【本編完結】レッドキャップ:ヴィランにTS転生した話   作:WhatSoon

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#78 クライ・フォー・ザ・ムーン part4

シルバー・サムライ。

 

本名、ハラダ・ケンイチロウ。

日本の『ヤクザ』の首領であり、そして凄腕の『用心棒』でもあり……日本で最も凶悪な『サムライ』だ。

 

更に、彼はX因子によって突然変異した人間……つまり、ミュータントだ。

ミュータントは生まれながらに、特殊な能力を持つ人種……

 

そして、シルバー・サムライの持つ特殊能力は──

 

 

 

マドリプールの高架道路を走るトラック……その荷室の上でシルバー・サムライが刀を上段に構えた。

刀身が赤く光り、何かが弾けるような音が響いた。

 

銀色の甲冑が擦れ、軋むような音が聞こえる。

 

 

瞬間、シルバー・サムライが荷室から飛び降り、バイクに乗ったウィンター・ソルジャーへ刀を叩き付けた。

 

 

「……ッ!」

 

 

咄嗟にウィンター・ソルジャーはバイクから飛び降り、護衛車両の屋根に着地した。

 

バイクはまるでゼリーにスプーンを入れたかのように、抵抗もなく真っ二つにされた。

 

 

これがシルバー・サムライの能力だ。

彼は特殊なエネルギーを物質に込める事が出来る。

エネルギーを蓄えた刀は『タキオン・フィールド』を形成し、ありとあらゆる物を切り裂く。

 

全ての攻撃が防御不能。

それがシルバー・サムライの強さだ。

 

 

だが。

 

シルバー・サムライが道路に着地した。

そのまま距離は引き離されて行く。

 

 

……え?

 

 

その姿が、少しずつ小さくなって行き──

 

 

直後、ウィンター・ソルジャーの背後にシルバー・サムライの姿が現れた。

 

 

『……何だ?』

 

 

一瞬、何起こっているのか分からなくて頭が混乱したが──

 

あぁ、テレポート・リングか。

彼の持つ装備の一つだ。

多少の制約はあるが、ありとあらゆる場所へ、瞬間移動できる。

 

 

つまり。

最強クラスの近距離戦闘能力を持つサムライが、瞬間移動で距離を無視して攻め込んでくる。

 

合理的、かつ反則的な戦闘能力なのだ。

 

 

「かぁッ!」

 

 

シルバー・サムライが刀を振るう。

横なぎに振るった一撃を、ウィンター・ソルジャーはサイバネティック・アームで防ごうとした。

 

しかし、タキオンフィールドを纏い赤く光る刀と接触した瞬間──

 

 

「……ッ!?」

 

 

ウィンター・ソルジャーは腕を滑らせて受け流した。

無理に回避行動を取った所為で、アームに一文字の傷が付いた。

それは、決して浅くはない。

 

シルバー・サムライが口を開いた。

 

 

「良い判断だ」

 

「…………」

 

 

火花が散り、ヴィブラニウムの破片が落ちる。

ウィンター・ソルジャーは苦悶の表情を浮かべていた。

 

彼は超人的な反射能力と、判断力で、タキオンフィールドを纏った刀が防御不能だと見抜いたのだ。

そして直接、防御する事は不可能だと即座に見切りを付け、受け流した。

 

どちらも、近接戦闘のセンスが抜群だ。

……私が入っても足手纏いになりそうだ。

 

私も……シルバー・サムライもチーム戦は不慣れだろう。

ここは任せるべきだ。

 

 

ならば、私がやるべき事は──

 

 

前方で、強烈な爆発音が聞こえた。

 

 

……パワーブローカーの乗る車両、その背後で爆発したようだ。

高架道路が分断され、瓦礫となって崩れ落ちる。

 

爆薬で高架の柱を破壊したのだろう。

数メートルに渡って……道路が落下した。

砕けたコンクリート片が下層(ロータウン)に降り注ぐ。

 

 

……このままでは護衛対象と離れてしまう。

恐らく、それが敵の狙いだろう。

 

 

私はマスクに搭載されている脳波コントローラーで、自身のバイクを呼び戻す。

誰も乗っていない大型の二輪車が、大きなモーター音を響かせて私に接近する。

そして、トラックと速度を合わせて並走を始めた。

 

トラックの側面から飛び移る。

車体が大きく揺れたが、足で道路を蹴り、無理矢理立て直す。

 

自動操縦を解除し、スイッチボックスにある赤いボタンを押し込む。

エンジン内に特殊なガスを送り込まれ──

 

爆発的な燃焼が起こり、急加速した。

即座に最高速度になった鉄の塊が、切り離された道路へと突っ込む。

 

私は、瓦礫が盛り上がっている場所に前輪を向けた。

時速400キロ弱で瓦礫に乗り上げ、そのまま宙へと飛び出した。

 

 

勿論、このバイクに飛行能力はない。

羽根なんてないし、無重力装置もない。

 

ただ勢いよく飛び出して、落下するだけだ。

 

だが、勢いは充分だった。

 

抜け落ちた道路を飛び越え、その先へと着地した。

 

 

サスペンションが歪み、大きな音が聞こえる。

道路を滑り、火花が散った。

 

目前にはカーブ。

このままの速度で突っ込めば、落下するだろう。

 

 

私は足を地面に引っ掛けて、倒れないようブレーキを掛ける。

身体とバイクを極限まで倒せば、肩が地面に擦った。

 

それは、アダマンチウム製のパーツだ。

接触しても傷はなく、コンクリートで出来た道路の表面が削れただけだ。

 

車体が滑り、急激に進行方向を曲げた。

ガードレールにぶつかり、歪む。

 

無理矢理車体を持ち直し、そのまま曲がり切る。

 

 

背後を見れば……護衛の車両は急停止している。

シルバー・サムライとウィンター・ソルジャーの戦い、その決着は付いていないようだ。

 

 

……気にしていても仕方がない。

そのままバイクを加速させて、本隊への合流を目指し──

 

 

一台の車両が合流車線から突入して来た。

少し古いが重厚な見た目をしたバイク……確か、ハーレー。

 

 

この高架道路は現在、パワーブローカーによって封鎖されている。

入口は私兵によって閉鎖され、実質的な独占状態だ。

 

だから、確実に敵だ。

 

 

いや……そんな事を考えなくても、一目見れば敵だと分かった。

 

バイクに乗っている人間だ。

 

青と呼ぶには濃すぎる紺色のコスチューム。

赤と白のストライプ。

背中に背負っているのは星条旗を模したシールド。

 

 

キャプテン・アメリカだ。

 

 

まだ彼は私に気付いては居ない。

そして、戦いは先手が有利だ。

 

 

私はアクセルを回しつつ、バイク側面にある武器庫を開く。

 

サブマシンガンは先程使ってしまった。

残っているのは……ショットガンだ。

 

私は固定具のボルトを破壊し、ショットガンを手に持つ。

 

右手はハンドルに。

左手はショットガンを。

 

前を走るキャプテン・アメリカに向けて構える。

 

 

直後、キャプテンがこちらへ視線を向けた。

 

……何故、気付いたのか。

勘、と呼ぶには鋭過ぎる。

 

彼の手が背中のシールドに伸び──

 

 

直後、私は発砲した。

ショットガンから破裂音が聞こえて、小さな金属の球体達がキャプテンへ迫る。

 

シールドを構えるのは間に合わないと考えたのか、身を捩り、バイクを倒して……背中に背負ったまま、シールドで防いだ。

弾をシールドが防いだ、と言うよりは弾にシールドを当てにいった、が正しいだろう。

 

凄まじい反射神経だ。

 

 

『チッ……!』

 

 

思うように行かず、舌打ちをしながら、ショットガンのトリガーガードへ指を掛ける。

そのまま、手の平をグリップから外し、勢いよくショットガンを振り上げる。

 

トリガーガードに掛けた指を軸に、ショットガンが回転する。

その勢いでレバー部分を前後させて、空になった薬莢を排出し……次弾を装填する。

 

レバーアクションのショットガンは片腕でリロードが可能だ。

それを考慮して、ティンカラーがバイクに武装を搭載する際に私が注文したのだ。

 

更に、連射可能な短機関銃(サブマシンガン)と、散弾が撃てる散弾銃(ショットガン)ならば狙いを定め難い車上でも有効だ。

 

 

しかし、私がリロードをしている間に、キャプテンもシールドを手に持ち直していた。

 

 

再度、ショットガンを構えた瞬間……キャプテンがシールドを投擲した。

だが、私に向かってではない。

 

マドリプールの暗い道路を照らす、街灯へ向けてだ。

街灯はへし折れて、私の前方でゆっくりと倒れてくる。

 

……横に倒れた街灯ぐらいでは、私の乗る大型バイクは止まらない。

だが、少し隙は出来る。

 

その隙に逃げられるのも、攻撃されるのも、好ましく無い。

 

再度、スイッチボックスを弄り、急加速する。

そして、急激にハンドルを切り、車体を倒す。

車体が横向きに滑りながら、倒れ来る街灯の下をくぐり抜けた。

そして、背後で蛍光灯が破裂する音が聞こえた。

 

手で地面を叩き、無理矢理立て直す。

アクセルを回し、遅れていた分を取り戻す。

 

私の乗っているバイクの方が、奴のバイクよりも遥かに速い。

直ぐにキャプテンの側面へ来た。

 

その距離は3メートル程だ。

 

徒手空拳では届かないだろう。

シールドは……街灯にぶつかった後、後方で回転しながら弾かれていた。

 

 

手に掴むには間に合わない。

取りに戻るには、もう遅い。

 

私はキャプテンの体へショットガンを向ける。

狙いを済ませ──

 

 

キャプテンが腕を宙に翳した。

 

 

……何をしているんだ?

 

 

そう思った瞬間、宙に飛んでいたシールドが腕へと吸い寄せられた。

そのまま手に取り、腕に装着した。

 

……物理法則を無視している。

恐らく、『S.H.I.E.L.D.』のハイテク装備だ。

 

前回はそんな装備は持っていなかった筈だ。

私だけではなく、彼も装備を強化していると言う訳だ。

 

予想外の出来事に驚いて、一手遅れてしまった。

 

盾はキャプテンの腕にある。

しかし、撃たない理由はない。

 

銃口を……少し、下げる。

シールドを持っているキャプテンに散弾では有効打にならないだろう。

 

ならば、狙うべきなのはキャプテンではなく、乗っているバイクだ。

 

私はそのまま引き金を引き、発砲した。

再び、炸裂音が響く。

 

咄嗟にキャプテンはシールドを回転させながら、道路に投げた。

まるでタイヤのように側面を地面につけて回転し、バイクと少しの間並走した。

 

バイクを狙った弾丸はシールドに防がれてしまった。

 

そして、地面にぶつかったシールドは再度、不可解な挙動で腕に戻った。

 

……理屈が分からない。

何だ、アレは。

 

再度、ショットガンをリロードをしようとトリガーから指を離し──

 

キャプテンの乗るバイクが接近して来る。

 

接近戦をするつもりだ。

そのままリロードは強行しつつ、こちらも車両を接近させる。

ステップから足を外し、蹴りを繰り出す。

 

シールドと足が衝突する。

双方、ヴィブラニウム製だ。

衝撃を吸収する特性を無視し、そのまま強く押し込む。

 

……私の乗っているバイクはティンカラーの使った特注品のモンスターマシンだ。

比べて、キャプテンが乗っているのは市販の正規品。

 

その差は大きい。

私の乗るマシンは微動だにしないが、彼の乗るハーレーは揺らいだ。

 

 

「くっ」

 

 

思わず声を出したキャプテンに、ほくそ笑む。

 

このまま車両を押し倒してやる。

 

私は再度、蹴りを放とうと足を引き寄せた。

 

だが、その瞬間。

バイクからキャプテンが飛び出した。

 

 

『なっ』

 

 

そのまま私の方へ飛び移り、脇を腕で挟んだ。

 

勢いを殺し切れず、私はバイクから振り落とされ……私は地面へと投げ出された。

 

咄嗟にキャプテンを蹴り飛ばしたが、時速数百キロで走る中、私は地面へ落ちる。

 

……集中する。

体のヴィブラニウム製パーツで覆われてる部分……地面に接触する瞬間、その部分で地面を叩く。

転がりながら、衝撃を複数回に分けて分散し……ヴィブラニウム製のパーツで吸収して行く。

 

最後に腕で地面を叩き、身体を弾き上げる。

 

 

……よし、無傷だ。

 

 

だが、ティンカラーの作ったバイクは……ガードレールをブチ破り、下層(ロータウン)へと落下していった。

 

 

あっ。

 

 

直後、下で爆発音が聞こえた。

 

 

……下を見るのが怖い。

ぶっ壊したと言ったら、ティンカラーがショックを受けそうだ。

別に組織の備品だから、私の懐は痛まないが。

それよりも、前方の護衛隊から切り離された事が問題だ。

 

 

意識を切り替える。

 

辺りを見渡せば……キャプテンは、ヴィブラニウム製のシールドで地面を滑っていた。

彼も無傷だ。

 

前方の車両、パワーブローカーの乗る車両は私達を置き去りにした。

後方は道路が落下しており、ここまで来れないだろう。

 

つまり、援軍は来ない。

 

 

完全に、一対一(タイマン)だ。

私は呼吸を整える。

 

キャプテンが立ち上がり、私へ顔を向けた。

 

 

「……君に、会いたかった」

 

 

キャプテンが、そんな言葉を私に掛けた。

 

……それを、私は鼻で笑った。

 

 

『フン、人気者(アイドル)になった覚えはないが?』

 

「あぁ、そうだな……君は別に、アイドルではないな……『特別』でもない」

 

 

私は太腿からナイフを取り出し、逆手に持つ。

 

 

『ならば、お前は凡人に殺されるのだな』

 

「殺されるつもりはない。罵るつもりはないんだ。ただ君は……特別ではない、普通の──

 

 

一歩、近付く。

 

まだ、キャプテンは盾を構えていない。

 

 

「普通の、女の子だろう?」

 

 

私は踏み込み、ナイフを振り下ろした。

それは腕に掴まれて、傷を与える事は叶わなかった。

 

 

『普通の女だと?私が?』

 

 

普通?

 

普通な訳があるか。

 

彼は私の事を何も知らない。

 

似非超人血清によって力を得た超人だと言う事も。

何人も殺して来た殺人犯だと言う事も。

前世を持つ、性別すら中途半端な人間だと言う事も。

ただ流されるままに非道を働き続け、それで妥協して生きている屑だと言う事も。

 

何も、何も分かっていない。

 

 

私はマスクの下で、キャプテンを睨み付ける。

 

 

「あぁ、そうだ。君は普通の女の子だ……ただ、不幸に蝕まれて……こうならざるを得なかった、普通の女の子だ」

 

 

……どこまで知っているかは分からない。

だが、キャプテンや……ファルコンだって、私の事を知っていた。

 

いや、知っている『つもり』のようだ。

 

 

『私は、悲劇のヒロインになった覚えはない』

 

 

ナイフを持つ腕を捻り、もう片方の腕を叩きつける。

……衝撃は入った筈だ。

 

 

「くっ」

 

 

だが、それでもキャプテンは身動ぎすらしなかった。

 

有効打にならなかった。

私は反撃を恐れて、一歩下がる。

 

……だが、反撃は来なかった。

私は訝しむ。

 

 

『……何故、攻撃して来ない』

 

 

蹴りを入れても、いなされるだけで反撃はして来ない。

明らかな隙を見せても、攻撃はして来ない。

 

……最初に、シールドを投擲した時。

彼は私ではなく、街灯を攻撃した。

 

それ以外でも……明確に、私を傷付けようとする攻撃はなかった。

 

 

「君は『守られるべき人間』だ。私は傷付けようなんて思ってもいない」

 

『馬鹿にしているのか……?』

 

 

実力差があるからと、見下しているのか?

 

……いや、違う。

 

彼は高潔な心の持ち主だ。

そんな事は考えない筈だ。

 

なら、何故だ?

 

何故、攻撃をするつもりすらないのに、私の前に立っているんだ?

 

 

「違うんだ。私はただ、君を『助けたい』だけだ……」

 

 

頭に、ハンマーで叩かれたような衝撃が走った。

殴られた訳じゃない。

ただ、それだけ衝撃だったのだ。

 

『助ける』?

 

誰を?

 

……私を?

 

 

思わず、頬が吊り上がる。

 

 

『フフ、正気か?』

 

 

思わず嘲笑ってしまった。

 

キャプテンが驚いたような顔をしている。

尚更、可笑しく感じてしまう。

 

 

『そんな話は……10年以上前にするべきだった。遅い……遅過ぎだ』

 

 

今まで殺して来た屍から目を背けて、自分だけ自由になれるのか?

それは、許される行為なのか?

 

答えは否だ。

 

 

私は再びナイフを叩きつける。

シールドに弾かれて、音が鳴った。

 

 

「そんな事はない……君は──

 

『いいや、何も分かってない……私はもう、お前の言う『守られるべき人間』ではない』

 

 

もう、助けて貰おうなんて、私は考えてなど居ない。

 

昔は……そう、私がまだ訓練所にいた頃は……誰かに助けて欲しいと考えていた時もある。

だが、結局……誰も助けなど来なかった。

 

待っても、待っても、待っても、待っても……。

 

私と共に連れて来られた隣人は、過酷な訓練に耐え切れず精神に異常をきたした。

そして、組織はそんな『お荷物』を抱えていられるほど優しい場所ではない。

彼は人殺しの練習にと、肉袋としてサンドバッグになったのだ。

 

殺したのは誰か?

無防備な彼を痛め付けたのは誰だ?

私だ。

 

組織の期待を裏切れば、死ぬ。

それをよく知っていた私は、迷いもせず『仕方のない事』だと言い訳し、殺した。

 

 

『今の私は──

 

 

昔から、ずっとそうだ。

 

 

私は巨悪に抗えるほど、強くはない。

人の命を無感情に奪えるほど、覚悟もない。

だが、他人を思いやれるほど、優しくもない。

 

ヒーローにはなれない。

ヴィランにもなり切れない。

 

男でもない。

女でもない。

 

ミシェル・ジェーンと言う名前も本名ではない。

 

何にも、なれない。

 

 

だから──

 

 

今の私を指し示す言葉は、一つだけだ。

 

 

 

『ただの、人殺し(レッドキャップ)だ』

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ナイフが目前に迫る。

一歩引いて、私はシールドで弾く。

 

私が攻撃をしないと理解してからか、攻めは苛烈になるばかりだ。

反撃を恐れず、一心不乱に私を攻撃して来る。

 

……だが、後悔はない。

 

私は彼女と……戦いに来たのでは無いからだ。

 

 

それでも、一つだけ……気づく事があった。

 

 

彼女は以前、見た時と装備が違う。

より、優れた性能の装備で身を固めているのだろう。

 

 

 

なのに──

 

 

 

 

明らかに──

 

 

 

 

 

以前より、弱くなっていた。

 

 

 

 

 

迫りくる攻撃には、振り切る力が篭っていない。

敢えて急所に隙を見せても、攻撃して来ない。

 

顔は狙わず、腕や胴、足ばかりを攻撃する。

 

恐らく、彼女は気付いていない。

 

それは罪悪感か……彼女に残っている善性か。

 

どちらかは分からない。

 

 

ただ、以前出会った時から……何か心境の変化があったのだろう。

 

攻撃を防ぎながら、呼び掛ける。

 

 

「私達には君を保護する用意が出来ている!後は君次第だ!」

 

『そんな戯言を信じられると思うか……!?』

 

 

肘が私の腹に突き刺さる。

……鈍い痛みが走る。

 

内臓にダメージが入ったのだろう。

 

 

「信じてくれ……!」

 

『……例え、お前がそうだったとしても!他の奴らがどう思うかは……まだ、分からない!』

 

 

ナイフの腹を掴む。

手の平が切れて、血が滲む。

 

 

『私は今まで『S.H.I.E.L.D.』とだって戦って来た!お前達の仲間を何人も……両手で数えられる以上に殺した!恨む人間が居る筈だ!』

 

 

回し蹴りが迫る。

シールドで防ぎ、ナイフを持つ手を捻る。

 

そして、そのまま奪い取る。

……ナイフの刃は私の血が滲んでいた。

 

 

「私が説得する……!」

 

『人の恨みを甘く考えるな、キャプテン!他人はお前のように高潔ではない!』

 

 

こちらに向かって徒手空拳で突っ込んでくる。

私はナイフを地面に投げ捨て、身構える。

 

彼女は足を強く踏み切り、片足を振り上げた。

 

……下ではなく、上からか!

シールドを上方に構えて、踵落としを防ぐ。

 

 

「何があろうと、君を守ってみせる!だから──

 

『白馬の王子様のつもりか?現実を、見ろ……!』

 

 

強く力が篭る。

 

 

「君は……その場所に、ただ立ち止まっている方が楽なのかも知れない!君に取っては……だが!」

 

『まだ、喋るか……!』

 

 

シールドで足を弾けば、距離が開いた。

 

 

「罪悪感を感じているのだろう……?自身に罪があって、幸せにはなってはならないと。君は……そう思っている訳だ」

 

『……黙れ』

 

 

身を震わせながらも、レッドキャップは接近して来ない。

 

 

「だから、自分を傷付ける環境に身を置いて、己の心を守っているんだ。罪悪感の捌け口にしている」

 

『説教を聞きたい訳ではない!』

 

「聞くんだ、聞く必要がある……!」

 

 

舌打ちをして、彼女は足元にあったショットガンのグリップを踏み付けた。

反動で跳ね上がり、手に収まった。

 

 

『私を卑怯者だと、そう罵りたいのか……?』

 

「違う。楽な道を選んでしまうのは『普通』の事だ。君は、『普通』の……守られるべき人間なんだ」

 

『……今すぐ、その減らず口を叩けなくしてやる』

 

 

ショットガンを私へ向けた。

シールドは構えない。

 

敵対する意思は見せたく無い。

 

 

「だが、そんな楽な道が……君に取って良い道とは限らない。だから、選んで欲しいんだ。罪と向き合う道を──

 

 

引き金が、引かれた。

 

 

 

銃口から煙が漏れた。

 

 

炸裂音。

 

 

そしてコンクリートが破砕する音。

 

 

しかし、私には命中していない。

私の足元に着弾していた。

 

ひび割れたコンクリートが目に映った。

 

 

『……何?何故、外れた?』

 

 

彼女自身も分かっていないようだ。

ただ、無意識に……無抵抗な人間を殺したく無いと、そう思ったのだろう。

 

……いや、それは私の希望的な予想か。

 

一歩、踏み込む。

彼女が身構えた。

 

私は安心させるべく、穏やかな声を掛ける。

 

 

「……共に来て欲しい」

 

 

手を差し伸べる。

彼女は、私の手を少し眺めて……一歩引いた。

 

 

『無理だ……私は、組織を裏切れない……!』

 

「大丈夫だ。追手からだって、私達が──

 

『違う!』

 

 

機械音声に変換された声に、感情が乗っていた。

それは葛藤……苦悶、そして諦めだ。

彼女は……震えていた。

 

手を自身の胸に当てて、言葉を紡ぐ。

 

 

『私の、胸には爆──

 

 

絞るような声が聞こえて──

 

 

「そこまでにして貰おう」

 

 

直後、頭上から剣を持った何者かが現れた。

 

 

「っ!?」

 

 

驚きながらも、私はシールドで剣を弾く。

……剣は橙色の光を発していた。

 

ドクロのマスク、盾に刻まれたTの文字。

白いフード……見覚えがある。

 

 

「タスクマスターか!」

 

「ご名答だ、スティーブ・ロジャース」

 

 

再び剣とシールドがぶつかり、私達は弾かれた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「それ以上の発言は、お前の立場を危うくするぞ」

 

 

私の目前に、タスクマスターの背中があった。

 

 

『タ、タスク、マスター……?』

 

 

拙い。

どこまで聞かれていた?

言い逃れ出来ない内容だった。

 

キャプテンの言動に動揺して、口に出してしまった。

恐る恐る、タスクマスターへと目を向ける。

 

 

「教官と呼べ」

 

『……教官、どこまで話を聞いて──

 

「知らん」

 

 

バッサリと言葉で両断された。

 

 

「ただ、無闇に己を蔑むのは止めろ。リスクを無理に渡る必要はない」

 

 

指で、私の後ろ……彼が乗って来たであろうバイクを指差した。

 

 

「話は聞かなかった事にしてやる。失態はその身で返せ……そして、先に行け」

 

『……すまない、助かる』

 

 

私はキャプテンに背を向けて、走り出した。

 

 

「待ってくれ!君は──

 

「貴様の相手は私だ」

 

 

私を追おうとして、キャプテンがタスクマスターに弾き飛ばされた。

 

 

「くっ!邪魔を、するな!」

 

「それは無理な話だな」

 

 

タスクマスターなら、一方的に負けるという事はないだろう。

 

私は彼の乗って来たバイクに跨り、走り出す。

後方で彼等が戦う音が聞こえた。

 

私を呼ぶ声が聞こえる。

だが、それは直ぐに風を切る音に掻き消された。

 

 

 

そして。

 

頭上で風を切る音が聞こえた。

 

 

……ファルコンだ。

 

 

私を無視して、そのまま前方へと加速した。

パワーブローカーの元へ向かうつもりだ。

 

……乗っているバイクは、先程まで乗っていたティンカラー製ではない。

速度が遥かに劣る。

 

思わず舌打ちをしそうになりながらも、本隊への合流を急ぐ。

 

 

……先程の、キャプテンの言葉が脳裏に焼き付いて離れない。

 

『助けて』と言えば助けてくれるのだろうか?

ヒーローは私を守ってくれるのだろうか?

 

……いや、考えない方が良い。

何も恐れることがない人生など、夢や幻だ。

私の手には落ちて来ない。

 

ナイフで臓物を刻んだ手に、幸せの青い鳥は来るのだろうか?

来る訳がない。

 

私の胸に占めるのは、諦めだけだ。

 

キャプテン……か。

彼には私を救えない。

救われたいとも思わない。

 

だから、この話は終わりだ。

終わりなんだ。

 

なのに、どうしてか。

 

仄かに、幸せを望んでしまうのは。

友人に囲まれて、バカな話をして、遊びに行って、恋をして。

そんな物は手に入らない筈だ。

手に入れてはならない、筈だ。

 

ミシェル・ジェーンが幸せに生きていられるのは、誰も私の正体を知らないからだ。

アレは薄氷の上になり立っている白昼夢でしかない。

 

きっと、グウェンも、ハリーも、ネッドも……ピーターだって、私がこんな人間だと知ったら幻滅する。

嫌いになる。

 

何故、騙したのかと怒る筈だ。

 

……呼吸が乱れる。

 

 

嫌だ。

嫌われたくない。

 

……ピーターに、罵られたら……きっと、私はもう立ち直れない。

 

死んでも良い。

彼と会えなくなっても良い。

 

だけど、嫌われたくない。

 

だから、私は動けない。

決断出来ない。

 

中途半端な幸せは、私を縛る枷になっていた。

 

このままで良い。

私は、ずっとこのままで良い。

何もしない。

 

ただ、流されて生きていたい。

 

 

頭の中に掛かる靄を振り払いたくて、私はアクセルを強く回した。

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