Hololive SEED DESTINY─止まらない運命─   作:疲れた斬月

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ひたすら訓練に明け暮れるメル。

そんな彼女の心に触れる存在が1人。


第26話「休むのも仕事の内、これは法律でも決まっている」

「はぁ…はぁ…あと、10セット…!」

 

誰もいないトレーニングルーム。

 

様々な機材を使ってトレーニングに明け暮れるメルの姿があった。

 

全身から滝の様な汗を流し、肩で息をしながらも、その瞳は恐ろしい程ギラついており、まるで取り憑かれたかの様に次のトレーニングマシンに歩みを進める。

 

「えい」

 

「ひゃあっ!?」

 

その首に冷たい物が押し当てられる。

 

「こ、小町ちゃん!?」

 

振り向くと、ペットボトルのスポーツドリンクとタオルを持った永遠の姿が。

 

「精が出るのは良いけど、無理は良くない」

 

そう言ってメルの身体をタオルで拭く永遠。

 

洗剤の香りとふわふわとした感触が顔に伝わり、少しずつ頭が冷えて行くのがわかる。

 

汗を拭き取ると、今度は右手に握られているスポーツドリンクを渡して来る。

 

「飲んで」

 

「…ありがとう」

 

ペットボトルを受け取り、キャップを開けて中身を飲む。

 

相変わらず味はいまいちわからないが、喉を通った冷たい液体が全身に浸透して行く感覚が心地良く、あっさりと飲み干してしまう。

 

気が付くと、血の代わりにマグマでも流れているかの様に熱かった身体の感覚も元通りになっていた。

 

「何で、そんなに躍起になってるの?」

 

「えっ…」

 

「何がそんなにメルを追い詰めてるの?何だか…見てて、怖い」

 

「…」

 

思わず押し黙ってしまうメル。

 

何としてもプロにならなければならない…その理由を話す事への強い抵抗と恐れが、メルの声を喉の奥底へと押し留めてしまう。

 

【元ホロライブの夜空メル】という色眼鏡を抜きにして自分を見てくれた、初めての友達。

 

もし自分の経緯を話せば、彼女までいなくなってしまうかもしれない。

 

無自覚とは言え、自分を孤独から守ってくれている彼女すら離れて行ってしまうかもしれない。

 

それが…怖かった。

 

「…何に苦しんでるのかは知らない。でも、話すだけでも楽になると思う。だから話して」

 

「っ…メル、は…」

 

話そうと思っても、上手く声が出てくれない。

 

「…大丈夫。どんな秘密があっても、ちゃんと受け止めてあげるから。今は言える範囲で良いから、全部話して」

 

「…っ」

 

メルの心を覆っていた溶けぬ氷に、罅が入り…遂に、崩れた。

 

 

 

 

 

「…そうだったんだ」

 

「…幻滅した?」

 

「ううん、私がメルの事を知らないのを不思議がってた理由がわかって、納得しただけ」

 

遂に永遠に全てを打ち明けたメル。

 

軽蔑されるかと覚悟していたメルは、至って普通に接して来る永遠に若干の困惑を覚える。

 

「…案外、似た者同士だね。私とメル」

 

「え?」

 

「私もお父さんとお母さんがレーサーだから、色んな眼で見られてた。昔から」

 

そして、今度は永遠が自身の過去を語り始める。

 

「このアカデミーに来た時も、親の七光とか、コネ入学とか…羨む様な眼、妬む様な眼で見られて来た。だから…メルの気持ち、多少はわかるつもり」

 

「…っ!何もわかってないよ!」

 

反射的に叫ぶメル。

 

「小町ちゃんは、それで誰か傷付けたりした訳じゃないでしょ!!メルは…メルは…!バカみたいな間違いを犯して、かぷ民の皆を!ホロライブの仲間を!全部全部裏切った!!傷付けた!!最低最悪なクズ野郎なんだよ!!!」

 

焼け付く様な痛みが喉を走り、血の味が口に広がるが、構う事も無く叫ぶ。

 

もうファンの皆に会えない、仲間と同じステージに立てない悲しみ。

 

取り返しの付かない愚行を犯した自分への怒り、憎しみ。

 

自分の身をズタズタに引き裂いても鎮まらない黒い激情に駆られながら、言葉を血の様に吐き出す。

 

「…メル、それは違う。自分の過ちで傷付いた皆を思って、そこまで苦しむ事のできるメルは、凄く偉いと思う」

 

「やめて!!気休めなんかいらない!!!」

 

「落ち着いて聞いて!…間違えずに生きられる人なんてどこにもいない。人の価値を決めるのは間違えた事じゃくて、間違えた後にどうするか…お祖母ちゃんの受け売りだけど」

 

「…」

 

「ちゃんと自分のやった事を受け止めて前に進んでるメルは、凄く立派。だから、あんまり自分を責めちゃダメ。自分を責めすぎても、それは新しい過ちの元になるだけ」

 

まるで母親の様に暖かく諭して来る永遠。

 

「辛かったよね…大丈夫。メルは1人じゃないよ」

 

恋人や家族から離れ、一時期とは言え1人で生きて行く為に作った心を守る鎧。

 

外敵を近付けぬ為の、針だらけの装甲。

 

それが、友達として接してくれた1人の少女によって、ボロボロと剥がされて行く。

 

「あ…あぁ…!うぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!」

 

漸く自分の本心を晒け出したメル。

 

永遠に縋り付き、ひたすら泣き叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「ぐすっ…うん、ごめん…」

 

永遠が渡したティッシュを受け取り、涙と鼻を拭うメル。

 

「謝らないで。メルの気が楽になったなら、それで良い」

 

「っ、ありがと…」

 

落ち着きを取り戻したメルに、永遠が1つ提案をする。

 

「…メル、今度の土曜、一緒にお出かけしよう」

 

「えっ…?」

 

呆気に取られるメルに構わず、言葉を続ける。

 

プロレーサーとしての大先輩である両親から嘗て教わった大事な事。

 

「訓練は勿論大事。だけど…自分の身体の管理も凄く大事。食べられる時に食べる、寝られる時に寝る、休める時に休む…そうやって自分のコンディションを万全に保つのも、一流のレーサーになる為に必要不可欠な要素。パパとママに、口酸っぱく言われた」

 

「小町ちゃん…」

 

「カーシェアリングの使用申請なら、私が上げておく。だから、一緒に遊ぼう?メル、ほっといたら倒れるまでトレーニングしてそうだし」

 

「そ、そんな事しないよっ!…とは…言い切れない、けど…

 

もごもごと声が小さくなって行くメルが可笑しくて、ふふっと笑ってしまう永遠。

 

完全に内面を見透かされている事実に、メルは赤面する。

 

「…友達できた、って聞いた方が家族も安心するでしょ?」

 

「…聞いてたの?あの時の電話」

 

「至近距離だもん。普通に聞こえる」

 

「はぁ、それもそっか…」

 

談話室か何処かに言って連絡すべきだったか、と内心頭を搔くが、既に後の祭り。

 

「…わかった。その代わり、朝7時からシミュレーターで朝練したいんだけど付き合ってくれる?」

 

「うん、シミュレーターなら相手がいた方が練習になるしね」

 

「…じゃあ土曜日、楽しみにしてるね」

 

「わかった」

 

ホロライブの外でできた初めての友達との約束を交わしたメル。

 

彼女の闇が完全に晴れるには、まだまだ程遠い。

 

だが…非常に小さいながらも、彼女にとっては大きな価値のある前進だった。

 

 

 

 

 

 

「もしもし?」

 

『あ、メルちゃん?調子はどう?』

 

永遠と一旦別れ、シャワーで汗を完全に流し切った後。

 

メルはスマホでそらと連絡を取っていた。

 

「…悪くないです。訓練は大変ですけど、あれに耐えられなきゃプロにはなれない…って考えたら、何とか頑張れてます」

 

『…そっか。やっぱり大変なんだね』

 

「でも…最近友達もできたから、これからはもっと頑張れると思います」

 

『お友達!?良かった…!シン君伝いでメルちゃんが言ってた事聞いてたから、凄く心配してたんだ…!』

 

「はい、お陰でメルも気分が楽になりました」

 

『うんうん、凄く良い事だよ!』

 

「そうですね…シン君はいますか?」

 

『あ〜、今用事でお出かけ中だね。私から伝えておくね、メルちゃんにお友達ができたって』

 

「お願いします」

 

『代わりって言ったら何だけど…今1期生の皆が遊びに来てるんだ。お話する?』

 

「…っ」

 

はい、と返事をしようとしたメルの声が詰まった。

 

…本音を言えば、話をしたい。

 

だが…今話してしまうと、また戻りたくなってしまう。

 

そして、そうなれば…GTアカデミー(今の自分の居場所)に、戻って来れなくなってしまいそうで。

 

「…すいません、遠慮しておきます」

 

メルは、嘗ての仲間達と言葉を交わす事を拒んだ。

 

『…そっか、わかった』

 

「代わりって言ったら何ですけど…その…」

 

『何?』

 

「…伝言、お願いできますか?【プロになったら、また会いに行くよ】って」

 

仲間達へのメッセージを、そらに託して。

 

『…わかった、伝えておくね』

 

「ありがとうございます」

 

『…じゃあ頑張ってね。おやすみ』

 

「はい、おやすみなさい」

 

そらとの通話を終了するメル。

 

「…ごめんね、皆」

 

目を瞑り、内心で同期達に詫びを入れる。

 

己の贖罪に専念する為にも、今だけは仲間達と距離を置こう。

 

…何時かの明日で、また友として会う為に。




漸く本当の友達になれたメルと永遠。

本人に届く可能性はほぼ0に等しいですが、彼女にもどうか自分を責めすぎないで欲しいと思って今回の話を書きました。

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