Hololive SEED DESTINY─止まらない運命─   作:疲れた斬月

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浴衣デート回です。

皆さん大好きな「あれ」が遂に復活します。

それではどうぞ!


第9話「火薬に火を点けなければ花火は上がらない」

「夏祭り…ですか?」

 

「うん、この近くであるんだって~」

 

夕方、写真撮影と海水浴をたっぷりと楽しみ、ホテルの部屋で寛いでいた時。

 

部屋に押し掛けて来たロボ子がそんな話をして来た。

 

因みに彼女は既に朝顔の花が描かれた真紅の浴衣を身に纏っており、行く気満々である。

 

「YAGOOが浴衣も用意してくれたんだ~♪」

 

「本当用意が良いな、YAGOOのおっさんは」

 

「シン君のもあるよ~、ほら」

 

「マジですか」

 

ロボ子が取り出したのは、濃紺色の男性用浴衣。

 

「じゃあ下で待ってるね~」

 

そう言ってロボ子は部屋を出て行った。

 

残されたシンは、髪を掻きむしりながら1人ごちる。

 

「…浴衣って、どうやって着るんだ?」

 

 

 

 

「お待たせしました~…」

 

「遅かったわね」

 

「あはは、浴衣なんて初めて着たんで…」

 

浴衣に着替えてエレベーターから出たシンに、ちょこが声を掛ける。

 

ネットで調べながら浴衣を着終え、ホロライブの面々が待つホテルのロビーへと下りる頃には、既に20分が経過していた。

 

既に皆浴衣に着替えており、今度着方を教わっておこう…とひっそりとシンは考える。

 

…因みにアスランは更に15分遅れてやって来た。

 

 

 

 

「色々あるんだな…」

 

道中の屋台で購入したホットドッグを齧りながら、シンはぼそりと呟く。

 

辺りは既に人で賑わっており、綿飴、タコ焼き、焼きそば、お好み焼き、かき氷、林檎飴、輪投げ、金魚すくい等、様々な屋台が並んでいる。

 

これを全部見て回るのは大変だろう。

 

…その中に金髪と銀髪の2人組の青年が経営する炒飯の屋台や、チリソース派の女性店員とヨーグルトソース派の中年男性店員が揉めているケバブの屋台があったが、シンは見なかった事にした。

 

というより、見てはいけない様な気がした。

 

「ア"ア"ア"ア"ア"」

 

何処かで聞いた様な声が響く。

 

声の主を探して辺りを見回すと、射的の屋台で銃を片手に奇声を上げるちょこの姿があった。

 

「ハハハ、残念だったな姉ちゃん」

 

「うぅ~…」

 

涙目で唸るちょこを見兼ねて、シンも同じ屋台へと向かう。

 

「おっさん、俺もお願いします」

 

「はいよ、1回500円ね」

 

代金を支払って銃と弾を受け取った後、傍で涙ぐむちょこに声を掛ける。

 

「何が欲しいんですか?」

 

「え?えっと…あの縫いぐるみ」

 

ちょこが指差した先にあるのは、やや大きめな黒猫の縫いぐるみ。

 

「…わかりました」

 

一気にシンの目付きが変わる。

 

こういうのは高価な物、大きな物から狙ってはいけないという鉄則があるのだが、簡単に取れる様な小さな菓子類等は的が小さくて狙いづらいという落とし穴がある(作者談)。

 

銃に弾を込め、狙いを定める。

 

そして…

 

―――銃声が響く。

 

 

 

 

 

「マジかい、あんちゃん…」

 

「ガチぃ?」

 

結果、シンは3発でちょこが欲していた縫いぐるみを仕留め、残りの4発で隣にあるチョコ菓子の詰め合わせを撃ち落とした。

 

「あっ、これ、どうぞ」

 

撃ち落とした景品をちょこに手渡すシンの顔からは、既に先程の戦士の雰囲気は消え失せていた。

 

「…ありがとう、シン様」

 

「ちょこ先~!かき氷買って来たよ~!」

 

其処にホロライブ2期生である魔法使いの少女【紫咲シオン】と紫玉ねg…ゲフンゲフン、メイドの少女【湊あくあ】の2人組が人混みを掻き分けて来る。

 

2人の手には苺、レモン、ブルーハワイのかき氷が握られている。

 

「あっ!?」

 

次の瞬間、あくあが大きく態勢を崩した。

 

後ろにいた他の客がぶつかったのだ。

 

「「!!」」

 

彼女が手に持っていたかき氷が宙を舞い、ちょこの胸元へと吸い込まれ…

 

 

 

 

「うっわ、冷てっ…大丈夫ですか?」

 

…間に割って入ったシンの浴衣をびしょ濡れにした。

 

「え、ええ、大丈夫よ」

 

「うわー!シン君ごめん!」

 

慌てて手に持っていたポケットティッシュでシンの身体を拭き始めるあくあ。

 

「シン様こそ、折角の浴衣が…」

 

「別に良いですよ。先生の方が浴衣似合ってますし、そっちの方が汚れたら大変だ」

 

「…っ」

 

優しく微笑むシンの顔に、ちょこの胸がトクン、と微かに高鳴りを覚える。

 

───あれ?

 

ちょこ、何でこんなにドキドキしてるの?

 

「ってかあくあ先輩、そのティッシュ何ですか?」

 

「…くじ引きの残念賞」

 

そんなちょこを尻目に、シンは何食わぬ顔であくあが持っていたティッシュについて雑談していた。

 

この男、平然と臭い台詞を言ってしまえる割に鈍感属性持ちなのである。

 

そんなシンをジト目で見詰めるシオン。

 

「どうしたんです?シオン先輩」

 

「…無自覚女誑し」

 

「はぁぁ!?」

 

唐突に女誑し呼ばわりされ、頭に血が上るシン。

 

一方のちょこは、シオンに自身の胸の内を見透かされた事に気恥ずかしさを覚えていた。

 

結局、アスランによる仲裁が入るまで2人の言い争いは続いた。

 

 

 

 

「そろそろ花火大会が始まる時間ね」

 

「そうですね」

 

時刻は既に7時45分を回っており、辺りは暗くなり始めている。

 

8時から花火が上がり始め、祭りも終わりを迎えるのだ。

 

「花火を間近で見られたら、凄くロマンチックでしょうね~」

 

「いや、流石にそんな事できる訳…」

 

其処まで言った所で、シンの言葉が止まる。

 

ちょこが怪訝な顔を浮かべながら、シンの顔を覗き込む。

 

「…ありました、傍で花火見る方法」

 

「ガチぃ?」

 

「ついて来て下さい!」

 

シンがちょこの腕を引いてやって来たのは、ホテルの駐車場。

 

其処に停めてある黒と黄色で彩られたサイドカーに近付き、ヘルメットを投げ渡す。

 

「シン様、バイクなんて持ってたの?」

 

「先月買った俺の愛車です」

 

…ボディに『SMA○T BRAIN』とかいうロゴが刻まれているのは気にしないでおこう。

 

「じゃ、行きますよ!」

 

そう言ってシンはサイドカーのエンジンを噴かし、ホテルの駐車場から走り去った。

 

道中、シンはずっと考えていた。

 

「(…この角どうなってんだ?)」

 

…ヘルメットから()()()()()()()()()()ちょこの角を見ながら。

 

 

 

 

 

 

「これって…」

 

「…こんな形でまた動かす事になるなんてな」

 

目的地に着いたシンとちょこの目の前にあるのは巨大な扉。

 

シンが扉の近くにあるタッチパネルにパスワードを打ち込むと、ゴゥン…と重々しい音が響き渡り、ゆっくりと扉が開いて行く。

 

そして、扉が完全に開くと、其処にあったのは…

 

「よう…よく眠れたか?相棒(デスティニー)

 

…涙を流し、大きな翼を背負った、鉄灰色の巨人の姿。

 

 

 

 

 

 

コックピットに座り、機体のセットアップを開始する。

 

「ねぇ、シン様」

 

「何ですか?」

 

起動シークエンスを続けながら、後部に増設されているサブシートに座るちょこからの質問に答える。

 

「まさか…これで花火の近くまで行くって事?」

 

「正解です」

 

コックピット内の各種コンソールが起動し、点灯して行く。

 

システムの起動と共に中央のディスプレイがポップアップし、OSが起動する。

 

『Gunnery

 United

 Nuclear-

 Deutrion

 Advanced

 Maneuver

 SYSTEM

 

ZGMF-X42S DESTINY』

 

OSの起動が確認され、デスティニーの目が点灯する。

 

「シン・アスカ、デスティニー、行きます!!」

 

装甲がトリコロールカラーに色づき、赤い光の翼を広げながらデスティニーが空を翔る。

 

 

 

 

 

「綺麗ですね~」

 

「ああ、そうだな」

 

祭りの会場から少し離れた所にあるベンチで、アスランはのどかと共に花火を見上げていた。

 

「今日はリードしてくれてありがとう。こういった催しは初めてだったから、助かった」

 

「いえ、お役に立てたなら良かったです!」

 

所謂「良い所育ちのお坊っちゃん」であるアスランにとってこういった騒がしい催しは余り馴染みが無く、今日はのどかにサポートして貰いながら祭りを楽しんだ。

 

何処と無く良い雰囲気が漂う2人。

 

―――グオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

「「!?」」

 

そんな2人の上空を、轟音を上げて何かが飛んで行く。

 

驚いた2人が自分達の真上を飛んで行った何かを目で追うと、赤い翼を広げた巨大な物体が飛んで行った。

 

「い、今のって…」

 

「…デスティニー…だったな」

 

ぽかんとした表情を浮かべる2人の視界で、デスティニーは周りの風景に溶け込む様に姿を消した。

 

 

 

 

「…これで周りからは見えない筈ですよ」

 

「凄い…!」

 

ミラージュコロイドを起動させ、姿を消したデスティニーのコックピットの中でシンとちょこは花火を鑑賞する。

 

間近で見る花火は迫力も美しさも段違いであり、シンも思わず息を呑んでしまう。

 

本当は嘗ての相棒を痛々しい姿のままにしておきたくはない、という酷くロマンチストじみた考えで修復したのだが、まさかこんな形で役に立ってくれるとは。

 

目の前で次々に打ち上げられる花火を録画し、デスティニーのデータベースに保存して行く。

 

それは、再び役に立ってくれたデスティニーへのちょっとしたご褒美。

 

「シン様」

 

自分の隣で花火を眺めていたちょこが、ふと声を掛けて来る。

 

「…ありがとう」

 

そう言ったちょこの顔がほんのり赤くなっている様に見えたのは、きっと花火のせいだろう。

 

「…どういたしまして」

 

シンが返事をしたのと同時にちょこの傍に打ち上がった花火がハートの形をしていたのは、きっと深い意味は無い筈だ。




はい、ちょこ先とのフラグ建築回でした。

デスティニーの後部座席については、緊急時や特殊任務用として後部に格納されており、2人で搭乗する時にのみ現れる、という本作の独自設定です。

ガンダムAGE-3みたいなもんだと思って下さい。

因みに道中出て来た怪しい人達は多分もう出て来ません。

炒飯コンビ&ケバブコンビ「「「「!?」」」」

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