bleach世界に転生して修行して藍染とYHVHボコボコにした後ってする事なくね?   作:餡掛けペン

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めっさ遅くなりました…申し訳ないです。


餅、美味かったぜ

 道中、オッサンからいろんな事を聞いた。俺たちは整と呼ばれる事。虚なる存在の事。それらを管理する連中、死神。護廷十三隊。俺が持ってる原作知識とそう変わりなかった。これマジで転生してるってことだよな。信じていいんだよな。オラすげぇワクワクしてきたゾ。だが肝心なことに俺には霊力が無いっぽい。腹減ってねえし。どげんかして霊力手に入れなイカン。

 

 オッサンの背にて揺られること十分。森に入り坂を登り、速度を落とす事なくオッサンの家まで辿り着いた。森暮らしなだけあって滅茶苦茶体力あるなこのオッサン。家の前で下ろしてもらうと、オッサンは家の中へではなく、その隣の物置小屋に向かった。

 

「寝とってもよかったんだぞ。」

 

「いや、起きてからそう時間経ってねえんだ。ガタは来てるが休眠モードに入るにはもうちっとエネルギーを発散しねえと。」

 

 ちょっとテンション上がって寝てる気分じゃ無えってだけだが。

 

「まるで機械みてえだな…ほれっ」

 

 そう言ってオッサンは斧を手渡してきた。

 

「? なあ、これ」

 

「エネルギーを発散するんだろ?薪割りを手伝え。」

 

 そう言ってオッサンは薪を取り出し、切り株の上に乗せる。

 

「…まぁ、ちょうどいいか。」

 

 泊めてもらうわけだしな。何かしら手伝うのは道理だ。

 

 セットされた薪へ狙いを定め、斧を振り上げ、落とす。

 

スパァンッ! カラカラァ

 

 薪が綺麗に真っ二つ。

 

「どうよ?」

 

「すまんな。先に説明しなかった俺のミスだ。」

 

 なってねえってこと?傷つくわぁ。

 

 オッサンは新しい薪をセットする。

 

「まずは少しだけ刃を薪に食い込ませるんだ。斧に固定してから一緒に持ち上げて切り株に叩きつけろ。」

 

 言われた通りに斧と薪を一体にし、持ち上げ振り落とす。

 

スパァンッ! カラカラァ

 

「こんな感じか?」

 

「そんなに力は入無くていい。全部割るまで体力持たねえぞ。もっとコンパクトに…」

 

「へいへい。」

 

 カンッ カラカラァ

 

 カンッ カラカラァ

 

 しばらく、薪の割れる音と転がる音のみが、断続的に広場一体に響く。

 

「…なぁ。オッサン」

 

「ん?」

 

「霊力ってのは何なんだ?」

 

 これからオッサンと会話する上で、原作知識がモロに出ると「何でそんなこと知ってるんだ?」ってことに成りかねないので、先に質問責めで基本的な知識をゲロらせることで話しやすくすることにした。

 

「霊力ってなんだって…漠然としてて答えらんねえよ。何が聞きたい?」

 

「霊力ってのはどうやって手に入れられんだ?」

 

 あと原作にも出てない情報が欲しいから。胸に刃突き立てながら自己紹介するとか以外でなんか無い?

 

「…さぁな。素養が無えとめっちゃ難しいって話だが。手に入れてどうする。」

 

「そりゃもちろん、死神になるんだよ。それで給料もらって、美味い飯食って、ゴロゴロして、自堕落な生活送るんだ。」

 

 チートな斬魄刀貰って斬拳走鬼シコタマ鍛えて藍染とかYHVHとか無双してモテるんだよ。

 

「美味い飯はともかく、ゴロゴロなんて出来ねえよ。ヒラは遠方に出向いて虚をバッタバッタと切ってる時間の方が圧倒的に多いんだ。上位の席官にでもなればちっとはズルできるかも知れねえが、大きな案件には上位の席官が駆り出される。死亡率が爆上がりよ。止めとけ止めとけ。」

 

 めっちゃ某同僚並に止められる。俺の正体全部分かってたりしない?

 

「流魂街は全部が全部田舎なんだろ?酷い所は殺しなんてしょっちゅう。そんな所で何百年も暮らしてらんねえよ。」

 

「はっ、若いねぇ。」

 

カンッ カラカラァ

 

「もう薪は十分だ」

 

「そうか?」

 

 オッサンは薪をそそくさと集めると、家の側にある薪置き場に割った薪を置くと、予め更に割られた薪を持って家の中へ入った。オッサンの後を追って、斧を家の横に立てかけて中に入った。オッサンは上から吊るされた、予め具を入れた鍋の下に、細かく切られた薪を置き火を入れた。

 

 …今どうやって火を付けた?

 

「オ、オッサンって…」

 

「座れ。今日は鍋だ。」

 

 言われた通りに座る。

 

「…テッキリ風呂に使うもんだと」

 

「誰もそんなこと言ってねえけどな。」

 

「オッサンって死神だったんだ。」

 

「死神?霊力の扱い方を多少心得てるだけだ。」

 

「じゃああの立て掛けてある刀は何だよ。」

 

 目立つところに刀は置いてあった。あれって斬魄刀だよな?これで隠す気あったんだろうか。

 

「…」

 

「何で隠すんだよ。別にいいじゃねえか。減るもんじゃねえし。」

 

「俺はオメエに霊力の扱い方なんて教えねえぞ。」

 

「‼︎」

 

 心読まれた!?

 

「まだ頼んでねえし…。てか、何でそんなに死神から遠ざけようとすんだよ。供給が有り余ってんのか?」

 

「オメエの様な甘ちゃんには務まらねえのさ。」

 

 頑固ジジイみたいな事言い出した…。

 

「まぁ、俺にオメエの人生をどうこうする権利なんざねえからよ。勝手に霊力身につけて勝手に死神になれば良いさ。」

 

「せめて霊力の得方とかでもよぉ。」

 

「霊力の得方ねえ。そっちの方はマジで知らねえな。俺の場合は急に腹減って倒れてな。理由もさっぱりだ。のんびり待つしか無えんじゃねえか?」

 

「…そっかぁ。」

 

 こういうのって転生特典とかで直ぐに身についてるもんじゃねえのか?初っ端から上手く行かねえことばかりだ。

 

「死神になっても、あんまり良いこと無えぞ。」

 

「オッサンって死神業嫌いなのか?」

 

「そう言うわけじゃ無えけどよ。仲間が死んだ時なんてスゲェ悲しいぞ?。遺族に罵られる事もある。お前たちが不甲斐ないからだぁ‼︎っつってな。」

 

「やめろよそうやって脅すの!」

 

「脅しじゃねえよ。忠告だよ。先人としての。」

 

 酒飲んでるわけでもねえのにタチ悪いな。

 

「そういえば、何でおっさんこんな所に居るんだ?休暇か?」

 

「いや、ここ74地区はよく虚が出るんだ。そこで数人死神が常駐して、出たら狩るのが俺の仕事だ。だから此処にいる。さっきも見回りのために外に出てたんだ。」

 

「…それって、79地区よりも危険なんじゃねえのか?」

 

「いいや、俺たちが居るから比較的こっちの方が安全だ。」

 

「いや、あんた等居なかったら確実にこっちの方が危ねえって事じゃねえか!」

 

 そこからオッサンには色んな話を聞いた。主に流魂街についての事を。1地区が一番治安がいいからそこを目指すといい事。そこには死神が瀞霊廷への出入り口を門番していて、そいつに聞けば霊力の会得方法を知ってるかも知れない事。なぜここまでしてくれるのか。会話から伝わるお人好しさが答えだろうか。本人には聞かないし、言わないが。食ったらさっさと寝ることにした。オッサンはまだ起きてそこ等へんを哨戒するらしい。疲れていたので、床についてから数分もしないうちに深い眠りについた。

 

____________________

 

「こっから先に進むと、町が見える。30日ぐらい町の中を突っ切っていくと、明らかにこっち側の雰囲気とは合わねえ、金の掛かってそうな頑丈なタイルと塀のある空間に突き当たる筈だ。昨日も言ったが、その中には絶対に入るなよ?殺されるぞ。」

 

 日が明けてすぐに叩き起こされ、締め出されるやいなや、そんな事を言われた。もう行けってか。

 

「そっから瀞霊廷との境界を右手に半日進んでいけば1地区だ。看板とか無えからちょくちょく住人に確認取れよ。」

 

「って事は、30日と半日か。」

 

 一月は長いなぁ。でも当てもなく彷徨うよりはマシか。

 

「いや、数時間と半日だ。」

 

「え?」

 

「おぶってってやるよ。」

 

 まじ?オッサンたち悪かったり超絶優しかったり、ギャップ作りの天才かよ。惚れるぞ。

 

「一緒に行くのか?任務は?」

 

「今日で任期だ。」

 

 まぁ、有難いんだけどさ、そう言うことは昨日言えなかったのか?

 

「って言うか、それなら最初の説明要らなかっただろ。」

 

「いや、俺のおかげで移動時間が30日縮むんだぞって事を顕著にしたくてな。」

 

「恩着せがましいわ!…でも恩にきるわ。」

 

「おう。」

 

 昨日と同じようにオッサンの後ろに乗らせてもらう。あ臭。

 

「スピード出すから、しっかり掴まれよ。」

 

 瞬歩って奴か。そう思った瞬間、オッサンは一気に加速した。

 

「うおおおおお!?」

 

 あっという間に街に入り、人と建物がものすごい速度で流れていく。

 

 速えええ!?ちょ、速度落として!落ちたら死ぬぅ!?

 

 だが、口を開いて声を出そうにも入ってくる空気のせいでえおえおえーしか発声出来ず、瀞霊廷に着くまでの間、小汚いオッサンに落ちないようにしがみつくことしか出来なかった。暫く揺られていると、あっという間に瀞霊廷との境界に着いた。

 

 もう着いたのか。30日の距離を数時間か。早く着いたのは良いことだ。良いことだが…。

 

「ゼェ…ゼェ…」

 

「何で走った俺より疲れてるんだ?」

 

「アンタなあ…少しは乗客の事考えて運転しろよ!」

 

「…無銭なんだからありがたく思え。」

 

 オッサンはプイっとそっぽを向いた。

 

 いやオッサンがそれやっても全然来ねえしキモいだけだぞ。

 

「じゃ、此処でお別れだな。」

 

「いろいろサンキューな、オッサン。」

 

 色々あったがこのオッサンに会ったお陰で先が明るくなった。ちゃんと礼を言わんとな。

 

「いいって事よ。じゃあな。」

 

 さて、俺も向かいますか。…

 

「おい、オッサン!」

 

「んお、何だ?」

 

 オッサンは瞬歩を使う直前に呼び止められ、戸惑いながらもこちらに反応を示した。

 

「オッサンの名前、聞いてなかったなと思ってよ。」

 

「…そういえば、互いに自己紹介して無かったな。俺の名前は千野大吾だ。まぁ、もう会うことは無えだろうが。」

 

 千野大吾、ね。

 

「何言ってんだ。俺は獅子村台蔵だ。将来有望な後輩の名前だからよ。しっかり覚えとけよ!」

 

「へ、期待しねえで待ってるぜ。今度こそ、じゃあな。」

 

 そう言って、オッサン、千野のオッサンは瞬歩を使って今度こそ瀞霊廷の向こうへ行った。

 

____________________

 

 この世界は殺伐としている。79地区では道を歩けば直ぐにリアル鬼ごっこ。側を見れば死んだように横たわるホームレス。或いは本当に死んでる者が多数派なのか。だから隅で蹲ってやり過ごす作戦が通用した。死体だと思われて。そんな79地区とは違って、瀞霊廷に接する、今歩いてる地区は段違いに平穏で活気のある様子だ。街歩く人々は仕事に精を出す人だったり、のんびり散歩する人、親子、或いは恋人と仲睦まじく歩く二人。見ているこっちまで幸せが伝わってくる様な、そんな人々で溢れていた。でも恋人はもちっと日陰に歩いてくんねえかな。未来に不幸に遭うのを示すように。

 

 そんな街を数時間歩き、夕暮れ時の時刻。

 

「すんませーん。」

 

「どうした若えの。」

 

「此処って潤林安で合ってますかね。」

 

「ああ、合ってるが…最近コッチに来たのか?」

 

「ええまぁ。ついでに兕丹坊さんって死神の住所とか教えて貰えませんかね?」

 

「…兕丹坊さんなら、今日は流魂街にいないよ。」

 

「へ?あ、ちょっと…。」

 

 話しかけた男はそそくさと何処かへ行った。

 

 …怪しまれたかな?まぁいいや、のんびり探すか。取り敢えず今日はもう日が沈むし、野宿する場所を探すのが先か。

 

 捜索は明日にし、寝床を探すことに決め、そこらの裏路地へ足を進めた。朝まで安全に寝込むには、同じ様に野宿する奴らの側に場所を決めるのが、三日間の逃亡で得た知見だ。それに倣って、野宿する奴らを探すのに裏路地を右へ左へ蛇行し進もうにも、目当ての連中が一向に姿を見せない。1地区は流魂街の中では一番安全な場所らしい。そんな街の道路にホームレスが転がってないって事があるのだろうか。東京にはホームレスや酔い潰れる連中までもが地べたに寝転んでると言うのに。

 

 暫く進むと、何やら騒がしい喧騒が聞こえる。

 

 興味本位に向かい顔を覗かせると…

 

「やめろやぁっ!この変態がぁっ!?フンッ!」

 

「ダ!?お、大人しくしろやこのガキぁ‼︎」

 

「その綺麗な顔腫らしたるぞこらぁ!?」

 

 イタイケな幼女とその子を縄や布でグルグル巻きにせんとする怪しげな二人組との戦闘、もとい誘拐現場を見た。

 

 えぇーっ…

 

 どう言う事や!?全然平和やあらへんやん!千野のオッサン!しかも夜更けに人気のない所で幼女誘拐だぞ!?78地区のチンパン共よりよっぽどタチ悪いよ!人の所業にクラスアップしてるもんよ!

 

「さわんじゃないよこんのブサイクがぁ!?誰かあああ!!」

 

「ブベッ!大人しっブホッ!足蹴りをやめろぉ!」

 

 勝てそう。そう適当に思った束の間、少女が後頭部を掴まれ、顔面を地面に叩き込まれた。

 

 髪を引っ張り持ち上げ、顔面にストレート。相方は助走をつけ腹に渾身の蹴りを喰らわし、

 

「…あっ…」

 

 計3回の攻撃で少女の戦意は項垂れ、声にもならない音を発した。

 

 …

 

 どうやってあの二人を倒そうか。そんな身の程知らずなことを考えた。誘拐犯共の腕や足は、はち切れんばかりに太く、とても重そうだ。あんなので暴行されたらひと溜まりもない。あの少女が身を持って表したではないか。俺は格闘技も護身術も知らない。良いようにボコボコにされて道端に転がるだけだ。だから後ろを向け。振り返って裏路地を出るんだ。。

 

 そう、自分に問いかける。しかし、この足は動かない。

 

「た、助け…」

 

 意識が朦朧とする少女と目が合う。少女がこちらに向け口を開くが、何を言ったかは聞こえない程声量が小さかった。だが確かに伝わった。少女は助けを求めている。

 

 あの少女の顔を見たか?勝ちきそうな可愛い顔が腫れと恐怖で歪んでる。きっと将来美人さんに育つであろう少女の顔を、未来を、大人の欲に塗れた勝手な都合が絶望に染めようとしてるんだ。こんなの間違ってる。そんなのを止めない何て男として恥ずかしいだろ?前に出るんだ。

 

 心の慟哭が耳に届く。

 

俺はそれに従って、屈強な男達へ一歩を踏み出し…

 

「…」

 

 やめよう。

 

 俺は踵を返し、その場から離れんと歩き出す。

 

 一体何を考えてるんだ。こうやって英雄願望働かせたから俺は死んだんじゃなかったのか?この声を聞いたから判断が遅れたんじゃなかったのか?79地区で散々思い知っただろ?あそこには殺し合いや惨殺を楽しむ連中だけじゃない。孤独な奴に憔悴した奴、道端に行き倒れる奴。俺はその悉くを無視して此処にいる。そいつ等は無視して、見た目がいい少女は助ける?そんな差別こそ間違ってる。それにこんな血迷った行動を取って一体何になる?あんな地も涙もない連中に挑んだら確実に死ぬぞ?一回目はマジカルな世界に転生するとか言う奇跡体験が起きた。じゃあ2回目は?2度も奇跡が起きるわけがない。今度こそ本当の死だ。

 

 現場から離れる足は速度を上げる。

 

 もう俺に呼びかけないでくれ。俺はこの世界で面白い可笑しく暮らすんだ。今はまだ霊力もないけど、いつか死神になって、それで…斬魄刀を持って、

 

 

 ……この愚か者が。

 

 

 

「あぁ?何だテメェ。」

 

「何でも良いだろうがよ。」

 

 たとえ、俺の斬魄刀がチートとかで、軌道や走術にも才能があって、藍染とかYHVHとか瞬殺出来る程の力を持ったとして…

 

 心を塞いだままで楽しく転生ライフを過ごせねえだろ?

 

「死にてえのかこのヒョロヒョロがよ。」

 

「おい、あんま時間かけてらんねえぞ。」

 

「ほーん、時間掛けてらんないとな?」

 

 いやー、転生ショックで頭どうかしてたわ。英雄願望?どうせ死ぬ?差別?面白可笑しく暮らす?馬鹿じゃねえの。馬鹿すぎてイマジナリー斬魄刀に罵られる始末だ。

 

 目の前のこいつ等の所業、少女の助けを求める顔。全部網膜に焼き付いちまったんだ。その時点で全身突っ込んでるも同義なんだよ。知らねえフリ何てあり得ねえ。そんな事したら、マジで斬魄刀にあった時に笑われるだろうな。何より俺が笑う。笑って責めるだろうよ。

 

「ガキを守って英雄気取りか?わらわせる。」

 

「いいや、守るのは少女じゃねえ。」

 

「あ?」

 

「テメエ等、よくも俺を巻き込んでくれたな。」

 

「…テメエが勝手に首突っ込んできたんじゃねえか。頭沸いてんのか?」

 

 そう、これは少女を守るための戦いじゃない。目の前のイケ好かねえ連中ぶっ倒して、気持ち良く寝るための戦いだ。汚ねえ地面で、風通しの良いクソ環境で寝入っても、明日の朝、気持ち良い朝日を浴びて目覚める為の。

 

「巻き込んだ責任、取ってもらうぜ。」

 

 

 俺の魂に陰を生む所業は見過ごせねえ‼︎

 

 

 そう、覚悟を決めた瞬間、

 

 

 体の内側から、どっと何かが噴き出す感覚に襲われた。

 

 

 同時に、足に込めた力を解き放ち、全力で駆け出した。

 

 これなら、いける!

 

 そう、確信を持った。

 

「うおおおおおおぉ!!!」

 

 思いっきり助走を付け、誘拐犯の一人に殴りかかる。

 

「フンッ!」

 

「フゴッ!?」

 

 渾身の一撃は見事に避けられ、カウンターを腹に喰らった。

 

「フッ!」

 

「オラァッ!」

 

「アブッ!ブベッ!?」

 

 腹を抱えて倒れると、暴君のもう一人も加わり袋叩きが秒で始まった。

 

 「ちょ、ちょっと待ってえええ!??!!??」

 

 あれええええ!!??!?俺弱すぎだろおおおおぉ!??!?

 

「んだこいつ、マジで薬でもやってんじゃねえか?」

 

「こんなのでどうやってガキ助けようってんだか。フンッ!フンッ!」

 

「グヘェッ!ちょ、助けてえええええええ誰かあああああ!!!!?!?!?」

 

 数々の葛藤を乗り越え、満を辞して誘拐犯二人に挑み始まった戦いは、物の見事に防戦一方のまま、戦況が覆ることは無く。

 

 俺はそのままタコ殴りにされ、意識が途絶えた。

 

「おい、テメエ等。」

 

「お、おめえ等元楼の所の…!」

 

そんな会話を耳に入れながら。

 

____________________

 

「んぁ…」

 

「おお、起きたかい。」

 

 …知らない天井と布団と婆さんとetc。

 

「いてて、」

 

 起きあがろうとすると全身に痛みが走る。顔も触ればパンパンに腫れている。

 

「動かん方がええ。」

 

「婆さん、ここは…」

 

「元楼。単なる餅屋さね。」

 

「は、はぁ」

 

「覚えてないんかえ?うちの娘を攫う不届きな連中を足止めしてくれたそうさね。」

 

 あぁ…、足止めってか、二人とも薙ぎ倒す気で向かって無様に返り討ちにあったが正解なんだが…。ってか、

 

「その、うちの娘ってのは?」

 

「孫さね。アンタが時間を稼いでくれたおかげで、うちの若いもんが間に合うことができた。感謝するよ。」

 

「助かったのか。そりゃよかった。」

 

 まぁそういうことでいいか。

 

「喉乾いたろう?お茶持ってくるよ。」

 

「あぁ、サンキュー…」

 

ぐううぅぅぅぅ〜

 

「餅も持ってくるさね。」

 

「はははっ、いやー何から何まで…」

 

 

 うおおおおお腹減ってるうううううう!!!?!!?!!?!??

 

「婆さん!!!」

 

「うお!?な、何だい。」

 

「俺、腹減ってるよ!霊力が身についたんだ!」

 

 い、いつの間に!

 

「…腹が減るのは初めてかい?良いから寝てな。立つと全身痛むだろう?」

 

「え?…うおおおお!?!!??」

 

 全身痛ええええええ!!?!!???

 

 勢いで立ったのか、そそくさと寝床に潜り、痛みが引くまで悶えた。その間にお茶と餅を取りに行った婆さんが戻ってきた。

 

「痛みは引いたかい?」

 

「え、えぇ…」

 

 霊力が身についた喜びは、全身打撲の痛みに虚しく消沈した。ゆっくりと体を起こし、お茶に口を付けた。

 

「うめぇ。」

 

「そりゃよかった。」

 

「何であの娘は攫われたんだ?」

 

「さぁね。今頃不埒物の拷問の最中だろうけど、大方世界一可愛いから金になると思ったじゃないかい?」

 

 は?

 

「そっか。世界一可愛いからか。そりゃしょうがねえか。」

 

「しょうがないで誘拐を容認するのかい?それ食ったらさっさと帰りな。」

 

「先に冗談言ったのそっちだろ!?」

 

「冗談さね。」

 

 このババァ…。

 

「アンタが居なかったら、本当にあの娘がどうなってたか分からなかった。改めて礼を言うよ。」

 

「いいって、俺の都合で勝手に首突っ込んだだけさ。」

 

「これは借りってことにしとくさね。何かあれば、私らが相談に乗るから、いつでも戸を叩くといいよ。」

 

 おっと、これはチャンスか?

 

「…なら、早速その借り、返してもらおうかな。」

 

「娘はやんないよ。」

 

「いらねえ。俺をここで働かせてくれ。」

 

「今の住居はどうするのさ。」

 

「そもそもそんなの無えよ。死神になりたくってよ。でも霊力が無えから、兕丹坊って死神なら霊力の会得方法とか知らねえかなって。」

 

「それでこっちに来たわけかい。でも兕丹坊さんの下へ行く予定は無くなったようだね。」

 

「ああ。何でか知らねえけど、霊力はこの通り手に入れたから、あとは真央霊術院の入学試験までの時間と、食い扶持をどうにかする必要がある。」

 

「それでここで働かせろっかい?まぁ、入試なら大体半年後だし、丁度人手不足気味だったから、べつにいいよ。半年間、ここに…」

 

「?」

 

「もしや、長期的にこの店に住むことで娘と仲良くなる算段かい?」

 

「餅、美味かったぜ。」

 

 就職が決まったとこでボケの一切を無視し寝込むことに決めた。




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