Hololive SEED DESTINY─止まらない運命─ 作:疲れた斬月
メルちゃんと同じく今日が誕生日のあの魔女です。
「…これで一先ず買い出しは終了か」
そう呟きながら、沢山の食材がぎっしりと詰まった買い物袋を持ってスーパーから出て来るシン。
今日は10月31日。
一般的にハロウィンと呼ばれる日であり、同時にメルの誕生日でもある。
誕生日ライブ後の打ち上げで作る料理の食材を仕入れる為、シンは数日前から四方八方走り回っていた。
袋を手に、自身の
「…ん?」
「…!…、…!!」
「…、…♪」
何やら、長い金髪の女性と2人組の男が言い争っている。
若干離れた所にいる為、内容は聞き取れないが、女性の方はかなり困っている様子を見せている。
「はぁ…仕方無いなぁ…」
困っている人を放っておくのも何だか後味が悪い。
シンはその男達の元へ歩みを進めた。
「(めんどくさいのに絡まれたなぁ…)」
私…『ニュイ・ソシエール』にとって今日は厄日なのだろうか。
折角の誕生日だと言うのに、よりによってナンパに出くわすとは…。
さっきから散々断ってるのにしつこく食い下がって来るし、本当にめんどくさい。
私が本気出せば軽く捻り潰してやる事など雑作も無いが、余り騒ぎを起こすのも億劫だ。
はぁ、カッコ良く助けてくれる白馬の王子様でも現れてくれないもんかなぁ…
「…おい、そこのあんた達」
声がした方向にいたのは、黒い髪に赤い瞳の、若干ショタっぽい雰囲気の漂う超絶イケメン君。
…願ってから王子様登場するの、早すぎて草。
あれ?何かこのイケメン君、どっかで見た様な…?
「あ?何だこのガキ?」
男達の意識が
どう考えても歳上且つ柄の悪い男達を目の前にしていながら、彼は全く怯む様子を見せない。
「そこの女の人嫌がってんだろ?さっさと離してやれよ」
「んだテメェ?ブチのめされてぇか!」
「ガキンチョ、痛ぇ目に会いたくねぇならさっさと帰んな」
口々に脅迫の言葉をぶつける男達だが、シンは極めて冷静に振る舞いながら、袋の中から胡椒の瓶を取り出し、弄り始める。
「…ってか、あんたとあんた、この前見た事あるぞ?メル先輩に痴漢してたヤツだろ?」
「…?あっ!テメェあん時の!!」
「よくもやってくれたな!!」
どうやら向こうも思い出したらしく、怒りを露にしながら食って掛かる。
「そりゃこっちの台詞だよ!で、何だ?痴漢の次はナンパか?懲りないヤツだな」
「んだとこのクソガキがぁ!」
男の1人が拳を振り上げる。
シンは少しも慌てる事無く、手に持っていた胡椒の瓶の蓋を開け、目の前の男達にぶちまけた。
「うわっ!?目が…ぶぇっくし!?」
「へーっくし!この野郎、やりやがっ…えっくしっ!」
「逃げますよ!」
「うわっとと!?」
男達がくしゃみと目に入った胡椒で動けなくなっている隙を突き、シンはニュイを連れて近くに停めてあるサイドカーの元へ走る。
ニュイが座ったのを確認すると、一旦彼女に荷物を預け、サイドカーのアクセルを吹かしてあっという間に走り去った。
「ふぅ…此処まで来れば大丈夫でしょ」
先程のスーパーから1km程離れた所にあるコンビニの駐車場にサイドカーを停めると、シンはヘルメットを外す。
「いや~、ありがとねお兄さん!助かったわ!」
「いえ、それにしても…何してたんですか?」
「別に?買い物してたら絡まれてさ~。誕生日なのにもう最悪!」
心底うんざりした様に言いながらニュイもヘルメットを外す。
「へぇ、誕生日なんですか?奇遇ですね。俺も事務所の先輩が今日誕生日なんです」
「成る程ね~、事務所の先輩がねぇ。それでその大量の食材って事か」
「あれ?ソシエじゃん!何やってんの?」
声がした方向を振り向くと、赤い髪をバッサリとショートヘアにした女性がいた。
「おっ、アンちゃん!」
「あれ?隣の男の子って…」
「あ~、ナンパされてたら助けてくれたんだよね…って、アンちゃん?」
ニュイの話にはろくに耳を傾けず、隣にいるシンをまじまじと覗き込む
「…あーっ!君あれだよね?シン・アスカ!」
「え?『ホロライブAnother』の?」
驚いた様に声を上げる赤髪の女性。
因みに、ホロライブAnotherとは、従来のどの期生にも属さない、ホロライブ初の男性Vtuberという事でシンの為にわざわざ用意された特別枠であり、此処からホロスターズの誕生へと繋がって行く…多分。
要するに作者による後付け設定である。
「俺の事知ってるんですか?」
「ま~同業他社の人間だからね~。因みにあたし『アンジュ・カトリーナ』。にじさんじ所属だよ」
「え?あの『にじさんじ』ですか?」
「他にどのにじさんじがあんの?あ、私『ニュイ・ソシエール』だよ」
そう言って自己紹介する2人の女性。
『にじさんじ』とは、ホロライブと双璧を為す大人気Vtuberグループであり、どちらかと言うと男性Vtuberの方が強い人気を誇っている。
こういった勢力を二分するグループというと基本ライバル関係にある事が多いが、ホロライブとにじさんじのタレント同士の仲は非常に良好であり、コラボ等も頻繁に行っている。
一方で、技術面などのライバルとして競い合うべき部分はしっかりと競い合っており、切磋琢磨して互いを高め合う関係が築かれている。
「ホロライブ所属のシン・アスカです。改めて宜しく」
「はい、宜しく…ってかソシエ、時間大丈夫?」
「え?…あーっ!もうこんな時間!」
腕時計を見て声を張り上げるニュイ。
「どうかしたんですか?」
「私の誕生日ライブの準備があるの!」
「ライブか…俺もメル先輩のライブの準備しないと…あっ、そうだ!」
「「?」」
『こんかぷ~!ホロライブ1期生、夜空メルです!』
『こんにゅい~!にじさんじ所属、ニュイ・ソシエールだよ~』
「…よし、作戦は成功だな」
スマホで2人のライブ配信の様子を確認すると、シンは満足そうに微笑む。
「すいません、俺の無茶振りに付き合って貰って」
「別に良いよ~、一々視聴者取り合うのも面倒だしね」
気の抜けた声で答えるのはおかゆ。
あの後ホロライブとにじさんじ、双方の事務所に相談し、合同ライブにしてしまおうという提案を急遽飲んで貰ったのだ。
別々に同じタイミングでライブを行うと、瞬く間に視聴者の取り合いになってしまい、ホロライブとにじさんじの間に変な溝が生まれてしまうかもしれない。
ならいっそ合同ライブにしてしまった方が視聴者も多く確保できるし、話題性も上がるだろうと判断したのだ。
「にじさんじの皆さんも、協力ありがとうございました」
「いえいえ!だって合同ライブなんて面白そうじゃないですか!」
シンの謝罪ににこやかに答えるのは『鷹宮リオン』。
ニュイと同じく、にじさんじ所属のVtuberである。
メルとニュイのライブにゲストとして参加すべく、にじさんじからもアンジュを始めとした何人かのタレントが会場に集まっていた。
「そう言って貰えて良かったですけど…それはそれとして、取り敢えずこれからパーティー用の料理作り始めるんでそこのコアラ連れ出しといて下さい。動物は衛生的に問題あるんで」
「だれがコアラだ!ボクはいかいのおそろしいあくまだぞ~っ!」
シンがそう言って摘まみ出して貰う様要求したのは『でびでび・でびる』。
コアラに見えるがれっきとした悪魔であり、角や翼もちゃんとある。
人間に近いちょこやトワに比べて、この差は何なんだろうか?
「皆さ~ん、そろそろ出番ですよ~」
「「「「「は~い!」」」」」
友人Aに呼ばれてぞろぞろと出て行くゲスト達。
彼女達を見送りながら、シンはパーティー用の料理を準備し始める。
食材を凄まじい速度で切り刻みながら2種類の鍋を同時に操作し、オーブンでピザやグラタンを焼いて行く。
戦争で家族を喪い、身の回りの世話を1人で行わなければならなくなったが故か、この男の家事スキルは異常なまでに成長してしまった。
今やホロメンの料理上手組と10回食戟をやっても5、6回は勝ててしまう。
そして何より、料理を振る舞う相手がいると、自然と作るのにも気合いが入るというものだ。
「~♪」
気が付くと鼻歌を奏でる余裕さえ出て来る。
2人のライブを楽しみながら、圧倒的な手際の良さで料理を進めて行くシン。
彼女達を見ていると、自分も腕によりを掛ける甲斐があるというものだ。
「よし、良い感じだ…!」
どんどん手が早くなる。
勢いのまま、1品、また1品と作りあげて行く。
『寄せて寄せて♪上げて上げて♪そ~れそ~れそ~れそ~r』
その作業妨害用BGMが流れ始めた途端、シンはモニターの電源をぶち切った。
「…ライブ、アーカイブで見るか」
そう呟いて、寂しい無音な空気のまま、黙々と作業に没頭し続けた。
用意したパーティー料理自体は皆に大好評だったのがせめてもの救いと言えよう。
おニュイのエロカッコいい歌声は定期的に聴きたくなる。
それでもアンジュと一緒に爆乳音頭は草()