸びた。
「どうしても、会いたい奴がいるからね」
「会いたい奴だって?誰の事だ?」
サムが訝しんだ。
「レッドキャップよ」
その返答にバッキーが眉を顰めた。
「……諦めろ」
「嫌、だ」
私が舌を出すと、サムが苦笑した。
スーツが真っ二つに割れて、背中に二つの翼が現れた。
スーツの下には赤いコスチュームが隠れていたみたいだ。
ゴーグルを顔に付けて……あぁ、ニュース誌でよく見る『ファルコン』の姿だ。
戦闘態勢って訳ね。
サムが口を開いた。
「俺達みたいな独身には、ティーンエイジャーの相手は厳しいな」
「口を慎め、サム」
あまり仲が良くなさそうな二人に、私も苦笑する。
しかし……まずい。
私一人じゃ絶対に勝てな──
プルルル。
……気の抜ける着信音だ。
サムの方から聞こえて来た。
バッキーがサムを見る。
サムが私の様子を窺う。
……電話っぽいな。
さっきの喧嘩的に、これのせいでゴタゴタに巻き込まれたっぽいのに……まだ通知音を切っていないのか。
「えーっと……どうぞ?」
私が顎をしゃくると、サムが胸元の端末を取り出し、耳に当てた。
「おい、サラ……さっき俺は仕事中だって言ったよな?……だから、融資の話は──
気の抜けた私とバッキーは構えを解いた。
だが、バッキーの顔は厳しい表情のままだ。
「ローラ、お前はレッドキャップに会ってどうするつもりだ?」
「分からない」
「……分からない、だと?」
心底、不思議そうな顔で私を見た。
「えぇ、分からない。ここに来るまでは殺したかったけど……分からなくなった。だから、会って確かめたい」
「……何を言ってるんだ?」
「私も分からない……あれ?今、結構変なこと言ってる?私」
「……はぁ」
バッキーがため息を吐いた。
「サラ、だから待てって。いや、家族のことを蔑ろにする訳じゃ──
サムの声が路地裏に響いた。
「……まだ通話してる」
「緊張感がないんだ」
バッキーがサムを横目で見ながら答えた。
表情は幾分が柔らかくなった。
……が、元々人相が怖いのか、少し厳しい。
「……今から君を、安全な場所に連れて行くのは骨が折れる。時間もない。だから、付いてくるなら勝手にしろ」
「へー、話が分かるようで助かるわ」
「納得はしていない。合理的に判断しただけだ……それと、彼女を殺す事は許さない」
「分かったわ」
私は頷いた。
「サラぁ、分かった分かったって。じゃあな、また連絡するから……よし!待たせたな」
丁度、電話が終わったようで、サムがファイティングポーズを取った。
私とバッキーはお互いに顔を合わせた。
「……もう終わったぞ?」
「え?本気か?」
「本気だ。行くぞ」
私はバッキーの後ろを付いて歩く。
事態が飲み込めていないのか、サムが首を傾げながら慌てて歩き出した。
◇◆◇
薄暗い中で、目を瞑る。
マスクの中で呼吸を整える。
瞼の裏に、もう幻覚はない。
耳には、タイヤが地面を蹴る音しか聞こえない。
私はトラックの後部、荷室の中にいた。
椅子に座り……集中する。
もう、大丈夫だ。
目を開ければ、目前に真っ暗なモニターがある。
天井に付いている蛍光灯が薄らと光っていた。
現在、パワーブローカー……そして、護衛の私達は移動中だ。
取引先に向かって、
そして、各々が別の車両に乗っている。
私はこのトラックの荷台だ。
何故、私は荷室の中で座っているのか。
それは──
モニターが光る。
『サウンドオンリー』の文字が見えた。
映像がないならモニターじゃなくて良いだろ、って突っ込みたくなるな。
スピーカーからパワーブローカーの声が聞こえた。
『何者かに追跡されている。最後尾の車両と連絡が取れない。行け』
『了解した』
荷室の後ろ、リヤドアが開く。
街の喧騒、車の走る音が耳に聞こえる。
座っている椅子ごとスライドし、外に滑り落ちる。
椅子……いや、モーターサイクルのタイヤが回転する。
そのまま加速して、乗っていたトラックと同速になる。
これはティンカラーの作った大型のバイクだ。
真っ黒なボディに赤いパーツで装飾されて、スーツ姿の私によく馴染む車両。
装甲は、戦車よりも強度が高い特殊合金。
重さは500キログラム以上。
そして、最高時速は350キロ。
正に、モンスターマシンだ。
……態々、私の為に用意したと言うのだから恐れ入る。
本人曰く、『趣味だ、ロマンだ』らしいが。
とにかく、こんな物騒なマシンを持っているから私はタスクマスターや、ケンイチロウとは別行動となったのだ。
私は速度を敢えて落として、後続へと迫る。
後ろを見れば……飛翔する物体。
赤いスーツに、銀色の翼。
『ファルコンか……』
私はマシンの側面を叩き、パーツを展開する。
そして中から、特注のサブマシンガンを手に取る。
更に速度を落とし、ファルコンへ接近する。
……私に気付いたようだ。
ファルコンの特殊な飛行装置。
アレはワカンダ製の超技術で作られたハイテク装備だ。
時速、400キロは出る。
前に行かれたら、追いつかない。
ならば、どうするか?
前に行かせなければ良い。
私は身を捻り、サブマシンガンを構える。
トリガーを引き、銃口から弾丸が放たれた。
空の薬莢が弾き出され、道路に落ちる音が聞こえる。
ファルコンは咄嗟にウィングを盾のように身を覆う。
弾丸はウィングを貫通する事なく、弾かれた。
……あの羽、ヴィブラニウム製か?
弾丸が少しも跳弾して居ない。
衝撃が殺されているようだ。
そのまま飛行能力を失って地面に落下する。
ウィングを下敷きにし火花を散らして道路を滑る。
私と距離が引き離されて行く。
『チッ!』
私は強く舌打ちした。
一見、有効打に見えるだろう。
だが実際は、完全な失敗だ。
初撃でダメージを与えられなかったのは不味い。
あのタイミングが最も有効なタイミングだった。
一度、警戒させて仕舞えば──
風を切る音が聞こえる。
ジェットの音も、だ。
私の頭上に、翼が見えた。
『ファルコン……!』
「上、失礼するぞ」
軽口を叩きながら、更に加速しようとしている。
人間、下を見るのは簡単だ。
だが、頭上に対する攻撃は難しい。
人は地面を見て歩くが、空を見て歩く事はしない。
私は再度、頭上にいるファルコンへ向けて、サブマシンガンを放つ。
「おっと、惜しいな」
急速旋回、バレルロール、様々な軌道で弾丸を避ける。
避けきれない物はウィングで叩き落としている。
凄まじい飛行技術……まるで曲芸だ。
……銃火器では有効打を与えられない。
ハンドル中心部のタッチパネルを弄り、自動操縦モードに切り替える。
そのまま、私は立ち上がり、車体に足を乗せて──
バイクを蹴り、飛び上がった。
「うわっ本気かよ!」
驚く声を無視し、ファルコンへ接近する。
そのまま避けようするが……手を伸ばし、足を掴んだ。
『この先には、行かせない』
「ホラー映画じゃないんだぞ……!」
ゆっくりと高度が落ちて行き、トラックの荷室の上に着地した。
私は落下の衝撃から転がり……後部の縁を掴んで止まる。
顔を上げれば、ファルコンは前部で同じように膝をついて居た。
飛ばれれば確実に逃げられる。
だが、飛ぼうとした瞬間、確実に隙が出来る。
狙いはその一瞬だ。
私の思考を読んだのか、ファルコンも警戒して行動しない。
「サム!」
声が横から聞こえた。
それと同時に、衝撃が来る。
だが、耐えられない訳ではない。
声の方向を見ると、大型のバイクに乗った男が居た。
……銀色の腕。
ヴィブラニウム製のサイバネティック・アーム。
『ウィンター・ソルジャーか』
手にはアサルトライフル……先程の衝撃はソレか。
一瞬、意識をそちらに向けてしまった。
一瞬だ。
だが、その一瞬の隙を突かれた。
ファルコンがトラックの縁から手を離し、ジェットを噴射した。
逃げられる。
そう、思った。
だが、実際は違う。
彼は前方に向けてジェットを噴射し、私へドロップキックを繰り出したのだ。
『チィッ!』
「女の子がちょっと口悪いぞ!」
女の子だと?
……いや、待て。
何故こいつらが私の性別を知っている?
どこまでだ?どこまで知っている!?
途端に不安になった私は混乱し……気付けば、そのまま宙に投げ出されていた。
慌てて、自身の足をファルコンの足に絡める。
「ちょっ、何を!」
抗議の声を上げるが、離すつもりはない。
そのまま走行するトラックの側面に貼り付く。
そして、手を貫手の形にして、荷室へ突き刺す。
腕を固定して足で掴んでいたファルコンを投げ飛ばした。
「うおっ!?」
先程と同じようにウィングで落下の衝撃を逃しているようだが、時間は稼げる。
その隙に荷台へ登ろうとして──
バイクの駆動音が耳に響いた。
ウィンター・ソルジャーだ。
アサルトライフルは私に向けられている。
まずい。
その瞬間、荷室の屋根が弾け飛んだ。
中から壊れたようだ。
……そうか、気付いていなかった。
この車両は……私と同じ、パワーブローカーの護衛……ケンイチロウの車両だ。
彼がどんな能力を持っているかは知らないが、少しは役に立つだろう。
そして、人型の『何か』が荷室の屋根に着地した。
それは、甲冑だった。
和風の甲冑を模したアーマースーツだ。
胸の中心には太陽の光を模した、赤い旭日のラインが刻まれている。
そして、その装甲は……銀色だ。
銀色の、侍だ。
『ふ、はは』
思わず、笑ってしまった。
彼があまりにも場違いだからか?
いや、違う。
期待外れだから?
いや、違う。
彼の実力を疑って居た私に、笑ったのだ。
その、銀色の侍には見覚えがあった。
そう、そうだ、ケンイチロウ。
ハラダ・ケンイチロウだ。
あぁ、私はよく知っている。
コミックにもよく登場する、著名な
銀色の甲冑を身に纏う、ミュータント・サムライ。
そう。
『シルバー・サムライ』が、そこに立って居たのだ。