Hololive SEED DESTINY─止まらない運命─   作:疲れた斬月

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予選レース開始。

GTアカデミーへの切符は手に入るのか?


第23話「幾らリアルなシミュレーションでもゲームは結局ゲーム」

「今の所17位か…でもまだ10周、取り返せますよ。落ち着いて」

 

「…っ」

 

遂に開始された予選レース。

 

GTアカデミーに入るには、試験官より先にゴールが絶対条件だ。

 

本来であれば無用なバトルは避けるべきなのだが、前にいるターゲットより早くゴールしなければならないというシステム上、どうしても先の順位に進む必要が出てしまう。

 

周回数を重ねながら焦らず、冷静に、着実に順位を上げて行く。

 

15位、14位、13位…

 

「っ!」

 

「くそっ、2台で塞がれた…!」

 

11位と12位の順位争いによってラインが完全に塞がれてしまう。

 

ならば…

 

「外側から抜く!無理矢理でも…!」

 

リスクを承知でラインから外れる選択を下す。

 

若干ダートに乗り上げながら、2台を纏めてオーバーテイク。

 

「よし!良いぞ!頑張れ!!」

 

5周目にして11位。

 

黒いGT-Rの順位を見ると、5番手にまで陥落して来ている。

 

じわじわと距離が詰まって来ているのを把握しながら、メルも順調にマシンを飛ばす。

 

「ッ!」

 

突如、前の車がスピンアウトする。

 

反射的にハンドルを回して巻き込まれるのを回避。

 

マリオカートと違って圧倒的リアルを追求したグランツーリスモは、本物のレース同様に僅かな反応の遅れや判断ミスが致命傷に繋がる。

 

故に、メルは全神経を研ぎ澄ませ、バーチャルレースの世界へと意識をのめり込ませる。

 

更に10位、9位、8位、7位と順位を上げていくと同時に、周回数も残り4周、3周、2周と減って行く。

 

そして、ファイナルラップに突入する直前で…

 

「っ!いた!アイツだ!!」

 

6番手を走っている内に、遂に追いついた。

 

…黒いGT-R!

 

「メル先輩、落ち着いて!アイツさえ抜けば終わりだ!!」

 

「わかってる!ここまで来たんだから…絶対に勝つ!!」

 

ぎり、と音が聞こえる程ハンドルを握る手に力を入れる。

 

無理矢理抜くのは禁物だ。

 

今は置いて行かれない様に慎重について行って、最終コーナーまでに隙を狙う!

 

前とは既に1秒差も無い。

 

慎重に、丁寧に、確実に抜ける隙を伺い…

 

「インが空いた!!」

 

「ッ!!」

 

コーナーで黒いGT-Rがインを空けた。

 

極限の集中力を発揮するメルはそのチャンスを逃さない。

 

若干無理矢理車体をねじ込み…遂に合格ラインを突破した。

 

「よし!」

 

そして、マシンは最終コーナーを通過立ち上がり…

 

目の前のゴールラインを、遂に踏み越えた。

 

「よっしゃああああああああああああ!!」

 

「はぁ…やった!」

 

結果は5位。

 

ショップ内に盛大な拍手喝采が反響する。

 

「おめでとうございます!!それではこちらをどうぞ!」

 

店員から渡されたのは、封筒の中に入った合格証明書。

 

「メル先輩…!やった!やりましたね!」

 

「うん…!メル、勝ったよ!」

 

これで、彼女を新しい道へ進める事ができる。

 

その事実に歓喜しつつ、シンはメルの身体を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

「一体何でこんな事を!?メルに何をさせようとしてるかわかってるんですか、貴方は!?」

 

出立の3日前、家に1人の女性が訪れ、批判の声を上げていた。

 

やって来たのは【夜空あやみ】。

 

イラストレーターとしても活動しているメルの母親だ。

 

彼女もまた吸血鬼であり、メルと殆ど変わらぬ歳の様な若い外見をしている。

 

「じゃあほっとけば良かったってんですか!?あの抜け殻みたいになったままのメル先輩を!!」

 

「そうは言ってません!でも…レーシングカーに乗るんでしょう!?どれだけ危険か!!」

 

「ママ、心配してくれるのはありがたいけど…もう決めた事なの」

 

シンとあやみとの言い合いの中にメルが割って入る。

 

既に荷物を纏め、出発する準備は完了している。

 

「…誰が主催者かもわからない合宿なんだよ!?それに、普通の車を運転した事も殆ど無いのに!」

 

「大丈夫だよ!行くって決めた時から、ずっとレースなら経験してるから!」

 

「っ、それはゲームの中ででしょう!?本当のレースとは違う!!」

 

話は平行線なまま、時間だけが過ぎて行く。

 

「…大体、何でそこまでレースに拘るの?またアイドルに戻っても良いじゃない!確かに、もうホロライブには戻れないかもしれないけど…それでも、別の事務所でやり直せる様に、ホロライブの皆さんが今だって頑張って交渉してくれてるのに!!」

 

「っ、それだけはダメ!絶対に!!」

 

肩を震わせながら、メルは自室のテーブルの上に置いてある写真を手に取る。

 

嘗てホロライブの皆で撮った集合写真。

 

「…ホロライブの皆の事も、かぷ民の皆の事も、全部裏切ったメルはもうアイドルに戻っちゃいけない…何があっても、同じ舞台には立っちゃダメなの」

 

「メル…」

 

「…それでも、皆メルがいなくなる事を悲しんでくれた。辛い筈なのに、メルの事を忘れずに前を向く事を選んでくれた。だから…」

 

写真をテーブルの上に置き、真剣な表情で向き直る。

 

「…アイドルとは違った形で、また皆に顔を見せたいの。そして、伝えたい…皆を裏切って、傷付けちゃってごめんなさいって」

 

己の過ちを十字架として背負いながらも、前へ進む覚悟を決めた眼差しに、あやみも何も言い返せなくなる。

 

「その為にシン君が用意してくれたのが、レースだった…だから行きたい。シン君がくれた可能性を、シン君の優しさを、無駄にしたくない!」

 

「…」

 

どうすれば良いのだろう。

 

母親として、娘に危険な事などさせたくない。

 

だが…前に進もうとしている娘の邪魔をするのが、正しいとも思えない。

 

「あやみママ、メルちゃんの事…信じてあげて下さい」

 

葛藤するあやみに、そらが優しく声を掛ける。

 

「ママさんの気持ちはよくわかりますし、俺だってこの選択が正しいのかなんてわかんないです。でも、俺は…メル先輩の彼氏のくせに…メル先輩が苦しんでる時に、何もしてやれなかった…!」

 

過ちを犯してしまった本人が1番悪いのは、どう足掻いても覆す事のできない事実だろう。

 

だが、苦しんでいる彼女に自分が手を差し伸べていれば、この悪夢の結末は避けられたかもしれない。

 

―――――なら…2番目に悪いのは、俺だ。

 

彼氏のくせに、恋人である筈のメル先輩を救えなかった。

 

彼女のファンを泣かせてしまった罪は、俺にもある…!

 

「…だから、メル先輩に新しい道を示すぐらいはしたいんです。もう…とっくに手遅れだけど…それでも、メル先輩が立ち直る為に、できる事は全部やってやる!!」

 

手を差し伸べるのが遅すぎた後悔と、それでも彼女を救いたいという情熱の込もった力強い眼差しに、何も言えなくなってしまう。

 

十字架を背負いながらも新しい道に進もうとする娘と、曲りなりにも娘を救おうとしてくれている彼等に対し、自分が代わりとなる救済案を持ち合わせていない事を認識してしまったからだ。

 

「あやみママ…メル様の事が心配なのはわかるけど、メル様自身の気持ちもわかってあげて」

 

「何かあったら団長もメル先輩の事支えっから、今だけはやりたい様にやらせてあげて貰えんか?」

 

ちょことノエルからの説得を受け、あやみも遂に覚悟を決める。

 

「…」

 

何も言わず、そっとメルを抱き締めるあやみ。

 

「ママ…?」

 

「怪我、しない様にね」

 

「…っ!うん!」

 

メルもまた、母の身体を抱き返す。

 

この温もりを与えてくれる皆の想いに応えると誓う為に。

 

 

 

 

 

 

そして、出発の日。

 

「メル様、忘れ物は無い?」

 

「うん」

 

家の外には、既にアカデミーのスタッフが運転手を務める車が待機している。

 

「メルちゃん、頑張ってね」

 

「気を付けてね」

 

「着いたら連絡下さいね」

 

「何かあったら、相談して下さいね」

 

そら、ちょこ、ノエル、シンが激励の言葉を贈り、順番に抱擁を交わす。

 

「…辛くなったら、何時でも帰って来て良いからね」

 

「大丈夫。今度は最後までやり遂げてみせるから」

 

最後に、母であるあやみ。

 

「…じゃあ皆…行ってきます!」

 

新たな決意を秘めた顔で、メルは車に乗り込む。

 

期待や不安、様々な気持ちが入り混じる中、5人は発進する車の後ろ姿が見えなくなるまで見守っていた。




未だに心苦しいものが消えずにいるので、EXPOは見送ろうと思います。

行かれる皆様はどうぞ楽しんで来て下さい。
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